ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第35話 聖なる炎。

 

 

 

 

 バサギリを鎮め、マーシャドーを捕獲した後。

《スズの塔》から三ツ鐘(みつかね)寺へと場所を移し、カラシ和尚手ずから立ててくれた抹茶を喫しつつ、複雑極まる身の上話を語った。

 

 俺の話しぶりは、お世辞にも上手いとは言えなかったはずだ。

 つっかえたり、時系列がこんがらがったり、涙ぐんだりもしたから、さぞ聞き苦しかったろう。

 

 そのくせ聞かせているのが300年後の未来から来たなんて与太話だ。

 笑い飛ばされたっておかしくないのに、和尚もマツバラも、親身に、そして、真剣に聞いてくれた。

 

 茶々を入れたり、混ぜっかえすような余計なことは一言も言わず、疑う素振りなども決して見せず、ただひたすら傾聴してくれた。

 

「人の話に耳を傾ける」とはつまり、2人のこういう姿勢を指すのだろう。

 俺は感謝と崇敬の念を覚えずにはおれなかった。

 

 2人の様子に勇気を貰い、本当なら端折って構わないような些細な記憶や、感傷的(センチメンタル)な愚痴までも、一切合切余すことなくぶっちゃけた。

 

 ────本音を言うとさ。

 ずっと不満だったんだ。

 

 なんで俺がこんな目に。

 どうしてこんな思いをしなくちゃいけないんだ? 

 誰か代わってくれ! 

 助けてくれよ! 

 

 そういう鬱屈が積もりに積もっていて、でも吐き出せなくて、結構参ってたんだよ。

 誰かに相談したくても、迂闊には言えないことばかりだろ? 

 

 でも和尚たちのおかげで、話した分だけ気持ちがどんどん軽くなっていったんだ。

 胸に巣食っていた粘っこい負の感情がするする溶けて、春山に吹くそよ風のような爽快さが心を満たしていった。

 

「それで俺は、ホウオウだけが扱える“聖なる炎”で魂を(きよ)めてもらおうと、ここまでやってきたんです」

 

 やっと締めくくった頃には、お茶を6杯も飲み干していた。

 

「はぁ…………

 波瀾万丈とはこのことやねぇ」

 

 和尚がしみじみと呟く。

 

「あんまりにも危ない橋を渡るくだりが多すぎて、聞いてるこっちの心臓が止まるかと思たわ」

 

 マツバラも、「仰るとおりです」と首肯した。

 

「あんたはんも、苦労しましたなぁ」

 

 ボールから出していたミュウツーとルギアに向かって和尚が微笑みかける。

 

 ルギアは何も考えてなさそうな面構えで抹茶椀に舌を伸ばし、苦すぎたのか顔を顰めていた。

 やめなさい。はしたない。

 

 というかお前さん、マツバラの膝枕で寝ているホウオウに何か思うところはないのかね。

 片割れだろ、お前さんの。

 

「げるる?」

 

 つつくな。寝てんだから。

 あ、ミュウツーがルギアを抱き寄せてくれた。

 すまんな。ちょっとお兄ちゃんしててくれ。

 

 控えめに言ってもアホな雛そのもののルギアを複雑な表情で眺めていたマツバラが、にわかに姿勢を正し、真剣な眼差しで俺を見つめてきた。

 

「ワタヌキ……失礼、アシタバさんの目的は理解いたしました。ですが鳳凰様はようやくご容態が落ち着いたばかり、聖なる炎とやらを生み出すにはいましばらく掛かりましょう。

 一刻も早くお帰りになりたいでしょうが、ここは辛抱のしどころかと存じます」

 

「そう……だよなぁ」

 

 俺は膝頭を握りしめた。

 

 マーシャドーを捕らえた程度で止まるようなギラティナじゃない。

 今後、妨害はますます激化するだろう。

 

 ポセモンセンターも医療道具もないこの世界で、いつ快復するともしれないホウオウを、何があっても護り抜かねばならないのだ。

 

 沈黙が場を支配する。

 誰も何も言えぬまま、茶を啜るだけの静寂のなかで、三者三様これからのことを考えていたその時。

 

 ミュウツーに抱きかかえられていたルギアが、ふと長い首をもたげ、こう言った。

 

『……まずはマーシャドーの浄化から始めましょうか』

 

 

 〇〇〇

 

