ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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祝ZA発売


第43話 純白の凍土のオヤブンたち。

 

 

 

 

 ヒスイに舞い戻った次の日、朝から鬱陶しい粉糠雨が降ってきた。

 霧と見紛うほど細かい雫が、肌に服にまとわりついてぐっしょりと濡らしてくる。

 

 こっちの寒気はジョウトの比じゃない。

 冬将軍のお出ましはまだしばらく先とはいえ、濡れ鼠のまま歩こうものならあっという間に低体温症になること請け合いだ。

 

「こんな天気で焦っても仕方ねえや。

 雨が止むまでオイラの巣で遊んでいけよお」

 

 エイパムの誘いに、一も二もなく甘えることにした。

 

 その巣というのは、群青の海岸にちんまりとかしこまる岩山の、中腹あたりに掘られた洞穴である。

 黒焦げの俺を何日も介抱してくれた懐かしき棲家だ。

 

「いきなり行って大丈夫か? 奥さんとか子供とかは」

 

 ヒスイを出てから半年以上経っている。

 ポケモンの世界じゃ番が出来て子供も生まれていてもおかしくない期間だが、エイパムは笑って首を振った。

 

「そんなん居ない居ない。

 お気楽ご気楽な独り身だぁ。

 オイラ、仲間(ダチ)とつるむのは好きだけどよぉ、好いた惚れたは面倒なタチだからさぁ」

 

「なるほどね」

 

 面倒見がよくて気の利くこいつなら、さぞ雌にモテるだろうに。

 それともあれか、モテるからこそ恋だの愛だの煩わしくなった口か? くそ、羨ましいっ。

 

 洞穴に入ると、ウォロは腰も下ろさず、落ち着かなげに辺りを見回しはじめた。

 

「どした?」

 

「いえ、こんな小さな生き物がこれだけの穴を掘ったのかと驚きまして」

 

「……言われてみれば」

 

 俺たちが立って入れるくらいゆとりがあり、奥行も深い。エイパムが掘ったとは思えない空間である。

 

「なんだって?」

 

 小首を傾げるエイパムにウォロの疑問を通訳する。

 エイパムは尻尾の手をぴこぴこ揺らして破顔した。

 

「あー違う違う。

 この穴はイワークの旦那が昔使ってた通り道さ。

 ありがたーく利用させてもらってんのよぉ」

 

「ああ、そういうことか」

 

 道理でやたら天井が高く広いわけだ。

 今度はウォロにエイパムの言葉を伝えてやる。

 イワークの説明も添えれば、果たしてウォロは目を丸くして驚いた。

 

「土の中を掘り進む岩蛇……?

 そんなポケモンがいるのですか」

 

「いるいる。ジョウトにも生息してたはずだぞ。

 普段は地面の下にいるから滅多に見かけないけど」

 

「こっちもそうだなぁ。どうもイワークの旦那方は寒いのがお嫌いらしいや。もうすぐ冬眠に入る頃合だし、お前さんたちが会うことはないだろうなあ」

 

「はぁ……」

 

 ウォロは名状しがたい表情で曖昧な相槌をうった。

 

 ちょうどいい機会だ。

 ポケモンがどれだけ変化に富んだ生き物か知ってもらおうと、手持ちのみんなを披露することにした。

 

 まずはミュウツー。

 ヒスイにおける俺の心強い相棒であり、命の恩人だ。

 

「こいつはカタリベってんだ。

 人間の言葉を話せるぞ。

 といっても口からじゃなくて思念を発するって感じだけど」

 

『……カタリベだ』

 

「ど、どうも」

 

 ミュウツーとウォロがぎこちない挨拶を交わす。

 ミュウツーはなぜか、年端もいかないウォロに厳しい眼差しを向けていた。

 

「次にルギア。名はレヴィ。人の食いもんを横取りする悪党だから飯の時は気をつけろよ」

 

「げるる」

 

 ルギアは長い首をそらせてふんと胸を張った。

 褒めてねえからなコラ。

 

「んで、俺の腕にへばりついてんのがテッポウオのテツ。こいつの水鉄砲は強力だぜ」

 

