ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第51話 狙い撃て。

 

 

 

 

 無限に広がる白い部屋の中で両親が立っていた。

 父さんも母さんも、微笑みひとつ浮かべてはいない。ただ真剣な眼差しで、俺を見据えている。

 

 ここがどこかは分からないが、2人の顔つきに、強烈な懐かしさを覚えた。

 

 ヤマブキ学院時代。父さんは俺に、ジムリーダー試験を受けろと口酸っぱく迫ってきた。そのたびに、やっと卒業できるんだ自由気ままな旅をさせろと突っぱねた。母さんは話の成り行きを黙って聞くばかりだったが、父さんと同意見なのは誰が見ても明らかだった。

 

 話し合いはいつも縺れ、決裂した。

 その時の雰囲気そっくりだ。

 だけど今回、2人は沈黙を保っている。

 なぜだろう。

 いつも通り、説教すればいいのに。

 

 すると、父さんがゆっくりと右手を横に伸ばした。

 人差し指でどこかを指している。目線をむけると、まっさらな部屋の中で、人ひとりなんとか通れそうな大きさの、虹色に輝く円環があった。

 もう片方の手は、母さんの肩を抱いている。

 

 思えばこの人たちは、外に出るといつもこうして身体をぴったり寄せあっていた。付かず離れず、という言葉を体現するかのように。

 

 母さんが口を開いた。

 

「あっちへ行きなさい、アシタバ。

 こっちはまだ早いわよ」

 

 その一言で、全てを悟った。

 

 そうか。

 この何もない空間は、あの世とこの世の境目なんだ。

 

 噂に聞く、“死者の罪業を量るための川”も無ければ、“生前の罪を裁く法廷”もないけれど、あれは昔の人がこしらえた作り話なんだろう。

 

 何度か死にかけているのに、ここに来るのは初めてだった。

 

 母さんがあっちへ行けと言うからには、虹の環の先は現世に繋がっているに違いない。

 レジドラゴにビームを撃たれた記憶が甦る。さて、俺はアレを躱せたんだろうか。

 

 兎にも角にも、行くしかない。

 

「ありがとう」

 

 短い言葉に万感の想いを込めて踵を返す。

 二、三歩進んだところで、振り向いた。

 

 あとひとつ、母さんたちに、どうしても言っておきたいことがあった。

 

「行ってきます」

 

 父さんと母さんは、ようやく微笑んでくれた。

 

「「いってらっしゃい」」

 

 俺も笑って親指を立てた。

 鼻の奥がツンとするのを、鼻水をすすって堪える。

 

 電話越しに喧嘩した次の日、父さんたちは交通事故で帰らぬ人となった。

 そのことが、ずっと苦しくて堪らなかった。

 

 行ってきますと言い、行ってらっしゃいと返ってくる。当たり前のことが、なんて嬉しいんだろうな。

 

 ああ、もっと話したい。

 ごめんなさいと伝えたい。

 だけど急がなきゃ。

 あっちでは、みんな戦ってるんだから。

 

 後ろ髪を引かれる気持ちをぐっと飲み下し、俺は虹色の輪をくぐった。

 

 

 〇〇〇

 

 

「げるるるるるるっ」

 

 

 臨死体験から戻った俺が真っ先に聞いたのは、ルギアの咆哮だった。

 レジドラゴが放った破滅的な光線を、ボールから飛び出したルギアが不可視の盾で防いでいてくれたのだ。

 

 同じく飛び出したホウオウが、翼を羽ばたかせ突風を巻き起こす。レジドラゴが僅かに後退したところへ、グレイシアの氷柱落としが直撃した。

 

「ドラァッ」

 

 効果抜群の弱点技を脳天に喰らい、レジドラゴが怯む。

 その隙にダッシュでウォロを回収し、ポケモンたちが入り乱れる戦場から距離をとった。

 

 改めて、とんでもない状況だった。

 突如現れたレジ一族。レジギガスだけは緩慢なものの、ほかのレジ達はめいめい己の得意技をぶっぱなし、ミュウツー達を四方八方から攻撃している。無傷で凌いでいるのは奇跡に近い。疲労が溜まってくれば一気に総崩れになるだろう。

