Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
樹々の隙間を潜り抜け、強烈に降り注ぐ光から、亜人達が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出している。
そして、遠巻きに、一体何事かと戦々恐々とした表情で天を仰いだ。
兵士達は恐怖に表情を引き攣らせながらも広場を囲む様に展開し、戦士達が悲壮感を漂わせながらも必死に武器を構えている。
ベキベキッ、バキッ、ベキッ!!
直後、人が捌けるのを待っていたかの様に、ぽっかりできた広場の中央へ、木々の枝をへし折りながら巨大な影が降りてきた。
周囲の人々は、思わず目を見開いて驚愕の余り口をあんぐりと開けた。
最初に見えたのは何かの建造物の様なもの。それが徐々に高度を下げる事で、ようやく全貌が見えてきた。
それは、大きな金属の塊を乗せた、飛空艇"ノア・エルーナ"だった。
船底の前後に取り付けられた強烈なサーチライトで地上を照らし、着陸場所の安全を確かめている。
飛空艇の事等当然知らない人達は、「すわっ、新手の魔物か!?」と、悲鳴を上げて右往左往している。
そんな大混乱の中、降下してきた"ノア・エルーナ"は、ゆっくりと広場に着陸すると、紅と黄金の光を放ち、甲板にある巨大なコンテナをその脇に着地させた。
魔物ではない。それは間近で見て分かった。だが、この見た事もない物体は一体なんだ?自分達に何をする気だろう。
そんな不安が広場に渦巻く。誰もが緊張に満ちた眼差しを"ノア・エルーナ"へと注いでいた。
一拍。突如、ガコンッという音が響き、コンテナの前後がパカリと開いた。ビックゥ!と震える人々。戦士達も例外ではない。
亜人らしく、それぞれのケモミミをピーンッ!と伸ばし、長いケモシッポを持つ種族は股の間に挟んでしまっている。
兵士達も武器を握る手に大量の汗を掻き、喉をゴクリと鳴らす。
人々が注視する中、扉が開いたコンテナの奥の暗がりから出てきたのは……
未知のモンスター――等では当然なく、恐る恐るといった様子の兎人族の少女だった。
兎人族の少女は、険しい表情で自分を睨む同胞達にウサミミをヘニョンとさせている。
その気弱な様子は、正に"皆が知っている森のウサギさん"だ。
断じて、ヒャッハーしながら首を刈るウサギさんではない。未知のモンスターではない!
少し気が抜けた様子の住民達は一拍、キョトンとして事態を理解し始めた様だ。
「本当に、戻ってきたのか……。」
誰かの呟き。半信半疑だった希望は、今、現実となった。
兎人族の少女を皮切りに、コンテナから次々に、奴隷にされていた亜人達、もう二度と故郷の地を踏むことはないと絶望していた者達が出てくる。
彼等は一様に、未だに信じられないといった表情で周囲を見回していた。
静謐で清涼な空気。逞しく、それでいて包み込む様な安心感を与えてくれる木々。
懐かしい【フェアベルゲン】の灯り。そして、もう二度と会えないと思っていた同胞達。
草木が水を吸い取るが如く、ジワジワと実感が押し寄せてくる。"故郷に帰って来た"のだと。
それは、【フェアベルゲン】の住民達の方も同じだった。徐に、1人の女性がふらりと進み出る。
垂れイヌミミの30代半ば位の女性だ。彼女は、目の端に涙を溜めながら、そっと失ったと諦めていた最愛の名を呼んだ。
「……ザック。ザックかい?」
その声に反応したのは、同じく垂れイヌミミの少年だった。帝都にて光輝が気にかけ、ハジメが助けたあの少年だ。
少年は、女性の姿を視界に捉えると、顔をくしゃくしゃにして涙を流し、ダッと駆け出した。
「母さん!」
「ザック!」
膝を突いて両手を広げた女性の胸に犬耳少年が飛びつき、母さんと呼ばれた犬耳の女性は、腕の中の息子が夢幻でない事を確かめるかの様に、きつくきつく抱き締めた。
そして、親子揃って奇跡の再会に歓喜の涙をホロホロと流す。
そんな親子の再会を期に、帰って来た亜人達と住民達は地を揺らさんばかりの歓声を上げて互いに駆け寄った。
家族、友人、恋人――大切な人を見つける度に声を枯らす勢いで無事を喜び合う。
今、【フェアベルゲン】は大きな喜びに包まれ、普段の静謐さは何処にいったのかと思う程の、かつてないお祭り騒ぎとなった。
そんな歓喜が溢れる亜人達の喧騒の中、"ノア・エルーナ"から降り立ったハジメ達にアルフレリックを始めとした長老達が駆け寄ってくる。
アルフレリック「南雲ハジメ……全く、とんでもない登場をしてくれたな。」
ハジメ「すまんなアルフレリック、色々合ってああする事になった。勿論、直ぐに治すから大目に見てくれ。」
アルフレリックが、頭上のバッキバッキに折られた木々を見て苦笑い気味に言うと、ハジメは頰をポリポリと掻きながら、若干、バツの悪そうな表情になった。
確かに、莫大な魔力消費で疲れていたのは事実。
樹海の外から歩いてくる事も、"ゲート"で1人1人転移させるのも面倒だったのも事実だ。
とはいえ、正確に【フェアベルゲン】の位置を捉えたのは、予めカムに座標位置を知らせるアーティファクトを持たせていたからであり、つまり、疲れていようがいまいが、最初から直接乗り付けるつもりだったのだ。
初めて訪れた時、この都を"見事"などと称賛しておきながら、後から治すので演出の為に破壊しますとは、頭のおかしい人と思われかねない所業だ。
まぁ、流石にやり過ぎてしまったとは思っているので、ハジメは"ノア・エルーナ"をしまうと、ユエ・香織・トネリコの3人に助けを求めた。
ハジメ「3人とも。悪いけど、頼める?」
ユエ「ん……任せて。」
香織「良かった、まだ常識はあるんだね!」
トネリコ「仕方ないですね。」
あれぇ?香織さん、今さりげなく毒吐かなかった?とハジメは思ったものの、他の面々も苦笑いしているので反論は出来なかった。
なんて思っていると、3人はバッキバキに折れまくった頭上の木々に手を翳した。
ユエ・香織・トネリコ「「「――"絶象"。」」」
再生魔法"絶象"。あらゆる損壊を再生し復元する魔法である。
3人が魔法のトリガーを引いた瞬間、頭上のバッキバキに傷ついた樹々が一瞬で元の姿を取り戻した。
何度見ても、やはり目を疑うような神秘的で驚異的な光景だ。
そして、その中心には、銀に煌めく魔力光を纏った香織様、黄金に煌めく魔力光を纏ったユエ様、水の様に澄んだ蒼の魔力光を纏ったトネリコ様の御三方。
緩やかに螺旋を描く蛍火の様な光に包まれるお姿は、今日も皆神々しい。
「おぉっ、我等の香織様が、また奇跡をお見せくださったぞ!」
「香織様万歳!フェアベルゲンの守護女神!」
「いやいや、そこは流石正妻のユエ様だろ!」
