Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
本日より、前作で書けなかった『ハルツィナ樹海編』、いよいよスタートです!
00:96/いざ、樹海へUターン!
奇妙な光景があった。
何百人もの亜人が、揃って自分の頬を抓ったり、張り手をしたり、或いは空の彼方へ遠い目を向けたりしているのだ。
そんな現実逃避気味の彼等の耳には轟々と唸る風が響き、その視界には雲海が、そして、その狭間にある流線と化した地上が映っていた。
そう、彼等は現在、空の上にいるのである。
――飛空艇"ノア・エルーナ"
俺謹製の重力制御式の飛行戦艦型アーティファクト。
その甲板に乗せられた超大型のコンテナに彼等は搭乗していた。
亜人達が、トータス世界において歴史上初となる航空機に搭乗している理由は、これまた歴史上初……
と言うより前代未聞の大事件――後に"
シアの実父にして、ハウリア族族長であるカムに率いられた精鋭部隊が帝国に反旗を翻し、一夜にして帝城を落としてみせたのだ。
そして、帝都の全奴隷を解放させ、現在、亜人族の故郷である【フェアベルゲン】への帰路の途中にあるという訳だ。
尚、樹海には空間転移用アーティファクトの"ゲートホール"*1が設置されている為、やろうと思えば一瞬で樹海まで亜人達を送る事が可能だった。
にも拘らず、何故、態々帝都近郊に"ノア・エルーナ"を着陸させ、見せつけるかの様に亜人達を乗せて飛び立ったのかって?
答えは単純、帝国の奴等へ"女神様の意思"だという事を強調させる為の演出だからだ。
空を翔ける巨大な物体に
勿論、本命は奴隷制度の撤廃だが。
ハジメ「ふぅ、流石にこれはキツイな……。」
さて、そんな訳で数千人の亜人達を乗せ、樹海への帰路の途中にある"ノア・エルーナ"だが、その驚異的な運搬能力の代償に、操縦者である俺は結構な負担を強いられている。
なので現在、艦橋のリクライニング機能付きソファーに寝ころび、怠そうに声を漏らしながら、オーマジオウに変身した状態で操縦していた。
その姿は正に、|会社勤めと子育て、実家への対応に夫婦の営み等々《日常》に疲れ切った一家の大黒柱の様で、なんともシュールだが。
無論、ただだらけている訳では無い。
薄っすらと紅と黄金の魔力を纏い、相当の魔力を消費し続けている。
まぁ、周りが美女や美少女だらけなせいか、他から見れば
右膝にはユエを乗せたシアが、左膝にはミュウを抱えたリリィが、それぞれ乗っており、右腕には香織が、左腕にはレミアが腕枕されていて、トネリコは俺の頭*2を膝枕している。
ティオも直ぐ傍に座っており、その光景を微笑ましそうに見ていた。
因みに、両手両足とボディにはふわマロのクッションがあるので、素肌で乗っても全然痛くない。
ガハルド「……おいおい、皇帝を前に随分な態度だなぁ、南雲ハジメ。」ウィン
……折角いい雰囲気だったのに、どうしてこいつは邪魔なタイミングで割り込んでくるんだか。
そんな、艦橋の扉を開けて入って来やがったのは、【ヘルシャー帝国】の皇帝ガハルドだ。
呆れと怒り半々のジト目をこちらに向けてきており、非常に鬱陶しい。
全く、ただイチャついている訳では無いのに……嫉妬とは見苦しいものだ。
再生魔法が使える皆から、癒しの魔法をかけて貰っているだけなのに……。
それに、莫大な魔力消費に耐えながら、操縦に集中しつつ、魔力操作技術向上の特訓を同時並行しているんだ。
寧ろ褒めるべきだろう。
因みに、この場には光輝達やヘリーナ等もおり、リリィ達王国側の一行が同乗しているのは、ガハルドの宣誓を見届ける為だ。
先日の"帝城落とし"は、『フェアベルゲンと帝国』の戦争ではなく、あくまで『ハウリア族と帝国』の戦いだった。
なので、ガハルドは、改めて【フェアベルゲン】の最高意思決定機関である長老衆に、皇帝として誓約した内容を先制する必要があるのだ。
勿論、カム達の要求で。
ハジメ「それで?艦内探検は終わった?満足したなら、さっさと送るけど?」
ガハルド「冷てぇなぁ、オイ……。まぁ、こいつが本当にとんでもない代物だという事は分かったがな。
何故、こんな金属の塊が飛ぶのかさっぱり分からん。だが、それが最高に面白いな!
