Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
時間は少し戻る。丁度、リリアーナ達が王宮内に到着し、ハジメが使徒達への反撃を開始した頃。
──パキャァアアアアン!!
雫「ッ!?一体何っ!?」
ガラスが砕かれる様な不快な騒音に、自室で考え事をしていた八重樫雫はシーツを跳ね除けて枕元の刀を手に取ると、一瞬で臨戦態勢を取った。
明らかに普段から気を休めず警戒し続けている者の動きだ。
雫「……。」
暫くの間、抜刀態勢で険しい表情をしながら息を潜めていた雫だったが、室内に異常がないと分かると僅かに安堵の吐息を漏らした。
雫がここまで警戒心を強めているのは、ここ数日顔を合わせる事の出来ない人達の事が引っかかっているからだ。
あの日。
【オルクス大迷宮】で九死に一生を得て親友が再会した想い人と旅立ち、王国に帰還してから、少し経ってからだろうか。
何となく抱く様になった違和感。
"何が"と言われても明確な答えは返せないのだが、確かに第六感とも言うべき感覚が王宮内に漂う不穏を感じ取っていた。
言葉で表現出来ず、正体も分からず。
或いは親友が傍らにいない事や魔人族の勢力が拡大した事実、"人を殺す"という覚悟の問題に直面した仲間、それらが積もり積もってナーバスになっているのだけなのではと思う事もあった。
だが勘違い等ではない、何かが起きている。そう確信したのは今日の事だ。
3日前、愛子が帰還した日に夕食時に重要な話があると言って別れたきり、その姿を消した。
夕食の席に現れなかったのだ。愛子の身に何か良くない事が起きているのではとも疑っていた。
おまけに、時を同じくしてリリアーナまで行方が分からなくなっていると側近や近衛、侍女達が慌てていた。
親しい2人が行方を晦ましたのだ、雫だけでなく光輝達は当然愛子の護衛を務めていた優花率いる愛ちゃん護衛隊のメンバーも探し回った。
そんな時だ。
優花達と同じく愛子の護衛をしていたデビッド達神殿騎士をも集めて、イシュタルが「愛子達は総本山で異端審問について協議している」という尤もらしい説明をしてきたのは。
当然「ならば自分達も」と言い募った雫達だったが、遂に直接会わせてもらう事は出来なかった。
【神山】山頂にある聖教教会総本山へ繋がるリフトも停止させられており、直接向かう事も出来なかった。
リリアーナの父親たるエリヒド国王へ直談判したが、3日もすれば戻るから大人しくしていろと言われればそれ以上騒ぐ事も出来ず、渋々ではあるが一先ず引き下がるしかなかった。
言いようのない不安感、訳も無く膨れ上がる焦燥感。
こういう時こそ頼りになるメルドと会えない事も、雫達の不安を強める要素だった。
だが3日だ。3日待てば、きっと……。そう思って迎えた3日目の今日の朝。
結局、愛子もリリアーナも戻ってはこなかった。
それどころか、王宮内からイシュタル達教会関係者の姿が消え、地上待機を命じられていた筈のデビッド達まで消息を絶った。
リフトが停止したままにも拘わらず。エリヒド国王も、宰相や側近達も面会すらしてくれなかった。
明日で愛子とリリアーナが消えて4日目、この件について明確な危機感を持っているのは雫以外では優花達だけだろう。
光輝は違和感は覚えていても、"まさか王宮内で危機的な何かが起きる事は無い、ハジメの異端者認定が長引いているだけだろう"と考えている。
楽観的過ぎる。
その思考にはハジメに対する複雑な心情が絡んでいるのは明白であり、加えて未だ解決を見ない離れていった香織に対する気持ちや、戦いにおける覚悟の問題が意識を己の中へ集中させてしまっているのも原因だろう。
そしてそんな光輝の考えは、未だ彼を頼りとする他のクラスメイト達にも伝播していしまっている。
光輝が大丈夫だと言うのなら、きっと大丈夫だと。現実の見えていないカリスマ持ち程質が悪いという典型だろう。
故に雫は、唯一危機意識を共有出来ている優花達と相談して決めていた。
今晩中に愛子達が戻って来なければ、自分達だけでも明朝より【神山】への登頂を開始しようと。勿論、物理的にだ。
そういう訳で8,000m級の登山に備えて体を休めつつも、危機感を胸にスネイク宜しく警戒心溢れる就寝をしていたのである。
しかし、いざ眠ろうとした時であった。
ケーキングゴチゾウ「~~~!」
雫「?ゴチゾウちゃん?」
突如物陰からやってきたケーキングゴチゾウが、慌てた様子で雫の膝の上で跳ねていた。
何かあったのだろうか、不審に思った雫は件の
そこには――
雫「!先生!?それに、リリィも!?」
行方不明であった愛子が、何やら修道女らしき人物と言い争いをしていたかと思えば、急迫してきた修道女にふっ飛ばされ、そのシスターも足元に転がった何かが爆発したことで炎と煙に包まれた光景だった。
そして、肝心の愛子はというと、何者かに手を引かれながら近くの部屋に避難しており、そこにはなんと、こちらもまた行方不明だった筈のリリアーナもおり、何やら隠し出口らしき場所に隠れていた。
修道女もその後に部屋に乗り込んだものの、結局愛子を見つけられずじまいだった。
雫「先生とリリィは一緒にいる……でも、どうして?」
一通り映像を確認し終えた雫は、親友と担任が同時に王宮から姿を消した理由を考察していた。
恐らくだが、先程の修道女の行動から、何か教会に不都合なことを愛子が知ってしまったからでは?と思い、ハジメの異端認定もそれが原因かもしれないと、考えていた。
そこへ、先程の騒音だ。これはただ事ではないと感じた雫は、早速行動を開始した。
他のクラスメイト達も、目が覚めている事だろう、と。
雫は音も無くベッドから降りると、数秒で装備を整えて慎重に部屋の外へ出た。
──キィ…
小さなドアノブを回す音が鳴り、雫は思わず身構える。
視線の先には、少し離れた部屋の扉が僅かに開き、そこから優花、妙子、奈々がまるでトーテムポールの様に縦に頭を並べて怖々と部屋の外を窺っている光景があった。
奈々「あっ、雫っち!」
雫を発見した奈々が思わずといった様子で名前を呼ぶ。
途端、雫が刀の柄に手を掛けて身構えた為、「もしや廊下に不審者が!?」と考えた優花と妙子から「馬鹿!」「不用心!」と怒られながらペシペシと頭をはたかれる。
涙目で「ごめ~ん!」と謝る奈々の様子に良い意味で緊張感を削がれた雫は、大丈夫という意味を込めてパタパタと手を振った。
優花達がソロソロと部屋から出てくるのを尻目に、雫は直ぐに向かいの光輝達の部屋をノックした。
扉は直ぐに開き、光輝が姿を見せた。
部屋の奥には龍太郎もいて、既に起きている様だ。どうやら、先程の大音響で雫と同じく目が覚めたらしい。
雫「光輝……貴方、もうちょっと警戒しなさいよ。いきなり扉開けるとか……誰何する位手間じゃないでしょ?
