ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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番外編・喝を入れる。

 

 

 

 

 セキエイのポケモンリーグ本部に設えられたワタル専用の部屋は、これが四天王の部屋かと疑いたくなるぐらいこざっぱりとしている。

 

 ワタル自身が無駄な調度品を好まぬからだ。

 

 ソファとテーブル、ポケモンたちを回復する簡易装置の他には何も無い。

 あまりに殺風景だから花の一輪でも飾れとカンナに呆れられたが、物心ついた時から修行漬けの日々を送っていたせいで、どうにもただ美しいだけのものを愛でる気持ちが理解できなかった。

 

 ワタルにとって美しいものとは生き生きと躍動するドラゴンを於いてないのだ。

 

 壁際の棚に置かれた色とりどりのボールが、部屋に僅かな色彩を添えている。

 行方不明の後輩、アシタバの持ち物である。

 

 ワタルは、その中から緑色のボールを取りあげ、クチートに見せた。

 

()()()のボールだよ。

 姿を現すのは20日に一度、食事のときだけ。

 それ以外はずっと引きこもりっぱなしだ。

 もっと頻繁に出てくるように説得してもらえないか。

 もっとも、オレのことが嫌いで顔も見たくないっていうなら無理にとは言わないが」

 

 冗談めかした口調ではあるものの、それが懇願に近い要請であることをクチートは察した。

 

 静かに受け取り、開閉スイッチを押す。

 出てきたのは、覇気も生気も枯れ果て、石のように固く丸まったカブトプスであった。

 

「…………カブルー殿」

 

 呼びかけに、カブトプスの瞼が薄く開く。

 クチートの姿を認めた刹那、瞳孔が僅かに揺れたが、変化はそのぐらいのもので、またすぐに目を閉じてしまった。

 

「…………アシタバが居なくなってからずっとこんな具合でね。誰とも口を聞かないし、食事も必要最低限の量しか摂ってくれないんだ」

 

 それでも食べてくれるだけマシなほうだとワタルが付け足す。

 サーフゴーとサマヨールに至っては、食事すら拒否して絶対にボールから出てこない。

 憂さ晴らしに喧嘩を売ってくる(バトルを仕掛ける)オーガポンたちとはまた違った種類の問題を、引きこもり組は抱えているのだ。

 

『…………ふん』

 

 ぶん、と頭の大顎を振って、クチートが振り向いた。

 

『二人で話したい。悪いが席を外してくれ』

「……ないとは思うが、ここで暴れてくれるなよ」

 

 バトルコートと違い、ポケモンの技を受けても耐えられるようには出来ていない。

 もしも暴力沙汰にでもなろうものなら、こんな部屋など木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。

 

『善処はする』

「頼むぞ」

 

 祈りをこめて、ワタルは部屋を後にした。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ふたりだけになって尚、カブトプスはだんまりだった。

 

(13年、だったか)

 

 アシタバと共に過ごした時間は。

 文字通り、一切の誇張なく苦楽を共有してきた存在であり、もはやトレーナーとポケモンの垣根を超えた己が半身といえよう。

 

 そんな相手が、消えた。

 

 辛うじて生き長らえているのは、もしかしたらまた会えるかもしれないという一縷の望みを捨てきれないからだ。

 

 もう再会できないと確信できてしまったら、その瞬間、彼は迷うことなく命を絶つ。

 

 であるならば。

 必要な言葉は、薄っぺらい同情でも無意味な激励でもない。

 

 根拠のある希望だ。

 

 そして、クチートはそれを出せる。

 

 だから、真正面から叩きつけた。

 

「アシタバに会う方法が見つかったのだが、もう貴方には要らない情報かな?」

 

「────!?」

 

 カブトプスは跳ね起き、信じられないものを見る目でクチートを見つめてきた。

 

 よし、食いついた。

 正直これにも反応しなかったら打つ手はなかったので、内心安堵しつつ話を続ける。

 

「やつの故郷、ヒワダタウン近くのウバメの森は知ってるな? ここに来る前に立ち寄って、()()()と話を付けてきた。その方は《時渡り》なる秘術を会得されており、それを使えばいかなる時代にも飛べるそうだ」

 

 ワタルはため息混じりに言っていた。

 この半年間、あらゆる業界にコネクションを持つ有力者たちが総力を上げて探しても、目撃情報ひとつ得られなかった……と。

 

