Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
それから暫くして、枷を外された全ての亜人達を収容した”ノア・エルーナ”は再び空の旅へと戻った。
大人達は"空飛ぶ乗り物"という存在そのものに終始度肝を抜かれている様で、半ば放心している者達ばかりだった。
だが種族は違えど子供が元気なのは万国共通らしく、特に景色がよく見える甲板には、子供達の歓声で大盛況だ。
帝国に捕まっていた時の暗い面持ちは最早無く、【フェアベルゲン】で見る様な笑顔が戻っている。
森人族A「……アルテナ様。彼は、私達を本当に帰してくれるのでしょうか?」
そんな子供達を見守っているアルテナに、一緒に捕まっていた付き人である森人族の女性がポツリと尋ねた。
不安と期待が入り混じった声音に、アルテナは子供達から視線を逸らさないまま答える。
アルテナ「お爺様の仰っていた通りの方でした。
あの方には、良くも悪くも亜人に対して思う所は無い――いえ、より正確には"敵意は無い"のでしょう。
手間でなければ助けて頂けるし、この様な凄まじいアーティファクトにも乗せて頂ける。
自由行動の許可まで与えて。」
森人族A「それは、そうですが……しかし、人間ですよ?
しかも、あの長老衆を問答無用でふっ飛ばした挙句、殺害までしようとした方です。或いは……」
根強い"人間族不信"に加え、"樹海事変"にて齎された恐怖を示す彼女を制止する様に、アルテナは小さく首を振った。
アルテナ「あれは、あの御方に無礼を働いた我々に非があります。……いずれにしろ、私達に出来る事はありません。
委ねるしかないのです。いざとなれば、私がこの身を差し出しても……。」
森人族A「アルテナ様……。」
確かに、委ねる以外に無い。
付き人は自分が立つ建造物の──それを所有する暴威の化身の凄まじさに納得せざるを得なかった。
同時に、悲愴な覚悟を持つアルテナに深い敬意を覚え――
アルテナ「と、ところで、殿方と言うものは、女性を……ふ、踏みたがるもの、なのでしょうか?」
森人族A「はい?」
アルテナ「私、殿方に踏まれた事などありませんから、どの様に踏まれればいいのか皆目見当もつかないのです。
貴女は経験がありますか?」
森人族A「ある訳無いでしょう。」
経緯など微塵も無く、素で返した付き人の女性。アルテナは、ちょっぴり頬を染めて言う。
アルテナ「出来れば、初めては優しくして頂きたいのですが……。」///
森人族A「女性を踏んでる時点で、鬼畜外道以外の何者でもありませんよ!正気に戻ってください、アルテナ様!
何故、踏まれることが前提なのです!?」
アルテナ「あぁ……どうしましょう、どうしましょう。
やはり、いざという時の為に、先程あの御方を"ご主人様"と呼んでいた、黒髪の綺麗な方に、踏まれ方について師事するべきでしょうか……?」///
森人族A「戻って来て下さぁい!そっちは行っちゃダメな道ですよ、アルテナ様!
どうして頬を染めて身悶えていらっしゃるのですか!?アルフレリック様っ、お助けを!お孫様がご乱心です!」
子供達の歓声の狭間に、森のお姫様の未来を憂いて叫ぶ付き人の悲鳴が木霊した。
ハジメ「くしゅん!……すまんな。なんか、この世界に来てからやたらとくしゃみが出るようだ……。」
ティオ「む、ご主人様もかえ?妾も先程、何やら不名誉な視線を向けられたような気がするのじゃが……。」
誰かは知らないが、勝手に人の噂をしていた輩がいる様だ。
おかげで、俺とティオは皆から不思議そうな視線を頂戴してしまったじゃあないか。
そんな俺達は現在、ブリッジに集まってパル達一連の事情の説明を受けようとしていた。
ハジメ「んんっ……それで?一体何があった?帝国の阿呆共はフェアベルゲンまで侵攻してきたか?」
パル「肯定です、魔王陛下。」
背筋を伸ばして答えたパルは、バルトフェルド小隊というチームで、名前の通り小隊長を務めているらしい。
まだ幼いながらも10歳とは思えない中々の気概と指揮能力、狙撃手という後方から全体を俯瞰し観察・分析出来る立場から選ばれたそうだ。
リリアーナ「それは……本当なのですか?帝国は、樹海の霧をどう攻略したというのでしょう?」
思わず、といった様子でリリィが訊ねる。
純粋な疑問と、帝国まで王国に隠れて新たな力を得ているとあれば由々しき事態だという懸念が、その幼さの残る美貌に浮かんでいる。
が、パルは一瞬だけリリィに視線を向けると、問う様に再びこちらに視線を戻した。
すると、リリィの問いかけに返事をしない事に、護衛達が俄かに殺気立つ。
だがパルはそれを柳に風と受け流し、ただ俺の答えを待っている。
ハジメ「すまないリリィ、代わりに聞いておくからここは俺に任せてくれ。それとお前達、無駄な衝突は止せ。
一時的にとはいえ、同じ配下同士で争うのであれば、命綱無しで飛び降りて貰うぞ。無事は保証せんが。
そしてパル。リリィは先日、俺と婚約を交わした仲だ。それなりに丁重に扱え。」
リリアーナ「……申し訳ありません、出過ぎた真似を致しました。旦那様にお任せします。」
パル「御意!」
「「「き、肝に銘じます……!」」」
そこで俺は、リリィへの注意、パルへの説明、護衛達への警告を一気に済ませる。
パルは了解の返事を返し、護衛達も慌てて気を静め、リリィはどこかしょぼんとした様子で引き下がった。
彼女もまた敬虔な聖教教会の元信徒であった事から、関わる事は無かったとはいえ亜人族への差別意識もあったそうだ。
まぁ、アレの醜悪さを知った今となっては、不思議な程亜人族への差別意識が無くなっていたようだが。
とはいえ、パルに無視された事も、歩み寄るべき相手に歩み寄ろうとする事を周囲がよく思わない事も、リリィにとっては悲しい事だろう。
因みに、後で聞いたことだが、パルは別にリリィが人間族だから無視した訳ではなく、単に頭である俺の許可無く部外者に報告するのはいかがなものかと思っただけ、らしい……。
ハジメ「取り敢えず、順を追って話せ。場合によっては、フェアベルゲンで暫し滞在するからな。」
パル「了解であります。……事の始まりは、帝国ではなく魔人族によるものでした。」
そう言って少し思案する素振りを見せたパルの口から、実際に見聞きした事実とフェアベルゲンの戦士達や敵を尋問して得た情報を基に組み立てた事実が話し出された。
その日は、朝から妙に樹海がざわついている様だった。
明確な根拠は無い。他の亜人族にあっては「何の事だ?」と首を傾げる事だろう。
だが、兎人族にとっては確かに感じる事だった。
兎人族は、亜人族に於いて最弱の種族だ。
強靭な肉体も、高い身体能力も、圧倒的な膂力も、特殊な技能も持たない。優しい性格で平和的。
気弱で争い事が何より苦手。だからこそ、危機察知能力と、身を潜める技能に関しては、他の追随を許さない種族だ。
特に、その逃げ隠れに特化した唯一の能力を先鋭化させ、それをハジメの特訓で戦闘能力にまで高めた兎人族の異端一族──
ハウリア族ならば、より明確に感じる事が出来た。
パル「ウサミミが疼きやがる……。」
真白の濃霧の中、高い樹木の太い枝に足をつけ、ウサミミをピコピコさせている少年──ハウリア族のパルが呟いた。
本来、多くのお姉様方に可愛がられるだろう美少年というべき面差しは、歴戦の軍人もかくやという覇気と戦意を湛えている。
ネア「えぇ、嫌な感じね……。帝国兵に遭遇した日の事を思い出すわ。」
どこか艶を感じさせる声音でパルに応えたのは、ネア・ハウリア。
白のメッシュが入った濃紺色のセミロングを掻き上げる仕草に妙な色気がある。
視線は鋭く、パル同様歴戦の軍人の様だ。……因みに、ネアは10歳。パルの友達である。
現在、ハウリア族は族長であるカムの指令の下、樹海の方々へ哨戒に出ていた。
何かが起きたとして、他の亜人族がどうなろうが知った事では無いハウリア族だったが、同族たる兎人族まで見捨てるつもりは無かった。
その為、自分達の集落周辺だけでなく【フェアベルゲン】や他の場所にも監視の目を向けているのだ。
パル「……そうだな。だが、もう以前の俺達とは違う。もう家族を奪わせはしねぇ。」
ネア「えぇ。悉く、その首を刈り取ってやるわ。
……とは言っても、この私達の聖域にノコノコ入ってくるとは思えないけれど。」
10歳の少年少女が織りなす物騒な会話が小さく響く。
と、その時。2人が一糸乱れぬ動きで同時に一つの方向へ視線を転じた。
パル「感じたか?」
ネア「微かに。何、この気配……?」
帝国兵や峡谷の魔物、ましてやハジメとも違う、樹海で未だ嘗て感じた事の無い気配に2人のウサミミがぞわぞわと逆立つ。
2人は互いに頷き合うと、次の瞬間一気に駆けだした。
枝から枝へ、濃霧を僅かに攪拌しながら凄まじい速度で移動していく。
パル「っ、悲鳴!」
ネア「戦闘音も聞こえる。けど……何、この音?」
ウサミミを突く「ヴヴヴヴッ」という奇妙な音。
近い音を挙げるなら虫の羽搏きだが、それよりもっと高域で頭痛を引き起こしそうな不快な音だ。