不審者だったらどうするの?」
光輝「?何言ってるんだ、王宮だぞ?不審者なんている訳無いだろ?」
何の警戒心もなく普通に扉を開けた光輝に眉を潜めて注意する雫に、やはりキョトンとしたままの光輝。
破砕音は聞こえていたが、それでもやはり王宮内の安全性というものを疑っていないらしい。
そして直ぐ外の廊下に危機があるかもしれないとは考えが浮かばないのは、まだ完全に覚醒していないというのもあるかもしれない。
いずれにしろ、以前から伝えている「何かが起きてる、警戒すべきだ」という雫の忠告は、光輝も龍太郎も「一応警戒するけど、雫の考え過ぎだろう」という結論のまま、余り真剣に受け取っていないのは確かな様だ。
光輝「そんな事より、雫。さっきのは何だ?何か割れた様な音だったけど……。」
雫「……分からないわ。兎に角、皆を起こして情報を貰いに行きましょう。何だか嫌な予感がするのよ……。」
それだけ言うと雫は、優花達に視線を投げ、意図を察した優花達は、手分けして他のクラスメイトを起こしに行った。
流石は前線組と言うべきか、重吾や健太郎、綾子、真央の永山パーティや、檜山、近藤、中野、斎藤の檜山パーティは既に準備を整えており、雫達の呼びかけと同時に廊下へ集まった。
淳史や昇、明人達残りの愛ちゃん護衛隊メンバーも呼びに行く前に廊下へと集った。
ただやはりと言うべきか、居残り組のクラスメイト達は未だ眠ったままの者達もいて、文字通り"叩き起こす"必要があったり、破砕音に怯えて部屋から出るのを渋る者達もいて、集合には少し手間取ってしまった。
そして案の定、浩介のことを誰も確認していなかった。せめて1人くらいは気づいてやれ。
光輝「皆、寝ていたところを済まない!だが先程、何かが壊れる大きな音が響いたんだ。
王宮内は安全だと思うけど、一応何が起きたのか確認する必要がある!万が一に備えて、一緒に行動しよう!」
不安そうに、或いは突然の睡眠妨害に迷惑そうにしながら廊下に出てきた居残り組に活を入れるべく、光輝が声を張り上げる。
部屋に残って、光輝達がいない間に何かあったら……
そう思った居残り組のクラスメイト達は、光輝の言葉で蒼褪めつつもコクリと頷いた。と、その時。
パタパタと軽い足音が廊下の奥から響いてきた。
何事かと雫達が視線を向けると同時に駆け込んできたのは、雫と懇意にしている専属侍女のニアだった。
以前燻っていた優花や淳史達に、雫に頼り過ぎないでほしいと諭した侍女だ。
雫「ニア!」
ニア「雫様……。」
呼びかけられたニアは、どこか覇気に欠ける表情で雫の傍に歩み寄る。
騎士の家系であり自身も剣を嗜むが故に、彼女はいつも凛とした空気を纏っているのだが……いつものその雰囲気に影が差している様な、生気が薄い様な、そんな違和感がある。
友人の様子に眉を寄せる雫だったが、その事を尋ねる前にニアの口から飛び出した情報に度肝を抜かれ、その違和感も吹き飛んでしまった。
ニア「大結界の一つが破られました。」
雫「な……なんですって?」
思わず聞き返した雫に、ニアは淡々と事実を告げる。
ニア「魔人族の侵攻です。大軍が王都近郊に展開されており、彼等の攻撃により大結界が破られました。」
雫「そんな、一体どうやって……?」
齎された情報が余りに現実離れしており、流石の雫も冷静さを僅かばかり失って呆然としてしまう。
それは他のクラスメイト達も同じだった様で、ザワザワと喧騒が広がった。
魔人族の大軍が、誰にも見咎められずに王都まで侵攻するなど有り得ない。
北大陸でもずっと上の方にあるこの王都まで、【魔国ガーランド】がある南大陸から一体どれだけの領と町、関所を通過しなければならないか。
加えて、大結界が破られるというのも信じ難い話だ。
何百年もの間、王都の守りを絶対たらしめてきた守りの要なのだ。
それを聞かされた光輝達が、冷静でいられないのも仕方ない。
光輝「……ニア、破られた大結界は第三障壁だけかい?」
険しい表情をした光輝がニアに尋ねる。
王都を守護する大結界は三枚で構成されており、内から第一、第二、第三障壁と呼び、内側の第一障壁が展開規模も小さい分最も堅牢な障壁となっている。
ニア「はい、光輝様。今のところは、ですが。……第三障壁は一撃で破られました。
全て突破されるのも時間の問題かと……。」
ニアの回答に頷いた光輝は少し考える素振りを見せた後、自分達の方から討って出ようと提案した。
光輝「俺達で少しでも時間を稼ぐんだ。
その間に王都の人達を避難させて、兵団や騎士団が態勢を整えてくれれば……。」
光輝の言葉に決然とした表情を見せたのはほんの僅か。前線組と愛ちゃん護衛隊のメンバーだけだった。
他のクラスメイトは目を逸らすだけで、暗い表情をしている。
彼等は前線に立つ意欲を失った者達、心が折れたままなのだ。
時間稼ぎとはいえ、とてもでないが大軍相手に挑む事など出来ない。
その心情を察した光輝は、仕方ないと目を伏せ、それならば俺達だけでもと号令を掛けようとした。
恵里「待って、天之河君。勝手に戦うより、早くメルドさん達と合流するべきだと思う。」
