Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

1 / 107
ハッピーニューイヤー!ライダー!Z・Z・Z・ゼッツ!

という訳で、今回は短編集から現時点での時系列基準で抜粋した小話を幾つかお送りいたします。
それでは、どうぞ!


年末記念:2026・メモリアルアンソロジー

●残念ウサギは良妻に?

 

シア「はい、出来ましたよ~。ハジメさん、ユエさん!」

実に食欲をそそる香りをほくほくと漂わせる鍋を、お手製ミトンで持って運びながら俺達を呼ぶシア。

今日の野営当番は彼女だ。その度に、俺もユエも料理を楽しみにしていた。

 

ハジメ「おぉ、今日はポトフっぽいな。」

ユエ「……ん。美味いしそう。」

そして今日の夕食にありつくと、そのあまりの美味しさに、あっという間に皿が空になった。

 

シアの料理は、一流の料理店のような洗練された味ではないが、体に染み渡るような温かさと優しさがある。

まさに、家庭料理の極み。あるいはお袋さんの味。何故だか懐かしさを感じさせるものがあった。

ちなみに昨日は煮込みハンバーグ、一昨日は唐揚げのあんかけ、その前は角煮の肉まんだった。

いずれも思わず唸ってしまうほど絶品だった。

 

ハジメ「ふぅ~……美味しかったよ、シア。御馳走さま!」

ユエ「……ん。美味でした。ごちそうさま。」

シア「おそまつさまですぅ~♪」

称賛を受けたシアは、ご機嫌にウサミミ&ウサシッポをふ~りふりしながら、鼻歌交じりにささっと後片付けを始めた。

 

更に、洗い物で余った水を使って、今度は汚れ物の洗濯を始めた。

樹海の柔らかな木の皮を使った洗濯ブラシと、粉末にした植物の洗剤で手際よく洗い、水切りをし、パッパッと皺を伸ばして焚き火の傍に干す。

 

更には、使えなくなった服の布を取り出し、的確に裁断して雑巾に生まれ変わらせると、今度は裁縫セットを手に、破れたりほつれたりしている衣服をチクチク、サクサクと修復していく。

その間も、「ふんふふ~ん♪」と可愛いらしい鼻歌は続いていて、ウサミミとウサシッポもリズムを取っている。

 

ハジメ「シアって、凄い家庭的だよね~。これもお母さん譲りかな?」

ユエ「……ん、私よりよっぽど上手。」

ちょっと悔しそうなユエ。

まぁ、前に魔法で作った水球に洗濯物を放り込んだり、風の魔法で掃除したりと横着しようとしてたからねぇ……。

シアからも注意と呆れを頂戴したし。

 

シア「?ハジメさん?ユエさん?どうかしましたか?」

ハジメ「いやぁ、シアって家庭的だねって話をしてた。」

シア「そうですかぁ?えへへ~……。」

しかも、話し中にもかかわらず、手だけはしっかりと動かしつつ、衣服についた戦闘の痕跡を綺麗に消している。

手慣れているなぁ……。

 


 

●恐怖のネコミミ怪談

 

ユエ「……にゃぁ。」

ハジメ「こ、これは……!」

シア「あざとい!流石ユエさん、あざといですぅ!でも、可愛い!!」

ある日、シアのウサ耳に嫉妬したのか、ユエがネコミミ尻尾をつけてきた。正直言おう……可愛い!!!

しかも作り物なのに、耳も尻尾もまるで本物の様に動いている上、四つん這いの状態はさながら甘えてくる猫。

猫手で誘惑するその姿は、並の男であれば理性など一瞬で消え去るだろう。

 

ユエ「……にゃん。」

すると今度は、ごろりと仰向けに転がり、服従のポーズをとるが如く、お腹を見せてきた。

これは……動画にして保存せねば!いや、先ずは写真か!?そう思って、ユエの頭を撫でた時だった。

 

ハジメ「……ん?」

シア「ど、どうしました?ハジメさん?」

……あ、あれ?

 

ハジメ「えっと……ユエさんや、これ、露店で売ってたやつだよね?そうだよね?」

ユエ「……ん、でも本物はなかった。」

……聞きたくなかった、でもさっき触れたネコミミは生暖かった……つまり、そういうことかよぉぉぉ!?

 

シア「さ、サイコですぅ!」

ハジメ「ユエ、変成魔法獲得まで、それ禁止で。」

ユエ「え?」

ガタガタと震えて涙目になるシアを撫でながら、俺はユエに厳重注意をするのであった。

 


 

●シアのお料理説教

 

たおやかな指が、そっと赤い実を撫でた。

途端、卵のような形をしていたその実は一瞬で幾重にも輪切りにされ、更に四方八方からそよぐ風に嬲られて細切れにされていく。

赤い実は果実などとは異なり、中身はほとんど空洞のようで果肉や汁が飛び散るということもなく、逃げ道を塞ぐように渦巻く小さな風の檻に阻まれて、最終的には粉末状にまで粉砕されてしまった。

 

赤い実の成れの果てを見て満足そうに頷いた美貌の少女――

ユエは、その赤い粉末をそっと掌の上に集めて、いそいそと、あるいはこそこそと歩き出すと、グツグツと煮える鍋の前に陣取った。

そして、「おいしくな~れ♡」と言っているかのように口元に笑みを浮かべながら、その粉末を鍋に投入しようとして……

 

シア「……何をしているんですか、ユエさん。」

ユエ「!?」

横から伸びてきた手にガシッと摑まれてしまった。

ビクンッと体を震わせたユエは、恐る恐る自分の腕を摑む手の主を見上げる。

 

ユエ「……シ、シア?」

シア「はい、私です。

ユエさんの度重なる"おりじなりてぃ~"という名の暴挙に、いい加減、堪忍袋の緒が切れそうなシアです。」

一行の素敵なお嫁さん――シアの、珍しくも額に青筋を浮かべた表情に、ユエは「うっ……。」と言葉に詰まった。

そして、視線を激しく泳がせながら釈明を始める。

 

ユエ「……ぼ、暴挙は言い過ぎ。私の予想では、これでより美味しいお料理に――」

シア「そう言って、今まで何度、私の料理を台無しにしてくれたんですか!

