ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第40話 霊峰を目指せ。

 

 

 

 共寝をしたら大分メンタルが回復したようで、イッテツは晴れやかな顔をしていた。

 

 俺からみんなに事情を説明し、改めてイッテツが詫びると、ウォロもこだわりなく謝罪を受けいれてくれ、すぐに軽口を叩いてきた。

 

「次からはせめて拳でお願いしますよ」

「もうしないってば!」

 

 子供たちはきゃっきゃと笑いあいながら朝の掃除に取りかかる。羨ましいぐらいの切り替えの速さだ。

 いや、度量が広いというべきか。

 

「あの屈託のなさは大人こそ見習うべきですなぁ」

 

「全くです」

 

 カラシ和尚と目を見交わし、頷きあう。

 ともかくも、悶着は収まった。

 後は元凶のポケモンをぶっ叩くだけなのだが、さてどうやって突き止めようか。

 なにしろ名前はおろか姿かたちも分からないので、まさに手さぐりの捜索である。

 

(ん? てか、ついこないだまで敵陣営だったポケモンがいるじゃん)

 

 今日も今日とて背中にへばりつくマーシャドーに訊ねてみる。

 

「なぁ。ギラティナの部下で、なんつうかこう、嫌な奴っていなかったか?」

 

「ましゃ?」

 

「うーんとさ、ねちっこいというか、陰湿というか、とにかく意地の悪〜いやつ。友達いなさそうな感じ」

 

 犯人(犯ポケ?)の情報がほぼゼロなので中々要領を得ない問いになってしまうが、マーシャドーには思い当たる節があるらしい。

 

 眦をキリリと吊り上げ「ましゃ! ましゃ!」と拳を振り上げた。

 

 あいつだ! あいつだ! と叫んでいるらしい。

 紙と筆を持たせると、墨をたっぷり含ませた毛先をべちゃあ! と叩きつけ、豪快に描き殴っていく。

 

「ましゃ!」

 

 自信満々に差し出された紙には、真っ黒いアメーバみたいな代物が出来上がっていた。

 

「…………ご、ゴース、かな」

 

 このぐにゃぐにゃした輪郭は核まわりのガスを表現してる……んだろう、多分。

 ゴースは毒・霊タイプで俺の予測とも一致するし。

 

「ありがとな、マーシャドー」

「ましゃ!」

 

 えへんぷい、と胸をそらすマーシャドーの頭を撫でていると、横からルギアが覗きこんできた。

 

「げるる、げるるる」

 

「ん? なに、お前さんも描きたいの? 

 持てねえだろ筆」

 

「げる」

 

「嘴で咥えるって?

 んー……紙以外に描くなよ?

 襖とか壁とか汚すなよ?」

 

「げる!」

 

 任せろ! という顔をされたので筆を咥えさせてやる。そこへイッテツがやってきた。

 

「先生、そろそろ林のほう……へ……」

 

 声が尻すぼみになっていく。

 俺の背後を青い顔で凝視していた。

 

 待って。

 猛烈に嫌な予感がする。

 

 ゆっっっくり振り向いた俺は、5秒前の判断を心底後悔した。

 

 そこに居たのは、そこいら中を墨まみれにし、自分も真っ黒くろすけになったルギアだった。

 

「げる!」

 

「げるじゃねぇバ────カ!!」

 

 たった5つのあいだにどんだけやらかしてくれてんだテメェ!!!!!! 

 墨はな! 掃除が大変なんだぞ! 

 この時代ろくな洗剤ないんだからっ! 

 バカ! バ──────カ!!!! 

 

「ましゃー!」

「マーシャドー違う追いかけっこじゃない嬉々として参戦するなっ」

 

「げーるるる!」

「おい逃げんなお前はもっと反省しろコラァ!」

 

「ぶぅぶぅ」

「ウリムー頼むからあっちいっててくれ踏んづけちまう!」

 

 どすばたドタバタ暴れ狂う俺たちを、いつの間にか集まっていた和尚とウォロがものすっごい冷たい目で眺めていた。

 

「朝から元気やねぇ」

「すみません」

 

 秒で土下座体勢に入る。

 

 ちくしょう。

 こいつ、神は神でも厄病神だっ! 