「馬鹿野郎!どうみても聖女トネリコ様の御業だろうが!」
亜人の皆さんがヒートアップ。跪き、感涙の涙と共に崇め奉る。
ハジメ「こうして、3人は森の聖女として語り継がれるのであった、とさ……。」
ユエ「……ん、真っ向から神に喧嘩を売るスタイル。いいと思います、ハジメ。」
トネリコ「うぅ、やっぱりこうなるんですね……。」
香織「止めてぇ!止めて下さぁ~~いっ。崇めないで下さぁ~~い!」
ハジメが面白半分に呟けば、ユエは顎に手を当てつつキリッとした表情をし、トネリコは恥ずかしそうにハジメの背中に隠れ、香織はあたふた走り回りながら、跪く人々を必死に立たせようとする。
ティオ「また女神が生まれたのぅ。
先生殿は豊穣の女神と呼ばれとるし、ご主人様もほぼ信仰の対象になっておるし、勇者坊やの剣には本来の女神様が宿っておる、と……唯一神を祟めていた大陸で、よう、こうもポンポンと神が生まれるのぅ。」
幸利「まるで女神様のバーゲンセールっすね。」
愛子と共に聖教教会の総本山を消し飛ばしたティオが、感慨深そうに、或いはちょっと呆れた様に言った。
それに対し、某野菜王子みたいな台詞を返す幸利。
レミア「あらあら、香織さんは特に大人気ですね。」
ミュウ「みゅ!アンカジでもたっくさんの人達にありがとうって言われていたの!」
シア「あぁ、あれですね。"香織様にご奉仕し隊"ですね。」
領主さんの息子さんが隊長を務めている某部隊。彼等はきっと、今も香織様との再会を夢見ているに違いない。
雫「香織……立派になったのね。」
鈴「シズシズ。なんだかお母さんみたいだよ。
それに、南雲君が壊したものを、カオリンが直して感謝されるって、酷いマッチポンプだと思うんだけど。」
恵理「ノリノリなユエさんは兎も角、トネリコさんも完全にとばっちりだしね。」
親友の成長を噛み締めるオカンな雫に、鈴がツッコミを入れ、確かに!と、光輝や龍太郎が頷き、恵理が補足を入れた。
無宗教だった筈の亜人達の中に、聖女教が生まれそうな混沌とした状況の中、アルテナがアルフレリックに耳打ちする。
アルテナ「お祖父様。立ち話もそれ位になさって、そろそろ……。」
そう告げるアルテナの視線は、たった今"ノア・エルーナ"から降りてきた最後の乗客――ガバルドと、リリアーナ達王国一行に注がれている。
一応、ガハルドには、【フェアベルゲン】の情報を極力渡さないよう、光と音を完全遮断するフルフェイスの仮面――ハジメお手製・だっふんだマスク*1を被らせているので、早々正体は分からないだろう。
だが、リリアーナや専属侍女へリーナ、そして近衛騎士達を見れば、彼女達がやんごとなき身分の人間である事は一目瞭然。
奴隷解放の事実と合わせれば、変顔仮面の男は皇帝だと推測する者も出てくるだろう。
一見すると、ただの不細工な表情をした浮浪者にしか見えないが。
長老衆を筆頭に、上層部の亜人達はガハルドの来訪を知っている。が、住民達は知らない。
不俱戴天の敵のトップが目の前にいると知れば、いつ暴動が起きてもおかしくない。
「ふざけた仮面つけやがって!馬鹿にしてんのか!」と、襲いかかるかもしれない。
だが、今後の帝国との関係――ガハルドを生かしたまま誓約の力で安全を確保する事に、重大な支障が出る危険は避けねばならない。
そんな懸念故の、アルテナの催促だった。
尤も、内心では懸念以上に「何故、帝国の皇帝は、こんな奇妙で変な仮面を被っているのでしょう?」と疑問で溢れていたが。
隣の雫がビクンッと反応した。桃忍仮面は察しがいいのだ。
因みに、ガハルドはこの後、長老衆の面前で帝国の敗北の証明と誓約の説明をした後、即帰れという予定だ。
このためだけに連れて来られた皇帝陛下――威厳も何もあったものではない。
最も、ハジメさんは勿論のこと、リリアーナもその辺りの配慮は当然ない。
アルフレリック「む、そうだな。南雲ハジメ、いや、南雲殿。大体の事情はカムから聞いている。
俄かには信じられない事ではあるが、どうやら本当に同胞達は解放された様だ。
まずは、フェアベルゲンを代表して礼を言わせてもらう。」
ハジメ「事を成したのはハウリア族だ。そこは間違えないでくれ。」
アルフレリックの深い感謝を示す言葉と態度を受け止めつつも、そこはしっかりと訂正するハジメさん。
やはり以前から有名なだけあって、喜びに沸いていた亜人達が目を瞬かせている。
そして、長老衆と向き合うハジメ達に注目する。
ハジメの物言いに、アルフレリックは「謙虚なのか律儀なのか。いずれにしろ似合わんなぁ」等と思いつつ、苦笑いを浮かべて頷いた。
アルフレリック「ああ、勿論分かっている。まさか、最弱の筈の兎人族が帝国を落とすとはな……。
長生きはしてみるものだ。おそらく、私は今、歴史的な瞬間に立ち会っているのだろう。」
ハウリア族が帝国に戦いを挑み、勝利を摑み取って同胞を救い出した――
その事実がアルフレリックの口から明言された事で、住民達も大切な人を取り戻してくれたのが誰なのか理解した様だ。
アルフレリックの隣で背筋を伸ばすカムに注目が集まる。
彼等の瞳に宿っているのは、最弱種族に対する蔑みではなく、大きな敬意と若干の畏怖を含んだ英雄を見るような色だった。
一時は、故郷を捨てて逃げ出し、沢山の家族を失って、樹海に戻った後も追放処分を受け、最早同胞ではないという烙印まで押されたというのに……それが、今や英雄扱い。
父親の堂々とした立ち姿に、シアは、胸の奥の深い部分から何か熱く大きなものが込み上げてくるのを感じた。
誇らしくて、嬉しくて……シアの手がそっと握られた。
シア「ユエさん……。」
ユエ「……ん。」
言葉はない。けれど、十分だ。それだけで、ユエの優しい気持ちは伝わった。
見ればハジメも、優しい眼差しをシアに向けている。シアのウサミミがふみょんと揺れた。
ハジメ「カムの横に、立ってあげたらどう?」
泣き虫で残念なウサギが、大迷宮攻略の旅まで乗り越えてきたのだ。艱難辛苦の度合いなら、シアの方が上だ。
英雄に対する眼差しを、シアもまた受ける資格がある。
かって自分を化け物として排除しようとした同族達の前に、堂々と立ってやったらどうだ――
そう言うハジメの表情と声音は、1/fの揺らぎを思わせる程柔らかい。
香織達を筆頭に、雫達やリリアーナ達が何やら暖かいものを感じた様な表情になっていた。
シア「はいっ、行ってきます!」
そんな旅の仲間の様子に、シアは、なんだか物凄くくすぐったい気持ちになりつつ、カムのもとへ歩き出した。
が、そこで娘をスルーするのがカムクオリティー。
同族達の視線を受け、一瞬何か考える素振りを見せたカムは、次の瞬間、実にあくどい感じでニヤリと笑った。
そして、スッと右手を掲げる。そうすれば、瞬時に現れるハウリア達!
