Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
後、前作同様ティオのドМ化はありません。
原作とは違う性格なので少々手はかかりますが、それもまた一つのテイストとして楽しんでいただけると幸いです。
次回から第4章の開始です、お楽しみに!
世界が赤く染まっている。
都を舐め尽くし燃え盛る業火と、撒き散らされた命の飛沫と、天空に浮かぶ尋常でない大きさの魔法陣、そしてこの狂気に埋め尽くされた悲劇の舞台を彩る夕焼けの色だ。
???「何故このような、このようなことが……。」
未だ幼さを残す少女の、絞り出されたような声が響いた。
美しい黒髪に黄金の瞳を持った、見た目10歳ほどの少女だ。
美麗な和装に身を包み、熱を運ぶ風に髪を揺らして、物見台の天辺から崩壊していく故郷をその瞳に映している。
木製の欄干を握る小さな手に、その情動を示すように力が込められているのが分かる。
驚いたことに、頑丈そうな欄干は、少女の手によってメキメキと悲鳴を上げ、今にも粉砕されそうだった。
少女らしからぬ膂力。それもそのはず。彼女の正体は竜人族。それも、王族の血筋に連なる者なのだ。
そして、今、世界でもっとも美しいと称された木と水の王国――
少女の故郷は、圧倒的な戦力による侵略を受け灰燼に帰そうとしていた。
少し前まで、ありとあらゆる種族が区別なく平和に暮らしていたというのに、何故、こんなことになってしまったのか……。
少女の認識は現実に追い付かず、輝く瞳に悲嘆と呆然、憤怒の色を乗せて、ただただ呆然と、燃え行く故郷を見つめていた。
???「姫様……ここは危険です。早く避難を……。」
少女の背後に控えていた傍付の女性が少女に避難を促す。
しかし、少女は振り返ることもなく、ただ小さく首を振った。
???「姫様……。」
姫「ヴェンリよ。妾はクラルスの姫ぞ。
父上達が、同胞達が、今この時も戦っているというのに、どこへ逃げろと言うのじゃ?
行くならば……あそこじゃろう。」
そう言って、真っ直ぐに戦場を指さす少女。それに、傍付の女性――ヴェンリが慌てた様に少女の傍に寄った。
ヴェンリ「なりません、姫様!」
姫「……分かっておるっ。妾が行っても、足手まといにしかならん。
今ほどっ、この身の未熟を口惜しいと思ったことはないっ!」
少女の可愛かわいらしい唇からツーッと血が滴り落ちた。唇を嚙かみ締め過ぎたのだ。
そうでもしなければ、己の中の理性を殴り飛ばし衝動のまま駆け出してしまいそうだった。
国を焼かれ、同胞達が散っていき、家族すらも危機にあるこのときに、なにも出来ない自分の無力が、恨めしくて、憎くて仕方がなかった。
それこそ、敵に対する憤怒よりもなお、激しい怒りを自分に対して抱くほどに。
と、そこへ少女が心より安否を憂慮し、同時に心から信頼している人の声が響いた。
???「ティオ、結界の中にいなさいと言っただろう!」
姫「父上っ!」
少女――ティオのいる物見台に、竜の翼を背負う黒髪の偉丈夫が滑り込んでくる。
ティオの父親にして、今代の竜人族の王ハルガ=クラルスだ。
ハルガの姿は酷いものだった。
魔物の素材を使った和装の戦装束は下手な金属鎧よりも頑丈なのだが、今はあちこちが焼け焦げ、破れ、あるいは千切れて、見るも無残な有様になっている。
その下にある肉体も、大小様々な傷が走っており、特に腹部の傷からは今この瞬間も血が滴り落ちていて止血もままならない様子。
ハルガは、竜人族の中でも最高の防御力を誇る黒竜だ。
熟練しなければ行使できない人間の姿での"部分竜化"もできる強者で、たとえ戦装束の防御を貫かれても、肉体に竜鱗を纏ってあらゆる攻撃を弾いてしまう。
その身を以て盾となり、悪意と敵意の尽くを受け止めながら敵陣に突進し蹴散らしてしまうその戦い振りから、"移動城塞"などという二つ名がついたほど。
故に、父の強靱さを知るティオは、凄絶な父の姿に言葉を失う。
ティオの表情で、その内心を察したハルガは、苦笑いを浮かべながら片膝をついてティオと視線を合わせた。
ハルガ「ティオ。どうやら我等は、ここまでのようだ。
方々手は尽くしたが、やはり、作られた世界の流れを変えることは出来なかった。
お前に、故郷の地を残してやれないこと、すまなく思う。」
ちびティオ「そ、そのような、そのようなことっ。なにを言うのじゃ、父上!