おい、南雲ハジメ。俺用に1機用意してくれ!言い値を払うぞ!」
そう言ってガハルドは対面のソファーにドカッと座る。
……いい年したおっさんに子供の様な好奇心でキラキラ輝く瞳を向けられる俺の気持ちにもなれ。
ハジメ「断る、抑々メリットが無い。無駄に素材を消費するだけだ。乗るのは今回だけだ。
諦めて今の内に堪能しておけ。」
ガハルド「そういうなよ。な?1機だけ、小さいのでいいんだ。」
ハジメ「くどいぞ。いい加減にしないと自爆機能オンリーするぞ?」
ガハルド「おいバカ止めろォ!?……ぬぐぅ、金がダメなら女だ!娘の1人に丁度いい年の奴がいる。」
ハジメ「要らん、ランデルにでもくれてやれ。」
俺がそう言い終えると、ユエ達が一斉に反応する。
ユエ「……雷龍、する?」
シア「ぶっ潰しますよ?」
ティオ「嚙み千切ってやろうか?」
トネリコ「臨死体験、してみます?」
香織「ふざけてるのかな?かな?」
レミア「あらあら、どうしてくれましょうか?」
リリアーナ「名誉棄損で訴えますよ?」
雫「陛下とハジメ君を一緒にしないでください。」
ほら見ろ言わんこっちゃない。ミュウだけは状況が呑み込めず、きょとんとしているが。
ハジメ「そういう事だ。大体、どうせ目的は他国への侵攻だろ?まぁ、自爆するだけの檻ならくれてやるが。」
ガハルド「チッ、見せつけやがって……やっぱりお前は嫌いだ。」
やさぐれたように舌打ちするガハルド。当然の結果だろう。
ハジメ「抑々、お前みたいに女性をコレクションする趣味は、俺にはない。
それに、俺はこんなにも素晴らしい女性陣に囲まれている。他の有象無象に興味等無い。
分かったか?いや、分かれ。そして黙れ。」
ガハルド「ぬぅうう、本当に欲しい物は無いのか?して欲しいことも?正直に言えよ。
人間、何時だって何かを欲しているものだ。
何もいらないなんて奴は、人間を辞めているか何か企んでいる奴だと相場が決まっている。
……あっ、そう言えばお前、魔王だったか。」
ハジメ「ふむ、それもそうか……なら、1つ挙げるとすれば……。」
俺は顔を上に向けた。天窓には太陽が輝いている。
ハジメ「種族や身分に関係なく、こうして皆でお昼寝して、腹いっぱい飯が食える世界、かなぁ。」
それは、俺がこの世界に平和を齎した後に、やりたい事の1つだった。
子供達が友達と一緒に学び舎で過ごし、未来へと何かを残し、託せる人になってもらいたい。
そして、その為にもよく食べ、よく寝て、よく学んで、よく遊んでほしい。
信仰なんて不確かなものに捉われないで、戦争なんて物騒な事にも悩まされずに、明日もまた友達に会える日々。
それが当たり前の光景にする事こそ、ミレディ達解放者の先達への手向けとなるだろう。そう思えるのだ。
だからこそ、一刻も早く神代魔法を揃え、魔国ガーランドを制圧しなければ。
ハジメ「それ以外に欲しいものはない。守りたいものは、もう既にここにあるがな。」
そう言って仲間達1人1人に眼を向ける。そしてガハルドへ、だから、交渉は無駄だと言外に伝える。
ユエ達は嬉しそうに抱きつき、光輝達はどこか照れ臭そうに頬を掻いている。
これ以上に素晴らしい仲間達程、代えがたいものなどない。それが俺の答えだった。
ガハルド「あ~あ~、そうかいそうかい。チッ、口の中が甘ったるくて仕方ねぇ。
甲板で景色でも堪能してくるか……。」
ガハルドはそう言い、うざったそうな表情をして立ち上がると、さっさと艦橋を出て行った。
それを見送った俺は再びソファーに深く沈み込み、操縦への集中を再開したのであった。
太陽が顔を隠し、夜の帳が降りた頃。
【フェアベルゲン】は、仄かで温かな自然の灯りで照らされていた。
燃えやすいが燃え尽きにくい特殊な木の枝で作った松明や、燐光を振りまく樹海の虫を閉じ込めたカンテラの灯りだ。
ハジメ達の尽力により、急速に復興が進んだ今の【フェアベルゲン】は、元の"静謐と幻想の都"と表現すべき美しさを、ある程度ではあるが取り戻している。
一見すると、先の魔人族や帝国の襲撃が夢であったかの様だ。
故に、住人達は1日の終わりにホッと力を抜いて、家で一家団欒を楽しむという、襲擊以前の生活の様子を見せている……筈だった。
「誰か!西集落の備蓄状況が分かる奴はいないか!?」
