Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

72 / 107
あぁ、やっぱり今回もダメだったよ……。(死んではいない)


サイドⅩ(後編):「H」eroine's emergency

"限界突破"は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの3倍の力を得る技能だ。

但し、文字通り限界を突破しているので長時間の使用も常時使用も出来ず、使用した後は使用時間に比例して弱体化してしまう。

酷い倦怠感に襲われ、また本来の力の半分程度しか発揮出来なくなるのだ。

故に、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。

 

光輝は魔物の強力さと回復が可能という事実に、このままでは仲間の士気が下がり押し切られると判断し、"限界突破"を発動して一気に敵を倒そうと決断したのだ。

光輝の"限界突破"の宣言と共に、その体を純白の光が包み込む。

同時にメイスの一撃を弾かれたブルタール擬きが光輝の変化など気にも留めず、再び襲いかかった。

 

光輝「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け──"光刃"!」

光輝はブルタール擬きにより振るわれたメイスを屈んで躱すと、聖剣に光の刃を付加させて下段より一気に切り上げた。

先程も"光刃"を使って袈裟斬りにしたのだが、その時は深手を与えるに留まり戦闘不能にする事は出来なかった。

 

しかし今度は、"限界突破"により3倍に引き上げられたステータスと光の刃の相乗効果もあってか、まるでバターを切り取る様にブルタール擬きの胴体を斜めに両断する事が出来た。

一拍遅れて、ブルタール擬きの胴体が斜めにずれ、ドシャ!という生々しい音と共に崩れ落ちる。

 

光輝は踏み込んだ足をそのままに、一気に加速すると猛然と女魔人族の下へ突進した。

光輝と女魔人族を隔てるものは何もない。いくら魔人族が魔法に優れた種族といえど、今更何をしようとも遅い。このまま、白鴉共々切り裂いて終わりだ。誰もがそう思った。

 

「「「「「グゥルァアアア!!!」」」」」

光輝「なっ!?」

その瞬間、空間の揺らめきが5つ。咆哮を上げながら光輝に襲いかかった。

四方を囲む様に同時攻撃を仕掛けてきたキメラに、光輝は思わず驚愕の声を上げ眼を大きく見開いた。

 

咄嗟に急ブレーキをかけつつ、身を屈め正面からの一撃を避けると同時に右から襲い来るキメラを聖剣の一撃で切り伏せる。

そして、身に纏った聖鎧の性能を信じて、背後からの攻撃を胴体部分で受けて死の凶撃を耐え凌ぐ。

 

だが、出来たのはそこまでだった。

左から迫っていたキメラの爪に肩口を抉られ、その衝撃に吹き飛ばされているところへ包囲の外にいた最後の一体が飛びかかり、両足の爪を光輝の肩に食い込ませて押し倒した。

 

光輝「ぐぅう!!」

食いしばる歯の隙間から苦悶の声を漏らしながら、止めとばかりに首筋へ牙を突き立てようとするキメラの顎門を聖剣で辛うじて防ぐ。

両肩に食い込む爪が顎門を支える力を奪っていき、限界突破中であるにも拘らず上手く力を乗せられず、徐々に押されていく。

 

香織「"焦天"!"封禁"!」

光輝のピンチを見た香織が、すかさず光属性魔法を行使した。

1人用の中級回復魔法"焦天"。先程使った複数人用の回復魔法"回天"より高い効果を発揮する。

しかし光輝の両肩にはキメラの爪が食い込んでおり、このままでは癒す事が出来ない。

 

故に同時発動により、光属性中級捕縛魔法"封禁"を行使する。

"封禁"は対象を中心に、光の檻を作り出して閉じ込める魔法だ。香織は、その魔法を光輝にかけた。

光輝を中心に光の檻が瞬時に展開し、圧し掛かっていたキメラを弾き飛ばす。

両肩から爪が抜けた事により、“焦天”が効果を十全に発揮して瞬時に光輝の傷を癒していった。

 

同時に、鈴達を襲っていたキメラと多足亀の相手をしていた後衛組の何人かが光輝を襲おうとしているキメラ達に向かって攻撃魔法を放った。

ただ、それなりに距離がある事と、香織の"周天"が施されていない為に動いていても見えにくい事から狙いは甘く、大したダメージは与えられなかった。

それでも体勢を立て直す時間は稼げた様で、聖剣を構え直すと治癒されながら唱えていた詠唱を完成させ反撃に出た。

 