竜人が、これしきのことで終わるなど……そんなことあるわけないのじゃ!そうじゃろう!?」
ハルガ「今や、我等は世界の敵……ティオ、いついかなるときも現実から目を背けてはいけない。
そう、教えたはずだ。」
ちびティオ「父上っ……!」
悲痛な声音と表情で、美しい着物が汚れるのも構わず、ハルガに抱き付いたティオは、父の言葉を必死に否定する。
そんなことがあるわけないのだ。竜人族は世界の守護者。
あらゆる国、あらゆる種族を受け入れ、ともに手を携え合い、手を差し伸べ、平和をもたらしてきた。
どの国も、どんな種族も、多かれ少なかれ、竜人族には恩義と敬意を抱いてきたのだ。それが、たった数年。
季節が幾つか巡る程度の間に、全てが変わってしまった。竜人族は魔物である。竜人族は多種族を支配している。
竜人族はいつ暴走してもおかしくない。竜人族は神に牙を剝むく。竜人族は――神敵である。
なんだそれは、とティオは思う。
"完全竜化"――地上のどんな種族も持ちえない固有魔法は、確かに、人々に大きな恐れを抱かせるだろう。
だが、だからこそ、竜人族は誰よりもどんな存在よりも、高潔であらんとしてきた。
"恐れ"を"畏れ"に、そして"畏敬"へと昇華させるために。
愚直と言っても過言ではないほど、竜人族は己を律し、他者を思いやり、勇気を示し、その身を剣に、あるいは盾にして、全ての人々と共存してきたのだ。
結果、数百年の時を経て、過去の、そして今を生きる竜人達は、世界中から一種の楽園とも称される木と水の王国を築き、世界中が手を携え合える世界同盟の盟主にまでなって世界を守り続けた。
――世界の守護者。――平和の紡ぎ手。―真の王族。人々の竜人族を称える言葉だ。
そう声高に称賛していた人々の口からは、今や狂気と共に罵詈雑言が吐き出されている。まるで悪夢だった。
手の平を返したような人々の悪意、恐怖、敵意……ティオは、実際に世界規模の多種族混合連合軍の侵略を受けている今になってもまだ、現実を受け入れられないでいた。
自分は、実はまだ寝所で眠っていて、夢を見ているだけなのではないか。
そうであるなら、どうか早く目覚めて欲しい。
赤に染まり、狂気が満ち満ちて、同胞が散っていく……
そんな夢の世界から、深緑の樹々と陽の光を反射してキラキラと煌めく小川と、種族に関係なく笑い合い寄り添い合う人々の喧騒に満たされた世界に帰りたい、と。
ハルガ「ティオっ!しっかりしなさい!お前は、もっとも若き、次代を担うクラルスの娘であろう!」
ちびティオ「っ……父上。」
父親の力強く己を叱咤する声に、夢幻に囚われていたティオはハッと我を取り戻した。
そして、いつまでも無様を晒しているわけにはいかないと、あまりの不条理に零れ落ちそうになっていた涙をゴシゴシと拭って、キッと睨みつけるような力強い眼差しをハルガへ向ける。
そんなティオに対し、心底愛いとしそうに目を細めるハルガは、直後、強く、強くティオを抱き締めた。
それはまるで、もう二度と感じることはできない愛しく大切な温もりを、名残惜しむかのような……
余りの力強さに、ティオは「ふぐぅ」と苦しそうな声を漏らし、父に小さな抗議をしようとする。
が、開かれた口は噤まれることになった。父の肩越しに、ヴェンリの表情を見てしまったから。
そして、父の抱擁から伝わる尋常でない気配に気が付いてしまったから。そうすれば、当然、沸き上がる疑問。
何故、父は戦場を抜けて自分のもとへ戻ってきたのか。――どうやら我等は、ここまでのようだ。
甦る父の言葉。未だ幼くして、その聡明さにおいては大人顔負けとの称賛すら受けるティオは、それらの情報を統合して――総毛立った。
父親の意図を察し、愕然とした表情で自分を抱く父の横顔を見つめた。
ちびティオ「父上……噓じゃろう?噓だと言ってたもう。」
ハルガ「……まったく。
お前は本当に聡さといい、顔つきといい、言動といい、日に日にオルナに――母親に似ていく。」
父の苦笑いを浮かべた表情を見て、ティオは確信する。今、このときが、父との今生の別れとなる瞬間なのだと。
ティオは、言葉にならぬ想いを、それでも何か言わねばと口を開こうとする。
ドゴォォォンッ!!
が、その寸前、都の中心から凄まじい轟音と衝撃が伝播した。
物見台を倒壊させかねないほどの爆風に、思わず顔を庇かばって身を縮めたティオ。
そうして、静寂が戻って一拍。ティオやハルガが共に厳しい表情で視線を転じれば、
ちびティオ「な、なんということをっ!」
ハルガ「……。」
ティオが悲鳴のような声を上げた。爆心地は、まるで最初から何もなかったかのように更地となっていた。
しかし、ティオが悲痛な声を上げた原因は別。
今、この瞬間も、一本、また一本と立てられていく木柱に磔にされた――同胞達の姿だった。そうして気が付く。
ちびティオ「母上……?」
たとえ距離があっても、気が付かないわけがない。母だ。
白に近い翠の長い髪に、自分が受け継いだ黄金の瞳を持つ美しい女性。
普段はたおやかで、優しく微笑んでいる姿ばかりなのに、一度、戦場に出れば、壮麗な風と、誰よりも速い飛翔で先陣を切り、敵を薙ぎ倒す勇猛果敢な、ティオが心から敬愛する人。
その母――オルナが、見るも無残な姿で磔にされていた。
ドクンッ!
