ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第7話 とある父娘の会話⑵

 

 

 

 

「ええぇえぇええ!?」

 

 ブルーはがばっと半身を起こし、ベッド横に腰掛ける俺に詰め寄った。

 

「ねぇ待って展開がすごすぎるよ! 

 バサギリに狙われて、ブニャットちゃんが襲われて、ジラーチに助けてもらおうとしたら今度はヒードランが出てくるなんて!」

 

 まくし立てる瞳は爛々と輝いている。

 眠気など吹き飛んでしまったらしい。

 

(しまった。

 もっとテキトーなポケモンにしとくんだったな)

 

 寝物語として聞かせるつもりだったのに、ありのまま喋ってしまったら、好奇心旺盛な娘がどんな反応をするか分かりきったものじゃないか。

 

 いまさら別のポケモンにしようったって遅すぎる。

 なにしろマグマから出てきた時の様子を微に入り細を穿って語ってしまったのだから、誤魔化すだけ“悪あがき”ってもんだ。

 

 俺は短く吐息して、「ああそうだよ」と苦笑した。

 

「シンオウ神話にも登場するポケモンさ。

 研究者の中には炎の化身とか、武器の神さまなんて唱える人もいる」

 

「強い?」

 

 実にシンプルな問いに、俺はそっと目を伏せた。

 

「────ああ。強かったよ。物凄く」

 

 瞼の裏に、あの時の戦いがまざまざと甦った。

 

 

 〇〇〇

 

 

 俺は必死に頭を巡らせていた。

 

 昔読んだ文献によれば、ヒードランは炎と鋼の複合タイプだと考察する説が有力だった。

 なるほど確かに溶岩で出来た躰には、金属と思しき鎧がくっついている。

 

(とすると弱点は地面、水、格闘の3つだが……)

 

 有利を取れるカブトプスもガチグマもウネルミナモもここには居ない。300年後の未来に置いてきた。

 

 続いてミュウツーが会得している技を思い浮かべてみる。

 

 スピードスター

 シャドーボール

 光の壁

 リフレクター

 テレポート

 念力

 炎の(パンチ)

 燕返し

 

 どれも効果抜群は望み薄だ。

 

 それでもやるしかあるまい。

 目配せすると、相棒はしっかり頷いた。

 

「アシタバはここから指示をくれ」

 

「わかった」

 

 ミュウツーがすーっと降りていく。

 

 着地の直前に、ヒードランが火を放ってきた! 

 灼熱の業火が地を舐めながらミュウツーに迫る! 

 

「テレポートで背後を取れ!」

 

 一瞬で後ろに回りこんだミュウツーが、無防備な背中へスピードスターをお見舞いした! 

 

 キュドドドドドッ! 

 

 全弾命中。

 しかしヒードランはびくともしなかった。

 あくびすらカマす余裕っぷりだ。

 雨あられと降り注ぐ星々も、マグマの怪物にとっては霧雨のようなものらしい。

 

 ミュウツーのこめかみに青筋が浮かぶ。

 

ミュウツー(カタリベ)、熱くなりすぎるな! 

 シャドーボールッ!」

 

 星を漆黒の弾に変えて叩きこむ。

 今度はダメージがあったようで、ヒードランが身悶えた。

 

「ごぉおおおおおっ!」

「よぉしいいぞ! そのまま…………っ!?」

 

 追撃を命じかけて、俺は我が目を疑った。

 1発も貰ってないはずのミュウツーが、がっくりと力を失い、這いつくばってしまったからだ。

 

(なんだ!?

 熱気にあてられたか? 

 それとも毒ガスでもばら撒かれた?!)

 

 超高速でバトルの経過を思い返す。

 数秒で原因に思いあたり、激しく歯噛みした。

 

(……()()()()()()か!)

 

 スピードスターを受けたあとにヒードランが漏らしていた欠伸は、退屈ゆえの生理現象ではなくれっきとした技だったのだ。

 ミュウツーはそれをモロに喰らい、強烈な睡魔に襲われている! 

 

 キノコの胞子や眠り粉、催眠術など、相手を眠らせる技は多岐に渡るが、共通して言えるのは気合いや根性で吹き飛ばせるような眠気ではないということだ。

 掛かったが最後、泥のように眠りこけてしまう! 

 

 完全に行動不能に陥っているミュウツーを見定め、ヒードランが再び口を開く。

 喉の奥に、危険な光が見えた。

 

 ────破壊光線!?

