ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第5話 会議は揉める、されど進まず。

 

 

 

 

 角笛の謎はひとまず置いておくことにした。

 解き明かしたいのは山々だけれど、それよりもまずルギアのボールを完成させるほうが先だろう。

 いつまでも露天に寝かせていては、治るものも治らない。

 

「これはどうだ、アシタバ」

 

「んー……うん。いいね、張りがある。

 あそこのも捥いでおこう」

 

 ミュウツーの念力で浮かしてもらい、高い枝に生っていたぼんぐりも摘んでから拠点に戻った。

 

 ルギアは相変わらず眠りっぱなしだ。

 目を覚ます様子は微塵もない。

 ミュウツーが「やらないよりはいいだろう」と癒しの波動をかけてくれているが、効果があるとは信じていないようで、気休めだと自嘲していた。

 

(現代に戻れば治療の手立てもきっとある。

 俺が弱気になっちゃダメだ。

 やれることをやろう)

 

 石を削って作ったナイフで、ぼんぐりを半分にカットする。金属製じゃないから甚だやりづらいが、根気よく刃を動かしてなんとか切り終えた。

 

 パイルの実の中身をくり抜いて作った鍋に水を入れ、ぼんぐりを投入。じっくりと煮ていく。

 パイルは皮が分厚く熱に強いから燃えてしまうことがないのだ。

 

 ちなみに火はミュウツーが炎の(パンチ)を会得してくれたので、それを使って熾している。

 いつの間に覚えたのかと思ったら、エイパムが教えてくれたらしい。

 学習能力の高さにつくづく感心した。

 

 よく煮えたら引き上げ、木蔭に並べて陰干しにする。潮風がしょっちゅう吹き抜ける山だから、すぐに乾くだろう。

 

「うー……疲れた」

 

 こてんと横たわる。

 たったこれだけの工程でもう体が悲鳴をあげている。モモワロウを匿っていることを差し引いてもなんて軟弱になっちまったのやら。

 

「眠るといい。ワタシが見張っておく」

 

「わり……ありが、と……」

 

 最後まで言えたかも分からないぐらい、あっという間に意識が途切れた。

 

 

 ○○○

 

 

 ほんのちょっとうたた寝していたつもりが、目覚めた時には陽が傾きかけていた。

 

「うぉあ、寝ちまった」

 

 口の端から零れる涎を拭い、慌てて半身を起こす。

 瞬間、硬いものを打ち合わせる鋭い音が轟き、俺は肩をビクつかせた。

 

 音の出処はすぐ近くの岩場からだった。

 両腕を大きく太い斧に変えたミュウツーと見知らぬポケモンが斬り結んでいたのだ。

 

 双方岩だらけの悪場をものともせず、ひょいひょい飛び跳ねながら鍔迫り合いを繰り広げている。

 

 派手に戦っちゃいるが剣呑な空気は微塵もない。

 稽古の一環なんだろう。

 ということはあの花の化身みたいなポケモンがミュウツーの話していたドレディアか。

 

(俺の知ってるのとはだいぶ感じが違うな……)

 

 ドレディアは主にイッシュ地方で見られる草タイプのポケモンだ。

 深窓の令嬢のような佇まいをしており、可憐の象徴と名高い。

 

 一方こちらは、例えるなら女剣士といった風情で、凛とした強さとしなやかさを纏っている。

 

クチート(ヘリオドール)にそっくりだ……元気かな、みんな)

 

華姫(はなひめ)さま、綺麗だろぉ」

「うぉう!」

 

 感傷に浸りかけたところにいきなりエイパムが現れ、俺は飛び上がるくらい驚いた。

 

 昨日もあったなこんなの。

 やっぱ野生って気配殺すの上手いね。

 

「なんだよぉそんなびっくりしてぇ」

 

「いや音も気配もなかったから……。

 バサギリの件、伝えられたか?」

 

「うん、なんとかなぁ」

 

 隣に腰を下ろすエイパムは浮かない顔だ。

 ミュウツーがこちらに気づき、稽古を止めた。

 ドレディアを連れて歩いてくる。

 

