Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

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やーっと、第1部が終わりそう。今回は皇帝の訪問とそれ関連の一波乱です。
今回で一旦香織達サイドはお休みです。次回からはウサ耳ヒロインの登場ですので、お楽しみに!


サイドⅣ(前編):⇐波乱の皇帝襲来

王宮への帰還から3日後、遂に帝国の使者が訪れた。

現在、光輝達迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人程立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

エリヒド王「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう。」

???「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。

して、どなたが勇者様なのでしょう?」

エリヒド王「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

光輝「はい。」

陛下と使者の定型的な挨拶の後、早速光輝達のお披露目となった。陛下に促され前に出る光輝。

召喚された頃と違い、まだ二ヶ月程度しか経っていないのに随分と精悍な顔つきになっている。

 

ここにはいない王宮の侍女や貴族の令嬢、居残り組の光輝ファンが見れば間違いなく熱い吐息を漏らしうっとり見蕩れているに違いない。

光輝にアプローチをかけている令嬢方だけで既に二桁はいるのだが……

彼女達のアプローチですら「親切で気さくな人達だなぁ。」としか感じていない辺り、光輝の鈍感は極まっている。

正に鈍感系主人公を地で行っている。

 

因みに我らが魔王も、例の件によってアプローチは一時期光輝よりも多かった。

しかし、彼の訃報を受けた一部の者は、死人のハジメから生者の光輝に鞍替えした。

それによって、派閥抗争が起きたこともあったらしいが……

ハジメからすれば「他所でやってくれ!」と言いたくなることだろう。

実は理由は他にもあるのだが、それは派閥内では秘匿の案件とされているらしい。

それはさておき、光輝を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

???「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に65層を突破したので?

確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……。」

使者は光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干疑わしそうな眼差しを向けた。

使者の護衛の一人は、値踏みする様に上から下までジロジロと眺めている。

その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら、光輝が答える。

 

光輝「えっと、ではお話しましょうか?

どのように倒したかとか、あっ、66層のマップを見せるとかどうでしょう?」

光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

???「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。

私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか?それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう。」

光輝「えっと、俺は構いませんが……。」

唐突に来た模擬戦の依頼を受け、光輝は若干戸惑った様にエリヒド陛下を振り返る。

エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。

神威をもって帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせる事は簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

 

エリヒド王「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ。」

???「決まりですな、では場所の用意をお願いします。」

こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

もしハジメが代表として挙げられていたのであれば、先ずは相手の素性を怪しみつつ、実際にベヒモスの死体を眼前に差し出すか、実際に65層に連れていって倒して見せる、の2択で対処で来ていたであろう。

尤も、実力を隠して戦うとしても、錬成トラップに複合魔法、十八番のステゴロと、やりようなら幾らでもあるが。

 

光輝の対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。

高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。

一見すると全く強そうに見えない。

刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており、構えらしい構えもとっていなかった。

 

ハジメがこれを見ようものなら、「胡散臭い」と言いつつも相手を警戒して注視するだろう。

尤も、これは戦闘経験豊富な武人でもない限り、そう動ける者は少ない。

何故なら、一見無造作に見える構えも、本人にとっては、直ぐに刃を振るうことのできる構えかもしれないからだ。

 

そうとは思ってもいない光輝は、舐められているのかと些か怒りを抱く。

最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割かし本気で打ち込む事にした。

 

光輝「いきます!」

光輝が風となる。"縮地"により高速で踏み込むと豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。

並みの戦士なら視認する事も難しかったかもしれない。勿論、光輝としては寸止めするつもりだった。

だが、その心配は無用だったらしい。寧ろ舐めていたのは光輝の方だと証明されてしまう結果となった。

 

バキィ!!

