Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

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ホルアド現着ゥ!今回はギルドの前に救出です!それでは、どうぞ!


00:52/緊・急・事・態

シア「ヒャッハー!ですぅ!」

左手側の【ライセン大峡谷】と右手側の雄大な草原に挟まれながら、シュタイフとブリーゼが太陽を背に西へと疾走する。

街道の砂埃を巻き上げながらそれでも道に沿って進むブリーゼと異なり、シアの乗るシュタイフの方は峡谷側の荒地や草原を行ったり来たりしながらご機嫌な様子で爆走していた。

 

ハジメ「どこの世紀末だ……ミュウの教育に悪いでしょうが。」

ユエ「……ん、とっても楽しそう。」

そんなシアを見て俺は、ブリーゼの運転席でハンドルを握りながら呆れた様な表情で呟いた。

隣の助手席に座るユエは、まるでやんちゃな子供を見守る母親のように、微笑んでいた。

 

まぁ、元々シアは、バイクの風を切って走る感じがとても気に入っていたらしく、人数が多くなった以上、これから先はシュタイフでの移動も少なくなりそうなので、今回で暫し見納めという形で運転させてあげたのだ。

なんでも、窓から顔を出して風を感じる事は出来るが、やはり何とも物足りないらしく、隣の席もローテーションなのでくっつけないから、というのが理由らしい。

 

元々特別な技術や操作が必要ではない為シアにとっては大して難しいものでもなく、ウルに行く時の経験もあって、あっという間に乗りこなしてしまった。

そして、その魅力に取り憑かれたのである。

今も奇声を発しながら右に左にと走り回り、ドリフトしてみたりウィリーしてみたり、その他ジャックナイフやバックライドなどプロのエクストリームバイクスタント顔負けの技を披露している。

 

シアのウサミミが「ヘイヘイ、どうだい私のテクは?」とでも言う様にちょっと生意気な感じで時折こちらを向くのが、微笑ましいが地味にイラッとくる。

偶に乗り物に乗ると性格が豹変する人種がいるが、シアもその類なのかもしれない。

 

ミュウ「パパ!パパ!ミュウもあれやりたいの!」

すると、シアに触発されたのか、窓から顔を出して気持ちよさそうにしていたミュウが、ユエの膝の上で大きな瞳をキラキラさせると、ハンドルを握りながら逆立ちし始めたシアを指差し、おねだりしてきた。

 

ハジメ「ミュウ、今度乗せてもいいけど……シアの真似はしちゃダメだよ?後、シアと乗るのも禁止ね。」

ミュウ「みゅ?シアお姉ちゃんはダメなの?」

ハジメ「当然だよ、特に理由もなく変なポーズで曲芸運転なんて危険すぎるからね。

それで大丈夫なのは、身体強化が得意なシア位だし……見てないところでも駄目だからね?」

 

ミュウにそういって釘を刺した俺は、シュタイフのハンドルの上に立ち、右手の五指を広げた状態で顔を隠しながら左手を下げ僅かに肩を上げるという、どっかの星の一族みたく奇妙なポーズでアメリカンな笑い声を上げるシアにジト目を送った。

俺はって?俺はあんなふざけた方法の運転はしない。

 

ハジメ「先ずはライドシューターみたいなタイプから慣れさせるか……

その次はサイドバッシャーにチャイルドシートを付ければ良いか?となると、材料がな……。」ブツブツ

幸利「早速過保護モードに入ったな……ミュウちゃん、バイクに乗る時はお父さんに必ず相談しような?」

ミュウ「?はいなの?」

ティオ「子煩悩じゃな~……エリセンで子離れが出来るのかの?」

トシとティオがなんか言っているが、聞こえない。

 

トネリコ「この乗り物と言い、あちらのバイクと言い、ハジメさんの技術力は凄いですね……

他にもあるのでしょうか?」

ユエ「……ん、水の中を進む船もある。」

幸利「潜水艇もあるのかよ……。」

そんな会話をBGMに、とうとう走行中のストライカーの後部に捕まって地面を直接滑り始めたシアと並走しながら、俺達は【宿場町ホルアド】に近づきつつあった。

 


 

久しぶりにホルアドに到着した俺は、皆を連れて懐かしげに目を細めながら、【ホルアド】のギルドを目指して町のメインストリートを歩いていた。

今回は、香織達に会いに行く序に、イルワ支部長からの頼み事でやってきたのだ。

 

――ハジメ君、助けて!