 

「カタリベ起きろ、起きてくれ!」

 

 必死に呼びかけても、相棒は大地に突っ伏したままぴくりともしなかった。

 

 ルギアのボールを作った時、並行してミュウツーのボールも作っておいたが、勿論緊急帰還装置(リターンレーザーシステム)なんて気の利いたものは付いていない。戻すには直接ボールを当てるしかないのだが、ここからでは遠すぎる。

 

 骨折覚悟で飛び降りようとする俺の横を、黒い影が掠めた。

 

 

ずしゃああぁん! 

 

 

 腹の底まで震えるような重低音を轟かせ、雷撃がヒードランの脳天を直撃する。

 

「ごあぁあぁっ」

 

 流石に堪えたようで、ヒードランは脇目も振らずマグマ溜りに逃げ込んだ。

 

(今のは……神鳴(かみなり)!?)

 

 とんでもない威力だ。

 しかもヒードランにのみ当てる命中精度(スーパーエイム)

 並大抵の個体じゃあない。

 一体誰がと探すより早く、答えが目の前に現れた。

 

 青い肌。

 白い毛並み。

 厳しい顔つき。

 尻尾と思しき珠から微弱な電流が走っている。

 

 俺は口をぽかんとさせた。

 

 それは、イッシュ建国時代、国中に雷を落として自然をめちゃくちゃにしたという伝説を持つポケモンだった。

 

「霊獣……ボルトロス!?」

 

 

 〇〇〇

 

 

「……ニンゲンをこの島で見るとはの」

 

 ボルトロスは呆れたように呟いた。

 声色にも表情にも敵意はない。

 かといって、好意的なわけでもなさそうだ。

 

 たぶんいまのボルトロスの心情に1番近いのは、厄介なモノを見つけてしまったと舌打ちしたくなるような気持ちだろうか。

 

 岩場にへばりついたまま見つめ合う。

 

「……とりあえず降りろ」

「だっ! あでっ!」

 

 猫の子を摘むように首根っこを掴まれ、無造作に放り投げられた。

 無様な格好で着地……もとい、墜落する。

 

 たまたまミュウツーの傍に落ちたけれど、相棒はまだ目覚めそうになかった。

 いくら欠伸されたからって、こんなに起きないのは異常だ。

 

 ボルトロスは二、三度ミュウツーの匂いを嗅いでから、ふむ、と小さく唸った。

 

「こやつも()()()にかかってしまったようだな」

「ねむりやまい?」

「左様」

 

 ボルトロスは周囲を見渡した。

 

「あのヒードランのあくびは強烈でな。

 ひとたび喰らってしまうと、深い眠りに落とされ二度と目覚めなくなってしまうのよ。

 それをねむり病と呼ぶが、火吹き島の連中はみなこの病に苦しめられておってな。

 ジラーチまで眠りこけておる始末だ。

 不甲斐ない奴よの」

 

「な……!?」

 

 かく、と片膝から力が抜けた。

 二度と目覚めない? 

 嘘だろ! 

 現世へ帰る(よすが)になり得たかもしれない糸が、完全に途切れたということじゃないか。

 

 絶望に青ざめる俺を、ボルトロスが一喝した。

 

「狼狽えるな小僧! まだ手はある!」

「ほ、ほんとか!?」

「無論だ」

 

 ボルトロスは腕組したまま、ふんと鼻を鳴らした。

 

「どんな寝坊助も叩き起す秘薬がある。この島の連中には作れんかったが、ニンゲンの貴様なら作れよう」

 

「つくる! 作るよ! 材料はなんだ!?」

 

 息せき切って訊ねる俺に、ボルトロスはニヤリと笑った。

 

「教える前にひとつ、約束してもらおうかのぉ」

「約束……?」

「おうさ。無事薬を完成させた暁には、儂の言うことをなんでも聞く……とな」

「わかった」

 

 一も二もなく頷く。

 ミュウツーを治せるならそんな約束なんでもない。

 ボルトロスは「話が早いのお!」と大笑いすると、また俺の首根っこを掴んだ。

 

「ならば急ぐぞ。目指すは園生だ」

「そ、そのお?」

「黒曜の原野にある花畑のことだ。

 あそこの花がいい薬になる。

 ほれ話はあとあと! 飛ぶぞ!」

 

 ああっ、せっかち! 