「家の割り振りはまだか!?時間がねぇぞ!キリキリ動け!」
「ひぃっ!?今ハウリアが--って、なんだ。ただのウサギさんか……。」
「てめぇらいつまで聖女様談義をしてやがる!さっさと働け!」
まるで昼夜が逆転したかの様な喧騒。
種族、老若男女、職種に拘らず、誰も彼もが右に左にと忙しそうに走り回っている。
【フェアベルゲン】の外の集落からも人が集まって来ている様で、人の整理・誘導に兵士達も駆り出されている様だ。
とはいえ、彼等の表情に、混乱や焦燥の色は見えない。寧ろ、かつてない希望の輝きで彩られている様だった。
そんな都の喧騒を開けっ放しの窓から夜風と共に取り入れつつ、長老衆の1人――森人族族長のアルフレリック·ハイピストは大きく息を吐いた。
序に、疲れの滲む目元を指で軽く揉み解す。そして、なんとも言えない微妙な表情で手元の書類へ視線を戻した。
書類の内容は、数千人規模の同胞の受け入れ態勢に関する報告書、それに伴う各種申請書等である。
アルフレリック「ふぅ……なぁ、カムよ。本当に同胞達は帰ってくるのか?」
そんな風にアルフレリックがポツリと呟くと、直後、まるで部屋の中に突然現れたかの様に人の気配が発生した。
カム「まだ、そんな事を言っているのか。
確認しようのない事をいつまでも言ってないで、さっさと受け入れ態勢を整えろ。」
そう告げて姿を見せたのは、気配を殺して控えていたカム·ハウリアだった。
カム達ハウリア族は、亜人族の解放を【フェアベルゲン】に伝え、受け入れ態勢を整えさせるために、ハジメの"オーロラカーテン"で先に戻ってきていたのである。
ハウリア専用の念話石があれば効率的に連絡を行えるので、急遽整えなくてはならなくなった受け入れ態勢を効率的に行う為に、通信要員の役割を担っているという訳だ。
因みに、気配を殺して控えていたのは……ただの趣味である。カムの言葉に、アルフレリックは苦笑いを浮かべた。
アルフレリック「分かっている。ただな、やはり俄かには信じ難いのだよ。あの帝国が同胞達を解放する等……。」
カム「それも、後数時間以内に証明される事だ。まぁ、気持ちはわかるがな。
……我等とて陛下がいなければ、まさかここまでの成果を挙げられる等とは夢にも思わなかった。」
アルフレリック「陛下……。資格者――南雲ハジメか。
その話が本当なら、我が孫娘だけでなく、同胞全てを救い出してくれた恩人という事になる。大きすぎる恩だ。
報いる方法が思い浮かばんな……。」
カム「陛下は、そんなもの求めていないだろう。それより、さっさと手を動かせ。また、報告が上がってきたぞ。」
にべもなく言うカムを、アルフレリックは一暼した。
カムは、念話石で仲間と何か話しているようで視線は虚空に向いているが、その姿には一分の隙もない。
それどころか、先程まで控えていた時の気配のなさが嘘の様に、一族の長に相応しい強烈な覇気を纏っていた。
かつては、自分達長老衆の前で平伏し、一族処刑の決定がされてからは諦観の表情を晒していたというのに……
とても同一人物だとは思えなかった。
元の温厚で気弱な雰囲気は微塵もなく、触れればそれだけで切り刻まれそうな鋭利さを感じる。
実際、その鋭利さが本物であることは、既に示されていた。
というのも、【フェアベルゲン】に戻ってきたカム達は、長老衆に事の次第と、解放された同胞達の受け入れ態勢を整えるように伝えたのだが、当初、アルフレリックを含め誰もその言葉を信じなかったのだ。
当然と言えば当然だろう。
一体誰が、軍事国家相手に、たかだか一部族が戦争を仕掛け、あまつさえ勝利してしまう事等想像できようか。
たとえ、以前に熊人族や虎人族の混合精鋭部隊を返り討ちにし、魔人族や帝国の襲撃から【フェアベルゲン】を救ったという実績があったとしても、流石に理解出来る範疇を超えている。
故に、カムの報告と要請を"虚言である"と断じる長老がいても仕方ないと言えなくもない事だった。
ただ、その判断に同調し、それどころか、ハウリア族が【フェアベルゲン】と袂を分かっている事や、以前の長老会議の決定で処刑処分にしている事実から、怨恨を起因に何か良からぬ事を企んでいるのでは……という主張まで出たのは不味かった。
