彗星と悪魔に見出された彫金師はホロにじのメンバーを兼任するようです 作:んな~~~~~
東京都内某所。
工場がひしめく中で、一人の青年がペットボトルに入った水を飲んでいた。
──────…っぷは
青年がアルバイトをしている工房からは、真昼間だと言うのに明かりが見えない。
正確には明かりはついているのだが、遮光ガラスによって見えにくくなっているのだ。
青年はイヤホンを自分の耳に差し、体育座りで耳を澄ます。
────── 〜♪
流れてくる歌を口ずさみ、音に合わせて指を地面に叩く。
「休憩終わりだぞ〜」
後ろの扉が開き、青年の上司が顔を出した。
──────…あ、親方、もう休憩終わりですか?
気配を感じて振り向き、要件を先読みする
「もうとはなんだもうとは。今忙しいんだから休んでる暇があったら働け」
──────はーい
耳に差したイヤホンを外し、自身の仕事場である工房に戻っていった。
「…アルバイト限定じゃなかったら絶対に雇うんだけどな、アイツ」
「お疲れ。これは今日の分の給金だ」
──────ありがとうございます
夕方、「
「本当にウチで社員として働く気はないのか?」
──────はい、いつ迷惑かけるかわからないので
「俺たちとしては、お前がいてくれると大助かりなんだがなぁ?」
親方の大声に工房にいる男たちが、そうだそうだ! 働け! 給料上げろぉ! と叫ぶ。
──────あはは、今はこれで十分に生活していけているので
親方の再三の勧誘を受け流し、槭は工房を出た。向かう先は銀行。もらったお金をすぐに銀行に振り込む。
ここまでが彼の日課であり、ここから先は基本自由に行動している。
──────さて、今日はどうしようかな
俺こと天星槭は悩んでいた。
──────もやしが一袋18円…だと?
たまたま通りかかったスーパーでもやしの特売を行っていたのだ。
(どうする…? 残念だが今の手持ちは0円。一旦銀行に戻って引き出すか? いや、その間にもやしがなくなっているかもしれない)
悩んでいたが、ふともやしの性質を思い出した。
──────そういえばもやしって冷蔵庫に入れてもすぐにダメになるんだった
そそくさと俺はスーパーを後にする。
──────少し早いけど、
もうこれ以上やることもないので、一度家に帰っていつもの場所に向かうことにした。
──────まだ人いるなぁ…
俺が向かったのはある公園の広場に設置されたストリートピアノ。
ここでは自由にピアノを弾くことが可能で、俺はちょっとした小遣い稼ぎに曲を弾いている。
時刻は午後9時ごろ。まだ人も多く、しばらく待っていようと思っていると、
「天星さん! 早いですね!」
ピアノの周囲にいた一人の高校生くらいの子が近づいてきた。
後ろからゾロゾロと同じくらいの歳の子が集まってくる。
──────仕事が早く終わってね。君たちは…部活帰りかい? 補導されるよ?
「いいじゃないですか。みんな天星さんの歌を聞きに来たんですよ」
──────そうなの?
男子生徒の後ろにいる子たちに聞くと、うんうんとうなずきが返ってきた。
──────とりあえず、あの列が終わったら弾くから
「わかりました!」
しばらくして、夜も遅くなり弾こうとする人がいなくなる。その代わりに近くの商店街のおじさんおばさんたちが集まってきた。
「兄ちゃん、弾くのかい?」
最近知り合ったおじさんが話しかけてきた。
──────はい。あ、リクエストは待ってください。結構前から待ってくれている子たちがいるので
ピアノに座って先ほどの子たちにリクエストがあるか聞く。
座っていた一人から「六兆年と一夜物語」をリクエストされたので弾くことにした。
名もない時代の集落の 名もない幼い少年の
誰も知らないおとぎばなし
産まれついた時から 忌み子 鬼の子として
その身に余る 罰を受けた
悲しいことは何も無いけど 夕焼け小焼け 手を引かれてさ
知らない知らない 僕は何も知らない
叱られた後のやさしさも 雨上がりの手の温もりも
でも本当は本当は本当は本当に寒いんだ
死なない死なない 僕は何で死なない?
夢のひとつも見れないくせに
誰も知らないおとぎばなしは
夕焼けの中に吸い込まれて消えてった
俺の声が閑散とした公園に響く。
「すっげ…」
──────そう? ならよかった
「あの、これ! リクエスト料です!」
そういってリクエストしてくれた子から1000円が差し出される。
──────え、そんな、俺が搾取するのは大人だけだよ
「いえ! もらってください! 感動しました!」
──────あ、そう、じゃあ、いただきます
1000円をいただき、高校生たちは帰っていった。
「兄ちゃん、次は「KING」頼むよ」
このおじさん、年齢の割にボカロとかをよく知っていてリクエストしてくれている。
──────わかりました
「えーっと、たしか、ここの公園だよね?」
私は星詠みの人から聞いた公園に足を進める。
「ここでやってるって聞いたんだけど」
雑談配信で「めちゃくちゃ歌が上手い人がいる」と聞いて来てみたのだ。
「あの人だかりがそうかな?」
公園の広場の中央で8人くらいが集まっている。そこから微かにピアノの音と歌声が聞こえてきた。
「行ってみよっと」
しばらくリクエストを受けて十分お金も貯まったので、そろそろ切り上げて帰ろうと思っていたとき。
「すみません。リクエスト、いいですか?」
──────え? は、はい
返答に詰まったのは声をかけてきた女性があまりにも綺麗だったのと、どこかで見たことのあるような顔だちをしていたからだ。
彼女は少し濃いアクアの色というのだろうか、の髪を揺らしながら、リクエストを口にした。
「君の一番好きな曲を歌ってくれないかな?」
──────俺の…ですか? わかりました
俺の好きな曲。それはもうこの曲しかない。
──────じゃあ、「天球、彗星は夜を跨いで」を歌わせてもらいます
「え?」
両手を鍵盤に翳し、前奏部分を弾き始める。
灯りがひとつ灯った 灯った
天を彩った鋲が綺麗だ
僕の吐いた白い息のように、
消してしまえたらな
押し殺して深く沈んだ
泣き声さえ、聞こえているから
君を刺した不安も苦痛も、
僕の青色で 塗り潰して
全部涙になって
星の海を流れていった
果てしない闇の中に
そっと青を添えたら ほら
彗星が僕の頭上を飛んだ
誰もいない夜の空を染めた
深く寝静まった街の中へ
降り注ぐのは誰の悲しみだろう?