 そして、世界中に分身体を飛ばしているユクシーも見解は同じだった。

 

 だったら、答えは二つに一つだ。

 まったく別の世界……たとえばテッカグヤたちが居たような場所に飛ばされたか。

 あるいは、遥かな過去ないしは未来に飛ばされたか。

 

 前者ならば適任者がいる。

 熱帯の島国アローラにて、異次元の穴(ウルトラホール)を研究している学者が、穴を安全に通過できる装置の開発に取り組んでいるらしい。ホウエンのさる富豪が、その開発を全面的に支援しているそうだ。

 

 そして後者。

 時を渡れる唯一の精霊が、亡きディアンシー女王の友であったことを、旅の途上で思い出したのだ。

 彼は女王のこともクチートのことも覚えており、協力を取りつけることが出来た。

 

『────ただし、そのニンゲンを呼び寄せるにしてもニンゲンの元に行くにしても、座標を明確に掴んでいる必要があるよ。いつの時代のどこにいるかきっちり把握してないと、流石のボクでも()()ないんだ』

 

『その点は問題ありません』

 

 クチートははっきり請け負った。

 

 女王陛下はアシタバに、3つの至宝を下された。

 ひとつはどんな物にも変身できる如意の珠衣。

 ひとつはあらゆる難病怪我を癒す破魔瓢箪。

 そして最後のひとつが、黒真珠の角笛である。

 

 この角笛こそが、アシタバを救う鍵となるのだ。

 

『かの笛は、必ず持ち主の元に戻る性質を備えております。そして、持ち主に(まこと)の危機あらば、凄まじい爆音を奏で、時を超え場所を超えて、必要な者の耳に届く。そういう力を有しておるそうです』

 

『なぁるほど。ならボクは、笛の音に向けて力を振るえばいいわけだね?』

 

『はい。何卒、よろしくお願い申し上げます』

 

『いいよぉ。

 ディアンシーちゃんとは長い付き合いだったし。

 力を貸してあげる。…………それにしても』

 

 精霊は、笑い含みにクチートを一瞥した。

 

『たしか君ってばニンゲン嫌いじゃなかったっけ。

 そんな君が頑張るくらい惚れてるんだねえ。

 ふふふっ』

 

(…………惚れてなどおらん)

 

 即座に否定したかったが、それで臍を曲げられても面白くない。

 クチートはむっつりと頭を下げるに留めた。

 

 一連の話を聞いたカブトプスは、全身をわなわなと震わせていた。

 

 この半年、虚無を抱えて過ごしていた身には、与えられた情報(希望)が大きすぎて処理しきれないのだろう。

 

 はらはらと落涙するチームリーダーに、女傑は開いた(あぎと)を突きつけた。

 

「泣いている場合か! 

 あやつのことだ、どうせとんでもなく面倒な事態に巻き込まれてるに決まっている! そのときに、そんな腑抜けた体で助けられるとお思いかね!」

 

「────!」

 

「まずは食事! そして訓練だ! 

 足腰立たなくなるまで鍛えてやる!」

 

「ぎしゅ!」

 

 カブトプスは力強い返事をし、涙を拭った。

 その瞳は、さっきまでと打って変わって輝きに満ちている。

 

 クチートは他のボールに目をやった。

 

 甘ったれの小娘たちに、図体ばかりでかい男ども。

 全員性根を叩き直してやる。

 

 そして、再会したアシタバの度肝を抜いてやろうじゃないか。

 

「さぁ、今日から忙しくなるぞ!」

「ぎしゅ!」

 

 カブトプスが、勇ましい雄叫びを上げた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ワタルは呆然と目の前の光景を眺めていた。

 

 リーグ職員用の食堂で、カブトプスら一同がとんでもない勢いで飯をかっこんでいるのである。

 昨日どころかついさっきまで虚ろな目をして閉じこもっていたポケモンとは思えない健啖ぶりだ。

 

 ワタルはおもわず訊ねた。

 

「どんな魔法を使ったんだ?」

 

『なに。発破をかけたまでだ』

 

 ふかふかのパンを大顎で一飲みし、クチートは不敵に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 




というわけで番外編。
女傑、宣言通りみんなの尻を引っぱたきました。

アシタバのことだから笛がなるような真の危機が絶対に訪れるだろうという(負の)安心感。
それゆえのトレーニング開始です。
頑張れみんな超頑張れ。
クチート姐さんはスパルタだぞ。

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