広場のほぼ中央だというのに、シュババッと一瞬で出現。
一糸乱れぬ動きで整列し、惚れ惚れする様な美しい"休め"の体勢を取った。
あちこちから「いやいやっ、どこにいたんだよ!?」「というか、どうやって現れた!?」「ひぃっ、出た!?誰か、精神安定用の薬をくださいっ」という声が聞こえてくる。
シア「あ、あれ?父様?一体何を――」
カム「聞けっ、同族達よ!」」
父親と並び立てなかったシアちゃん。トボトボとハジメの元へ帰る。
「知ってましたし。父様が、ここぞという時に私をスルーするの、知ってましたし」と呟いている。
ハジメとユエの2人がかりでウサミミをモフ慰めした。そして、カムのあんまりすぎる行動にドン引きしていた。
が、当のカムは、そんな娘の悲しみや陛下の呆れ顔に気が付いた様子もなく、刃の様に鋭い視線と強烈な覇気を纏って、住民達――正確には兎人族に向かって声を張り上げた。
カム「長きに亘り、屈辱と諦観の海で喘いでいた我が同胞よ。聞け!此度は帝国に打ち勝つ事が出来た。
だが、永遠の平和等あり得ない。お前達の未来は、そう遠くない内に再び脅かされる事になるだろう。」
その言葉に、広場にいる何百人もの兎人族が恐怖で震えた。
また、帝国での辛い日々がやって来るのかと、どこか縋る様な目で演説するカムを見つめる。
カム「そうなればお前達はまた昨日までの日々に逆戻りだ。それだけではない。
今度は、奴隷を免れていた仲間も同じ目に遭うだろう。」
未来が暗い事に変わりはないという事実を突きつけられて、兎人族だけでなく他の亜人族も伏し目がちとなる。
カム「お前達は、それでいいのか?」
良い訳がない。尊厳の尽くを踏み躙られる様な日々に戻りたい訳がない。
まして、そんな辛さを、大切な者に味わわせたい訳がない。だが、だからといってどうすればいいというのか……
そう俯く同胞に、カムは厳しい視線を向けつつ、答え等目の前にあるだろうと更に声を張り上げた。
カム「良い訳が無いな?なら、どうすればいいか。簡単だ。今、隣にいる大切な者を守りたいと思うなら……戦え。
ただ搾取され諦観と共に生きる事を良しとしないなら……立ち上がれ。
兎人族の境遇を変えたいと願うなら……心を怒りで満たせ!ハウリア族はそうした!兎人族は決して最弱等ではないのだ!
決意さえすれば、どこまでも強くなれる種族なのだ!我等がそれを証明しただろう!」
誰かが「あ……。」と声を漏らした。
強大な敵を打ち破り自分達を救い出したのは、特別な存在等ではなく、同じ兎人族の一部族なのだと改めて気が付いた様に。
俯いていた兎人族達が、1人、また1人と顔を上げていく。
カム「帝国で受けた屈辱を思い出せっ!不遇な境遇に甘んじるな!大切な者は自らの手で守り抜けっ!
諦観に浸る暇があるなら武器を磨け!心に炎を!戦え!!」
ほんの僅か。
しかし、確実に、兎人族達の瞳に光が宿った。萎れていたウサミミが、生を与えられたかの様にピンッと立ち上がる。
それを見てカムは、計画通りと言わんばかりに少し口の端を吊り上げて笑うと……
カム「戦う術なら教えよう。戦う決意をし、力を欲するなら、我等の下へ来るといい。
ハウリア族は、何時でもお前達を歓迎する。」
そう言って、演説を締めくくった。整列するハウリア達が不敵に笑う。
まるで「一緒に戦おうぜ!」と誘っているかの様だ。カムが再びハンドシグナルを出す。
そうすれば、ハウリア達は、どこぞの忍者の様にシュバ!と散開して一瞬で姿を眩ませた。
それを見て、兎人族達が更に瞳を輝かせる。
幾人かの若者の中には瞳に火が宿っている者もおり、今にも志願すべく駆け出しそうな者もいる。
ほくそ笑む力ム。
心の中で「やったな!また戦力が増えるぞ!一度こちら側に来たら逃がしはしない。全員纏めて魔改造してやるぜ!」と狂喜の喝采を上げる。
カム「陛下、お話の最中に失礼しました。丁度人材確保にタイミングが良かったもので。」
ハジメ「それは別に良いが……少しはシアの事も構ってやれよ。折角感動のシーンだったのに、台無しじゃん。」
カム「?おぉ、シア!そんなに落ち込んで……一体誰がこの様に!?」
ハジメ「お前が原因だろォォォ!」
そうツッコみつつハジメは頭を抱えた。
当時は樹海を離れる場合も懸念していたので、先ずは闘志を目覚めさせ、貧弱な精神を叩き直そうと思っていただけなのだ。
それがいつの間にか、一個師団のコマンドー並のアサシン集団になってしまっている。
何故だろう。脳裏に"増殖"という言葉が過る。
雫の実家辺りと意気投合しそうで怖いなぁ、ハジメは冷や汗を流しながらそう思った。
元を辿れば自分が原因とはいえ、一体誰がここまで変貌すると予想できただろうか。
時の王者にも、わからない未来だってあるのだ。
その内、ハウリアは"森の首刈りウサギさん"と呼ばれ、彼等がわらわらと湧いて出る光景が、帝国民にとっての悪夢になりうるであろう未来を思い浮かべてしまい、「ちょっと、やり過ぎてしまった……。」と、今更ながらに思った。
まぁ、被害を被るのは帝国だけなので、配慮はシアの為にしかしないが。
ハジメ「その内、兎人族はハウリアで統一されそうだね……。」
カム「はっはっはっ、そうなれば恐いものなしですな!」
ハジメ「いや、全然笑えない冗談すぎるんだが?」
ユエ「……こうして、森の優しいウサギさんは絶滅したのでした。」
シア「やめてくださいよ、ユエさん!ハウリアの1人として、物凄く居たたまれないので!」
シアの悲しみ再び。
遠からず、ほぼ間違いなく、気弱で温厚な兎人族は絶滅し、代わりにヒャッハー!な兎人族として生まれ変わる事だろう。
後の世で、「兎人族を、誰がこんな風にした!」と問われる事があったとしたら、シアは、こう答えねばならないかもしれないのだ。
――私の旦那様と、父様です、と。確かに、居たたまれない。
アルフレリック「んんっ。さて、それではそろそろ奥に案内しようか。アルテナ、頼むぞ。」
ハウリア増殖の可能性に、同じく冷や汗を流すアルフレリックが、どうにか気を取り直して案内を促した。
流石は、長きを生きる最年長の長老だ。
他の長老衆や戦士達、特に熊人族が恐ろしい未来を想像して白目を剝きかけている中で、素晴らしいリーダーシップである。
アルテナ「それでは皆様、こちらにどうぞ。案内致します。さぁ、南雲殿も。」
何故か、ハジメの手を取ってにこやかに案内をしようとするアルテナ。
こちらはこちらで、先のカムの挑発を意識し、見事に思惑通りに動いている。
それに、ユエ達の目がスッと細まった。
取り敢えず、シアによるインターセプト。ハジメに向かって伸ばされたアルテナの手がベシッと叩き落とされる。