"長老衆、首ちょんぱ一歩手前事件"の勃発である。
何を企んでいる!と、いつも大体ヒートアップしている虎人族族長のゼルがカムに侮蔑の言葉を投げつけ、更に強制的に跪かせようとしたのだ。
いくらハウリアが強かろうとも、長年の兎人族に対する価値観は中々覆るものではないのだろう。
しかし、その凝り固まった価値観故の行動は、苛烈な殺意で返された。
ゼルがカムに摑みかかろうとした瞬間、にゅるりと出現したハウリア達が一瞬で長老会議の場を制圧してしまったのだ。
勿論、凄絶な殺気付き、小太刀を首に添えて、全ての長老の首に刃を突きつけたのである。
充満する殺意が、下手な言動をとれば、本気で牙を剥くことを疑わせず、アルフレリックの執り成しで、どうにかその場は収まったものの、歴戦の戦士であるゼルを含め、護衛の戦士達も誰1人反応すら出来なかったという事実に、彼等はハウリア族の実力というものを否応なく実感する事になった。
その結果、一瞬で、フェアベルゲン最高権力の長老会議を占拠し、かつ、彼等をして冷や汗を流させた激烈な殺意に、一先ず信じてみようという事になったのである
或いは、確かにハウリア族なら"帝城落とし"も可能かもしれないと。
というか、そう思わざるを得なかった。だって、首筋の刃とハウリア達の顔がヤバかったから。
冷や汗どころか、下からも色々流れ出そうな位怖かった。
護衛についていたジンが、「うっ、だ、誰か薬を……悪夢が、嗤うウサギがっ。ハァハァ、動悸息切れが止まらないぃ!」と言いながら、尋常ではない冷や汗を流して震える姿が部屋の隅にあったのだが……。
最優の戦士であった彼の、フラッシュバックが生じる程トラウマを抱えた姿は、それを見た者全てに、正座でカムの話を聞くという謙虚さを与えたのだった。
そしてカム達からハジメの名が出た時に確信した。"あ、これマジな奴だ。絶対あの魔王が何かした。"と。*3
と、そんな恐ろしい事件を思い出してアルフレリックが冷や汗を掻いていると、カムの言う報告を持ってきた者が部屋に入ってきた。
アルテナ「お祖父様、炊き出しの用意が整いましたわ。これが消費後の備蓄量です。」
"鈴を転がすような"と表現すべき可憐な声と共に、書類を差し出したのはアルフレリックの孫娘――アルテナだった。
地面につきそうな程長い金の髪と、深い森を思わせる翡翠の瞳を持った彼女もまた、帝国に誘拐されていた所をハジメとハウリア族に助け出された者の1人だ。
こうして無事に故郷に戻ってきた今は、精力的に祖父の補佐をしている。
とはいえ、深き森のお姫様の様な彼女にとって、先の誘拐事件は辛い経験だった筈。
祖父としては、やはり心配せずにはいられない。
アルフレリック「ご苦労だった。……しかし、アルテナ。お前も帰ってきてまだ間がないのだ。
あまり無理をするな。少し休んだらどうだ?」
アルテナ「私なら平気ですわ。同胞達が帰ってくるというのに、ジッとしてはいられません。」
気遣うアルフレリックに、アルテナは毅然とした態度を取り、そんな孫娘をアルフレリックは眩しそうに見やった。
深窓の令嬢の如く育った彼女だが、その能力は実に高い。気構えも申し分ない。
正直な話、この忙しい時にアルテナの補佐はありがたい。一時は生存を諦めた孫娘の、凜とした姿に心が温まる――
アルテナ「……。」モジモジ、ソワソワ、チラッチラ。
……全然、凛としていなかった。妙に浮ついた雰囲気だ。先程までの真面目な雰囲気は何処に行ったのか。
訝しむアルフレリックだったが、彼女の視線がカムに向いていることで察した。溜息を1つ。
アルフレリック「アルテナ。彼の事が気になるなら、カムに聞いてみればどうだ?」
アルテナ「!い、いえ、私は別に南雲殿の事なんて……。」
アルフレリック「私は、一言も南雲ハジメの事とは言っていないが?」
アルテナ「お祖父様!そんな、揚げ足を取る様な意地悪をなさらないでくださいませ!」
孫娘の可愛らしい動揺に、アルフレリックは微笑ましいものを見る様な眼差しを向けつつ、「よもや、本気ではあるまいな?」と懸念を抱く。
アルテナは、その人柄、容姿、生まれから緑談も多いのだが、今の所全て突っぱねている。
理由は、祖父の後を継いで国の為に仕事がしたいから、という事らしい。
