ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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番外編・修行修行!

 

 

 

 

「遅い!」

 

 厳しい叱咤とともに振り抜かれたクチートの大顎が、背後に回り込んでいたオーガポンを殴りつけた。咄嗟に棍棒を楯にしても尚勢いを殺しきれず、壁まで吹き飛ばされる。

 

「がぉ……っ」

 

 壁が凹む。罅が走る。

 息の塊が零れでた。

 痛みに視界が霞む。

 

「めぅううう!」

 

 ならばこれはどうだとヌメルゴンのパワーウィップが唸る。かつては額の触手を伸ばしていたが、修行のお陰で太く逞しい尻尾でも撃てるようになった。いわばパワーテイルといったところか。掠っただけでも致命的な技を、クチートの脳天目掛けて振り下ろす! 

 

 完璧な死角からのアタック。いかな女傑とて、回避も防御も間に合うわけがない! 

 

 重い音を立てて、床に尻尾がめり込む。

 ────しかし。

 そこに標的は居なかった。

 

「めるっ!?」

 

 ヌメルゴンが狼狽える。

 左右に後ろ、どこを見渡しても見つからない。

 まさか上に逃れたか、と振り仰いだ瞬間、真下から声がした。

 

「どこを見ている」

 

 視線を戻す余裕もなく、鳩尾を痛烈に蹴りつけられ。

 ぐらりと傾いだ横顔に、大顎が叩きつけられる。

 それがトドメとなり、ヌメルゴンの意識は飛んだ。

 

「ふん」

 

 立ち上がろうとしても両膝が震えるオーガポンと、床に突っ伏すヌメルゴンを睥睨し、女傑は小さく鼻を鳴らした。

 

「いまの動き。追えたか?」

 

 どうやってヌメルゴンとの間合いを詰めたか分かるか? という問いに、オーガポンは歯噛みしながら首を振った。

 

 皆目見当もつかなかった。瞬きもよそ見もしていない。なのに、気づいた時にはヌメルゴンが倒れていたのだ。悔しさを堪えて正直に話すと、クチートはあっさり種を明かしてくれた。

 

「どうということはない。()()()()()()()()()一気に懐に潜りこんだだけだ」

 

 オーガポンは棍棒の柄を強く握りしめた。

 たった、それしき。

 その程度の挙動すらオーガポンたちには速すぎて、残像ひとつ捉えられなかったわけだ。

 

「そうだな。恥じろ。

 貴様らはまるでなっちゃいない」

 

 つかつかとクチートが詰め寄ってくる。

 慌てて棍棒を構えるオーガポンを鼻で笑うや、胸ぐらを掴みあげ、無造作に揺さぶってきた。

 

「パワー、スピード、テクニック。

 すべてがお粗末だ。攻めの手もヌルい。

 あの阿呆は連携のれの字も教えなかったのか」

 

「がう……!」

 

 最愛のアシタバをアホ呼ばわりされて、オーガポンのこめかみに青筋が浮かぶ。けれど反論も反撃もできない。そんな資格がないほど、今日も完膚なきまでに叩きのめされてしまった。

 

 クチートが合流してから3ヶ月。

 チーム全員毎日のように稽古──というかシゴキを受け続けたおかげで、随分体力がついたしタフになった。さきほど気絶したヌメルゴンも既に意識を取り戻している。前は丸一日失神していたことを考えれば、着実に強くなっているといえよう。

 

 だが、未だに一撃も与えられていなかった。反吐が出るほど嫌いなヌメルゴン(ヌメヌメ女)と手を組んでまで絶え間ない連撃を浴びせているにも関わらず、だ。

 

 最もバトル巧者のカブトプスとサーフゴーでさえ、各々の遠隔攻撃(ストーンエッジやゴールドラッシュ)を掠らせるので精一杯なのだから、もはや訳が分からない。

 

 彼女はあまりに速いのだ。ただ素早いだけではなく、まるで未来が見えているかのようにこちらの動きを全て読み切り、隙を突いてくる。

 

 なぜそんな芸当が可能なのか。

 オーガポンは、どうしてもその謎を解き明かせずにいた。

 

 クチートがオーガポンから手を離し、部屋の隅を振り向く。テッカグヤがびくりと肩を震わせた。

 

「次は貴様だ。来い」

 

「よ、よふ」

 

 幼気な少女は己を奮い立たせ、一歩前に出た。

 

 生来臆病で気弱なテッカグヤは、常にバトルから遠ざけられていた。他でもないアシタバ自身がそう育てていたからだ。

 深窓の令嬢、あるいは掌中の珠のように保護し、溺愛していた。

 