パル達は気配を極限まで薄めながら争乱の場へと接近する。
少しして見えたのは、血に塗れて倒れている熊人族と狼人族の男。……否、血に塗れて、どころではない。
パル「……こいつぁ、凄まじいな。」
ネア「胴体が真っ二つ、ね。とんでもない切れ味よ。」
地面に着地するなり、【フェアベルゲン】の警備隊員だと思われる2人の死体を検分して険しい表情になるパルとネア。
直後、2人のウサミミがゾワッと逆立った。
パル「ッ!回避!」
ネア「承知!」
同時に、其々が逆方向に飛び退く。刹那、2人が先程までいた場所を何かが高速で通り抜けた。
視認する余裕は無い。一筋の影にしか見えない程の移動速度。
パルとネアが戦慄しつつも着地したと同時、2人の背後にあった木が斜めにズレた。
小さな地響きと共に、何かに切断されて木が倒れた。
ネア「バルトフェルド!」
パル「チッ!」
舌打ち一つ。その場から横っ飛びしたパルの背後から、2m近い巨体が飛び出してきた。
今度は先程の何か程の移動速度は無く視認できる……が、だからといって回避以外の選択肢は無かった。
その正体は、堅固な甲殻と凶悪な角を持った巨大な昆虫だった。
地球でならカブトムシに酷似したフォルムのソレが、背中の羽から魔力を噴射して、凄まじい速度で突進してきたのである。
進路上にあった大木が、まるで豆腐の様にいとも容易く粉砕され、木端微塵になって吹き飛んでいく。
更に、ネアに向かって高速で何かが迫った。
独特の音をウサミミが捉えた瞬間、日頃の訓練の賜物か意識するより早く地面に伏せ、辛うじて回避するネア。
パル「ネアシュタットルム!無事か!」
ネア「無事じゃない!先端のウサ毛を斬られた!野郎、ぶっ殺してやるっ!」
はらはらと舞う自分のウサ毛を見て、ネアは普通なら美少女と称賛されるだろう可愛らしい顔を般若の如く歪ませる。
因みに、ネアシュタットルムというのはネアの二つ名*1である。
とても10歳そこらの少女とは思えない血走った目で周囲を睨むネアだったが、自分たちの周囲に集まり始めている魔物と思しき気配の数に、口の端を引き攣らせる。
ネア「バルトフェルド。」
呼ばれたパルも気が付いているらしい。険しい表情のまま静かに指示を出す。
パル「交戦不可、情報優先。援護する、行け。」
ネア「了解。」
端的な命令に同じく端的に返す。余計なものを挟まない姿は歴戦の軍人の如く。
パルの戦意が高まり、殺気が辺りに撒き散らされる。気配操作の技能により、存在感が膨れ上がる。
同時に、ネアの気配が濃霧に紛れる様に消えていく。
逃がすものかと言わんばかりに、超高速の何かが「ヴォッ…!」と空気を破裂させる様な音と共に飛び出してきた。
一瞬で追いつき、ネアの背後に攻撃を……
「ギィッ!?」
加える直前で、小さな悲鳴を上げて錐揉みし、その魔物は木に激突して地に落ちた。
超高速で飛び周り、進路上の対象を割断する何かの正体は、どうやら極薄の羽を六枚持った蜂型の魔物だったらしい。
その蜂型の魔物の胴体には、太い矢が突き刺さっている。
パル「どれだけ速くても、直線起動じゃあ俺の矢からは逃げられねぇぜ?」
クロスボウを構えるパルが、不敵に笑う。
ネアを襲うだろう事を予測し、極限まで研ぎ澄まされたウサミミで襲撃の瞬間を察知、直感で軌道上に矢を放ち、当てるという熟練の神業。
嘗て草花をこよなく愛した少年は、今やハウリア族随一の狙撃手だった。
ネアの気配は既に無い。パルでも捉え切れない程気配を殺して、既に戦線を離脱した様だ。
すると、今度はドッ!という衝撃音と共に甲虫が突進してくる。それも、3方向から一斉に。
パル「おっと、俺も撤退しなきゃな。……やれやれ、一体こいつらは何なのか。」
クロスボウにロープ付きの矢をセット、即座に撃ち込み、本体のギミックを作動させる。高速の巻き取り機だ。
パルは一瞬で、甲虫の頭上に飛び上がった。下方で3体の甲虫が衝突し、凄まじい衝撃が周囲の地面を吹き飛ばす。
枝の上に着地したパルのウサミミに、ヴヴヴヴッという無数の羽音が伝わる。
それ以外にも様々な気配を捉え、冷や汗が
パル「こいつぁ、本気で遁走しないとヤベェな……。」
普通の兎人族なら既に生存を諦める状況。否、他の亜人族でもそうだろう。
或いは、顔をくしゃくしゃにして天に命乞いをするところか。
だが、即席のブービートラップを淀みなく設置しながら死の鬼ごっこを開始したパルの顔には、不敵で凶悪な笑みが浮かんでいた。
その後、流石に逃げ隠れだけで生き延びてきた種族なだけあって、パルはどうにか新種の魔物達の追跡を撒き逃げ切る事に成功した。
そうして、不穏な気配が漂う樹海の中を、一路、集落目指して疾走していると……
──ヴォオオオオオオオッ!
パル「!これは……フェアベルゲンの警報音?」
腹の底に響く様な重低音が樹海全体に響き渡った。
それは、年に一度、訓練を兼ねて鳴らされる【フェアベルゲン】の緊急警報。
大笛による警笛は【フェアベルゲン】全体、或いは都において緊急事態を示すもの。
どうやら新種の魔物の襲来は、亜人族の国を揺るがす程の規模の様だ。
パル「ま、何はともあれ、まずは族長に報告だ。」
より足を速め、程無くしてハウリア族の集落へと到着した。
フェアドレン水晶が作り出す濃霧除けの結界の中へ飛び込む。
集落の中心部では、既にカムが幾人ものハウリア族から報告を受けていた。その中にはネアの姿もある。
ネア「バルトフェルド!」
パル「応!」
ネアがパルに気付いて手を挙げる。
怪我らしい怪我も無く無事に戻って来たパルを見て、ネアだけでなく、カム達も僅かに表情を緩めた。
カム「よく戻った、バルトフェルド。」
パル「はい族長。いくつか新種の魔物の情報が有ります。」
カム「聞こう。」
静かに声を響かせながら、カムは腕を組んだ。瞑目する様に目を瞑る姿は威厳に満ちており、堂に入っている。
パルは、ネアと別れた後に手にした情報を報告する。
曰く、超高速で飛び回り、すれ違い様に対象を割断する蜂型の魔物。
背中より魔力を噴射し、自身の超重量と恐ろしく頑丈な一角を以て突撃してくる甲虫型の魔物。
羽の音で鈴の様な音色を出し、樹海先住の魔物を操る鈴虫型の魔物。羽の紋様から熱線を放つ蝶型の魔物等。
先住の魔物以外は、濃霧による"感覚が狂う"という作用に例外は無い筈だが、それらの魔物は全く意に介してなかった。
正確に、パルの位置を把握しており、気配遮断に長けた兎人族だからこそ逃げ切る事が出来たと言える状況だったのだ。
カム「やはり、どれも新種だな。
他の者からの報告では、周囲の景色に完全同化出来る枝の様な魔物もいるそうだ。
長い足で木の上から刺突を放ち、毒もあるらしい。」
パル「成程。そいつらが【フェアベルゲン】を襲っている、と。」
カム「正確には、"魔人族と、奴等が引き連れた魔物"が、だな。」
パル「魔人族!侵攻ですか!?」
カム「かもしれん。イオルニクス達の報告だと、魔人族自体には樹海の効果は出ているそうだ。
だが……どうやってか連中、樹海で活動できる魔物を大量に仕入れたらしい。」
集まっているハウリア族の面々が難しい表情となる。と、その時。新たにハウリア族の女性が飛び込んできた。
ラナ「ラナインフェリア、及びミナステリア。ただいま帰還しました。」
黒髪を靡かせる2人の兎人族の女性――ラナとミナは【フェアベルゲン】の対応状況を確認すべく出払っていたメンバーだ。
持ち帰ったであろう情報に、誰もがウサミミを欹てる。
ラナ「フェアベルゲンは門を閉ざし、戦士団の総力を以て迎撃に当たっています。
ただ……完全に奇襲を決められた様で、既に多数の死傷者が出ています。
特に、南寄りの集落やその周辺を巡回していた警備隊は、ほぼ全滅状態らしく、動揺が士気に影響しています。
魔物が強力な事もあり、防衛線を突破されるのも時間の問題かと。」
予想は出来ていた。だがそれでも、ざわつく事は避けられない。
ハウリア族は既に離反したとはいえ、亜人族国家壊滅の危機だ。
カム「狼狽えるな!」
『!』ザッ
落雷の様な怒声が響き渡った。条件反射の様に、ハウリア達全体が足音を立てて姿勢を正す。
鋭い、鷹の様なカムの眼光が巡る。
カム「フェアベルゲンが劣勢だからなんだというのだ。我々のやる事に変わりは無い。連中は敵、殺すだけだ。
違うか?」
全員の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
カム「聞けっ!ハウリア諸君!敵はいずれここまでやって来る、座して死を待つ等愚の骨頂だ!
樹海はそれ程甘い所ではないと骨身に刻んでやろうではないか!
ガルフストリーム小隊!防備を整えろ!トラップ地帯の最終確認をしておけ!」
「Sir,yed,sir!!」
カム「アイデルハイト小隊!魔人族の編成を調べろ!」
「Sir,yes,sir!!」
カム「インビジブル小隊!お前達は魔物の特性を調べろ!行動パターンと固有魔法を徹底的にな!」
「Sir,yes,sir!!」
カム「バルトフェルド小隊!フェアベルゲンに赴き、援護せよ!但し、姿は見せず、時間稼ぎに徹しろ!
