ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第22話 復活の咆哮。

 

 

 

 

 ────(ふせ)いだ、だと? 

 

 檜の幹に身を寄せながら、ジュナイパーは驚愕に胸を轟かせていた。

 

 この七日間、ひたすら標的の観察に務めてきた。無防備に眠る夜も、間抜け面を晒して飯を食う朝も、木の実をいじくり回しておる昼も、片時も離れることなく見つめ続けた。

 

 そして下した結論は、《いつでも殺せる》だった。

 かの尊きお方の依代とはいえ所詮は凡夫。

 かてて加えて我らより何等も劣る生き物である。

 影も形も見えぬ彼方より射てば必ずや急所を貫けると判断し、今日決行に及んだのだが。

 

 彼奴は実にあっさりと禦いでみせた。

 見慣れぬポケモンを繰り出し、慌てず騒がず防御を命じたのである。

 あのバリアがあとほんの瞬きほども遅ければ、頭蓋を射抜かれ即死していたというのに。

 あの小面憎いニンゲンには慌てる風も怯える様も無かったのだ。

 

 なんたる胆力。

 なんたる勇気。

 

 よもや、ここ数日観察していたことも露見していたというのか? 

 そして、こちらが矢を射る際の、ほんの僅かな殺気をも看破したと? 

 

 私は慄き、歯軋りした。

 

 …………有り得ぬ。

 あってはならぬ! そんなことは! 

 

 私は《影縫(かげぬい)》。

 闇から闇へと音もなく羽ばたき、あらゆる者を射ってきた。

 あの御方の右腕であり、最も信頼厚き部下なのだ。

 

 討てぬものなど…………何も無い! 

 

 気合い新たに二の矢を番えたその時だった。

 目の前の大木が、()()切り倒されたのは。

 

 咄嗟に後ろへ跳ばなければ己の躰も両断されていただろう。

 ゴーストゆえ死することはないものの、瀕死の重体になることは疑いない。

 

何奴(なにやつ)っ」

 

 怒りを乗せて矢を放つ。

 それすらあっさり叩き折り、敵は言った。

 常識外れに大きな斧を、どずりと地面に突き立てながら。

 

「名乗るほどの者じゃあない。

 あの阿呆の命を盗られるのはちと面倒でな。

 まあ、そういう訳だ。死にさらせ」

 

巫山戯(ふざけ)るなっ」

 

 ジュナイパーは漆黒の翼を翻し、鋭き小葉刃(マジカルリーフ)を見舞う。

 相手──バサギリは躱しもせず全弾受け止め、この程度かと言わんばかりにせせら笑った。

 

 

 〇〇〇

 

 

「…………始まったな」

 

 マーシャドーから目を離さず、アシタバが口の中で独りごちた。

 

 湖の方角から剣呑な気配を感じる。おそらくはバサギリが、今日までずっと我らに張りついていた何者かと交戦に入ったのだろう。

 

 先ほど飛んできた矢から察するにジュナイパーか。

 なるほど、ゴースト・草の複合タイプ、更に目の前の小柄な刺客(マーシャドー)もゴースト・格闘。

 冥界からの差し金であることは明白である。

 

(あのギラティナ(クソ野郎)、よっぽど俺を抹殺したいらしいや。手駒を2体も寄越してきやがるとはね)

 

 いつにない露悪的な物言いが頭の中に流れてきて、ワタシは苦笑した。

 

 敵は拳を構えたまま動かない。

 どうやら奇襲する時を除いて、後の先(カウンター)を取る戦法を好むようだ。

 

 ならば遠慮なく行かせてもらおう。

 

ミュウツー(カタリベ)! 燕返し!」

 

 ワタシは両腕を刃に変形し、素早く肉薄した。

 麗しき華姫(ドレディア)に教わった薄刃を鞭のようにしならせ、首筋へと迫る! 

 

 マーシャドーはぐっと腰を落とし、刃の峰を殴りつけた! 

 弾け飛んだ刃先が隣の幹に突き刺さる! 

 

 がら空きになった腹目掛けてマーシャドーの拳が炸裂した! 