 ところがクチートは、アシタバを取り戻すためには全員須らく強くなるべしと言って、テッカグヤにも稽古を付け始めたのである。

 

 これまで戦ってこなかったものだから、ろくな技を覚えていなかった。そこでクチートはワタルとかいう人間に技マシンを取り寄せさせ、いくつかの攻撃技を習得させたのである。

 

「技は覚えただけでは使い物にならない。

 何度も反復し、息をするように発動できるようになってから実戦形式の訓練を行う」

 

 そう言って、終日テッカグヤに技を練習させた。

 今日の修行はラスターカノンらしい。

 

「よし。それでは撃ってみろ」

 

「よふ!」

 

 テッカグヤの両腕から白銀の光線が発射される。光はすぐに減衰し、対面の壁に当たる前に消滅した。

 次いでクチートが同じ技を放つ。こちらは壁の向こうの廊下が覗ける程の穴が穿たれた。

 

 威力の差は歴然である。

 

「よふ……」

 

 不甲斐ないと落ちこむテッカグヤの背を、クチートが軽く叩いた。

 

「なにを悄げる。この手の技は積み重ねるほどに練度があがるのだ。何度でも撃って学べ」

 

「よふ!」

 

 テッカグヤはたちまちやる気を取り戻し、ラスターカノンを連射した。

 

 振り向いたクチートが皮肉げな笑みを浮かべる。

 

「こちらのお嬢さんのほうが、貴様らより才能がありそうだ」

 

「「〜〜〜〜っ!」」

 

 オーガポンとヌメルゴンが同時に立ち上がる。安い挑発とわかっていても、怒りが収まらなかった。

 

 棍棒が、毒液まみれの尾がクチートを襲う。

 クチートは鼻歌混じりにステップを踏み、軽やかに躱した。

 

 

 〇〇〇

 

 

「……強すぎるよネェ」

 

 女性陣の攻防を眺めながらしみじみと呟くサーフゴーに、サマヨールが首肯した。

 

「全くもってその通りですなぁ」

 

「モっさんも稽古つけてもらってるけド、大丈夫?

 つらくナイ?」

 

「辛いですぞぉ」

 

 サマヨールがよよと泣き崩れる。いつの間に取り出したのか、片手にハンカチを握りしめていた。

 

「拙者戦うのは苦手だと申しておりますのに、女王様は聞く耳持っちゃくれませんので。もうもう、辛いなんてもんじゃありませんぞ! 心労で痩せちゃいますぞ! 

 ま! 痩せる肉なんてありませんけど! ドゥフフフフ!」

 

 ひとりで爆笑するサマヨールをサーフゴーは生暖かくスルーした。

 

 すっかり元気を取り戻している。

 我らがマスター・アシタバを喪ったとき、ボールから出てこれないほど落ち込んでいたポケモンとは思えないぐらいに。

 

 同じように、いや、それ以上に落ち込んでいたポケモンを、サーフゴーは横目で見やった。

 

 カブトプス。

 アシタバの最も古い仲間であり、相棒である彼はいま、壁際に片膝立てて座りながら、オーガポンたちの修行をじっと観察している。

 

 時折鎌の先で床をコツコツ叩くのは、はやく手合わせしたいという意思表示か。

 それとも、根が真面目な彼のことだ、己ならどんな戦術でクチートを追いこむか熟考しているのだろう。

 

 視線を反対方向に滑らせる。

 ガチグマもまた、蹲りながらクチートの動きを注視していた。

 彼は恵まれた肉体の持ち主でありながら、どちらかといえばバトル嫌いだった。爪や牙を振るうことに嫌悪すら覚えていたように思える。

 しかし、今は違う。持てる全てを尽くして、いつか対峙する敵を切り裂く準備を着々と進めていた。

 

(────敵、カ)

 

 アシタバを蝕むは冥王ギラティナ。

 闇に蠢くゴーストたちの、頂に君臨する暴君。

 逆らうことなど考えもしなかった。今までは。

 

 そもそも、ゴーストたちは大なり小なりギラティナから魂を分与されてこの世に存在している。ギラティナに逆らうとはつまり、己の魂を、有り様を、否定する暴挙なのだ。

 

 冥王と対面した時、果たしてどれほど動けるだろうか。

 もしかしたら、対峙した瞬間に魂を奪われ消滅してしまうかもしれない。

 

 それでも。

 サーフゴーはそっと己の胸に手を当てた。

 

 それでも、いい。

 叶う限り戦いたい。抗いたい。

 アシタバを、取り戻せるのなら。

 

 千年の孤独を癒してくれたあの人間が、サーフゴーは大好きだった。

 

「かふっ、かふっ」

 

