Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
日付は変わり、夜明け前。月が輝きを薄れさせ、東の空が白み始めた頃。
俺達はすっかり旅支度を終えて"水妖精の宿"の直ぐ外にいた。
手には移動しながら食べられる様にと握り飯が入った包みを持っている。
極めて早い時間でありながら、嫌な顔1つせず朝食にと店主――フォスさんが用意してくれたものだ。
流石は高級宿、粋な計らいだと感心しながら、遠慮無く感謝と共に受け取った。
朝靄が立ち込める中、俺達は北門へ向かった。そこから【北の山脈地帯】に続く街道が伸びているのだ。
馬で丸一日と聞いているが、アクセル全開で飛ばせば1,2時間で着くだろう。
尤も、俺一人で探すのであれば、勢いよく踏み込むだけで着けそうだが。
ウィル達が北の山脈地帯に調査に入り、消息を絶ってから既に5日。72時間を過ぎている以上、生存は絶望的だ。
だが、もしかしたらという希望もある。いずれにしろ肉体さえあれば、生死にかかわらず何とでもなるしな。
幸いな事に天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。せめて腕の一本だけでも見つかってほしい。
幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進みやがて北門が見えてきた。
すると、その北門の傍に複数の人の気配を感じた。この気配を見るに……やっぱりか。
予想の範疇を出なかったのか、朝靄を掻き分け見えたその姿は……先生とクラスメイト6人の姿だった。
ハジメ「……お前ら、いつから待っていたんだ?特に先生、ちゃんと睡眠取ったのか?」
俺が不思議そうに問うと、先生は苦笑いして言った。
愛子「えぇ、最初は寝付けませんでしたが……南雲君のくれた御守りがありましたし。」
先生はそう言ってブレスレットを取り出す。それを見て生徒達は驚いているようだが。
ハジメ「まぁ、賭けには勝ったんだ。約束通り、同行を許可するよ。
ただ……馬だと遅いからそいつらは返してきて。別の手段で向かうから。」
そう言って、先生達の後ろでモシャモシャと口を動かしている馬に視線を向けながら注意した。
優花「馬だと遅いって……、ねぇ南雲。まさか馬に乗るより走った方が速いとか言うんじゃないわよね?」
ハジメ「え?寧ろ馬で俺の速さに追いつけるとでも?人参でも目の前に吊り下げるつもり?」
優花「そこまで!?じゃあ今日も走って向かうつもりだっていうの?仮に本当にそうだとしたら……
今までの運動神経のヤバさと言い、昨日の威圧感といい、どこまで人間辞めてるのって感じなんだけど?」
なんてことを言うんでしょうか、この子は。
ハジメ「まぁ、俺一人だけだったらひとっ飛びで行けそうだけれども……今日は違うよ。」
おいソコ、行けるんだ……って表情しない。そんな彼等に説明するように、宝物庫からシュタイフを取り出す。
それを見て、ギョッとなった先生達をスルーし、俺は説明を続けた。
ハジメ「因みに、3人だけならこれにブースターつけて爆速で駆け抜けていたよ。
後、他にもはバイクはあるよ。」
その重厚なフォルムと、異世界には似つかわしくない存在感に度肝を抜かれているのか、マジマジと見つめたまま答えない先生達。
すると、クラスの中でもバイク好きとされている(相川君だったか?)男子が若干興奮したように尋ねてきた。
昇「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」
ハジメ「おう、言っとくけど今回は別の車で行くからな。全員がバイクを乗りこなせるわけじゃないし。」
そう言って今度は、魔力駆動四輪"ブリーゼ"を取り出した。
こいつは、軍車用ハマーを彷彿とさせる重厚で凶悪なフォルムに、外付けの武装を搭載した装甲車だ。
艶消しの為の黒に包まれていながらも、所々に奔る赤いラインがとある戦争の狂戦士を思わせている。
その巨体は、遠めに見れば進路上の一切合切を轢殺戦とする魔物に見えるかもしれない。
だが、こいつにはまだまだ隠された機能が満載なのだ。それを語るのは、またの機会にしよう。
と、こんな大型の物体をポンポン消したり出現させたりする俺に、先生達は開いた口が塞がらないようだ。
しかし、時間が惜しいので「さっさと乗って。」と俺は促したのであった。
別にゼロライナーでも良かったけど、大きすぎて林の中を通れなさそうだし、こっちにした。
前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、ブリーゼで駆け抜けていく。
サスペンションがある上に、フロント下部に前の道を錬成術で走りやすい道に作り変える機能を搭載しているので、車内の皆は特に不自由はないようだ。
因みに、後ろの座席は取り外しが可能で、荷台にもなるのでガトリング砲を設置して走行することも可能なのだ。
私なりの遊び心だ、良いだろう?
