ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第38話 姿なき悪意。

 

 

 

 唐突に増えた弟子たちを連れてぼんぐり林に出向く。幸いなことに、在庫を全滅させた不埒者Xは林には手をつけておらず、瑞々しいぼんぐりを採取できた。

 

「それじゃ、ボールに適したぼんぐりの見分け方から教えよう」

 

 イッテツとウォロの目の前に2つの黒ぼんぐりを差し出す。1つは掌からはみ出るくらい大ぶりで、もうひとつは子供でも握れるくらいちんまりしたサイズだ。

 

「ウォロ、どっちのほうがボールに向いてると思う?」

 

「……こちらでしょうか」

 

 ウォロの指が小さい方を示す。

 俺はイッテツに目配せした。

 イッテツが自信たっぷりに答える。

 

「ボクは大きいほうがいいと思います」

 

「理由は?」

 

「多少失敗してもやり直せるし、巾獣を捕らえる網が収納しやすいからです」

 

「正解だ。こっちのチビっちゃいのも使えないわけじゃないが、これくらいデカいぼんぐりのほうが初心者にはオススメだな」

 

「……なるほど」

 

 ウォロは顎先に指を当て、思慮深い声で頷いた。

 そういう癖がゼミの教授そっくりで、先祖ではなく本人なんじゃないかと疑いたくなる。

 

 まあ、300年も生きる人間が居るわけないから、ただの偶然だろうけど。

 

「それじゃ2人とも、良さげなぼんぐりを3個取ってきてくれ。黒色のやつな。

 あんま遠くには行くなよ。

 巾獣とか盗賊とか出るから」

 

「はい!」

「分かりました」

 

 子供たちがぱっと駆けだしていく。

 2人の足音が聞こえなくなってから、自分の影に呼びかけた。

 

「出てきていいぞ、マーシャドー」

「ましゃ」

 

 すぐにマーシャドーが姿を現し、俺に抱きついてきた。腰を下ろし、視線を合わせる。

 

「なぁマーシャドー。

 お前さんのボール、造ってやろうか」

 

「ましゃ?」

 

 小首を傾げる相手に、ミュウツーが入ったボールを見せる。

 

「こんな感じでさ。お前さんだけの棲家だよ。

 影ん中よりかは狭いだろうけど……」

 

 マーシャドーの反応は鮮烈だった。

 双眸を輝かせ、その場でぴょんぴょん飛び跳ねながら快哉を叫んだのだ。

 自分だけの家という響きが気に入ったらしい。

 

「うし。なら造ろう。待っててくれよな」

「ましゃ!」

 

 欣喜雀躍するマーシャドーを抱きとめつつ、木陰に視線を向けた。

 

「いるんだろ。出てきてくれよ、バサギリ」

「…………」

 

 (にれ)の木の後ろから、バサギリが無言で姿を現した。

 かつて己に取り憑いたマーシャドーを見やる眼差しは刺々しいが、いまこの場でやり合うつもりは無いらしい。

 

 よかった。

 これなら、交渉の余地はある。

 

 掌を差しのべ、単刀直入に訊ねた。

 

「なぁ。よかったらお前さんにもボールを造ってやりたいんだが、どうだ」

 

 眉をひそめるバサギリに俺は苦笑した。

 

 まあ、何言ってんだこいつってなるよな。

 そもそもバサギリと行動を共にするようになったのは完全な成り行きだ。

 ランドロスの思いつきが発端である。

 

「こいつの衛士となれ」

「承った」

 

 その鶴の一声で、バサギリがついてくることが決まっちまった。

 俺は拒否したのにすげなく却下されたっけ。

 

 最初は不安だったよ。

 護衛にかこつけて殺されるんじゃないかとビクビクしてた。なにせ3度も狙われたし。

 