フェアベルゲンが保てば保つだけ我等の有利となる。然る後に撤退し、状況を報告しろ!」
パル「Sir,yes,sir!!」
カム「残りの小隊は他の同族の集落へ急げ!少しでも安全な場所へ避難させるか、場合によってはこの集落へ連れてこい!」
『Sir,yes,sir!!』
カム「さぁ諸君!遥々南の僻地より余興を提供してくれた彼等に、最高の
「「「「「YAHAAAAAAAAッ!!!!!!」」」」」
初の対外戦力との戦い。自分達の集落を、家族を、同族を。今度こそ守れるのか……。理不尽に抗う心と力を。
そう求めて、与えられ、鍛えられた力。最弱と揶揄されたウサギ達の真価が、試される時が来た。
ギル「もう少しだ、急げ!一人でも多くフェアベルゲンに収容しろ!」
怒声と悲鳴が木霊する【フェアベルゲン】が敷いた防衛線より、500m程南。
全身を血と汗で濡らした虎人族の男──第二警備隊隊長ギルが声を張り上げる。
その視線の先には、警備隊に守られながら必死に【フェアベルゲン】目指して駆ける亜人族がいた。
彼等は南の集落の生き残りだ。
命辛々戻った警備隊の生き残りが伝えた危急の知らせを受けて、ギル達は救援に駆けつけたのだ。
「隊長、もう保ちません!防衛線までは逃げ切れない!」
ギル「出来る出来ないではない、やるしかないんだ!俺達はその為にいるんだぞ!」
「ですがっ!避難民の殆どは兎人族で──」
ギル「それ以上言うな!」
──非戦闘員たる避難民を連れては、という言外の言葉を感じ取り、ギルは歯を鳴らした。
生き残りの多くは、逃げ隠れが得意な兎人族だった。
争いを何より苦手とする彼等は、老若男女、誰もが怯えた様子で必死に逃げている。
最弱種族への軽視の価値観は根強い。
兎人族を救う為に、貴重な戦力である警備隊が命を投げ出すのかという想いを抱く部下を、一概に責められない。
たとえ、ギル自身に偏見など無かったとしても。
ギル「もう一度言うぞ。戦えない同胞を死守する、それが俺達の役目だ。
少なくとも、フェアベルゲンの戦士となった日、俺はそう誓いを立てた。お前は違うのか?」
「っ、……自分も同じです!」
大きく深呼吸し、決然とした眼差しとなった部下に、ギルは力強く頷く。しかし、その直後。
ギル「ッ!どけっ!!」
部下「!?」
ギルが部下の青年を片手で突き飛ばした刹那、濃霧を吹き飛ばして甲虫型の魔物が突っ込んできた。
警備隊の防衛網が突破されたと理解すると同時に、翳した剣に甲虫の一角が激突した。
ギル「がぁ!?」
意識を彼方に飛ばされたのかと錯覚する様な衝撃。
ピンボールの様に吹き飛んだギルは、地面をバウンドしてから背後の大木に激突した。
「隊長!」
部下の叫ぶ声が聞こえた気がしたが、全身がバラバラになりそうな激痛により応える事が出来ない。
ただ、その霞む視界に、吹き飛んだギルを勢いそのままに追撃しようとする魔物の姿だけが映った。
ギル(こんな、ところで……っ!)
歯噛みするギル。視界いっぱいに広がる魔物の巨体。そして――
???「さて、これは効くか?」
頭上より聞こえた声。次の瞬間、突進していた魔物が悲鳴を上げ、錐揉みしながら僅かに進路がズレる。
そのままギルの脇を通り過ぎ、ズゥンッ!という地響きを上げながら墜落していった。
更に、濃霧の向こうから連続した魔物の悲鳴が聞こえ、やがてそれも小さくなり消えていった。
「小太刀を使っても甲殻にダメージ無し。但し関節部には有効。」
「突進中に開く甲殻の中は弱点。ダメージ大を確認。」
「魔力噴射を推進力にしている。これを固有魔法と断定。
二つある噴射機構の出力調整である程度の進路変更が可能。どちらかを狙撃すれば意図的に進路を変えられる。」
「十分だ。対象を次の魔物に移す。」
ギルが苦し気に頭上を仰ぐと、凭れる大木の上に複数の人影を見た。
その頭頂部にはピコピコと忙しなく動くウサミミ……
ギル「と、じんぞく……だと?」
シュパシュパシュパッと枝から枝にへと飛び移って濃霧の向こうへ消えていく兎人族達を呆然と見やるギル。
そんな彼を、最後に残った兎人族の男がニヤリと笑って見下ろした。
「同族を守ってくれた礼だ、精々足掻いて生き残れ。」
それだけ言うと、最後の兎人族も濃霧の中に消えていった。
気配に敏感なギルをして、一瞬にして気配を感じられなくなった。
「隊長!ご無事ですか!?一体何が……!?」
慌てて駆けてくる部下を前に、ギルは乾いた笑いを上げる。
部下が「頭を打ったのか!?」と更に慌てるが、反論する余裕も無い。
ギル「レギン殿……正気を疑って悪かったな。生きて戻れたら、謝らねば。」
不思議と、魔物が襲ってくる気配は無い。彼等がどうにかしたのかと予測しながら、ギルは軋む体を叱咤して起こす。
そんな彼の脳裏を過るのは、青みがかった白髪の兎人族。かつて、"忌み子"だと処断しようとした少女。
彼女の一族について、馬鹿みたいな報告があった、と。
「隊長?」
ギル「っ……問題無い!助力があって命拾いした。それより、直ぐに次の魔物が来るぞ。
今の内に一気にフェアベルゲンまで駆ける!」
「りょ、了解です!」
指示を出す為駆けていく部下の背を見送るギル。状況は依然厳しい。果たして、防衛線は無事なのか……
ギル「……クソッ。これ程の無力を感じたのは、あの男を見た時以来だ」
厳しい表情のまま、吐き捨てる様にそう言いながら、ギルも残りの避難民を【フェアベルゲン】に迎え入れるのであった。
【フェアベルゲン】の中枢たる長老会議の場には、最古参の森人族族長たるアルフレリックをして、未だ嘗て感じた事が無い程の重苦しい雰囲気が満ちていた。
当然と言えば当然だろう。何せ、今正に亡国の危機に晒されているのだから。
車座になっている長老衆の内、虎人族族長のゼルが拳を床に叩き付けながら咆えた。
ゼル「クソッ、一体どうなっている!?何故、外の魔物が樹海の影響を受けない!?」
ルア「未だに情報は入っていません、今は"何故"より"どうすれば"を議論しなければ……。」
長老衆の中でも若手である狐人族族長のルアが、糸目を更に細めて言う。
グゼ「落ち着け、ゼル。ルアの言う通りだぞ。」
マオ「とはいえ……魔人族が統率する魔物の力は常軌を逸している。防衛線もいつまで保つか分からないわよ。」
土人族族長のグゼが窘める言葉を吐き、翼人族族長のマオが頭を振った。
ゼル「そんな事は分かっている!アルフレリック、貴方が最も長く生きている。何かないのか?」
藁にも縋る様な声音でゼルが尋ねる。アルフレリックは瞑目し閉じていた両の眼をゆっくり開いた。
アルフレリック「……或いは、資格者か。」
その呟きに、全族長が肩を震わせた。脳裏を過る、圧倒的な力でフェアベルゲンを震撼させた白黒髪の少年。
ゼル「馬鹿な……建国以来、1人も現れなかった存在が、こんな短期間にもう1人?」
アルフレリック「1人現れたのだ、後何人いてもおかしくなかろう。
尤も、南雲ハジメと異なり此度の相手は魔人族。敵対の意思無しと伝えたところで、果たして矛を収めるか……。」
アルフレリックは一拍置いて、意を決した様に口を開いた。
アルフレリック「国を捨てる……その選択肢を考えるべきかもしれん。」
ゼル「何をっ!?」
その発言に、思わずゼルが反論しかけるが、直ぐに口を噤んだ。他の族長達も絶句している。
アルフレリック「命には代えられん。
樹海の更なる奥地、北の山脈地帯、南大陸、或いは大陸を横断し、遥か西の海にいる同胞の町に保護を求める。
いずれも厳しい道だが、徹底抗戦よりは生存の可能性はあろう。」
ゼル「だが、この地を捨てるなどっ!我等の聖域、故郷だぞ!?」
アルフレリック「死んでしまっては意味が無い。
国が無くとも生きてさえいれば、いつかまた寄り添い合う事が可能であろう。」
反論の言葉は無く、しかし容易に決断出来る事でもなく。長老達は再び重苦しい雰囲気の中に沈み込んだ。
そこへ、まるで決断を後押ししてしまう様な報告が飛び込んできた。
バンッと激しい音を立てて飛び込んできた狼人族の青年が、泣きそうな顔で叫ぶ。
「戦士団団長、ゴート様が戦死されましたっ!」
「「「「「っ!?」」」」」
【フェアベルゲン】の戦士団を纏めていた狼人族族長ゴート。
長老衆の信頼も厚い、亜人族にとって軍の象徴的人物だった。その人物が討たれた衝撃は計り知れない。
「現在、副団長が指揮を引き継いでおられますが、既に防衛線を最終ラインまで下げる事を決定致しました。
……そして、副団長からの伝言です。
──我等、ここを死地とする。長老衆に於いては、フェアベルゲンより退避を、と。以上です!」
アルフレリック「最早、猶予は無しか……。」
アルフレリックの言葉に異論は出なかった。
孫娘アルテナを想いながら、アルフレリックは各種族の次代の種を選別し、優先的に脱出させる決議を取ろうと口を開きかける。
するとそこへ、更に伝令が飛び込んできた。やって来たのは決死の諜報を行っていた狐人族の青年だ。
「ルア族長、長老衆の皆様。ご報告致します。敵の狙いは"真の大迷宮"の模様です!」
ルア「っ、それは本当ですか?」
それを聞いたルアは、糸目を見開いて思わず問い返す。
「はっ。瀕死の亜人族に、魔人族共が尋ねているのを聞きました。一体何の事か、答えられた者はいませんが……。」
報告に来た狐人族の青年自身、困惑を露わにしている。が、少し前の騒動が脳裏を過っているのだろう。
長老衆を窺う様に見つめている。ルアの視線がアルフレリックへ向いた。
アルフレリック「是非も無い、教えて手を引くなら安いものだ。私が出向く。その方が説得力もあろう。」
いざという時の為に、ゼル達他の族長へ脱出の準備を促しながら、アルフレリックは早々に部屋を出て行った。
「アルフレリック様、危険です!内容をお伝え頂ければ我等がっ!」
種族に関係無く、長老会議の側近達が言い募る。
アルフレリックはそれら全てを「議論している時間的余裕は無い」と切り捨てながら、一応の妥協案として愛用の弓矢を持ってこさせて、最年長とは思えない速度で門へと向かった。
最終の防衛線は、都への巨大な門そのものだ。
その前にロープを切るだけで転がり出る大木の防壁があり、後は周囲の木々や門の上部から矢で攻撃出来る様になっている。
アルフレリックは年齢も体重も感じさせない動きで門の上部に登り切ると、目を凝らして戦況を確認した。
アルフレリック「よく戦ってくれている。」
その言葉通り、戦士団は奮戦していた。誰も彼も傷ついているが、決死の覚悟で未知の魔物を阻んでいる。
だが、時間の問題なのは明かだ。アルフレリックはその遠くまで見通す瞳で、敵側の後方に人影を捉えた。
大きく息を吸うと、よく響く声で名乗りを挙げる。
アルフレリック「私の名はアルフレリック・ハイピスト!フェアベルゲンの長老衆が一人!