 

光輝「ガフッ!?」

不意に襲った衝撃に短い悲鳴を上げながら、吹き飛んだのは光輝の方だった。

護衛の方は剣を掲げる様に振り抜いたまま光輝を睥睨している。

光輝が寸止めの為に一瞬力を抜いた刹那に、だらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり光輝を吹き飛ばしたのだ。

 

光輝は地滑りしながら何とか体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見る。

寸止めに集中していたとは言え、護衛の攻撃が殆ど認識出来なかったのだ。

護衛は掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている。

そう、先程の攻撃も動きがあまりに自然すぎて危機感が働かず反応できなかったのである。

 

???「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか?まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。

確かに、光輝は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。

光輝は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。

 

光輝「すみませんでした。もう一度、お願いします。」

今度こそ本気の目になり、自分の無礼を謝罪する光輝。

護衛はそんな光輝を見て「戦場じゃあ"次"なんて無いんだがな」と不機嫌そうに目元を歪めるが相手はする様だ。

先程と同様に自然体で立つ。

 

光輝は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と"縮地"を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。

その速度は既に、光輝の体をブレさせて残像を生み出している程だ。

しかし、そんな嵐の様な剣撃を護衛は最小限の動きで躱し捌き、隙あらば反撃に転じている。

時々、光輝の動きを見失っているにも拘らず、死角からの攻撃にしっかり反応している。

 

光輝には護衛の動きに覚えがあった。それはメルド団長だ。

彼と光輝のスペック差は既にかなりの開きが出ている。

にも関わらず、未だ光輝はメルド団長との模擬戦で勝ち越せていないのだ。

それは偏に、圧倒的な戦闘経験の差が原因である。

恐らく護衛も、メルド団長と同じく数多の戦場に身を置いたのではないだろうか。

その戦闘経験が光輝とのスペック差を埋めている。

つまり、この護衛はメルド団長並かそれ以上の実力者という訳だ。

 

???「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。

元々、戦いとは無縁か?」

物理的にも精神的にも衝撃覚めやらぬ光輝に、少し目を眇めて考える様な素振りを見せていた護衛の男は、不意に随分と不遜さを感じさせる態度と声音で尋ねた。

いきなりの質問に、光輝は息を詰まらせつつも答える。

 

光輝「えっ?えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから。」

???「……それが今や"神の使徒"か。」

チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

そして、これまたごく自然な歩みを以て光輝との距離を詰める。

 

???「おい勇者、構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ?うっかり殺してしまうかもしれんからな。」

護衛はそう宣言するやいなや一気に踏み込んだ、強烈な殺気と共に。光輝の背中が泡立つ。

光輝程の高速移動ではない、寧ろ遅く感じる程だ。だというのに……

 

光輝「ッ!?」

けたたましく警鐘を鳴らす本能に従って、咄嗟に聖剣を翳せたのは僥倖だった。

気がつけば目の前に護衛が迫っており、剣が下方より跳ね上がってきていた。光輝は慌てて飛び退る。

しかし、まるで磁石が引き合うかの様にピッタリと間合いを一定に保ちながら鞭の様な剣撃が光輝を襲った。

 

不規則で軌道を読みづらい剣の動きに、"先読"で辛うじて対応しながら一度距離を取ろうとするが、まるで引き離せない。

"縮地"で一気に距離を取ろうとしても、それを見越した様に先手を打たれて発動に至らない。

次第に光輝の顔に焦りが生まれてくる。

そして遂に、光輝がダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間、その隙を逃さず護衛が魔法のトリガーを引く。

 

???「穿て――"風撃"。」

呟く様な声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、光輝の片足を打ち据えた。

 

光輝「うわっ!?」

踏み込もうとした足を払われてバランスを崩す光輝。その瞬間、壮絶な殺気が光輝を射貫く。

冷徹な眼光で光輝を睨む護衛の剣が途轍もない圧力を持って振り下ろされた。

途端、更に濃密な殺気が光輝の身体を貫く様に叩きつけられた。刹那、光輝は悟る。彼は自分を殺すつもりだと。

 

実際、護衛はそうなっても仕方ないと考えていた。

自分の攻撃に対応できない位なら、本当の意味で殺し合いを知らない少年に人間族のリーダーを任せる気など毛頭無かった。

例えそれで聖教教会からどの様な咎めが来ようとも、戦場で無能な味方を放置する方がずっと耐え難い。

それならいっそと、そう考えたのだ。しかし、そうはならなかった。

 

光輝「ぁ、っ、うぁわぁああああっ!!!」

死への恐怖のあまり、光輝は無意識に悲鳴とも雄叫びともつかない絶叫を上げて、全身から凄絶な魔力の奔流を走らせた。

 

???「ガァ!?」ズドンッ!!