シアとアルテナの視線が交わった。何故だか、バチバチと散る火花が幻視出来る。
シア「わ·た·し·達!の案内、お願いしますね、アルテナさん?」
にこやかに笑うシア。森のウサギさんに相応しい素敵な笑顔。だがしかし、ウサミミは口ほどにものを言う。
フシャーッ!と威嚇する様にウサ毛が逆立っている。
アルテナ「ええ、勿論ですわ、シアさん。
ですが、人が多いですから、逸れない様に念の為手を引かせていただきますわね?」
にこやかに笑うアルテナ。森のお姫様に相応しい素敵な笑顔。だがしかし、エルフミミは口ほどにものを言う。
ピクピクピクッと抗議する様に高速で動いている。どうやら、カムの挑発が地味に効いている様だ。
森人族のお姫様にあるまじき態度である。
……単に、ハジメに対して云々というより、シアに対する対抗心という面が強そうだが。
「計画通り!」と言いたげに、ニヤリと笑うカムの様子から、大体の事情を察したハジメが、にこやかに殺気を向けた。
一瞬にして、カムが滝の様な冷や汗を流す。
ハジメは、ガクブルし始めたカムに溜息を吐き、ジト目を向けつつも、しっかりシアの手を取った。
シア「あ……。」
その行動に、シアが思わず声を漏らす。が、直ぐに満面の笑みでハジメの腕をギュッと抱え込んだ。
嬉しそうなシアを見て、思わずハジメに目を向けるアルテナ。
ハジメ「アルテナ嬢、案内を頼む。」
が、ハジメは申し訳なさそうな表情を浮かべて断った。それにアルテナはガクッと肩を落とし、悄然と先導し始めた。
苦楽を共にしてきたシアと、大して接点のないアルテナでは、最初から天秤に乗る事すらないので分かりきった結果だった。
まぁ、ハジメもアルテナの気持ちには気づいてはいるものの、そう簡単にポンポン嫁を増やすのもどうかと思うのだ。
ユエ達の事は勿論の事、旅についていけない愛子やリリアーナの事もある。
だからこうするのは仕方がないのだ。
そう言い聞かせて罪悪感を飲み込み、ハジメは仲間達と共に案内に続くのであった。
案内された広間では、奥に長老衆が座り、その対面にカムを含めた幾人かのハウリア族が、その右側にガハルドを挟んで俺達が座っている。
皇帝直々の敗北宣言と、誓約の内容が本人の口から伝えられ、長老衆も、漸く実感が持てた様だ。
己の中の名状し難い感情を整理する為か、唸ったり、天を仰いだり、目元を手で覆って深く息を吐いたり……
それぞれの方法で、この歴史的瞬の間を呑み込もうとしている。
未だに歓喜の声が外から響いてくる中、長老衆の1人――虎人族の族長ゼルが目を鋭く細めた。
その視線の先にいるのは、敵地にありながら不敵な笑みを浮かべている不遜な態度のガハルドだ。
ゼル「敗戦国の王が、随分な態度だな?自分が我々からどれだけの恨みを買っているか、自覚がない訳ではないだろう?
まさか、ただで生きて帰れるとでも思っているのか?」
この虎公、すぐに調子に乗りやがって……。
抑々お前等じゃなくてカム達ハウリアが屈服させたんだが?その辺り忘れて勝手に動くなよ。
まぁ、気持ちはわからんでもない。相手は長年自分達を苦しめ続けてきた怨敵の首領なのだ。
虎公の瞳孔は縦に割れ、獣性が剝き出しになっている。全身からも凄まじく濃密な殺意が溢れ出ている。
他の長老や護衛の戦士達も、隠しきれない殺意と憎悪を滲ませている。無理からぬ事である。
だが、そんな殺気を向けられても、当のガハルドはどこ吹く風といった様子だ。
ガハルド「思っているに決まっているだろう。まさか、本気で俺を殺せると思ってやしないだろうな?
だとしたら、フェアベルゲンの頭共は、とんだ阿呆という事になるぞ?」
ゼル「なんだとっ、貴様!」
ハジメ「その辺にしろ。」
ガハルド・ゼル「「!?」」
口論に発展しそうな2人を威圧で抑える。
ハジメ「まず、虎公。勝手に挑発するな。事を成したのはあくまでハウリアだ。
百歩譲って、代表のアルフレリックなら兎も角、一族長の貴様が口を出す余地等無い。
その程度すら理解出来んのであれば、先ずは貴様から黙らせてやろう。」
ゼル「ぐっ……。」
私がそう言うと、虎公は悔しそうに顔を歪め、床に拳を叩きつける。
取り敢えず堪えた様なので、次にガハルドへ視線を向ける。
ハジメ「貴様もだ、ガハルド。無事に帰れるからと言って頭に乗るな。
ここで諍い事を起こすつもりなら、貴様の息子()を消し飛ばすぞ?ユエが。」
ユエ「……ん、任せて。思いっきりやる。」
ガハルド「わぁったよ畜生!テメェはやっぱ鬼畜魔王だなオイ!」
焦るガハルドを横目に、私は更に続ける。
ハジメ「私はあくまで仲介人としてここにいる。だが、争いの1つでも起こしてみろ。
喧嘩両成敗につき全員叩きのめす。……まぁ、私とてその様な強引な手段はとりたくはないがな。」
そう言って威圧を解除すれば、その場にいる者たちは苦虫を嚙み潰した様な表情になるも、その場は抑える事にした様だ。
アルフレリック「ゼル、よせ。気持ちは痛い程分かる。
だが、ガハルドがここに来たのは、我々にハウリア族の成した事と誓約の効力を証明する為だという事を忘れるな。
それ以上でも以下でもない。ここで殺してしまっては、ハウリア族が身命を賭した意味がなくなってしまう。」
ゼル「……分かっている。」
ふぅ、虎公はアルフレリックに任せるとして……問題は
アルフレリック「ガハルド、少しは態度を改めろ。我々を、お前の言う阿呆にするな。
時に、理屈では抑えきれない感情があると知れ。お前は、それだけの事をしてきたのだ。」
静かな声音だった。だが、そこに秘められた感情は、ガハルドをして不敵な笑いを潜めさせるだけの重みがあった。
最も長く生きた森人族。
それは即ち、最も長く苦しみを、悔しさを、そして憤怒と憎悪抱いてきたという事でもあるのだ。
一方のガハルドは、胡座をかいた状態で、暫くの間、アルフレリックに視線を向けた。
そして、背筋をスッと伸ばすと口を開いた。
ガハルド「だったら、剣を取れ。」
胡乱な眼差しを向けるアルフレリックに、ガハルドは真っ直ぐな眼差しを向けたまま言葉を重ねた。
ガハルド「俺が、帝国が、敬意を払うのは強い者だけだ。俺の態度が気に食わないというのなら、力を以て従わせろ。
帝国の皇帝を、御託でどうにかできると思うなよ。」
そう、ガハルドに、亜人族を奴隷にしていたことに対する罪悪感や謝罪の念は皆無だった。
だがコイツは、魔力を持たない、神に見放された種族だから見下したのではない。
獣混じりだからと差別している訳でもない。ガハルドが亜人族に価値を見いださないのは、ただ彼等が"弱い"からだ。
実力至上主義な辺り、その辺は理解できる。だがな、勝手に火種を作ろうとするのは止めてほしいんだが?
