成人向け世界にTS転生した俺はどうすれば生き残れますか!? 作:本田直之
恐らく転生した。何故曖昧な言い方をしたかというと、創作でお決まりの展開が無かったからだ。創作なら神様やら何やらが出てきて転生させるが、俺の場合はそんなことは無かった。意識を失って、気付いたら全く知らない赤子の姿になっていたのだ。つまるところ確証がない。俺の知識にあるもので起きている現象に一番近そうなのが、異世界転生であるだけだ。
そして、かなり高い確率で前世の俺は死んでいる。前世での最後の記憶は、期待していたアダルトPCゲームのマスターアップがSNSで報告されて内心はしゃいでいたこと。そして、発売までのカウントダウンイラストを見ながら信号待ちしていたところに自動車が突っ込んできたことだ。意識が途切れる直前に首と胴体が泣き別れしていたのが見えたから、かなり悲惨な状態だと思う。既に火葬されて骨になっているかもしれない。
転生したことに不満はある。サラリーマンとして総合職でそこそこの中小企業に勤めていたし、趣味に資金を投じるぐらいには金銭的に余裕はあった。両親も健在だったから、先に死んで申し訳ないとすら思う。俺の死後に家を引き継ぐであろう弟にも苦労を掛けるだろう。本音を言えば今すぐ向こうに帰りたいが、赤子の身で出来ることはすくない。転生があるなら転移ぐらいできるんじゃないかとも思うが、世界間の転移ができるような文明・法則のある世界は知る限り少数派だ。調べてはみるが、方法が無かったのならこの世界に骨をうずめるしかないだろう。こんな状況だから転生させた存在にでも文句を言いたいが、出てこないからぶつけることはできない。完全に八方塞がりだった。
「あう~~」
「よしよし」
「あなた?ゆっくりと静かに。ですよ?」
「わ、わかっている!」
意識を目の前の光景に戻す。男が俺をぎこちなく抱っこしていて、少し離れた所から女が声掛けしている。この二人が今世の俺の両親だ。絶世の美男美女で、年齢は恐らく二十代ぐらい。特筆すべきは、頭頂部から生えた獣耳と腰の尻尾だろう。形状は狐のそれだ。どうやら俺は狐の獣人夫婦の子として生まれたようで、もちろん俺にもそれは遺伝している。室内の建築様式や両親の衣服を見るに、現代日本あるいはそれに近い文明・文化圏の家庭というのが分かっている。話されているのは日本語で会話に問題はなさそうだ。しいて問題があるとすれば…
「お前に似て可愛らしい娘だ」
この身体が女であることか。名前はイズナ。両親の容姿を考えれば、さぞ美しい狐娘になるんだろう。それはポジティブな要素であるが、俺は前世で三十年近く男として生きてきた。そのギャップを埋めるのは至難の技だ。まぁ、実際その問題は結構先の話になるだろうからひとまず置いておこう。
「ほらイズナ、たかいたかい〜」
「きゃっきゃ」
今は赤子を演じなければ。あんまりにも冷静だと不審がられてしまう。前世で見た赤ん坊の姿を思い浮かべながら、できる限り年相応に。騙しているようで気が引けるが、異世界?の魂が入っている時点である種の災難だろう。いるかも知れない本来のこの身体の持ち主を思いながら、俺は赤子を演じ続けた。
そして時は経ち、あっという間に7歳。成長するにつれて俺の行動範囲は広がっていき、自然と得られる情報は増える。周囲の会話を聞いた感じ、この家は生まれた古くから帝に仕えている神官・神職の家系らしい。そして、私はそこの宗家の一人娘。平たく言えば次期当主候補のお嬢様という訳だ。かなり格式高い血筋らしく、お付きの人までいる。最近はその人に色々と教えてもらいながら簡単な算数や国語の勉強などをしている。一番キツいのは運動だ。平気で山道を走らされたりする。
何故幼い頃からこんなことをするかと言えば、将来の実戦に備える為の体力作りだ。俺が生まれたこの『伏見家』は神官・神職の家系の中でも退魔に特化しているらしい。平安の頃より妖魔の類と戦っているというのだから驚きである。和風ファンタジー系世界なのかこの世界。無論死と隣り合わせ危険な家業であるから、お付きの人が俺をスパルタ気味にしごいている訳だ。
「本日はここまで」
「佳苗(かなえ)…疲れた…」
「この程度で音を上げては、伏見の家を背負えませんよイズナ様。さぁ、お着替えを」
家の縁側に座り込む。この日も太陽が沈むまで数時間近所を走り回って衣服はベトベト。一方でお付きの佳苗は呼吸一つ乱していない。彼女も普段は任務に出ているらしいので、これぐらいは最低限ということだろう。
「分かってる…」
はたして自分はやり遂げられるのかと思いながら、促されるままに風呂場でシャワーを浴びる。慣れというのは怖いもので、女児の身体程度なら何も感じなくなってしまった。というか、女性自体に興奮しなくなっている。グラマーの母親を見てもスタイル以上の関心が出てこない。精神が女のモノへと徐々に変化しているということだろうか。精神が身体に引っ張られているのかもしれない。
7年という年月は短いようで長い。前世の記憶は過去のもの。最初は赤の他人ぐらいの感覚だった今世の両親も、最早家族同然の距離感だ。自分を愛情込めて育て寄り添ってくれるような二人に情を持つなというのも土台無理な話である。もし元の世界に戻る手段が見つかったとしても、この人達を捨てることが出来るのか。色々考えたが答えは出なかった。モヤモヤする気持ちを心の奥に押し込んで、替えの着物で身を包み夕飯をつつく。
「ふああ…」
俺は吸い込まれように寝所に向かい、用意された布団に潜り込む。過度な運動をするといつもより眠気が強くなるもので、すぐに意識が遠のいていった。普段なら朝まで目が覚めることはない。しかし、その日は違った。
「…トイレ」
園児ぐらいの年齢になってからは珍しく深夜の尿意で目が覚める。瞼を擦りながら起き上がり、真っ暗な廊下を進む。そして用を足して戻ろうとした時、外が明るい事に気が付いた。気になって玄関に向かうと、何やら騒がしい声が聞こえてくる。玄関から外をのぞくと集落の中心部に人だかりが出来ていた。どうやら任務から一族の巫女が帰ってきたようだが、様子がおかしかった。俺は興味から吸い寄せられるように人だかりに近寄っていく。そして、足の隙間から覗き込んで。
「…………あ」
思わず声が出た。周囲が弾かれたようにこちらを向く。
「イズナ様!!?」
「…ッ…あなた…!」
「目を塞げ!こんなものを見せるな!」
大人が懸命に見せまいと近寄ってくるが後の祭りだ。俺の獣人としての視力と嗅覚はそれを捉えていたから。人だかりの中心には担架に寝かされた若年の巫女がいた。問題なのはその状態。俺はこの光景に強烈な既視感を覚えていた。巫女の腹が妊婦の様に膨れている。見開かれた瞳には生気がなく、瞳孔が上の瞼に半分隠れるほどに上を向いている。全身が痙攣している。局部から白いナニカが流れ出している。そして、この覚えのあるイカ臭い悪臭。前世の記憶が告げていた。それはまるで、前世で楽しんでいた成人向け作品のイラストをそのまま現実に引っ張り出してきたかのような光景ではないか。
(よ、妖魔陵辱END…だと…っ!!?)
こうして俺は気付いてしまった。この世界が成人向け作品の世界なのではないか…と。