先程の再現か、今度は護衛がその力に押されて吹き飛ぶ。

護衛が地面を数度バウンドしながらも両手を使いながら勢いを殺して光輝を見る。

光輝は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。

 

護衛の剣が振り下ろされる瞬間、光輝は生存本能に突き動かされる様に"限界突破"を使ったのだ。

これは一時的に全ステータスを3倍に引き上げてくれるという、ピンチの時に覚醒する主人公らしい技能である。

だが、光輝の顔には一切余裕はなかった。恐怖を必死で押し殺す様に険しい表情で剣を構えている。

 

???「ハッ、少しはマシな顔する様になったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より余程いいぞ!」

光輝「ビビリ顔?今の方が恐怖を感じてます。……さっき俺を殺す気ではありませんでしたか?

これは模擬戦ですよ?」

必死に冷静になろうとしている光輝の様子を見て、護衛はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

???「だからなんだ? まさか適当に戦って、はい終わり、とでもなると思ったか?

この程度で死ぬならそれまでだったって事だろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ?

その自覚があんのかよ?」

光輝「自覚って……俺は勿論人々を救って……。」

 

しどろもろどに答える光輝。しかし、それではただの悪者を倒すぞといった、子供じみた考えだ。

ハジメの言っていた、殺し合いをするという現実から、光輝は目を背けていた。その現実を、認めたくなかった。

自分たちが死ぬかもしれない、多くのものを失うかもしれない、そんな恐怖から逃げ出していた。

 

???「傷つける事も、傷つく事も恐れているガキに何ができる?

剣に殺気一つ込められない奴が御大層な事言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな?

最初に言ったろ、気抜いてっと……死ぬってな!」

 

護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら、光輝に迫ろう脚に力を溜める。

光輝はその瞬間を突いて聖剣の一撃を繰り出した。

しかし、相手に裂傷を刻もうかというタイミングで聖剣の動きが明らかに鈍る。

それは、模擬戦だからという寸止めの意思が働いたから、というよりももっと無意識的なものだった。

護衛の目がスッと細められた。そして……

 

???「やめだ。」

そんな冷めた呟きと共に、踏み込む為に溜めた力を抜いていとも簡単に光輝の一撃を躱して距離を取った。

更にはそのまま剣まで鞘に収めてしまう。

光輝「え? えっ?」

当然、いきなりの中止に困惑するしかない光輝に、護衛は冷めた眼差しを向けながら口を開いた。

 

???「なぁ。お前さん、一体何と戦うのか理解してんのか?」

光輝「え、えと、それは当然、魔物とか魔人族とか……そういう人々を苦しめているものと、です。」

???「魔物とか魔人族とか、ね。……そんな腑抜けた剣で出来んのか?俺にはとてもそうは思えねぇな。

まして俺達を率いて戦うなんざ、まるで夢物語でも騙られてる気分だ。」

光輝の返答を含みを以てリピートしながら、嘲るでも侮るでもなく、ただ淡々と事実を語るかの様に酷評する護衛。

これには流石の光輝もカチンと来た様で咄嗟に反論を行おうとする。

 

光輝「腑抜けとか夢物語とか……失礼じゃないですか? 俺は本気で──」

???「さっきも言ったが、傷つける事も、傷つく事も恐れているガキに何ができる?