その傷だらけの姿を見れば、いかに勇猛に、最後の瞬間まで死力を尽くしたのかは一目瞭然。
そんな母が、晒し者にされていたのだ。ティオの瞳に、暗い炎が燃え上がった。
普段は鮮やかとも言える黒の魔力が、まるで負の感情という名の素材を煮詰めたかのように深く暗い色になっていく。
己の制御など軽く吹き飛ばしてしまいそうな憤怒と憎悪が、幼き竜人族の姫を、本当の化生へと転化させようとする。
ハルガ「!ティオッ!」
ちびティオ「っ、ちち、うえ……。」
全身を包む魔力の奔流の中、巨大すぎる怒りがティオの言語能力すら怪しくさせる。
そんな、今にも衝動のまま、並み居る敵に喰らいつきそうな娘を、ハルガは片膝を突いて再び、強く、強く、抱き締めた。
ティオは、そんな父に憤怒と憎悪で輝く黄金の瞳を向ける。
その目は言葉よりも雄弁に、なぜ仇を討ちに行かないのか、なぜ、悪逆非道な輩共を駆逐しに行かないのか、なぜ、母を殺されてそんなにも落ち着いていられるのか……そんな疑問を物語っていた。
そんなティオに、ハルガは、抱き締めたまま、小さく、されど透き通るような声音で語りかける。
ハルガ「――我等、己の存する意味を知らず。」
ちびティオ「!」
ハルガが無言でティオに続きを促す。
ティオは、フゥ―フゥーと怒りの余り乱れる呼吸のまま、されど物心ついたときから聞かされ、教えを受けてきた古き言葉を口にする。
ちびティオ「この身は獣か、あるいは人か。世界の全てに意味あるものとするならば、その答えは何処に……。」
応えた娘をより一層強く抱きしめながら、ハルガが言葉を重ねる。
ハルガ「答えなく幾星霜。なればこそ、人か獣か、我等は決意を以て魂を掲げる。」
それは竜人族に伝わる誓約と決意の言葉。
ちびティオ・ハルガ「「竜の眼は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る。」」
ティオとハルガの言葉が重なる。ティオの体から力が抜け、次第に落ち着きを取り戻していく。
ちびティオ・ハルガ「「竜の爪は鉄の城壁を切り裂き、巣食う悪意を打ち砕く。」」
ハルガが体を離し、
最後の教えを授けるように。言霊に乗せて、竜人族に相応しい心を取り戻させていく。
ちびティオ・ハルガ「「竜の牙は己の弱さを嚙かみ砕き、憎悪と憤怒を押し流す。」」
ティオの唇から、再び血が滴り落ちた。理性を飛ばしそうな己に牙を突き立て、先にそうしたように心を律する。
ちびティオ・ハルガ「「仁、失いし時、我等はただの獣なり。されど、理性の剣を振るい続ける限り――」」
そっと、ティオの唇にハルガの指が触れる。愛娘が嚙み締め流した血は、心が流した血と同義。
それを拭い、それでいいと微笑む。ティオの瞳に雫が溢れる。しかし、決して流しはしない。
憤怒と憎悪が心を侵し、敵を殺せと絶叫を上げ、それに身を委ねてしまいたいと思う"弱さ"を、幼き心は光る雫に変え、しかし、流してしまうのは竜人の矜持に反する。
強く、優しく、高潔であれ。古き言霊に込められた竜人族の在り方――
それを、父の前で、最後まで民と同族のために戦った母の亡骸の前で、曲げるわけにはいかない。
ティオは、スッと息を吸うと、それでいいと優しい眼差しを己に向ける父に頷き、最後の、父と母、そして家族に授けられた誇りを口にした。
ちびティオ「我等は竜人である!」
小さな体を精一杯むんっと張り、声高に叫ぶティオ。
ハルガは、もう一度、今度こそ最後であると、そして、己の誇りを具現化したような愛娘を、もう心配はいらないと万感の想いを込めて抱き締めた。
ハルガ「ティオ、よく聞きなさい。」
ちびティオ「……はい。父上。」
父と言葉を交わす最後の機会だ。
流れ出しそうな涙を必死に堪えながら、ティオは、少女とは思えないほど決然とした声音で応える。
ハルガ「我等らの、いや、世界の本当の敵は、今、この国を侵略している人々ではない。」
ちびティオ「……世界を歪ませた存在――教会の崇める"神"。」
ハルガ「そうだ。あらゆる手を尽くし、その存在を討たんとしてきたが……間に合わなかった。
故に、竜人族はここで終わる。終わらねばならん。何故か分かるな?」
ちびティオ「はい。我等が滅びねば、世界中の人々が歪んだままになってしまう。
だから、我等が終わることで、この戦を終わらせねばならんのじゃ。」
ぐっと重い感情を堪えながら、聡明さを示すティオに、ハルガは力強く頷く。
ハルガ「真の敵である"神"は強大で、かつ狡知に長ける。だが、決して万能ではない。
そして、いつの時代も、邪悪が栄え続けるということはないのだ。
故に、いつか、いつの日か、かの存在を討つことの出来る者が、必ず現れるだろう。ティオ。」
ちびティオ「はい、父上。」
予言者の如ごとく語るハルガは、ティオに、最後の、父としての願いと、竜人族の王としての命令を口にした。
ハルガ「生き延びよ。」
ちびティオ「ッ、父上。しかし、我等は――」