魔人族よ!"真の大迷宮"を求めるか!」
怒号と悲鳴が木霊する戦場に不思議とよく響いたその声に、フェアベルゲンの戦士達がギョッとした様に一瞬動きを止めた。
一拍して、魔物達も動きを止める。その狭間を魔人族──ダヴァロスが進み出てきた。
ダヴァロス「ほぅ、貴様が長老とやらか。その様子だと、"真の大迷宮"を知っているな?」
アルフレリック「知っている。長老衆にのみ口伝で伝わっているものだ。内容ならば教えよう。
引き替えに、これ以上の戦闘を即刻止めてもらいたい。我等は、貴殿達の大迷宮攻略を邪魔立てしたりはせん。」
ダヴァロス「ふむ、命と引き替えに情報を渡すと?交換条件という訳か。」
考える様に顎を撫でるダヴァロス。【フェアベルゲン】の戦士達が固唾を吞んで見守る。
ダヴァロス「何故、私達が後方に下がっていたか。考えたか?」
アルフレリック「……何の話だ?」
ダヴァロス「出来る限り温存する為だ。"真の大迷宮"に挑む前に消耗などしたくはなかったのでな。
まして、我等選ばれし種族の力を、亜人族如きに使うなど贅沢が過ぎるというものだ。」
しかし、ダヴァロスの答えは思ってもみない答えだった。それを聞いた亜人族の戦士達からザワリと怒気が立ち昇る。
それを全く意に介した様子を見せないダヴァロスは、スッとその視線をアルフレリックへと向けた。
アルフレリックは、その瞳に宿る狂気を見て総毛立つ。同時に理解する。
南雲ハジメの時とはまるで違う。交渉など最初から有り得なかったのだと。
ダヴァロス「だが、交換条件を持ち出されてはな……。理解しているか?
それは、
獣風情が、我等選ばれし種族と対等だと!?その思い上がり!万死に値するぞ!!」
徐に掲げられたダヴァロスの手。同時に紡がれる熟練にして高速の詠唱。
対するアルフレリックも、尋常でない速度で矢を放った。
空を切り裂く様な矢は、見事その軌道上にダヴァロスの心臓を捉えている。
距離と放った速度を考えれば、正に神業と言えるだろう。
だが、それを予期していたのか別の魔人族が風壁で防いでしまった。
アルフレリック「備えよ!」
ダヴァロス「──"炎殻槌"*2!」
アルフレリックが警告の声を発するのと同時に、ダヴァロスの魔法が発動した。
赤熱する溶岩の砲弾が弧を描いて門へと迫り、轟音と共に、衝撃と爆風が戦士達を薙ぎ倒す。
全長30mはあった重厚な門は内側へと吹き飛び、周囲の木々は抉れ吹き飛んだ。
辛うじて、門の外周と上部が炭化しつつも形を保っている。
アルフレリック「なんという……!」
ただの一撃で吹き飛ばされた最後の防壁。
門の内側に視線を投げたアルフレリックは、戦慄の声を漏らした。
未だ赤熱化したまま地面を焼く岩石の周囲にも、戦士達の多くが倒れている。
息絶えているのか、まだ辛うじて生きているのか、ピクリとも動かない様子からは判断出来ない。
ダヴァロス「理解するがいい。神から見放された半端な生物。
貴様等獣風情が“国”を名乗る事自体、我等選ばれし者にとって堪え難き侮辱であると。
世界は、我等魔人族によって導かれ繁栄すべきなのだ。何故それがわからないのか。
貴様等の愚かしさには眩暈すら感じる。」
衝撃からどうにか立ち直り始めた亜人族達を、血走った目で睥睨するダヴァロスの、憎悪すら孕んだ狂気の声音が響く。
ダヴァロス「国落としも任務の内である事を心から感謝しよう。獣共、光栄に思え。
人間の国の様に奴隷になどせん、……狩り尽くしてくれる。」
飛び出す超高速の影が2つ。一直線に迫るは、アルフレリックの下。
"真の大迷宮"に関する情報を聞き出していない段階で殺害されるとは思えないが、それ故に戦争の最中に殺してしまわないよう、瀕死になるまで痛めつけるつもりかもしれない。
アルフレリック「──ッ!」
矢筒より引き抜かれたのは3本。同時に、門の内側へ仰向けのまま飛び降りるアルフレリック。
長年の経験と受けた報告の内容から咄嗟に取った行動は正解だった。
どれだけ速くとも、標的が飛び降りた以上は進路を変えて頭上から攻撃しなければならない。
その一瞬は、確実に減速する。刹那、飛び降りながら放たれた2本の矢が蜂の魔物に突き刺さった。
弧を描いて飛んだ3本目の矢は、まるで着弾地点をロックでもしているかの様に頭上からダヴァロスを狙う。
更に、空中で身を捻り矢を抜いたアルフレリックは、門の向こう側から矢を放った。
人と魔物の間を縫う様に飛翔する矢は、確実にダヴァロスを狙っている。神弓と呼ぶに相応しい腕前。
流石のダヴァロスもこれには目を見開いた。咄嗟に横っ飛びで矢を回避する。
ダヴァロス「おのれっ!」
亜人族如きに回避を余儀なくされた事に激怒を示すダヴァロス。
即座に放たれたのは無詠唱にも近い速度で放たれる初級魔法"炎弾"の嵐。
初級魔法だというのに、一発一発が恐ろしい程の威力がある。着弾する度に地面が吹き飛び、衝撃が走る。
アルフレリック「ぐあっ!?」
吹き飛ばされるアルフレリック。最年長の長老の窮地に、戦士達が雄叫びを上げる。
だが、魔物達が再び動き出し、更には他の魔人族の攻撃も加わった事で、雄叫びは悲鳴に変わってしまう。
門を破られた衝撃は、既に【フェアベルゲン】中に伝わっている。
伝令も既に走っており、今頃は他の長老衆が必死に非戦闘員達を分散脱出させている事だろう。
だが、果たして逃げ切れるのか。戦士団は、どれだけ時間を稼げるのか。絶望しかない。
どれだけ希望を見出そうとしても、何も見つからない。【フェアベルゲン】は、今日終わる。
とても抗いきれるものでは……
ジン「……違う、まだ希望はあるッ!」
たった今、肋骨を数本折られながらも甲虫の魔物の突進をハルパードで叩き返した熊人族の戦士が荒い息を吐きながら呟いた。
彼の名はジン。
嘗てハジメに返り討ちにあった長老衆の一人で、会議の決定に逆らってハウリア族を襲った若者達の責任を、彼等の代わりに取って一戦士となっていたのだが……*3
ジン「奴等だ、奴等の助力があれば、まだ!行かねばっ!」
そんなジンの元に、蝶型の魔物がひらりと舞い、飛び出す熱線がジンの脇腹と腕を貫いたかと思えば、間髪入れずに甲虫の魔物が突進してきた。
ジンがぁっ!?」
激痛に意識が飛びかけるジンは、フェアドレン水晶が作り出す濃霧除けの結界外に転がり出た。
ジン「すまんっ、皆!今暫く耐えてくれ!」
満身創痍の身ながら、ジンは残りの力を振り絞りながら走り出した。
ジンがハウリア族の集落へ辿り着いた時、そこには既に臨戦態勢のハウリア族が揃っていた。
フェアドレン水晶で作られた結界を抜けて、ジンが姿を現した途端に向けられた、ハウリア族全員の「アァン!?」という声と射殺す様な眼光に、ジンは思わず「ひいっ!?」と悲鳴を上げて飛びあがった。
カム「誰かと思えば、いつぞやの熊ではないか。長老衆を止めてきたと聞いていたが……何の用だ?」
一族を代表してカムが言葉を発する。その凶悪な目つきに、ジンは思わず視線を逸らす。
が、一拍すると勇気を振り絞るように一歩を踏み出し、そのまま前に進み出ると、膝を落として額を地面に擦り付けた。
ジン「恥知らずは百も承知!望むならば我が身命の全てを捧げよう!頼む、力を貸して頂きたい!!」
多くを語らず、ただ額を地面に擦り付け続ける。恥も外聞も無い土下座。
【フェアベルゲン】の戦士が、かつて最強種族の長老にまでなった男が、最弱と軽視される種族の一部族へ伏して願う。
きっと、他の兎人族が見たら腰を抜かして驚くか、夢でも見ているに違いないと己のウサミミを抓る事だろう。
カム「邪魔だ、口を閉じていろ。」
ジン「──っ。」
そんなあり得ぬ懇願を、カムはバッサリと切り捨てた。
ジンは思わず歯噛みし、内心で何故動こうとしないと激昂していた。
樹海と言う亜人族の聖域が、故郷が侵されているのだ。
確執はあれど、この危急の時に動かない事に理解出来ず、ジンは衝動のまま言い募ろうとする。
だが、その前に、カムの何か悍ましい程の感情を孕んだ声が響いた。
カム「全員、情報は共有したな?奴等の狙いは"真の大迷宮"らしい。
……そう、いずれ再訪される"我等が魔王陛下"の為の、あの大迷宮だ。」
『……。』
ジンの肌がゾワリと粟立った。静かなのに、ハウリア達から発される雰囲気のなんと恐ろしい事か。
カム「不敬にも奴等は、陛下のものに手を出そうとしていやがる。」
キィキィと小さく悲鳴が聞こえた。同時にカサカサと周囲の草木が揺れる音と、それが離れていく音が聞こえる。
魔物か虫か、溢れ出る殺気に逃げ出したらしい。ジンも殺気に当てられて動けないが、とても逃げたい気分だった。
カム「……もし、だ。もし連中が大樹に何かして、魔王陛下の大迷宮への道が閉ざされでもしたら……!」ギリッ
そう切るカムの口から歯軋りが響いた。ウサミミがブワリと逆立っている。
カム「訊こう、諸君。我が同志にして家族よ。我等がいながら、みすみす魔王陛下の望みが潰える等……耐えらえるか?」
『Sir,no,sirッ!!』
凄まじい声量と覇気。集落を囲む霧が攪拌される。
カム「胸を張って、再会の喜びを享受出来るか!?」
『Sir,no,sirッ!!』
カム「我等に、魔王陛下の臣だと名乗る資格があるか!?」
『Sir,no,sirッ!!』
カム「そうだっ!そんな無能は糞にも劣る■■だ!我等は■■か!?」
『Sir,no,sirッ!!』
カム「あぁ、違うとも!我等はハウリア族、魔王陛下の精鋭であり刃!証明するぞ!