光輝「"天翔剣四翼"!」

振るわれた聖剣から曲線を描く光の斬撃が、揺らめく空間四つに飛翔する。

狙われたキメラ達は、"限界突破"により強化された光輝の十八番に危機感を抱いたのか、咄嗟にその場を飛び退いて回避しようとした。

だがそこで、

 

香織「"縛煌鎖"!」

今や香織の十八番となった、光属性捕縛魔法"縛煌鎖"が発動する。

回避しようとしたキメラ達の足元から光の鎖が無数に飛び出し、首、足、胴体に絡みついた。

キメラの力なら引き千切る事も難しくはないが、一瞬動きを止められる事は避けられない。

結果、4体のキメラは光輝の"天翔剣"の直撃を受けて血飛沫を撒き散らしながら絶命する事になった。

光輝は女魔人族に向き直ると、聖剣を突きつけながら睨みつける。

 

光輝「残念だったな。お前の切り札は俺達には通用しなかった。もうお前を守るものは何も無いぞ!」

光輝の言葉を受けた女魔人族は、そんな光輝に怪訝そうな、或いは呆れた様な表情を向けた。

内心「何故今更そんな事を宣言する必要がある?そのまま即行で切りかかればいいじゃない。」と思っていたからだ。

さっさとやれとハジメさんも呆れるであろう、このかっこつけ感である。

 

光輝の方は、追い詰められている筈なのに余裕の態度を崩さない魔人族の女に苛立っていた。

最初のキメラ、次のブルタール擬き、そして今のキメラ。その全てが奇襲であった事も、光輝を苛立たせる原因だ。

「不意打ちばかり仕掛けて正々堂々と戦おうとしない、自分は高みの見物、何て卑怯な奴だ!」と。

ハジメさんが言った「戦争をするという意味」を、この期に及んで光輝は理解していなかった。

 

魔人族(女)「……別に、切り札って訳じゃないんだけど。」

光輝「強がりを!」

魔人族(女)「まぁ、強がりかどうかはコイツ等を撃退してからにしたら?

こっちは"異教の使徒"とやらの力もある程度確認出来たから、本当にもう用はないしね。」

光輝「何を言っ──」

 

綾子「キャアアア!」

女魔人族が面倒そうに髪を掻き上げながらそんな事を言い、それに対して光輝が問い質そうとしたその時、後方から悲鳴が響き渡った。

 

思わず振り返った光輝の目に映ったのは、更に5体のブルタール擬きとキメラ、そして見た事の無い黒い4つ目の狼、背中から4本の触手を生やした体長60cm程の黒猫が一斉に仲間に襲いかかり、辻を庇った野村が黒猫の触手に脇腹を貫かれている光景だった。

 

浩介「健太郎!くそっ、調子に乗るな!」

真央「綾子、しっかりして!まだ回復は間に合うから!」

野村の惨状を見て、遠藤が黒猫の触手をダガーで切り裂き、憤怒の感情を隠しもせずに逆襲に出る。

 

野村が苦悶の声を上げながら崩れ落ちた事に茫然としている辻に、吉野が叱咤の声を張り上げながら回復魔法を促した。

辻は吉野の声にハッと我を取り戻し、丁度遠藤が受けた脇腹の負傷を癒そうと詠唱していた回復魔法を発動する。

 

光輝「なっ、まだあんなに!」

後方を振り返って、いつの間にか現れた大量の新手に光輝が驚愕の声を漏らす。

 

魔人族(女)「キメラの固有魔法"迷彩"は、触れているものにも効果を発揮するのさ。

さっきそこの坊やが警告していただろう?まぁ具体的な戦力までは測れなかっただろうけどさ。

さぁ、そろそろ終幕と行こうか!」

光輝「ッ!?」

 

いきなり現れた大量の魔物に、劣勢を強いられる仲間。それを見て光輝が急いで引き返そうとする。

そんな光輝に、キメラの"迷彩"効果で隠れていただけだとタネ明かしをしながら、更に魔物を嗾ける女魔人族。

彼女の背後から、4つ目狼と黒猫が10体ずつ光輝目掛けて殺到する。

 