「へへっ、褒めても出るのは水だけですよォ。

 ま、ひとつよろしく頼まァ」

 

「……なんか言ってます? もしかして」

 

 口をパクパクさせるテッポウオを指さすウォロに、俺は口元を綻ばせた。

 

「これからご贔屓に、的なこと」

 

「…………はぁ」

 

 あ、信じてない。

 ほんとなんだってば。

 

「それからこいつがマーシャドー。

 ましゃましゃ鳴くからマシャって呼んでる。

 チビっちゃいけど拳の強さは半端ないぞ」

 

「ましゃ!」

 

 マーシャドーは元気よく片手を挙げてから、俺の脚をよじよじ登って背中にへばりついた。

 何かとひっつきたがるのはオーガポンやヌメラを彷彿とさせる。

 あいつらがこの場にいたら、血みどろの喧嘩が毎秒勃発していただろうことは想像に難くない。

 

「んで、最後がこいつだ」

 

 ボールから出てきたポケモンを見て、誰よりもエイパムがぎょっと身を竦ませた。

 

「く、黒斧……っ!?」

 

 バサギリがじろりとエイパムを見下ろす。

 

 黒斧とは、こいつが“黒曜の原野”の頭を張っていたときの渾名だ。

 敵と睨んだが最後、どこまでも追いかけて両断する執念深さと斧の威力は凄まじく、ヒスイ中を震え上がらせていたらしい。

 

 かくいう俺も再三付け狙われたから、エイパムの驚きは最もだった。

 

「もともと、ランドロスが俺の護衛につけただろ?

 最初は俺もビビってたんだけど、ジョウトじゃ随分助けてもらったからさ、正式に仲間にならないかって誘ったんだ」

 

「へぇ……あんたほどの男がねえ。

 アシタバの下につくことを選んだか」

 

 エイパムがじいっと目を覗くと、バサギリはぷいと顔を背けた。あいかわらず寡黙である。

 

 不意に懐が震えた。

 俺はあっと小さな声を上げて、うっかり忘れていたボールを取り出した。

 

「そうだった、もうひとり居るんだよ」

 

「なんだい、大所帯だなあ」

 

 笑っていたエイパムだったが、ボールから出てきた姿を認めた瞬間、顎ががくんと落ちた。

 

「────ふぅ。

 やっと外に出れましたね。

 快適ではありましたがいささか窮屈で」

 

 声の主が虹色の翼を広げる。

 エイパムは何度も瞼をこすってから、

 

 

「ほ、ほ、ほ……ホウオウさまぁ!?」

 

 

 と、絶叫した。

 

 

 〇〇〇

 

 

 冥王ギラティナに乗っ取られつつある我が身を救ってもらうために、テンガン山の頂にある神殿を目指す。

 

 口で言うのは簡単だが、道程の困難さは尋常のものじゃないだろう。

 

「わたしが万全の状態ならば、背に乗せて飛んであげてもいいのですが……生憎まだこの具合でしてね」

 

 ホウオウが自嘲気味に笑みを零す。

 その肉体は伝説のポケモンとは思えないほど小柄で頼りない。

 雛のルギアよりも少し大きいぐらいのものだ。

 

 ギラティナから受けた傷、というより呪いは、それほどまでに深いらしい。

 

「山頂につくまでには快復できそうですか?」

 

「おそらくは。といっても、あの者が妨害しないわけがない。きっとまた襲ってくるでしょう。わかっていても対処できないのが口惜しい限りです」

 

「そこは俺たちが何とかしますよ」

 

 ミュウツーとマーシャドーが共に頷いてくれた。

 バサギリも、返事こそしないが、闘志を燃やしていることは気配でわかる。

 

 頼もしい。波瀾万丈の毎日だが、仲間に恵まれている俺は幸せ者だ。

 

「とはいえ、だ。減らせる苦難は減らしておきたい。テンガン山登頂に協力してくれそうなポケモン、誰か知らないか?」

 

 エイパムに尋ねると、思慮深い小猿はうぅんと唸った。

 

「…………ひとり、心当たりがないでもないが……」

 

「誰だ?」

 

 エイパムは上を見、下を見、何度もため息をついてから、ようやくその名を口にした。

 