魔人族共に目にもの見せてくれる!樹海に潜む悪鬼羅刹ここにありとな!」
『Aye,aye,sirッ!!!』
不意に訪れる静寂。高まった熱気が霧散していく。
ジン(いや、違う。熱はそのままに……あぁ、これが本物の殺気。なんて冷たいんだ……。)
気配が、薄れていく。目の前にいるのに、ハウリア族の存在感が希薄になっていく。ジンは理解した。
極限まで静かに、極限までに薄く研ぎ澄まされ、されど確かにそこにいて、気が付けば振るわれる殺意の刃。
これぞハウリア族。否、これぞ最弱と軽視された兎人族の本当の力。
隠れた熱の代わりに、ウサギ達の口元が裂けた。夜天に嗤う三日月の様に。
ゆらりゆらりと揺れて、一人、また一人と消えていく。何処へ?決まっている。兵士が赴く場所など一つ──戦場だ。
ジン「あの時のハウリアは本当に怖かった。以前の様な弱弱しさなど皆無で、ゆらゆら揺れながら口元が、こうスッと裂けて……嗤うのだ。
うぅ、あの日からよく眠れない。……夢に口の裂けたウサギが大量に出てきて、首を……!
ハァッ……!ハァッ……!ダメだ、動悸息切れが止まらない。……薬は、精神安定剤は何処だ……。」
後にジンは他の亜人族にそう語り、そのハウリアの頭たるハジメがやってきて、精神安定のアーティファクトを与えてくれるまで、恐怖に怯え続けていたとか……。
セレッカ「ん?どうした、何故戻って来る?」
最初に、異変に気が付いたのは副隊長のセレッカだった。
傍らで滞空する蜂の魔物*4を見て首を傾げる。
このスキアー、移動速度の速さから足に紙を括り付けて伝令役もこなすのだが、別働隊の部下に送った伝令用の紙がどう見てもセレッカ自身が先程括り付けたものなのだ。
それはつまり、このスキアーが部下の居場所を見失ったという事。
念の為、紙を開いて内容を確認するが、やはり自分が用意したものだ。
セレッカ「……まさか、今更樹海の影響が出ている訳じゃないだろう。」
一つ、懸念が沸き上がったが、セレッカは直ぐ頭を振って否定した。
前方では、ダヴァロスが率先して戦闘を繰り広げており、アルフレリックを含む長老衆や隊長格の戦士達が総出で凌いでいる。
本音を言えばセレッカも亜人族の根絶やしに参加した気持ちでいっぱいだったが、魔物の統率や全体の把握をする者は必要だ。
とはいえ、既に【フェアベルゲン】の中に多数の魔物が侵入しており、戦闘員・非戦闘員問わず亜人族を襲っており趨勢は決まった様なものだった。
若干、肩から力を抜きつつ、もう一度伝令を飛ばそうとスキアーに命じかけたその時。
セレッカ「……何?そちらもか?」
新たなスキアーが戻って来た。やはり別働隊に送っていた伝令のスキアーだ。
出来る限り、亜人族の逃亡を許さない為に小隊を3つに分けて各方面に差し向けている。
その内の2つと連絡が取れない……
セレッカ「……念の為、増援を出しておくか。」
まさか伝令に気が付かない程、余裕が無いとは思えない。
或いは、亜人族狩りに夢中になっていて伝令に気が付いていないだけかもしれない。
こんな時、魔物と意思疎通が出来れば苦労しないのにと苦笑しつつ、セレッカは本隊後方に予備兵力として控えさせている魔物達に、人種の可聴域では捉えられない音を出す笛で集合を呼び掛けた。
フェアベルゲンの周辺を取り囲む様に展開している予備兵力は霧の向こう側にいる。
程無くして、濃霧を散らしながら姿を見せる筈……
セレッカ「……。」
確かに、姿を見せた──想定の3分の1程度の数の魔物が。セレッカはもう一度集合を呼び掛ける笛を吹いた。
魔物は……やって来ない。ヒヤリとした何かが、セレッカの胸中を過った。
セレッカ「どう、なってる?何故、魔物が来ない!制御を離れた……?馬鹿なっ!
フリード様が神代の力で作り出した魔物だぞ、有り得んっ!」
セレッカは本隊に残した部下の一人に様子を見に行く様命令しようとした。
セレッカ「フィドラー!魔物が反応しない、様子を──……フィドラー?おい、どこだ!?フィドラー!」
言葉は途中で止まった。先程まで、少し離れた場所で、門周辺に陣取る亜人族達を相手にしていた筈の部下がいない。
周囲を見渡すセレッカは、そこで漸く周囲の変化に気付いた。
セレッカ「結界の範囲が……狭まっている?」
そう、【フェアベルゲン】周辺はフェアドレン水晶の結界で濃霧がある程度晴れた場所だった。
しかし、その範囲が明らかに狭くなっているのだ。と、その時。濃霧の向こう側をサッと過る人影が見えた。
セレッカ「フィドラー!お前か!?……くっ、返事をしろ!」
返事は無い。未だ、精鋭たる部下の身に何かあったとは考えない。趨勢は決したのだ。
粘る戦士達を掃討し終われば、ダヴァロスが長老衆や隊長格を倒せば、汚らわしい獣共の虐殺の時間が始まる筈なのだ。
セレッカ「お前達っ、行け!フィドラーの援護をしろ!」
命令を受けた10体程の魔物が、人影の見えた霧の向こう側へ突撃する。これで何も問題無い。無い筈だ。
何故か流れる冷や汗を、セレッカは無視した。
セレッカ「っ!?"風刃"!」
唐突に、背を突く殺気。セレッカが思わず、振り返り様に放った魔法は、成程一流のソレだ。
だが、風の刃は真白の霧を攪拌するだけ。意味の無い一撃となった。
セレッカ「何だ?何が起きて……?」
漸く何か良くない事態が起きていると認めたセレッカの足下に、ゴトッと何か重い物が落ちる音がした。
吸い寄せられる様に視線を転じる。そこにあったのは……
セレッカ「ッ──!!!」
思わずその場を飛び退いたセレッカ。転がっていたのは"フィドラーの一部"だった。
セレッカ「隊長!襲撃を受けています!敵は正体不明!」
門の内側で激戦を繰り広げていたダヴァロスが、その悲鳴じみた警告に動きを止めた。
奇しくも、それは、地に倒れ死に体のアルフレリックへ"緋槍"を突き込む寸前だった。
既にゼルを筆頭に長老衆は軒並み倒れ、隊長格が膝を突いた状態。
"真の大迷宮"の情報を得る為に急所は外すつもりだったのだろうが、凡そ決着の一歩手前といった状態。
ダヴァロス「何?襲撃?どういう意味だ?」
肩越しに振り返りながら、ダヴァロスは表情を歪める。
セレッカ「霧の中に"何か"います!フィドラーが戦死!2隊と連絡途絶!送り込んだ魔物も全滅の模様!」
ダヴァロス「ッ!?都内に侵入させた魔物を呼び集めろ!残りの一隊は誰のだ!?」
セレッカ「バレン隊です!」
ダヴァロス「直ぐに呼び戻せ!」
不測の事態。ダヴァロスの血走った目が、足下で膝立ちになったアルフレリックに向く。
燃え盛る炎の槍が、彼の顔に向けられた。
ダヴァロス「何を隠している?このタイミングで切り札とは、やってくれるではないか!」
大事な同胞を失い、敬愛する将軍より預かった魔物を多数失った。
それを事実だと察し、激情を抑えるダヴァロスの声音は震えている。
とはいえ、アルフレリックには何の事か分からない。
切り札なんてものがあるのなら、門を突破される前に切っている。寧ろ、困惑しているのはアルフレリックの方だ。
正直に、何の事か分からないと口にしかけたアルフレリックだが、その視線が門の上を流れた瞬間、硬直した。
質問に答えず大きく目を見開いて驚愕を露にしている彼を見て、ダヴァロスもその視線を辿る。
そこには――人がいた。ウサミミを靡かせる兎人族が。
だが異様だった。魔人族側も、亜人族の各種族の特性はある程度知っている。
今回の樹海襲撃で、兎人族が戦いとは無縁の腰抜けである事も理解している。
だが、その兎人族は、悠然と佇んでいた。返り血にウサミミを染め、殺意に染まった眼光で睥睨している。
片手には抜き身の小太刀。もう片方の手には――
ダヴァロス「き、さまっ……!」
魔人族の首。連絡が途絶した、部隊を任せていた部下だった。
アルフレリック「カム……ハウリア……?」
その姿に、アルフレリックが呆然と呟く。かつて、追放した一族の長の名を。
同時に、長老衆が、戦士達が、同じ様に呆然と門上を仰いだ。誰も彼も、驚愕に目を見開く。
そんな中、カムは無造作に、それこそゴミを捨てる様に首を放り捨てた。そしてダヴァロスをジッと見つめると……
カム「フッ。」
誰にだって分かる、勘違いの余地も無い程に、あからさまな"嘲笑"だった。
ゆらりと揺れて、カムの姿が木々の狭間、霧の向こう側へと消え去る。
フェアドレン水晶が撒かれたのか、消えた道筋を示す様に霧が道を作っていく。
これもまた、丁寧な程の"挑発"だった。
ダヴァロス「……セレッカ副隊長。全戦力を揃えろ。ウサギ狩りの時間だ。」
抑揚の消えた声。ダヴァロスは嘘の様に無表情となっていた。
どうやら、沸点を超えた怒りは、人から表に見える感情を奪うらしい。
セレッカ「直ちに!」
反対に、激情を抑えきれないセレッカの声が応えた。
ダヴァロスは長老衆を一度も見る事無く、真っ直ぐ、カムの消えた道へと進み始めた。
疲弊とダメージで碌に動けない彼等を捨て置いても問題無いと判断したのだろう。
或いは、価値を認めない亜人族の、それも最弱種族からの嘲笑に冷静さを失ったか……
アルフレリック「まさか、彼等に救われる事になるとはな……。」
魔人族と魔物が消えた【フェアベルゲン】で、アルフレリックはバタリと倒れ込むと、そう呟いた。
長老衆も戦士達も、その言葉に呆然と頷くのだった。
濃霧の中を、魔物の先導に従って進むダヴァロス達。
途中、残りの一隊が合流したが、やはり残る二つの部隊は各個撃破されたらしかった。
生き残った魔人族は、ダヴァロスとセレッカ含め僅かに6人。
魔物の損耗率は実に5割超という目も当てられない事態だった。
何より屈辱なのは、気が付いたのがそこまで被害を出してから、という点だ。
自分達が【フェアベルゲン】を攻めている間、端の方からジワジワと削り取られたのだと思うと、そして、それこそが作戦だったのだと思うと、まんまと嵌められた事に腸が煮えくり返る思いだった。
絆が強い事で有名な亜人族が、まさか本国を囮にするなど思いもしなかったのだ。
仕方無い誤算と言えば仕方無い。
まさかダヴァロス達も、襲撃者が既に【フェアベルゲン】から追放された一族で、兎人族以外の亜人族の命ですら、勝利の為の捨て駒程度にしか思っていないなどと思いもしないだろう。
ダヴァロス「これ程の屈辱、未だかつて感じた事も無い!根絶やしにせねば本国に顔向け出来ん!」
セレッカ「仰る通りです、隊長!戦争に卑怯は無いとはいえ、同胞を犠牲にするやり方は虫唾が走る!