ガハルド「俺が負けた相手は、亜人族じゃあない。
敬意を払うべきは、お前等じゃあない。剣を取り、命を懸け、戦場にて強さを示したのはハウリア族だ!」ビリビリ
ガハルドの覇気が広間を震わせ、一触即発の空気となる。……やれやれ、ここらが潮時か。
ハジメ「もういい、ガハルド。お前、面倒だからもう帰れ。そして、二度とここに来るな。」
ガハルド「あ?」
キョトンとするアルフレリック達長老衆と、訝しむガハルド。
そんな彼等の空気等知るかと言わんばかりに、私は立ち上がると、むんずっとガハルドの首根っこを引っ掴み、オーロラカーテンを開いた。
向こう側には奴にとっては見慣れた帝城の一室があった。
ガハルド「お、おい!まさか、このまま送り返す気かっ!?今、ある意味、二国間の歴史的な会談って感じだったろ!?
流石の俺でも言うぞ!空気読めって!」
ハジメ「その空気を崩した貴様が言うな、猿。貴様がここに来たのは、誓約の証人としてだろうが。
そも、何百年も続いてきた価値観の相違や恨み辛みが、たった一度の会談で変化等する訳なかろう。」
実際、ガハルドへの報復や、悔恨或いは改心というものを望む亜人族と、徹底した実力至上主義を信念として掲げるガハルドの生き方は、少し話し合った所で平行線しか辿らないだろう。
まぁ、その辺りはアレを始末した後にメスを入れるとして……だ。
アルフレリックが言った様に、この場は、ハウリア族の成した事を当事者筆頭たるガハルドが証明する為の物であり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
ガハルド「ぬぐぅ、確かにそうだが……。」
ハジメ「そういう訳で、もう用は済んだのだ。揉め事を起こす前にさっさと帰れ。」
ガハルド「あっ、コラッ!てんめぇっ、人を反抗期のガキみてぇに!俺は皇帝だぞ!
折角、フェアベルゲンまで来たってのに、色々知りたい事が!それにお前のことも……って、引きずるんじゃねぇよ!
放しやがれぇ!そして話を聞きやがれ!」ジタバタ、ズルズル……
ジタバタと暴れるガハルド。が、所詮は下級皇帝。最強王者の膂力には全く敵わず、いとも簡単に引き摺られていく。
そのまま、問答無用で向こうへガハルドをシュート!超!エキサイティング!
「覚えてろよぉ~!南雲ハジメぇ~!!」と、捨て台詞を吐きながら消えていく姿は、なんとも哀れを誘う光景だった。
あんまりと言えばあんまりな扱いに、先程まで殺気立っていた長老や戦士達が溜飲を下げている。
因みに、リリィは王国や新生聖教教会の現状、そして今後の【フェアベルゲン】との関係について話してもらう為、まだここにいる。
王国は、帝国と違って奴隷商が盛んではなかったが、それは差別意識が強かったからというのもある。
その事は亜人側も承知であり、"簡単な話し合いの場で"という訳にいかないのはガハルドと同じだ。
とはいえ、帝国に比べればまだ敵愾心は少ない。一先ず話を聞く位は、長老衆としても許容すべき事である様だった。
まぁ、現国王は俺だし、大丈夫だろう。この前も、同じ亜人族の海人族との交渉も上手くいったし。
え?向こうはほぼお通夜状態だったって?何の事やら(すっとぼけ)。
ハジメ「カム。リリィ達はまだ長老衆と話があるが、お前等はどうだ?ないなら、お前等の集落に案内して欲しい。
流石に、数千人を乗せて"ノア・エルーナ"を飛ばすのは疲れたから、そろそろ休みたい。」
カム「ふむ。それはそうでしょうな。明日以降、大迷宮の攻略も控えている訳でありますし。
直ぐに案内させましょう、陛下。」
カム自身は解放した兎人族の受け入れ等、【フェアベルゲン】で陣頭指揮を執らねばならない役目があるので、代わりに案内人をつけてくれるらしい。
アルフレリック「待ってくれ、南雲殿。まだ、報いる方法が決まっていない。
もう少し付き合ってくれないか。」
が、フィンガースナップで部下をシュバッと呼び出そうとする寸前、アルフレリックが制止の声をかけた。
ハジメ「さっきも言っただろう、事を成したのはハウリアだ。」
アルフレリック「勿論、カム達にも相応の礼をする。だが、南雲殿にも大恩があるのは事実。
何もしなければ亜人族はとんだ恥知らずになってしまう。」
ハジメ「そう言われてもな……では、樹海の宿や食事の提供、でよしとしよう。」
アルフレリック「おぉ、勿論だとも!その位なら快く提供しよう。」
案を出したら、速攻で決まった。まぁ、俺もここで迷宮への準備がしたいし、宿や食事がもらえるのはありがたい。
ユエ達も特に異存はない様だ。雫や鈴等は、美しい都で、ケモミミな人達と触れ合えるかもと瞳を輝かせている。
長老衆も特に反対はない様だ。
寧ろ、ガハルドに対する敵意や、リリィに対する警戒心に比べれば、否、比べるのも烏滸がましい程好意的な反応である。
是非、滞在していって欲しいという感情が表情に現れていた。
客観的に見ると、樹海に来る度に助けた同胞を連れてきて、傷ついた自然や人々を癒やしてくれた者と仲間で、攻撃の意思さえ見せなければ敵対して来ない。
……確かに、初めて会った時に比べ、好意的になる要素は揃っていた。
しかし、意図した訳ではない好意には、少し照れ臭くなる。
アルフレリックはホッとした様子を見せつつ、次に、カムへ視線を向ける。
アルフレリック「さて、カムよ。
お前達は追放された身で襲撃者共を駆逐し、尚且つ、帝国に誓約までさせ同胞を取り返した。
我等は、お前達に報いなければならない。
差し当たり、ハウリア族の追放処分を取り消す事に異存のある者はいない。
これは先の襲撃後の長老会議で既に決定した事だ。これからは自由にフェアベルゲンを訪れて欲しい。
なんなら、都の中にハウリア族の居住区を用意しよう。」
追放処分の取り消し。
それは、以前、散々揉めた長老会議の決定を覆すという事。それだけハウリア族の功績が大きいという事だろう。
しかし、当のカムは「……そうか。」と呟くだけで、特に喜んでいる様子はなかった。
どうでもいいとさえ思っている様な態度だ。アルフレリックは咳払いで間を取りつ、更なる報償を伝える。
アルフレリック「そしてだ。
此度の功績に対しては、ハウリア族の族長であるカムに、新たな長老の座を用意する事で報いの1つとする事を提案したい。
他の長老方はどうか?」
アルフレリックの言葉に、側近達が驚いた様に目を見開いた。
ここ数百年、現在の種族以外が長老の一座席を受けた事はないらしく、森人族、虎人族、熊人族、狐人族、土人族、翼人族が亜人族の最優六種族とされているそうだ。
そこに兎人族を加えるというのは、亜人族の価値観からすれば、正に歴史的快挙とも言うべき種族の誉れだった。
アルフレリックの提案に、他の長老達は一度顔を見合わせると頷き合い、満場一致で賛成を示した。
アルフレリック「ふむ、そういう訳だ。カムよ。長老の座、受け取ってくれるか?」
カム「勿論、断る。」
長老衆「「「·····え?」」
……うん?
なんだか、「新たな仲間を迎えよう!」みたいな清々しい空気がぶった切られたような気がしたんだが?
