ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第3話 休戦協定。

 

 

 

 

 ジラーチ。

 現代では別名“ねがいごとポケモン”ともいい、1000年のうち7日間だけ目覚めてはあらゆる願いを叶えてくれると囁かれている幻のポケモンだ。

 

 勿論確かめた者は居ないので真偽の程は不明──というかほぼデマだろうが、もしも出逢えるなら願いを託したいという人間は多かろう。

 

「ジラ、失礼、おほしさまが火吹き島にいるんだな」

 

「そうだぁ」

 

 エイパムは遥か沖に浮かぶ島を見晴かしながら、こっくりした。

 

「あのお方はさぁ、普段はお島に籠っていなさるんだ。

1年のうち7日だけお出ましになるんだよぉ」

 

「……ん?」

 

 1年? 1000年じゃなくて? 

 指摘すると、エイパムは目を丸くした。

 

「1000年なんて待ってらんねぇよぉ。

 オイラたちみんな死んじゃうだろぉ?」

 

 そらそうだ。

 …………いやまて。ならなんで現代はインターバルが1000倍になったんだ?

 人類が増えすぎた? 無理難題を言いすぎた? 

 

(…………両方かもな)

 

 ここでもまた人の業を覗いた気がして、俺は頭を振って邪念を追い出した。

 

「なら、早速島へ……」

 

 立ち上がろうとして全く力が入らず、横ざまに転倒した。ミュウツーとエイパムが助け起こしてくれる。

 

「慌てちゃダメだってぇ。ずいぶん長いこと寝たきりだったんだからさぁ、まずはゆっくり馴らさんとぉ」

 

「ワタシも同感だ」

 

「仰るとおりデス……」

 

 顔を赤くしながら、俺はリハビリを決意した。

 

 

 ○○○

 

 

 リハビリはきつかった。

 

 といってもなにか特別なことをしたわけじゃない。

 立ったり座ったりを体力が続く限り繰り返しただけだ。疲れたら脚を揉んで足首をぐるぐる回したり、膝を曲げ伸ばししたり、寝たまま腹式呼吸(ドローイング)とかもした。

 

 要は身体の動かし方を思い出すことに努めたわけだが、それだけで10日も費やしてしまった。

 

 次に始めたのは歩行訓練だ。

 3歩進んで2歩さがる。

 昔の歌謡曲みたいな歩き方だが、鈍った身には存外難しい。

 だんだん慣れてきたら前進範囲を広げていった。

 杖なしでふらつきもせず数十歩歩けるようになるまで、歯がゆくなるような時間を要した。

 

 並行して、簡単な筋トレも開始した。

 ミュウツーやエイパムが採ってきてくれる果物をダンベル代わりに持ち上げたり振ったりする。

 重さなんて100グラムもないだろうに、笑ってくれ、1トンくらいに感じられた。

 

 エイパムは何度も「焦るなよ」と励ましてくれた。

 

「いまお前さんは焦れったくてたまらんだろぉ。

 分かるぜぇ。群れの仲間も、ケガをすると昔みたいな動きができなくて苛々してたもんなぁ。

 けどよぉ、焦っちゃなんねぇ。

 すこーしずつすこーしずつ治してくんだ。

 どんどん良くなってるからさぁ、焦るなよぉ」

 

 そののんびりした語尾と優しい声色のおかげで、俺は挫けそうになる心を奮い立たせることができた。

 

 ミュウツーも献身的に俺を支えてくれた。

 三度々々の食事を用意してくれたし、ハピナスから癒しの波動を教わって俺やルギアにかけてくれた。

 

「また新技を覚えたぞ」

 

 得意げに言うミュウツーが可愛くて頼もしくて、俺は祝福しながらちょっと泣いた。

 

 このふたりが居なかったら、俺はとっくに頑張る気力を失くし世界の片隅で世捨て人に成り果てていただろう。

 

(頑張るんだ……信じてくれるこいつらのために。

 またカブトプス(カブルー)たちに逢うためにも!)

 

 滴る汗を拭い、トレーニングに明け暮れた。

 

 

 

 そうして3ヶ月ほどが経過したある夜。

 

 寝静まったみんなの横をそおっと抜けて、声が届かない距離まで離れてから自分の影に呼びかけた。

 

「……いるんだろ? 出てこいよ」

 

 月明かりに照らされた影の中から、小さなポケモンが顔を覗かせる。

 

「……モモワァイ」

 

 アローラで、カントーで。

 散々俺を振り回し痛めつけた毒餅ポケモン・モモワロウがそこに居た。

 

 

 ○○○

 

 

 ヒスイに辿り着くまでの顛末を聞いた時、もしやとは思ったのだ。

 ミュウツーを縛っていたモモワロウも一緒に来ちまったんじゃないのかと。

 

