ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第52話 最悪の更に下。

 

 

 

 

 ワタシは身の毛もよだつ焦慮の渦に飲まれていた。

 

 レジスチルとレジアイス。

 余りにも頑丈でしぶとい2体と渡りあうだけでも苦しいのに、アシタバがレジギガスに突撃するのを目撃してしまったからだ。

 

 その光景を視界の端で捉えた瞬間、まず己の視力を疑った。次に、アシタバの正気を疑った。

 

 一拍遅れて、右腕にテッポウオをくっつけていることに気づいたが、圧倒的戦力不足に変わりはない。

 まさかあんな小鳥と小魚であの怪物を倒すつもりなのか。よしんば攻撃を当てられるとしても防御はどうする。人間の脚で躱せるわけがない。ルギアのバリアで防ぎきれるか? タイミングが一瞬でもズレたら、半身が千切れ飛ぶぞ。

 

 助けに行くべきだ。

 だが背を向ければ、後ろからレジアイスたちに襲われる。もしくは、グレイシアたちが狙われてしまうだろう。そうなれば戦線は崩壊し、行き着く先は──全滅だ。

 

(おのれ……おのれおのれおのれ!)

 

 ワタシの胸裡に憤怒の炎が燃え盛った。

 なにより自分に腹を立てていた。

 もっと強ければ、こんな苦境、いとも容易く突破できるのに! 

 

(力が……力が欲しい!)

 

 ワタシの怒りは強いエネルギーとなり、オーラとなって立ち昇った。

 攻撃しようと向かってきたレジアイス達が足を止めるほどに、鬼気迫る形相をしていたらしい。

 

 

 そして。

 

 

「……ぉおおおおお!」

 

 

 ワタシは、ひとつ上の段階に到達した。

 

 

 〇〇〇

 

 

「っ!? か、ミュウツー(カタリベ)!?」

 

 異様な光景に、俺は敵前であることも忘れて見入ってしまった。

 いきなりミュウツーの全身が輝き出したと思ったら、筋骨逞しい姿に変わっていたのだ。

 まさか、メガシンカか!? 

 

「キーストーンもメガストーンもねえのに……まじかよ!」

 

 興奮しすぎて変な笑いが出た。

 

 ミュウツーは自身の変化を確認するようにぐるりと腕を回すや、間髪入れずレジスチルを殴りつけた。

 情け容赦ないボディブロー。

 大鐘を鳴らしたような衝撃音が鳴り響き、レジスチルが数メートル吹き飛んでいった。白亜の柱に激突し、顔面を激しく点滅させている。

 

 レジアイスがすかさず冷凍ビームを放った。ミュウツーは振り向きもせずにミラーコートで跳ね返し、地を這うような回し蹴りをお見舞いする。

 レジアイスの体表に亀裂が走った。

 

 パワーが飛躍的に向上している。もはやレジアイスもレジスチルも敵じゃない。きっとすぐにバトルを終わらせ、こっちに駆けつけてくれるだろう。

 嬉しい誤算だ。俺は不敵な笑みを浮かべて、レジギガスに相対した。

 

「待たせたな。やろうか」

 

「レレレ、ジジジジジ」

 

 レジギガスが指を蠢かす。全ての指を真っ直ぐ伸ばしたのを見て取って、すかさずルギアに命じた。

 

「バリア!」

 

「げるるるるっ」

 

 ドーム型のバリアが展開されるのと同時に、真上から大きな掌が降ってきた! 

 陽の光が遮られ、周囲がふっと暗くなる! 

 

 

バゴォオオオン! 

 

 

 世界の振動に片膝をついた。

 つくづく規格外だ。

 バリアを張ってなお、衝撃がここまで響くとは。

 

「用意はいいな、テツ」

 

「おうよ!」

 

 バリアが消えるのと同時に飛び出し、掌の下から逃れ出る。半身を投げ出すようにして照準を定めた。

 

 狙いは──右上の目玉っ! 

 

「アシッドボムっ!」

 

 刺激臭のする毒の弾が見事命中。毒液が重力に任せて滴り落ち、残り二つの右目も毒まみれにさせた。

 

「ォォオオオオウ」

 

 レジギガスが悲鳴を上げながら顔半分を覆う。

 

 やっぱりだ。

 どんなにデカくたって生き物ならば、目を攻撃されて痛くないわけがない。怯まない筈がない! 

 

 ほかのレジ達と違い、レジギガスは生物っぽい眼球を六つも持っている。

 全部潰せば、行動不能だ! 