しかし、それは意外な人物――恵里に待ったをかけられた。
光輝「恵里……だけど。」
逡巡する光輝から目を逸らして、恵里はニアに尋ねた。
恵里「ニアさん、大軍って……どれ位か分かりますか?」
ニア「……ざっとですが、10万程かと。」
その数に、生徒達は息を呑む。ニアの言う通り、確かにそれは"襲撃"ではない。歴とした"侵攻"だ。
恵里「天之河君、とても私達だけじゃ抑えきれないよ。数には数で対抗しないと。
私達は普通の人より強いから、一番必要な時に必要な場所にいるべきだと思う。
それには、メルドさん達ときちんと連携をとって動くべきじゃないかな……?」
普段の恵里とは違って、控えめな言い方ではあるが、彼女とて勇者パーティの一員なのだ。
その瞳に宿る光の強さは、光輝達にも決して引けを取らない。そしてその意見も、尤もなものだった。
鈴「うん、鈴もエリリンに賛成かな。さっすが鈴のエリリンだよ!眼鏡は伊達じゃないね!」
恵里「め、眼鏡は関係ないよぉ鈴ぅ。」
雫「ふふ、私も恵里に賛成するわ。少し冷静さを欠いていたみたい。光輝は?」
パーティの女子3人の意見に、光輝は逡巡する。
光輝「そうだな。こういう時こそ焦って動かず、連携を取るべきだ。メルドさん達と合流しよう」
しかし、普段は大人しく一歩引いて物事を見ている恵里の判断を光輝は結構信頼している事もあり、結局、恵里の言う通りメルド達騎士団や兵団と合流する事にした。
重吾や檜山、優花等各パーティのリーダーも否は無い様だ。
光輝達は、出動時における兵や騎士達の集合場所に向けて走り出した。
――すぐ傍の三日月の様に裂けた笑みには気づかずに……
光輝達が緊急時に指定されている屋外の集合場所――演習用の広場に訪れた時、既にそこには多くの兵士と騎士が整然と並んでいた。
前の壇上ではハイリヒ王国騎士団副長のホセが声高に状況説明を行っているところだった。
月光を浴びながら、兵士や騎士達は皆蒼褪めた表情で呆然と立ち尽くし、覇気の無い様子でホセを見つめていた。
士気の低さに思わず足を止めた光輝達だったが、それに気がついたホセが状況説明を中断して声を掛けた。
ホセ「……よく来てくれた。状況は理解しているか?」
光輝「はい、ニアから聞きました。えっと、メルドさんは?」
ホセの歓迎の言葉と質問に光輝は頷き、そして姿が見えないメルドを探してキョロキョロしながらその所在を尋ねた。
ホセ「団長は、少し、やる事がある。それより、さぁ、我らの中心へ。勇者が我らのリーダーなのだから……。」
そう言ってホセは、光輝達を整列する兵士達の中央へ案内した。
居残り組のクラスメイト達が「えっ?俺達も?」と戸惑った様子を見せたが、無言の兵達が犇めく場所で何か言い出せる筈も無く、流されるままに光輝達について行った。
無言を通し、表情も殆ど変わらない周囲の兵士騎士達の様子に、雫の中の違和感が膨れ上がっていく。
それは、起きた時からずっと感じている嫌な予感と相まって、雫の心を騒がせた。
無意識の内に、刀を握る手に力が入る。
優花「ねぇ雫、何だか……。」
雫「……分かってる、気を抜かないで。何かおかしいわ。」
必死に不安を押し殺している様な表情の優花が小さく呟く。雫は頷きつつも、この状況で拒否出来ないのは居残り組と同じであるが為にそう言うしかなかった。
──何かおかしい。
そう感じているのは他の前線組等も同じ様だ。だが誰もそれを言葉に出来ない。
流されるまま、光輝達は兵士と騎士達の中心へと辿り着いた。そこでホセが演説を再開した。違和感は尚も膨れ上がる。
ホセ「皆、状況は切迫している。しかし、恐れる事は何も無い。我々に敵は無い。我々に敗北は無い。
死が我々を襲う事など有りはしないのだ。
さぁ、皆、我らが勇者を歓迎しよう。今日、この日の為に我々は存在するのだ。さぁ、剣を取れ。」
兵士が、騎士が、一斉に剣を抜刀し掲げる。
その時、「え、あ、ちょっ……?」という戸惑う様な声が聞こえた。雫を含め幾人かが其方を見やる。
視線の先では健太郎が、抜剣の際のさり気ない動きで重吾達の傍から押し出されていた。
更に「あ、あの?」という声がかかる。同じく優花達が隊列から少し離された。
否、2人だけではない。
いつの間にかするりと生徒達の間に入り込んだ兵士や騎士達によって、幾人かの生徒──
特に前線組や愛ちゃん護衛隊の前衛を担う者達が互いに距離を取らされていた。
―――囲まれている!雫は総毛立った。本能がけたたましく警鐘を鳴らす。
雫「皆っ!逃げ──」
ホセ「始まりの狼煙だ。──注視せよッ!」
雫が警告の言葉を伝えるより、ホセが懐から何かを取り出し頭上に掲げる方が速かった。
いきなり怒声じみた声音で注視を促され、更に兵士や騎士達が一斉に視線を其方に向けた為に、思わず誘導されて誰もが注目してしまう。
刹那、光が爆ぜた。ホセの持つ何かが閃光弾もかくやという光量の光を放ったのだ。
無防備に注目していた光輝達は其々短い悲鳴を上げながら咄嗟に目を逸らしたり覆ったりするものの、直視してしまった事で一時的に視覚を光に塗り潰されてしまった。
ドッ!バタン!ズシャ!
