ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第4話 ヒスイの現状。

 

 

 

 

 突如襲ってきたバサギリとの攻防は、終始ミュウツーが圧倒する展開を見せた。

 

 自身の腕をしなやかな刃に変形させ、縦横無尽に斬りつける相棒に、襲撃者は瞬く間に追い詰められたのである。

 

(正面から袈裟斬り……と見せかけて横薙ぎ。

 返す刀で3連斬りを見舞った後テレポートで背後を取って二刀で縦断──! 

 すげぇ、1秒たりとも脚を休ませてねえ!)

 

 息をもつかせぬ連撃に、バサギリは実力の差を悟ったか、こっちが拍子抜けするほどの潔さでさっさと逃げていってしまった。

 

「……ふん。他愛もない」

 

 腕を元の形に戻しながら嘯くミュウツーだったが、エイパムの顔は晴れなかった。

 

「いや……。

 こりゃあむしろ厄介なことになったぞぉ」

 

「どういうことだ?」

 

 訊ねる俺に、エイパムが眉を八の字に下げた。

 

「あいつは黒曜のオヤブンなんだけど、もの凄く執念深いやつでさぁ。

 一度目をつけた相手はとことんつけ狙うんだよぉ。

 何度も何度も奇襲されて、結局やられちまった連中は数知れねぇ。これからミュウツー(カタリベ)の旦那は朝も夜も油断できなくなっちまったってことだぁ。

 しっかし、紅蓮のオヤブンが目を光らせてる内は安心だと思ってたが、ここまで出張ってくるとは……」

 

「すまん。その、黒曜とか紅蓮ってのは?」

 

「ああ、お前さんたち未来から来たんだもんなぁ。

 そりゃ知らねえか」

 

 エイパムは尻尾の手で器用に枝を拾うと、地面に何やら書き始めた。

 歪な菱形に見えなくもないそれは、どうやらヒスイ地方の俯瞰図らしい。

 

 エイパムの枝が、左下あたりをとんとん叩いた。

 

「ここが黒曜の原野だぁ。ひろーい原っぱがどこまでも続く場所でな、のどかないいところだよぉ。

 ここを治めてるのがさっきの黒斧(くろおの)のバサギリだな」

 

 続いて、原野の隣を丸で囲う。

 

「んでこっちが紅蓮の湿地帯。

 たびたびお山がお怒りになった*1せいで、地面はボコボコだし土が赤茶けてんだぁ。ここは土食(つちはみ)のカバルドンて旦那がオヤブンを務めてなさるんだよぉ」

 

「ふむふむ。こっちは?」

 

 地図の左上を指差す。

 エイパムいわく、ここは純白の凍土といって、年中雪と氷に閉ざされた厳しい土地らしい。

 吹雪の女王と呼ばれるグレイシアの領土だそうな。

 

 で、凍土から右方向、島の北東部に半月状に屈曲する湾が、いま俺たちのいる群青の海岸というわけだ。

 

 ヒスイに来て3ヶ月半。

 初めてこの時代の地理を知れた。

 現代のシンオウと比べるとあまりにも様相が異なるため照らし合わせるのに骨が折れるが、たぶん黒曜はクロガネシティに相当し、群青はトバリのあたりだと察しがついた。

 

(バサギリの野郎、ずいぶん遠出してきたな……)

 

 黒曜と群青は対角線上に位置するが、中央に天下の霊峰テンガン山が聳えているため直線的な移動ができず、紅蓮の湿地帯を抜けねば辿り着けないようになっている。

 左からぐるっと回りこむにしても純白の凍土を通過する必要があるはずだ。

 

 エイパムに確認すると、その通りだと言われた。

 

「どの道をどう選んでも、絶対に他の縄張りに入っちまう。ただの下っ端ならいざ知らず、オヤブンが余所の縄張りに足を踏み入れたらそりゃ宣戦布告だぁ。

 どっちかが倒れるまでやりあうしかねぇ。

 ちっと通るだけなんて虫のいい話は通らねえよぉ。

 土食の旦那がわざと見逃したんでもなけりゃ……」

 

 エイパムがしゅんと項垂れる。

 その先は言わずとも分かった。

 カバルドンはバサギリと戦い、負けたのだ。

 

「オイラたち群青のモンにも優しくしてくれるいいひとだったんだけどな……。

 浮輪の兄貴がいたらなんて言うか……」

 

「浮輪の兄貴?」

 

「オイラたちのオヤブン……だったひとだぁ。

 半年前に消えちまった」

 

「オヤブンが……()()()?」

 

「んだ」

 

 うつむくエイパムの横顔に、懐かしむような悲しむような色が過ぎった。

 

「ほんの半年前まで“浮輪”ってぇ渾名のフローゼルの兄貴が群青を仕切ってたんだけどな? 