それはさておき、車内はベンチシートになっており、リクライニングも備え付けられているので、ちょっとした座敷にもなる。
おかげで10人という大所帯でも、全員乗れちゃうのだ。
運転席の隣も座席は2つあり、運転席側には先生が、窓側にはユエが乗っている。
幸いにも2人とも小柄なので、まだまだスペースには結構余裕が有る。
だが、逆に後方は少々窮屈そうだ。
4人いる女性陣の殆どがその……出るとこ出てるから、それなりに狭いようだ。
リクライニングもあるので、一応は全員正座で座れるくらいの広さではあるのだが……
あぁ、なんかシアが事情聴収されている!?あれか、異世界での異種族間恋愛に興味が出てしまったとかか!?
とか思っていると、昨夜の疲れがまだ残っていたのか、先生が寝てしまった。
ズルズルと背もたれを滑り、コテンと俺の膝に倒れ込んだ。やれやれ、仕方がないなぁ……。
苦笑いしながら、宝物庫から毛布を取り出し、そっと先生に被せた。
ユエ「……ハジメ、愛子に優しい。」
ハジメ「そう?皆にも優しくしているんだけど……今度、2人にもしてあげようか?」
ユエ「……ん。」
どうやら、羨ましかっただけの様だ。ふっ、可愛らしいねぇ。
と、先生を膝枕しながら、後ろでキャッキャッと騒いでいる女性陣と、面倒臭そうな視線を向けてくる男性陣に呆れる俺であった。
てか君達、そろそろシアを開放してやりなさい。じゃないと、朝ごはん抜きにするぞ!
尚、どうせこんなこともあるだろうと作り置きしてあったサンドイッチは、残らず皆の腹に収まった。
まぁ、滅茶苦茶好評だったので、作り甲斐はあったが。
【北の山脈地帯】
標高1000mから8000m級の山々が連なるそこは、どういう訳か生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。
日本の秋の山の様な色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木の様に青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。
また、普段見えている山脈を越えてもその向こう側には更に山脈が広がっており、北へ北へと幾重にも重なっているとのことだ。
現在確認されているのは4つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域らしい。
何処まで続いているのかと、とある冒険者が5つ目の山脈越えを狙った事があるそうだが、山を一つ越える度に生息する魔物が強力になっていくので、結局成功はしなかった様だ。
因みに、第一の山脈で最も標高が高いのはかの聖教教会の本部が存在する【神山】だ。
尤も、如何にも仰々しい建造物のせいで、素晴らしいはずの景観が台無しになってしまっているが。
今回俺達が訪れた場所は、神山から東に1600km程離れた場所だ。
紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、知識ある者が目を凝らせば、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見する事が出来る。
ウルの町が潤う筈で、実に実りの多い山である。折角だし、少しばかり貰っていくか。
俺達はその麓にブリーゼを止めると、暫く見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。
女性陣の誰かが「ほぅ。」と溜息を吐く。
尚、先生は先程の膝枕の件で、顔を赤くして謝ってきていたが、そのことについては黙っておく。
まぁ、確かにゆっくり鑑賞はしたいが、今は依頼が優先だ。
なので、さっさとブリーゼをしまい、代わりに中心部の表裏に金色の鬼の顔が掘られた音叉と、銀色のディスクをいくつか取り出した。
ハジメ「まずは、こいつらを使おう。」
そう言って叉の部分を指で軽く弾くと、キィィーンという甲高い音が響き、それが伝播する様にディスクが震え始めたかと思えば、茜、瑠璃、緑、浅葱、黒といった様々な色に変化し、生物の形に変形していった。