「あぐっ?」
「がぁ!」
「ぐふっ!?」
次の瞬間、肉を突き破る生々しい音が無数に鳴り……次いで、あちこちからくぐもった悲鳴が上がった。
先程の光に驚いた様な悲鳴ではない、苦痛を感じて意図せず漏れ出た苦悶の声だ。
そしてその直後に、ドサドサと人が倒れる音が無数に聞こえ始める。
唯一「ギンッ!」という硬質な音を奏でたのは、雫の持つ刀のみ。
光に紛れて襲い来た凶刃を、辛うじて弾く事に成功したのである。
目を灼かれたのは同じ。
だが研ぎ澄まさていた警戒感が、積み上げてきた鍛錬の成果が、踏み越えて来た経験が、目が見えない状況において襲撃を凌ぐという達人技を可能にしたのだ。
閃光が収まり回復し始めた視力で周囲を見渡した雫が見たのは、刹那に過った最悪の光景そのまま。
クラスメイト達が全員、背後から兵士や騎士達の剣に貫かれた挙句、地面に組み伏せられているという光景だった。
雫「な、こんな……!?」
想像は出来ていても、まさかという思いは直ぐには消えない。何が起きているのか。何故こんな事を。
雫は声を詰まらせた。友人達の呻き声が、苦悶の声が耳を突く。非現実的な光景に、思考が停止しかける。
まさか、今ので死んだ仲間がいるのではと最悪の想像が過ったが、光輝も龍太郎も鈴も、そして優花達も血に塗れた悲惨な状態ではあるが辛うじて生きている様だ。
その事に僅かに安心しながらも、最初に分断された前衛組は特に負傷の度合いが酷い様で、全く予断を許さない状況に冷や汗が噴き出た。
龍太郎や重吾も背中だけでなく四肢の全てに短剣が突き立っており、痛みのせいか痙攣している。
その上で他のクラスメイト達も含めて、更に魔力封じの枷までつけられていく。これでは回復魔法を使う事も出来ない。
どうすればと焦燥を募らせる雫が周囲の兵士や騎士達に視線を巡らせる中、不意に奇妙な光景が飛び込んできた。
???「あらら~、流石というべきかな?……ねぇ、雫?」
雫「……ぇ、えっ?な、何でっ……何を言って──ッ!?」
そう。クラスメイト達が瀕死状態で倒れ伏す中たった一人だけ。
傷一つ負わず、組み伏せられる事も無く。平然と立っている生徒がいたのだ。
その生徒は普段とはまるで異なる、どこか粘着質な声音で雫に話しかける。
余りに雰囲気が変わっている為、雫は言葉を詰まらせた。投げかけた疑問の声は、半ば反射的なものだ。
雫「くっ!?」
直後、再び雫の背後から一人の騎士が剣を突き出してきた。
よく知る相手の豹変に動揺しつつもやはり辛うじて躱す雫に、その生徒は呆れた様な視線を向ける。
???「これも避けるとか……ホント、雫って面倒だよね?」
雫「何を言って──ッ!」
更に激しく、そして他の兵士や騎士も加わり突き出される剣の嵐。その鋭さは尋常ではない。
或いは、普段よりも強力かもしれない。雫はそれらも全て凌ぐが、突然自分の名が叫ばれてそちらに視線を向ける。
ニア「雫様!助けて……。」
雫「ニア!」
そこには騎士に押し倒され、馬乗りの状態から今正に剣を突き立てられようとしているニアの姿があった。
雫は咄嗟に"無拍子"からの"縮地"で振り下ろされる剣撃を掻い潜り一瞬でニアの下へ到達すると、彼女に馬乗りになっている騎士に鞘を叩きつけてニアの上から吹き飛ばした。
雫「ニア、無事?」
ニア「雫様……。」
倒れ込んでいるニアを支え起こしながら、周囲に警戒の眼差しを向ける雫。
そんな雫の名を、ニアはポツリと呟き両手を回して縋りつく。そして……
グサッ……
雫「っ!?ニ、ニア?ど、どうして……!?」
──雫の背中に懐剣を突き立てた。
背中に奔る激痛に顔を歪めながら信じられないといった表情で、雫は自分に抱きつくニアを見下ろした。
ニア「……。」
しかし、ニアは普段の親しみの籠った眼差しも快活な表情も無く、ただ無表情に雫を見返すだけだった。
雫は、そこで漸く気がついた。
最初は、ニアの様子がおかしい原因は王都侵攻のせいだろうと思っていた。だが、そうではなかったのだ。
"虚ろな"彼女の瞳──それは、周囲を取り囲む兵士や騎士達と全く同じもの。
ニアもまた、彼等と同じ異常に囚われていたのだ。
友人の異常に気が付くも、行動を起こすには致命的に遅い。
ニアはそのまま雫の腕を取って捻りあげると地面に組み伏せて拘束し、他の生徒達にしているのと同じ様に魔力封じの枷を付けてしまった。
???「アハハハッ!流石の雫でも、まさかその子に刺されるとは思わなかった?うんうん、そうだろうね?