本気なんて言葉はな、もうちょい現実ってもんを見てから言え。」

自分の言葉を遮って放たれた言葉に、光輝は思わず口を噤んだ。

直ぐに「恐れてなどいない。」と反論しようとするが、その前に護衛は踵を返してしまう。

 

勇者に対して不遜な言動を取ったばかりか、自分達の方から模擬戦を申し込んでおいて、一方的に終わりを宣言するその態度に、王国や教会側の観戦者達も俄かにざわつき始めた。

それに後押しされる様に光輝が抗議の声を上げようとするが、その前に老成した声音が護衛へと注がれた。

 

イシュタル「ふむ、勇者殿は未だ発展途上。

経験が足りぬのは仕方のない事、そう結論を急ぐ必要は無いでしょう。

取り敢えず、今の発言は勇者殿を気遣ったものとして受け取っておきましょう。

でなければ、如何に貴方と言えど聖教教会の教皇として信仰心を確かめなくてはならなくなりますからな。

分かっておいででしょうな、──ガハルド皇帝陛下?」

教皇イシュタルの言葉に、一部の者が驚く。何故なら、聞き間違いでなければその名は――

 

???「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

護衛が周囲に聞こえない位の声量で悪態をつく。

そして、興が削がれた様に振り返りながら右耳にしていたイヤリングを取った。

すると、まるで霧がかかった様に護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には全くの別人が現れた。

 

40代位の野性味溢れる男だ。

短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかの様に筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。

まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

 

エリヒド「どういうおつもりですかな、ガハルド殿。」

ガハルド「これは、これはエリヒド殿。碌な挨拶もせず済まなかった。

ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。

今後の戦争に関わる重要な事だ。無礼は許して頂きたい。」

謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。

それに溜息を吐きながら「もう良い。」と頭を振るエリヒド陛下。

 

光輝達は完全に置いてきぼりだ。

なんでもこの皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、この様なサプライズは日常茶飯事なのだとか。

雫は、今だ別行動中の幼馴染を思い浮かべ、苦笑いした。

 

香織(雫ちゃん、ハジメ君はあんなに老けてないよ?)

雫(……どうしてそうなるのよ。)

尚、香織には誰が頭に浮かんでいたかは筒抜けだったようだ。光輝?気づくわけないない。

 

ガハルド「イシュタル殿。勿論貴方の言う通り、先の発言は危うい様子の勇者殿への助言のつもりだ。

我等が神の使徒を侮る等ある筈が無い。粗野な言葉遣いは国柄という事でご容赦を。」

これまたどこか白々しさの滲む声音でイシュタルに謝罪なのかよく分からない感じの返答をするガハルドに、イシュタルは僅かに目を眇めつつも穏やかな表情を崩さずに「分かっているとも。」という様に頷いた。

 

なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後微妙な雰囲気を散らす様に場が取り繕われ、予定されていた形式的な会談がなされる晩餐で帝国からも将来性を理由に勇者を認めるとの何とも機械的な返答が成された事で、一応今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 


 

ガハルド皇帝「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。

理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。

なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。」

その晩、部屋で部下に本音を聞かれた皇帝陛下は鼻を鳴らして面倒臭そうに答えた。

どうやら、皇帝陛下の中で光輝達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。

 

部下「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

ガハルド皇帝「あぁ?違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。

あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ。」

無理もないことだろう。彼等は数ヶ月前までただの学生。それも平和な日本の。

歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ているはずがないのである。

 

部下「確かに。それに、どうも魔物と魔人族を同列に語っている様でした。

意識的であれば問題ありませんが……。」

ガハルド「まぁ間違いなく無意識だろうよ。それも、無知である事を良しとする故に、だ。

ある意味、よくあんな在り方で生きてこれたもんだ。そういう世界だったのか、能力の高さ故か。

どっちにしろ面倒な奴である事は変わりはねぇが"神の使徒"である以上蔑ろにはできねぇ。

取り敢えず、合わせて上手くやるしかねぇだろう。」

 