聞き間違いかな?が、カムからは訂正する空気が感じられない。オイオイ…。
長老達の目が点になる。まさか断られるとは思ってもみなかったらしい。
アルフレリック「……何故か、聞いてもいいか?」
どうにか気持ちを持ち直したアルフレリックが、亜人族として最高位の恩返しの何が気に食わないのかと、頭痛を堪える様にして尋ねた。
カム「何故も何も、そもそもお前達は根本的に勘違いをしている。」
アルフレリック「勘違い?」
カム「お前達は、我々が亜人族全体を助けたと思っている様だが、それはものの序だ。
我等が決起したのは、あくまで同族である兎人族の未来を想っての事。
他の亜人族は、言ってしまえば"どうでもいい"のだよ。」
アルフレリック「……なんだと?」
あ~……そういうことか。なんとなく察したよ。要は。兎人族の為だけに戦った、って事か。
淡々と語るカムに、長老達は信じられないものを見る様な目を向けている。
カム「故に、勘違いしてくれるな。ハウリア族は、決してお前達の味方ではない。
もし、お前達が此度の勝利に味をしめ、それを自分達の勝利の様に錯覚し、人間族への無謀な戦争を企てたり、武器道具の類を仕入れようと我等や陛下に迷惑をかけたりする様な事があれば――
ハウリア族の刃はお前達自身に向くと思え。」
脅しでもなんでもない。カムから溢れ出る覇気と殺意が、本気である事を伝える。
まぁ、勝手な事をされては、ヘルシャー一族に誓約させた意味がなくなり、兎人族に暗い未来が訪れかねないのだから、当然と言えば当然の判断だろう。
とはいえ、同胞から「調子に乗ったら殺すぞ?」と身も蓋もない宣言をされた長老達からすれば、すんなり納得できるはずもなく……
「ど、同胞に刃を向けるというのか!?それではまるで狂人だ!」
カム「ふん、兎人族を蔑んでいたのはお前達も変わらんだろうに。
今更、親しげにされてもな。まぁ、そんな事はどうでも良い。
兎に角、我等の刃は全て、兎人族の未来の為に振るわれる。それだけ胸に刻んでおけばいい。」
言いきったカムの表情は清々しい。「言ってやったぜ!」的なサムズアップを肩越しに掲げる。
後ろに控えるハウリア達も良い笑顔でサムズアップを返した。
「ハウリアの族長を長老に加えることで、自分達の力を良い様に使えると思ったら大間違いだぞゴラァ!」と、彼等の目が語っている。
実際、そういう打算が全くなかったと言えば嘘になるからだろうか、アルフレリック達の表情は苦々しい。
そして皆、俺にそんな目を向けないでくれ。俺だってここまで変わるなんて思ってもいなかったんだよ。
時の王にもわからないことだってあっていいじゃないか、人間だもの。
アルフレリック「まるで、亜人族から兎人族だけ独立したような言い方だな。」
カム「アルフレリック、お前はいつでも的確だな。全く以て、その通り。
これからは、兎人族は兎人族のルールでやっていく。
フェアベルゲンのルールに組み込まれて、良い様に使われるのは御免なのでな。」
カムの不遜な物言いに、気の短いゼルや長老を蔑ろにされた側近達が激しく憤る。
カムは涼しい顔だが、後ろに控える部下のハウリア達は「ああ?やんのかゴラァ!」とチンピラのようにメンチを切っていた。
俺としては、独立していた方が動員を迅速に行いやすいから賛成だが……
そんな中、難しい表情で考え込んでいたアルフレリックは、まるで、嘗ての俺を相手にした時の様に、どこか疲れた表情でカムに話しかけた。
アルフレリック「では、カムよ。
お前さん達を"一種族にしてフェアベルゲンと対等である"と認めるというのはどうだ。
当然、長老会議への参加資格を有することにして。
これなら、フェアベルゲンの掟にも長老会議の決定にも従う義務はなく、その上で、我等にも十分な影響力を持てる。」
カム「ほほぅ~。まぁ、悪くはないな。」
……どうやら妥協してくれた様だ。
アルフレリックの新たな提案に、「その言葉が聞きたかった!」とでも言う様にカムはニヤリと笑った。
カムとしても、いつか帝国が侵攻してきた場合に備えて、【フェアベルゲン】との繫がりは欲しいと考えていたのだろう。
しかし、だからといって【フェアベルゲン】に組み込まれてしまうと長老会議を無視できず自由に動く事が出来なくなってしまう。
会議の決定を蔑ろにした時点で、繋がりも何もあったものではないからだ。
軋轢が生まれて、関係が酷くなるだけである。
なので、あくまで強い影響力を持つ同盟的な立場の種族、或いは外部機関的な立場がベストだと考えていた訳だ。
だが、当然、ハウリア族を優遇しすぎであると反発の声が上がる。
それに対してアルフレリックは、溜息を吐きながら答えた。
アルフレリック「彼等は、一部族だけで事を成したのだぞ?
フェアベルゲンが総力を上げても出来ないであろう事を、だ。対等と認めるには十分な理由だと思うが?
それに、このままではハウリア族と縁が切れてしまう可能性がある訳だが、その損失の度合いを測れないお前達ではあるまい。
同盟という形をとれば、追放してしまった彼等とも、また縁を繋げるのだ。
ならばこの程度の事、彼等が成し遂げてくれた事の大きさに比しても、過剰とは言えまいよ。」
長老達は、「ぐぬぬぬっ」という音が聞こえそうな位頭を捻った様だが、結局、良案が出る訳でもなく、種族の矜持やら長老会議の威信やらをどうにか押し込めて、アルフレリックの提案を呑む事になった様だ。
アルフレリック「そういう訳で、カムよ。
長老会議の決定として、ハウリア族に"同盟盟種族"の地位を認める、という事で良いか?」
カム「まぁ、認められようが認められまいが、我々のやる事は変わらんが、そういう事でいいだろう。
あぁ、その序に、大樹近辺と、その南方一帯はハウリア族が使う故、無断で入ってくるなよ?
