成人向け世界にTS転生した俺はどうすれば生き残れますか!? 作:本田直之
凌辱されたとおぼしき女を見た夜。俺は両親にその場から引き離され、布団に寝かされた。何かしらの術を使われたのか直ぐに深い眠りに落ちた。でも、あの強烈な光景は中々忘れる事は出来ない。朝の食事を取っている時も、身支度をしている時も。あの時胸に湧き上がった感情は、本物のボテ腹凌辱を見たという興奮ではなく、恐怖と嫌悪。前世でそういうイラストを見た時はほとんど感じなかったものだ。
前世の世界は創作で溢れていた。それはアダルトな作品においても同様だった。漫画、ゲーム、小説、音声作品…様々な媒体で多種多様な性癖のニーズを満たすような作品が日々発売されていた。前世の俺もそういった作品は購入して楽しんでいた。作中のキャラ達が悲惨な末路を辿り人としての尊厳を踏み躙られても、嫌悪感をほとんど感じることはなかった。その理由は至極単純。それらの光景はフィクションであり、登場キャラは見ず知らずの他人であるからだ。その前提があるからこそ、前世の俺は悲惨な光景を見つつも興奮し己を慰めることができた。
しかし、それが現実の出来事であれば?その凌辱を受けるのが自分や見知った人物であれば?
当然ながら話は違う。創作では人気ジャンルな寝取られが現実では胸糞として語られるように。現実でそれらの当事者になる事は、相当の精神的苦痛を伴う。「そういう目に会いたい」と言い出すような頭のネジが飛んだ変態でもない限り受け入れられるものではない。そして、現状の俺はそんな末路を辿りうる立場にいるのだ。そうと分かればやるべき事も見えてくる。
「佳苗…家の書庫を見たいんだけど」
「……少々お待ち下さい」
俺が現実を認識してから最初にやったのは情報収集だ。家にある書物などの文献を読み漁り、テレビや新聞にかじりついて日々のニュースをチェックする。7歳の少女としては違和感を感じるような行動だが、この際外面は気にしていられない。これからの人?生に関わるのだから。目的はこの世界がどういう世界かを把握すること。情報は武器だ。どういう物事が起きうるのかを知れば今後の方針を決められる。もし前世で見ていた作品の世界なら、より具体的な対策が立てられる。
「ビンゴ……」
暫く続けると、アダルトな要素の片鱗が出るわ出るわ…
人間の雌を孕ませられる奇怪な生物。女性の連続失踪事件。違法流通する性的なアイテム。学校で起きた集団催眠騒動etc…
どこかで聞いた事があるような情報のオンパレード。これだけ出れば、この世界が成人向けの世界であるのはほぼ間違いない。ただ、前世で見てきた成人向け作品の中に該当するものは無かった。残念だが、手元にある情報と前世の成人向け作品の傾向から予測するしか無さそうだ。ある程度の情報を集まってきたので、次の段階に進むことにする。
「もう少し運動の負荷を上げられる?」
「イズナ様がそうしたいのであれば…」
まずは、自分の身体を鍛え上げる。以前なら音を上げていた運動に真面目に取り組む。成人向け作品の傾向であるが、か弱い女が力の強い男に強姦されるというシチュはよく見る。他にも、異能を封じられた女戦士がなすすべなく凌辱されたり、触手や怪物を振りほどけなかったり。性行為には肉体を使う以上、最終的にフィジカルが物を言うことは多々ある。仮に力で敵わなかったとしても、ある程度の抵抗や時間稼ぎが可能になる筈だ。
「はっ………はっ………」
近所の道路や山を駆け回り、筋力トレーニングにいそしむ日々。この前にぶつくさ言ってた俺の変わりように佳苗は面を食らっていたようだが、特に理由を聞いてくることは無かった。まぁ、はたから見たら例の光景を見たのが原因ということは言わなくても丸わかりか。今世の俺はやる気に満ち溢れている。
(触手ENDなんがクソ喰らえぇ…!!)
だって得体のしれない化け物の子供なんか産みたくないもの!
