Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
【魔国ガーランド】は現在、まるで通夜の如き悲壮な静けさで満ちていた。
王城が存在する魔都では、老若男女がヒソヒソと声を潜めて自国の行く末を語り合っており、その内容は決して明るい物ではなかった。
誰もが不安と絶望を表情に浮かべ、チラチラッと王城へ救いを求める様な眼差しを向けている。
原因は1つ。
人間族と魔人族の趨勢を喫するだろう最重要にして最大作戦――【ハイリヒ王国】及び【聖教教会総本山】への侵攻作戦。
それが、失敗に終わった事……否、失敗等と言う言葉ではまだオブラートに包んだ表現だろう。
出陣前、魔都の前に広がる平原に整然と並んだ軍勢を見て、人々は確信していた。
これ程の力を前に、人間族等何するものぞ、と。
しかし、蓋を開けてみれば……敗北、それも紛う事なき大敗北だ。
差し向けた10万を超える魔物の軍勢。精鋭たる魔人族の兵士達。
その全戦力の9割近い兵力が壊滅させられたのだから、受けた衝撃は計り知れないだろう。
人間族はそれ程強力だったのか?自分達は選ばれし種族ではなかったのか?反攻作戦が始まるのではないか?
そうなれば、祖国は勝利出来るのか?
人々は、誰もが己の内の不安を少しでも和らげようと、身近な者達と意味の無い言葉を交わし合うしかなかった。
未だ、魔王陛下*1からも、フリード将軍からも、何の発表も無い為に……。
一方、その王城内は、城下以上の沈痛な雰囲気で満たされていた。
多くの同胞を失ったのだ。それも、余りに予想外の方法で。
単純に正面から戦争をして敗北した訳ではない。それなら、彼等はまだ責任の所在を指揮官に求める事が出来た。
罵詈雑言を並べ立て、八つ当たりだろうが正当な弾劾だろうが、何でも出来た。
だが、一兵卒に至るまで、そんな考えは思い浮かばなかった。
一体誰が、突然何処からともなく現れる破壊の球体に反応出来ようか。
天空から降り注ぐ光弾の豪雨を防ぎ切れるだろうか。それを一斉に爆発させる事が出来る等と想像出来ようか。
どうして、何故予想出来なかったのか、直ぐに対応出来なかったのか等と責める事が出来ようか。
そもそも、受けた痛手のあまりの大きさに、誰も彼も茫然自失という有様で、責任の所在を議論する気力すら無かった。
全員、圧倒的な暴力を前に、心が折れかかっているのだ。
そんな、場内の雰囲気を肌で感じている男が、自分の執務室で小さな声を上げた。
フリード「クッ……!」
その人物は、軍部の最高責任者。将軍たる地位にあるフリード・バグアーだった。
服の胸元を引き千切らんばかりに握り締め、砕けそうな程強く歯を噛み締めている。
眉間の皴は深く、端正な顔立ちが今や鬼面と表現してもおかしくない有様だ。
フリード「私は、どれだけ無能なのだ……ッ!」
心から己の不甲斐無さを罰したかった。
未だに疼く、あの金髪の少女に蘇らされた数多の傷ですら己を罰するには全く足りない。
敗戦の報告は既に魔王陛下*2にしてある。
だが、神の代弁者にして、敬愛すべき魔王陛下*3は、フリードを罰しようとはしなかった。
その場で処刑される覚悟ですらあった。
勿論、魔人族唯一の神代魔法の使い手である以上、そう簡単に切り捨てられる事は無いのだが……
フリード自身の偽らざる心情として、死に値する罰を与えられたかったのだ。
今、この瞬間も、責任感と、魔王陛下*4、そして自身を信頼してくれた国民の期待に応えられなかった忸怩たる思いで、フリードは気が狂いそうだった。
コンコン
フリード「!……入れ。」
と、そんな時であった。不意に、執務室の扉がノックされた。
フリードが入室の許可を出すと同時に、勢いよく部下が入ってきた。
「ほ、報告します!たった今、伝令部より帝国と樹海の報告が届けられました!」
フリード「!ダヴァロスとディヴォフの部隊か!結果は!?どうなった!」
王都侵攻作戦が失敗に終わった今、せめて両作戦だけはと祈る思いで尋ねるフリード。
しかし、報告に来た部下の強張った表情を見て、スゥッと感情が抜けていくのが分かった。
「はっ。帝都に甚大な被害を与える事には成功したとの事。しかし、ディヴォフ小隊は……皇帝殺害に失敗。
全滅した模様です。」
フリード「……そうか。祖国と陛下に命を捧げたか。」
皇帝殺害に失敗したら退却しろと命じてはいたが、元より退路に乏しい作戦だ。
一か八かの逃亡より、決死の覚悟で戦いを挑む可能性は予想していた。
魔人族の勇士に相応しいと言うべきか、生きる道を捨てた事を憤るべきか……
フリードは大きく溜息を吐いて頭を振ると、視線で続きを促した。
「樹海の攻略は……完全に失敗した様です。痛手は負わせた様ですが、フェアベルゲンは健在。
ダヴァロス小隊は……全滅です。」
フリード「ッ!?ダヴァロスの部隊が、1人も?1人も退却する事すら出来なかったというのか?