皇帝陛下の中で勇者光輝の評価は赤点らしい。

ただ、数ヵ月前まで戦いとは無縁のただの学生だったという点と、その能力の高さを思い出してガハルドは肩を竦めながら保留を付けて結論を口にした。

 

ガハルド皇帝「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。

今は、小僧共に巻き込まれない様上手く立ち回る事が重要だ。教皇には気をつけろ。」

部下「御意。」

そんな評価を下されているとは露にも思わず、光輝達は翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送る事になった。

用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。本当にフットワークの軽い皇帝である。

 


 

帝国の使者達が帰る日の早朝。香織と雫は、日課になっている立ち合い稽古を行っていた。

香織自身、魔法職である以上接近されたら終わりだと自覚し、こうして雫に稽古をつけてもらっているのだ。

とはいえ、堂々と短剣などを持ち出すわけにもいかないので、今の所は杖を使った棒術しか特訓できていない。

それでも、雫の的確なアドバイスもあり、だんだん上達はしているのだ。

 

ガハルド「ほ〜う……見事な剣技だな。そっちの女は、回復術師なのに棒術の修練か。」

そんな二人の所に、興味深そうに声を出す者がいた。今日、王国を発つ皇帝ガハルドだ。

 

雫「!皇帝陛下!?」

香織「……何か御用ですか?」

雫は驚き、香織は「練習中なのに……。」と言いたげな顔で用件を聞いた。

 

ガハルド「なに、たまたま近くを通りかかった時に、何かがぶつかり合うが聞こえてきてな。

見学させてもらった。お前ら、名は?」

香織「……白崎香織です。」(ねぇねぇ、雫ちゃん。帝国の人って……。)

雫「八重樫雫です。」(言いたいことは分かるわ、香織。でも口には出さないでね。)

気配を消し、こっそり見ていた事を悪びれる様子もなく軽快に笑うガハルドに、香織と雫は思わず呆れていた。

 

光輝「雫!香織!ここに居たのか………皇帝陛下?」

と、二人を探していたのか光輝がやってくる。そろそろ見送りの時間だからやって来たのだろう。

まさかガハルドと一緒にいたとは思わず、その姿を見て少しだけ驚く。

 

ガハルド「……………。」

そんな光輝の様子から、二人とはそれなりに付き合いが長いのだろうと判断したガハルドは、あることを提案する。

 

ガハルド「そうか……気に入ったぞ。雫、香織。お前達二人とも、俺の愛人にしてやろう。」

雫「はい?」

光輝「なっ!?」

勇者一行に対する勧誘。それも、まさかの愛人枠と言う、教会に喧嘩を売りかねない行為だ。

ガハルドのその言葉に雫は首を傾げ、光輝は驚愕する。

 

香織「え、嫌ですけど。」

雫「ちょっ、香織!?」

が、香織は間髪いれずにそっけない感じで断る。それに雫は驚き、ガハルドは面白そうに笑う。

 

ガハルド「なんだ?好いた男でもいるのか?」

香織「いえ、歳の差的に無理があると思いますので。私、おじさん趣味ではありませんから。」

雫「いや、そっち!?」

本当は正解ではあるものの、敢えてズレた方向で香織は流すことにした。

そうとはわかってはいるものの、一国の皇帝に対する無礼な物言いに、ツッコまずにはいられない雫であった。

 

光輝「ガハルド皇帝陛下。それは流石に冗談が過ぎると思います。」

が、そんな事とは全く知らない光輝は、ガハルドと二人の間に割って入る。

傍から見れば、か弱い乙女2人を守る騎士のようだ。……後ろの2人が微妙そうな表情でなければ。

 

ガハルド「あぁ?冗談?俺は本気だぜ。こんな上玉、誘わなきゃ皇族の名折れだろ。

そもそも小僧、何でテメェが口を挟む?」

光輝「香織も雫も、俺の大切な仲間で幼馴染です、口を挟むのは当然の事かと。」

ガハルド「はぁ?幼馴染ぃ?要は付き合いが長いだけの他人だろうが。そんな奴が雫の未来を決めると?」

ふん、と鼻を鳴らすガハルド。その反応に光輝はムッと顔をしかめる。

 

