Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
さて、前回飲み込まれてしまったハジメさんたちはどうなってしまったのやら……。
レミア「ぅ、う、ここは……?」
頭をふるふると振って、レミアは目を覚ました。
何が起きたのかさっぱり分からず呆然とするが、それも一瞬のこと。
意識を失う前、確かに抱きしめた筈の娘の温もりが無いことに気が付くや否や、血の気の引く音を自覚する余裕もなく跳ね起きた。
レミア「ミュウ!ミュウどこなの!?返事をして!ママはここよ!」
彼女の絶叫の様な呼び掛けが木霊する。だが、愛しい娘の声は……返ってこない。
周囲を見回すも、ハジメ達の姿すらない。猛烈な不安が込み上げた。
まるで心の奥底に氷塊を投げ込まれたようで、手足の先から凍えていくような気さえする。
二度と、もう二度と離れないと、そう誓った娘が傍にいない。それは、レミアにとって決して許容できないこと。
娘がまた辛い目にあっているのではと思うと、胸が張り裂けそうになる。
レミア「……大丈夫。大丈夫よ。ハジメさん達もいるわ。だから大丈夫。」
しっかりしなさいっと、己を叱咤する。焦燥と悲観に囚われかけたレミアの瞳が、光を取り戻す。
一度、深呼吸をすれば幾分か落ち着きも取り戻す。
今度はゆっくりと周囲を見回す。視界に映るのは、ひび割れた石畳の道と半ば崩れた建物のみ。
どうやら、どこぞの町の裏路地辺りにでも放り出されたようだ。
とにかくミュウを捜さなければと、レミアは裏路地から抜け出した。
出てきたのは、どうやらメインストリートらしい。
幅20mはあり、見たこともないような大きな建物が並んでいる。
真っすぐ延びた道の一方は果てしなく、地平線が見えるほど。
逆方面の先には、目測で3km位の位置に巨大な城と天を衝くような円柱形の塔が見えた。
凄まじい跳躍力も、空を飛ぶ術も持たないレミアに、この場所の全体像を把握することは難しかったが、それでも、見えている範囲だけで、相当な技術力を有する巨大都市
そう、過去形だ。この都市、どこもかしこも見るに無惨に荒れ果て、酷く朽ちているのである。
周囲の建物も、どう見ても廃墟ばかり。人の気配も、まるでなし。
それどころか、上を見上げれば稲光が走る暗雲が広がっていて世紀末を彷彿とさせる荒れ具合。
都全体も黒い霧のようなものでうっすらと覆われていて、空気そのものが澱んでいるかのよう。
酷く不気味で、まるで人がいてはいけない領域に、踏み込んでしまったかのようにも感じる。
レミア「ここは、どこなのかしら……?」
海底に引き込まれた筈なのにと、わざと疑問を口に出して、纏わりついてくるような不気味さを誤魔化す。
キッと、誰もいない都を睨むようにしてレミアは走り出した。
レミア「ミュウ!ママよ!どこにいるの!返事をして!」
何度も何度も呼びかけながら、周囲に視線を巡らせる。
荒れ果てた道には瓦礫や亀裂が無数にあって、しっかりとした靴を履く習慣のない海人族にとっては非常に危険な道のりだ。
まして、娘を捜して足下などちっとも気にしていない今のレミアにとっては。
レミア「――ッ!」
案の定、防御力皆無のサンダルは、尖った瓦礫の角にぶつかった瞬間、早々に限界を迎えて紐を引き千切られてしまった。
レミアのほっそりとした素足に、一筋の血が流れる。
最早、つま先に引っかかっているだけの足枷となってしまったサンダルを、レミアは躊躇いなく脱ぎ捨てた。
そのまま構うことなく、裸足で娘を探し続ける。
あっという間に傷だらけになっていくが、足は一瞬も止まらない。
ただただ、必死に、世界で一番大切な存在を探し続けて声を張り上げた。
