ハイドロスチームを放水したウネルミナモは、尾を激しく地面に叩きつけた。
宙に浮くテッカグヤがびくりと振り向いたが、なにもミナモは苛ついているわけではない。
嬉しかったのだ。
フルパワーを出してなお、倒れないでいてくれる誰かが居ることが。
レジギガスは濡れそぼったまま柱に手を付き、ミナモをじっと凝視していた。
次に何が来るのか、観察し、予測し、受け止める為に。
ミナモはまた尾を振った。ばしぃいん、と凄まじい音を立てて石畳が砕け散る。
噛みついた。
尾で引っぱたいた。
激流を撃った。
それでもまだ、倒れない。
──すごい、すごい、すごい!
──こいつ強いぞ、すごく強い!
ミナモは地を蹴り、思いっきりレジギガスの懐に飛びこんだ。ドラゴンダイブである。
レジギガスは両腕を伸ばし、ミナモのことを力いっぱい抱き締めた。
衝撃波が巻き起こる。テッカグヤが「よふ……!」と呻きながら後退した。
ミナモの体重は300キロを軽く超える。それが全力疾走してきたというのに、レジギガスはひっくり返るどころか、二、三歩たたらを踏んだだけだった。
とんでもない怪力の持ち主だ。
「かふっ、かふっ、かふっ」
興奮しすぎて短い吐息が口から漏れる。
ごくたまに、クチートやガチグマが遊んでくれることがあった。そんな時は暴れても上手くすかされ、いなされて、周りに被害を与えることなく鬱憤を発散できたのだが。
まさか、真正面から抱きとめてくれるなんて。
もっと暴れたい。
もっともっと力を出したい。
きっとこのひとなら、どこまでだって受け入れてくれる!
期待を込めて見上げると、六つの瞳とかち合った。
────来イ。
紛れもなくそう言ってるのがわかって、ミナモは雄叫びを上げた。
〇〇〇
「いい
ミナモと遊ぶのは実に骨が折れる仕事だった。恵まれた体格に馬鹿力、無限のスタミナを持っているせいで、チーム全員で遊んでやってもまだ不満げな顔をすることが多々あった。
そこへ同じ条件を持つポケモンが現れたのだ。ミナモの喜びたるや尋常ではなかろう。己の体力が尽きるまで、レジギガスから離れるまい。
よしんば負けたとしても、その頃には相手とて瀕死のはず。
ルギアとテッカグヤにトドメを刺させればよい。
もはやレジギガスを勘定に入れなくてよくなったのは大きかった。懸念事項がひとつ消えれば、その分だけ勝ちに近づく。
「さて」
大きく右に飛んでパルキアの水の波動を躱してから、クチートは素早く計算を巡らせた。
浄化を無事に終えたサーフゴーとサマヨールは、戦線に復帰するかと思いきや影の世界に潜って行ってしまった。
サマヨールいわく「アシタバ殿はおそらくやぶれた世界に連れていかれたはず、拙者たちが連れ戻して参りますぞ!」とのこと。
そんな世界は初耳だったが、アシタバを取り戻す可能性が僅かでもあるなら試してみる価値はある。
クチートは一も二もなく送り出した。
盤面に並ぶ敵は総勢3体。
ギラティナと、ギラティナに操られたディアルガにパルキアだ。レジアイスとレジスチルはディアルガたちの繰り出す無差別攻撃に巻き込まれ、つい今しがた気絶した。
レジ系はあと2体、レジエレキとレジドラゴがいるのだが、そちらは見知らぬガブリアスとグレイシアが対処してくれているので無視していい。
諸悪の根源たるギラティナを真っ先に倒したいところだが、近づいた瞬間に亜空切断が飛んできて、接近した分の空間を“無かった”ことにされてしまうのだ。まったく忌々しい限りである。
それならとパルキアを集中攻撃しても、ディアルガが時間を巻き戻して、これまたダメージを“無かった”ことにしてしまう。
見事な神業である。
これを突破する方法はあるか?
「……………………ある、な」
クチートは口の中で呟いた。
あらゆるパターンを想像し、導き出した答え。
それは、最も単純で明快なものだった。
「
クチートがミュウツーの手をきゅっと握りしめる。
テレパシーを通じて、仲間全員に作戦を伝えた。
『そんなことが可能なのか?』
ミュウツーの声。クチートは断言した。
『可能だ。
というか、可能にせねば我らに勝利はない』
『わたしは信じるよ。
アマルルガが頷く。クチートは胸があたたかくなるのを覚えた。
お強くなられた。化石から復活されたばかりの頃は、あんなにも
『それで、段取りは』
バサギリが尋ねてくる。
クチートと同じで、無駄を嫌う性分なのだろう。
好感を覚えつつ、皆に手早く説明した。
『…………以上だ。質問は』
誰からも声は上がらない。
クチートは鋭く片手を振り下ろした。
「状況開始! かかれ!」
「めるぅうう!」
ヌメルゴンが殻に籠り、回転しながらディアルガに向かって突撃する。その後ろをガチグマとバサギリが追いかけた。
クチートの作戦。
それはディアルガを、巻き戻す暇も与えず一撃で屠るというものだった。
ディアルガさえ倒せれば、パルキアも同じ手段で持っていける。そして最後に残ったギラティナを、全員で袋叩きにするのだ。
ディアルガに迫る3体を見て、パルキアが亜空切断の構えに移る。その全身に、オーガポンが秘かに生やした蔓のムチが巻きついた!