 案の定、リハビリを始めた頃からへばりつくような視線を四六時中感じるようになり、疑惑は確信に変わった。

 

「ヒスイに来てすぐは誰も追いかけられる状況に無かったからウッキウキで逃げてったんだろうが……。

 俺を監視し始めたタイミングから察するに、現代に帰れる可能性を聞きつけて張りつきやがったな?」

 

「…………」

 

 モモワロウは沈黙した。

 つまりYesってことだ。

 

 気候がキツすぎたか、それとも操れる相手が少なすぎたか、はたまた野生が強すぎたか。

 いずれにせよモモワロウにとってヒスイの地は羽根を伸ばせる環境ではなかったらしい。

 

 俺は話を続けた。

 

「生身でウロチョロしてたら見つかっちまうから、俺の影に隠れて息を潜めてたんだろ? ミュウツー(カタリベ)の影じゃあすぐバレるし、ルギア(レヴィ)は入った瞬間死んじまいそうなくらい弱ってるもんな────違うか」

 

「…………モモ」

 

 モモワロウは不承不承に頷いた。

 

 ゴーストポケモンがよくやる影への遁甲は、便利な反面1つ大きな欠陥がある。

 それは生き物の影に入った場合、対象の生命力……すなわち魂を著しく蝕んでしまうということだ。

 俗に言う“遁甲急衰(とんこうきゅうすい)の法則”*1である。

 

 俺は短く吐息した。

 破魔瓢箪の神薬を飲んでないことを抜きにしても、やけに快復が遅いとは思っていた。

 こんな厄災を抱えていたんじゃあ治らないのも当たり前だ*2

 

 ミュウツーがこんなに接近しているモモワロウに気づかなかったのは、癒しの波動の習得に一生懸命で周囲を警戒するゆとりがなかったからだろう。

 

 俺は膝を曲げ、小さな悪魔と目線を合わせた。

 

「……なあモモワロウ。

 遁甲先にルギア(レヴィ)を選ばなかった理由は、死んじまうからってだけじゃねえよな?」

 

「…………っ!」

 

 モモワロウの額から汗が流れた。

 

 こいつがそんな殊勝な心配をするとは考えにくい。

 もうひとつ重大な理由があるのだ。

 

 ミュウツーは言っていた。

 空間の歪み──ヒスイへ通じる円環(リング)は、ルギアが一声鳴いた後に生まれたと。

 

 偶然の産物……ではあるまい。

 おそらく、状況を打開しようとしたルギアが無理やりこじ開けた扉なのだ。

 

 そしてその現場にはモモワロウも居合わせていた。

 ならば、この(こす)いポケモンはこうも考えたはずだ。

 

 ────本当にルギアが円環を生み出したのなら。

 本復次第また現世へ帰れるかもしれない。

 

 それは俺の考えとぴったり一致していた。

 少なくとも、気難しいと評判のジラーチに願いを託すよりかは現実的だ。

 しかし肝心のルギアが死んでしまったら、そのルートは完全に断たれてしまう。

 

 だから俺は、()()()は、なんとしてもルギアを生かさねばならない。

 

 口辺に苦い笑みが浮かぶ。

 

 こいつは、度し難い悪党ではあってもバカじゃないってわけだ。

 

「お前の判断は賢明だ。正しいよ。

 ルギア(レヴィ)が元気になれば、俺たちが帰れる公算は高い。もしもレヴィの影に入って死なせでもしたら、八つ裂きにするところだった」

 

「モ…………」

 

 俺から噴き出る殺気に、山肌で休んでいたヤミカラスたちが一斉に飛び立った。

 怖じけるモモワロウに右手を差し出す。

 

「さあ。それを踏まえて、だ」

 

 俺は完璧な微笑みと共に告げた。

 

「これまでのしがらみは忘れてよ。

 休戦協定を結ばないか?」

 

「モッ!?」

 

 驚愕するモモワロウに構わず、平静な声で述べる。

 

「俺からの要求は3つだ。

 ひとつ。俺たちを攻撃しないこと。

 ふたつ。無闇に毒餅を撒かないこと。

 みっつ。常に俺の影に入っていること。

 これを守ってくれるなら。

 一緒に現代まで連れてってやる」

 

「……モ……モ……」

 

 モモワロウは全力で頭を働かせはじめた。

 

 先ほどの殺気で、俺が簡単に丸めこめる甘ちゃんじゃないのは分かったはず。

 つまらない策を講じても、よくて失敗か、悪ければ倒されるだけだ。

 

 とくればモモワロウが取れる選択肢は2つに1つ。

 

 俺の要求を呑むか。

 単独でヒスイを生き抜くか。

 

「………………モモワイ」

 

 果たして、モモワロウは鎖を交叉させ項垂れた。

 俺の言葉に従うと態度で示したのだ。

 

「おう。よろしくな。モモワロウ」

 