「起きたか、アシタバ」

 

「うん。たっぷり寝ちまったよ。

 ──華姫さま、だよな。はじめまして」

 

 お辞儀をすると、ドレディアも軽く膝を折って挨拶を返してくれた。

 

 全員集まったところで、話を振ってみた。

 

「……それで、どうだった?」

 

「…………わやくちゃだぁ」

 

 エイパムはゆるゆると首を振った。

 

 バサギリの襲来。

 それはオヤブンがいない群青のポケモンたちにとって恐るべき大事件であった。

 

 もともと群青の民は他の地域に比べて戦闘力に乏しく、有事の際は海に逃げればよいという()()()()()()()()()()が多いらしい。

 

 案の定、エイパムが報告したときも、陸を捨てようと騒ぐ者が大勢を占めた。

 しかし無論全員が海で生きていけるはずもない。

 ブニャットやドラピオン、そしてエイパムなど「泳げないものたち」が一斉に異を唱えたが、反対論者たちの意見も一枚岩ではないのが話をややこしくさせたという。

 

 これを機に新たなオヤブンを立てようと訴える者。

 現オヤブンを探しに行こうと息巻く者。

 オヤブンなど立てずにこちらからバサギリを討ちに行こうという過激派までいて、侃侃諤諤の大騒ぎ。

 

 いつまで経っても議論は纏まらず、ヒステリックな怒号に長時間晒されたエイパムはそっと席を抜け出してきた、というわけだった。

 

「華姫さまはその話し合いに出なかったのか?」

 

 行方不明になったオヤブンの次に腕っ節が立つという彼女の意見や考えは、会議の大きな指針になるだろう。しかしドレディアは「いいえ」と答えた。

 

「わたくしはハピナス(たまごさま)の護衛を仰せつかった身。

 わたくしが護るべきはたまごさまだけ。

 群青のものたちがどんな選択を採ろうと、わたくしには関係ございませぬ。

 わたくしを次のオヤブンになどと持ち上げる向きもあるそうですが、固くお断り致しますわ」

 

「……バサギリに抗えるのがお前さんしかいなくても、か?」

 

 意地の悪い問いを投げてみる。

 ドレディアは僅かに目を逸らしたが、それでも言葉を翻したりはしなかった。

 

 今度はミュウツーが口を挟んだ。

 

「エイパムの推理によれば、貴殿は彼奴に狙われる恐れがあるそうだが」

 

「何ほどのこともありません」

 

 ドレディアはきっと面を上げ、断言した。

 

「かの者がわたくしを襲うのならば好都合です。

 返り討ちにしてくれましょう」

 

 ……決意は固い、か。

 

「オーケイ。エイパム、他になにか情報はあるか?」

 

 エイパムは憂鬱そうに頷いた。

 

「悪い情報が増えたぜぇ」

 

 若手を走らせ調べたところによると、やはり隣のオヤブン──紅蓮の湿地に住まう土食(つちはみ)のカバルドンは敗北していたという。

 それもわざわざ双方の手下をずらりと並ばせ、衆人環視のなかで圧倒的勝利を収めたというのだから、バサギリの力量、尋常ではない。

 

「みんなに見せつけたのは力を誇示する意味もあるだろうけどよぉ。1番の目的は、おれはズルっこなんかしねぇぞって分からせるためだろうなぁ。

 紅蓮はまっすぐな気性のひとばっかりだから、正当な手段で来るやつはコロッと信じまうんだよ。

 いまじゃ負けた土食の旦那のほうが黒斧に心酔してるってんだから世話ねぇやな」

 

「真正面から捩じ伏せてくる相手には蟠りを持たないってことか。ある意味潔いいな」

 

「んだ」

 

 ミュウツーはむっつりとした面持ちで耳を澄ませていた。

 楽々追い散らした相手が全く本気を出していなかったことを改めて思い知らされ、ふつふつと怒りを滾らせているのだろう。

 

「……しっかしまあ、食えねぇ野郎だな」

 

 口の中で呟く。バサギリのことだ。

 正々堂々を好むカバルドンにはストレートに勝負を挑む一方で、俺達には奇襲を仕掛けてきた。

 この事実から分かるのは、バサギリは決して武力一辺倒の性質(たち)ではないということである。

 

 必要とあらばどんな策も搦手も使ってくる狡猾さをちゃんと持っているのだ。

 そんな輩に目をつけられてしまった。

 

(一刻も早く現代に帰りたいってのに!)