これで、全部で20体の音式神"ディスクアニマル"が捜索網に加わった。
今回のものは、空を飛ぶ生物と地上でも早い生物が大半だ。
愛子「あの、あれは……。」
遠ざかっていくディスク達を見ながら、先生が聞いてきた。
ハジメ「ちょっとした式神擬きだよ。他には……こいつらでいいか。」
その質問に答えつつ、飛行可能なメモリガジェットとシフトカーをいくつか、更に取り出して放った。
ハジメ「後は……これも使ってみようか。」
最後に、以前使った魔眼グラスを装着し、全長30cm程の鳥型の模型――重力制御式無人偵察機"オルニス"と、コントロール用の指輪を取り出すと、指輪を右手の指にはめてオルニスを掲げた。
すると、オルニスが自分で飛び立ち、山の方へ滑るように飛んでいった。
このオルニスは、ライセンの大迷宮で遠隔操作されていたゴーレム騎士達を参考に、ミレディから貰った材料と、俺の持つ技術を組み合わせて作り出したものだ。
重力魔法を付与した鉱石"重力石"をベースに、"感応石"や"遠透石"も組み込んであるので、同質の魔力を注げば魔眼グラスを通じての中継が可能になるというわけだ。
まぁ、脳の処理能力の都合上、通常時でも6機が限界、"瞬光"使用時でも10機を同時旋回させるので精一杯だ。
オーマジオウの時なら、何機でも行ける気がするんだけどなぁ……。
改めて、解放者ズの作ったミレディの義体がヤベーイ!性能だと分かった。
とはいえ、今回は1機だけなので自在に動かせるし、負担も少ない。それに、試運転にはもってこいだろう?
ハジメ「さてと、それじゃあ進みますか。」
既に彼方へと飛んでいった偵察隊を遠くに見つめる先生達をよそに、俺は先を急いだ。
ウィルも心配だが、トシのことも正直気がかりでならない。厄介ごとに巻き込まれてなきゃいいんだが……。
俺達は、冒険者達も通ったであろう山道を進む。
魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、6合目から7号目の辺りだ。
ウィル達冒険者パーティも、その辺りを調査した筈だ。
そう考えて、俺達は先程放った偵察部隊をその辺りに先行させながら、ハイペースで山道を進んだ。
凡そ1時間少し後、6合目に到着した俺達は、一度そこで立ち止まった。
理由は、そろそろ辺りに痕跡が無いか調べる必要があったのと……
愛子「ハァハァ、きゅ、休憩ですか……ケホッ、ハァハァ。」
「ゼェー、ゼェー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ゼェーゼェー。」
「ウェップ、もう休んでいいのか?ハァハァ、いいよな?休むぞ?」
「……ヒュウーヒュウー。」
「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……。」
ハジメ「……やれやれだぜ。」
予想以上に先生達の体力が無く、休む必要があったからである。
勿論、本来俺を含む召喚組のステータスはこの世界の一般人の数倍を誇るので、6合目までの登山如きでここまで疲弊する事は無い。
しかし、フィジカルおバカの俺が速すぎたので、彼等は殆ど全力疾走しながらの登山となってしまい、気がつけば体力を消耗しきってフラフラになっていたというわけだ。
因みに、ユエとシアは普通に付いて来ている。だけどそれは指摘しない、したら皆凹むから。
先生は四つん這いになり必死に息を整えており、男子2人(相川君と、仁村君?)は仰向けに倒れながら今にも死にそうな呼吸音を響かせていて、宮崎さん?は少しばかり女子として見せてはいけない顔になっている。
意外にも倒れ込んでいないのは園部さんと菅原さん?だ。
2人共近くの木に寄りかかり、相当きつそうな表情ではあるが倒れ込む様な気配は無い。
両者共にどちらかと言えば前衛職の天職である事が関係しているのだろう。
園部さんは"投術師"、投げナイフやダーツ等投擲技術の才があり、菅原さんは"操鞭師"、鞭は勿論としてロープ状の物を操る技術の才がある。