そう言う訳で、今まで浮いた話もなかったのだが……アルフレリックの中で爺馬鹿の面がムクリと起き上がってきた。
アルフレリック「ふむ。確かに、南雲ハジメはお前の恩人ではあるが、お前が特別だった訳ではないのだぞ?
そもそも、実際に助けたのはハウリア族であろう?あまり意識するのはどうかと思うが……。
お前の相手としても難儀な相手だ。」
アルテナ「ですからっ、そういうのではありませんわ!もうっ!
南雲殿が同胞を連れてきてくださっていると聞いて、少し気になっただけです。ええ、それだけですわ!」プイッ!
そう言ってそっぽを向くアルテナ。へそを曲げてしまったらしい。
尤もそれは、勘違いされた憤りからというより、本音を見透かされて恥ずかしかったからという照れ隠しの様だ。
アセアセッと部屋を出て行こうとするアルテナに、アルフレリックは再び、こっそり溜息を吐いた。
まだ明確な感情ではないのが救いか。もし、彼を追う道を選んだ場合、前途の多難さは想像に難くない。
愛しい孫娘には、出来れば平穏で幸せな道を歩んで欲しい、というのが、祖父としての偽らざる気持ちである。
と、その時だった。意外にもカムが、今正に部屋を出て行こうとしていたアルテナに声をかけた。
カム「アルテナ孃。」
アルテナ「え?は、はい、カムさん。どうなさいました?」
何処か面白がる様な笑みを浮かべるカムに、アルテナが少し警戒した様な表情で返事をする。
身構えるアルテナに、カムはにこやかに口を開いた。
カム「陛下は、多くの女性を侍らしているが、その実、大切な者にはかなり一途な方だ。
そして、あの方にとっての"大切"は既に決まっている。勿論、心優しい陛下の事だ。
自分の気持ちを誠実に打ち明ければ、しっかりと答えを返してくれるだろう。
だが、"大切"になるまでには、様々な試練が付き物だ。
相当な時間と労力を重ね、大きな信頼を育まなくてはならないだろう。」
アルテナ「は、はぁ····成程?」
戸惑うアルテナに、カムはニヤリと不敵に笑った。
カム「因みに、その中には我が娘――シアもいる。
何せ、我等と共に帝国を敵に回した理由が、"シアの笑顔を曇らせない為"だからな。」
アルテナ「!そ、そうなのですか?」
カム「そうだ。陛下はな、シアの為なら平気で国を相手取れるのだよ。そう、シアの為なら、な。フフフ。」
アルテナ「!」
言外に、「お前では娘に勝てんよ!」と言われている事を、アルテナは敏感に察した。
実はアルテナの年齢はシアと同じ16歳だったりする。
なので、同い年の女の子と比べられた挙句、勝負にならないと言われては……ムッと来るのも仕方ないだろう。
アルテナ「シアさんというのは……あの淡い青みがかった白髪の方ですわよね。
お言葉ですが、私、あの方に劣っているとは思いません。
確かに過ごした時間が違うという意味では差はあるのでしょうが……私とて、同じくらい時間があれば……。」
カム「いやいや、うちのシアは色々な意味で特別な存在だからなぁ。
やはり、アルテナ嬢の為にも無駄な事は止めるべきだと、忠告させてもらおう。
不毛な事をしていると適齢期を逃してしまうぞ?」
アルテナ「大きなお世話です!」
アルフレリック「はぁ~。カム、私の孫を虐めるのはそれ位にしてくれんか……。」
ぷりぷりと怒るアルテナに、ニヤつくカム。2人を見て、アルフレリックが盛大に溜息を吐く。
カムが、アルテナに挑発紛いの事をしたのは、ちょっとしたお節介だったりする。
勿論、アルテナに対するものではなく、シアに対しての、だ。
樹海から出て行った頃のシアとハジメの関係は、言ってみればシアの押しかけだった。
だが、"帝城落とし"前夜の様子を見る限り、旅を通じて、相当、親密な関係になっている様だとカムは感じたのだ。
「後一押しで一気に一線を越えるに違いない!ボスの陥落は目前だ!」と。
その一押し、言い換えれば起爆剤にアルテナが使えはしないかと企んだのである。
シアが聞けば、「巨大なお世話ですぅ!」と怒りそうだ。
後にカムが、その目論見に気づいたハジメから「女なら誰でもいい訳じゃないからな?」と説教を受けたのは別のお話。
アルテナが内心で対抗心を燃え上がらせているのを感じて、ほくそ笑むカム。
少女の淡い恋心*4を躊躇いなく利用するその姿は……そう、なんとも悪魔的であった。