たった今、竜人族が滅びなければ世界は戦火に包まれたままだと語った父に、ティオは困惑を向ける。
ハルガは、そんなティオに、ティオ自身余り見たことのない、らしからぬ不敵な笑みを浮かべた。
ハルガ「敵の強大さを知りながら、手を拱いているほど我等は甘くはない。
竜人族は今日、確かに滅びるが……それは歴史的に、だ。既に、大陸の外に隠れ里を用意してある。
そこへ行くための、神に知覚されぬ道もだ。
父上と、そして選ばれた同胞達と共に、そこで時が来るまで生き延びるのだ。」
ちびティオ「なっ、爺様!?父上、爺様は亡くなったはず……いや、そういうことなのじゃな。」
世界の流れが変わり始めたころ、目に見えない敵の影にハルガと、先代の王にしてハルガの父――
アドゥル=クラルスは、様々な手を打ってきた。
そのほとんどは、一見すれば偶然と思える出来事――
確実に、神の手であろう策謀により潰されてしまい、その中で、先代の王にして最強の緋竜として名を馳せたティオの祖父アドゥルは、何者かとの戦闘の末、亡骸も残らない戦死を遂げたはずなのだ。
だが、きっとそれは、敵を欺き、今のような滅びの時を迎えても竜人族を歴史の陰に隠せるよう打たれた、ハルガとアドゥルの一手だったのだと、ティオは察した。
同時に、自分の死を偽装する手立ても打ってあるのだろう、と。
大好きだった祖父が、実は生きていたことに喜びを感じつつ、同時に悲しみがティオの心を襲う。
ちびティオ「……父上は、行けないのじゃな。」
ハルガ「うむ。私は今代の王。この首なくして戦いくさは終わらん。それに……」
ちびティオ「それに?」
ハルガ「オルナを、愛する女を戦場に残していくことは出来ん。」
少しだけ冗談めかしてそんなことを言う父に、ティオは淡く微笑んだ。
ハルガは、ティオの髪をゆっくりと撫なでながら最後の言葉を贈る。
ハルガ「ティオ。私の黒鱗と、オルナの風と、父アドゥルの炎を受け継ぎし、クラルスの誇りよ。
今日、お前の中に生まれた黒い炎と、生まれたときから持つクラルスの猛き炎を胸に、よく生きよ。」
ちびティオ「はい。はいっ、父上っ!」
きっと、母オルナにも託された言葉と想いを伝え終えたハルガは、ヴェンリにティオを任せ、再び、終焉の戦場へと飛び出していった。
そうして、最初から了解していたらしいヴェンリと共に、大陸の外へと落ち延びる秘密の場所へ向かったティオは、最後に見た。
勇壮にして、巨大な黒竜が、天に向かって世界すら分かちそうな閃光ブレスを放つ瞬間を。
この戦において、竜人達は、侵略者たる混成軍のほとんどを無力化しただけで命までは奪っていない。
最後まで、竜人族を信じて国に残った者達は、その身を盾にして逃がした。
神の邪心に従って、人同士で殺し合ってなどやらない。
たとえ、我等の身が朽ちようとも民を傷つけさせはしない。
絶望に浸ってもやらなければ、怒りや憎しみに身を侵させもしない。
ブレスと共に響き渡った竜の咆哮は、まるで、遥か高みから世界を嘲笑う神への、竜人の誇りを汚せるものならやってみろという、ハルガの、そして散っていった竜人達の、挑戦状のようだった。
ティオ「う、むぅ~。」
日本家屋のような木造の家の一室に、呻くような声音が響いた。
苦しそうな、不快そうな声音であったが、それを発した張本人の姿を見れば、途端、艶めかしいという表現になりそうなのは、その寝姿と美貌のせいだろう。
美しく艶やかな黒髪を乱し、大きくはだけた和装の胸元から覗のぞく溢れ出んばかりのたわわな双丘。
そして、同じくはだけた裾から見える両の美脚は、臀部の肉感と相まって男の理性をホームランするには十二分の凶悪さだ。
まして、夢見が悪かったせいか寝汗を搔かいているようで、首筋や頰に張り付いた黒髪や、胸元、あるいはむっちりした太ももを伝う雫が、尚のこと彼女を艶やかにしていた。
ティオ「……ふぅ。久しぶりに見たのぅ。あれからおよそ500年――
未だに夢に見るとは、精神がたるんどるのかもしれんな。」
彼女――成長したティオ=クラルスは、はだけた服装を楚々と直しつつ大きく溜息を吐くと、鬱屈した心を極力気にしないようにしながら立ち上がり、襖を大きく開け放つ。
途端、流れ込む朝特有の澄んだ空気。
それを目一杯吸い込めば、夢見によって沈んだ心も、悪いものを洗い流されたようにスッと軽くなった。
視界に映るのは、この500年、代わり映えしない第2の故郷だ。大陸の外にある海を越えた先の自然豊かな島。
あの日を生き延びた竜人や、その後に生まれた竜人達以外にも、飛竜や多くの野生動物が生息する場所で、作物の栽培にも悪くない土地だ。
かつての国とは、当然、比べるべくもないが、それでも、数百人の竜人が暮らすには十分な広さと木造の立派な家屋が並ぶ。
縁側に立ち、そんな集落の様子をなんとなしに見つめていたティオに、ふと声がかかった。
ヴェンリ「姫さま、おはようございます。夢見が悪いようでしたが……。」
ティオ「む、おはようじゃ。ちょいと昔のことをな。なに、前回見たのが10年くらい前じゃったか?