 けど、バサギリはあくまで任務に忠実だった。

 滅多に姿を見せない代わりに、俺のピンチには絶対助けてくれてた。

 チョウジの林道で狙撃してきたジュナイパーと戦ってくれたことを、俺は知っている。

 こいつは一言も口に出さないけれど。

 

「ずいぶん色々あったけどさ、お前さんのことはもう、仲間だと思ってんだ。返事はいますぐじゃなくていいから、考えといてくれよ」

 

「…………」

 

 バサギリは何も言わなかった。

 しかし、断ることもなかった。

 

 今は、それで充分だ。

 

 

 ついでにモモワロウにも打診してみたが、なぜか影から出てこようともしなかった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 それから数日は、穏やかな日々を過ごせた。

 2人に手取り足取り教える傍ら、マーシャドーたちのボールを拵えていく。

 

 ぼんぐりを貯蔵しておくといつまた腐らされるか分からないので、毎日林に行く手間はあるけれど、ちょうどいい運動だ。

 

 今日も3人で林に赴き、ぼんぐりの採取から始めた。

 

「そろそろ黒ぼんぐり以外も触っていこうか。

 今日は赤ぼんぐりを使おう。

 黒に比べりゃ脆いから、注意して扱えよ」

 

「わかりました。

 イッテツよりいいものを持ってきますよ」

 

「それはこっちのセリフだ! 行ってきます!」

 

 競うように飛び出していく。

 歳が近いのもあってか、最近は対抗心を燃やすこと甚だしい。

 

 彼らはつくづく対照的だった。

 不器用だが凄まじい集中力を発揮するイッテツと、物覚えはいいがふとした拍子に空想の世界に飛ぶ癖のあるウォロは、ちょうどそれぞれ足りない部分を映し出す鏡のようで、なかなか興味深い。

 

 そのくせ負けず嫌いなのは共通しているもんだから、褒めるにしろ注意するにしろ、迂闊なことは言えなかった。

 

 しかし、同時修行の効果は凄まじく、2人はメキメキと腕を上げていた。

 

 半年もすれば、教えることはほとんど無いに違いない。

 

(あいつらはどんなオリジナルボールを造るんだろうなあ)

 

 マーシャドー用のボールを磨きながら想像をめぐらせる。

 俺が現代に帰るまでに、全部伝えられればいいんだが。

 

 あれやこれやと考えを巡らせていたそのとき。

 突然、甲高い悲鳴が空気を切り裂き、俺の耳を揺るがした。

 

「……ウォロ!?」

 

 声の方へ駆けつける。

 木立をすり抜け、茂みを掻き分けた先に現れた光景に、おもわず立ち尽くした。

 

 イッテツが鬼の形相でウォロを組み伏せ、鉈を振りかぶっていたのだ。

 

「イッテツッ!」

 

 咄嗟に手近な石を投げつける。

 石は吸いこまれるように飛んでいき、イッテツのこめかみを強打した。

 

「ギャッ!!」

 

 イッテツが倒れる。

 顔面蒼白のウォロを引きずり起こし、俺の背に庇った。

 

「何が……何があった!?」

 

 混乱した頭ではそう聞くのがやっとだった。

 

 どちらからも返事はない。

 ウォロは恐怖で、イッテツは苦痛に竦み、声が出ないらしかった。

 

「…………ひとまず、寺に戻るぞ。

 ミュウツー(カタリベ)、頼む」

 

「心得た」

 

 テレポートが発動し、景色がぐにゃりと歪む。

 横目で盗み見たイッテツの顔がくしゃくしゃになっていたのは、多分、テレポートのせいばかりではないだろう。

 

 

 〇〇〇

 

 

 事情聴取はちっとも進まなかった。

 というのも、イッテツが泣きじゃくってまともに話せなかったからだ。

 

「わからない、わからないんです、なんであんなことしちゃったのか、どうして、ごめん、ごめんなウォロ、ごめん、ごめん」

 

 …………こればかりを繰り返し、他のことは喋れそうになかった。

 