見た目ちょっと不良っぽい園部さんが投擲用ナイフを手慰みにジャグリングしたり、おっとり系ギャルの菅原さんが鞭を巧みに振り回したりする姿は……
生徒達の間でもとびっきりシュールという意見と、何だか凄く似合っているという意見が半々だったらしい。
多分だけど、菅原さんは隠れサドだと思う。
孤児院にいた優し気なシスターが、強盗相手に何故か持っていたロープ片手に応戦していたから。
あの縄捌きは実に素晴らしかった……実はそういう類の本をシスターが隠し持っていることは内緒の話だ。
尚、玉井君と相川君も一応前衛職なのだが体力で負けているという点は、指摘してはいけない。
そんな事をすれば、今度こそ彼等の心はポッキリと逝っちゃう気がするから。
いずれにしろ、詳しく周囲を探る必要があるので、休憩がてら近くの川に行く事にした。
ここに来るまでに、偵察部隊からの情報で位置は把握している。
未だ荒い呼吸を繰り返す彼等に場所を伝え、俺達は先に川へと向かった。
ウィル達も休憩がてらに寄った可能性は高いだろうし。ユエとシアを連れて、山道から逸れて山の中を進む。
シャクシャクと落ち葉が立てる音をBGMに木々の間を歩いていると、やがて川の潺が聞こえてきた。
耳に心地良い音だ。シアの耳が嬉しそうにピッコピッコと跳ねている。
そうして俺達が辿り着いた川は、小川と呼ぶには少し大きい規模のものだった。
索敵能力が高いシアが周囲を探り、俺も念の為カンドロイドを使って周囲を探るが魔物の気配はしない。
取り敢えず息を抜いて俺達は川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合った。
途中、ユエが「少しだけ。」と靴を脱いで川に足を浸けて楽しむという我儘を申し出たので、許可した。
シアもそれに便乗してきたが、先生達もまだかかりそうなので、大目に見た。
俺はというと、川沿いに上流へと移動した可能性も考えて、偵察部隊を上流沿いに飛ばしつつ、ユエ達がパシャパシャと素足で川の水を弄ぶ姿を眺めることにした。
シアは素足を水につけているだけだが、川の流れに攫われる感触に擽ったそうにしている。
するとそこへ、漸く息を整えた先生達がやって来た。
置いていかれた事に思うところがあるのかジト目をしている。
……正直、申し訳ないとは思うものの、これも鍛錬を怠った結果だと甘んじて受け止めてもらう。
が、男子3人が素足のユエとシアを見て歓声を上げると「ここは天国か。」と目を輝かせ、女性陣の冷たい眼差しは矛先を彼等に変えた。
身震いする男衆。その視線に気がつき、ユエ達も川から上がった。
先生達が川岸で腰を下ろし水分補給に勤しむ中、未だに男共はユエ達をいやらしい目で見ているので、「しつこいよ?」という意を込めて軽く睨み返すと、ブルリと震えて視線を逸らした。
そんな様子を見て、先生達が俺に生暖かい眼差しを向ける。
特に、園部さん達は車中でシアから色々聞いたせいか実にウザったらしい表情だ。
愛子「ふふ。南雲君は、ホントにユエさんとシアさんを大事にしているんですね。」
先生が微笑ましそうに、園部さん達に聞こえない様に小声で言ってきた。
ハジメ「そりゃ勿論、俺にとって仲間は大事な家族同然だからね。相手が神だろうと返り討ちにしてやるさ。」
そう言ってシュッ!シュッ!とシャドーボクシングをすると、更に視線が生暖かくなった。
ユエ「……ん。」
すると、ユエが会話の話題を行動で示してきた。当然だと言う様に俺の膝の上にポスッと腰を落とす。
そして、柔らかなお尻をふにふにと動かしてベストポジションを探り、満足のいくポジションを見つけ、そのまま俺に寄りかかり全体重を預けた。
それが信頼の証だとでも言うように。それを見てシアが寂しくなった様で、背後からヒシッと抱きついてきた。
お、お月見団子が、当たってる……。
突如発生した桃色空間に女性陣は頬を赤らめ、キャーキャーと歓声を上げており、男子3人はギリギリと歯を噛み締めていた。
ハジメ「!こいつは……。」
しかし、その時だった。急遽、気になる情報が入ってきた。場所は……あそこか!