だから態々、直前まで待ってから用意したんだし?」
背中に感じる灼熱の痛みと、頬に感じる地面の冷たさに歯を食いしばりながら、雫はニアの異常も、他の正気でない兵士や騎士達も、その生徒達が原因なのだと悟る。
認めたくない。認めたくないが、この惨状を作り出したのは
今も、普段では考えられないニヤニヤとした嫌らしい笑みを浮かべている、戦友にして親友。
雫「どう、いう事…なのっ──恵里ッ!」
そう、その人物は、聡明であり気配り上手で心優しい、雫達と苦楽を共にしてきた大切な仲間の一人。
──南雲恵里その人だった。
直ぐには死なない様な場所を狙われたのだろう。
重傷を負いながらも、苦悶の表情を浮かべて生きながらえている光輝達は、恵里を呆然とした表情で見つめている。
傍を通っていながら兵士や騎士達の誰一人として襲い掛からない事や、直立不動で佇んでいる事が、彼等が恵里の支配下にいる事を如実に示していた。
倒れ伏す重吾達や出血多量で朦朧としている龍太郎、目を見開いている優花達を愉悦たっぷりの眼差しで見下ろしながら、現実を教え込むかの如くゆっくりと、コツコツと足音を鳴らして進んでいく恵里。
光輝「え、恵里、っ……一体、ぐっ…どうしたんだ……っ!?」
雫の途切れがちな質問には答えずに、光輝の方へ歩み寄った恵里は、眼鏡を外して光輝を蹴りとばすと、艶然と微笑んでその背中に腰を下ろした。
雫や香織、龍太郎程では無いが、極々親しい友人で仲間の一人である恵里の余りの雰囲気の違いに、光輝は体を貫く剣の痛みに堪えながら必死に疑問をぶつける。
だが、恵里はどこか冷めた様子で光輝の質問を無視する。
雫「あぁ、安心してよ。僕の願いが叶ったら、解放してあげるからさぁ。」
そう言って、目を細め恍惚とした表情で舌舐りすると徐に立ち上がり、倒れ伏して血を流す生徒達を睥睨した。
苦悶の表情や呆然とした表情が並んでいる。そんな光景に満足気に頷くと、最後に雫に視線を定めて笑みを浮かべた。
雫「っ…どういう事よ…こふっ…。」
訳が分からないといった表情で恵里を睨みながら吐血する雫に、恵里は「物分りが悪いなぁ。」と言いたげな表情で頭を振ると、まるで幼子にものの道理を教える様に語り出した。
恵里「うーん、分からないかなぁ?僕はね、ずっと兄さんが欲しかったんだ。だから、その為に必要な事をした。
それだけの事だよ?」
雫「……ハジメ君が好きならっ……本人に告白でもすれば、よかったでしょう!?こんな事……!」
その反論に、恵里は一瞬無表情になる。しかし、直ぐにニヤついた笑みに戻ると再び語り出した。
恵里「ダメだよ、ダメ、ダ~メ。告白なんてダメ。兄さんは優しすぎるから、皆特別になっちゃうんだ。
周りがどんなゴミクズばっかりでも、優しすぎて見捨てられないんだぁ。
だから、僕だけの兄さんにする為には、僕が頑張ってゴミ掃除をしないといけないんだよ。」
そんな事もわからないの?と小馬鹿にする様にやれやれと肩を竦める恵里。
ゴミ呼ばわりされても、余りの豹変ぶりに驚きすぎて怒りも湧いてこない。
一人称まで変わっており、正直雫には目の前にいる少女が初対面にしか見えなかった。
恵里「ふふ、異世界に来れてよかったよ。
日本じゃ、ゴミ掃除するのは本当に大変だし、住みにくいったらなかったよ。
勿論、このまま戦争に勝って日本に帰るなんて認めない。
兄さんと僕は、ここで二人、ず~とずぅ~~と暮らすんだから♪」
クスクスと笑いながらそう語る恵里に、雫はまさかと思いながら、ふと頭を過った推測を口から溢す。
雫「まさか……っ、大結界が簡単に……破られたのは……!」
恵里「アハハ、気がついた?そう、僕だよ。彼等を使って大結界のアーティファクトを壊してもらったんだ♪」
雫の最悪の推測は当たっていたらしい。
魔人族が王都近郊まで侵攻出来た理由までは思い至らなかったが、大結界が簡単に破られたのは恵里の仕業だった様だ。
恵里の視線が、彼女の傍らに幽鬼の様に佇む騎士や兵士達を面白げに見ている事から、彼等にやらせたのだろう。
恵里「普通に君達を殺しちゃったら、もう王国にいられないでしょ?
だからね、魔人族とコンタクトをとって、王都への手引きと異世界人の殺害、お人形にした騎士団の献上を取引材料に、僕と兄さんだけ放っておいてもらう事にしたんだぁ♪」
光輝「馬鹿な…魔人族と連絡なんて…!」
光輝が信じられないと言った表情で呟く。恵里は自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。
大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取る事など不可能だと恵里を信じたい気持ちから拙い反論をする。
しかし、恵里はそんな希望をあっさり打ち砕く。
恵里「そこはまぁ、色々あって、ね?