それを思えば、父上や母上が、少しくらいは思い出せと、草葉の陰から言っておるのやもしれん。」
ティオの夢の内容を察した初老の女性――ヴェンリが気遣うように言葉をかけるが、ティオは茶目っ気けのあるウインクと共に、冗談めかしてそんなことを言う。
気遣うつもりが、逆に気遣われたと察したヴェンリは苦笑いを浮かべる。
かつては、護衛の意味も兼ねて傍にいたが、今ではこうして自然に気遣われ、おまけに実力も遥か彼方に置き去りにされている。
実力も、気概も、精神も、既に里の長であるアドゥルを除けば、古参も若手も含めてティオに敵う者はいない。
もし、王国が滅びていなければ、どれほどの傑物に、歴史に名を残す女王になっていたか……
ヴェンリは、それを思うといつも歯嚙みしたくなるような気持ちになった。
そんな気持ちを心の内にしまい込み、ヴェンリは話題を変える。
ヴェンリ「朝食はどうされますか?すぐに召し上がります?」
ティオ「う~む、そうじゃのぅ……む?爺様はどうしたのじゃ?家の中に気配を感じられんが……。」
ヴェンリ「あぁ、なんでも、カルトゥス様からお呼びがかかったようで……。
今朝早くに家を出て、まだ戻っておりません」
ティオ「なんじゃと?カル爺からの呼び出しじゃと?それもそんな早くに?」
ティオがカル爺と呼ぶのは、祖父アドゥルに並ぶ長命な竜人で、天職"監視者"を持つ魔力感知に長けた人物だ。
流石に、遠く離れた大陸ともなれば、余程のことがなければ数ヶ月に一度、あらゆる準備と魔力枯渇を覚悟の上で、大陸に異変が起きていないか確認しているのだが……。
ティオ(定期探査は1ヶ月前に行った。
ということは、カル爺が任意で行った探査ではなく、大陸から届くほどの何かを感知してしまったということかの?)
嫌な……というよりも、なにかが変わろうとしている予感が胸中に沸き上がるのを感じたティオは、ヴェンリに断ってカルトゥスの下へ向かうことにした。
カルトゥスの家には、祖父アドゥル以外にも幾人かの古参の竜人達がいた。
その物々しい雰囲気に、ティオは胸のざわつきを更に深める。
???「ティオ、来たのか。」
ティオ「うむ、爺様。妙な胸騒ぎを感じての。
この雰囲気……やはり、ただの世間話ではなく、大陸でなにかあったのじゃな?」
相変わらずの孫娘の聡明さに、緋色の髪と、とても"爺様"と呼ばれる年齢には見えないがっしりした肉体を持つアドゥルは苦笑いしながら頷いた。
アドゥル「どうやら、教会――神は、なにか異質な存在を喚よび込んだらしい。それも数十もだ。
その中でも一際大きな力を持つ存在は、"監視者"カルトゥスの"天目"によれば、"錬成師"で"魔王"だそうだ。」
ティオ「2つも天職を持っているとは……それも錬成師と、魔王?」
カルトゥス「それだけではございませぬ、その者には及びませぬが勇者という天職も現れました。」
ティオ「魔王だけでなく、勇者と……。」
カルトゥスの"天目"とは、天職に付随する技能の一つで、相手の天職を見極めることができるというものだ。
その結果、得られた天職"魔王"という情報に、ティオはスッと目を細めた。
魔人族にも魔王はいるが、人間族がそんな存在を呼び寄せることは出来ない。
しかもその者は錬成師という天職まで持っていると来た。
普通、転職は一人につき一つだが、2つ以上の天職を持つものなど、前例にもない。
それに勇者という天職も、未だかつて聞いたことのない職業だ。これを異常として何と言うべきだろうか。
アドゥル「看過できん事態だ。調査せねばならん。前回の調査同様、今回の調査もアロイスに――」
ティオ「妾が行くのじゃ。」
隠密行動や市井に紛れ込むのが上手い竜人の名を上げようとしたアドゥルの言葉を遮るように、ティオが調査任務に名乗りを上げた。
ティオは、良くも悪くも目立つ。
その美貌はもちろんのことだが、纏う雰囲気が、たとえ何百年経とうとも王族のそれなのだ。
所作にしろ、言動にしろ、とても市井に紛れ込む人員には向いていない。
故に、今まで、大陸の調査は適した能力を持つ竜人達が担当してきた。
ティオは、常にその報告を受ける側だったのだ。
加えて、"時が来るまで、竜人族は表の世界に出ない"という、竜人族最重要の掟もある。
万が一、大陸の人間に竜人族の存在が露見すれば、かつての神敵を今度こそ滅ぼそうと、竜人狩りが始まるのは自明の理。
尚のこと、ティオが大陸に赴くというのは、あり得ない話だった。
国を失っても、里の誰もがティオを"姫様"あるいは"ティオ様"と呼ぶ。
ティオは、自分の立場というものを理解していた。
故に、同胞と世界のために散った父と母、同胞達のためにも、ティオは決して掟を軽視するようなことはなかった。
たとえ、里での生に鬱屈した想いを抱えていたとしても。
にもかかわらず、今回の立候補だ。アドゥルを始め、カルトゥス達古参の竜人達は、誰もが一様に瞠目し、ティオを凝視した。
アドゥル「……ティオ。自分がなにを言っているのか、分かっているのだな?」
ティオ「うむ、爺様よ。妾は全て分かった上で、それでもと言っておるのじゃ。今回の調査、妾が行くのじゃ。」
アドゥル「なぜ、そこまで強硬に主張する?今までは、他の者に任せていただろう?」