お料理初心者のオリジナル料理ほど危険なものはないんですよ!ハジメさんにも言われたでしょう!」

その言葉通り、元お姫様故、料理経験のないユエは、実は家事万能ウサギであるシアからちょくちょく料理を習っているのだが、毎回、シアの作った料理に"おりじなりてぃ~"を加えて最終的にダメにする常習犯だった。

 

尚、奈落にいた時は食料も限られていたので、ハジメさんが食材の選定や仕込みも含め、ササッと作っていた。

そのお手伝いしようとしたユエが任されたのは、煮る、焼く、切る、盛り付けるといっただけの簡単な作業であった。

 

シアも最初は、ハジメに対するユエの想いや、なんとか自分印のお料理を出したいという乙女心を理解して苦笑いで済ませていたが、その頻度の多さと、基本をすっとばして応用にばかり走ろうとする所業に、最近はキレネn――もといキレウサギになりつつあった。

ウサミミはウサーッと毛を逆立てて怒りをあらわにしている。

 

ユエ「……でも、今回は自信がある。これを入れれば更にハジメ好みの味になるはず。」

シア「"はず"っじゃないですよぉ。どう考えても美味しくなるわけないじゃないですか!

それ、"悪魔の実"ですよね!?一摘みだけでも味覚破壊を起こしかねない、要下処理の危険素材ですよ!

分かってます!?」

尚、それを購入したのはハジメさんである。理由は「名前が面白かった、それに罠とかに使えそう」とのこと。

 

ユエ「……でも、食べるのはハジメだし。ハジメは辛いお料理も好きだし……。

魔物を食べても平気なくらいだから、これくらい刺激的な方が喜ぶはず。」

シア「だ・か・らぁっ、人に食べさせる料理に"はず"で適当に食材ぶっ込むなって言ってんでしょうが!」

因みにもしハジメさんが悪魔の実を使うとしたら、真っ先に麻婆豆腐にしていたらしい……。

 

うがーーっと叫ぶシアは、その人外の膂力を以てユエの手を強引に開けさせ、そのまま超激辛調味料"悪魔の実"を調味料袋の一つにペイッさせようとした。

しかし、ユエはイヤイヤッをしながらギュッと手を握り締めて抵抗する。

 

シアのウサミミが「ええいっ、離さんか~いっ」とユエの頰をぐりぐりと押す。

しばらくの間「う~っ」と踏ん張っていたユエだが、流石さすがに身体能力チートのバグウサギに膂力で勝てるはずもなく、ペイッさせられてしまった。

 

……ただし、勢い余ってシアの顔面に。

 

シア「ぬわっ。噂に違わない強烈な刺激!?目がっ、鼻がっーーー!!」

両手で顔を覆いながら、シアは激しく地面をのた打ち回る。

悲鳴を上げ、エビ反り状態でびったんびったんっと跳ね回っている姿を見て、流石のユエもオロオロし始めた。

 

"悪魔の実"はきちんとした道具と方法で処理をしなければ、普通は触れただけで皮膚が大変なことになってしまうのだが、ユエは"自動再生"を持っているので直接握っていても大した影響などなく、そこまでの劇物という認識はなかったのだ。

 

ただ、きちんと処理をした"悪魔の実"は、辛さの中に悪魔的な旨みがあると評判なので、そこだけを意識していた。

だからこのような事態になるとは思わず――

 

シャンッ!

 

シア「……って、あれ?」

ユエ「……ん?」

と、その時。

先程までのたうち回っていたはずのシアは、何故かユエの前に平然と立っており、ユエの手にも"悪魔の実"が握られたままになっていた。

 

ハジメ「2人とも……特にユエ、時間逆行をこんな形で使わせないでくれ。」

そう言って何とも言えない微妙な表情で、2人のやり取りを見ていたハジメがやってきた。

実はさっき、シアの顔がそれはもう大変なことになっていた光景*1を予知し、慌てて時間を戻したのだ。

 

ユエ「……ん、ごめんなさい。」

シア「あぁ、ハジメさんが大惨事になる前に時間を戻してくれたんですね、ありがとうございます!

……で、それはそれとして――」

2人は謝罪と感謝をそれぞれ告げた後、シアはユエに向き直り、その小さな両肩をガッと力強く掴む。

 

ユエ「え、えぇっと~……シア、さん?」

シア「何ですかぁ、ユエさん?」ゴゴゴゴゴゴ

ユエ「……ごめんなさい。」

思わず土下座の体勢に入るユエ。だって、表面では笑顔を浮かべているけれど、目が全く笑っていないもの!

 

シア「食べ物は粗末にしてはいけません。料理の基本は大事なので守ってください。いいですね?」

ユエ「はいっ!絶対に守ります!」(コクコクッ)

得体の知れない圧を放ちながら、こんこんと説教をするシアに冷や汗を流しながら、ユエは高速頷きで必死に頷いた。

ハジメはその様子を少し離れた場所で、お茶を飲みながら見ているのであった。

 


 

●進化するフィジカルラビット

 

【ブルックの町】から【中立商業都市フューレン】までの道中。

隊商の護衛をしていた俺達は、あぜ道の脇で小休憩をしていた。進路は東から西だ。

周囲は青々とした雑草が我が物顔で大地を占領しており、そよ風で小さな葉擦れの音を響かせている。

 

来た道と行く道の先は、人の往来で自然とできた道がのたうつ蛇のように伸びており、北に視線を向ければ、地平の彼方にうっすらと山脈地帯が見え、南側は、本来なら【ライセン大峡谷】が見えるはずなのだが、今は小高い丘が連なっていて見通しが悪く、その壮大な景色を見ることはできなかった。

 

シア「はっ、ていっ、ちょあっ、せぇい!」

冒険者や商人達が、飲み物を飲んだり煙草を吹かしたりしながら思い思いに寛ぐ中、シアは俺が教えた体術の練習をしていた。

まぁ、衣装が衣装なだけに奇妙な踊りに見えているだろう。

 

「やるじゃねぇかシアちゃん!見惚れるぜ!」

「シアちゃん、頑張れ!もっとやれ!」

「そうだシアちゃん!ほらもっと飛び跳ねて!もっと力強く!」

「頑張れ、頑張れ!できる、できる!胸を張って、胸を張って!堂々と!」

「足の角度が足りないよ!もっと上げて!さぁ、もっと上げて!もっとだっ!」

とはいえ、視線が胸や脚ばかりに目が行っているのは、流石に見過ごせないなぁ……。

 

ハジメ「そういえば俺も、久々に金的の練習台が欲しかったんだよねぇ……。」ボソッ

そう呟いた瞬間、男共は一瞬にして静かになり、女性冒険者や従業員さん達から絶対零度の視線を頂戴するのであった。

 

ユエ「……無自覚なエロウサギ、恐ろしい子っ!」

ハジメ「それはツッコんでほしいのかね、ユエ。君も人のこと言えないと思うんだが?」

後、なんで一昔前の少女漫画にあるタッチの表情で、驚愕しているんだ。どこで覚えている?