 

ハジメ「ッ!?」

ミュウ「パパ?どうしたの?」

その時だった、香織と雫に預けておいた念話石から、急を告げるような言葉が聞こえてきたのは。

声色から察するに、相当ピンチの様だ。やはり魔人族が仕掛けてきやがったか……!

 

ハジメ「……どうやら、迷宮組が緊急事態だ。」

シア「!それって……!」

ハジメ「あぁ、急ごう、オルクスへ!」

 

そう言って俺達は走り出し、全員でオルクス迷宮に入った。

取り敢えず念話石で呼びかけながら、魔物どもを蹴散らしつつ、突き進む。

そして、20階から65階へ転移した辺りで、返事があった。

 

――ハジメ、なのか……!?

 

ハジメ「!この声は……浩介か!」

幸利「えっ!?遠藤がか!?」

ユエ・シア・ティオ・ミュウ・トネリコ(((((……誰?)))))

どうやら、2人に預けておいた内の片方を、浩介に持たせていたようだ。

 

ハジメ「浩介!今、何層にいる!?65層に近い場所か!?」

浩介『!やっぱりハジメなんだな!?今どこに――』

ハジメ「質問を質問で返すな!早く場所を言え!香織達は無事なんだろうな!?」

浩介『うわわっ!?い、今70層に向かっている!早く来てくれ!このままだと皆が……!』

70層か、じゃあ軽めのパイルで行くか!

 

ハジメ「わかった、すぐ行くから待ってろ!皆、ちょっとぶっ放すから少し離れて!」

そう言ってベヒモスをぶっ飛ばしつつ、65層の床にパイルバンカーをセットする。

ユエ達も俺がやろうとしていることを察し、背後のトラウムソルジャーを蹴散らしていく。

 

ハジメ「行くぞぉ!!」

そして、パイルバンカーで迷宮の床に風穴を開けると、俺達は周囲の魔物を蹴散らし、一斉に飛び込んだ。

待っていれくれよ、皆!

 


 

場所は89層の最奥付近の部屋。

その正八角形の大きな部屋には4つの入口がある。

しかし現在は、そのうちの2つの入口の間にもう一つ通路が存在しており、奥には10畳程の大きさの隠し部屋があった。

入口は上手くカモフラージュされて閉じられている。

 

そこでは、光輝達が思い思いに身を投げ出し休息をとっていた。尤も、その表情は一様に暗い。

深く沈んだ表情で顔を俯かせる者ばかりだ。満身創痍であるが故に、苦痛に表情を歪めている者も多い。

いつもならそのカリスマを以て皆を鼓舞する光輝も、"限界突破"の副作用により全身を酷い倦怠感に襲われており、壁に背を預けたまま口を真一文字に結んで黙り込んでいる。

 

そしてこういう時、いい意味で空気を読まず場を盛り上げてくれるクラス一のムードメーカーは、血の気の引いた青白い顔でやはり苦痛に眉根を寄せながら荒い息を吐いて眠ったままだった。

その事実も、光輝達が顔を俯かせる理由の一つだろう。

 

鈴の下半身は膝から下がまだ石化しており、香織が継続して治療に当たっていた。

太腿の貫通痕は既に完治している。後は石化を解除するだけだ。

しかし運悪く、鈴が受けた触手の攻撃は彼女の体から大量の血を失わせた。

恐らく重要な血管を損傷したのだろう、香織だからこそ治療が間に合ったと言える。

 

尤も、いくら香織でも鈴が失った大量の血を直ぐ様補充する事は出来ない。

精々、異世界製増血薬を飲ませるくらいが限界だ。なので、鈴の体調が直ぐに戻るという事は無いだろう。

どうしても安静が必要だった。

 

香織が鈴にかかりきりになっているため、他の者はまだ治療を受けていない。

当然、オブジェの如く置かれている斎藤と近藤の石化した彫像もそのままだ。

鈴の治療が終わっても次は彼等の番なので、自分達が治療を受けられるのはまだ先であると分かっているメンバーは極一部を除いて特に文句を言う素振りはない。

単にその気力もないだけかもしれないが。

 

薄暗い即席の空間に漂う重苦しい空気に、何とか仲間を鼓舞しなければと雫が眉間に皺を寄せながら頭を捻る。

元来、雫はどちらかと言えば寡黙な方なので、鈴の様に場を和ませるのは苦手だ。

しかし光輝が"限界突破"と敗戦の影響で弱体化して使い物にならない以上、自分が何とかしなければならないだろうと生来の面倒見の良さから考えているのだ。実に苦労人思考である。