奴等は生かしておけません!」
ダヴァロスとセレッカの言葉に、他の4人も激しく頷いた。と、その時。視界の端に人影が過った。
予め命じていた通り、スキアー数体が迅雷の速度で飛び出し……何も無い所で真っ二つに裂けて落下した。
ダヴァロス「なっ!?」
セレッカ「馬鹿なっ、どこから攻撃を!?」
ダヴァロスが目を見開く。セレッカが周囲に警戒の視線を飛ばす。
再び人影が霧の向こうに走った。命令は撤回されておらず、次のスキアー達が飛び出していく。
そして、同じ様に木々の狭間で真っ二つに裂けて落下した。
ダヴァロス「違うっ、副隊長!木々の間を見ろ!糸だっ、極細の糸が張られている!
トラップだ、スキアーを突撃させるな!」
代わって、木々ごと吹き飛ばす甲虫型の魔物──ドライガを突撃させる。
セレッカ「小細工を。纏めて轢殺してしまえっ!」
ワイヤーの張られた木々が粉砕され、そしてドライガは……地面に落ちた。
セレッカ「今度はなんだ!?」
粉砕された木々に固定されたワイヤー。
それが地面へと引かれる事で射出される矢が、ドライガの
そして、文字通り叩き落されたドライガは地面を滑り、その先の落とし穴へ見事に落ちた。
途端、どこからともなく投げ込まれる火種が、落とし穴の底に溜めてあった可燃物に引火して標的を焼く。
突撃させた数体のドライガは皆、同じ末路を辿った。
ダヴァロス「円陣を組め!全方位に範囲魔法!キュベリアにも掃射させろ!」
無数の熱線を放てる蝶型の魔物──キュベリアが熱線を以て全方位を撫でる。
その間に範囲攻撃魔法の詠唱を行うダヴァロス達。
魔法に優れた魔人族6人の一斉範囲魔法攻撃となれば、辺り一帯がまとめて吹き飛ぶのは必然。
しかし、時間稼ぎにキュベリアの熱線を乱発させたのは悪手だった。
熱線に撫でられ両断された木が倒れると同時に、バツンッと何かが切れる音が鳴った。
次の瞬間、轟ッと風を唸らせながら急迫したのは大木の振り子。
巨大な槌と化したそれが数体の魔物ごと魔人族の一人を吹き飛ばした。
「ぐぁっ!?」
霧の中に吹き飛び消える魔人族。直ぐに霧の中から「ぐえっ!?」と、生々しい断末魔の声が漏れ聞こえた。
「クレイマっ!──ガッ!?」
特に親しい間柄だったのだろうか。
別の魔人族が、恐らく絶命したと思われる戦友の悲鳴に、つい詠唱を中断してそちらを見てしまう。
その瞬間、狙い澄ました様に一本の矢が延髄に突き立った。グラリとドライガの背から落ちる魔人族。
一瞬で、6人中2人を失った。だが、詠唱を継続した甲斐はあった。周囲一帯を塵芥に変える魔法が発動する。
「「「「──"千刃嵐帝"!」」」」*5
周囲の鬱陶しい木々や霧ごと敵を吹き飛ばし、切り刻んでやろうという意図は、確かに戦況を変える意味では正しい。
だが、複数のトラップが張られていたという事を、ダヴァロス達はもう少し考慮すべきだった。
そう、ここは彼等ハウリアの領域。当然、見えないトラップに業を煮やした敵が何をするかなど想定済み。
故に緊急回避の為の措置も準備されている。方法は単純、塹壕だ。
深く掘った塹壕を、丁寧に削り出した岩盤で補強し、これまた衝撃に強い硬質な板で蓋を作ってある。
彼等の持つ小太刀が、アザンチウム製かつこの世界では尋常ではない切れ味を持つからこそ出来る防御方法。
せめて、先程の"炎殻槌"の様にクレーターを生み出す様な爆撃系の魔法なら違ったのだろうが……
ダヴァロス「ふん、多少は見晴らしも良く──」
セレッカ「隊長ッ!」
ダヴァロスの隣に飛び出したセレッカの肩に矢が突き立った。更に、全方位からお返しとばかりに矢が殺到する。
ダヴァロス「副隊長!チッ、地面の下に逃げ込んでいたか!」
射角から位置を割り出すも、夥しい数の矢や投石、更には投石に紛れて袋に包まれた正体不明の粉が充満し始めた為、障壁展開を余儀なくされるダヴァロス。
実は、それはただの無害な植物粉だとは思いもしない。
これはただの時間稼ぎだ。吹き飛んだ濃霧が再び彼等を覆うまでの。
矢と投石が止んだ後も植物粉が濃霧の代替を果たす中、風の魔法を準備する魔人族達。
ダヴァロス「魔物共よ!行け!兎を駆逐しろ!」
濃霧が迫ろうと、魔物達なら敵を捕捉出来る。
だが、肝心の魔物達は指示を出しても右往左往するばかりで突撃しない。
ダヴァロス「?どうした?何故敵を追わない……、っ!」
傍と気が付く。そういえば、あの兎人族を追い始めた時から"見つけ次第強襲する"ように、魔物達に命じてある。
だが、魔物達は霧の向こうに人影を見つけた時しか突撃しなかった。
自分達と異なり、視認などしなくとも居場所を掴める筈の魔物達が!
それはつまり、敵は気配すら感知させない技を持っているという事で……
ダヴァロス「っ、まずい!来るぞっ!備えろ!」
その事実に漸く気づいたダヴァロスが警告の声を発すると同時に、ぬるりと地を這う様な姿勢で忍び寄って来た影が複数。
???「残念、一歩遅い。」
誰が発した言葉か。
魔人族達はダヴァロスの障壁で守られていたものの、その範囲外にいた魔物達が一斉に血を噴き上げ、断末魔の悲鳴を上げた。
八方向より現れ、魔物の合間を縫う様にして進み、一度も足を止めず、すれ違い様に急所へ一撃ずつ。
敵ながら惚れ惚れする様な一撃必殺のヒット&アウェイ。
再び八方へ消えていく兎人族に、漸く敵を見つけたと殺到する魔物達。当然、行き先は八方に分散する。
セレッカ「隊長!ここは奴等のテリトリーです!一度フェアベルゲンまで戻りましょう!