 

 

 〇〇〇

 

 

 泣く泣く墨だらけの部屋を拭き清め、ついでにルギアも丸洗いし、やっと外に出れた時には朝日が燦々と街道を照らしていた。

 現代時刻でいえば9時頃にあたるだろう。

 

 林でぼんぐりを収穫する。また誰かが操られてはかなわないので、ぴったりくっついて行動した。

 

 イッテツもウォロもぼんぐり選びの目は着実に育っており、最適な実を持ってきてくれる。

 ある程度集まったところで木陰に腰を据え、皮剥きに取りかかった。

 

「お前さんたち、最初に捕まえる巾獣(きんじゅう)はもう決めてあんのか?」

 

 同じように皮を剥く2人へ問えば、真逆の答えが返ってきた。

 

 イッテツがまだ考え中ですとはにかむのに対し、ウォロは「決まってます」と断言したのである。

 

 俺は思わず身を乗り出した。

 どんなポケモンを捕まえるつもりなんだろうか。

 

「へえ、早いな! 何にしたんだ?」

 

 しかしウォロはうっすら微笑み、優しく首を振った。その時まで内緒にしておきたいのだという。

 

「そっか。

 もし捕獲に手こずるようなら言ってくれよ」

 

「ありがとうございます。

 でも、お手を煩わせるようなことにはならないと思います」

 

 やけに自信ありげな口ぶりだ。

 

 もしかして、すでに手懐けた野生でもいるんだろうか。

 

 いわゆる友情ゲットと言われる捕獲法だが、決してドラマや漫画のなかだけの珍しいものじゃない。

 そもそも俺のパーティ自体、戦って捕まえたのはウネルミナモぐらいのもんだし。

 

 ひょっとしたら、寺に辿り着くまでに出逢ったポケモンを捕まえたくてボールの製法を教わりに来たのだろうか。

 

 そこまで考えてはたと気づく。

 俺たちの誰も、ウォロの過去を知らないということに。

 

 このご時世だ。

 たった独りでやってきて弟子を志願するくらいだから、親兄弟を病や飢えで亡くし、天涯孤独なのかも。

 だとすれば、ウォロが初めて捕獲するポケモンは、世界で最も大事なパートナーになる。

 俺にとってのカブトプス(カブルー)のように。

 

 俺は心から、ウォロの捕獲が上手くいくよう願った。

 

 

 〇〇〇

 

 

 十数日後。

 ボール造りは順調に進み、いよいよ最終段階まできた。

 

 ぶきっちょのイッテツは案の定捕獲網の製作に苦戦していたが、根気強く何度も挑戦して、いまではきちんと編めるようになっている。

 

「2人とも、本当によく頑張ったな。

 基本的な工法はしっかり伝えられたと思う。

ここから先は反復練習あるのみだ」

 

 俺の言葉に、イッテツたちは瞳をきらきらさせながら、完成したボールをぎゅっと抱きしめていた。

 

 一方で、俺はどうしても気になっていることがあった。

 ここ最近、妨害がぱったり止んでいるのである。

 そんなもん無いにこしたことはないけれど、嵐の前の静けさのようで不気味だった。

 

 

 ────その日の夜。

 

「お前さんの警戒にも引っかからないか?」

 

 ホウオウに癒しの波動をかけていたミュウツーに訊ねてみたが、返ってくるのは否定の言葉だけだった。

 

「ワタシは影の中までは探れないが、不穏な気配があれば感知できる。いまのところ問題ない。

平和そのものだ」

 

「……そっか」

 

 それが未来永劫続いてくれりゃ言うことないんだけど絶対このままで終わらないよな。

 なんか仕掛けてくるよなぁ。

 

 やるならせめて俺を狙ってほしい。

 イッテツの件で思い知ったが、なんの罪もない子供が巻き込まれるほうがよっぽど辛いのだ。

 