 

「がっ!」

「カタリベ!」

 

 ワタシは躰をくの字に折りつつも、間髪入れずシャドーボールを撃ち込んだ。

 マーシャドーは横に飛び、全てを躱す。

 

 それから再び構えをとった。

 

 こちらが攻撃しない限り殴ってこないつもりか。

 中々どうして…………いやらしい。

 

 アシタバを横目で見やる。

 額に汗が浮かんでいた。

 無理もない。

 なにせ我が主は、マーシャドーの情報をほとんど持ち合わせていないのだ。

 

 正直な話、いまの攻撃がシャドーパンチなのか別の技なのかすら判然としていないだろう。

 

 戦闘での不見識は敗北に通ずる。

 この場合の敗北とは即ち死で、即ちギラティナの顕現である。

 そうなればアシタバの悲願である現世への帰還は永久に叶わなくなろう。

 

 このまま攻めてよいものか。

 それともいっそ逃げるべきか。

 あまりにも乏しすぎる材料を元手に、必死に考えているが故の大汗なのだ。

 

 だからワタシは脳内に囁きかけた。

 

(構わん。戦えと命じよ、アシタバ)

(…………いいのか?)

 

 ワタシは振り向きもせず、小さく頷いた。

 

 マーシャドーは徹底したカウンター主義。

 殴った分だけ手痛いしっぺ返しが飛んでくる。

 おまけに最も練度の高いスピードスターは効果がない。先のようにシャドーボールで牽制しつつ近接攻撃を織り交ぜていくしか策がないのだ。

 

 そんな浅い戦術で、マーシャドーを倒すことなど出来るのか。

 

 そんなことをうじうじ悩んでいるのかと思ったが、アシタバのお人好しは想像の上を行くことを失念していた。

 

(もっといいやり方があるんじゃねーのか? 

 これじゃお前を危険に晒しちまう)

 

 ワタシは嘆息した。

 

 呪われている身空で、それでもワタシの身を案じてくる主は、はっきり言って愚かしい。

 ────だが、愛おしくもあった。

 

 もう一度念力を飛ばす。

 

(案ずるな。ワタシには癒しの波動もある。

 情け無用だ、アシタバ)

 

「…………わかった」

 

 と、これは声に出してアシタバは応え、マーシャドーに人差し指を突きつけた。

 

「どしたどしたぁ! そんなモンかちびすけ!

 お前のへなちょこパンチじゃ何発浴びせても俺のカタリベはやれねーぞ!」

 

「…………!」

 

 マーシャドーの頭部に緑の炎が噴き上がる。

 こちらの攻撃はじっと待てる癖に、()()の耐性は低いらしい。

 

 ワタシは精々憎たらしく見えるよう、不敵に笑ってみせた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 関守のジロウはただ茫然と目の前の戦いを眺めていた。

 

 チョウジの里に生まれ育った己は他の里を知らない。

 毎日剣の稽古と学問に励み、父と一緒に関所の番卒として立つようになって初めて、外の世界を垣間見た。

 

 外といっても、関所から見える景色はせいぜい踏み固められた土道と、木の間がくれに煌めく湖の水面ぐらいだが、それでも勤めの初日は景色を眺めて飽くことを知らなかった。

 

 道の両側には豊かな森が延々と広がっている。

 里を護る防壁だが、無数の巾獣(ポケモン)たちの住処でもある。

 

 勤め中、幾度となく巾獣を目にしたが、大抵は紫鼠*1や覗きイタチ*2などの、小さく無害な者どもで、争うところなど見たこともない。

 

 だから実のところ、巾獣は恐ろしい生き物だと語る大人たちを心のどこかで馬鹿にしていた。

 

 バカは自分だった。

 

 アシタバが球から呼び出した巾獣はすらりと背が高く、ジロウよりも手足が長い。

 対する敵は幼子(おさなご)のように(いとけな)いくせして、敏捷な身のこなしと重い打撃を繰り出してくる。

 