【オルクス大迷宮】で襲ってきた魔人族の女の死体があったから、ちょちょいと降霊術で使わせてもらったんだ☆
いやぁ~、ツキが僕の良い方向に回っているとは思わないかい?」
魔人族側がカトレアの死の真相を知っていたのはそういうわけだったのだ。
恵里の話を聞き、彼女の降霊術を思い出して雫が唯でさえ血の気を失って青白い顔を更に蒼褪めさせた。
降霊術は、
であるならば、雫達を包囲する幽鬼の様な兵士や騎士、そして自分を抑えるニアの様子から考えれば……最悪の答えが出る。
光輝「彼等の…様子が、おかしいのは……!」
恵里「もっちろん降霊術だよ~。もうとっくに、みんな死んでま~す。アハハハハハハ!」
雫は齎された非情な解答にギリッと歯を食いしばり、必死の反論をした。
雫「っ、嘘よ。降霊術じゃあ、ぐっ、受け答えなんて……出来る筈、無い!」
恵里「そこはホラ、僕の実力?
降霊術に、生前の記憶と思考パターンを付加してある程度だけど受け答えが出来る様にしたんだよ。
僕流オリジナル降霊術"縛魂"ってところかな?」
本来降霊術とは、残留思念に作用してそこから死者の生前の意思を汲み取ったり、残留思念を魔力でコーティングして実体を持たせた上で術者の意のままに動かしたり、或いは遺体に憑依させて動かしたり出来る魔法である。
その性能は当然生前に比べれば劣化するし、思考能力など持たないので術者が指示しないと動かない。
勿論「攻撃し続けろ」等と継続性のある命令をすれば細かな指示が無くとも動き続ける事は可能だ。
つまりニアやホセが普通に雫達と会話していた様な事は、思考能力が無い以上降霊術では不可能な筈なのだ。
それを違和感を覚える程度で実現できたのは、恵里の言う"縛魂"という魔法が魂魄から対象の記憶や思考パターンを抜き取り遺体に付加できる魔法だからである。
これは、言ってみれば魂への干渉だ。
即ち恵里は、末端も末端ではあるが自力で神代魔法の領域に手をかけたのである。
この世界基準なら正にチート。その研鑽と天才級の才能は驚愕に値するものだ。
或いは、凄まじいまでの妄執が原動力なのかもしれない。
尚、恵里が即座にクラスメイト達を殺さないのは、この"縛魂"が死亡直後に一人ずつにしか使用できないからである。
とは言え、これだけの兵士や騎士達を殺害し傀儡とするには相当の時間が必要な筈で、その間上の人間が何も気が付かなかったとは考え難い。
嫌な予感が雫の脳裏を過る。
雫「……まさか、メルドさんがいないのも……!」
恵里「ん?あぁ、殺ったのは僕じゃないよ?でも、メルド団長を殺した人って、相当やばいよぉ?
何せ僕の計画を知って協力してくれた上に、たった一人でこの国の中枢を支配下に置いちゃった人だからねぇ。
……思い当たる事無いかなぁ?ほら、大分様子の変わった王様とか、側近さん達とか?」
雫「──っ!?」
息を呑んだのは雫だけではない。
ここ数日、愛子を探し回って上層部と何度も関わってきた優花達も愕然とした表情を見せている。
確かに上層部の言動はどこかおかしかった。
だがまさか、この国の中枢が既に堕とされているなど誰が思おうか。
恵里「僕もね、計画がバレてた時は驚いたよ。一瞬色々覚悟も決めたしね。」
ホント焦ったよぉ~と、掻いてもいない汗を拭うふりをする恵里。
恐らくその過程にも色々あったのだろうが、そんな事はおくびにも出さない。
そんな彼女だからこそ、ある意味でその存在の強大さを信用しているからこそ考えもしないのだろう。
既に、その人物はおろか教会の軍勢も、たった一人の魔王によって無力化されている事を。
恵里「彼女のお陰で、面倒な手順を一気に飛ばして計画を早める事が出来たんだ。
正に、天が僕の味方をしている!祝福してくれていると言えるね!くふふ、大丈夫だよ皆!
皆の死は無駄にしないから!ちゃ~んと再利用して、魔人族の人達に使ってもらえる様にするからね!」
恵里は踊る。弄んだ死者と、倒れ伏す仲間だった筈のクラスメイト達の狭間で。
それこそ、祝福を受けているのだと本気で信じているかの様に。
両手を広げてケラケラと笑いながら、クルクルクルクルと踊り狂う。
そんな中、恵里が本気だと理解した光輝が必死の形相で声を張り上げた。
光輝「ぐっ、止めるんだ……恵里!そんな事をすれば、俺はガッ!?」
恵里「煩いなぁ、主人公気取りもいい加減にしたら?前々からずっ――と、気持ち悪いって思ってたんだよ。
その八方美人な所。それに喜んでよ、ちゃんと兄さんにも"縛魂"してあげるから!
他の誰も見ない、僕だけを見つめて、僕の望んだ通りの言葉をくれる!僕だけの兄さん!
あぁ、考えただけでも嬉しくなってきたよ!」
恍惚とした表情で自分を抱きしめながら身悶える恵里。
そこに、穏やかで聡明かつ気配り上手な女の子の面影は皆無だった。誰もが確信した。彼女は狂っていると。
"縛魂"は通常の降霊術よりも死者の使い勝手を良くしただけで、術者の傀儡・人形である事に変わりはない。
それが分かっていて、尚そんな光輝を望むなど正気とは思えなかった。
鈴「嘘だ……嘘だよ!っ……エリリンが、恵里が……っ……こんな事する訳無い!