 

 吐き出した溜息は大きく、重かった。

 

 

 ○○○

 

 

 焚き火にあたりながらぼんぐりの中身を掻き出していると、ミュウツーとドレディアとエイパムがじーっと手元を覗きこんできた。

 ボール作りの様子が気になるらしい。

 

 折角なので、みんなにボールについて説明しながらゆっくり作業を進めた。

 

「なんと……! 

 未来ではそんな小さな球に我らを入れるのですか」

 

「信じらんねぇなぁ。窮屈で仕方ねぇだろぉ」

 

「うーん……広くはないかもなあ」

 

 入ったことないから分かんないけどさ。

 

 しかしポケモンには本来、躰を縮める能力が備わっており、ボールの捕獲機構(ガジェット)はそれを利用しているに過ぎないわけだから、少なくとも健康を害するほど狭くはないんじゃなかろうか。

 

「うし、ガワ完成と」

 

 強度を高めるため火で炙る。

 

「もう出来たのか?」

 

「外側はな。中身は……どーすっかなあ」

 

 300年前のヒスイに捕獲プログラムを組めるPCなんて存在しない。

 となると、このボールに入れるのは従来の捕獲機構ではなく、超原始的な捕獲網(キャッチネット)になるわけだ。

 

 その網を何で編めばいいのやら。

 よく伸び、強靭で、簡単には振り解けないし切り裂けない。そんな都合のいい材質があるだろうか。

 

 俺のぼやきに、エイパムがにぱっと笑った。

 

「んだら、かーちゃんに相談するといいよぉ」

 

「かーちゃん?」

 

 誰? 

 

「ミノマダムのご婦人だぁ。

 オイラたちはみんな親しみをこめてかーちゃんて呼ぶんだよぉ。あのひとの紡ぐ糸はそりゃー強いんだ」

 

「ミノマダムか」

 

 自身を守る蓑を自らこさえる変わった虫ポケモンだ。周囲にあるものを粘着性の糸で貼り合わせて作るというから、確かに捕獲網にぴったりかもしれない。

 

「ほんなら連れてきてやるよぉ」

 

 エイパムは軽い身ごなしでさっさと山を下り、いくらも待たずに帰ってきた。

 背には桃色のミノマダム──通称“ゴミのミノ”を纏った婦人を背負っていた。

 

「唐突にお呼び立てしてすみません。

 よかったら糸をいくらか貰ってもいいですか?」

 

 マダムは快く糸を紡ぎ出してくれた。

 ある程度量が取れたところで解放する。

 礼にきのみを贈ると、ことのほか喜ばれた。

 

「ほんじゃこっからはオイラの番だぁ」

 

 言うが早いか両手と尾の手を使ってぱぱぱっと糸を編んでいく。あっという間に網が完成した。

 

「はやっ! てか上手っ!」

 

「へへぇ、オイラこういうの得意なんだぁ」

 

「俺の服も作ってくれたもんなあ。

 いやあ、お前さん凄いな!」

 

「よせやぁい」

 

 頬を染めて照れるエイパムにもきのみを差し出し、早速ボールの内側にセットした。

 

 か細い寝息を立てるルギアに近づき、そっとボールを開く。網がぶわっと広がってルギアを包みこみ、しゅるしゅると吸いこんでいった。

 

「「おおー」」

 

 エイパムとドレディアが拍手してくれる。

 あまつさえ、

 

「なあなあ、オイラのボールもつくってくれよぉ」

 

「わたくしも入ってみたいです」

 

 などとせがんでくる始末だ。

 