 その攻防の激しさたるや、剣術で鍛えた目を持ってしても追うのがやっとであった。

 生身の人間が太刀打ちできる戦いじゃない。

 当たれば即死か、大怪我は免れないだろう。

 

 ジロウは怖々とアシタバを見やった。

 つい先ごろまで無宿人として投獄されていた男は、平然と指示を下している。

 漆黒の弾がすぐ傍を掠めていっても見向きもしない。

 

 このような修羅場を幾度乗り越えてきたのだろうか。

 落ち着き払った横顔は、父イチマツや、里長のネコヤナギ殿を彷彿とさせた。

 

 アシタバが堂々としているお蔭でジロウにも冷静さが戻り、状況を観察する余裕が生まれた。

 

 分かることが2つあった。

 

 ひとつ。

 アシタバたちがジロウを護ってくれていること。

 流れ弾がジロウにひとつも飛んでこないのは、全ての攻撃をアシタバたちが或いは受け、或いはいなしてくれているからだ。

 

 そしてもうひとつ。

 それ故に、真綿で首を絞めるがごとく、じわじわと追い詰められているということ。

 

 どうも敵は矮躯に見合わぬ怪力の持ち主のようで、殴られる都度、カタリベという巾獣が苦しそうに喘ぐのだ。

 

 このまま戦っていれば、百が百、アシタバが負ける。

 

(加勢に行かなきゃ)

 

 そう思うのに、足が竦んで動かない。

 

 じっとしていることがこの際一番の援護ではないのか。

 いや、きっとそうだ。

 だから、動くべきでない。

 

 ジロウは、自身に幾度もそう言い聞かせながら、腰に差した木刀の柄をぎゅっと握りしめた。

 

 お前は怯懦しているだけだと、心の奥底から滲む嘲弄は聞こえないフリをして。

 

 

 〇〇〇

 

 

 炎の(パンチ)がマーシャドーを捉えるより早く、地面から伸びた影打ちがミュウツーを打ち据えた。

 

「…………っ!」

 

 ミュウツーががっくりと膝をつく。

 マーシャドーはその機を逃さず懐に潜り込み、強烈なアッパーカットをお見舞した。

 

 ギリギリのところでバリアが間に合ったけれど、もはや俺の相棒は青息吐息である。

 あと一度でも直撃したら行動不能に陥るだろう。

 

 ミュウツーは癒しの波動で癒せると豪語していたが、そんな余裕はなかった。

 マーシャドーのやつ、カウンター型のくせしてこちらが回復しようとするとすかさず追撃してくるのだ。機を見る力に長けている。百戦錬磨なのだろう。

 

 なんて感心してる場合じゃないっ! 

 

(くっそ……どうする、どうする……!)

 

 バサギリの応援は期待できない。

 あちらも相当な強者と戦っているだろう。

 

 異変を察したテッポウオが湖からびちびち跳ねて来てくれる……有り得るかそんなん。

 

 いっそ逃げたいぐらいにピンチだが、俺の背後にはすっかり萎縮したジロウが居る。それに里に帰れたとしても、影に潜めるゴーストタイプには無意味だ。

 

 背中や脇から嫌な汗が滴り落ちた。

 焦りが心臓を騒がしくさせていく。

 おもわず胸を抑えて、不意に、懐で揺れるボールに気づいた。

 

「…………お前っ」

 

 掠れた声が溢れ出る。

 やれるのか。お前。

 

 いや、やるしかないと分かってるんだ。

 たとえ本調子じゃなくたって、やらなきゃいけない時があると知っている。

 

 俺はボールを鷲掴み、声を限りに叫んだ。

 

 

「頼むぞ! ルギア(レヴィ)!」

 

 

「げぅるるるるる!」

 

 

 半年以上の療養を経て、真白い翼持つ雛が咆哮した。

 

 

 

 

 

*1
コラッタ

*2
オタチ




というわけで22話。
みんな大好きレヴィアタンakaルギア、復活です!

長かったーここまで長かったー
はやく再登場させたいのに中々その機会がなくて……
次回はルギア&ミュウツーのエスパーコンビが力を合わせて戦います。

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