そんな感じで数十分過ごしていた時だった。

 

ハジメ「……む、団体さんか。シア、早速体術でやっておしまい。」

シア「はいですぅ!ご褒美、期待しています!」

どうやら敵襲の様だ。折角なので、ここはシアに任せることにした。

そしてその直後、丘の向こう側に姿を見せた30人程の集団が、雄叫びを上げながら駆け下りてきた。

商人達が慌てたように馬車に引っ込み、冒険者達がそれぞれの武器を構えて迎撃態勢を取る。

 

それよりも早く、シアは彼等の前に躍り出ると、駆けてくる賊達に向き直り、不敵に笑いながら拳をゴンッと打ち合わせる。

その結果、凄まじい衝撃波が発生し。轟ッと風が唸り、敵が武者震いし始めた。

 

賊1「てめぇらっ。あの白髪の兎人族には傷をつけんじゃねぇぞぉ!あれは俺が飼って――」

シア「シャオラァアアアアアアッ、ですぅ!」

下卑た言葉を言い終える前に、山賊の頭目らしき男はシアにぶっ飛ばされてお陀仏になった。

芸術的な高速スピンを添えて。

 

そのあまりの威力に、賊達は戦慄の表情を浮かべながらも、一斉に武器を構えなおす。

だが、シアは慌てることなく、両手を顔の横辺りに掲げ、片足を軽く前に出す。

そして、雄叫びを上げながら剣を振りかぶってきた賊目掛けて、強烈な前蹴りを放つ。

 

ズドンッ!

 

賊2「ごほっ!?」

砲撃じみた衝撃音が轟き、賊は一撃で白目をむく。そこへ更に、シアが鋭い踏み込みと共に左フックで追撃!

顎を粉砕された賊はノックダウンだぁーッ!

他の賊も、コンパクトな蹴り、ジャブ、フック、ストレートパンチであっという間にノックアウトォーッ!

その構えは正に、ムエタイだぁーッ!

 

賊3「こ、この化け物めっ」

シア「ふっはっはッ、ですぅ!」

おっとぉ、賊2匹が罵りながら挟撃を仕掛けてくるぞ。

しかし、シア選手!その場で体を揺らして側宙!長い美脚で首をへし折ったぁッ!

 

着地の瞬間を狙った槍も、回転して身を屈めて躱す!そしてカウンターの回し蹴り!首を捻じった見せたぁーッ!

リズミカルで、ダンスでも踊っているかのような動きでありながら、繰り出される蹴り技は致命傷級。

これは……カポエイラだぁーッ!

 

賊4「も、求めるは、焼――」

シア「させんっ、ですぅ!」

さぁ、シア選手の快進撃はまだまだ止まらない!魔法を使おうとした相手に、一っ飛びで急接近!

そのまま勢いよく踏み込んで、肘打ち!賊は血反吐を掃きながら吹っ飛んだぁッ!

しかし、シア選手はそれに目もくれず、残りの敵へと頂肘・掌打・拳打を次々に決めていく!

その上なんと、震脚を多用した一撃必殺の攻撃!まさしく、八極拳の動きです!

 

賊5「ち、ちくしょうぉおおおっ」

シア「だらっしゃぁあああっ、ですぅ!」

おぉっ!とうとう賊が自棄になって突貫しました!ですが、そこは既にシア選手のキルゾーン!

あっという間にラリアットで首をへし折られたぁーッ!だがシア選手、それでも止まらない!

飛び道具(弓)を使おうとした賊へ、ジャンピングニーパットォーッ!隣の相手にもバックドロップゥーッ!

これぞ、格闘技の花型!豪快かつ強烈な技のオリンピック!プロレスだぁーッ!

 

その後も空手の正拳突きで賊をマーライオンにし、ボクシングのデンプシーロールで顔面を大仏様の頭の様にしては、柔道の逆一本背負いから砕けた腕ジャイアントスイングで絶叫を響かせ、トドメに俺のバイブルから抜き出したとっておきの殺人技"五所蹂躙絡み"またの名をキン肉バスター*2を決め、フィニッシュ!

 

シア「うりぃいいいいいいいいいいっ、ですぅ!!」

圧倒的勝利を収めたシア選手、屍の山に立ち、見事なガッツポーズ!

実況&解説は私、南のイチでお送りいたしました!

 

ユエ「……シア、恐ろしい子ッ!!」

ハジメ「中々にセンスがあるな、ふむ……今度は北斗神拳でも教えてみるか?」

その後、冒険者や商人達たちのシアに対する呼び名が「シアちゃん」から「シアさん」に変わった。

 


 

●竜と兎のガッチャーンコ!?

 

シア「では、いきますよ!」

ティオ「うむ、いつでもよいぞ!」

フューレン支部に帰るまでの日の事、シアとティオが模擬戦を繰り広げていた。

尚、観客は俺とユエ、それとウィルにトシの4人だ。先生達はまだ復興で忙しいみたいだしな。

 

シア「せりゃ!」

先攻のシアが地面を爆ぜさせる勢いで踏み込み、正面で半身に構えるティオへと急迫した。

ティオ「ぬぐっ。なんという重さじゃ!」

可愛いらしくも裂帛の気合いと共に放たれたシアのタックルを、ティオは正面から受け止めつつも思わず呻き声を上げた。

 

本気ではないとはいえ、シアのタックルを受け止めるとは……ティオも中々やるな。

とはいえ、流石に勢いまでは殺しきれなかったようで、地面に溝を作りつつ一気に後方へ押し込まれている。

だが、そこから更に、シアは密着状態から拳をティオの脇腹に当て、踏み込みと共に足元から練り上げたエネルギーを拳から0距離でぶっ放した。

 

ティオ「あふんっ!おふぅっ!あぁんっ!」

どうにか距離を取ろうと後退したティオに、シアは更に肘打ちを放つと、体をくの字に折ったティオへ、今度は掌底で顎を突き上げ、軽く宙に浮いてしまって死に体となったティオの腹部へ、流れるような動きで震脚と共に双打掌を放つ。

 

一連の型のラストアタックに相応しい威力を持った衝撃により、ティオは勢いよく吹き飛んだ。

しかし、ズザザザッと地面を滑りながらも、2本の足でしっかり立ち、見事に耐えきっていた。

……何故だろう、喜悦の声が聞こえるのは気のせいだろうか?