 

 ────そう、思っていた。

 

 レジギガスは顔に手を当てたまま、だだっ子のように足を踏み鳴らした。大地が激しく揺れ、とても立っていられない。四つん這いになってやり過ごそうと屈んだ矢先、身体に衝撃が走った。

 

「え」

 

 自分の見ているものが信じられなくて、間抜けな声が漏れる。

 錐のように尖った太い岩が、俺の腹に刺さっていた。すぐに真っ赤な血が流れて、岩を不気味に染めていく。

 

「アシタバっ!」

 

「だ、旦那ぁっ!」

 

 ミュウツーとテッポウオの呼ぶ声が遠い。

 地震とストーンエッジの同時発動?

 ふざけんなよ。ありかよそんなん。

 

「ごぶ」

 

 文句のひとつでも言ってやりたかったのに、口をほんの少し開けただけで、とんでもない量の血を吐いた。

 

 あ。まずい。

 これ、致命傷ってやつか? 

 ちっとも痛くないせいで、相当深く刺さっていることに気づけなかった。

 

 抜かなきゃ。

 いや、抜いたらダメなんだっけ。

 

 すると、上からむんずと鷲掴みにされ、ゆっくり岩から引き抜かれた。どぼどぼどぼ、と冗談みたいな音を立てて血が石畳を汚していく。

 

「レレレジ」

 

 俺を眼前に掲げたまま、レジギガスが何事か話している。言っている意味はまるで分からない。どうもこの種族は、他のポケモンとは違う言語を使っているようだ。古代の言語か。ぜひ解析したい。

 

「勝負はお預けってことで……ダメか?」

 

 冗談もまるで取り合わず、レジギガスの手に少しずつ力が籠っていく。(あばら)が嫌な音を立てた。

 

 握り潰す気かよ。おまえ、趣味悪いぞ。

 

 下を見る。ミュウツーが血相を変えてこっちに来ようとしてるが、レジアイスたちがあの手この手で足止めしていた。どんなに殴られ蹴られてもミュウツーのそばから離れない。あんなにくっつかれちゃテレポートに集中することも出来ないだろう。

 

 ルギアは狂ったように鳴きながらレジギガスのあちこちを啄きまわっている。

 だけど、効いているようには見えなかった。

 

 …………詰んだかな。これは。

 

 俺はガタガタ震えるテッポウオを掴むと、力任せに手首から剥がし、タマザラシの入ったボールにくっつけた。

 

「だ、旦那?」

 

 怯えるテツになにか気の利いたことを言ってやりたい。

 ヒードランと戦った時から、本当に頑張ってくれた。

 

 でも声が出なかった。

 だから、唇を動かした。

 

「ごめんな」

 

「ありがとう」

 

 脳内でも強く念じる。

 ミュウツーがはっとした表情で俺を振り仰いだ。

 

「アシタバ! ダメだ! 諦めるな!」

 

 俺は最後の力を振り絞り、ミュウツーに向かってテッポウオ付きのボールを投げた。

 

 ゆるゆると視線をずらす。

 ディアルガとパルキアを縛るモモワロウと目が合った。唇を歪ませ、いまにも泣きそうな顔をしている。

 

 ウォロは、血の気の引いた顔で俺を見あげていた。

 この後何が起きるのか、ちゃんと分かっているらしい。

 

 お前さんたちとも、もう少し、仲良くなりたかったなあ。

 

 バサギリとマーシャドーはまだ戦っているんだろうか。あいつらの強さなら負けることはないだろうが、願わくば傍にいて指示を出してやりたかった。

 

 …………そばに居たいといえば、どうしたってあいつらの顔が浮かぶ。

 

 おしゃべり大好きなサーフゴーとサマヨール。

 なにかといがみ合うオーガポンにヌメラ。

 歌うのが大好きなアマルルガと、その歌にうっとり聞き惚れていたクチート。

 ガチグマはしょっちゅうウネルミナモの遊び相手をさせられてたっけ。

 それをテッカグヤが楽しそうに観てたなあ。

 

 そして、ああ、そして、俺の最初の友達。

 お月見山で掘り起こし、復元させたあの日から、片時も離れず過ごしてきた、最高の相棒。

 

 もう一度お前に会えるなら、なんだって惜しくないのに。

 

「カブルー……」

 

 それが、俺の最期の言葉になった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ぐぢゅ、と、およそ人体から出るべきではない音を立ててアシタバが握り潰されるのを、ウォロは見ていることしか出来なかった。

 

 アシタバがレジギガスに近づいていった時、あまりに危険なのはウォロにだって察しがついた。それでもホウオウの後ろで見ていられたのは、なんだかんだ死にはしないと高を括っていたのだと思う。

 

 愚かの極みだ。アシタバも、自分も。

 あんな大きな生き物に勝てるわけがないのに。

 

 ミュウツーが喚きながらレジギガスを殴りつけているけどびくともしていない。

 そのうちに変身が解けてしまった。アシタバが居ないせいなのか、ミュウツーが動揺しているせいなのか。

 

 ただ、これだけはわかる。

 

