ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第37話 弟子と弟子。

 

 

 

 

 イッテツにボール造りを教えはじめてから半月が過ぎた。

 

「それじゃ、今日もよろしくお願いします」

 

「はい! よろしくお願いいたします!」

 

 互いに礼をし、机を挟んで向かいあう形で座る。

 この座り方なら、イッテツは俺の手捌きを学びながら造れるし、俺も指導がしやすいって寸法だ。

 

 彼は爺ちゃんのご先祖さまとは思えないくらい不器用な少年だけど、それを補って余りある素直さと一途さを持った努力家だった。

 

 しかし作業を始めていくらも経たないうちに、イッテツの背がぎくりと強ばった。

 

「あ」

 

 小さな声に手元を覗き込み、「ああ」と相槌を打つ。

 

 本来であれば白木のように美しい実であるはずが、青黒くくすみ、ぶよぶよに変質してしまっていたのだ。

 

「腐ってんな。

 黒はなー、外からだと見分けにくいんだよな」

 

 ぼんぐりも植物だ。

 成長すれば熟れるし、熟れすぎれば腐る。

 くろぼんぐりは表皮が真っ黒だから、余計に判断しにくいのだ。

 

「すみません、採取のときに気づければ」

 

「しゃーないしゃーない。俺もよくやるよ。

 自然が相手だ、こういうこともあるさ。

 気にしすぎたら負けだぜ」

 

 種を取りだし、よけておく。

 

「あとで林に埋めにいこう。腐ってるやつもいい栄養になるから、捨てないでくれな」

 

「はい!」

 

「んじゃ、やり直そう」

 

「はい!」

 

 気持ちのいい返事をして、イッテツが次のぼんぐりを掴んだ。

 慎重に刃を通す位置を見極め、小刀を引く。

 しかし、またもや黒ずみ、悪くなっている代物を当ててしまった。

 

「あ、あれ」

 

「……?」

 

 俺はふと気になって、ももぼんぐりを切ってみた。これは腐っていれば色鮮やかな皮が変色する上に、明らかに手触りが違うので絶対にわかる。

 だけどこれも、綺麗な見た目とは裏腹に、使い物にならないほどグズグズになっていた。

 

 ぼんぐりはこんな腐り方をしない。

 中が悪くなっている時は、必ず表面にも異常が出る。

 

「…………なるほど、ね」

 

 ここにきて理解した。

 腐ってるんじゃない。

 細工されたんだ。

 おそらくは、ギラティナの配下に。

 

(毒されたんなら毒・ゴーストの複合タイプ……ゲンガー族あたりか?)

 

 ぼんぐりの在庫に目をやる。昨日今日採ってきたぼんぐりを籠いっぱいに積んであるが、おそらくすべてダメになっているだろう。

 

 畜生。

 ひどい嫌がらせをしやがる。

 

 俺は舌打ちを堪えて、イッテツに笑みを向けた。

 

「俺、ちとぼんぐりの選別やっとくわ。

 お前さんは和尚さんの手伝いにいってくれるか?」

 

「わかりました」

 

 答える声がうちしおれている。

 自分が選んだぼんぐりは全部悪いものだったのだと勘違いしているらしい。

 

 俺が慰めるより早く、ボールから勝手に出てきたルギアがほたほた歩いてきて、イッテツの胸元にぽすりと額を預けた。

 

「げるる」

 

「……ありがとう。おまえ、慰めてくれるのかい?」

 

 イッテツが微笑みながら首すじを撫でると、ルギアは心地よさそうに目を細めた。

 

 彼はやけにポケモンに好かれるタチらしい。この寺で飼われているウリムーやニューラも、イッテツが現れるとしごく嬉しそうに擦り寄っていく。

 見るからに天邪鬼なニューラですら喜色を露わにするのだから、ポケモンたらしの力たるや凄まじいものがありそうだ。

 

(子孫の俺にもそんな力あんのかねえ)

 

 構って欲しくて背中にへばりついているマーシャドーを前抱っこしてやりながら、そうだったらいいなあと淡い期待を抱いた。

 