 

ティオ「くっ……す、凄まじい連撃じゃ……。

防御のし辛い奇妙な動きに、妾の防御力を抜いて内へと衝撃を伝える特殊な打ち方。見事じゃ。」

シア「……結構、余裕ありそうですね。打てば打つほど嬉しそうなのは気のせいでしょうか?」

ティオ「……気のせいじゃ。さぁ、ばっちこい!妾が全て受け止めてみせようぞ!」

シア「いや、今の間は何ですか!?」

……本当に大丈夫だろうか?

 

シア「やっぱりティオさんの防御力を突破するにはドリュッケンが必要ですかね……。

でも、素手のみだってやりようはありますぅ!」

するとシアは、今度は愚直に突進し、勢いのまま、ティオの足元に掬い上げるようなタックルをかます。

そのレスリングのようなアタックに、ティオは為す術なく地面へ押し倒された。

シアは、ティオに立ち上がらせる暇を与えず、腕を取って十字固めに移行しようとした。*3

 

ティオ「関節技かっ。先程の技といい素晴らしい近接技じゃな!

じゃが、それだけで押さえられるほど竜人は甘くはないぞ!」

ティオが背中をしならせ凄まじい勢いで跳ね上がった。その衝撃で僅かに拘束が緩み、ティオが反撃に出る。

シアが立ち上がる前に飛びついて、背後からシアを拘束し返したのだ。*4

……何故かとは言わないが、シアの口から「んふぅ!」と少し艶めかしい声が漏れ出した。

 

シア「なんの!その程度で!」

ティオ「ふわっ。そこは摑むでない!ぐりってしちゃダメじゃ!ええい、お返しじゃ!」

シア「ひゃぁあん!?ちょっ、どこを締め上げてるんですか!?こなくそぉ!」

ティオ「あひぃ!?脱げるぅ、脱げちゃうのじゃ!ご主人様の前で恥ずかしい格好になっちゃうのじゃ!

こやつめっ!」

シア「そ、そこは触っちゃダメぇ。触っていいのはハジメさんだけですぅうううっ!」

 

むっちりした美女美少女が、激しい運動で汗を搔き、喘ぐような声を上げて、互いに立ち上がることもなく関節技をかけようとしてくんずほぐれつ……

これ、絵面的に大丈夫か?アルファベット指定入らない?

 

ウィル「ハジメ殿。このウィル・クデタ。生き残った意味があったと、強く実感しています!」

ハジメ「……それ以上余計なこと言うと、マジで去勢するぞ?」

幸利「目のやり場に凄まじく困るなぁ……。」(目隠し)

取り敢えずウィルの記憶は後で消しておこう。だからユエ、その能面みたいな無表情止めれ。

 


 

●その食材は何なのか

 

シア「ふんふんふ~ん♪切るぜ切るぜぇ、めったぎりぃ~♪」

『ギョォオエェエエエェエエ!?』

街道沿いの泉の傍にて、極めて物騒な内容の歌と断末魔の絶叫が響き渡る。

その機嫌の良さが窺える陽気な音調で歌う声の主――シアは、悲鳴を上げているまな板の上の魚……

否、正体不明の"何か"を捌いていた。

 

一応、胴体は魚だで体長1mはある。

何故か、頭部が牛っぽく*5、胴体からは百足の様に生えているが……まぁ、別に良いか!

因みにこの魚?は、シアがウサ耳で感じた反応に向けて、小石を指弾して泉に打ち込んだら、打ち上げられた。

なんでも、森の珍味だとか。

 

シア「あなたは~、森の泉に棲すむ妖精さぁん!とっても美味しい妖精さぁん!どうして、ここにいるの~。

どうでもいいよねぇ~。だって美味しいから~♪」

血走った目をギョロギョロと動かし、ますます激しくムカデの足をワシャワシャ動かす"森の妖精?さん"。

そしてそれを、お昼にちょうどいいと上機嫌で調理するシア。

包丁で鱗を剝ぎ取っていく度に、何故か無理やり皮を剝ぎ取られた動物みたいに、苦悶の声が木霊するのは気のせいだろう。

珍味だし、血が流れても不思議ではないからな。

 

幸利(いやいや、現実逃避するなよ!?あれ、どうみても絵面がヤバいだろ!)

ハジメ(?妖精なんてメルヘン一択じゃないし、ああいうのもありだろう?)

幸利(違う、そこじゃない!?え、なに!?この世界の妖精はあんな感じなのか!?)

ユエ(……昔読んだ御伽話に出て来たのは、羽の生えた小さな少女。概ね、どんなお話でも同じ。

断じて、あんな奇怪な生き物じゃない。)

ティオ(というかじゃな、美味しい妖精と言っとる時点で、妾的にはちょっと怖いのじゃが。)

 

?まぁ、マンドラゴラみたいなもんだと思えばいいだろう。

なんでか、ユエは引き攣った顔で否定の言葉を口にし、ティオもそれに同意しているが……今更だろう。

この前の海老天擬きや蟹の天ぷらも、ムカデやタランチュラっぽい魔物を使ってたし。

 

シア「抉り取って~、叩き潰して~、飛び散っちゃえ~♪」

そんなことにも構わず、シアは躊躇なくダンッと分厚い肉切り包丁を振り下ろし、「ギィヤァアアアアッ!?」と聞くに堪えない悲鳴を上げる"何か"を膂力で押さえつけながら、満面の笑みを浮かべている。

 

シア「頭が取れても~わしゃわしゃするの~♪」

『ニギョォゲェエエエエッ!?』

シア「すりおろしても~びくんびくん~♪元気ね~♪」

『アギョォオオオオオオッ!?』

シア「あなたはいつも~悲鳴をあげて~る~。素敵な声~、それは素敵な調味料~♪」

『ルギィイイイッギョバッたすけゴゲゲゲゲエエエエッ!?』

シアの素敵な包丁捌きによって、魚?はあっという間に解体されていく。悲鳴?そんなものは聞こえない。

 

幸利(おいっ!?今あれ"助けて"って言わなかったか!?俺の空耳か!?

っていうか、既に3枚におろされてるのに、なんで悲鳴を上げられるんだ!?)

ハジメ(確かに、シアの歌の歌詞が物騒なせいかな?)

幸利(そうじゃねぇだろぉ!?えぇい、ハジメは宛てにならねぇ!ユエさん、ティオさん!)

ユエ(……私は何も見てない。私は何も聞いてない。私は何も知らない。)

ティオ(……あ、ちょうちょじゃ。可愛らしいのぅ。)

幸利(ちくしょう、もう終わりだよ!)