いや、待て。フェアベルゲンが健在?ダヴァロス達は真の大迷宮に挑む事すら出来なかったという事か?馬鹿な……!」
「それが……報告によれば、調査の為樹海に侵入した伝令部隊の人員も殆どやられたそうです。
奇跡的に生き残った者達によりますと……あの樹海には首を刈る兎人族の皮を被った化け物共がいる、と。」
化け物、常識外の兎人族……その言葉を聞いた瞬間、フリードの背筋に氷塊が滑り落ちた気がした。
ふと浮かび上がったのは、自分を容易く返り討ちにし、何度も煮え湯を飲ませてきたあの白髪の男と、その傍らにいた兎人族の少女。
フリード「またしても……またしても貴様かァァァッ!!!」ドォンッ!
「ふ、フリード様?」ビクゥッ
脳裏に浮かぶあの男の仕業だと、そう確信したフリードは怒り狂い、拳を机に叩きつけた。
部下が戸惑い、怯えているのが分かるが、フリードの内心は荒れ狂いそれどころではない。
その場にいなくとも、己の邪魔をするあの男への怒りに、腸が煮えくり返る。
コンコンッ
フリード「ッ……入れ。」
そこへ、更にノック音。新たに誰かが来た様だ。フリードは強く目を瞑り、沸騰した頭をどうにか落ち着ける。
数秒程して漸く落ち着きを取り戻し、入室を許可した。
「失礼します、将軍。陛下がお呼びです。」
フリード「ッ、承知した。直ちに向かう。」
敬礼と共に告げられた内容に、フリードは一瞬硬直し、直ぐに頷いた。
10日近い待機命令に、フリード自身、心は限界が近づいていたし、何より兵士達も民達も限界の筈だった。
待ち侘びた呼び出しに、フリードは逸る気持ちを押さえつつ、足早に玉座の間へと向かう。
扉の前の兵士達がフリードの姿を見て敬礼する。
玉座の間へと入ると、この【魔国ガーランド】の王――自分達が主と仰ぐ御方の姿が見えた。
フリードに背を向ける形で、玉座の背後に飾られた大きな神の絵姿を眺めている。
フリード「陛下。フリード・バグアー、参上致しました。」
跪き、頭を垂れる。暫くの間、魔王*5から返事は無かった。
フリードにとっては、まるで光1つない暗闇の中に放置されているかの様な不安の中、やがて、魔王()は神の絵姿から視線を逸らさずに口を開いた。
???「帝国と樹海の件は聞いたか?」
フリード「はっ。先程、報告を受けました。これも全て、私の見込みの甘さが招いた事。
申し開きのしようも御座いません。」
その言葉に、魔王()から「フッ……」と小さく笑った様な音が響いた。
???「お前の計画に誤りは無かった。全ては、
フリード「!ですが――」
その言葉を遮る様に、魔王()は言葉を被せた。
???「それよりフリードよ。先の報告の内容をもう一度聞かせて欲しい。」
フリード「はっ、は?報告の内容、でございますか?」
???「うむ。お前が交戦したという金髪紅眼の少女。どれだけ傷を負っても――"再生"したのだな?」
フリード「"再生"……、はい。
確かに、陛下のおっしゃる通り、あれは治療というより、"再生"と表現すべき現象でした。」
???「そして、詠唱も、魔法陣も必要としなかった。見た目は、まだ幼さすら残す。そうだな?」
フリード「はっ、その通りで御座います。」
???「……フッ。」
フリード「……陛下?」
すると再び、魔王()から笑った様な声が響いた。
だが、先程とは微妙に意味合いが違う様に、フリードには感じられた。
困惑も露わに呼びかけたフリードに、魔王()は気を取り直す様に咳払いを1つ。
???「フリード。大方の作戦が失敗し、王都侵攻では侵攻軍に壊滅的打撃を受けた。
このガーランドには、お前の魔物を含め十分な戦力があるとはいえ、兵達も、民達も、随分と不安に思っている事だろう。」
フリード「……忸怩たる想いで御座います。全ての責任は私に。」
???「責任の所在等問うてはいない。呼び出した理由は別だ。」
最早土下座と表現すべき程平身低頭するフリードに、魔王()は言った。