光輝「くっ、ぉおおおおおっ!」

黒猫の触手が途轍もない速度で伸長し、四方八方から光輝を襲った。

光輝は聖剣を風車の様に回転させ襲い来る触手の尽くを切り裂き、接近してきた黒猫の1体目掛けて横薙ぎの一撃を放った。

光輝の顔面を狙ったせいか、空中に飛び上がっていた黒猫には避ける術は無い筈だった。

光輝も「先ず一体!」と魔物の絶命を確信していた。

 

しかし次の瞬間、その確信はあっさり覆される。

何と、黒猫が空中を足場に宙返りし、光輝の一撃を避けたのだ。

そしてその体格に似合わない鋭い爪で、光輝の首を狙った一撃を放った。

 

辛うじて頭を振りギリギリで回避した光輝だったが、体勢が崩れた為背後からの4つ目狼による強襲に対応出来ず、鎧の防御力と"限界突破"の影響で深手は負わなかったものの、勢いよく吹き飛ばされ元いた場所辺りまで戻されてしまった。

 

それに合わせて、明らかに逸脱した強さを持つ魔物達が追い詰める様に光輝達を包囲していく。

香織と辻という"治癒師"が二人がかりで味方を治癒し続けているからこそ何とか致命的な戦線の崩壊は避けられているが、状況を打開する決定打を打つ事が出来ない。

 

光輝が"限界突破"の力を以て敵を蹴散らそうとするが、魔物達も光輝に対しては常に5体以上が連携してヒット&アウェイを繰り返し、決して無理をしようとしないので攻めきる事が出来ない。

雫の"無拍子"による高速移動も、速度に優れた黒猫と"先読"の固有能力をもつ4つ目狼の連携により対応され、手傷は負わせても致命傷を与えるには至らない。

 

「やばい……これ、マジでやばいぞ!」

「クソがっ、どうすんだよ!?」

必死に応戦しながらも、次第にクラスメイト達の表情に絶望の影がちらつき始めた。

そしてその感情は、女魔人族の参戦により更に大きくなる。

 

魔人族(女)「地の底に眠りし金眼の蜥蜴、大地が産みし魔眼の主、宿るは暗闇見通し射抜く呪い、齎すは永久不変の闇牢獄。

恐怖も絶望も悲嘆もなく、その眼を以て己が敵の全てを閉じる。残るは終焉、物言わぬ冷たき彫像。

ならば、ものみな砕いて大地に還せ!──"落牢"!」

 

その詠唱が完了した直後、女魔人族の掲げた手に灰色の渦巻く球体が出来上がり、放物線を描いて光輝達の方へ飛来した。

速度は決して早くはない。今の光輝達の中に回避できない者などいない。

一見、何の驚異も感じない攻撃魔法だったが、それを見た先程腹を触手で貫かれた野村が、血を吐きながらも蒼褪めた表情で、焦燥を露わにして叫んだ。

 

健太郎「ッ!?ヤバイッ!谷口ィ!!あれを止めろぉ!バリア系を使え!」

鈴「えぇ!?りょ、了解!ここは聖域なりて、神敵を通さず!──"聖絶"!」

切羽詰った野村の指示に、鈴が詠唱省略した光属性上級防御魔法を発動する。

輝く障壁がドーム状となって光輝達全員を包み込んだ。

尤も、"聖絶"に敵味方の選別機能など無いので、ドーム状の障壁の中には多くの魔物も取り込んでしまっている。

 

"聖絶"は強力な魔法なだけあって消費魔力が大きい。故に、普段ならこんな無意味な使い方はしない。

しかし野村の叫びが女魔人族から放たれた魔法の危険性をこれでもかと伝えていたので、鈴は咄嗟に"聖絶"を選んだのだ。

 

"聖絶"が展開された直後、灰色の渦巻く球体が障壁に衝突した。

灰色の球体、障壁を突破しようと見かけによらない凄まじい威力で圧力をかける。

鈴は突破させてなるものかと、自身の魔力がガリガリと削られていく感覚に歯を食いしばりながら必死に耐えた。

その時、女魔人族から命令でも受けたのか、魔物の動きが変化する。複数体が一斉に鈴を狙い始めたのだ。

 