 

尤も雫自身、肉体的にも精神的にも限界が近い事に変わりない。

その為段々頭を捻るのも面倒になってきた雫が、もういっその事空気を読まずに玉砕覚悟の一発ギャグでもかましてやろうかとちょっと壊れ気味な事を考えていると、即席通路の奥から野村と辻が話をしながら現れた。

 

健太郎「ふぅ、何とか上手くカモフラージュ出来たと思う。

流石にあんな繊細な魔法行使なんてした事無いから疲れたよ。……もう限界。」

綾子「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いだものね。

……一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ。お疲れ様。」

健太郎「そっちこそ、石化を完全に解くのは骨が折れたろ?お疲れ様。」

 

2人の会話から分かる様に、この空間を作成し入口を周囲の壁と比べて違和感が無い様にカモフラージュしたのは野村だった。

"土術師"は土系統の魔法に対して高い適性を持つが、土属性の魔法は基本的に地面を直接操る魔法であり、"錬成"の様に加工や造形の様な繊細な作業は出来ない。

 

例えば地面を爆ぜさせたり、地中の岩を飛ばしたり。

土を集束させて槍状の棘にして飛ばしたり、砂塵を操ったり。

上級になれば石化やゴーレム(自立性の無い完全な人形)を扱える様になるが、様々な鉱物を分離したり掛け合わせたりして物を作り出す様な事は出来ないのだ。

 

なので、手持ちの魔法陣で大雑把に壁に穴を開ける事は出来るが、周囲と比べて違和感のない壁を"造形"する事は完全に領分外であり、野村は一から魔法陣を構築しなければならなかったのである。

尚、辻が野村について行ったのは、野村の石化したままだった腕を治療する為だ。

 

雫「お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうね。」

健太郎「……だといいんだけど。もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。

浩介の方は……あっちも祈るしかないか。」

重吾「……浩介なら大丈夫だ。影の薄さでは誰にも負けない。」

健太郎「いや、重吾。それ、聞いてるだけで悲しくなるから口にしてやるなよ……。」

 

隠れ家の安全性が増したという話に、沈んだ空気が僅かに和らいだ気がして、とんだ黒歴史を作りそうになった雫は頬を綻ばせて野村を労った。

それに対して野村は苦笑いしながら、今はここにいないもう一人の親友の健闘を祈って遠い目をする。

 

そう。今この場所には、浩介がいないのである。

浩介はたった1人、仲間の下を離れてメルド団長達に事の次第を伝えに行ったのだ。

本来なら、いくら異世界から召喚されたチートの一人でも、80台の階層を単独で走破するなど自殺行為だ。*1

光輝達が少し余裕をもって攻略できたのも、15人という仲間と連携して来たからである。

しかしただ1人。浩介だけは、裏技とも言うべき彼にしか出来ない方法で走破出来る可能性があった。

 

そう。

特に口下手な訳でも暗い訳でもなく、誰とでも気さくに話せるごく普通の男子高校生なのに、いつの間にか誰もがその姿を見失い、「あれ?アイツどこいった?」と周囲を意識して見渡すと、実はすぐ横にいて驚かせるという、本人が全く意図しない神出鬼没スキルを地球にいた頃から発揮していた浩介なら、「影の薄さでは世界一ぃ!」と胸を張れそうなあの男なら、ハジメですら5分の割合で見失うという驚異の気配遮断技術を持つ彼であれば、"隠形"技能をフル活用して、魔物達に見つからずメルド団長達のいる70階層に辿り着ける可能性があったのだ。

 

しかも、この世界で技能や魔法に目覚めてから、浩介の影の薄さには磨きがかかっている。

現在の才能の上に鍛え上げられた影の薄さなら、大迷宮の魔物だって「あれ?今誰か通ったっけ?」と見逃す筈。そう考えて、光輝達は浩介を送り出したのである。

別れる時、浩介は少し涙目だったが……。

 

きっと、仲間を置いて一人撤退する事に忸怩たるものがあったに違いない。

例え説得の言葉として「お前の影の薄さなら鋭敏な感覚を持つ魔物だって気づかない!」とか、「影の薄さで誰がお前に勝てるんだ!」とか、「私なんてこの前、遠藤君の名前だって直ぐに出てこなかったんだよ!絶対に大丈夫!」とか、「俺なんか、昨日もお前の事忘れてたぜ!」等と仲間から口々に言われたからではない筈だ。

