ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第45話 凍える愛。

 

 

 

 

 どこか臆病そうなウォーグルに連れられて、心形岩山の洞穴に招かれた俺たちは、すぐさま大勢のポケモンに囲まれてしまった。

 

 剣呑な雰囲気がビシバシ伝わってくる。

 どうも、俺──というか人間に対していい感情を抱いてないらしい。

 

「お前たち、喰うなよ。()()

 

 ガブリアスが制すると、包囲の輪が少しだけ緩んだ。

 

 まだじゃなくて絶対って言ってほしいです。

 

 ガブリアスはこっちの恐怖などてんから気にする様子もなく、のしのしと洞穴の奥へ歩いていき、岩を削って造った玉座にどっかりと腰を据えた。

 

「……それで? 頼みたいこととは? なんだ」

 

 俺は生唾を飲み込んでから、手早く目的を語った。

 

 少し厄介なポケモンに呪われてしまった。

 呪いを解くにはテンガン山の頂上にあるという神殿に行かねばならないから、そこまでの道案内を頼みたい──と。

 

 しかし、ガブリアスの顔は渋いままだった。

 

「神殿……よもやシンオウ神殿のことか」

 

「あ、ああ」

 

「ふざけるな!」

 

 そう怒鳴ったのは隣で聞いていたハガネールだ。

 鋭く尖った尾を地面に叩きつけ、俺を噛み殺さんばかりに凄んでくる。

 

「あの神殿は!

 凍土のオヤブンだけが参ることを許されし聖地!

 それを貴様のような薄汚いニンゲンが……!

 許せん! 許せるものか!」

 

 その言葉を皮切りに、周りから怒号が降り注ぐ。

 あまりの剣幕にミュウツーとバサギリがボールから飛び出し、拳と斧とを構えたものだから、尚更彼らの怒りは増した。

 

 ガブリアスは動かない。

 激怒しているわけではなさそうだが、さりとて配下を諌める素振りもない。少なくとも俺の登頂を快く思っていないのは確かである。

 

(まずい。このままじゃ血を見るぞ)

 

 せめてウォロとタマザラシだけでも逃がしてやりたいが……と振り向いたところで、俺はぎょっと身を竦めた。

 

 いつのまにかボールから抜け出ていたタマザラシが、困惑しきった瞳であたりを見回していたからだ。

 

「んえー? なんでみんな、怒ってるのお?」

 

「あー……

 俺が、神殿に行きたいって言っちまったからかな」

 

「なんで怒るのお?

 だって、神殿をつくったのはニンゲンだっておかーさん言ってたよお」

 

 その一言に、みんな一斉に口を噤んだ。

 どうやらそこはハガネール達にとっての急所だったようで、どの顔も、痛いところを突かれたように顰めている。

 

「……黙れ小僧。

 いまはそこを論じているのではない」

 

「でもぉ、呪われてるのはかわいそうだよお。

 グレイシアさまだって呪いにくるしんでるのにい」

 

「なんだと!?」

 

 ガブリアスが跳ね起き、タマザラシに掴みかかった。

 

「き、聞いとらん! 聞いとらんぞそんなこと!」

 

「だってガブさん出てっちゃったじゃんー」

 

「うぐぅ。そ、それは、そうだが……っ! 

 い、いつ! 誰になにゆえ呪われたのだ!」

 

「わかんないー。

 さいしょはゾロアークさんたちかなっておもわれてたけどー、呪い方がちがうんだってー」

 

 呪い方。

 読者諸氏のなかでゴーストタイプを育てたことのある者ならピンとくるだろう。“呪い”という技は、使い手によって機序(しくみ)が異なるということを。

 

 俺の手持ちで例えよう。

 サーフゴーは、相手がいままで使った“金”の重みを背負わせ苦しませるのに対し、サマヨールは相手の首を真綿で絞めるがごとき苦しみを与えるらしい。

 ふたりの身体がそれぞれコインと布で出来ていることを思えば納得いくのじゃなかろうか。

 

 なぜここで悪タイプのゾロアークが疑われたのかは分からないが、ともかく、種族によって呪い方が大きく変わるというのが、犯人探しの大きな指針たりうるわけだ。

 