恵里「鈴!」

健太郎「谷口を守れ!」

恵里が鈴の名を呼びながら魔法を放って接近するブルタール擬きを妨害する。

鈴を中心に恵里とは反対側でキメラや4つ目狼と戦っていた斎藤良樹と近藤礼一が、野村の呼びかけに応えて鈴の傍に駆けつけようとする。

 

が、"聖絶"の維持で動けない鈴に、隙間を縫う様にして黒猫が一気に接近した。

野村が咄嗟に地面から石の槍を射出して串刺しにしようとするが、黒猫は空中でジグザグに跳躍すると身を捻りながら石の槍を躱し、触手を全本射出した。

 

健太郎「谷口ぃ!」

鈴「っぁ!?」

野村が鈴の名を呼んで警告するが、時すでに遅し。

 

触手は咄嗟に身を捻った鈴の腹と太腿、右腕を貫通した。

更に捉えたまま横薙ぎに振るって鈴の小柄な体を猛烈な勢いで投げ捨てた。

鈴は血飛沫を撒き散らしながら、背中から地面に叩きつけられて息を詰まらせる。

そして、呼吸を取り戻すと同時に激痛に耐え兼ねて悲鳴を上げた。

 

鈴「あぁああああああっ!!?!?」

香織「鈴ちゃん!」

恵里「鈴!」

その苦悶の声を聞いて、香織と恵里が思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ。

直ぐ様香織が回復魔法を行使しようと精神を集中するが、それより鈴の施した光り輝く結界が消滅する方が早かった。

 

健太郎「全員、あの球体から離れろぉ!」

野村が焦燥感に満ちた声で警告を発する。だが、鈴の鉄壁を誇った"聖絶"と今の今まで拮抗していた魔法だ。

今更その警告は遅過ぎた。

 

結界が消滅し、勢いよく飛び込んできた灰色の渦巻く球体はそのまま地面に着弾すると、音も無く破裂し猛烈な勢いで灰色の煙を周囲に撒き散らした。

傍には、倒れて痛みに藻掻く鈴と駆けつけようとしていた斎藤と近藤、それに野村。

灰色の煙は一瞬で彼等を包み込む。魔物の影はない。着弾と同時に一斉に距離を取ったからだ。

灰色の煙は尚も広がり、光輝達をも包み込もうとする。

 

光輝「来たれ、風よ!──"風爆"!」

光輝が咄嗟に突風を放つ風属性の魔法で灰色の煙を部屋の外に押し出す。

魔法で作り出された煙だからか、通常のものと違って簡単に吹き飛びはしなかったが、“限界突破”中の光輝の魔法は威力も上がっているので、僅かな拮抗の末迷宮の通路へと排出する事に成功した。

だが、煙が晴れたその先には……

 

「そんな、鈴!」

「野村くん!」

「斎藤!近藤!」

完全に石化し物言わぬ彫像となった斎藤と近藤、下半身を石化された鈴、その鈴に覆い被さった状態で左半身を石化された野村の姿があった。

 

斎藤と近藤は、何が起こったのか分からないという様なポカンとした表情のまま固まっている。

鈴は下半身を石化された事で更なる激痛に襲われた様で、苦悶の表情を浮かべたまま意識を失っていた。

一方鈴を庇いながら、それでも尚一番被害が軽微だった野村だが、やはり激痛に襲われているらしく食いしばった歯の奥から痛みに耐える呻き声が漏れていた。

野村の被害が軽かったのは、彼が"土術師"の天職持ち故に、土属性の魔法に対する高い耐性も持っているからだ。女魔人族が発動した魔法を瞬時に看破したのも、あの魔法が土属性の魔法で、野村も勉強していたからである。

 

土属性上級攻撃魔法"落牢"。石化する灰色の煙を撒き散らす厄介な魔法だ。

ほんの僅かでも触れれば、そこから徐々に侵食され完全に石化してしまう魔法で、対処法としてはバリア系の結界で術の効果が終わるまで耐えるか、煙を強力な魔法で吹き飛ばすしかない。

しかも、バリア系は上級レベルでなければ結界そのものが石化されてしまう上、煙も上級レベルの威力がなければ吹き飛ばす事が出来ないという強力なものだ。

 

光輝「貴様!よくも!」

光輝が仲間の惨状に憤怒の表情を浮かべる。光輝を包む"限界突破"の輝きがより一層眩い光を放ち始めた。

今にも、女魔人族に突貫しそうだ。

だが、そんな光輝をストッパーの雫が声を張り上げて諌める。

 