 

本当なら、光輝達も直ぐにもっと浅い階層まで撤退したかったのだが、如何せんそれを為すだけの余力が無かった。

満身創痍のメンバーに、戦闘不能が3人、弱体化中の光輝……とても80台の階層を突破出来るとは思えなかったのだ。

 

勿論、メルド団長達が救援に来られるとは思っていない。

メルド団長を含め70層で拠点を築ける実力を持つのは6人。

彼等を中心にして、次ぐ実力をもつ騎士団員やギルドの高ランク冒険者達の助力を得て、安全マージンを考えないという条件付きなら70台階層の後半位迄は来れるだろうが、それ以上は無理だ。

仮にそこまで来てくれたとしても、80台階層は光輝達が自力で突破しなければならない。

 

つまり、浩介を1人行かせたのは救援を呼ぶ為では無く、自分達の現状と魔人族が率いる魔物の情報を伝える為なのだ。

光輝達は確かに聖教教会の教皇イシュタル等から魔人族が魔物を多数、それも洗脳など既存の方法では無く明確な意志を持たせて使役するという話を聞いていたが、あれ程強力な魔物とは聞いていなかった。

驚異なのは個体の強さではなく"数"だった筈なのだ。

 

にも拘らず、実際魔人族が率いていたのは前人未到の【オルクス大迷宮】90階層レベルの魔物を苦もなく一掃し、光輝達チート持ちを圧倒出来る魔物達だった。

そんな事が抑々可能なら、もっと早く人間族は滅ぼされていてもおかしくない。

 

つまりイシュタルの情報は、あの時点では間違っていなかったのであり、結論としては魔人族の率いる魔物は、"強力になっている"という事だ。

"数"に加えて個体の"強さ"も脅威となった。この情報は、何が何でも確実に伝えなければならないと光輝達は判断したのである。

 

雫(……こんな時、彼がいてくれたら。)

そんな状況下でふと、雫の頭に浮かんだのは、先日オルクスを制覇して再会に来た同級生でもあり、雫にとってのおu……幼馴染でもある、彼の姿だった。

 

先程、浩介に自分の念話石を持たせて、少しでも彼に気づいてもらえるようにしたものの、ハジメが必ずここに来るという確証もないのだ。

そんなこともあり、雫の中でも不安が生まれつつあった。

尤も、彼女の希望通り、既にハジメさんは仲間と共にオルクスに突入済みではあるのだが……

彼女がそれを知るにはもう少し時間がかかるだろう。

 

綾子「白崎さん、近藤君と斉藤君の石化解除は任せるね。私じゃあ時間がかかりすぎるから。

代わりに他の皆の治癒は私がするからさ。」

香織「うん、わかった。無理しないでね、辻さん。」

綾子「平気平気。というかそれはこっちのセリフだって……ごめんね。

私がもっと出来れば、白崎さんの負担も減らせるのに……。」

 

野村達が話している傍らで、魔力回復薬をゴクゴクと喉を鳴らしながら服用する辻が鈴の治療を続ける香織にそんな事を言った。

同じ"治癒師"でありながら、香織と比べると大きく技量の劣る辻は、表面上は何でもない様に装っているが、内心では自分への情けなさと香織にばかり負担をかける事への申し訳無さでいっぱいだった。

 

「そんな事はない」と首を振る香織に苦笑いを返しながら、仲間の治療に向かう辻。

彼女の治療により癒されていく仲間達の顔からは少しだけ暗さが消えた。

そんな辻を、何とも言えない表情で見つめている野村だったが、治療の邪魔になるかと思い声はかけなかった。

 

重吾「……こんな状況だ、伝えたい事があるなら伝えておけ。」

健太郎「……うっせぇよ。」

永山がどこか面白がる様な表情で野村にそんな事をいうが、本人は不貞腐れた様に顔を背けるだけだった。

それから数十時間。光輝達は、交代で仮眠を取りながら少しずつ体と心を癒していった。

 


 

一方、1人撤退と魔人族の情報伝達を託された浩介は、ただの一度も戦闘をせず全ての魔物をやり過ごしながらメルド団長達のいる70階層を目指して着実に歩みを進めていた。

80台階層で魔物に気づかれれば、一対一ならどうにかなるが複数体ならアウトだ。

その為できる限り急ぎつつ、それでも細心の注意を払って進んでいた。

そのお陰で、今も魔物が眼前を通り過ぎていくのを見送る事が出来た。

 