???「――神託が下った。」
フリード「!?それはっ!」
かつて、一度だけ直接言葉を賜った事のあるフリード。
魔人族が心酔する神"アルヴ神"のお言葉を思い出しながらも、聞き逃す訳にはいかないと、心を引き締める。
当然だろう。神意を地上に顕現させる神の代弁者たる魔王()の言葉は、それそのまま神の言葉なのだから。
そして、魔王()は厳かに口を開いた。
???「――"使徒を遣わす。存分に使え。そして――イレギュラーと彼の者に与する者達を我が前に"との事だ。」
フリード「なっ!?こ、ここに、奴等をッ!?しかし、それはっ!」
普段ならあり得ない事に、神意と言われて尚、フリードは異論の言葉を口にした。
それは、先程まで胸の内にあったあの男とその仲間への憤怒と憎悪、そして底知れぬ何か故だ。
だが、幸いな事に、そうなる前にフリードの言葉は遮られた。
パァァァ!
フリード「!こ、これはッ!?陛下、お下がりをッ!!」
突如、視線の先に光の柱が降り注いだ。
よもや刺客かと警戒するフリードに、魔王()は手を一振りして制止させる。
眩く、神々しいまでの光を放つそれは、玉座の間の天井を貫く様に降り注ぎ、一拍して弾けた。
思わず手で目を庇ったフリードの視線の先に、片膝を突く人影が1つ。
美しい銀の髪に、戦乙女の如き壮麗な装束。心奪われずにはいられない完璧な容姿。
それでいて、無機質な碧眼の瞳。余りに美しく、人の気配が薄い女はスッと立ち上がる。
使徒「――神の使徒、エーアストと申します。
主の命により、これより魔国ガーランド国王の配下となりて、万難を排しましょう。」
???「良く来てくれた。貴君の働きに期待している。」
呆然とするフリードの前で、神の使徒と魔王()が挨拶を交わした。魔王()は、フリードの動揺を余所に話を進める。
???「エーアスト。貴君は同胞共々、彼のイレギュラーに討たれたと聞くが……何か問題あるか?」
エーアスト「……いいえ、何の問題も御座いません。我々全員、総出で迎え撃ちますので。」
どういう意味だと、思わずフリードが尋ねそうになる前に、その答えは示された。
5,600人入っても尚余裕のある広々とした玉座の間の空中に、次々と渦巻く光が生まれる。数は100を優に超えようか。
その全ての渦巻く空中の光から、人が出てきた。ズズズッと、滲み出る様に現れたのは、全て――
「へ、陛下っ、フリード将軍!外に、王城の外に凄まじい数の女が!同じ顔の女が出現しております!」
駆け込んできた兵士の声に、ハッと我に返ったフリード。
咄嗟に、空間魔法でゲートを開き、外の様子を上空から俯瞰する。
見えたのは、王城の前に整然と並ぶ神の使徒。数は、目測でも400体はいる。
そして今、この玉座の間に現れた神の使徒が、およそ100体。
全てが、エーアストと同じ顔。同じ姿。無機質な、全く感情を感じさせない声音が響いた。
エーアスト「神の使徒500体。敗北は有り得ません。」
フリードはその軍勢の凄まじさに震えた。
そして、神々しい神の使徒の顕現を仰ぎ、全ての兵士が、全ての国民が、同じ様に震えた。
――あぁ、やはり、魔人族こそ神に選ばれし種族なのだと。
???「フリードよ。新たな命を与える。使徒と共に遂行せよ。」
フリード「!御意!」
自身と威厳を微塵も揺るがせない己の主に、フリードは言葉に出来ない感動を湧き上がらせた。
そして、魔王からの新たな命令を聞きながら、ふと思った。
"そういえば、陛下も――金の髪に、紅色の瞳だな、と。"
ま、ハジメさんにとっては500だろうと600だろうと、巨大ブラックホールで難なく消し飛ばせますけどね(笑)
もし、ハジメさん以外の別キャラ視点でオリジナル番外長編(web 原作アフターを除く)を作るとしたら、誰を主人公にする?
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