ユエ「ん……何か見つけた?」
すると、俺の呟きを聞いたのか、ユエが確認してきた。その様子に、先生達も何事かと目を瞬かせた。
ハジメ「川の上流……盾っぽい破片があった。それに鞄もまだ新しい……
行こう、まだ生きているかもしれない。」
ユエ「ん……。」
シア「はいです!」
俺達は阿吽の呼吸で立ち上がり、出発の準備を始めた。
先生達は……まだ休み足りないようだ。仕方がないなぁ……そう思うと、2つのワンダーライドブックを開いた。
『ブレイブドラゴン!』
『ランプ・ド・アランジーナ!』
その音声と共に、赤い竜と魔法の絨毯が現れる。
またもや驚きのあまり固まる先生達に、2つのブックとイヤホンの様なものを渡して言った。
このイヤホンには魂魄魔法を付与してあり、俺が近くにいればライドブックの制御が可能になっている仕様だ。
『Advent』
ハジメ「そのブックを持って念じたら、制御できるから。早く乗って。」
俺はそう言って、ドラグバイザーツバイでドラグランザーを呼び出し、ユエとシアと共に乗った。
それを見てハッとなった先生達は、女性陣が魔法の絨毯、男子達はブレイブドラゴンの背中にそれぞれ乗った。
全員がちゃんと騎乗したのを確認して、俺達はドラグレッダーを先頭に先を急ぐのであった。
俺達が到着した場所には、偵察部隊で確認した通り小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。
但しラウンドシールドは拉げて曲がっており、鞄の紐は半ばで引き千切られた状態でだ。
注意深く周囲を見渡すと、近くの木の皮が禿げているのを発見した。高さは大体2m位の位置だ。
何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。高さからして人間の仕業ではないだろう。
俺はシアにウサミミ探査を指示しながら、感知系能力をフルにして、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。
先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。
半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には折れた剣や、血が飛び散った痕もあった。
それらを発見する度に、先生達の表情が強張っていく。
特に、死の恐怖に一度は心を折られた園部さん達は【オルクス大迷宮】で死にかけた時の事を思い出したのか、一見して分かる程顔色を悪くしている。
仕方がないので、一回"鎮魂"を皆にかけ、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。
シア「ハジメさん、これペンダントでしょうか?」
ハジメ「ん?どれ……遺留品かもな、とっておこう。」
シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントではなくロケットの様だと判明した。
留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。誰かの恋人か?
大した手がかりではないもののが、古びた様子はないので最近の物……
冒険者一行の誰かの物かもしれないので、一応回収しておく。
その後も、遺品と呼ぶべき物が散見され、身元特定に繋がりそうな物だけは回収していく。
どれ位探索したのか、既に日は大分傾きそろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。
未だ野生動物以外の生命反応はない。
ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたのだが、それ以外の魔物すら感知されなかった。
位置的には8合目と9合目の境辺りだ。
山は越えていないとは言え、普通なら弱い魔物が1,2匹は出てもおかしくないのだが……?