 俺にとってもこの協定はデカい。

 なにせこのポケモンの厄介さときたら折り紙つきだ。単体でもかなりの戦闘力を誇る上に、大勢のポケモンを一度に操る能力まで備えている。

 

 放置しておくのも敵に回すのもリスクが高い。

 

 だったら喜んで懐に迎えてやろう。

 その程度の我慢、安いもんだ。

 

(体も治ってきたし、こいつが居たって動けるだろ)

 

 さっそく影に押しこみ、何食わぬ顔でみんなの元に帰ってぐっすり眠った。

 

 

 ○○○

 

 

 明けて翌日。

 

 俺はミュウツーとゆっくり散歩しながら、形のいいぼんぐりを探していた。

 

 なにしろバッグはおろか服すらロストしている。

 当然ボールも全部パァだ。

 

 衰弱しているルギアをいつまでも露天で寝かせ続けるのが忍びなくて、新しく作り直すことに決めた。

 

「前はカブトプス(カブルー)と同じフレンドボールに入れてたけど……やっぱ空を飛ぶポケモンなわけだしそれ専用のギミック付けてやりたいよなあ」

 

 何色を使おうか。

 空に浮かぶ雲をイメージして白ぼんぐり? 

 ……と思ったがどうやらヒスイには色つきのぼんぐりが実らないようで、探せど探せど赤茶色のものしか見つからない。

 

 ならば一番ツヤのあるぼんぐりで作ってやらぁと腕を伸ばした時だった。

 

 幹の後ろから飛び出したポケモンが、やにわに斬りかかってきたのである。

 咄嗟にミュウツーが後ろに引っ張ってくれなければ、肘から下を失くすところだった。

 

「下がっていろ!」

 

 間髪入れずミュウツーがスピードスターを叩きつける。しかし相手は避けもせず、全弾正面から受け止め、悠々と首をめぐらせてみせた。

 

 黄土色の皮膚。

 肉厚の黒刃。

 ストライクやハッサムに似た体型。

 

 騒ぎに駆けつけたエイパムが「わっ」と叫んだ。

 

「く、黒斧(くろおの)のバサギリ……っ! 

 黒曜のオヤブンがなんでこんなところに!?」

 

「バサギリ?」

 

「岩ばっか斬ってた変わりモンのストライクの成れの果てだぁ。こいつ自身も岩みてぇになっちまったって噂だよぉ」

 

「……そういうことね。

 岩タイプだからスターの通りが悪かったわけか」

 

 バサギリは(まさかり)によく似た鈍重な刃を地面に突き刺し、ミュウツーを睨めつけた。

 

 ストライクの進化系──いや、地方固有種(リージョンフォーム)か。

 現代には存在しない、滅びた種族。

 つまりその生態はまったくの未知数である。

 

(話を聞いた限りじゃ岩と虫の複合っぽいけど……)

 

 どう攻めようか考えている所へ、ミュウツーが小声で囁いてきた。

 

「アシタバ。もう3歩後ろへ」

 

「あ、あぁ」

 

 言われた通りにすると、ミュウツーの腕が前触れもなくどろりと溶けた。

 ミシ、ビキキ、と骨が軋むような音を立てながら再構築されていく。

 

 10秒ほどで双腕が細く薄い刃に変形した。

 タマムシシティでも手足の形を変えていたが、クオリティが段違いだ。

 

「変身を応用した肉体操作だ。

 ワタシは部分変化と名づけた」

 

「部分変化……!」

 

「この手の輩には飛び道具よりも近接戦で分からせてやる方がよかろう。

 斬撃系の技も試したかったところだしな」

 

 不敵に笑うや、相棒がバサギリに肉薄した──! 

 

 

 

 

 

*1
現王者キクコが発見・提唱した理論

*2
余談だが、俺がしょっちゅうサーフゴーやサマヨールを影に入れても平気なのは不死身だからである。でなければ魂をゴリゴリ削られてとっくにあの世行きなので、くれぐれも読者諸君はマネしないように。




というわけで3話。
リハビリしつつモモワロウと休戦しました。
アシタバくんバチバチに威嚇してます。ポケモンLoveな彼にしては珍しい。
まあモモワロウのやったこと考えたら残当。

癒しの波動について。
本来ミュウツーは覚えない技なんですが、2013年のゲノセクトの映画で配布された個体のみ覚えることができるんですね(メガYに進化するあの子です)。
で、まあ覚える個体がいるならええわ覚えさせたれ☆の精神で会得していただきました。便利!

そしてバサギリ襲来。
ミュウツーは勝てるのか。
部分変化ネタは昔懐かしい漫画BLACKCATのヤミちゃんから拝借してます。
ヤミちゃんすこすこ。ToLOVEるよりBLACKCAT派。

感想高評価くださる方々、本当にありがとうございます。
完結編、完走までがんばります!
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