……きっと、うぐっ、何か……そう、操られているだけなんだよ!……目を覚まして、恵里!」
恵里の親友である鈴が痛みに表情を歪め、苦痛に喘ぎながらも声を張り上げた。
その手は恵里の下へ行こうとでもしているかの様に、地面をガリガリと引っ掻いている。
恵里は鈴の自分を信じる言葉とその真っ直ぐな眼差しに、ニッコリと笑みを向けたかと思えば、徐に一番近くに倒れていた近藤の下へ歩み寄る。
近藤は嫌な予感でも感じたのか、「ひっ!?」と悲鳴をあげて少しでも近づいてくる恵里から離れようとした。
当然、完璧に組み伏せられ、魔力も枷で封じられているので身動ぎする程度の事しか出来ない。
近藤の傍に歩み寄った恵里は、何をされるのか察して恐怖に震える近藤に再び、ニッコリと笑みを向けた。
光輝達が、「よせぇ!」「やめろぉ!」と制止の声を上げる。その時だった。
パチパチパチ……
『!?』
???「成程……独学で神代魔法に片足を突っ込むとは、流石は我が妹と褒め称えたいものだ。」
突如響いた声と拍手。それは、広場の上空から聞こえてきた。皆がその方向を見れば、一人の人物が宙に浮いていた。
裏切りの戦場にやけに明瞭に響いたその声の主は、恵里が欲していた者であり、雫達にとっての希望。
ハジメ「尤も、それがこのような形で披露されるとは……本当に残念だよ、恵里。」
その人物の名は、南雲ハジメ。最高最善の魔王にして、神を滅ぼす者。
今この王都に起こる異変は、クライマックスを迎えようとしていた。
雫「ハジメ君……!」
『南雲!』
ハジメ「はいはい、皆大好き南雲ハジメさんですよっと。そんなに大声出さなくても聞こえとるでー。」
瞬間移動で来た場所は、かつて初の大迷宮攻略前に技能の練習をしていた演習場だった。
どうやら皆、ここに集まっているようだ。しかし……成程、リリィの言ってた違和感は当たりだったみたいだ。
しっかしまぁ、何といいますか……平和ボケが過ぎた結果がこれか。情けないというか何というか……。
恵里「兄さん……あぁ、やっと来たんだね!兄さん!」
ハジメ「恵里ー、良い子だからお止め。さっさと皆を解放しな。」
恵里「止める?どうして?僕はただ、兄さんを僕の物にしたいだけなのに?」
ハジメ「操られた状態で言われてもなぁ……そんな痛い子に育てた覚えはお兄ちゃんないぞ。」
適当に返しながら、場所を探す。……よし、ここら辺でいいか。
雫「操られてって……どういうっ……!?」
ハジメ「前にも似たようなことが、ウルであったからな。」
優花「ッ!それって……!」
おう、察しが良くて助かるわ。
恵里「操られている?何を訳の分からないことを言っているのさ、これが僕の本心だよ。」
ハジメ「そうだな、それは紛れもなく本心だとも。――但し、歪に歪まされた過去の
『!?』
何故そう思うのかって?それは、洗脳時のトシとのある共通点があったからだ。
ハジメ「トシは昔、自分が主人公になる妄想をしていた時期があってな。
洗脳状態の時に言っていた、"俺が、勇者……"は、恐らくその名残だろう。本人にも確認したし。」
恵里「……それで、今の僕が洗脳状態だと?」
ハジメ「あぁ、そうだとも。それに、瞳の色も洗脳状態のアイツと同じ色をしてるからな。」
その言葉の通り、恵里の目には光が灯っておらず、ただ真っ黒な闇が広がっていた。
ハジメ「術者も近くにいるのはわかっているしな、さっさと止めさせてもらうよ。」
恵里「フフフ……アーハッハッハ!そんなに信じられない?この現状を作ったのが、僕だって事に!」
ハジメ「信じられないんじゃあない、信じてないんだ。それに、何時から俺がお前を殺せないと錯覚していた?」
そういうのと同時に、手に呼び出していた鉄球を勢いよくぶん投げる。
ガァンッ!
『……。』
ハジメ「……あ、ミスった。」
が、鉄球は恵里にはかすりもしないどころか、あらぬ方向へと飛んでいき、端っこの壁にぶつかった。
ハジメ「……テイク2。」
恵里「無駄だよ、今の兄さんには……殺気がないんだから!」
その声と共に、残りの傀儡兵が俺に殺到する。
ハジメ「こぉぉぉぉぉ……!」
それに対し俺は、両手にそれぞれ光と水の魔力を纏わせ、呼吸で練った波紋を流すと、それを勢いよく地面に叩きつけた。
すると、傀儡兵の動きが鈍くなったかと思えば、全員足を絡ませてその場に転んでいった。
恵里「なっ、なんで……!?」
ハジメ「ビンゴ!波紋疾走を食らわせるのは正解だったようだな。」
実は、死体に生命エネルギーを流せば、停止した感覚器官に刺激が伝わることで、筋肉にそれが行き届いて脊髄反射が起こり、動きがバグるのでは?と考えて、先程の行動に出てみたのだ。
と、ご丁寧に読者の皆様への説明をしていると、俺の背後から騎士剣が振り下ろされた。
勿論、すぐに片手で受け止めた。が、その相手を見て俺と恵里以外は驚愕していた。
何故って?彼等を代表して、光輝が震える声でその正体を口にした。
光輝「そ、そんな……メルドさん…まで……!」
そう、襲撃者の正体は――王国騎士団団長のメルド・ロギンスその人だった。
もし相対していたのが光輝であったら、動揺を誘うことが出来ただろう。
ハジメ「……俺がこの程度で動揺するとでも?」
が、俺は容赦なく波紋入りの肘打ちをメルドさんに勢いよく食らわせ、後方に吹っ飛ばした。
既に殺されていることは、遭遇情報が浩介で最後だと聞いた時点で覚悟はしていたのだ。
メルド「……ハジメ……何故、俺と敵対する……俺は、お前の味方、だというのに……。」
ハジメ「その言葉は、アンタが生きている時に聞きたかったよ。」
若干の悲しさを感じながら、俺はもう一つの鉄球をぶん投げた。
ガァンッ!