そんな環境の中、俺達は安堵どころか逆に不気味さを感じていた。
暫くすると、偵察部隊が東に300m程いった所に大規模な破壊の跡を発見したようだ。
俺は全員を促し、その場所に急行した。
そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。
本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。
まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされた様だ。
何故そう思うのかって?そりゃあ、抉れた部分が直線的だし、周囲の木々や地面が焦げているからねぇ。
それに、何か大きな衝撃を受けた様に何本もの木が半ばからへし折られ、何10mも遠くに横倒しになっている。
川辺のぬかるんだ場所には、30cm以上ある大きな足跡も残されている。
ハジメ「ここで本格的な戦闘があった様だな……足跡の形状からして、大型で2足歩行の魔物……
ブルタール辺りか?でも奴等は、2つ目の山を越えないと居ないはずだ。
それに、この抉れた地面もブルタールの攻撃の跡にしては、威力が大きすぎるしなぁ。」
因みにブルタールとは、RPGで言うところのオークやオーガの事だ。
大した知能は持っていないが、群れで行動する事と固有魔法"金剛"の劣化版である"剛壁"を持っている為、中々の強敵と認識されている。
しかし、こいつは普段2つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ない筈の魔物なのだ。
それに知能面でもわかるとおり、川に支流を作る様な攻撃手段は持っていないのだ。
ではどうやって来たのか?考えられるとすれば、誰かが操って渡らせたことになるが……魔人族辺りが怪しいな。
トシはこんなしょぼい真似はしないしな、どうせなら毒系の魔物とか使って川を汚染させたりするだろうし。
俺はしゃがみ込み、ブルタールのものと思しき足跡からこれから調査する場所を考えた。
ここまで上流に向かってウィル達は追い立てられる様に逃げてきた様だが、これだけの戦闘をした後に更に上流へと逃げたとは考えにくい。
しかし、体力的にも精神的にも、町から遠ざかることはないだろう。
なので念の為に、偵察部隊を上流に向かわせながら下流へ向かう事にした。
ブルタールの足跡が川縁にあるという事は、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高い。
ならきっと、体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いのだ。
俺の推測に皆も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。
すると今度は、先程のものとは比べ物にならない位立派な滝に出くわした。
俺達は、軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき滝壺付近に着地する。
滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。
とその時、"気配感知"に反応が出た。
ハジメ「!これは……滝壺の方か?ということは……。」
ユエ「……ハジメ?」
ハジメ「反応が滝壺の奥にあった。多分、生存者だよ。」
シア「本当ですか!?反応はいくつです?」
ハジメ「……1人だけだね、ウィルであることを願いたいな。」
シアの驚きを含んだ確認の言葉に、俺は捜索隊をしまいつつ頷いた。先生達も一様に驚いている様だ。
それも当然だろう。生存の可能性は0ではないとは言え、実際には期待などしていなかった。
ウィル達が消息を絶ってから既に5日、もし生きているのが彼等の内の一人なら奇跡だ。
ハジメ「よし……開け、ゴマ。」ザァァァッ!