 

 その場のみんなが絶句していた。

 

 なによりも驚いたのは俺だ。

 今まで「げるげる」としか鳴いたことのないルギアが、まさかこんな流暢に喋れるなんて。

 

「お、おま、おまえ」

 

 人差し指をわななかせながらルギアを指差す。

 するとルギアは、くい、と小首を傾げ、目尻を和らげた。

 

『…………ああ、これはこの者の言葉ではありません。わたくしホウオウが、神通力でルギアの口を借りて喋っております。

 まだ己自身で語れるほどには力を取り戻しておりませぬゆえ』

 

「あ、ああ……そういう」

 

 俺は胸を撫で下ろした。

 

 ホウオウの神通力は身体操作らしい。

 今やっているのは、言うならば強制腹話術のようなものか。任意の相手の意識を一時的に乗っ取って、好きに喋らせているわけだ。

 

 ついさっきまで、マーシャドーに憑依されたバサギリと戦っていた身としては何とも名状しがたい気持ちになるが……まあ、今は置いておこう。

 

 ちなみに、バサギリは癒しの波動で回復した後たちまち姿をくらませてしまったので、ここには居ない。

 

 居るのは俺、カラシ和尚、マツバラ、ミュウツー、ルギア、ホウオウのみである。

 和尚が飼っているウリムーとニューラは別室だ。

 

「えと…………ホウオウ様。

 やっても大丈夫なんですか、マーシャドーの浄化。

 まだ本調子じゃないでしょう?」

 

『ええ、問題ありません』

 

 ルギアは微笑んだ。

 その目つきも笑顔も素晴らしく理知的で品がある。

 普段の食い意地の張った間抜け面とは大違いだ。

 

『いま、あの子は酷く弱っていますから。

 流石にあなたを浄化する際にはもっと英気を養っておく必要がありますが、哀れな霊を救うぐらいならば造作もありませんよ。マーシャドーはいずこに?』

 

「は、はい。ボールに入れてます」

 

 懐から差し出したボールを、ルギアはまじまじと見つめた。

 

『……球体状の檻のようなものかしら。

 人間は面白いものを考えつきますね』

 

「──質問を、よろしいでしょうか」

 

 かしこまった声で訊ねたのはマツバラだ。

 ルギアは鷹揚に頷いた。

 

『なんです?』

 

「その、マーシャドーなる者を浄化するとは、具体的になにを成されるのでしょうか」

 

 ルギアが答えた。

 

『そうね。浄化といっても色々ありますが、これから行うのは“隷属の解除”です』

 

「隷属の……」

「解除……」

 

 俺たちは顔を見合せた。

 いまいちピンと来ない。

 するとルギアが補足してくれた。

 

『冥府の者たちはみな冥王の支配下にあります。

 その束縛は非常に強力で、並大抵では解けません。

 ですが、対象者が瀕死になるとほんの僅かに(たが)が緩むのですよ。

 その隙に繋がりを断ち切ってしまえば、もはやマーシャドーは冥王の手下では無くなります』

 

「冥王がもう一度支配してこようとすることは考えられませんか」

 

『わたしの炎は邪を祓い魔を退けるもの。

 心配いりません』

 

 ルギアはおっとりした口調で断言した。

 そこには、悠久の時を超えて輪廻を司ってきた神としての自負があった。

 

 マツバラは納得がいったらしく、「ありがとうございました」と頭を下げた。

 

 これ以上の問答は要らないだろう。

 もとより俺に疑問はない。

 本当にマーシャドーを自由に出来た暁には、俺の呪いが解けることも半ば約束されたようなものだ。

 むしろ早く浄化してほしかった。

 

 マーシャドーをボールから出し、ホウオウの前に横たえる。

 

 ルギアががっくりと項垂れ、代わりにホウオウが身を起こした。神通力を解いたのだ。

 

 ホウオウの瞳がきらりと光る。

 途端に、マーシャドーの全身が金色の炎に包まれた! 