 

 鎖に繋がれたディアルガとパルキアは不気味なほど大人しいが、炯々と光る目で盤面を観察している。

 必ずどこかで仕掛けてくるはずだ。

 その前に、少しでも相手の戦力を削がなければ。

 

 深呼吸し、状況を見つめなおす。

 

 まずミュウツー。これはテレポートを駆使し、レジアイスとレジスチルの2体を引き付けている。両者に有効な炎の拳を使って突破を目論んでいるんだろうが、それぞれ溶けるだの鉄壁だの積んでおり、生半可なパンチでは小揺るぎもしていない。

 

 視線を移す。

 ガブリアスはレジエレキを、グレイシアはレジドラゴと戦っていた。2人ともさすがオヤブンなだけあって、技のキレが凄まじい。しかしレジエレキは速すぎ、レジドラゴはタフすぎて、何度技をぶつけても致命傷には及んでいない。

 

 そこへレジロックが無差別垂直落下攻撃を繰り返し、場を荒らしている──といった具合だ。

 

「げるる」

 

 ほたほたと歩いてきたルギアに目をやる。掌に乗るほど小さい躰で、驚くほどの大風を巻き起こせるが、こんな乱戦状態で吹かせればミュウツーたちも巻き込まれる。

 

「…………ホウオウさま。戦闘は、できますか」

 

 一縷の望みをかけてホウオウに問う。

 しかしホウオウは無念そうに首を振った。

 

「申し訳ありません。あれほどの戦いに参加できるほどには、回復しておりません」

 

「……わかりました」

 

 俺はぐっと拳を握りしめた。

 

 ────ならば。

 この策しかあるまい。

 

 俺はふーっと長い息を吐いてから、ボールをひとつ取り出した。

 

「テツ。出番だ」

 

 テッポウオのテツを右手首の下に張りつかせる。不安そうに見上げてくる相棒に、にっと笑って見せた。

 

「心配すんな。お前さんに痛い思いはさせねえよ」

 

「だ、旦那ァ……そんなこと言ったって、どうするってんです」

 

「まあ、ハラハラドキドキの射的ゲームってとこかな」

 

「へ?」

 

 きょとんと目を瞬かせるテッポウオをよそに、ホウオウさまに頭を下げた。

 

「ホウオウさま。ウォロの護りをお願いします。

 ホウオウさまたちの方には絶対あいつらを行かせませんから」

 

「……わかりました」

 

「ちょ、ちょっと!

 あなた何するつもりなんですか!」

 

 気色ばむウォロには答えず、とんとんと爪先で地面を蹴った。

 整然と敷き詰められた石畳。遥かな昔にこれほどの神殿を築いたウォロのご先祖さまには2つの意味で頭が下がる。

 

 ひとつは、敬意。

 もうひとつは、こんな素晴らしい遺跡を考古学徒が荒らす申し訳なさ。

 

 それでも、やるしかない。

 

 ルギアを小脇に抱え、俺はレジロックに向かって走り出した。

 

 

 〇〇〇

 

 

「ゴゴゴビ」

 

 何度目かの落下攻撃を終えたレジロックが、近寄ってくるニンゲンの気配を察知し、顔の模様を光らせた。

 

 レジ一族に目鼻はない。代わりに、点のような模様が並んでいる。その点を規則的に光らせることで、仲間と意思疎通を図るのだ。

 

 この時レジロックは、わざわざ死地に飛び込んでくるニンゲンを嗤っていた。

 

 ここにいる誰よりも脆弱な存在でありながら、逃げるのではなく立ち向かうとは。

 蛮勇を通り越して愚の骨頂であろう。

 

 さりとて、向かってくるならば容赦はしない。

 憎きアルセウス打倒の余興にしてくれる。

 

 片腕を掲げる。このまま無造作に殴りつけるだけで醜い肉塊の出来上がりだ。

 それを分かっているのかいないのか、ニンゲンは足も止めずに指を突きつけてきた。

 

「ゴッゴッゴッ」

 

 思わず噴き出す。よほど命が要らないらしい。

 さあ喰らえ。お前などには勿体ない、我が鉄槌(アームハンマー)を。

 

 レジロックの肩に力が入る。

 いましも振り下ろさんとした腕はしかし、いきなり付け根から吹き飛んだ。

 

「ゴ……?」

 

 顔の点が激しく明滅する。

 

 なんだ? 