 自分たちは、みんなここで死ぬ──ということを。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ウォロを背に庇いながら、ホウオウは必死に逃げる手段を模索していた。

 

 アシタバを喪って、ミュウツーはすっかり逆上している。

 メガシンカが解けているのにも気づいていまい。

 任意の場所に瞬間移動するテレポートは、落ち着いた穏やかな心持ちでなくば失敗してしまう。

 よって、テレポートを使った逃走は除外。

 

 ガブリアスとグレイシアもアシタバが死んだことに気づき、動揺を隠せないでいる。

 一方レジ達は勝利の余韻にひたることもなく、包囲網を狭めてきている。

 ルギアはレジギガスの周りを飛びながら、物言わぬアシタバに呼びかけていた。

 返事があるはずもないのに。

 

(…………せめて、この子供だけは)

 

 アシタバから託された命だけでも守りたい。

 安全な場所まで逃がしてやりたかった。

 

 考えあぐねるホウオウはその時、不思議なものを見た。

 

 アシタバの頭上に燦然と輝く、黒い角笛を。

 

 角笛はくるくると回転しながら、荘厳な音色を奏で始めた。吹く者とて居ないはずなのに、それは確かな旋律を持って大気を震わせ、世界の隅々に行き渡っていく。

 

 そして、その音に呼応するように、ディアルガとパルキアが能力を発動させた。

 

 空間がひび割れる。

 穴の向こうを様々な景色が通り過ぎる。

 時空の転送。この世でただふたり、時神(ときがみ)宙神(そらがみ)が起こせる奇跡。

 

 およそ300年の時を超えて、穴は、あるポケモンたちのところに繋がった。

 

 9体のポケモンが待ってましたと飛び出してくる。

 

 黄金の幽霊に包帯だらけの幽霊。

 棍棒を担いだ小鬼と、鋼の殻を背負った龍。

 氷雪のなかで暮らしていた太古の生物がヒレを鳴らし、大きな顎をぶら下げた戦士が牙を鳴らす。

 大柄な熊と犬が、はやく戦わせろと言わんばかりに体を揺すった。

 竹の腕を持つ撫子が楚々とした仕草でみなの後ろに並ぶ。

 

 ホウオウは悟った。

 彼らはみな、アシタバに愛され、アシタバを愛する者たちだ。

 

 最後に現れた一体が、両手の鎌を構え、勇ましい雄叫びを上げた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 やった。

 やっと成功した。

 

 モモワロウは歓喜に身を震わせた。

 

 本当はもっと早く、アシタバの仲間たちを呼び寄せてやりたかった。

 けれど神の抵抗は強く、どれだけ支配の鎖を強めても時空を超えようとしてくれなかった。

 

 それがやっと、成功した。

 

「モモワァイ……」

 

 見てるか、アシタバ。

 お前の愛したポケモンたちだ。

 早く起きてくれ。

 いままでどんなケガも治してきただろう? 

 みんなみんな、お前の声を待ってる。

 

 レジギガスの手の中に視線を送る。

 血塗れの頭が、ぴくりと揺れた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 クチートは状況を把握するや、唇を苦々しく歪めた。

 思ったより、悪い。

 

 アシタバ(あのアホ)のことだ、平穏無事とは思っていなかったが、まさかレジ一族と交戦しているとは。

 

 呆然と目を見開いているミュウツーに頷き、嬉しそうに鳴くルギアへ片手を挙げる。

 

 さて、アシタバはどこにいる? 

 

 最も目を引くレジギガスに視線を止める。片手がやけに赤い。いや、赤い何かを握っている。その正体を見極めようと目を眇め──愕然と立ち尽くした。

 

 赤いものから、禍々しい黒い鞭が生えた。

 一本、二本、三本──合計六本。

 それが鞭ではなく翼だと気づいたのは、空を飛ぼうとするようにはためかせ始めたからだ。

 

 レジギガスが手を緩めると、赤いものが宙に浮かんだ。飛びながら、だんだん形を成していく。

 

 ヒトの、形に。

 

 それと同時に、悍ましい気配も濃くなった。

 

 クチートは歯噛みした。

 

 思ったより悪い? 

 冗談じゃない。

 最悪だ。

 よりにもよって、()()()がアシタバを乗っ取ったところに出くわすなんて! 

 

 “アシタバ”はクチートたちを見下ろすと、にんまり笑った。

 

 アシタバが絶対に浮かべることのない、邪悪で醜い笑みだった。

 

 

「ひと足、遅かったなあ」

 

 

 そう言って、冥王ギラティナは高らかに嗤った。

 

 

 

 

 

 




というわけで52話。
みんな集合。でも冥王復活。
みんなはアシタバを取り戻せるのか。

ラストスパートかけていきます。10話以内に完結予定。
どうか最後までお付き合い下さい。

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