これが一般人ならここまではならない。要は身の回りの男を避ければ済む話。近所のクソガキ、怪しい老人、学校の先生、親戚のおじさん、恋人の親族、クラスメイト…いや結構多いな?というか催眠アプリとか持ち出されたら…いや、よっぽどの事がなければまず廃人になったり死んだりしないからまだマシだ。全然良くないけど。
だが、俺は狐巫女だ。これが神社の神様とかならほぼ純愛イチャラブになるから危険性は少ない。しかし、俺は妖魔と戦う退魔の巫女だ。そんなもん凌辱フラグ以外の何物でもない。退魔の巫女さんは強力な妖魔やら触手やらに犯されて雌堕ちするのがよくあるパターンだ。ただこれはまだ優しい方で、そのまま身体を改造されて異形を産むだけの苗床になんてこともありうる。最悪は腹を食い破られて死ぬなんてことも。到底許容できるものではない。
こうして考えてみると、成人向け作品の世界に生きる女性は常にとんでもない危険と隣り合わせなんだと思い知らされる。周囲にいる雄は年齢や立場に関係なく強姦魔となり得る。人間の雌を生殖に利用するような生態の動植物や魑魅魍魎の類が闇に蠢いている。一般人だろうが、英雄だろうが、亜人だろうが、上位種だろうが…たとえ神だとしても。一度身体を許してしまえば最後、多くの場合雌として敗北する。一部の性的強者の雌は終始主導権を握り雄を吸い殺すような芸当ができるが、こと妖魔と戦うような立場の女においては著しく勝率が低い。試すにしても相当に分の悪い賭けである。やはり、油断せず己を高めなければ。
「イズナ様、そろそろ日が暮れます。これ以上は…」
「…えっ」
色々と考えていると、佳苗からストップがかかっていた。周囲を見れば太陽は地平線のすぐそばまで落ちてきており、空は鮮やかな橙色に染まっている。ついさっきまで昼だった気もするのだが…余程集中していたのか。持ち込んだ水筒は空っぽになり、汗をかいた肌に体操服がへばりついていた。流石にこれは切り上げるタイミングだろう。
「分かったよ、すぐ戻る」
それを聞いた佳苗がこころなしかほっとした表情をした。どうやら心配をかけたらしい。今の家族と関係がぎくしゃくするのは本望ではないし、やり過ぎは身体に負担をかける。うん、次からは少し自重することにしよう。家に向かう彼女の背中を追いながら反省した。
~~~~~~~~~~
人が寝静まった深夜、伏見の本家の一室に光が灯っていた。そこは当主の私室。蝋燭の炎がぼんやりと照らす部屋に3人の男女がいた。イズナのお目付け役である佳苗とイズナの両親である。正座している佳苗が表を上げると、伏見の当主である父_宗旦(そうたん)が口を開く。
「イズナの鍛錬はどうだ佳苗」
「順調でございます。イズナ様も熱心に取り組まれていますので、一族の同年代の子らと比べてもかなり進んでいるかと…ただ…」
「…気がかりなことがあるのですね?」
途中で言葉に詰まる佳苗にイズナの母である日和(ひより)が助け舟を出した。
「…はい…今のイズナ様の熱心さに、強迫観念のようなものを感じるのです」
「では、やはり…」
思い出されるのは先日の件。イズナは凌辱される一族の巫女をその目で見てしまった。そして、翌日からそれまで乗り気ではなかった鍛錬を真剣にやりだしたのだ。これを偶然で片づけるのは無理がある。同年代の子供の中でもとりわけ素直で大人びている彼女が、あの光景から脅威を感じ取ってしまったというのが3人の最終的な見解になった。まだ幼い少女に過酷な現実を見せてしまったのは、あの場に大人の不手際でもある。過失は大きくないものの、3人は責任を感じていた。
「なんにせよ、これはいい機会なのかもしれんな…」
終始眉間に皺を寄せて話を聞いていた宗旦がつぶやいた。自然と女性二人の視線がそちらに向く。大黒柱である男は、一呼吸おいてから方針を告げた。
「イズナに相伝の稽古をつける」
「よろしいのですか!?慣例では10歳からの…!」
「分かっている。だが、やる気に満ち溢れている今の内に進めたいのだ…イズナの将来の為にもな」
「あなた…」
その日の夜、伏見家において一つの決定がなされた。イズナはまだ、それを知らない。