香織「あの……続きやってもいいですか?そこにいると邪魔になるので。」

雫「香織……空気を読んでちょうだい。」

しかし、そんな二人の状況など知ったこっちゃないと言わんばかりに、香織は二人に端っこに行くよう促す。

一日でも早くハジメの元へ行けるよう、強くなりたいという気持ちは分かるものの、雫は何とも言えない表情になった。

 

ガハルド「……そうか、まぁ、焦らんさ。」

そっけない態度であしらわれて諦めたのか、ガハルドはあっさりと退いた。と思いきや、

ガハルド「あぁ、そう言えばお前等の仲間の一人が、オルクス大迷宮で行方不明になっていたらしいな?」

『!』

なんとなしにガハルドが溢した言葉、それに3人は僅かに反応する。

その反応にガハルド関心を寄せた。――それが顕著だった香織へと。

 

ガハルド「成程、死んだ男に操を立てるか。面白い。尚の事気に入った!」

光輝「ハジメは関係ありません!ガハルド陛下、いい加減に「違います。」香織?」

ハジメを死人扱いするガハルド、ハジメは無関係だと勝手に決めつける光輝、そんな二人に怒ったのか、香織は淡々と告げた。

 

香織「ハジメ君は、きっと生きています。勝手に殺さないでください。」

二人の意見をバッサリと否定し、香織は凛とした表情でハジメの生存を肯定した。

尤も、ハジメの生存自体は既に確認が取れているので、後は追いかけるだけと、香織の中では既に決まっていた。

 

光輝「香織……。」

そんな事とは知らない光輝は、今も尚ハジメの生存を信じている香織を見て、「きっとまだ、ハジメの死に囚われているに違いない!」とでも思ったのか、見当違い全開の言葉を口にしようとしていた。

それ以前に、勝手にクラスメイトを死亡扱いする光輝も、ガハルドの事は言えないのだが……。

 

雫「ガハルド陛下、いい加減光輝を刺激しないでください。

これ以上私達の意思を無視するのであれば、この件は陛下を通じてイシュタル教皇に知らせますよ?」

が、そうはさせまいと雫がフォローを挟む。

 

ガハルド「……はぁ、わかったよ。話は以上だ。じゃあな。」

流石に教会まで絡んでくるとなると面倒に思うのか、ガハルドはふっ、と不敵に笑うと去っていった。

尚、去り際に光輝を見てガハルドは「……ふん。」と光輝を鼻で笑った。

それに対し、光輝は顔を顰めた。この男とは絶対に馬が合わないと感じ、暫く不機嫌だった。




今回は、扱いの軽い皇帝VS鈍感正義感勇者でした。
まぁ、どっちも後の展開でハジメさんにぶっ飛ばされるのがオチなので、今だけでも暖かく見てやってください。
前作ではオリキャラとの修行がありましたが、今作では世界観の設定を原作準拠にして行けたらなと思い、オミットいたしました。
ですが、救済キャラは引き続き仲間になる予定なのでご安心を!それでは、また次回!

アンケートその1の結果以外で、追加で登場させてほしいキャラは?

  • ボボボーボ・ボーボボ
  • 五条悟
  • ディアボロ(黄金の風)
  • 銀さん
  • ブロリー
  • ユウキ(SAO)
  • カービィ
  • ヨシヒコ
  • 鬼灯様
  • アインズ・ウール・ゴウン
  • シャドウ(影の実力者)
  • エボルト
  • 篠ノ之束
  • ルフィ(風船で飛んできた)
  • エスデス(アカメが斬る)
  • フリーレン
  • リムル
  • サーヴァントの誰か(活動報告で入力)
  • 東方キャラ(リクは活動報告へ)
  • その他(活動報告でリクエスト受付)
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