ティオ「予感がするのじゃ。爺様よ、今回の異変、きっと大きく世界が動く。妾の中の何かが、そう訴えておる。
神を討つものがいずれ現れると、父上は言っておった。きっと今が、その時なのであろう。
だから、たとえ止められても、妾は行く。今回ばかりは、絶対に譲らんのじゃ。」
アドゥル「……。」
いつにない強弁。今度は違う意味で、アドゥル以外の者達が瞠目した。
強い意思を宿した黄金の瞳が、まるで火でもくべられたように轟々と燃えている光景を幻視してしまう。
アドゥルは、しばらく孫娘の瞳をジッと見据え……やがて、フッと肩から力を抜くと、慈愛の籠った眼差しで頷いた。
アドゥル「よかろう。行ってくるがいい、ティオ。その眼めで、存分に世界を見て来るがいい。
ただし、神の目につかぬよう、人員は掟通り一人のみ。つまり、お前だけだ。分かっているな?」
ティオ「委細承知じゃ。……爺様、感謝する。」
カルトゥスを始め古参達が猛反対するが、結局、アドゥルの説得により、異変の調査にはティオが出ることになった。
翌朝。まだ陽が昇る前の時間。島の一角にある岬にティオの姿があった。
昨日、今回の調査員にティオが名乗りを上げたという情報は、瞬く間に里中に広がり、ヴェンリを始め、多くの者達が猛反対、猛説得を繰り返した。
それでも結局、ティオの意思が翻ることはなく、ティオは旅の準備を終えた。
島から大陸までは相当な距離がある。
空を飛べる竜人であっても、大陸に到着する頃には、ほとんど魔力を使い果たすだろう。
魔力の多いティオであっても、厳しい道のりであることに変わりはない。
時間も、まる一日はかかるので、翌早朝を出発時間としたのだ。
そんな出発場所である岬には、ティオ以外の、というか里中の竜人が出張って来ていた。
ヴェンリ「ひ、姫さま。やはり考え直しませんか?御身になにかあれば、我々は……」
アロイス「そうです!せめて、護衛に幾人か同行しましょう!」
???「それならば、俺が!姫様のことは俺が命に代えても守ってみせます!」
ヴェンリが未だに狼狽えながらティオに思い止まるよう説得の言葉を口にする。
ベテラン調査員であるアロイスが、掟を理解していながら同行を申し出れば、隣の若手が顔を真っ赤にしながら立候補する。
彼等ら以外にも、多くの竜人が引き止め、ないし同行を訴えた。誰もが、ティオを心から大切に思っているのだ。
心から愛しているのだ。
ティオ「主らの気持ちはありがたいと思う。それに、心配をかけていることは申し訳なく思う。
じゃが、今回ばかりは我を通させておくれ。」
ティオの困ったような表情と、その表情に反した決然とした言葉に、ヴェンリ達は思わず口を噤んだ。
ティオは、自分を心配そうに見つめる同胞達に、ゆっくりと視線を巡らせる。
その眼差しには、溢あふれるような慈愛と、なにかに挑むような力強さが宿っていた。
ティオ「ヴェンリよ。主が、妾をどれだけ大切に思ってくれておるかはよくよく分かっておる。
あの終焉の日から、爺様以上に傍に寄り添ってくれていたのは主じゃ。もう一人の母と思うておる。
どうか、娘の意思を見届けておくれ。」
ヴェンリ「ひ、め、さま……。」
ヴェンリの涙腺は崩壊した。余りに嬉しい言葉に、もう何も言えない。
ティオ「アロイスよ。妾がおらぬ間、爺様の補佐を頼む。ふふ、妾の婚約者候補筆頭じゃろう。
妾は、安心して任せてよいはずじゃな?」
アロイス「っ、未だ貴女の鱗に傷一つつけられない未熟な身に、何をおっしゃいます。
しかし、そのような信頼を向けられては、貴女を想う男の一人として否とは言えない。……ずるいお方だ。」
ティオに艶やかな微笑えみと信頼を向けられて、参ったというように天を仰いだアロイス。
ティオは500年を生きる竜人だが、未だその身を許した男はいない。
本来なら、とうの昔に伴侶を得ていてもなんらおかしくはないのだが……
ティオの提示する条件が厳しすぎたのだ。
???「お、俺は、いつか必ず姫様に勝って見せます!そして、姫様と……。
ですが、姫様の身に何かあってはそれも叶わない!」
そう、ティオを射止めるその条件とは、彼女よりも強いこと。それだけなのだが、これがまた至難なのだ。
なにせティオは、最強の竜人たるアドゥルと互角以上の実力者。
あの悲劇の日以降、己を鍛えることに余念のなかったティオは、気が付けば竜人最強の座にいたのである。
そんなティオに、熱い想いをぶちまけている若手の竜人――
ティオの弟分でもあるリスタスに負けてなるものかと、他の男達も口々に想いと共にティオを制止する言葉を叫ぶ。
強く、優しく、高潔。そして、その類まれな美貌と聡明さ。
ここ数百年ほど、「我こそは!」とティオの伴侶になることを目指してしのぎを削る男は後を絶たない。
しかし、鱗を砕くどころか、痛みすら与えられていないのが現状だ。
ティオ自身、痛みという感覚がどういうものだったのか、忘れかけているくらいである。
ティオ「まったく、困った者達じゃな。
想うてくれるのは素直に嬉しいが……言葉だけでは、妾は止まってやれんよ。想いだけでは物足りん。
強さだけでは虚しい。両方なければ、何もなせんのじゃ。故に、妾は行く。
連れ戻したければ、妾に言うことを聞かせられるくらいの強さを見せておくれ。