 ある日突然消えちまったんだよぉ。

 死んじまったら死んじまったで次のオヤブンを立てることも出来るけどぉ、生きてるか死んでるかも分かんないんじゃどうしようもねぇだろ? 

 だからいま、群青はオヤブンがいねぇんだ」

 

「……とりあえず、その浮輪さんの兄弟とか子供に代理になってもらうんじゃダメなのか?」

 

「ダメだ!」

 

 エイパムは珍しく強い語調で否定した。

 

「オヤブンは縄張りみんなの命と名誉を預かる大切なお役目だ。

 身内だからって代わりを任せていいもんじゃねえ。

 第一そんなことしたら、浮輪の兄貴が死んだと決めつけるのかって怒る連中で海岸が埋まっちまうよぉ」

 

「なるほどね……」

 

 忖度なしの完全実力主義なわけか。

 しかもフローゼルはよっぽど愛され慕われたオヤブンであったらしい。

 

「……でも、黒斧が来たってことは、浮輪の兄貴が居ないのがどっかからバレちまったんだ。

 奴はきっと次のオヤブンの座を狙ってる。

 こうなりゃグズグズしてられねぇ。

 急いで手を打たにゃ」

 

 腰を浮かせかけたエイパムを、ミュウツーの問いが遮った。

 

「なぜバサギリはオヤブンになりたがるのだ?」

 

 たしかに解せなかった。

 バサギリはすでに黒曜という肥沃な土地を支配している。わざわざ他所と揉め事を起こしてまで群青のオヤブンにもなろうとする理由が思いつかない。

 

 エイパムは意外なことを口にした。

 

「……黒斧はきっと、おほしさまに会いたいんだろうなぁ」

 

「「……おほしさま?」」

 

 俺たちの頭の上にハテナが浮かんだ。

 オヤブンとおほしさま(ジラーチ)になんの関係があるんだ? 

 エイパムは尾の手で頭を搔いた後「ナイショだぞ」と声を潜めた。

 

「群青のオヤブンになれたらな、“ジラーチ(おほしさま)”がなんでも1つ、願いを叶えてくださるんだよぉ」

 

「──! そりゃ……破格の待遇だな」

 

 バサギリじゃなくともオヤブンになりたくなるような豪華特典だ。

 

「──なるほど。ではもう1つ訊こう。

 奴がなぜワタシを襲ってきたのか、わかるか?」

 

 最もな疑問だった。

 ヒスイの地理と現在のパワーバランス、そしてバサギリの目的もおおよそ把握出来たが、そのどこを切り取っても、ミュウツーが襲われる謂れが見当たらないのである。

 

 ……案外、たまたま近くにいたから襲っただけみたいな通り魔的理由だったりして。

 

 エイパムの考えは違った。

 

「うーん……。

 たぶん、華姫(はなひめ)さまと仲良くしてたからだろぉ。

 今、群青で1番強いのは華姫さまだぁ。

 このまんま兄貴が帰ってこなけりゃあのひとが次のオヤブンになる可能性は充分高い。

 だからまず旦那を潰して華姫さまの味方を削いでおこうと企んだのかもなあ」

 

「なんと……! 彼女は次のオヤブン候補だったのか。

 通りで強いわけだ」

 

「あ、あのー」

 

 得心顔の2人に向かい、おずおずと片手を挙げる。

 新しく出てきた名前に困惑していた。

 華姫さま……って誰? 

 

 そしたらエイパムは俺をまじまじと見つめ、ミュウツーを振り返った。

 

「カタリベの旦那、紹介してなかったんかぁ?」

 

「む……忘れていた」

 

 えっなになに。

 気になる。

 そんな前からの知り合いなの? 

 

「華姫さまはぁ、癒し手のハピナス(たまごさま)をお護りくださってる守り手さまだぁ。ドレディアさまだよぉ」

 

 守り手?

 あぁ、ハピナスのボディーガードってことか。

 

 おかしいな……これまで散々癒してもらったけど、ドレディアなんて一度も見かけなかったぞ? 

 

 今度はミュウツーが目を丸くした。

 

「気づいていなかったのかアシタバ。

 彼女は常にたまごさまに寄り添っている。

 治療中ずっと木蔭から貴様を監視していたぞ」

 

「うそぉ!?」

 

 全然気づかなかった! 

 気配消すの上手すぎだろ! 

 隠形してたモモワロウにだって気づけたのに! 

 

「……ん?

 で、お前さんはその華姫さまと稽古してたの?

 何度も?」

 

「あぁ」

 

「……毎日?」

 

「そうだが」

 

 あっさり肯定され、俺はちょっと、いや少し、ごめんだいぶ寂しい気持ちになった。

 

 言ってよ!!!! 

 俺も見学したかったその修行! 

 

 じゃあなに、さっきのすげー剣術はそのドレディアちゃんとの特訓の成果ってわけ!? 

 

 俺が必死こいて歩行訓練とかしてた時間に二人は密会してたの?? 