 

何故かトシが焦りだし、この世の終わりの様な顔をしていた。シアの料理は美味しいのに……何故そうなる?

それにユエもしゃがみ込んで小さくなったかと思えば、両手で耳を塞ぎながらプルプルと震えていた。

ティオは……蝶々を追いかけている。皆、空腹で頭がおかしくなってしまったのか……?

 

そうこうしている内に下処理を終えたらしいシアは、俺が作った魔導コンロの火力を最大にした。

鍋の大きさといい火力といい、まるで中華料理の如く。その傍らには、捌かれた魚?があった。

活きがいいのか、ピクピクと跳ねている。

シアは大きな鉄鍋を片手で軽々と持ち上げ、野菜や調味料を加えて炒めつつ、その魚?を無造作に鉄鍋へ投げ入れた。

 

『ヒィギャァアアアアアアッあづいアアアアアッ!?』

ハジメ「珍味って、不思議な空耳が聞こえてくるんだね。」

シア「?」キョトン

『ビギョオオオオおでがなにをじだぁアアアアアッ!?』

ハジメ「シア、皆お腹が空きまくっているみたいだから、ちゃちゃっとお願い。」

シア「了解ですぅ!」

『ォオオオオオ絶対に許さんぞォオオオオオッ!?』

幸利(……もうヤダ、こいつら。)

そしてついに……!

 

シア「さぁ、皆さ~ん。樹海の人なら誰でも大好きな珍味料理ですよ~。冷めないうちに召し上がれ~ですぅ♪」

ハジメ「おぉ、独特な見た目だねぇ。それでは、いただきます。」

今回は魚肉を使った野菜炒めのようだ。炒められた後でも動く魚肉は食べたことがないので、少し新鮮だ。

……うん、美味しいな。

 


 

●勇者パーティーのわちゃわちゃ

 

日本の学生達たちが異世界に召喚されて暫くした頃のこと。

魔法というファンタジーな力にも、異世界での王宮生活という環境にも幾分慣れてきた彼等は、少しずつ心の余裕を取り戻していた。

 

特に、いずれ戦争に参加しなければならず、その際、先陣を切らなければならない光輝達勇者パーティーのメンバーは、当初こそ、王国の人々から寄せられる期待や過剰なまでの恭しい態度に戸惑っていたものの、今では異世界の友人などもでき、充実した日々を送っていた。

尚、この世界に一早く順応していたハジメさんに至っては、修行と人助けの両立が既に出来上がっていた。

 

そしてその日も、充実した訓練を行い自身の成長を実感していた光輝は、汗を流した後、心身共に清々しい気持ちで自室へと向かっていた。

同室の龍太郎が既に戻っているだろうから、どこかに遊びにでも誘おうかと思う。

そうして、今日はどんな場所を見て回ろうかとわくわくした気持ちで自室の扉に手をかけた光輝は、少し開いた扉の隙間から、それを目撃した。

 

龍太郎「すぅーーっ、ふっ。かはぁ~っ。」

光輝「」

妙な呼吸音を垂れ流しながら、大きな鏡の前でポーズを取る親友の姿を。親友が、ゆっくりと動く。

武術の演舞のようにも見える流麗な動き。鍛え上げられた筋肉が隆起し、あるいは引き絞られる。

かは~っと漏れ出る呼気が、親友の真剣度をあらわしているようだ。ボディチェックをしているのだろうか。

あるいは、武術の型の反復練習だろうか。光輝は、それを確かめることができなかった。

というか、部屋にも入れなかった。

 

龍太郎「ふぉぉ~~~~っ。」

光輝「」

だって、変な呼気を漏らし、鏡の前でポーズを取る親友は――全裸だったから。パンツすら穿いていない潔さ。

こんな時、どんな対応をすればいいのか。光輝には分からない。と、その時、不意に目が合った。

 

龍太郎「……。」

光輝「……。」

鏡の中の龍太郎と、光輝の目が。一瞬で凍り付く部屋の空気。時間が停止したかのような静寂。

引き攣る頰を隠しきれない光輝は、呟いた。

 

光輝「……わ、忘れ物を思い出した。それじゃ!」

それは、ただの現実逃避で、現場からの逃亡宣言だった。

 

龍太郎「待てっ、光輝!勘違いすんなっ。俺はただ、型の訓練をしていただけだ!」

光輝「ぜ、全裸で?」

龍太郎「そ、それは、お前……いいじゃねぇかっ、別に!あのスチュワー○大佐だって、全裸だったろ!」

つまり龍太郎くんは、一人でスチュ○ート大佐ごっこをしていたらしい。

光輝は、昔見たダイでハードな映画のワンシーンを思い出して「あぁ」と頷き、そして、人生で一番、生暖かい眼差しを親友に向けて言った。

 

光輝「俺は、何も見てないよ、龍太郎。……それじゃあ、ちょっと雫達に用があるから!」

踵を返した光輝は、直後、猛ダッシュで駆け出した。

龍太郎「あっ、てめぇっ、光輝!待ちやがれぇええええっ!」

王宮の一角に羞恥に塗れた絶叫が迸る。

その後、幼馴染達やクラスメイトから生暖かい眼差しを向けられて、龍太郎の心に黒歴史が一つ、刻まれたのは言うまでもない。

 

 

ハジメ(?何やら騒がしいな……まぁ、どうせ馬鹿共がやらかしただけだろう。)

一方、ハジメさんは騒動なんぞ気にせずに、今日も日課の人助けを行っているのであった。

 

 

その夜。自室で一人、のびのびとしていた光輝は、ふと昼間の龍太郎を思い出した。

昔は、2人でよくヒーローのポージングを研究したものだ。

それを雫達に目撃されて、少々気恥ずかしい思いをしたことは一度や二度ではない。

後からヒーローオタクでもあったハジメも加わって、3人でヒーローごっこをしたこともあった。

 

流石に、小学校の高学年にもなればしなくなったのだが……

やはり、剣と魔法の異世界に来てしまったことが、僅かなりとも自分達を童心に戻しているのかもしれない。

ついつい雫達に暴露してしまうくらい、龍太郎の行動は懐かしく思うと同時に楽しかった。

因みに現在、龍太郎はふてくされて追加訓練をしていたりする。

爆笑したクラス男子達を八つ当たり気味に巻き込んで。

 

光輝はふと、傍らに立てかけている聖剣に目を向けた。

壮麗な己の武器を見ていると、なんとなく心の奥がむずむずしてくる。

気が付けば、光輝は聖剣を手に姿見の前に立っていた。

そして、左手を腰に、右手で聖剣を掲げて、仁王立ちしてみる。

 