 

 慌ててミュウツーをボールに仕舞う。

 胃のあたりに嫌な浮遊感を感じた瞬間、俺は空を飛んでいた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 あっという間に到着した園生上空で、俺は絶句していた。

 

 鬱蒼と生い茂った森の真ん中に、無惨に枯れ果てた花畑が広がっていたのだ。

 

 ボルトロスに抱えられたまま上から見てみると、茶色く変色し、瑞々しさを失った花たちが完璧な真円を描いているのが分かる。

 

 明らかに自然発生した代物ではない。

 

「これって……」

「花畑の主が弱っておるのよ。

 ここで採れる花が秘薬の素なんだが」

 

 ボルトロスが、小脇に抱えた俺を横目で見やった。

 

「まずはここの主を元気にしてやらねばならん」

「ふんふん」

「というわけで頑張れ」

 

 言うが早いか、ぽいと無造作に放られた。

 

「ちょっとおおおおお!?」

 

 地上まで高さ20メートルほどもある。

 衝撃と痛みに備えてぎゅっと身を縮めたその時、無数の葉が結集し、俺をふうわりと受け止めてくれた。

 

「……へ?」

 

 大小様々な葉っぱで出来た絨毯がゆらゆら揺れながら俺を下ろしてくれる。

 これまた自然現象ではありえない。

 恐らくは草タイプの技・マジカルリーフだ。

 

 キョロキョロ見回していると、枯れた花畑の中央に、いつのまにか見慣れぬポケモンが鎮座しているのに気づいた。

 

 小柄な四足形態。

 毛色は華姫さま(ドレディア)によく似た、春らしい翠と乳白色に彩られている。

 

 図鑑でも見たことのないポケモンだ。

 それは俺を見て、はぁーっと嘆息した。

 

「命を助けてやったミーにお礼もなし。

 まったくニンゲンは度し難いでしゅね。

 ありがとうなんて昨日今日生まれたケムッソだって言えるでしょうに」

 

 俺はあっと声を上げ、あたふたと頭を下げた。

 

「ごめん、その通りだ。助けてくれてありがとう」

「ありがとう?」

「……ございます」

 

 プレッシャーに耐えかねて更に(こうべ)を垂れる。

 するとそこへ爆笑する声が降ってきた。

 

「おうおう、もうシェイミの小娘にやりこめられておるわ」

 

 ボルトロスはさも愉快な演し物を見ているように手を叩いて囃し立てた。

 シェイミと呼ばれたポケモンが眉間に皺を寄せる。

 

「…………オマエの客人(まろうど)でしゅか」

「いんや。奴隷よ」

 

 ボルトロスは含みのある笑みを浮かべ、俺たちふたりを見下ろした。

 

()()()()()のオヌシでも火吹き島の眠り病は知っておろう。いいかげんジラーチを起こさんとマズいことになるでな、ちっと花を貰いに来た。くれ」

 

 その言葉に、シェイミはさっと顔色を変えた。

 

「花をくれ……? ミーがどれだけ苦労しているか分かっていてそんな口を聞くんでしゅか!」

「わかっとるわかっとる」

 

 ボルトロスはうるさそうに手を振った。

 

「ここの花が()()()()()()なことぐらい知っとるわ。

 だからそこな奴隷を連れてきたんだろうが」

「……俺?」

 

 思わず自分を指さす。

 こいついつの間にか俺のこと奴隷って言ってくんだけど。ひどくない? 

 

「花なんてものは土を耕し虫や雑草を取り除いてやればまた元気になるであろう。こやつを使え」

 

 シェイミは猜疑心の強い瞳で俺を上から下まで眺めたあと「……まあ、いないよりマシでしゅね」と吐き捨てた。

 

 うーん。

 全然期待されてないことだけは伝わってくる。

 そういう態度やめてくれよ。

 結構傷つくんだぞ。泣いちゃうぞ。

 

「それじゃあな。咲いた頃にまた来る」

「えっ」

 

 ボルトロスは無責任に言い捨て、びゅんと飛び去っていった。

 春一番のような大風が森中の木々を揺さぶる。

 

 後には、なぜか不機嫌そうなシェイミと何も知らない俺だけが残された。

 

 

 〇〇〇

 

 

 娘は、ほーっと感嘆の吐息を漏らした。

 

「ボルトロスにシェイミまで。

 すごーく珍しいポケモンのオンパレードだね」

 

「ああ。そうだな」

 

 俺は苦笑した。

 こんな展開、他の誰かに話したら盛りすぎだと嗤われるか虚言だと思われるのがオチだろう。

 

 あの時の俺は、確かに娘の言う通り、伝説ポケモンやら幻ポケモンやらを次から次へと呼び寄せていた。

 

「ね、それからどうしたの?

 シェイミのお花は咲いたの? 

 パパは何をしたの?」

 

 矢継ぎ早に問いかける娘の頭を撫で、俺はゆっくり続きを語り聞かせた。

 

 

 

 




というわけで7話。
ヒードラン、ボルトロス、シェイミの登場です。
準伝幻大安売り。
これぞ二次創作の醍醐味やガハハ!

果たしてアシタバくんは眠り病の薬を作れるのか。
良ければ感想高評価おなしゃす!
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