雫「待ちなさい光輝!撤退するわよ!退路を切り開いて!」

光輝「なっ!?あんな事されて、逃げろっていうのか!」

仲間を傷つけられた事に激しい怒りを抱く光輝は、キッと雫を睨みつけて反論した。

光輝から放たれるプレッシャーが雫にも降り注ぐが、雫は柳に風と受け流し、険しい表情のまま光輝を説得する。

 

雫「聞きなさい!香織ならきっと治せる、でもそれには時間がかかるわ。

治療が遅くなれば、手遅れになる可能性もある。一度引いて態勢を立て直す必要があるのよ!

それに3人欠けた上に、今あんたが飛び出したら、次の攻勢に皆はもう耐えられない!本当に全滅するわよ!」

光輝「ぐっ、だが……!」

雫「それに"限界突破"もそろそろヤバイでしょ?この状況で光輝が弱体化したら、本当に終わりよ!

冷静になりなさい!悔しいのは皆一緒よ!」

 

理路整然とした幼馴染の言葉に、光輝は唇を噛んで逡巡するが、雫が唇の端から血を流している事に気がついて、茹だった頭がスッと冷えるのを感じた。

雫も悔しいのだ。思わず、唇を噛み切ってしまう程に。

大事な仲間を傷つけられて、出来る事なら今すぐ敵をぶっ飛ばしてやりたいのだ。

 

光輝「わかった……全員、撤退するぞ!雫、龍太郎!少しだけ耐えてくれ!」

雫「任せなさい!」

龍太郎「応よ!」

光輝は聖剣を天に突き出す様に構えると、長い詠唱を始めた。

今迄は詠唱時間が長い上に状況の打開にならないので使わなかったが、撤退の為の道を切り開くには丁度いい魔法だ。

 

但し、詠唱中は完全に無防備になるので身の守りを雫と龍太郎に託さねばならない。

それは、光輝が引き受けていた魔物も彼等が相手取らなければならないという事だ。

当然、雫と龍太郎の二人に対応しきれる筈もなく、必死に応戦しながらもかなりの勢いで傷ついていく。

 

魔人族(女)「撤退なんてさせると思うかい?」

そんな事を呟きながら、魔人族の女が光輝達の背後にある通路にも魔物を回し退路を塞いでいく。

そして、何やら詠唱を始めた光輝を標的に自らも魔法を唱え出した。

だがそこで、始めて女魔人族にとって不測の事態が起こる。

 

「「「「「ガァアア!!」」」」」

魔人族(女)「ッ!?何故!」

何と、味方の筈のキメラが5体、女魔人族を襲ったのである。

驚愕に目を見開きながら、咄嗟に放とうとしていた魔法を詠唱省略して即時発動する。

 

高密度の砂塵が女魔人族を中心に渦巻いて刃となり、襲い来るキメラ2体を切り裂いた。

残りのキメラの攻撃は、砂塵に自らを吹き飛ばさせる事で何とか回避する。

女魔人族は「何故アタシを!?」と動揺しながら襲いかかってきたキメラを凝視する。そして気がついた。

どのキメラも体を激しく損壊しているという事に。

 

魔人族(女)「コイツ等……!」

そう。女魔人族が気がついた様に、彼女を襲ったのは光輝に切り捨てられた5体のキメラだったのだ。

絶命した筈のキメラが立ち上がり、生を感じさせない雰囲気で自分を襲ってくるという事態に、女魔人族はとある魔法を思い出し「まさか……!」と呟いた。

 

恵里「これ以上、あなたの好きにはさせない!」

そんな事を叫びながら、手をタクトの様に振るって死体のキメラに女魔人族を包囲させたのは恵里だった。

魔人族(女)「チッ!降霊術の使い手か!ここまでの腕なんて、そんな情報なかったのに!」

女魔人族は光輝達を待ち伏せる上で、一応事前調査を行っていた。

その中で唯一、降霊術などと言う超高難度魔法を使える恵里が、その魔法を自在に扱えるなどという情報は無かった為、完全に予想外の事態だった。

 