 何が起きた? 

 

 レジロックは己の腕があった場所とニンゲンとを交互に見比べた。

 何故かニンゲンはその場にひっくり返りながら、ニヤニヤとしまりのない笑みを浮かべている。傍らで、白い小鳥が「げるる」と鳴いた。

 

「ゴ……ゴ……」

 

 気味が悪い。

 意味がわからない。

 

 一つ確実に言えるのは、このニンゲンは即座に、完全に潰すべきだということ。

 理屈でなく本能がそう告げている。

 

 レジロックは残った片腕をぶん回した。

 掠るだけでも命を奪うに充分なパワーがこめられている。

 だというのに、またしても腕を吹き飛ばされてしまった。

 両腕を失ったレジロックが、均衡を保てず片膝をつく。

 

「ゴゴゴ?」

 

 分からない。

 何をされているのだ。

 あのニンゲンは、何をしているのだ!? 

 

 混乱の極地にあるレジロックのすぐそばまで近づいてきたニンゲンは、指先をつきつけ、こう言った。

 

「水の波動」

 

 全身に凄まじい水飛沫を浴びせられ、レジロックの思考は意識ごと途切れた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ビリビリと震える腕を(さす)りながら、俺は短く吐息した。

 

 まずは、一体。

 

 テッポウオが泣きそうな声で叫ぶ。

 

「だ、旦那ァ! あんた身体張りすぎだぜ!

 いくらなんでも無茶だ!

 おれっちを貼っつけたまんまハイドロポンプ撃つなんて! 脱臼しちまったんじゃねえのかい!?」

 

「大したことねぇさ」

 

 俺はひょいと肩を竦めてみせた。

 これは痩せ我慢じゃない。本当に大したことないのだ。

 

 本来なら、テッポウオにハイドロポンプなんて撃たせた日には反動で脱臼……どころか骨が砕けてもおかしくない。実際いま2発撃って、2発とも腕と肩がイかれてしまった。

 

 だが、俺の身体はまともじゃない。ギラティナに乗っ取られつつあるおかげ(という言い方も癪だが)で、痛みをほとんど感じなくなっているのだ。

 

 まあ味覚だの触覚だのも著しく衰えてはいるのだが、いま大事なのはケガを気にすることなく大技を撃てるという点だ。

 おまけに故障したとてすぐに治る。

 こんなに便利な身体もない。

 

「安心しろよ。死にたがってるわけじゃねえ。こんなとこで死んでたまるか。確実に勝つための必要な犠牲(コスト)ってやつさ」

 

「こ、こすと?」

 

「おう。そんなことより見ろよテツ。

 そろそろあちらさんもお目覚めみたいだ」

 

 俺はやや離れたところに居るレジギガスを真っ直ぐ見上げた。

 さっきまでのトロくさい動きが無くなりつつある。

 やっとエンジンが掛かってきたらしい。

 随分なスロースターターだ。

 

 ミュウツーもグレイシアもガブリアスも手一杯。

 ならレジギガス(大将)は俺たちコンビの獲物だ。

 

 ハイドロポンプは残り3発。

 レジロックの腕も吹っ飛ばす大技を全弾叩きこんで、文字通りのジャイアントキリングと洒落こもう。

 

 

「気張れよテツ!」

 

「ああもうっ、ガッテン承知だちくしょうめ!」

 

 

 

 

 




というわけで51話。
テッポウオの反動は例えるなら大砲をイメージしていただくと分かりやすいかなと。ドーンと撃って砲台が後ろに下がるアレです。
アシタバくん以外が同じことしたら死にます。

そしてスロースターターの呪いが解けつつあるレジギガス。鬼くそ強いぞ大丈夫か。ドロポンじゃ弱点突けないぞ!

よければ感想高評価おなしゃす!
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