 施術を終えると、ホウオウがむっくり起き上がった。

 

「あぁ……あたたかくて心地良かった。

 ありがとうお二方。

そなた達のおかげで随分癒えてきましたよ」

 

 たしかに、羽の毛艶が数段良くなっている。

 まだ小さく縮こまっているのは、このサイズのほうが寺で過ごしやすいからだろう。

 

「清き力がみなぎっているのを感じます。

もういつでも聖なる炎を放てますよ」

 

「本当ですか!?」

 

「ええ、本当ですとも。……ただ」

 

 ホウオウの深い眼差しが、じっと俺の胸元に注がれた。

 

「貴方に取り憑いているのは神そのもの。それを祓おうというのですから、そこらで手軽に、とはいきませんよ。然るべき場所と時刻に行わなければ」

 

「し、然るべき場所?」

 

「はい。それはここから遥かな地……雪と氷に閉ざされた霊峰……」

 

 俺はぎょっと目を剥いた。

 そ、それって、まさか……

 

「ヒスイを分断するテンガン山、その頂で執り行うべきでしょう」

 

「ですよねえ」

 

 俺は天を仰いだ。

 

 まじかあ。

 またあの大海原を2日かけて渡るんか。

 

 けど、行かなきゃギラティナを追い出せないってんなら、行かねばなるまい。

 

 脳内にヒスイのみんなの顔が甦る。

 エイパムにドレディア、シェイミにジラーチにボルトロスたち。

 険しい道のりだろうけど、再会できると思ったら頑張れる気がしてきた。

 

「……それじゃ、ヒスイまでの長旅、よろしくお願いします」

 

「頼みましたよ」

 

 ホウオウは艶やかに微笑んだ。

 

 

 〇〇〇

 

 

「…………あの男、ヒスイに行くそうですよ」

 

 ミカルゲの耳打ちに、寝たふりをしていたウォロは双眸をすっと開いた。

 

「ヒスイ、ですか」

 

 なんという因縁だろうか。

 

『古代シンオウ人の誇りを忘れるな』

『お前は必ず彼の地(ヒスイ)に参れ』

『そして我が一族を再興するのだ』

 

 亡き母から、そうした妄言の数々を()()()叩きこまれてきたせいで、母の顔は忘れても、彼女の吐いた呪詛だけは忘れた試しがなかった。

 

 初めは恨んだ。

 

 人よりも格段にゆるやかな成長を遂げるくせに、莫大な寿命を宿して生まれてきた我が身を。

 

 そんな躰に産み落とした母を。

 

 そしてなにより、この世を憎んだ。

 

 こんな掃き溜めで、なぜ己ばかりが悠久の時を過ごさねばならないのか。

 並の人間であればとうに死んでいけたのに。

 いつまで経ってもこんな子供のままだ。

 

 たかだか18年しか生きていない小僧を先生と呼ばねばならぬ屈辱は、他の誰にも分かるまい。

 

「……まぁ、コレは助かりましたけどね」

 

 今日完成したボールを指先でもてあそぶ。

 

 捕まえる対象はとっくに決めている。

 

 世界を創り、全ての理を定めたもう絶対神。

 あれも巾獣だというのなら、捕えられぬ道理はないはずだ。

 

「待っていてくださいね……アルセウス……」

 

 呟くウォロの思いつめた横顔を、ミカルゲはニヤニヤと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで第40話。
ボール完成!の余韻を楽しむ間もなくヒスイに行くことが決まりました。

ウォロの過去生い立ち寿命ぜーーーんぶ捏造ですがこんぐらい盛ってもヘーキヘーキ。
レジェアル出たての頃の考察で、シロナ様はウォロが女装した姿って話聞いた時は腹抱えて笑いましたね。いやだよそんなん。

てなわけで次話からまたヒスイ編が始まります。
これが本作の最終章、そしてルギ拾のエンディングです。
思い描いていたゴールまできちんと書けるよう頑張ります!

感想高評価よろしくおなしゃす!
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