恵里が実力を敢えて隠す為、魔物を盾代わりにしか使わず、他の攻撃魔法を頻繁に使っていた事が、ここに来ていい方向に働いた様だ。

恵里は「邪魔はさせない!」とでも言う様に強い眼差しで女魔人族を睨むと、初めて同時に魔物を操るとは思えない程、巧みにキメラ達を操り、女魔人族を倒すというより時間を稼ぐ様に立ち回った。

 

香織「鈴ちゃん頑張って!絶対に治してみせるから!」

その間に香織が鈴に向かって"焦天"と"万天"を行使する。

メンバーの中で一番危険な状態なのは鈴だった為、先ずは鈴に集中して治す事にしたのだ。

"万天"は光属性の中級回復魔法の内、状態異常を解除する魔法だ。

 

しかし石化の魔法はかなり強力な魔法の様で、解除は遅々としている。

腹と腕に空いた穴は直ぐに塞がったが、流した血の量は既に相当なものだ。今すぐ安静が必要な重体である。

石化が解けた瞬間に改めて足の穴も塞がなければならない。

 

左半身が石化している野村には、辻がついて状態異常の解除に勤しんでいた。

辻の回復魔法適性が高い事もあるが、野村の土属性魔法に対する耐性が高い事も相まって、かなりの速度で解除が進んでいる。

既に足の石化は解除出来ていた。

 

しかし、それでも白杖を振るう香織をチラリと見やって辻は唇を噛んだ。

同じ"治癒師"なのに、術者としての技量は明らかに香織の方が上だった。

香織は野村より遥かに重傷の鈴を魔法の同時行使で治癒しながら、更に光輝を守って戦う雫や龍太郎にも回復魔法をかけつつ、"縛光刃"や"縛煌鎖"を操って援護すらしているのである。

辻には、とても真似できない芸当だ。

 

綾子(白崎さん……凄すぎるよ。それに比べて私は……っ、今はそんな場合じゃない!)

辻はこんな状況で十全に味方を癒せない事が悔しくて、同時にとても情けなかった。

そんな唇を噛み締めながら必死に自分を治癒してくれている辻を見て、野村は何か言いたげな表情をしたが、今はそんな場合ではないと思い直し痛みを堪えながらブツブツと詠唱を紡ぎ出した。

 

自戦力の減少と光輝の戦闘中断により、相対する魔物が多すぎて満身創痍になりつつある檜山と中野、それに永山と浩介、恵里は2人の治癒師を守りながら、限界が近い事を悟っていた。

このまま行けば数分で自分達は力尽きると。

 

光輝の聖剣に集まる輝きがなければ、今にも泣きそうな中野あたりはパニックになって自殺行為に走っていたかもしれない。

そうして、誰もが今か今かと待っていたその時は……遂に訪れた。

 

光輝「行くぞ!──"天落流雨"!」

光輝の掲げた聖剣から一条の閃光が打ち上げられたかと思うと、その光は天井付近で破裂するように飛び散り周囲の魔物達に流星の如く降り注いだ。

 

この"天落流雨"は、敵の直上からピンポイントで複数同時に攻撃するという光属性の攻撃魔法だ。

威力は分散している為そこまで高くはなく、本来は多数の雑魚敵掃討に用いるものだが、それでも"限界突破"中に使えば、50階層クラスの魔物位なら十分効果を発揮する爆撃の様な魔法である。

ただやはり、異常な強さを持つ女魔人族の魔物達には然程ダメージにならなかった様で、精々吹き飛ばして仲間達から引き離すくらいの効果しか発揮しなかった。

 

だが、光輝にとってはそれで十分だった。隙を作り、仲間が撤退出来る状況を作る事ができればそれでよかったのだ。

女魔人族の方は、まだ恵里が操るキメラに手間取っている。

光輝はそれを確認すると、馬鹿みたいに詠唱の長いこの魔法の本領を発揮させた。

 

光輝「──"集束"!」

天より降り注ぎ魔物達を一時的に後退させた光の雨は、光輝の詠唱によって再び聖剣に収束していく。

流星が尾を引いて一点に集まる光景は中々に幻想的だった。

光輝は収束させた光を纏って輝く聖剣を、真っ直ぐ退路となる通路とその前に陣取る魔物達に向けて突き出し、裂帛の気合と共に一連の魔法の最後のトリガーを引いた。

 