 

 俺たちは一斉にどよめいた。

 

「これが…………聖なる炎……!」

 

 カラシ和尚がそう言ったきり感涙に咽び泣いた。

 

 不思議だ。指を伸ばせば触れそうなほど近くで燃えているのに、ちっとも熱くない。

 例えるなら、雪解けを誘う春の日差しとか、冬のベッドで包まる毛布のような、この上ない安心感を覚える温もりが炎の形をしているような感じがした。

 

 マーシャドー自身も、熱がったり痛がる素振りはなく、むしろ陶然とした面持ちで炙られている。

 

 炎はあくまで優しく燃え、慎ましやかに消えていった。

 

 マーシャドーがおもむろに起き上がる。

 

 半眼に開かれた赤橙色の瞳が、ホウオウから順繰りにみんなを見つめ、最後に俺で止まった。

 

「……マシャ……」

「────!」

 

 立ち上がり、近づいてくる。

 殺人パンチを撃たれた記憶が、俺の背筋を粟立たせた。

 

 浄化は失敗したのか? 

 それとも支配が解けても俺への攻撃衝動は残ったままなのか? 

 

 答えは、どちらでもなかった。

 

 マーシャドーは寝ぼけ眼のまま、ぽふ、と俺の胸元に顔を埋め、ぐりぐりと擦りつけてきたのである。

 

「……んっ?」

 

 脳内にハテナが乱舞する。

 なん、なにこれ。

 なんでこんな甘えてくんの。

 

 誰もが目を点にする中で、ホウオウだけは落ち着いていた。

 

『おやまあ。冥王の手網を離れたら素直な甘えんぼうになったんですね。

 いえ、元々こういう性格だったのかも。

 なんにせよ、沢山可愛がってあげてくださいな』

 

 

 ま じ か よ

 

 

 口をぽかんと開けたまま、手だけはぎこちなくマーシャドーの背中を撫でていた。

 

 

 〇〇〇

 

 

「ええい腹立たしい!」

 

 常闇の世界。

 幽霊だけが自在に動ける冥府において、冥王ギラティナの怒声が轟いた。

 

 憤怒の原因は言わずもがな、あっさり寝返ったマーシャドーである。

 

 本人の意思と関係なしに浄化された手前、寝返ったというのは適切ではないかもしれないが、利敵行為であることに変わりはない。

 

「何故だ!? バサギリに憑依しておいてなぜ負けた!

 奴の手持ちはミュウツーとルギアだけ、そのどちらも相性有利な筈だろう!

 そもそもジュナイパーの阿呆はどこに消えた!

 あいつが補佐しておれば勝てた勝負であろうがっ!」

 

 冥府には大勢のゴーストたちが居たが、誰も口を開かなかった。

 

 答えを知らないというのが1つ。

 下手に発言して、怒り狂うギラティナに目をつけられたくないというのが1つ。

 割合としては1:9であろう。

 

 だがしかし、そんな状況でひょいと声を発した者がいた。

 

「あのーぉ。

 次の刺客、自分に行かせていただきたいのですがぁ」

 

 全員が、肝の据わりすぎている声の主を振り向いた。

 

 冥王が唸るようにその名を呼ぶ。

 

「なんだ貴様……ミカルゲ、だったか」

 

 ミカルゲは、回転する輪郭のなかで目をにっこりと細めた。

 

「はぁい。ミカルゲですぅ。

 あのぉ、もうマーシャドー先輩って役に立たなくなったってことでいいんですよねぇ。アシタバ乗っ取り作戦からは切り捨てるって感じですよねぇ。

 だったらぁ、ジュナイパー先輩が帰ってこない謎を考えるのもいいんですけどぉ、次の襲撃計画も立てておいた方がいいのかなって思っててぇ」

 

 やたら間延びしたバカっぽい喋り方だが、内容は的を射ている。

 

 冥王が鋭く一瞥した。

 

「やれるんだろうな」

 

「善処はしますぅ」

 

 やれます、とも、お任せ下さい、でもない。

 甚だ心許ない返事だが、冥府で最も腕の立つふたりが帰らないのだ、慎重に慎重を期すぐらいでちょうどいいのかもしれない。

 

「では任せる。やってみろ」

 

「はーい。行ってきまぁす」

 

 生前に悪逆非道の限りを尽くし、最期は相争って果てた108人の悪党の魂が、しゅるりと闇に消えた。

 

 

 

 

 




というわけで35話。
ホウオウもマーシャドーも好きなだけキャラ付けができる。
二次創作の醍醐味ですわね。

そして作者がトップクラスに愛してやまないゴーストタイプ・ミカルゲの登場です。
いっぱい活躍させたいなあ。

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