忸怩たる思いですが、魔物まで気配を捉え切れないとなれば不利に過ぎます!」
ダヴァロス「……何たる事だっ、獣風情にっ!」
握った拳から血を滴らせるダヴァロスだったが、セレッカの進言は正しい。
態勢を立て直す為、ダヴァロスは一時後退を決断した。
ダヴァロス「行くぞ、一気に突破する!」
ドライガに騎乗し、来た道を引き返す。だがそれは、再び木々の群生地帯へ分け入る事でもあり……
「あぁああああああっ!?」
「ヘザー!」
ヘザーと呼ばれた魔人族が、垂れ下がったロープに首を取られて吊り上げられた。
振り返った直後、霧に覆われた頭上より血の雨が降り注ぐ。
キュベリアが熱線を乱射するが、的確に飛来する矢が一体、また一体と貫いていく。
地上を走る魔物は落とし穴に落ち、或いは粘性の高い樹液らしきものに捕らわれ動きを封じされていく。
置き去りにした背後から断末魔の悲鳴が響く。そして挑発する様に、時折見える、人影とウサ耳。
「調子に乗るなぁああっ!!」
それに対して魔人族の一人が、恐怖に駆られたように進路をずらし突進。魔法を乱れ撃つ。
程無くして、人影が吹き飛んだ。
「ハハッ!見たかっ、これが──」
ダヴァロス「バレン!隊列を乱すな!」
隊列から抜けた魔人族にダヴァロスが怒声を上げるも、時既に遅し。
爆風で一時的に晴れた濃霧の向こうに見えたのは、木で作られた張りぼてだった。
バレンが「え?」と疑問顔になった瞬間に、頭上より舞い降りたウサ耳お姉さんが撫でる様に彼の首を刈った。
着地の瞬間を狙ってダヴァロスとセレッカが魔法を放とうとする。
が、合わせて急ブレーキをかけたドライガが突如悲鳴を上げて暴れだした為、魔法は中断され2人揃って投げ出された。
ダヴァロス「おのれ、どれだけトラップを仕掛けた!?」
ドライガの足に食らいついているのは、割れば鋭利な断面を見せる黒曜石の様な鉱石を使ったトラバサミだった。
セレッカ「た、隊長……っ!」
苦し気な声。視線を転じれば、四つん這いになっているセレッカの背には無数の立体的な棘が刺さっている。
それは撒菱だった。トラバサミで転倒し、転げ回ったら刺さる様にセットしてあったのだろう。
ダヴァロスに刺さらなかったのは僥倖だった。だが、そんな幸運は、やはり滅多に無い。
周囲では、見える範囲でも魔物達が次々と罠に嵌っていた。
踏み込んだ瞬間、隠してあった袋を踏み、噴き出した空気と一緒に毒花の花粉を浴びて悶え苦しむ鈴虫型の魔物──リンバル。
てこの原理で跳ね上がった槍に腹を貫かれるドライガ。
有刺鉄線の様な植物の蔦で作られた網に捕らわれ、同時に落ちた石の重みで網が引き絞られて、中でズタズタになったナナフシ型の魔物──オゾムス。
神出鬼没に発生する気配に翻弄されて、蜘蛛の糸の様に張り巡らされたワイヤートラップにより両断されていくスキアー。
先程のヒット&アウェイで八方に分散して敵を追った魔物達も、現在進行形でブービートラップの餌食になっていた。
勿論、トラップだけではない。これはあくまで、ハウリア族の数的不利、能力的劣勢を覆す為の一手段に過ぎない。
蝶型の魔物であるキュベリア等は、パルを筆頭にハウリア族の狙撃部隊が的確に撃ち落としている。
気配を極限まで消し、一撃放つ毎に場所を変え、濃霧の向こうからクロスボウという狙撃に向いた武器で狙い撃ちにするのだ。
そして、トラップで致命傷を負わずとも、気が逸れた瞬間、いつの間にか踏み込んできたハウリア族達が小太刀で斬殺していく。
ダヴァロス「なんという悪辣なっ!樹海の獣共は悪魔かっ!?」
次々と罠に嵌る魔物を見て、ダヴァロスが思わず叫んだ。
きっと、【フェアベルゲン】の戦士が聞いたら全力で首を振るに違いない。一緒にしないで、と。
そんなブービートラップを愛用するが如く多用する種族、否、亜人部族等ハウリア族だけだと。
これも全て、異世界からやって来た大魔王による意識改革、もとい教育兼訓練の賜物とは思うまい。
魔人族の英雄と呼ばれたフリードを、赤子の様に弄ぶイレギュラーの影響力は、悪辣ウサギ共という形で、確り樹海に根差していたのだ。
ダヴァロス「フェアベルゲンまで下がれば、長老を人質に……!」
「無意味だと思うがね?」
ダヴァロスの呟きに、反響する様な声が響いた。
周囲を動き回ってるせいか、はたまた気配が唐突に現れたり消えたりを繰り返しているせいか、居場所が判然とせず声がブレて聞こえる。
ダヴァロス「無意味だと?」
「然り。長老衆を殺りたければご自由に、という事だ。特に、何とも思わんよ。」
ダヴァロス「……貴様等の統率者ではないのか?」
「我等を統率できるのは、世界にただ1人。そしてそれは、これから死ぬお前が知る必要の無い事だ。」
ダヴァロス「獣風情が、この私を殺すというか?ならば、この命、決して易くはないと証明してやろう。」
「その前に、そちらの青年は放っておいていいのか?」
ダヴァロス「何?」
そういえば、先程からセレッカが随分と静かだ。
棘が背中に刺さってはいたが、致命傷になる程深いものではない筈だったが……
セレッカ「ぅ、ぁ……たい、ちょう。逃げ、てくだ、さ……。」
ダヴァロス「セレッカ副隊長!?どうし――この顔色っ、毒か!」
確殺を信条としているだけあって、殺意マシマシのハウリア族。敵を誘い殺す場で、ただの撒菱など設置しない。
霧の中から、ゆらりと姿を見せる兎人族が1人。
ダヴァロス「……信じられん。本当に兎人族なのか。最弱という話はなんだったのだ?」
カム「嘘ではないよ。全ては気合の問題だ。
戦わず、逃げ隠れするだけと言われれば確かに最弱の誹りは免れないが、逆に言えば、戦わずしてこの樹海で生き残れるという事。
即ち、それだけのポテンシャルがあったという訳だ。」
一拍置いて、カムはニヤリと不敵に笑って言った。
カム「こと、この樹海に限って言うならば、兎人族程上手く戦える種族はおるまい。
戦う意思さえ持てば、ハルツィナ樹海最強の種族とは──我等、兎人族である。」
ダヴァロス「咆えたな、己を最強と称するか。」
鼻で嗤うダヴァロスに、カムはやれやれと肩を竦めると、溜息を吐いた。
カム「最強は我等が陛下にこそ相応しい称号だが……まぁ、お前に言っても仕方ない。」
ところで、魔物共は我が一族が各個撃破し、残りも時間の問題だ。少なくとも、この場には救援に来られん。
ご自慢の部下も死にかけが一人いるのみ。問おう──ハウリア族族長たる私と、一騎打ちを望むか?」
カムが試す様に告げた問いかけに、ダヴァロスは目を見開いた。
そして、不敵に笑うカムを見て、状況的有利から慢心していると判断した。
ダヴァロス(こいつを人質に取れば、他の兎人族を抑えられるか?
祖国には顔向け出来ん失態だが、せめてこいつらの情報だけは伝えたい。)
一瞬でそう判断したダヴァロスは、スッと立ち上がると半身に構えた。
ダヴァロス「獣風情の中にも気概のある者がいる様だ……一騎打ちを望もう!尋常に勝負されたし!」
カム「ふむ、そうか。では戦おう。」
そう言ってカムが小太刀を抜き、腰を落とした。今にも飛び掛からんばかりの臨戦態勢。
ダヴァロス(初級の魔法でいい。速度重視。魔法名のみの詠唱省略で、まずは足を奪う!)
出鼻を挫く目論見で、最速の魔法を放つ。カムが踏み込んだ瞬間、その足を狙うのだ。
まるで、ガンマン同士の決闘の様に、俄に高まっていく緊張感。そして、カムの足に……グッと力が込められた。
ダヴァロス「──"風撃"!」
風の礫がカムの踏み込みの足を撃ち抜く──
ダヴァロス「なっ!?」
事は無かった。カムが、そのままバック走をして霧の中に消えてしまったが為に。
ダヴァロスをして息を吞む様な殺気を叩き付けながら、全力で逃走するその姿に、さしもの歴戦の軍人も一瞬の啞然は避けられない。
そして、その隙を、先程の会話の間に完全包囲を済ませたハウリア族の狙撃チームが逃す筈も無く――
ダヴァロス「ぐぁっ!?」
目論見とは逆に、ダヴァロスは幾本もの矢で足を撃ち抜かれて膝を突いた。
更に、その顔面にスリングショットで飛ばされた小袋が着弾。
樹海の一角に群生する激辛調味料*6の元となる種を磨り潰したハウリア特製催涙弾だ。
魔法使いにとって致命傷である呼吸困難に陥り、げはっごはっと盛大に咳き込むダヴァロスの背後から凶刃が迫る。
ダヴァロス「っ!」
咄嗟に振り返りながら回避するダヴァロスだったが、気配を感じ取れた時点で、それは罠だ。
──ズブリッと、ダヴァロスの胸から小太刀の鋩が飛び出した。
ダヴァロス「ぎ、ざまっ……一騎打ちだとっ!」
呼吸困難になりながらも、憎悪の声を上げるダヴァロス。それに対し、小太刀を握るカムが、首を傾げて言う。
カム「私は"一騎打ちを望むか"と訊ねただけだが?」
つまり、「お前は一騎打ちがしたいんだな。よく分かったよ。私はしないけどね。」という事だったらしい。
ダヴァロス「この……外道がっ!」
カム「陛下以外に褒められても嬉しくはない。」
その言葉を最後に、2本目の小太刀がダヴァロスの首を薙いだ。
意識が闇の中に沈んでいく中、ダヴァロスは神に祈りながら、同胞と将軍がいる祖国に向けて心中で叫んだ。
──樹海には、悪鬼羅刹というべきイレギュラーなケダモノが棲んでいると。
パル「──とまぁ、そんな感じで魔人族共をブチのめしてやったわけですが。
生憎フェアベルゲンの被害は……ん?どうされました、皆さん?
そんな苦虫を一万匹位纏めて嚙み潰した様な、物凄く居た堪れないというか、躾けていたペットが想像以上に成長しちまって、もうどうしたらいいのか分かんない、みたいな顔して。」
シア「パル君、分かってて言ってないですぅ?」
正に、パルの言っている通りの顔をしていたシアがジト目で言う。
しかし、パルは本気で分かっていない様でコテンと首を傾げた。ラナ達他のハウリアの面々も同じだ。
「一体どうしたんだろう?」と言いたげに、キョトンとしている。
パルが話し始めた当初、ブリッジでは、誰もが亜人族の境遇を思い痛ましそうな表情をしていたのに、今や感情の向く先は魔人族であり、空気は最早通夜の様。
宿敵たる魔人族相手に、まさか冥福を祈る日が来ようとは……リリィを筆頭に王国の面々は沈痛そうな顔を浮かべている。
そして、光輝達は、かつて【オルクス大迷宮】で遭遇した女魔人族相手に「見逃してあげるのに敵対するんだ?じゃあ、死ね。」と容赦なく粛清し、王都侵攻時に「クラスメイト?知らん」とばかりに息子()の殺害も問わない誰かを思い出したのか、「この師匠にしてこの弟子ありか!」と、言葉にはしないものの表情と視線で盛大にツッコんできた。
加えて、話の途中から頭を抱えだしたシアが、ジト目を俺に向けて言う。
シア「ハジメさん、どうしてくれるんですか?私の家族、すっごく成長してますよ。それも突き抜けた方向に。」
ハジメ「別に良かろう、強くなったのだし。とはいえ、だ……そろそろ慈悲と言うものを覚えて貰いたいものだ。」
シア「そこじゃねぇですよ!いや、確かにそれもそうですけれども!」
まぁ、突き抜けているのはシアも同様なのだが……。
ハジメ「さて、その戦闘についてだが……戦略面は中々良かったぞ。
徹底した情報収集、種族特性を最大に活かした攪乱、奇襲、闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯卑劣に嘘ハッタリ、罠の設置も文句なしだ。
正直、他種族の犠牲も最小限に抑えることが出来れば尚良かったが……流石に俺も多くは求めん。
魔人族を全滅出来ただけでも御の字だ。改めて言おう……よくやったな、我が精鋭達よ。」
パル「へへへへへへ陛下がッ!陛下が俺達をぉ、お褒めになられたぞぉっ!」ブワァッ!