「それでは、失礼します」

 

「おう。頑張ってこい」

 

 イッテツを見送り、ぼんぐり籠を引き寄せる。

 

「……陰険なことすんなよな。

 俺はともかく、子供の努力を踏み躙るなよ」

 

 怒りをこめた呟きに、もちろん返る言葉はない。

 それでも、言わずにはおれなかった。

 

「げる?」

「ましゃ?」

 

 不思議そうに首を傾げるルギアとマーシャドーを交互に撫でてやりながら、ぼんぐりを1つずつチェックしていく。

 

 案の定、まともなぼんぐりは残っていなかった。

 

 

 〇〇〇

 

 

「んーふふ。

 まーずは第一段階クリアですねぇ」

 

 陰湿な独り言が闇に響く。

 ぼう、と緑色の光が灯り、瞳を成した。

 その周囲を、大小様々な火の玉が巡る。

 

 封印ポケモンのミカルゲであった。

 

 ミカルゲは、傷んだぼんぐりの前で俯くアシタバを、影の奥から愉悦をもって眺めていた。

 

 いい。やはりいい。

 思いもよらぬ方向から底知れぬ悪意をぶつけられた人間は、最高にそそる貌を見せてくれる。

 

 その表情! その反応! その動揺! 

 滲み出す怒り! 不安! 恐怖! 

 それこそがミカルゲの愛してやまないご馳走だ。

 

 ミカルゲに口はあっても舌はない。

 地獄に落ちたときに引き抜かれてしまったから。

 けれど、魂の味わい方は知っている。

 

 あぁ、はやく取り込みたい! 

 アシタバの胸中に渦巻く怨念を、慚愧を、心ゆくまで! 

 

 でもダメ。まだダメだ。

 例えるならこれは前菜。

 メインディッシュたる格は持ち合わせていない。

 もっともっと内なる絶望を育てなければ。

 世界の全てに失望し、自らその身を差し出してくるほどに。

 

「さぁ、第二段階に参りましょうねぇええ」

 

 けひゃっ、けひゃっ、けひゃっ。

 

 引き攣れた笑い声を響かせながら、ミカルゲの姿は闇に消えた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 いつまでも不貞腐れてはいられない。

 ぼんぐりの山を抱え、さて林に埋めに行こうかと腰を浮かした俺は、誰かが(おとな)う声を聞いた。

 

「もし……もし、どなたかいらっしゃいませんか」

 

 細く、高い声だった。

 女性だろうか? 

 

 いつもならイッテツがすぐに駆けつけて用向きを伺うのだが、(くりや)にでもひっこんでいるらしく、やってくる気配がない。

 

 この寺に居候しているだけの、信徒ではない俺が応対していいものだろうかと不安になりつつ玄関に出てみると、そこには白皙の美貌を備えた少年が佇んでいた。

 

 俺は心臓が止まるかと思った。

 造形が美しいばかりではない。

 明らかに、よく知る人の面影を宿していたからだ。

 

「きょ、教授」

 

 呆ける俺に、少年が眉をひそめた。

 

「キョージュ?」

「あ、ああ、いや、こっちの話」

 

 我に返り、愛想笑いを浮かべる。

 そう、彼は俺が通うキキョウアカデミーのゼミの教授に物凄く似ていたのだ。

 たぶん、いや絶対ご先祖さまだろう。

 

(マツバに爺ちゃん、そんで極めつけが教授とはね)

 

 どうも最近身内の先祖に会いすぎてやしないか?