と、その時。俄かに外が駱がしくなった。
それも、今までの忙しさからくる喧騒ではなく、不測の事態に緊迫するような騒がしさだ。
怒号まで聞こえ始めている。
アルフレリック「何事だ!」ガタッ
そんな状況に思わず、アルフレリックが席から立ち上がって窓に駆け寄り、大声で叫ぶ。
直後、騒ぎの原因を目の当たりにした。
アルフレリック「光の、柱……だと?」
その言葉通り、木漏れ日の様に、否、それとは比べ物にならない位強い光が、天より木々を通り抜けてフェアベルゲンの広場を照らしていたのである。
理解し難い事態に、目を見開くアルフレリック。そこへ、どこか誇らしげな、落ち着いた声音が響いた。
カム「案ずるな、アルフレリック。――陛下のご到着だ」
【フェアベルゲン】の広場を真昼の様に照らす光の正体。
それは、樹海の上空に到着した"ノア・エルーナ"のサーチライトだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
実を言うと、前作のプロットでは大迷宮に入る前まで書き上げていました。
ですが、その後のオリジナル展開がどうにも上手く書けず……やむなく打ち切りとしました。
けれども、どうかご安心を。今作はしっかり書けていますので、存分にお楽しみください!
もし、ハジメさん以外の別キャラ視点でオリジナル番外長編(web 原作アフターを除く)を作るとしたら、誰を主人公にする?
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ユエ
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シア
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ティオ
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レミア
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ミュウ
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香織
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雫
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トネリコ
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リリアーナ
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愛子
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星野アイ
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幸利
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恵里
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光輝
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浩介
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龍太郎&鈴
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優花
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両親サイド
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良いから本編プリーズ
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その他(活動報告でリクエスト)