命の保証はできんからな。」
まさかの追加注文しやがった……。というか勝手に自分達の土地を決めてしまった。
流石のアルフレリックも頰がピクッとなり、俺の隣でも、シアが両手で顔を覆ってしまった。
どうやら父親の傍若無人ぶりが恥ずかしくなったらしい。家の父様がヒャッハー!してますぅ~と。
「もう聞いていられない!」と、ウサミミが折り畳まれてしまっている。
その後、どうにか話も纏まり、妙に疲れた顔をしている長老衆を残して、俺達は【フェアベルゲン】での滞在中の部屋に案内してもらったのであった。
都の中は、まだまだお祭り騒ぎだ。
光輝達王都からの遠征組は、漸くゆっくり見物できる亜人族の国に興味津々で、久しぶりに少し明るい気持ちでお祭り騒ぎの渦中へと飛び込んでいった。
それと同じくして、獣人達の一部の熱狂的な聖女教信者達が、香織様とトネリコ様を捜し回るという事があったのだが……
見つからない様、香織は俺お手製のサングラスに、マスクとニット帽をつけてこそこそしていたのが、何故かとてもしっくりきたのは不思議な話である。
尚、リリィはそれから暫くして王国へ帰還した。
今回の一大事件についても、俺の代わりに王国なりの行動方針を決めねばならないしな。
因みに帰還方法は勿論、お姫様抱っこだ。そりゃあ当然だろう、彼女は俺の……妻の1人なのだから。
その日の夜中、未だチラホラと町中の喧騒が聞こえてくる。何処かで帰還を祝って宴会でもしているのかもしれない。
と、そんな中で俺達は、思い思いに寛いでいた……シアだけ何故か、ここにいないが。
ミュウ「シアお姉ちゃん、帰りが遅いの……。」
ユエ「……ん。家族に会ってくるって言ってたけど……。」
香織「ハウリアの人達と、戦勝祝いでもしてるのかな?」
ティオ「うぅむ。まぁ、シアに限って悪い事は起きておらんじゃろう。
何かあっても、元凶の方が木っ端微塵じゃろうて。」
家族、か。そう言えば、シアのお母さんのお墓参りもまだだったな。
レミア「ハジメさん?どうかしましたか?」
ハジメ「うん?あぁ、この先の大迷宮に向けて計画を考えていてね。」
トネリコ「うふふ……。」
咄嗟に誤魔化したものの、女性陣には筒抜けの様だ。シアの事を心配しているのが顔に出ていたのだろう。
すると、タイミングを見計らっていたのか、不意に部屋の窓が開いた。
カム「夜分遅くに失礼します、陛下。」
ハジメ「カムか。どうした?」
高さ10m以上ある部屋の窓から、にゅるりと入ってきたのはカムだった。
カムは片膝を突く形で跪くと口を開いた。
カム「陛下。お休み中なのは重々承知なのですが、今から少し、お付き合い願えませんか?」
ハジメ「ふむ……いいだろう。丁度散歩でもしたかった気分だ。」
カム「ありがとうございます。」
その言葉から意図を察した俺は、ユエ達に「少ししたら戻るよ。」と伝え、カムの案内の下、樹海の奥――
ハウリア族の元の集落へと向かうのだった。
うねる様に根の張りだした大きな木の下に、ポツリと佇む少女の姿があった。
何かをするでもなく、ただ、目の前にある大木をジッと見つめている。とても静かで、とても穏やかな雰囲気であった。
普段の、天真爛漫でムードメイカーな雰囲気が嘘の様に。
淡青白色の髪と、静謐と愛情に彩られた横顔は驚く程神秘的で美しい。
森に迷い込んだ者が目撃したなら、きっと誰であっても心奪われたに違いない。
そんな少女――シアの下に、俺は歩み寄っていった。
実はもう少しだけ、この神秘的な雰囲気を満喫していたかったので、静かに、ゆっくりと歩いていった。
シア「!ハジメさん。」
ハジメ「やぁ。」
特に驚いた様子もなく、シアはふにゃっと笑いながら俺を呼んだ。
俺は、そっと寄り添う様に、シアの隣に並び立った。
暫くの間、2人とも何も言わず、ただ目の前の大木を見つめて佇む。やがて、ポツリと、シアが口を開いた。
シア「父様ですか?」
ハジメ「あぁ。案内したらさっさと行っちゃったけどね。」
シア「ふふふ、父様も中々空気が読めますね。」
そう、カムの用事は、シアの下へ俺を案内し、出来れば俺とシアを2人っきりにしたいという、親心らしい物だった。
ま、俺が乗り気になっていた時点でユエは勿論、ミュウまでもがシアの気持ちを察していた様だったが。
ハジメ「ここに、シアのお母さんが?」
シア「はいです。母様が、この木の下に眠っています。」
樹海では、死した者は木の根元に埋葬されるらしい。自然に還す為だ。
役目を終えた体と魂は自然と1つになり、故郷たる樹海を潤し、そこで生きる者を潤して、再び新たな命が生まれてくる。
何とも神秘的な伝承だろうか。そして亜人達は、その循環を尊ぶ。
彼等にとって、ここの木々は墓石であり、故人の象徴でもあった。
シア「――英雄になりたかった。」
ハジメ「ん?」
シアの突然の言葉に、俺は首を傾げる。シアは大木を見つめたまま言葉を重ねた。
シア「――家族を守れる人になりたかった。逃げ隠れするだけじゃない。
大切な人を奪おうとする全てに立ち向かって、全てを守れる様な、そんな英雄になりたかった。」
ハジメ「……。」
シア「母様の言葉です。燃える様な瞳と心を持った人でした。」
最弱種族かつ病弱。最も弱き体を持った、最も強き心の女性――モナ·ハウリア。
それが、シアが敬愛する母親の名前だった。
ハジメ「……シアが強い子なのは、お母さん譲りだね。」
シア「!えへへ。」
確かな敬意を以て墓石を見つめていた俺が、シアの頭を撫でながらそう言うと、シアは弾かれたように視線を転じた。
――生まれてくる子は、強き子であれ。
かつて、母が伝えてくれた願い。体の強さは願った通りに。そして、心の強さも、シアは確かに受け継いだのだ。
それらを、想い人が認めてくれた事が嬉しかったのか、シアの顔には自然と照れ笑いが浮かんでいた。
頰を上気させたシアは、墓石代わりの大木を仰ぎ見ながら、万感の想いを込めて亡き母へ言葉を紡いだ。
シア「母様。母様が教えてくれた事は本当でした。世界はとびっきり厳しいですけど、時々、とても優しいです。
私、見つけましたよ。紹介しますね。この人が南雲ハジメさん――私の、大切な人です。」
かつて、モナさんは言った。シアと並び立つ人が必ず外の世界にいると。そして、きっと素敵な出会いをするのだと。
"未来視"なんて能力もないのに、彼女の予知は必中だった。今でも、まだまだ敵わないなぁと、シアは言っていた。
いつか、母のように美しく気高く、そして強い女性になれるのだろうか。
辿り着くには、中々骨の折れそうな未来だ。だが、それでも、1つ、近づけた事もある。
シア「私は、父様は、ハウリア族は――英雄になりました。」
もし、彼女が生きていたら、モナさんは、一体どんな顔をするのだろう。あの燃える瞳を更に輝かせるのだろうか。
それとも、無茶をしてっと困った様に笑うのだろうか。在りし日の母の姿を思っていたのか、シアは目を細めていた。
ハジメ「ありがとうございます。」
シア「え?ハジメさん?」
突然の言葉に、シアはこちらを見た。どうしても今、ここで伝えるべきだと思ったからだ。
俺はモナさんの大木に視線を向けながら、言葉を続けた。
ハジメ「最初、奈落から出てきた後は、自称神の悪党を殺して、元の世界に帰る事しか考えて言いませんでした。
でも、シアと出会ったおかげで、この世界も捨てた物じゃ無いっていう、新しい繋がりが1つできました。
そうしてここまで来て、幾つもの繋がりが、俺達の助けになってきました。
ここまでの出来事が良い思い出だったと思えたのも、旅路が楽しく思えたのも、間違いなく、貴女の娘さんのおかげです。」
シア「ハジメさん……。」
言葉に詰まるシア。
そんなシアに、俺は小さく笑みを浮かべながら、改めて、大切な少女の母に向けて感謝の言葉を贈った。
ハジメ「この世に、シアを産んでくれてありがとうございます。」
シアは天を仰いだ。そうしなければ、溢れ出るものを抑えられそうになかったのだろう。
暫しの間、モナさんの大木に見守られながら、穏やかで温かな時間が流れる。
人々を惑わす真白の濃霧でさえ、今は2人を優しく包み込んでいるかの様だった。
心地よさすら感じる沈黙を、再びシアの言葉が終わらせた。
シア「あの、ハジメさん。」
ハジメ「ん?」
シア「ありがとうございました。いろいろ、言葉にしきれない位……本当に、ありがとうございました。」
一族の救済、旅の道連れ、望みに応え、国を相手取る。
背中を合わせ、命を預け合い、共に死線を潜る。それだけの信頼を寄せてくれた事。
そして、母の墓前で、こうして同じ時を過ごしてくれている。
シアの深い感謝の言葉に、俺は暖かいものを感じながら返した。
ハジメ「あの、時シアが言ったでしょ?未来は、一生懸命頑張れば変えられるって。」
シア「!」
ハジメ「最後までシアが、諦めずに信じ続けて進んできたからこそ、こうして今がある。俺はそう思っているよ。」
シア「ハジメさん……!」
全く……泣き虫なのは変わっていないな。まぁ、そこが可愛いんだけどね!