俺は口元に手を当てた後、滝壺に向けて軽く手刀を薙いだ。
すると、滝と滝壺の水が紅海におけるモーセの伝説の様に真っ二つに割れ、切れた部分から凍っていった。
まるで芸術品のような光景になったな……流石はブリザードソルベェ~、凍る速度は抜群だべぇ~。
詠唱や陣どころか魔力も無しに、魔法のような技を披露して見せたことに、先生達は昔のヘブライ人のようにポカーンと口を開けていた。
が、いつまでもそうしているわけにもいかないので、俺は皆を促して滝壺の奥へ続く洞窟らしき場所へと踏み込むのであった。
洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。
天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。
溢れない事から、きっと奥へと続いているのだろう。そして空間の一番奥に、横たわっている男を発見した。
傍に寄って確認すると、20歳位の青年とわかった。
端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は蒼褪めて死人の様な顔色をしている。
だが大きな怪我は無く、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけの様だ。
顔色が悪いのは……1人でいる事が関係しているようだ。
気遣わし気に先生が容態を見ているが、色々と急ぎたいので青年の正体を確認するべく、彼の上体を起こして頬を軽くペチペチ叩く。
???「んっ、んんぅ……。」
呻きながら目を覚まし、右へ左へと視線を彷徨わせる青年。
先生達がホッと安堵の溜め息を漏らす中、俺は未だ夢現の青年に近づくと端的に名前を確認する。
ハジメ「アンタがウィル・クデタか?クデタ伯爵家3男の。」
???「えっ、君達は一体、どうしてここに……。」
状況を把握出来ていない様で目を白黒させる青年に、もう一度問いかける。
ハジメ「質問に質問で返すな、アンタの名前はウィル・クデタで合っているのかと聞いているんだ。」
???「えっと、うわっ、はい!そうです!私がウィル・クデタです!はい!」
一瞬青年が答えに詰ったので、つい眼をギロッとさせてしまったのか、それに慌てた青年が自らの名を名乗った。
どうやら本当に本人の様だ。奇跡的に生きていたらしい。
ハジメ「そっか……俺はハジメ、南雲ハジメだよ。
フューレンのギルド支部長イルワさんからの依頼で捜索に来たんだ。
正直、遺体だけでも残っていれば御の字だったけど、生きていてくれたのはラッキーだよ。」
ウィル「イルワさんが!?そうですか、あの人が……また借りができてしまった様だ。
……あの、貴方も有難う御座います。イルワさんから依頼を受けるなんて余程の凄腕なのですね。」
尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。もしかすると、案外大物なのかもしれない。
いや~、傲慢な性格だったらO☆HA☆NA☆SHIしなきゃいけなかったから、助かるわ。
そんなことを思いながら、各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞いた。
要約するとこうだ。
ウィル達は5日前俺達と同じ山道に入り、5合目の少し上辺りで突然10体のブルタールと遭遇したらしい。
流石にその数のブルタールと遭遇戦は勘弁だとウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いている内にどんどん数が増えていき、気がつけば6合目の例の川にまで追い立てられていた。
そこでブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出する為に盾役と軽戦士の2人が犠牲になったのだという。
それから追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。その正体は、漆黒の竜らしい。
黒竜はウィル達が川沿いに出てくるや否や特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。
流されながら見た限りでは、そのブレスで1人が跡形もなく消え去り、残り2人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。
その後ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。
ウィルは、話している内に、感情が高ぶった様で啜り泣きを始めた。
無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認する事もせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つ事しか出来なかった情けない自分、救助が来た事で仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡ったのか、涙を溢れ出させていた。
ウィル「わ、わだじはさいでいだ。
うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……
それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」
洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。
顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。
クラスメイト達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、先生はウィルの背中を優しく摩る。
ユエは何時もの無表情、シアは困った様な表情だ。
が、そんな空気も気にせず俺はツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉をガッと掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。
そして息がつまり苦しそうなウィルに、怒気を込めて語りかけた。
ハジメ「生き残ったことの何が悪い?お前を生かす為に犠牲になった奴等は、その程度で報われるのか?えぇ?
勝手に飛び出したお前を心配している両親はどうでもいいと?ふざけるのも大概にしろ。
後悔するのは別に良い、だが生き残っておきながらそれを恥じるのは、弱者のやることだ。
生き残ったのならその生を噛み締めて、盾になった奴等のことを忘れるな。それくらい、男ならやって見せろ。」
ウィル「し、しかし……。」
それでもなお後ろ向きなウィルに、俺は顔を近づけ確とその眼を捉えて続ける。
ハジメ「いいか、あいつらの命は確かに死んだ。だが、存在までは死んじゃいねぇ。何故かわかるか?