 突然耳朶を震わす鼻息に驚き振り向くと、口にボールを咥えたウネルミナモが、双眸をキラキラさせてサーフゴーを見つめていた。

 

 どうやら修行の順番待ちに飽きたらしい。

 

 このなかでボールを上手く投げられるのはサーフゴーとサマヨールくらいで、しかもサーフゴーは分身できるものだから、いちばん楽しい“遊び相手”と認識されてしまっていた。

 

 首元で、アシタバがかけた《かるいし》がちらちら揺れている。これのおかげで、ミナモはちょっとでかい大型犬くらいのサイズに落ち着いているのだ。

 これがなくば、とてものこと、セキエイリーグの部屋の中で遊び回ったりできないだろう。

 

 サーフゴーは苦笑し、ボールを受け取った。

 涎でべとべとなのは気にしないことにする。

 

「さ。遊ぼウ、ミナモクン」

 

 躰を構成するコインを分散させ、分身体を作り出す。興奮極まったミナモが遠吠えした。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ミナモとキャッチボールを始めたサーフゴーを認識しつつ、クチートは膝を折って棍棒の一撃を躱した。

 

 頭上スレスレを棍棒が通り過ぎる。息つく間もなく、横から火炎放射が飛んできた。ヌメルゴンの攻撃だ。これは大きく後ろに飛んで回避した。

 

(強くなっている)

 

 技のキレが違う。

 選択もいい。

 コンマ数秒ごとに思考し、決定し、実行する戦闘において、一手の過ちが生死を分ける。

 その過ちが格段に減っていることに、クチートは指導者として愉悦を感じた。

 おもわず口元が緩んでしまう。

 

(いい生徒だよ。貴様らは)

 

 並ならぬ向上心はひとを飛躍的に成長させる。ましてこのチームは共通の揺るがぬ目的がある。アシタバの失踪前と比べると、その実力差は天と地ほども開いていると言っていい。

 

(…………それでも、足りない)

 

 敵はただのポケモンではない。

 創造神アルセウスが三番目に生み出した神なのだ。たとえ現在は神の序列から外されていたとて、能力そのものが衰えたわけではない。

 むしろアルセウスへの復讐心を糧に、己の武器を研ぎ澄ましていることだろう。

 

 大顎を限界まで開き、ヌメルゴンの尻尾を受け止める。ついでに噛みついてやれば、ヌメルゴンが悲鳴をあげた。

 脚の止まったクチートにツルの鞭が伸びてくる。

 ラスターカノンで焼き切ると、オーガポンが舌打ちした。

 

 切り札が欲しい。

 ギラティナの弱点をつける一手が。

 そんなものが、あるのだろうか? 

 

 戦いながら懊悩するクチートの耳が、ドア向こうの足音を捉える。この音は──ワタルだ。

 

 ノックもなしに扉が開け放たれる。

 

「ヘリオドール! あれは君たちの仲間か?」

 

 要領を得ない問いに、クチートが眉をひそめた。

 

 ワタルがやや焦りの滲む顔で説明する。

 

「さっきいきなりセキエイリーグの入口に見慣れないポケモンが現れたんだ。真っ白い体に大きなヒレのついた個体で、りうりう鳴いている。種族名を調べているんだがなかなかヒットしないんだ。カントーのポケモンではないようだが……」

 

 クチートも、カブトプスたちも、みなぽかんと口を開けた。

 

 まさか、そんな。

 ここにいるわけがない。

 あの方とは、カロス地方の洞窟で別れたのだぞ。

 

 驚きが冷めやらぬうちに、カンナが息せき切って駆け込んでくる。

 手にはバインダーを握りしめていた。

 

「わかった、わかったわあの子が!

 太古の昔に滅びたはずのポケモンよ!

 しかも色違いなの!

 なんて美しい……!」

 

 氷タイプのエキスパートとして、また一介のポケモントレーナーとして、突然の来訪者に心を奪われてしまっている。

 

 一足先に我に返ったクチートは、高らかに笑った。

 

(切り札が出来た……!)

 

 その笑い声はリーグ入口に佇む白雪龍にも聞こえた。応答するように澄んだ歌声を響かせる。

 

 

「りぅうううう!」

 

 

 アマルルガ──ゴーシェナイトの歌声が、蒼天に木霊した。

 

 

 

 

 

 




というわけで番外編。
修行シーン書いておきたかった!

クチート(ヘリオドール)の強さは頭ひとつ抜けてます。
果たしてカブルーたちは追いつけるでしょうか。

年内の更新はこれが最後となります。
皆様どうかご自愛ください。
来年またお会いしましょう!

ハッピーホリデー&良いお年を!

良ければ感想高評価おなしゃす!
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