光輝「……ちょっと普通すぎるかな。」

独り言ごちて、ポーズを変えてみる。段々と興が乗ってきた。

脳裏に浮かぶ地球産ヒーロー達を参考に次々とポーズを決めていく。聖剣をバッと一振り。

光輝「全てを守ってみせる!勇者の名にかけて!」

決まった。鏡に映る自分を見て、光輝は「ふっ」と口元に笑みを浮かべた。

 

香織「光輝くん、いる!?大変なの!龍太郎君が他の男子と喧嘩に――」

その瞬間、バンッと音を響かせて部屋に飛び込んできた香織は、急停止した。

眼の前には、なぜか鏡の前で不敵に笑いながらポーズを決める光輝の姿。

もちろん、両者の時間は、部屋の空気と一緒に仲良く停止した。

光輝はポーズを取ってキメ顔をしたまま、ツーッと汗を流した。次第に、頰がピクピクと引き攣っていく。

 

ハジメ「お~い、香織。そんなに急いでどう……。」

そこへ運悪く、急ぎ足で過ぎ去った香織を心配して追いかけてきたハジメさんも合流してしまった。

当然、ポーズをとって固まっていた光輝を見て、言葉を切る。

何をやってるんだと思いつつも、空気の読めるハジメさんは直ぐに温かい視線を向けて去って行った。

 

香織「……お、男の子、だもんね?大丈夫、だよ?」

そして香織も優しく微笑み、そのまま静かにフェードアウトした。パタンと閉じられる扉。

「し、雫ちゃ~ん!」と叫ぶ香織の声と、パタパタと走り去る足音が響く。

そこでようやく我を取り戻した光輝は、ゆっくりとポージングを解除する。

 

光輝「まってくれぇええええっ、香織ぃ!ハジメぇ!誤解なんだぁああああっ!?」

王宮の一角に羞恥に塗れた絶叫が迸る。

その後、幼馴染達やクラスメイトから生暖かい眼差しを向けられて、光輝の心に黒歴史が一つ、刻まれたのは言うまでもない。

 

 

時間は少し戻って、龍太郎がクラスメイトに弄られていた頃、香織は王宮のメイドさん達と話をしていた。

内容は、ありふれたガールズトーク。

香織が、メイド達にとある男子生徒(ハジメさん)の好みの飲み物などを尋ねたことから始まったのだ。

 

そうして、キャッキャッと盛り上がるメイドさん達は、男なんて"ご奉仕します"とでも言って誘惑してやれば簡単に堕ちる!なんて結論を香織に叩きつけながら、誘惑の手管を伝え始める。

正統派ヒロイン属性の香織には、少々過激な内容だ。

結果、誘惑テクの詳細に話が及んだ時点で、香織は顔を真っ赤に染めて逃げ出すことになった。

 

香織「うぅ、王宮のメイドさん達は凄くえっちだったよ……。」

そう呟きながら頰の熱を冷ます香織は、ふと気が付く。

どうやら茹だった頭で行き先も決めずに逃亡した結果、自分は使用人達の物品置き場のような場所に迷い込んだらしいと。

同時に、見つけてしまう。"予備"と書かれた衣装棚にしまわれたその服を。

 

5分後。衣装棚から一着、仕事着が消えることになった。犯人は勿論、香織さんである。

猛ダッシュで部屋に戻った香織は、ちょっと借りてきたその衣装を胸元に搔き抱き、ハァハァと息を乱しながら鏡の前へと陣取った。

しばらくの間モジモジしていたものの、やがて頰を染めつつも意を決したように着替え始める。

 

そうして現れたのは"メイド服を着た香織"だった。

クラスの男子が見れば、例外なく身悶えるか鼻血の海に沈みそうな可憐さ。

ホワイトプリムと純白のエプロン、そして清楚なスカートがふわりと翻る。

 

香織は、ハジメが「メイド服ならスカートはロングがいいな。裾持ってクルッて回るのが好きだし。」と言っていたことを思い出し、鏡でおかしなところがないことを確認すると、「わ、悪くない、かな?」と気恥ずかしそうに呟いた。

そして、僅かな逡巡の後、ハジメさんのことを思い浮かべながら――やらかした。

 

香織「ご、ご奉仕っ、しちゃうぞ?」

少し前屈みになって胸元を強調しつつ、ちょっと引き攣ってはいるがパチンッとウインクまで決める。

鏡の中のご奉仕しちゃうメイドな自分を見て、香織は両手で顔を覆って蹲った。

文字通り、やらかしてしまったという感じだ。

 

香織はノロノロと立ち上がり、自分は何をやっているんだろうと思いながらメイド服に手をかけた。

そして振り返った先で、目が合った。

ベッドの上で、壁に背を預けながら読書していたらしい、ポカンとしている雫と。

 

香織「ししししししし、雫ちゃんっ!?いつからそこに!?」

雫「……いつからって、最初からいたけど。」

どうやら、テンションがおかしくなっていた香織は、同室の雫が部屋にいることにも気が付かなかったらしい。

雫からすれば、いきなり親友が帰ってきたと思ったら、いきなりメイド服に着替えて、いきなりやらかしたという状況だ。

 

香織「あのね、あのね雫ちゃん。これは違うの。

ちょっとね、あれがこうなって、メイドさんがえっちだったから仕方なく――」

雫「うん、大丈夫よ香織。大丈夫。雫さんはちゃぁ~んと分かってるから。」

香織「そ、そう?それならいいんだけど。ねぇ、雫ちゃん、どうして部屋から出ようとしているの?