主等なら……ふふ、いつか妾にも届くやもしれんぞ?」
くすりと笑いながら、諭すように男達に言葉を贈るティオ。
自分達の想い人から、足りないと言われれば、そして、いつか追いついてみせろなどと言われれば、男として、もう無駄に言葉を重ねることなど出来はしない。
ティオ「主等よ。我が愛しき同胞達よ。妾を見よ。」
竜人達が一斉にティオに注目する。
ティオは、無数の視線にたじろぐこともなく、威風堂々とした、それこそ王と見紛うほどの覇気と共に言葉を紡ぐ。
ティオ「この先に、なにが待ち受けているのかは分からん。なにが起きるのかも分からん。
しかし、かつてないなにかが起きていることは分かる。尋常ならざる事態に、直面するであろう予感がある。
じゃが、問題などあろうはずもない。信じておくれ。主等が"姫"と呼び愛してくれている妾――
竜人最強の黒竜ティオ=クラルスを。」
ティオの言葉を受けて、制止の言葉をかけていた者達も、そうでない者達も、今度こそ明確にティオの意思を感じ、その場から一歩下がった。
そして、一斉に頭を垂れた。敬愛するティオに、そこまで言われれば、もう信じるしかない。
同胞達が己の意思を受け入れてくれたことに、感謝と愛しさを宿した表情で一つ、頷いたティオは、アドゥルに出発の挨拶をして、直後、黒竜に転変して一気に大海原へと飛び出していった。
流れる雲と、陽の光を受けてキラキラと煌きらめく海面に挟まれながら、全身で風を受けるティオは、まだ見えぬ大陸の方角を見つめる。
大して変化のなかったこの500年。あの悲劇の日から、父ハルガの言葉通り、生きてきた。
だが、もう、ただ生きるのは終わりだ。かつて、父と母がそうしたように、なにかのために身命を賭す。
それこそが竜人としての、ティオ=クラルスが望む"生きる"ということ。胸の内に絶えることなく沸き上がる予感。
思えば、久しぶりに見た過去の夢も、この予兆だったのではないだろうか。
ティオは、真っ直ぐに前を見つめながら確信に満ちた言葉を響かせた。
ティオ『きっと、全てが変わる。…………感じるのじゃ。』
ティオ「う、むぅ……む?」
ハジメ「お、ようやっと起きたか。」
朧気ながらに目が覚めたティオは、頭上から聞こえる声を耳にした。
寝ぼけ眼をこすり、その主の正体を見れば、それはハジメだった。
ティオ「ごしゅj……ハジメ殿か。」
ハジメ「あぁ、"竜化"で結構疲れていたみたいだから、宿の一室を借りてね。
一人だと危ないから、こうして俺が見張りがてらいるってわけ。」
ティオ「むぅ、それは……。」
思わず照れ臭くなり、気を紛らわす様に周りを見れば、確かにそこは宿の一室だった。
同時に、ハジメとの距離が何故か近い事に気が付き、今の自分の体勢を確認すると……。
ティオ「ひ、膝枕かえ……?」
ハジメ「?もしかして、嫌だった?やっぱり固く感じるのかなぁ。」
ティオ「い、いや!そういうわけではない!寧ろとても心地よく……」///
ハジメ「?」
何故かはわからないが、顔が赤くなってしまうティオ。ハジメは何となく理由を察するが、敢えて言わなかった。
その理由は……
ユエ「……ん、照れてる。」
シア「ですね、表情も乙女チックになってますし。」
声のする方向を見れば、ユエとシアがニヤニヤ顔でこちらを見ていた。
それに漸く気づき、驚愕したティオは、慌てて起き上がった。
ティオ「!?おっ、お主ら何時からそこに!?」
ハジメ「ずっと一緒にいたよ?」
ティオ「!?」
そう、実は自分以外にも人がいたのに、ティオが好きな人と二人っきり状態な雰囲気を出していたので、ハジメは言い出せなかったのだ。
ティオ「はっ、恥ずかしいのじゃぁ~……。」///
思わず顔を覆うティオ、その頬をユエが面白半分につつき、シアは「可愛いですねぇ~。」と、吞気に呟いていた。
ハジメ「あはは……そ、そういえば少し魘されている様だったけど、大丈夫?」
ティオ「!心配することはないのじゃ、昔のことを夢に見ただけじゃ。」
ハジメ「……そっか。」
ティオは慌てて誤魔化すが、ハジメ達には筒抜けだったようだ。
ティオ「……わかっておる。妾や同胞の竜人族について聞きたかったのであろう?」
ハジメ「あぁ、別に辛いなら話さなくてもいい。無理に聞き出すつもりはないしな。」
ティオ「フフッ、そう気を遣わんでも良い。妾が伝えたいと思ったから話すだけじゃ。
それに、ユエも楽しみにしておるようじゃしのう。」
ティオがそう言って揶揄い気味に視線を向ければ、ユエは気恥ずかしそうに視線を逸らした。
窓の外では、町の危機を乗り越えたことを祝う宴が開かれていた。
人々が陽気に馬鹿騒ぎしては、互いに無事を喜び合い、食事に舌鼓を打っていた。
そんな喧騒をBGMに、誇り高き竜人族の生き様が紡がれていった。
そして時間は少し進み、ハジメ達の出立前日――
ハジメ「それじゃあ、明日には出発するけど……ここで引き返してもいいんだぜ?」
ティオ「ホホホ、冗談でもNOというのじゃ。それに、族長の孫である妾自身が見初めた男の旅路じゃ。
ついて行く以外に選択肢はあるまい。」
ハジメ「そうか、それは良かった……ん?見初めた?」
それってつまり……そういうこと、なのか?