星はまた弧を描いて飛んだ
もやのかかった思考を晴らして
「いつかまた会える」なんて言えなかった
星が降ったあとの街、僕はまだ
黒く澄んだがらんどうの空を
箒星が彩るように
君を刺した不安も苦痛も、
僕の青色で 塗りつぶして
君の涙をそっと、
星の海に流しこむんだ
尾を引いたその光が、
誰かをまた救うから
彗星が僕を選ぶのなら
この空を全部君にあげる
言えなかった言葉の尾を引いて
降り注ぐのは誰の悲しみだろう?
星はまた弧を描いて飛んだ
街の視線を奪い去るように
君とまた会えるなら僕は、そうだ
星の名前をひとつ受け止めよう
悲しみがあふれそうになること
天球で離ればなれでも
僕らは繋がっているから
彗星が僕の頭上を飛んだ
誰もいない夜の空を染めた
深く寝静まった街の中へ
降り注ぐのは誰の悲しみだろう?
星はまた弧を描いて飛んだ
もやのかかった思考を晴らして
「いつかまた会える」なんて言えなかった
星が降った後の街、僕はもうずっと
君の行方を 探してた
「…すごい」
歌い終わった後、そんなつぶやきが聞こえた。
──────そうですか? ありがとうございます
「なんで君はこの曲を選んだの?」
帰る準備を進めている間に、その子がそんなことを聞いてきた。
──────一番好きだからですよ? 貴女がリクエストしたんじゃないですか
「ああ、質問の仕方を変えるね。なんでこの曲が好きになったの?」
──────え? えーっと、なんていうか…
俺は少し言い淀んでから、
──────この曲、俺の好きなVtuberさんが歌ってたんです。それで、その曲に救われたんですよ。あ、比喩とかではないですよ?
「…そうなんだ」
──────あ、貴女ももう帰ったほうがいいですよ。そんなかわいい顔なら襲われても文句言えませんし
「か、かわっ///!?」
──────じゃあ、俺はこれで
俺は彼女に一礼して、家路についた。
「あー、びっくりしたー」
私は家に帰りながらまだ耳に残っている今日の彼の歌声を思い出す。
「きれいな声だったなー」
才能だけじゃなくて、ちゃんと練習に練習を重ねた声だった。
「それにしても、私の歌を歌うとはね」
知らなかったとはいえ、本人の歌を目の前で歌うのはなかなかすごいことだ。
『そんなかわいい顔なら襲われても文句言えませんし』
「――ッ!?」
脳内で彼の声がリフレインして、思わず顔が熱くなってしまう。
「ダメダメ…すいちゃんには好きな人がいるんだから」
この想いだけは10年以上経っても色褪せることはない。
「ていうか、星詠みのみんなにはガチ恋禁止してて自分は恋してるってねぇ…」
少し卑怯だとは思うが、これも彼のため。
「そういえばYAGOOが男性のホロメンを募集してるって言ってたっけ」
彼を推薦してみようか。結構顔も良いし、歌も私並みに上手いし。私を恥ずかしがらせた仕返しに。
「そういえば、名前聞くの忘れちゃったな」
少し長めの濡羽色の髪に、淡い紅色の瞳。
「そう言えば彼に似てるな…」
昔、再会を約束した幼馴染の顔を思い浮かべながら私、星街すいせいは自宅にむけて歩みを進めるのだった。
翌日、仕事を終えた俺はまたピアノを弾きに来たのだが…
「もみじぃ〜、気持ち悪い〜…」
──────飲み過ぎですよ、でびさん
「だって〜、わらわが飲ませてきたんだ〜」
──────嘘をつくんじゃありません。配信見てましたからね
「水くれ」
──────はい、どうぞ
「ありがと」ごくごく
この悪魔、にじさんじ所属のでびでび・でびるさんで、酒飲み配信の後ここの公園でなんか酔いつぶれているのを発見し介抱したところ、事あるごとにやってきてはお金を落としてくれる常連の観客サイフである。
──────早く帰ってきた方がいいんじゃないですか?
「転移門げーと繋いだらすぐ帰れるし、大丈夫。そんなことより」
でびさんがじっと俺を見据えた。
「いつになったらにじさんじに入ってくれるんだ?」
──────そんなこともありましたね
初めてでびさんが来た時、
「おいおまえ! にじさんじにはいったらどうだ!? いや、はいれ!」
と言われた。
──────俺なんかが居ても、あんまりおもしろくないんじゃないですか?
「そんなことないぞ! お金だっていっぱい入るし、ファンの人だって応援してくれるぞ!」
──────でも、仕事が多いから……
「とりあえず応募してみろ! もみじならぜったい合格できるからさ! なんならぼくがすいせんするから」
──────そうですか……そこまで言うなら……
やってみても、いいかもしれない。
──────Vtuber。今度応募してみます
「やくそくだぞ!」
数日後、株式会社えにからと、株式会社カバーから、同時に書類が届いた。
──────……どうすんべ、これ