光輝「──"天爪流雨"!」

直後、突き出された聖剣から無数の流星が砲撃の如く撃ち放たれる。同じ砲撃でも光輝の切り札である"神威"には遠く及ばない威力であり、当然退路を塞ぐ魔物達を一掃する事など叶わない。

本来なら"神威"を使いたいところだが、詠唱が長すぎてとても盾となってくれている雫と龍太郎が保つとは思えなかったので仕方ない。

 

しかしそれでも、"天爪流雨"は今の状況では最適の手だった。

流星となって退路上の魔物達に直進した光の奔流は、着弾と同時に無数の爆発を引き起こした。

砲撃を構成する無数の光弾がクラスター爆弾の様に破裂したのだ。

それによって衝撃が連続して発生し、魔物達は体勢を崩され大きく吹き飛ばされた。

 

「「「「ガァアアア!!」」」」

魔物達がきつく目を閉じたまま悲鳴を上げる。"天爪流雨"の副次効果、閃光による視覚へのダメージだ。

間近で発生した強烈な光によって眼を灼かれたのである。

混乱した様に目元を手で擦りながら、闇雲に暴れる魔物達。

彼等は既に、退路上にはいない。通路に向かって一直線に道が開かれた。

 

光輝「今だ!撤退するぞ!」

光輝の号令で全員が一斉に動き出す。

石化している近藤と斎藤は永山が一人で肩に担ぎ、気絶している鈴は浩介が背負った。

野村はまだ左腕が石化したままだったが、激痛を堪えながらも自力で立ち上がり、通路に向かって走り始める。

 

魔人族(女)「チッ!逃がすな!一斉にかかりな!」

魔人族の女が残り2体のキメラを相手取りながら、無事な魔物達にそう命令する。

魔物達はその命令に忠実に従い、即座に追撃に移った。

キメラといい4つ目狼といい黒猫といい足の早い魔物が多く、光輝達が引き離した距離は瞬く間に詰められていく。

と、そこで野村が身を翻し、痛みに顔をしかめながらも不敵な笑みを浮かべて右手を突き出した。

 

健太郎「土系統で負けるわけにゃあ行かねぇんだよ!お返しだ!──"落牢"!」

先程の女魔人族と同じく、灰色の渦巻く球体が野村の手より放たれる。

石化の煙を孕んだ魔法球が迫り来る魔物達の手前に着弾した。

先程の女魔人族の"落牢"が放たれた時、女魔人族が何も言わなくても魔物達は即座に距離をとっていた。

なので野村は、この魔法の危険性を教え込まれているのではないかと考え、撤退時の追撃に備えて詠唱しておいたのだ。

 

野村のその推測は正しかった。灰色の球体が放たれた瞬間、突進して来ていた魔物達が一斉に急ブレーキをかけて、その場を飛び退き距離を取り始めたのだ。

同時に、煙は煙幕にもなって撤退する光輝達の姿を隠した。

それに合わせて、浩介が魔力の残滓や臭い等の痕跡を魔法で消していく。"暗殺者"の派生技能の一つ、"隠蔽"だ。

 

既に後方で小さくなった部屋の入口から、気のせいか悔しそうな魔物達の咆哮が響いた。

光輝達は、ボロボロの体と目を覚まさない仲間に悔しさ半分、生き残った嬉しさ半分の気持ちで口数少なく逃げ続けた。

 

香織(……ハジメ君、助けて……!)

そんな最中、香織は胸元にかけたスイッチ式念話石を起動させながら、想い人の助けを願う。

果たしてその祈りが届いたのか、地上では既に魔王様一行(逆転のジョーカー)が、ホルアドを訪れていた。

2人の再会の時は近い!




次回、ハジメが来たぁ!何故原作よりも早いのかって!?
何故なら、ハジメさんは最高最善の魔王、オーマジオウなのだからぁ!

アフターの後で異世界旅行(別作品)編をやるとしたら、どの世界が良いでしょうか?

  • FGO
  • IS
  • SAO
  • Onepiece
  • 鬼滅の刃
  • 呪術廻戦
  • このすば
  • ハイスクールD×D
  • 銀魂
  • ヒロアカ
  • ブルーアーカイブ
  • アズールレーン
  • 原神
  • リリカルなのは
  • ネプテューヌ
  • カービィ
  • 転スラ
  • ダンまち
  • まどマギ
  • その他(活動報告欄へ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。