ティオ「うむ、改めて宜しく頼むのじゃ、ご主人様よ!」
ハジメ「……前々から気になっていたんだが、敢えて突っ込まなかったことを聞くぞ。何故に"ご主人様"?」
俺がそう聞くと、ティオは頬を上気させ、色香を含んだ妖艶な笑みを浮かべて言った。
ティオ「前にも言ったとは思うが、里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。
じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ。
妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったからの!」
それはそれで実力の高さが伺えるが……そこから一体どうやって俺への求婚に繋がるのだろうか?
ティオ「じゃが、里にはそんな相手がおらんかった。そこで現れたのが、ご主人様なのじゃ!
洗脳状態だったとはいえ、ご主人様はいとも簡単に妾を投げ飛ばしてみせた挙句、組み伏せてきたのじゃ!
痛みと敗北を一度に味わったのじゃ!妾の体はもう、ご主人様なしではダメなのじゃ!」
ハジメ「言い方ぁ!?誤解を招く表現はやめい!」
最後のだけを切り取れば俺のせいになるが、その前の文章がおかしいと思うんだが!?
ティオ「無論、それだけではない。
父上や爺様以上の圧倒的なプレッシャー、絶対的な力!鍛え上げられた肉体!それでいて、欲望に溺れぬ強き心!
ご主人様のその在り方を目の当たりにした時、妾は既にご主人様に堕ちてしまったのじゃ!」
ハジメ「だから言い方ぁ!?」
やや強引ではあるが、確かに筋は通っている。だけど最後の言い方がなんというか……。
ティオ「妾をこのようにしてしまったのは他ならぬご主人様なのじゃぞ?責任はとって貰うからの。」
ハジメ「……何だろう、その内海人族や魔人族からもそういうのが来そう。」
ユエ「……これ、本当に竜人族?」
俺は思わずため息をつき、ユエは僅かにショックを受けたような表情になった。
ティオ「失敬な。竜人族は高潔で清廉であると同時に、強い力を持った種族じゃ。
それ故女は心身ともに強い男を求む。お主らもご主人様に支配されたいと思ったことはあるのじゃろう?」
ユエ「んんッ!?」///
シア「にゃ、にゃにを言ってるんでしゅかぁッ!?」///
……より一層、夜の警戒をしないとなぁ。(遠い目)
ハジメ「はぁ~……あれから3人でどっか行っちゃったけど、一体何の会議をしているんだ。」
ティオの思いを聞いた後、ユエとシアがティオを連れて唐突に女子会を開くと言い出した。
そろそろ明日の朝にはフューレンに戻るつもりなので、出来ればその準備をしておいてほしいんだが……。
幸利「ハジメ、少しいいか?」
ハジメ「ん?どうしたトシ?」
すると、先程ウィル坊と話していたトシがこちらに来ていた。
真剣な表情でこちらを向くトシは、急に頭を下げて言った。
幸利「頼む、俺も神代魔法の旅に連れて行ってくれ。」
ハジメ「……本気か?別について行くことは構わんが……想像以上にキツいぞ?」
幸利「その程度承知の上だ。それに、どうせ修行に出るなら、スパルタでもお前から教わった方がいいしな。」
ハジメ「ほ~ん?言ったな~?相当キツいから覚悟しとけよ?」
という訳で、トシも俺達の旅に同行することになったのであった。
こうして、我等が魔王は、3人の妻(予定)と親友の宰相(予定)を仲間に加え、再び神代魔法巡りの旅に出た。
次なる地で彼を待つものは、奇跡の様な出会いか,結ばれた絆の再会か、はたまた運命の悪戯か。
一先ず第3章、これにて閉幕です。え?私は誰かって?フッ……ご想像にお任せしよう。
ティオがヴェンリに連れられて、秘密の場所へと向かっていったのを確認したハルガは、戦の終わりとなるであろう場所へと向かっていった。
強靭であった黒鱗がビキビキとひび割れるのにも構わず、磔にされた同胞達の下へと向かう。
そんな中、ティオの下に向かう前に目を交わした、愛する妻オルナからのメッセージが頭に浮かぶ。
――あの子のことを、お願いします。
そこには、母として我が子を最後に抱きしめられない無念が籠っており、同時に愛する夫に「私の命運は、貴方と共にあります」という、一人の女性としての決意表明でもあった。
そんな素晴らしい女性の血を引いた我が娘のことだ、きっと悲願を果たしてくれるであろう。
ハルガは娘の未来をそう予想していた。だから心残りはない筈だったのだ。
――あぁ、死にたくないなぁ。
しかし、それでも思ってしまう。自分の娘が選んだ男は、一体どんな奴なのだろうか、と。
本当なら、目の前に連れてこさせて、一発殴らせてもらいたかった。
その後で酒を酌み交わし、「娘をよろしくお願いいたします」と、オルナ共々お願いして、娘の白無垢姿を目に収めるのが、秘かな夢の一つだった。
でも、きっと大丈夫だろう。あの子は自分とオルナの娘だ、選んだ相手は最高の殿方だろう。
そんな娘の未来を守る為に、ハルガは再び戦場に咆哮を轟かせた。
遥か高みで嘲笑う真の敵に向けて、高らかに宣戦布告する。竜人族の誇り、穢せるものなら穢してみよ、と。
こうして、竜人族は表向きには滅びた様に見えた。そして、ハルガが言った通り、神を討ち倒す存在は現れた。
皮肉にもそれを呼び出したのが神自身であり、その者が前世の記憶を持つ最高最善の魔王だとは、ハルガにもカルトゥスにも、ましてや神本人ですら予想だにしなかったであろう。
アフターの後で異世界旅行(別作品)編をやるとしたら、どの世界が良いでしょうか?
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