 なんかくらくらしてきた。

 

 気を取り直して少年に話しかける。

 

「カラシ和尚に用事なら、いま呼びに──」

「いえ」

 

 彼は青い瞳をまっすぐ俺に据えたまま、きっぱりとこう言った。

 

「ここで、巾獣を捕らえる絡繰を造っていると聞きました。ボクにもぜひ学ばせてください」────と。

 

 

 〇〇〇

 

 

「ええことですわ」

 

 カラシ和尚はのんびりした口調で微笑み、茶を啜った。

 弟子志願の子供が来たと聞くや、開口一番の台詞である。

 

「教える相手はなんぼおってもええ。

 巾獣による被害は年々酷くなる一方ですよって、ぼおるの造り手が増えるのは万々歳ですわ」

 

 俺の横で、少年がうんうんと頷いている。

 聞けばこの子は親を亡くし、弟子を断られたらどこに行く宛もないという。

 

 慈悲深い和尚のことだ、その身の上話を聞いた時点で庇護する気満々になったのは想像に難くない。

 

「それじゃ、イッテツがお前さんの兄弟子だ。

 みんなで仲良くやっていこう。

 えーと、なんて呼べばいい?」

 

「ウォロとお呼びください」

 

「えっ」

 

 俺はおもわず湯呑みを取りこぼしそうになり、慌ててキャッチした。

 

 ウォロ……って。

 まんま教授の名前だぞ。

 いや驚いた、そんな偶然あるんだな。

 まあ300年も前のご先祖さまだし、名前が被ることだってありうるか。

 親友のマツバも、この時代の坊さんと一字違いなわけだし。

 

「そんじゃウォロ、こっちだ。

 まず作業場を見せよう」

 

 和尚の前を辞し、二人で作業場に向かう。

 部屋には既にイッテツが戻っていた。

 

「あ、アシタバさん! 

 ……そちらの方は?」

 

「ウォロだ。今日からこいつにもボール造りを教えることにした。兄弟子として面倒見てやってくれ」

 

「あ、兄弟子……ぼくが……! 

 は、はい! よろしくね、ウォロ!」

 

「……よろしくお願いします」

 

 イッテツはにこやかに、ウォロは僅かに笑みながら握手を交わした。

 

 

 〇〇〇

 

 

「へぇ……? ふぅん……ほぉ……」

 

 闇の中でニヤつくミカルゲを、腐れ縁のヤミラミが気持ち悪いものを見る目で見下ろしていた。

 

「……おい、なにブツブツ言ってんだ気色悪ぃ」

 

「ん? おおヤミラミ殿。

 いえねぇ、なんとも私好みの展開になってきましてぇ」

 

 振り向くミカルゲの顔は邪悪な笑みを浮かべていた。

 

(どうせまたロクでもないこと思いついたんだろうな)

 

 ヤミラミは吐息する。

 

 属性こそ同じ悪・ゴーストタイプではあるけれど、ものの考え方や価値観は全く違う。

 ミカルゲ(こいつ)はとにかく人を苦しめるのが好きな下衆だ。それも物理的にいたぶるのではなく、心をじわじわ削っていく方法をなにより好む。

 

 うんざりするヤミラミに気づく様子もなく、ミカルゲは楽しげに捲し立てた。

 

「いえね、歳が近い同性なんてそりゃもう嫉妬心を煽るのに最適な関係性なわけでして! しかも技能を競う立場なわけですから、放っといたって因縁の火種が燻ってるようなものですよ!

 これを! 私が! 自由にできる!

 あぁなんて素晴らしい!

 こんな美味しい素材をいかようにも料理していいなんて、これに勝る贅沢が他にあるでしょうか!

 あぁあっ! この世は最高だ!」

 

「…………」

 

 ヤミラミは無言で踵を返した。

 

 どうせ向こうは気づくまい。

 あいつがしたいのは演説であって会話じゃないのだから。

 

「……反吐が出るぜ」

 

 けっ、と人間くさい仕草で唾を吐いたあと、ヤミラミは背を丸めて去っていった。

 

 

 

 

 

 




というわけで37話。
ミカルゲの妨害工作はじまりはじまり。
命を狙われまくったこれまでとは違い、だいぶねっちょりした攻め方になりました。

そして新キャラ……新キャラ?登場。
多くの人が予想していた通り教授はあの人でした。
そしてこの子は……誰なんでしょうねえ(棒)

なんとかZA発売までに完結したいのですがもう8月も後半です。
時が経つの早すぎワロタ。

良ければ感想高評価おなしゃす!
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