「……まぁ、こんだけ思わせぶりな態度とってりゃ言わない方が罪だわなぁ。おし、腹括った。

 いっぺんしか言わないからよーく聞いてくれ。

 ただし、オイラが話したってことはぜったい! 内緒にしてくれよな」

 

「あ、あぁ」

 

 かつてない念押しとプレッシャーを喰らい、俺はこくこく頷いた。

 

 エイパムはすーっと息を吸い、吐くより先に低い声で囁いた。

 

「凍土の北東、心形岩山のヌシに会え。

 鬼よりおっかねぇガブリアスが、もしかしたらお前さんを助けてくれるかもしれねえ」

 

「ガブリアス……」

 

 育てにくいドラゴンタイプの中でも、抜きん出て強い力と狂暴さを兼ね備えるポケモンだ。

 

 エイパムは細い肩をぶるぶるっと震わせて、大きな耳をぴたりと塞いだ。

 

「あああっ、やめてくれ!

 その名前を聞くだけでちびっちまう!」

 

「わわ、わかった! 言わない!

 もう二度と言わないっ!」

 

 パニックになりかけたエイパムを慌てて宥めすかす。

 背後で、バサギリが嘆息した。

 

「彼奴か…………」

 

「知ってるのか?」

 

 問いに、エイパムが答える。

 

「凍土のオヤブンだったのさ。元、だけどな」

 

「下克上でも起きたのか?」

 

 自然界の掟は一に適者生存、二に弱肉強食である。世代交代に合わせてオヤブンが変わることはなんら珍しいことではあるまい。

 

 しかしエイパムは首を振った。

 

「いや。そっちの方がまだましだぁ。

 若いモンがのし上がるのは自然の摂理だろぉ?」

 

 ならなんで、と首を傾げる俺に、エイパムは長いため息をついた。

 

「……喧嘩だよ。ガーディも喰わねえ夫婦喧嘩だ。

 何がきっかけか知らねぇが、とんでもなく揉め散らかして、とうとう嫁さんが天下を取っちまったのさ」

 

「…………え。

 じゃあ、現オヤブンのグレイシアって……」

 

 エイパムは気の毒そうに頷いた。

 

「ガブリアスの嫁さんだぁ。

 喧嘩はそっからも続いて、凍土中が嫁組と旦那組、2つの派閥に別れちまったのよ。

 いまやどこ歩いても一触即発の雰囲気なんだと」

 

「oh……」

 

「おまけにグレイシアは極度のヒト嫌いで有名だぁ。シンオウ神殿に昇らせてくれと言って、はいそうですかと赦してくれる筈もねぇ。嫁組に見つかったが最後、良くて氷漬け、悪けりゃ…………」

 

 エイパムは最後まで言葉にせず、俺を拝む真似をした。

 

「やめろ縁起でもねえ!」

 

「まあ、冗談めかして言ったけどよぉ。

 嫁組に見つかったらヤベーってのは嘘じゃねえぞ。

 だからお前さんはなるべく目立たず、速やかに、ガブリアス(元オヤブン)に会いに行け」

 

「ど、努力する」

 

 吹雪吹き荒れる極寒の地でポケモン相手に隠密作戦(スニークミッション)か。

 ルギアの“神秘(しんぴ)布陣(まもり)”を使うにしても、成功するかは甚だ心もとない。

 

 やり取りをぼうっと眺めていたウォロに、俺は弱々しい笑みを向けた。

 

 

 がんばって、生き残ろうな。

 

 

 

 

 




というわけで43話。
おーーーーー待たせしました(スライディング土下座)。
ゴーストオブヨーテイが面白すぎて時間溶かしてました(フル土下座)。

ガブリアスとグレイシア、たまごグループは違えども、同じ土地に生まれた者同士惹かれあったみたいです。今は絶賛喧嘩中ですが。
Twitterで見かけたガブリアス♀にベタ惚れのニンフィア♂漫画から着想を得てます。あの漫画尊い。気になる方はニンガブで検索ゥ!

ともあれ、ここからまたボチボチ更新していきます。
遅筆&ZA遊び倒すつもりなのでまたーりお待ちください。
よければ感想高評価おなしゃす!
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