しかし、シアは直ぐに難しそうな表情になって、こちらに視線を向けた。
シア「私、何をすればハジメさんに返せますか?」
ハジメ「返すも何も……俺はもう貰っているよ。
こうして一緒にいてくれる、それって……俺にとっては一番安心出来る事だから。」
シア「もう!そうじゃなくて!私は、もっと形のある恩返しがしたいんです。
ハジメさんは、私が何をすれば嬉しいと感じてくれますか?……ハジメさんが望むならなんだってします。
本当になんだって……。」
シアはウサミミをピコピコと動かしながら、俺にピトリと密着する。
直ぐ横からこちらを見つめる彼女の瞳は熱を孕んで潤んでおり、吐息は火傷しそうな程熱い。
言外にシアが何を言っているのかを正確に理解してはいるが……流石に故人とはいえ、親御さんの前ではちょっと……
と、そんな煩悩だらけの事を頭に浮かべていると、再び天を仰いだシアは、上空の霧に輝きを見た。
それは、偶然にも局所的に霧が薄くなる事で月の光が差し込み、それが空気中の水分に乱反射して起こる現象らしい。
シア「ハジメさん、ハジメさん。ちょっと付いてきてくれませんか?」
ハジメ「ん?いいよ。」
ウサミミをみょんみょんさせながら、シアは楽しそうに大木を駆け上がり始めた。
俺も、幹の洞や枝を足場にひょいひょいと追随する。するとその道中、樹々が淡青色に点々と輝く場所を発見した。
シア「あっ、モントファルタですよ、ハジメさん。」
ハジメ「モントファルタ?」
シア「はい、月明かりみたいな淡い青色に発光する蝶の事です。
あんな風に群れて、樹々の高い所に止まるので、まるで夜空に輝く星みたいに見えて人気なんですよ。
ただ、何時何処であんな風に発光するかが分からないので結構珍しいんです。1年に1回見られるか見られないか位。」
ハジメ「へぇ~、確かに綺麗だねぇ……よっしゃ、ラッキー!」
そうして、モントファルタのプラネタリウムを鑑賞しながら樹々を登り、辿り着いたのは、モナさんの大木の頂上付近。
普通、頂上付近ともなれば細い枝ばかりとなるのだが、そこには幾本もの枝が複雑に絡み合って出来た、実に座り心地のよさそうな場所があった。
シア「ここに母様を埋葬したのは、ここが母様のお気に入りの場所だったからなんです。」
ハジメ「成程。ここは秘密基地みたいなものか。いいねぇ、これ。」
2人でもゆったりと座れる頂上の大きな枝に、並んで座る俺とシア。
シア「ほら見てください、ハジメさん。中々の光景が見られますよ!」
ハジメ「……お?おぉ。これはまた……幻想的だねぇ。」
霧が流れ、限りなく薄くなる。見えてくるのは、広がる雲海。
丁度、俺達の高さで濃霧が広がり、それより上は晴れた状態なのだ。
そして、濃霧の海に月の光が降り注ぎ、キラキラと幻想的に輝いている。
正に、宝石をちりばめた真白の海というべき光景だった。
シア「ものすっごく希な現象なんですけどね。母様のとっておきです。
このタイミングで見られるなんて、ついてますねぇ。」
ハジメ「シアのお母さんの粋な計らい、だね。」
母親が、頑張った娘にご褒美をくれたに違いない。
そう言う俺に、シアのウサミミはわっさわっさと身悶えるように動いた。
2人で、キラキラと輝く霧の海を眺める。ふと、俺はシアを見た。
月の光を反射しているのは、シアの髪も同じらしい。淡青白色の髪が、風に靡く度にキラキラと輝く。
とても綺麗だ、この星空以上に。そう思えた。
シア「え、え~と、ハジメさん?なんでしょう?
そんなにジッと見つめられると、流石に恥ずかしいのですが……。」
気が付けば、シアが頰を真っ赤に染めながら恥じらう様にモジモジとしていた。
ウサミミも「うぅ~、どうして見てるの~?」という様にペタリと倒れながら、時折、ふにゃふにゃと動いてはこちらを向く。
そんなシアに俺は目元を和らげると、そっと手を伸ばした。そして、その恥じらうウサミミを優しく撫でる。
シア「ハ、ハジメさん?」
ハジメ「……シア、1つお願いがあるんだけどいいかな?」
シア「勿論いいですよ!何でも言って下さいです。」
うぅ……これは本当にちょっとしたお願いなんだけどなぁ……?
ハジメ「いや、ちょっと横になりたくてね。良かったら膝枕してくれない?」
シア「そんなの頼まなくても普通に使って下さい。さぁ、どうぞどうぞ。」
ハジメ「ありがとう。」
シアは、俺のお願いに拍子抜けした様な表情をするものの、膝枕するのは嬉しいらしく、直ぐに満面の笑みを浮かべて自分の太ももをペシペシと叩いた。
俺は、笑みを零しながら礼を言い、そのまま遠慮なく横になる。
シアはミニスカートなので、直接太ももの感触が伝わる。
温かくふにふにとした感触が、柔らかく俺の頭部を支える。仄かに、甘い香りが鼻腔を擽った。
すると、シアの手が優しく俺の髪を撫でる。心地よい感触に、思わず目を細めた。
俺はお返しとばかりに、目の前に垂れ下がっているシアの髪を手に取り、指で弄んだ。シアの頭上に月が見える。
天真爛漫な元気っ子なのに、こんなにも淡い月の輝きが似合う女の子はいないだろう。
月の輝きが強まるにつれ、同じ様に輝きを増すシアの髪と笑顔。一体誰が、見惚れずにいられるだろう。
見つめ合い、穏やかに、月と霧が作り出す神秘の中で寄り添う俺達。
この光景を見た人がいたなら、きっと砂糖を吐き出しそうな位、釀し出す雰囲気は甘かった。
そうして、樹海が再び、濃霧に包まれるまで、俺達は2人っきりの時間を楽しむのだった。
次回、一旦別サイド挟んだ後にもう1話挟んでから、本格的に大迷宮に潜ります!お楽しみに!
もし、ハジメさん以外の別キャラ視点でオリジナル番外長編(web 原作アフターを除く)を作るとしたら、誰を主人公にする?
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ユエ
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シア
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ティオ
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レミア
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ミュウ
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香織
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雫
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トネリコ
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リリアーナ
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愛子
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星野アイ
-
幸利
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恵里
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光輝
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浩介
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龍太郎&鈴
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優花
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両親サイド
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良いから本編プリーズ
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その他(活動報告でリクエスト)