 タマザラシが話を続ける。

 

「なんかねえ、ずーっとねえ、悪夢にうなされてるらしいよお。うんうん言って辛そうだって、ユキメノコさんが悲しんでたー」

 

「なんと……」

 

 ガブリアスは呆然とタマザラシを取り落とした。

 丸い肉体が地面に跳ねて、「いたーい」と間延びした悲鳴が全員の耳朶を打つ。

 

 ハガネールが、先程とは打って変わって心配そうにガブリアスに囁いた。

 

「……どうしやす。見舞いに行きますか」

 

「行……いや、しかし……」

 

 ガブリアスの表情が苦悶に歪む。

 俺は俺で、これまでの経緯をざっとウォロに聞かせてやると、白皙の少年は低い声で耳打ちしてきた。

 

「……エイパムとかいう猿の話によると、この大きなポケモンと今のオヤブンとやらが夫婦で、仲違いしているということでしたよね」

 

「だな」

 

「なら、妻の呪いもついでに解いてやるといえば案内させられるのでは?」

 

「あ」

 

 俺はぽんと両手を打った。

 そうだ。

 誰が呪っていようと、ホウオウならばいとも容易く癒せるだろう。

 念の為ボール越しに確認をとると、「造作もありません」と頼もしい答えが返ってきた。

 

(……うし)

 

 交渉の材料は揃った。

 ここから先は俺の度胸を押し出していく。

 

 絶対に、誰にも、血を流させない。

 

 緊張しているミュウツーたちを下がらせ、一歩前に出る。途端に殺気が押し寄せてきたが、下腹に力を入れて踏ん張った。

 

「……話は聞いた。俺なら、お前さんの大事な相方を治してやれると思う」

 

「────根拠は」

 

 ガブリアスが静かに問うてきた。

 

「その場凌ぎのでまかせならば即座に斬って捨てるぞ」

 

「デマじゃない。このひとに手伝ってもらうんだ」

 

 俺はゆっくりとボールを開く。

 現れたホウオウを見て、ガブリアスが息を飲むのが分かった。

 

「その方は……まさか……」

 

「そう。ホウオウ様だ」

 

 ホウオウが発する聖なる炎はあらゆる邪悪を浄化する。グレイシアの呪いなど、きっと欠片も残らない。

 

 ハガネール以下、配下の連中は棒を飲んだように立ち尽くしていたが、はっと我に返るとひとり残らず地べたに平伏した。

 

(むかし爺ちゃんと見た時代劇みたいだな……)

 

 印籠をかざすやどんな悪党もたちまち恐れ入る光景は、子供心に不思議な印象を覚えたものだ。

 ホウオウは、それだけ世のポケモン達にとって有り難く恐れ多い存在なのだろう。

 

 ガブリアスも恭しく膝をつき、(こうべ)を垂れた。

 

「よもや尊き方がおわすとは……

 数々の無礼、お許しくだされ」

 

 ホウオウは、俺の掌の上で鷹揚に頷いた。

 

「よいのです。そなた達が人を憎むのも無理からぬこと。ですが今回ばかりは、この者に力を貸してやっておくれ。お前の妻はきっと治してやるから」

 

「は。ありがたき幸せ……!」

 

 厳粛な空気が辺りに広がる。

 ただひとり、タマザラシだけが「わー。めでたーい」とぺちぺち鰭を叩いていた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 一方その頃。

 

 純白の凍土は豪雪谷に掘られた大雪洞の奥深くで、ユキメノコが懊悩していた。

 

 彼女は先日オヤブンの座についたグレイシアの側近である。

 幼少期からの友人でもあり、戦いの腕を競ったライバルでもあった。

 

 互いに最も心を許しあった間柄と言っていい。

 

 だから、前オヤブンのガブリアスと決裂したとき、迷うことなくグレイシアの味方についた。

 対決はこちらの圧勝であった。

 今後はより一層、影に日向に支えていこうと決意した矢先、無二の親友が正体不明の呪いに倒れたのである。

 

 彼女とてゴーストの端くれ、呪いの残穢を見ればどんなポケモンが呪ったのかすぐに看破できる。

 