……ちょっと褒めただけなのに、パルが眼から涙を滂沱の如く溢れ出させた。ウサミミもビョ~~ンと伸びている。
ネア「あぁっ、何たる光栄!」
ヤオ「地獄の訓練に耐えた甲斐があったなぁッ!」
ラナ「ぼすぅっ!わたじ、わたぃはっ、もう死んでも構いません!」
ミナ「ラナインフェリナっ、何を言ってるの!これからよ!その為に頑張って来たんじゃない!グスッ……。」
ヨル「ふっ、ミナステリア。お前が感動で泣く所、初めて見たぜ。くぅ、俺も何だか泣けてきたッ!」
お前等もかい……結果、総勢12本のウサミミが狂ったようにブルンブルンッと荒ぶり、歓喜を示している。
どいつもこいつも、先程の様に堪えることが出来ず、滝のような涙を流している。
ユエ「……ハジメ。不用意に彼等を褒めちゃダメ。」
ハジメ「解せぬ……。」(´・ω・`)
シア「うちの家族が毎度毎度、お騒がせしてすみませんです!」
どうしよう……これ、日本に連れて行く時に思想改革は必須かもしれん。
ハジメ「まぁ、それはおいといて、だ。。今のは現状の前段階だろ?本題は?」
俺が続きを促すと、パル達はクワッと目を見開き、涙を止めた。
その光景に何故か
尚、ミュウのみキラキラした眼差しで見ていたが、直ぐにレミアにシャットアウトされた。解せぬ。
パル「肯定です。
魔人族を撃退した俺達ですが、大量の魔物を狩るのにほぼ全てのブービートラップや消耗系の武器を使っちまいました。
だから集落の防備を整える為と、フェアベルゲンからの煩わしい彼是を避ける為に集落に引っ込んでいました。」
煩わしいって……気持ちは分からんでもないけどさぁ。
当然【フェアベルゲン】の戦力はガタ落ち状態で、負傷者の手当てや脱出させていた同胞の呼び戻し、壊れた門を含め防衛線の再構築等にてんやわんやの状態だったそうだ。
事が起きたのはその最中――魔人族の襲撃から僅か3日といった頃らしい。
パル「泣きっ面に蜂って奴ですかね、今度は帝国の連中が侵攻してきたんでさぁ。
それも奴等、樹海の特性を突破出来ないからって、とんでもない力押しで来やがったんです。」
ハジメ「力押しぃ?まさかとは思うが、森に火を放ったとか抜かすんじゃねぇだろうな?」
パル「……肯定です。」
リリアーナ「なっ、樹海に火を放ったのですか!?」
その返答に、思わずリリィが声を張り上げると、パルはチラリとリリィを見やって頷いた。
パル「今まで帝国は、樹海の住人を攫う時は奴隷に強制して案内させるって手法を取っていましたから、まさかの事態でしたよ。」
当然、奴隷の亜人は隙あらば牙を剥こうとする。
自分の案内で、同胞が同じ境遇に陥るかもしれないのだ。当然である。
故に。奴隷に対する強制力はあっても、樹海への侵入は相応のリスクがある行為で、そう頻繁にある事でもないらしい。
なのにまさか、魔人族侵攻直後のタイミングで、そんな前代未聞の方法でやって来るとは誰も想像していなかった、ということである。
パル「目的は侵攻ではなく、人攫いでした。」
ハジメ「態々樹海を焼野原にしてまですることが、ただの火事場泥棒とはな……随分と低俗なものだ。」
パル「肯定です。俺達も気付くのが遅れちまい、駆けつけた時には……。
フェアベルゲンは碌に抵抗も出来なかった様です。」
ハジメ「成程……大方、帝国でも魔人族が暴れたのだろうな。」
その予想に、パルはコクリと頷く。
パル「殿の部隊から帝国兵を何人か攫い尋問した結果、どうやら帝国でも強力且つ未知の魔物が大暴れした様で。
帝都は相応の被害を受けたそうです。アイツ等、"消費した労働力を確保する必要が"なんて言ってやがりました。」
吐き捨てる様なパルの言葉に、誰もが息を呑んだ。特に、リリィの動揺は激しい。
これから支援を含めて協議しようとしていた目的地が同じく襲撃に遭っていて、無茶をしてまで労働力の確保に努めている状況だったのだから当然と言えば当然だろう。
ハジメ「コソ泥風情が何を言うかと思えば……それで?外に出ているのは兎人族にも被害が出たからだろう?」
パル「えぇ、胸糞悪い話です。」
愛玩動物として認識されている兎人族が、帝国でどういう末路を辿るか等、火を見るより明らかだ。
必要とあらば【フェアベルゲン】すらも使うハウリア族でも、流石に同族の悲惨な未来を見過す事は出来なかったようだ。
カムは、部下の殆どを樹海の警戒に残しつつ、自ら少数精鋭の選抜部隊を率いて帝都へ向かったのだという。
だが、帝都に到着し、都内に侵入した後、カム達からの連絡が途絶えてしまったらしい。
伝令役との待ち合わせ場所に、部隊の誰も姿を見せなかったことから、カム達の身に何かが起きたと察したのだろう。
勿論、最早ジッとしていられないと、ハウリア族は更に選抜した部隊を帝都へと送り出したのだ。
その一部隊が、パル率いるバルトフェルド小隊という訳だ。
パル「不用意に侵入して二次遭難じゃ目も当てられません。
それで、帝都の警備体制やら、出入り関係やら、情報収集に徹していやしたところ、大量の奴隷を乗せた輸送車が他の町に向けて出発したもんで。
内部情報の収集も兼ねて奪還を試みたって訳でさぁ。」
そこへ偶然、帝国へ向かっていた俺達が通りかかり、後は先程見た通り、殺戮ウサギの宴が開始された、という訳だ。
ハジメ「それにしても……魔人族側は随分と呑気なものだ。アレの傀儡には実にお似合いな頭をしている。
慢心ばかりの能天気さと、徒に遊ばせられる人員の多さだけは、実に羨ましいものだ。」
そうボヤく様に呟くと、国家経営の大変が理解出来るリリィは大きく頷き、光輝達も危うく全滅しかけた苦い記憶を思い出し、顔を顰める。
すると、俺のボヤキに反応したパルが、ウサミミを傾げて訊いた。
パル「その様子ですと陛下、もしや魔人族は他の場所にも?」
ハジメ「あぁ、【ウル】、【ホルアド】の【オルクス大迷宮】、【アンカジ公国】、【ハイリヒ王国】と、行く先々にカビのように湧いてくる。
尤も、奴等の総大将でも片手間にぶっ飛ばせるから、そこまで脅威じゃねぇけどな。」
改めて思うと……魔人族もとばっちり受けまくってんな。だが私は謝らない。だって、正当防衛ですしお寿司。
幸利「後、作戦も悉く失敗に終わってるよな。ここもそうだし。」
ハジメ「ふむ……樹海での作戦の失敗は……ハウリア達が原因で……
それは彼等が最弱を卒業したいと思ったせいだから……つまり、俺がハウリア達を鍛え上げたせい……はっ!!
全部、私のせいだ!ハハハハハッ!パル君、全部私のせいだ!フフッ!」
そう言って何処ぞのマッドサイエンティスト宜しく高笑いすると、ハウリア達は目をキラキラさせ、ミュウ以外の面子がドン引きしだした。
ハジメ「取り敢えず大体の事情は分かったことだし、お前達は引き続き帝都で情報収集か?」
パル「肯定です。それでですね、魔王陛下には申し訳ねぇんですが……。」
ハジメ「あぁ、分かってるさ。言われずとも、全員樹海に送る。俺も帝都に用が出来たし、後で出向くからな。」
パル「有難うございます!」
パル達が一斉に頭を下げる。
そんな彼等を見て、シアは何か言いたそうにモゴモゴしていたが、結局ウサミミをへにょんと凹ませつつ何も言わなかった。
俺はそれに気がついてはいたが、今はハウリア族への要件に比重を置いて何も言わなかった。
その後、樹海に残っているハウリアの部隊も回収し、俺は帝都から少し離れた場所でリリィ達とパル達を降ろし、
【ハルツィナ樹海】に向かって高速飛行に入るのだった。
ハジメ「卑怯な手を使った事を責めないのかって?外道相手にはこの言葉が使える。"勝てばよかろうなのだ"と。」
終盤の戦極ネタは、気が付いたら書き出してました(笑)
ハジメさんがライダー以外の能力を手に入れるとしたら?
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全スーパー戦隊の力
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全ウルトラマンの力
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その他全特撮ヒーローの力
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全サーヴァントを召喚、使役する能力
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全てのスタンドを扱える力
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全ての魔術・魔法を扱える力
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全ジャンプ作品の力を扱える
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全サンデー作品の力を扱える
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全コロコロ作品の力を扱える
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全マガジン作品の力を扱える
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全てのラノベ作品の力を扱える
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別の世界に能力そのままで転生できる能力
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一億年ボタン
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全てのロボットを操縦できる能力
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無限残基
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女難に巻き込まれなくなる
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倒した敵の全能力を得る能力
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全スマブラキャラの力
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その他全ゲームキャラの力
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その他(活動報告でリクエスト)