 ならばとウォロに訊ねても、あっちが突然覆いかぶさってきたと答えたきり、口を噤んでしまった。

 

 何がなにやら訳が分からない。

 

 てっきり、バサギリのように悪霊が取り憑いたのかと思ってホウオウにも相談してみたが、憔悴しているだけで妖しいものの気配は無いとのことだった。

 

 それを聞くや、和尚は2人をさっさと別々の部屋に押しこめてしまった。

 

「理由も原因も分からんなら、実際に距離を置くのが一番ですよって。いまは気が昂ってお話にならんでしょうし、明日まで待った方がええですわ」

「…………申し訳ありません」

 

 それしか言えない俺に、和尚はゆるゆると(かぶり)を振った。

 

「アシタバはんのせいではありまへん。事の経緯が分かるまでは、誰のせいにもでけまへん。考えてもドツボにハマるだけ、ご飯食べて寝ましょ」

 

「…………はい」

 

 そう言われても、頭は考えることを止めてくれない。

 

 イッテツは優しい子だ。決してあんなことをする子じゃない。

 売り言葉に買い言葉で喧嘩が白熱したのだとしても、人様に向かって刃物を振り回すような真似は選ばないだろう。

 

 ウォロだってそうだ。

 他人より聡いぶん、知恵も口も回るけれど、ほんとうに相手を傷つけるようなことは言わない。

 短い付き合いでもそれぐらい分かる。

 

 そんな2人が、どうして。

 

 何気なく、床に伸びる影を見下ろした時に、はたと気づいた。

 

「……催眠術、か?」

 

 ゴーストタイプやエスパータイプの多くが使える技のひとつで、読んで字のごとく対象に催眠をかけ、支配することが出来る代物だ。

 意識を強制的にシャットダウンして眠りにつかせるやり方が一般的だが、この技に精通したポケモンならばもっと悪どい使い方も出来るだろう。

 

 例えば、目の前の人間を仇敵だと思いこませたり、嫉妬心を煽って殺意を抱かしめる──とか。

 

 それなら、悪霊の姿が見えないことにも納得がいく。わざわざ取り憑かずとも、催眠さえかけてしまえばいいのだから。

 

 この、俺本体ではなく周りをジワジワ嬲っていくような遣り口。十中八九、ぼんぐりをダメにした奴と同個体だろう。

 

「────上等だ」

 

 爪が掌に食い込むぐらい強く握りしめる。

 

「いつか絶対、その(ツラ)ブン殴ってやるからな」

 

 懐に収めたボールたちが、呼応するようにかたりと揺れた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ミカルゲは爆笑していた。

 

 アシタバの影の奥底で、誰はばかることない馬鹿笑いを、心ゆくまで堪能していた。

 

 あぁ傑作だ。

 ほんの少し子供にちょっかいを出しただけで、こんなにも良質な憎悪を浴びれるとは。

 

 将を射んと欲すれば──だったか。

 全く昔のニンゲンは良いことを言う。

 

 もうあの3人は仲良しこよしではいられまい。

 

 猜疑心はとめどなく膨れ上がり、四六時中互いを警戒しあうようになる。

 それが続くほど精神は疲弊し、だんだん催眠術とは関係ない混じりっけなしの殺意が頭をもたげてくるだろう。

 

 そこまでくればあとは消化試合だ。

 こちらが何をせずとも自滅していく。

 殺し合うか、自殺するか。

 アシタバはどんな破滅を辿るだろうか。

 

「特等席で拝ませてもらうとしますかねぇええ」

 

 ミカルゲは、高らかに哄笑した。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで38話。
少しずつ味方を増やしていこうと思った矢先にあくどい妨害が来るの巻。

書いてて作者すらムカつくレベルの悪党ですねこのミカルゲちゃんは。
ボコボコにしたろ。

更新遅くて申し訳ない。
これからもまったり更新になりますのでゆるゆる〜っとお付き合いくださいませ。

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