ムチは足元から這い上がるや、恐ろしい速度で各関節を極めていく。がら空きになった胴体へ、マーシャドーとミュウツーのグロウパンチが炸裂した!
「ぐぎゃっ!?」
パルキアが泡を吹いた。
くの字に折り曲げて衝撃を逃したいだろうに、縛られているせいでわなわな震えるのが関の山だ。
「ふっ! はっ!」
「まっ! しゃっ!」
ミュウツーとマーシャドーは気合声を発しながら、二発、三発とリズム良く繋げていく。グロウパンチの副次効果で攻撃力が上がっていく上に二人がかりだ、積もるダメージは尋常ではない。
ディアルガが慌ててトリックルームを展開させはじめた。通常であれば範囲内にいるポケモンの素早さを逆転させる技なのだが、ディアルガが使うと任意の対象に流れる
しかし何度も使われれば、発動にかかる時間も読めてくる。
ルームが完成しきるまであと5秒。
その前に──倒す!
「マジカルシャイン!」
クチートが放った眩い光の粒が、ディアルガとパルキアの眼前で弾けた。
ドラゴンにとって天敵のフェアリーによる光弾。
完成しかけていたルームの構築が、格段に遅くなる!
ヌメルゴンの殻が天高く跳んだ。バサギリのストーンエッジによって跳ね上げられたのだ。
岩の斜面を駆け上がって、ガチグマも続く。
「めぅうううう!」
「ごあぁあああ!」
ヌメルゴンのベビーボンバーと、ガチグマの10万馬力がディアルガの脳天を直撃した!
ふらつくディアルガの脚をカブトプスが斬り倒し、横転させる。そこへすかさず、アマルルガが絶対零度を解き放った!
「りううううう!」
アマルルガのヒレがえも言われぬ色味に煌めき、ダイヤモンドダストが舞った。
一瞬にして、ディアルガが凍りつく。
「一撃必殺だ!」
クチートが吼えた。
「くっ、くそっ、くそっ!」
ギラティナが何度も鞭の翼を突き刺すが、ディアルガはぴくりともしない。完全に気を失っていた。
────よし……よし! まずは、ひとり!
クチートの眼が、次なる標的──パルキアを睨め据えた。
〇〇〇
まずい。
まずいまずいまずい!
ギラティナは親指の爪を噛みながら、目の前の不快極まる光景を思いつく限りの言葉で否定していた。
ディアルガが倒される?
バカな! 有り得ない!
神の一柱だぞ!
それに魂を注ぎ込んで強化させたのだ。
平々凡々なポケモンに負けるわけがない!
だが現実は無情だ。
ディアルガは大地に突っ伏し、おまけに氷漬けという体たらくである。
もはやこの戦闘中の復帰は絶望的だ。
しかもより最悪なのは、“本体”の方も追い詰められている点だ。どうもサーフゴーとサマヨールが潜りこんだらしい。
やぶれた世界はディアルガとパルキア、両者の意思があって初めて扉が開く。
一体どうやって入りおおせたのか?
ギラティナが何千年と抜け出せなかった牢獄に!
「ぐぅっ!」
心臓の辺りに激しい痛みを覚え、胸を抑えた。
本体へのダメージがこちらにも響いている。
この体は所詮身代わり。あまり痛めつけられては憑依が解けてしまう。速やかにサーフゴー達を滅さねばならないが、本体に魂を送り返すためには、そちらに集中せねばならぬ。
そうなるとパルキアの洗脳も止まり、敵の陣営がより一層厚くなる。
八方塞がり。
そんな言葉が脳裏に浮かび、ギラティナは頭を掻き毟った。
認められない、そんなことは!!
この計画にどれだけの年月を費やした?
どれほどの屈辱に耐えてきた!!
こいつらさえ倒せば我が野望が成就するのだ!
負けられない。
負けたくない!
何を犠牲にしても!!
その時。
血走った目が、悠々と空を飛びながらいたずらにレジギガスをつついているルギアを捉えた。
ギラティナが禍々しい笑みを浮かべる。
そうだ。
まだ居たではないか。
神が。
「目覚めてこの方一度も喰らったことのない魂はさぞ美味かろうな」
漆黒の鞭が、ゆるりと頭を擡げ、ルギアの真白い翼に狙いを定めた。
というわけで55話!
ダークディアルガ、ダークパルキアときたら……ねえ?(ニチャ)
なんとかディアルガ撃破!文字通りの総力戦でやっと一体です。
ギラティナはここから巻き返せるのか。
良ければ感想高評価おなしゃす!