 いやそれ捕獲になっちゃうから。

 いったん捕まえたポケモンは一生面倒を見る義務があるからね。

 そんな気安く捕まえていいもんじゃないからね。

 

 言葉が通じると言っても法律の概念までは伝わらないので、冷や汗かきつつ躱していると、昨日のブニャットが山道を登ってくるのが見えた。

 

「あぁ疲れた。ゴツゴツしてて脚が痛いったら」

 

 やけにしゃがれた声だが、それが妙に色気を醸し出している。エイパムが労わるように声をかけた。

 

「どしたんだぃ、姐さん」

 

「なに、長ったらしい会議で腹が減っちまってさ。

 ここに来たら美味いきのみでも食えるかと思ってね。あるかい?」

 

「もちろんだぁ。好きなの食ってくれぇ」

 

 エイパムはにこにこしながら様々な味のきのみを並べていった。

 自然、みんなで輪になって座り、おやつタイムが始まる。ブニャットは鼻をフンフンさせた後、イアのみを引き寄せた。

 

 へぇ、酸っぱいの好きなんだ。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………スゥー。

 

「あ、アシタバ?」

 

「なぜ姐さんの後頭部に顔を埋めているんです!?」

 

「に、匂い嗅いでらぁ……」

 

「────はっ!」

 

 しまった! 

 俺のネコ好きが発動してしまった! 

 いやでもだって、こんな見事な毛並みとふくふくしたボディは魅力的すぎるって!! 

 無理だって! 我慢できないって! 

 

 驚きすぎて固まっていたブニャットは、わなわな震えながら前肢を振り上げた。

 

 

「なにやってんだいアンタァ!」

 

 

「おぎゃ────!!」

 

 

 絶叫が、星の瞬き始めた空に木霊した。

 

 

 ○○○

 

 

「全くなんだいアイツは……!

 礼儀がなっちゃいないよ!」

 

 家に帰り、ブニャットは全身の毛繕いを始めた。

 ネコ科のポケモンはみな、感情が昂ると毛繕いをする習性がある。

 

 彼女はとくに念入りに行うタイプで、全身くまなく舌を這わせなければ気が済まないのだ。

 

 最後に、あの無礼者の顔を掻き毟った爪をしゃぶった時。脳髄に凄まじい電撃が閃いた。

 

(な、なんだいこれは……! 甘い? いや、濃い!)

 

 かつて味わったことのない濃厚な風味。

 全身にパワーが漲ってくる。

 

 ブニャットには知る由もないが、その爪にはポケモンの潜在能力を引き出すアシタバの血がたっぷり付着していたのだ。

 

 とてもじっとしていられなくなったブニャットは棲み家を飛び出し、そこらを彷徨い歩いているポケモンに片っ端から喧嘩を吹っかけた。

 

 結果は全戦全勝である。

 

 どれだけ動いても疲れず、力が衰える様子もない。

 

 振り切ったテンションは行き場を失い、次なる獲物を血眼で探し求めた。

 

 そして────居た。

 

 嬉しいことに、極上の獲物が。

 

 黒い斧。

 土気色の肌。

 黒曜から襲い来たりし者。

 

黒斧(くろおの)ぉおおお!」

 

 ブニャットは吼え猛りながら爪を振り上げた。

 バサギリは慌てた風もなくゆらりと振り向き。

 

 次の瞬間、猛る猫を一刀の下に斬り捨てていた。

 

 血泡を吹いて喘ぐ瀕死のブニャットを蹴転がし、バサギリの目が山の一点を見据える。

 

 その眼差しには、粘つくような殺気が宿っていた。

 

 

 




というわけで5話。
ルギアの新ボール完成(仮)。
必要最低限度の道具と素材しかないので装飾は一切ありません。これからデコっていきたいところ。

アシタバくん猫派設定覚えてた方います?
実は猫好きなのです。
ブニャットかわいいよブニャット。
すーはーしたい。

とうとうバサギリによる被害者が出てしまいました。
戦いに後ろ向きなポケモンが多い中、群青のメンツはどんな判断を下すのでしょう。

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