お前が彼等のことを覚え続けているからだ。ならその雄姿を後世にまで語り継いでやれ。
生き残ったお前には、それしか報いる方法は無いんだよ。だからさっさと立ち上がれ。
親御さんの元に帰って、そいつらのことを心に刻み付けて、生き続けるんだ。」
ウィル「……生き、続ける。」
涙を流しながらも、俺の言葉を呆然と繰り返すウィル。
それを見て俺は、内心で「熱くなり過ぎたか……。」と考え直し、外の様子を見に滝壺から出た。
いかんな……ああいう手合いの人間を見ると、どれだけ辛くても生き続けることでしか、真の幸福を掴み取ることはできないと言いたくなってしまう。
勿論、言うのは簡単だがそれが出来る人間は、ほんの一握りだろう。
しかし、努力し続ければ何時かの世界線ではそれが結ばれる筈なのだ。
まぁ、無事を祈ってる両親がいるという共通点が、そうさせたのだろう。
思わず顔に手を当て天を仰ぐと、トコトコと傍に寄って来たユエが、ギュッと手を握ってきた。
ユエ「……大丈夫、ハジメは間違ってない。」
ハジメ「いや、内容はともかくもう少し他の言い方もあったのではと思ったからね……。」
そう言って苦笑気味に笑うと、ユエは甘える様にその手に頬ずりしてきた。
するとシアがジト目になり、ウサミミを「また私を除け者にしてぇ!」と言わんばかりにみょんみょんさせた。
なので、ユエを片方の手で抱き、空いている方の手で手招きすると、シアは上機嫌でこちらにすり寄ってきた。
そして先生達は、そんな俺達を見て目を瞬かせていた。
暫くして、俺達は早速下山を開始する事にした。
日の入りまでまだ一時間以上は残っているので、急げば日が暮れるまでに麓に着けるだろう。
ブルタールの群れや漆黒の竜の存在、それに未だ見つからないトシの所在は気がかりだが、今はまずウィルの護送が先決だ。
ウィルも足手纏いになると理解している様で、撤退を了承した。
クラスメイト等からは「町の人達も困っているから調べるべきでは?」と言われたものの、黒竜やらブルタールの群れという危険性の高さから先生が頑として調査を認めなかったことに加えて、態勢が整っていないこともあり、結局下山する事になった。
「グゥルルルル……。」
しかし、そうは問屋が卸さなかった。滝壺から出てきた俺達の目の前に、立ちはだかる敵が現れたからだ。
低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼を羽搏かせながら空中より金の眼で睥睨する……
それはまさしく"竜"だった。
次回、VS黒龍
因みに、にわかなうp主が好きなウマ娘は、トウカイテイオー、ゴールドシップ、エイシンフラッシュ、ナイスネイチャ、エルコンドルパサー、ハルウララ、キタサンブラック、グラスワンダー、エアグルーヴ、サトノダイヤモンド、アドマイヤベガ、タマモクロス、スーパークリーク、サクラバクシンオー、サイレンススズカ、マルゼンスキー、、フジキセキ、ダイワスカーレット、シンボリルドルフ、スティルインラブです。
今後、登場予定のヒロインでハジメさんの正妻にするとしたら?
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勿論、ユエ!
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勇者シアでしょ!
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幼馴染の香織だ!
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ヒロインと言ったら雫だろ!
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原作と性格違うけどティオです!
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魔性のレミアさん一択!
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愛子と禁断のロマンス!
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王族同士でリリアーナを推す!
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頑張れ、優花!
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エンティ(アフターシア編)
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ローゼ(アフターティオ編)
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ミンディ(アフターまおゆう編)
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トネリコ(アンケートその1)
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星野アイ(アンケートその2)
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ユウキ(アンケートその3)
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大穴、ミュウに全乗せ!
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対抗馬リスティ、出る!
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その他①(読者リクエスト)
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その他②(別作品から更に追加)
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その他③(原作内から追加)