 

 デートじゃん! 

 そんなんデートじゃん?! 

 

 俺は泥だらけになりながら一生懸命筋トレしてたのにぃいいい……! 

 こいつはっ、こいつは3ヶ月も可愛い子とっ! 

 

「ふっ、ふぐぅううう……!」

 

 嫉妬の血涙を流しながら地面を叩きまくる俺を、ミュウツーとエイパムはきょとん顔で見下ろしていた。

 

 

 ○○○

 

 

「────話を整理しよう」

 

 俺は死んだ目で得られた情報を並べていった。

 

 ①黒曜のオヤブン“黒斧のバサギリ”の襲来。

 行方不明の現オヤブン・浮輪のフローゼルに成り代わって願いを叶えてもらう腹か? 

 

 ②紅蓮のオヤブン“土食のカバルドン”は、既に倒されている可能性が高い。

 

 ③群青のオヤブン“浮輪のフローゼル”は半年前から行方が知れない。群青内では新たにオヤブンを立てるべき派とフローゼルの帰りを待つべき派で意見が割れている。

 

 ④バサギリがミュウツーを襲ったのはドレディアの味方を排除し、戦力を削ぐためだと考えられる。

 

 地面に枝を走らせていた俺はふと顔を上げた。

 

「あのバサギリ、本気だったと思うか?」

 

 エイパムは苦いものを噛んだような顔で首を振った。

 

「悔しいけど、あいつの強さはホンモノだぁ。

 今回のは単なる偵察だろぉ。

 カタリベの旦那がどれだけデキるひとか試したかったんだろうなぁ」

 

「……舐められたものだ」

 

 ミュウツーが不愉快そうに鼻を鳴らす。

 真面目なこいつにとって、勝負事で手を抜かれたり偉そうに評価されるのはこの上なく屈辱的だろう。

 

 枝を放り捨て、拳を突き出した。

 

「今度会ったら悠長に構えたことを後悔させてやれ。

 最初の1発でノしちまえばぐうの音も出ねえさ」

 

「──ああ。任せろ」

 

 ミュウツーはニヤリと笑い、拳をとんと合わせた。

 

「なにしてんだい」

「おわぁ!?」

 

 やにわに後ろから声をかけられ、俺は心臓が破裂しそうなくらい驚いた。

 いつのまに近づいてたんだろう、俺の背後にブニャットが座っていたのである。

 

「おぉ姐さん。ここまで登ってくんのは珍しいねぇ」

 

 エイパムがひょこりと片手を挙げた。

 ブニャットがフンと鼻を鳴らす。

 

「妙なものを拾ってね。

 これ、()()()()()のじゃないのかい」

 

 そう言って、黒いものをコロコロ転がしてきた。

 え? うんこ? と身構えた俺の息が止まった。

 

 彼女が見せたのは、ここにあるはずのないもの。

 俺がディアンシー女王から賜った角笛だった。

 

「こ、こ、これっ、どこで!?」

 

「アタシらの棲み家の近く。浦の浜ってとこさね」

 

「うらの、はま……」

 

「へえ。お前さんたちを拾ったとこだなぁ」

 

 エイパムがのほほんと相槌を打つ。

 俺は口角泡を飛ばしながら問うた。

 

「いっ、いつ、いつ見つけました!?」

 

 ブニャットは俺の唾を嫌そうに避けながら答えた。

 

()()()()。それより前にはなかった。

 毎日縄張りを歩いて確かめてるから間違いない」

 

 

 ○○○

 

 

 エイパムとブニャットは、群青の仲間たちにバサギリの件を伝えてくると言って去っていった。

 

 俺はぽけーっと角笛を見つめていた。

 

 どうしてここにあるんだろう。

 俺の荷物は全部燃えた。

 一緒に円環(リング)を超えてきたわけじゃない。

 そもそも同時に来たのなら、もっと早くブニャットが持ってきているだろう。

 

「3ヶ月も時差をつけてこっちに来た……」

 

 誰が、どうやって、なんのために? 

 

(……根拠はない。ないが…………)

 

 そっと右眼を覆う。

 

 

()()()()()()()が持ってきたんじゃ……ない)

 

 

 それだけは、断言できた。

 

 

 

 

 

*1
おそらく噴火のことだろう




というわけで4話。
ヒスイの現状開示の回。
群青のオヤブンはどこに行ったのやら。

レジェアルのオヤブンといえば目を赤くギラギラさせたでっかい個体という意味でしたが、本作では各領土のボスという意味で用いています。
ボスを担えるくらいなので他のポケモンより強いです。圧倒的です。
それはそれとしてドレディア可愛いよドレディア。

途中アシタバが血の涙流してますけどお前大女優にちゅーしてもらってんだからな。羨む資格ないぞ。

そして唐突に現れた角笛。一体誰がこの世界に……。

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