魔物が完全に見えなくなった後、浩介は張り付いていた天井からスタッと地に降り立った。

"隠形"を最大限に生かす為の全身黒装束姿は、正に"暗殺者"だ。

きっと先程眼前を通り過ぎた魔物も、天井から奇襲をかければ気づかせる事無く相当深いダメージを与えられただろう。

内心、「……少しくらい、気配を感じてくれてもいいんだよ?」とか思っていない。

全く気付かずに通り過ぎた魔物を見て、目の端に光るものが溢れたりもしていない。断じて。

 

浩介「急がないと……。」

浩介は、自分が課せられた役割を理解している。

そして光輝達が、情報の伝達以外にもそのまま生き延びろという意味合いを含めて送り出してくれた事も察していた。

永山と野村の「戻ってくるなよ」という想いは、言葉に出さずとも伝わっていたのだ。

 

だがそれでも。役目を果たした後、遠藤は光輝達の下に戻るつもりだった。

何と言われようと、このまま自分だけ安全圏に逃げて、のうのうとしている事など出来なかったのだ。

 

――香織!雫!誰でもいい!返事をしてくれ!

 

浩介「!?」

その時、どこからか聞き覚えのある声が、浩介の耳に入った。

発生源は何処かと探ってみると、自分の懐だった。

そこに入っていたのは、何故か雫が秘密裏に持たせてきた、魔法陣が描かれたスライド式の石板付きの、乳白色の石だった。

 

浩介「い、今ここから……?」

渡された際、雫は「もしかしたら、これが役に立つかもしれないわ。」と言ってきたが、まさかそれが今とは夢にも思わないだろう。

 

だが同時に、もしかしたらという希望もあった。何故なら、その声の主について、浩介は良く知っていたからだ。

それも、4か月前に死んだと思われていた、自分の友人であれば猶更だ。

疑惑が確信に変わった浩介は、石板を動かして魔法陣を完成させると、それに触れて聞き返した。

 

浩介「ハジメ、なのか……!?」

すると、向こうも何やら騒がしくなったかと思えば、先程の声の主から返答が帰ってきた。

ハジメ『浩介!今、何層にいる!?65層に近い場所か!?』

そう、その声は間違いなく、中学の時に出会った友人――南雲ハジメのものだった。

 

浩介「!やっぱりハジメなんだな!?今どこに『質問を質問で返すな!早く場所を言え!香織達は無事なんだろうな!?』うわわっ!?い、今70層に向かっている!早く来てくれ!このままだと皆が……!」

慌てながらも浩介が今いる場所を伝えると、ハジメは「すぐ行く!」と返事して切ってしまった。

 

浩介「本当に来てくれたのか……俺も急がないと!」

僅かながらも希望が湧いた浩介は、自分に気が付かない魔物への若干の虚しさすらも放り出し、頭に叩き込んである帰還ルートを辿って遂に70階層に辿り着いた。

 

逸る気持ちを抑えながら、メルド団長達が拠点を構える転移陣のある部屋に向かう。

暫くすると、遠藤の気配感知に6人分の気配が感知された。間違いなくメルド団長達だ。

"隠形"を解いたので、距離的に向こうも気づいた筈である。と、そんな時だった。

 

ズガガガガァァァン!!!

 

浩介「うわぁっ!?」

突如、凄まじい程の振動が迷宮を揺らしたかと思えば、浩介の後方の通路の天井に穴が開き、何かが突き刺さった。

あまりの衝撃に浩介は、思わず曲がり角から飛び出した。

 

メルド「うおっ!?何だ!?敵襲かっ!?」

同時に、角の向こう側にいたメルドがそんな事を言いながら剣を抜いて飛び退り、警戒心たっぷりに周囲を見渡した。

他の騎士達も、一様にビクッと体を震わせて戦闘態勢に入っている。

 

浩介「ま、まさかッ!もう追いついて……!?」

地面に尻餅を付いていた浩介は顔を蒼褪めさせて呟く。

もう既に、例の魔人族はすぐそこまで迫って来ていたようだ。ここまでか、そう思い煙の中に目を凝らせば……

 

ハジメ「……着いた、のか?」

今まさに、希望が空からやって来た。

*1
ハジメさん?あんなの例外だよ例外。




時代は、空だ。というわけで次回、ハジメさんによる蹂躙劇の開幕です!

アフターの後で異世界旅行(別作品)編をやるとしたら、どの世界が良いでしょうか?

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