どこに行く気なの?」

 

香織に向かって「大丈夫」と言いながらも、部屋の扉に手をかける雫。

嫌な予感に頰を引き攣らせる香織に、雫は肩越しに振り返って優しく微笑む。

直後、バッと扉を開けて部屋を飛び出し、一気に駆け出した。

 

雫「ハジメくーん!香織がねっ、香織がね!」

香織「いやぁーーーーーっ!やめてよぉおおっ。雫ちゃんの馬鹿ぁああああっ!」

王宮の一角に羞恥に塗れた絶叫が迸る。

その後、楽しそうに逃げ回る雫と、メイドな香織の追いかけっこに、クラスメイトのみならず、王宮の人達まで揃って和んだのは言うまでもない。

 

 

ハジメ「へっくち!なんだ?香織が何やら叫んでいたような……気のせいか。」

そして、何となく事態に気づいているようなそぶりを見せつつも、敢えてスルーを決め込むハジメさんであった。

後に、過去再生の時に当時の映像を見られた3人が、一斉に顔を覆ったのは言うまでもない。

 


 

●酔いどれ勇者パーティー

 

メルド「よし、全員席についたな。では、70階層の転移陣発見の祝杯と行こう!」

【宿場町ホルアド】の一角にある酒場に、【ハイリヒ王国】騎士団団長メルドの快活な声が響き渡った。

ここはメルド推薦の店で、貸し切りというわけではないが、一区切りついた大迷宮攻略の祝宴を開こうと、攻略組全員で集まったのだ。

 

運ばれてきた料理は、流石、王国騎士団長のオススメというだけあって、どれも絶品だった。

一緒に出された琥珀色の飲み物も、食欲を更にそそるものだった。

香織など、祝宴を開く暇があるなら訓練でもしたいとソワソワしていたのだが、琥珀色の飲み物が余程お気に召したらしく、グイグイと呷り始めたくらいだ。

 

実は、異世界製の酒の一種で、地球でいうところのアルコール度数は0なのだが、酒酔いと同じような感覚を味わえる飲み物だったりする。

日頃の訓練を一時的にでも忘れて、気持ちよく飲み食いしてほしいというメルド団長の心遣いだった。

……それが、まさかの事態を招くとも知らずに。

 

香織「ちょっと聞いてるのメルドさんっ。

私がせっかくハジメ君の良い所を教えてあげてるのに、無視するってどういうことかな?かな?

後ろから不意打ちで回復魔法かけちゃうよ?」

メルド「い、いや、香織。ちゃんと聞いてるぞ。というか、それは脅しか?

回復魔法をかけられても体調がよくなるだけで意味がな――」

香織「意味がないなんて酷い!ハジメ君のことなんてどうでもいいんだ!メルドさん酷い!流石、騎士団長さん!

酷いよ!」

メルド「お、落ち着け、香織。さっきから支離滅裂だ。というか、流石ってどういう意味――」

 

聞く耳持たず。香織は真っ赤な顔をして目をグルグルと回しながら、白杖を振り回してメルドに絡む。

ブンブンと、ちょっと危険な速度でスイングされる白杖からは、なぜかキラッ!キラッ!と可愛かわいらしいエフェクトが出ていた。

 

その光は、運悪く白杖のフルスイングの餌食となって吹き飛んだ見知らぬ冒険者や店長さん、浩介などに当たると彼等を瞬く間に回復させていく。

メルドは溜息を吐つきつつも、無差別殴打の被害者と、やたら魔法少女っぽいエフェクトを撒まき散らす香織を宥めようと手を伸ばした。

 

雫「うっく、ひっく、だんちょ~っ。」

メルド「うおっ、雫か。って、なぜ泣いている!?」

しかし、その時。

床に女の子座りした雫が、メルドの服の裾をキュッと摘まみながら、なぜかボロボロと涙を流していた。

ギョッとしたメルドが、豪風と共にスイングされた白杖を躱しながらしゃがみ込み、雫と視線を合わせると……

 

雫「もうやだぁ!しずく、おうちかえるぅーー!!うわぁああああんっ!」

メルド「お、おい、雫!?」

雫「おとうしゃぁああんっ、うわぁあああんっ!」

メルド「お、おとうさん!?それはちょっと……あっ、待て待て泣くな、雫!

くそっ、香織は暴力的絡み酒で、雫は幼児退行の泣き上戸か!?」

 

メルドの服を摑んだまま、舌足らずな口調と共にワンワンと泣きじゃくるクールビューティーなはずの雫に、メルドはアワアワオロオロするしかない。

なので、皆の頼れる兄貴分は実に情けないことに、「自分の手には負えない!」と背後から振り下ろされた白杖を頭上で白刃取りしつつ、勇者へ呼びかけた。

 

メルド「おい、光輝!お前の大事な幼馴染を――」

光輝「"天翔閃"っ!」

直後、純白の斬撃が店の壁をスパッと切り裂いた。

メルド「ちょぉおおおおっ!?おまっ、光輝ぃ。何をしてるんだ!?」

目玉が飛び出しそうな勢いで驚愕するメルドが激しくツッコミを入れる。

 

光輝「見えるっ。俺にも敵が見えるっ!いくぞっ。"天翔閃"!"天翔閃"!"天翔閃"!もっと"天翔閃"!

まだまだ"天翔閃"っ。そぉれっ、てんっ・しょうっ・せぇえええええんっ!」

しかし、真っ赤な顔でグルグルと目を回している光輝は、次の瞬間、一瞬だけキリッとした表情を見せると、

なんてことを叫びながら、店の中で光の斬撃を乱発し始めた!

 

メルド「落ち着けぇ!あぁ壁がっ、天井がっ、ついでに店長と見知らぬ冒険者と浩介がっ!」

巻き込まれて吹き飛んでいく哀れな被害者達たち。

特に、スキンヘッドで巨軀くを誇る店長さんの目尻に光るものが溜まっていたのは……なんとも憐れを誘う。

 

メルド「あぁ、私のお気に入りの店になんてことを……くっ、龍太郎!

すまんが、あいつを止めるのを手伝って――」

龍太郎「ふんっ、見てくれ!俺のこの筋肉をっ!」

思わず龍太郎に助けを求めたメルドだったが、振り返ったその視線の先には、なぜか上半身裸の龍太郎の姿が……

しかも、なぜか香ばしいポーズを取っている!所謂、サイドチェストというやつだ。

キラリと、キメ顔の龍太郎の歯が光る。

 

メルド「お前は何をやっている!?というか服はどうした!?」

龍太郎「メルドさん、あんたの筋肉は凄い。

だが、この世界に来て鍛え続けた俺の肉体は、あんたにも引けを取らない!」

メルド「だから何を言っている!?って馬鹿者ぉおおおっ。下はやめろぉ!」

 

メルドの絶叫。不敵に笑う脳筋馬鹿が、いきなりズボンを脱ぎ去れば、悲鳴を上げるのも仕方ない。

一応パンツは穿いているので、辛うじて致死レベルの災害的光景は晒されずに済んでいる。

が、存分にダブルバイセップスを見せつけた龍太郎は、「くっ、邪魔だ、この野郎!」とか言いながら、最後の砦にも手を伸ばし……

 

メルド「ええいっ、勇者の幼馴染を公然猥褻の犯罪者にしてたまるかっ!」

流石にまずいと感じたメルドは、無詠唱にも近い卓越した魔法で突風を発動。

どうにか龍太郎を吹き飛ばし、最悪の事態だけは回避した。

 

龍太郎「や、やるな、メルドさん!だが、俺は負けねぇ!」

しかし、勇者パーティーの物理特化がその程度で沈むはずもなく、やっぱり脱ごうとする。

慌てて、メルドは龍太郎を止めようとするが……

 

香織「私の話を聞いてぇっ!」

雫「うわぁああんっ、おとうさぁあああんっ!」

メルド「どわっ!?こら香織!私を拘束してどうする気だ!?あぁ、雫!もう、お父さんでいいから泣きやんでくれ!