ハジメ「……今日は厄日か?」
しかし、またもやあらぬ方向へ行ってしまったので、気を取り直して恵里に対処しようとした時だった。
ハジメ「グフッ!?」
恵里「アハ♪兄さん、つ~かま~えた~♪」
正面から恵里に抱きつかれるのと同時に、俺は背中から刃を突き出していた。
雫「ハジメ君ッ!」
悲痛な声で雫が叫ぶ。光輝達も絶望的な表情を浮かべていた。
しかし、俺が口元に浮かべていたのは――待ってましたと言わんばかりの、ニヤリとした笑みだった。
ドッゴォォォ!!
『!?』
恵里「ガハッ!?」
ハジメ「なぁ~んてな……!」
なんと、一回目に投げた鉄球が恵里の脇腹目掛けて飛んでいき、勢いよくふっ飛ばしたのだ。*1
恵里「グッ……ま、まさか……わざと、外したの……!?」
ハジメ「大正解!」
そう答えながら、胸から突き出た刃を抜き取ると、即座に再生魔法で傷を癒し、呼吸を整える。
一方の恵里は、先程の鉄球が内臓をかなり痛めたのか、苦しそうにしていた。
今がチャンスだと捉えた俺は、疲弊している恵里に近づき、その頭を引っ掴む。
ハジメ「暫く眠ってな、悪夢は俺が止めてやる。」バチッ!
恵里「あっ……。」
そのまま"纏雷"で気絶させると、ドライバーを出現させ、変身した。
ハジメ「変身。」*2
ハジメ「エンゲージ。」
そして、トシの時同様に深層心理に入って、元凶を叩きに行ったのであった。
ハジメ「……やはりこの光景か。しかし、以前とは少し違うな……。個体によって違うのか?」
たどり着いた先は、前回同様真っ暗闇の世界だった。如何にもファントムやナイトメアが好みそうな場所だ。
しかも、足元にあるのは糸ではなく、スライムだった。空気中にも有毒ガスが充満しており、非常に危険な状況だ。
ハジメ「!オイオイ、今度はむき出しかよ……!」
そしてその先にあったのは、恵里が謎の物体で縛られている光景だった。
ご丁寧に衣服が若干溶かされており、顔色も悪い。それを見た俺は、元凶を睨みつけた。
???「フシュゥゥゥ……!!」
そこにいたのは、正に異形というべきゲテモノだった。
灰色の肌に人の形を成したそれは、ガスマスクのような口から伸びている管から溶解液を垂れ流し、カエルのような指先からはスライムを溢れさせ、一つしかない大目玉をぎょろつかせては、背中の棘から毒ガスを噴出し、体中にびっしりと生えた触手をうにょうにょと蠢かせ、こちらに向かって挑発の咆哮を挙げていた。。
ハジメ「悪いが、貴様の変態趣味に付き合っている暇はないのでな。出ていくがいい!」
が、私はそれを気にせず、新開発した複合魔法を発動する。
それに対し、ゲテモノは両手を広げていた。魔法無効があるから効かないとでも思っているのだろう。
だがな……私の狙いはそこではないのだよ!
ハジメ「"
この魔法は、精神世界の状態を元に戻す――即ち、恵里の様子がおかしくなる前まで、精神世界の状態を戻す魔法だ。
効果対象は精神世界の主である恵里なので、ゲテモノはそれに該当しない。そして!
グール「フシュルルラァァァ……!?」
ハジメ「今頃気づいたか、だがもう遅い!」
元に戻す以上、異物は排除される!即ち、俺もこいつも、この世界から出ていくのだ!
グール「フシュゥゥゥ!!!」
しかし、奴は往生際悪く、触手でどうにかしがみつこうとする。
ハジメ「いい加減に、しやがれぇぇぇ!!!」
当然、俺はそんなことは許さない。
『ユーフォーエックス・エクストラッシュ!!』
ハジメ「だらしゃあぁぁいッ!!!」
グール「フジュラァァァッ!!?」
ユーフォーエックスを装填したエクスガッチャリバーを持った手で、ゲテモノを勢いよくぶん殴り飛ばすと、俺はそのまま外へと奴を引きずり出すことに成功したのであった……。
一方、時間は少し戻り……
雫「恵里の動きが、止まった……?」
何が起きたのかと呆然とする一行。するとその時だった。
ここにいる筈の無い者の声が響く。酷く切羽詰まった、焦燥に満ちた声だ。
香織「雫ちゃん!」
その声の主は、雫がその幸せを願った親友にして、アンカジでは聖女と呼ばれた、ハジメの恋人の1人――
白崎香織だった。
2つ目の鉄球は何処へ?それはまた、次回。
ハジメさんがライダー以外の能力を手に入れるとしたら?
-
全スーパー戦隊の力
-
全ウルトラマンの力
-
その他全特撮ヒーローの力
-
全サーヴァントを召喚、使役する能力
-
全てのスタンドを扱える力
-
全ての魔術・魔法を扱える力
-
全ジャンプ作品の力を扱える
-
全サンデー作品の力を扱える
-
全コロコロ作品の力を扱える
-
全マガジン作品の力を扱える
-
全てのラノベ作品の力を扱える
-
別の世界に能力そのままで転生できる能力
-
一億年ボタン
-
全てのロボットを操縦できる能力
-
無限残基
-
女難に巻き込まれなくなる
-
倒した敵の全能力を得る能力
-
全スマブラキャラの力
-
その他全ゲームキャラの力
-
その他(活動報告でリクエスト)