 その筈、なのだが。

 

「分からない……一体誰の仕業なの」

 

 まるで手がかりが掴めなかった。

 

 グレイシアの全身に漂う残穢は余りに強烈かつ醜悪で、正視に耐えない。

 吐きそうになりながら、震える指を伸ばして残穢を解析しようとしても、魂が拒絶してしまう。

 

 触れた瞬間に発狂する。それが分かりきっているだけに、踏ん切りがつかなかった。

 

「ユキさまー」

「だいじょうぶー?」

 

 いきなり掛けられた声に驚くと、タマザラシの群れが心配そうにユキメノコを見上げていた。

 うろうろと彷徨い歩くうちに、いつのまにか子供たちの遊び場まで来てしまっていたらしい。

 

「え、ええ、大丈夫よ」

 

 ユキメノコは慌てて笑顔を取り繕った。

 

 いけない。

 ただでさえグレイシアが倒れて皆が不安がっている。

 側近の自分まで俯いていたら、きっとガブリアスの元へ離反する者が出るだろう。

 

 やはりオヤブンは貴方しかいません──などと煽てられて図に乗る鮫龍を想像し、ユキメノコは怒りに燃えた。

 

 あんなガサツな男。

 グレイスにまるで相応しくない。

 あの子の隣は私であるべきだ。

 

「ほんとにだいじょうぶー?」

「本当に大丈夫よ」

「ほんとにほんとー?」

「ええ、もちろん。……あら?」

 

 子供たちのたわいないやり取りに一つ一つ返事をしながら、ユキメノコははたと気づいた。

 

 タマザラシがひとり足りない。

 

「ねえ、あなたたち。

 タマヒコはどこへ行ったの?」

 

 女の子ばかりの群れの中で唯一の男子。

 誰に対しても優しくて、穏やかな言葉を使う。男嫌いのユキメノコが心安らかに見ていられる稀有な少年が、どこにもいないのだ。

 

「あのねー」

「いなくなっちゃったのー」

「帰ってこないのー」

 

「帰ってこない……そ、それっていつから?」

 

「今朝からー」

 

 今朝。

 いまは昼を回っている。

 元々あちこち転がるのが好きな子だったが、こんなにも長い間不在でいるのは初めてだ。

 

 嫌な予感に胸が轟く。

 野生に生きる者の定めとして、別れは常に覚悟しているが…………

 

「すこし、その辺を見てきましょう」

 

 踵を返したユキメノコの瞳が、雪洞の入口に釘付けになった。

 

 誰あろう、前オヤブンのガブリアスがふてぶてしい面構えで立っている。

 そして、その足元には────

 

「あータマヒコだー」

 

 タマヒコが、居た。

 

 ユキメノコの顔面から血の気が引いた。

 

 まさか。

 正攻法では勝てないから、タマヒコを人質にとったというのか。

 あんなに愛らしい子を。

 己の利の為に。

 

「…………」

 

 ぴし、とすぐそばの氷壁に亀裂が走る。

 気温ががくんと下がり、厚い脂肪を蓄えているタマザラシたちですら寒さに凍え始めた。

 

 こんなに憤りを覚えたのは、あの男がグレイスを娶って以来だ。

 

 グレイスだけでは飽き足らず、タマヒコまで。

 そうやって何もかも私から奪う気か。

 

 

「…………許さない」

 

 

 雪洞の中に吹雪が荒れ狂う。

 瞠目するガブリアスに向かって、ユキメノコの氷柱が飛んだ。

 

 

 

 

 




というわけで45話。
書きたいように書いてたらユキメノコさんがすげぇ重たい女になってしまった。メガシンカが魅力的すぎるのがよくない。
シスターフッドの枠を飛び越えて激重感情を向ける女執事的キャラに弱いんです。みんなもそうだよな。わかるぞ。

ポケカでもダメージばらまきポケモンとして非常に優秀です。
作者は使いこなせませんが。

いつのまにか霜月に突入。今年も残すところあと2ヶ月。
なるべく頑張って更新していきます。
よければ感想高評価おなしゃす!
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