ほら、ち~んしろ!あっ、香織!杖で突くんじゃない!なっ、更に鋭さが上がっただと!?

既に槍術の天職持ちレベルだぞ!?どうなってる!?」

 

いつの間にか絡みついてきた光の鎖と、しがみ付いてくる雫によって身動きを封じられ、刻一刻と鋭さを増していく香織の白杖による連続突きを上半身の動きだけで躱し、片手で風の礫を放って龍太郎が脱ごうとするのを阻止するメルド。

どうやら、異世界の酒モドキは勇者一行には合わなかったらしい。

 

メルド「アラン、カイル、誰でもいい!光輝達を止めてく、れ?」

「こんなことになるなら、飲ませるんじゃなかった!」と、メルドは後悔しつつ、頼りになる部下達の名を呼んだ。

が、気配を感じず、困惑しながら周囲に視線を巡らせば……

 

メルド「だ、誰もいない、だと……!?」

そう、既に誰もいなかった。

自慢の部下達どころか、永山パーティーのメンバーも、鈴や恵里も、そして他の冒険者達すらも。

店の奥では、スキンヘッド店長と遠藤がキラキラのエフェクトを纏いながらビクンビクンしている。

 

実は、光輝が"天翔閃"を連発し、龍太郎が脱ぎ始めた時点で、メルドの右腕的存在の騎士アランが皆を避難させていたのである。

今頃は、騎士アランのいきつけの店で祝杯を上げ直している頃だろう。

迷惑料として店にいた他の冒険者にも奢りながら。

 

雫「うぇえええんっ、寂しいよぉ。おとうさぁあああああんっ!」

香織「聞いてるのかな!?かな!?」

光輝「うぉおおおおっ。てんしょうせぇんっ!」

龍太郎「見てくれ!この広背筋をっ。キレてるだろ!?」

信頼する部下のまさかの裏切りと悪酔いする勇者達に愕然とするメルド。

 

メルド「神よ、こんな試練はあんまりです……。」

その呟きは、騒音に埋もれて虚しく消えていくのだった。

翌朝、真っ白に燃え尽きたメルド団長の姿と、「誰がこんなことをっ!?」と憤りをあらわにする勇者一行が目撃されたとか。

 

そして後に、色々あって王都に来たハジメと愛子がこの事件を耳にした結果、豊穣の女神と時の魔王が2人揃って「「大変ご迷惑をおかけいたしましたぁぁぁ!!!」」と、当時の被害者たちに土下座して回っている光景が見られたとか、その土下座があまりにもスタイリッシュだったとか、様々な噂が飛び交った。

勿論、話題の中心にいた光輝達にとっても、黒歴史がまた一つ増えたことは言うまでもない。

*1
そのままの未来だった場合、目は真っ赤に充血し、唇はむっくりと膨れ、白かった肌には赤い斑点ができ、声はガラガラで、涙と鼻水とよだれと他の何かがダラダラと垂れ流され続けていた

*2
首折り、背骨折り、股裂きと複数の関節を壊す禁断の殺人技!

*3
ティオの腕がシアの双丘の間に埋もれ、ティオの体を押さえつけるシアの美脚が、ティオの胸をムギュウッと押さえつける!

*4
そのご立派な胸を鷲摑みに!

*5
目が異常に血走っていて、下がカメレオンの様に折り畳まれている




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!それでは、今回のお話の解説をば。

●元・残念ウサギは良妻に?
今作のユエは原作よりも厳しさ控えめです。なので、悔し涙までは流しません。
でも、冒険中のお料理の腕は……

●恐怖のネコミミ怪談
因みに、ユエさん本人としては、シアと同じウサ耳だと流石に本物を作るのは可哀想なので、選択肢から除外しています。
え?猫はって?……まぁ、ご愁傷様ということで。

●シアのお料理説教
なんとか、顔面の被害は免れました。尚、説教は免れなかった模様。
後、なんとなくユエのお料理下手をハジメさんは察していました。

●進化するフィジカルラビット
大体は原作小説通りです。後、一応キンニクドライバーやタワーブリッジ、バロスペシャルも使えます。
因みに、うp主のお気に入りはマッスルスパークです。
後、ハジメさんも一度見た作品の技は大体覚えているとかいう、あたおか体質なので北斗も南斗もいけます。

●竜と兎のガッチャーンコ!?
……一応、言ってはおきますが、ティオは完全なドМではありません。今は、ですが……。

●その食材は何なのか
今作のハジメさんは、食べられる物は食べる主義なので、基本雑食です。
因みに、マンドラゴラはダンジョン飯から、百足やタランチュラの天麩羅はアラフォー賢者から取りました。

●勇者パーティーのわちゃわちゃ
何故ロングスカートなのかって?私の趣味だ、実にいいだろう? byうp主
ミニスカも悪くはないんですが、GJ部のメイドさんのシーンがなんとも印象的で……。

●酔いどれ勇者パーティー
他面子のコメント
恵里「大変だった。」
鈴「滅茶苦茶だった。」
浩介「どうせ俺なんて……。」
因みに、今作のハジメさんも原作同様土下座スキルは会得済みです。

それでは、今年もよろしくお願いいたします!

アンケートその1の結果以外で、追加で登場させてほしいキャラは?

  • ボボボーボ・ボーボボ
  • 五条悟
  • ディアボロ(黄金の風)
  • 銀さん
  • ブロリー
  • ユウキ(SAO)
  • カービィ
  • ヨシヒコ
  • 鬼灯様
  • アインズ・ウール・ゴウン
  • シャドウ(影の実力者)
  • エボルト
  • 篠ノ之束
  • ルフィ(風船で飛んできた)
  • エスデス(アカメが斬る)
  • フリーレン
  • リムル
  • サーヴァントの誰か(活動報告で入力)
  • 東方キャラ(リクは活動報告へ)
  • その他(活動報告でリクエスト受付)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。