だが、娘を求める母の呼び声は……
レミア「え?……どちら様、でしょうか?」
別の、何か良からぬ者を呼び寄せてしまったらしい。いつの間にか、レミアの前方にいた。
否、人らしき"何か"だ。
一見すると黒いローブを頭からすっぽりと被った人に見えるが、顔の部分が不自然に暗く、口元すら全く見えない。
そのローブに見えるものも普通ではない。まるで流体だ。
敢えて言うなら黒々としたタールが纏わり付いている……という感じだが、なんとも表現し難い。
何より、レミアの本能がけたたましい程に警鐘を鳴らしていた。
あれはいけない。あれとは決して相容れない。今すぐ!全力で逃げろ!と。
けれど、この誰もいないゴーストタウンで初めて遭遇した存在であるが故に、"その可能性"が足を止めさせてしまう。
そう、"娘のことを知っているのではないか"という可能性が。
娘を思う母の強さが、本能をねじ伏せてしまった結果は……
レミア「あ、あの……小さな女の子を――」
見なかったでしょうか?と尋ねきる前に、おぞましい黒ローブにさざ波が走った。
かと思えば次の瞬間、うねりながら立ち上り、凝縮され、形を成した。禍々しい巨大な鎌の形に。
ずるりっと、黒ローブが迫る。その姿は、まるで伝承にある死神のよう。
レミアは顔面蒼白となって後退り、瓦礫に躓いて尻餅をついた。
人の生存本能を塗り潰すような殺意に覆われて、悲鳴すら上げられない。視線も逸らせない。
レミア(ミュウを捜さないとっ。母親でしょう!しっかりして!立ち上がって!)
けれど、心の中でだけは、何度も何度も自分を叱咤する。
生まれてこの方経験したことのない圧倒的な殺意を向けられて、体は凍り付いたみたいに言うことを聞かなくても諦めはしない。
諦められるわけがないのだ。
だから、震えながらも、レミアは振りかぶられた
ゴォッ!!!!!
その瞬間、目の前にあった死すら霞む濃厚な殺気が駆け抜けたかと思えば、死神が振り下ろした大鎌が一瞬で粉微塵になり、それを真面に喰らった死神は後方の壁までぶっ飛ばされ、グチャッ!という不快な音が聞こえるのと同時に、壁のシミへと変わってしまった。
「え?」と、金縛りが解けたみたいに間抜けな声を出すレミア。
その視界には、粉砕された壁からその流体を晒すかのように、黒いタールを地面にぶちまけながら、壁の中に倒れ伏す死神の姿が。
と同時に、同じ黒なのに温かさを感じる背中も見えた。最も、当の本人は――
―――死にてぇんだな、テメェ等。
完全にブチギレていた。なんなら、オーマジオウ状態だったので、猶更マジギレであった。
その濃厚すぎる殺気は、周りに潜んでいた死神擬き総勢30体を一気に震え上がらせ、その場に叩き伏せていた。
しかし、その内の何匹かは何とか反撃しようと試みる。が、魔王の裁きはこの程度では終わらない。
―――ァ「
悲鳴も怒号も、全て叩き伏せた上で、ハジメさんは1体ずつ血祭りにあげていく。
それは、残った個体に対して「次は貴様の番だ」と告げるかのようだった。その様子に、死神達は恐怖した。
こいつは人間じゃないとか、そんなレベルじゃない!もっと恐ろしい何かを、自分達は呼んでしまったのだと。
ある筈のない魂でそう理解し、動く筈の身体も裁きを待たずして――
――あ゛ぁ゛!?何勝手に死んでやがる!この[ピー]が!!
……肉体を崩れさせることすらも許されず、裁きを待つ罪人が如く、ただ恐怖を刻みつけられる死神達。
最早、八つ当たりだとかそんな次元じゃない。これは正しく蹂躙、初めから戦いにすらなっていなかったのだ。
その後も、死神達の魂が完全消滅するまでにさほど時間はかからず、静寂が訪れる頃には、ハジメとレミア以外の周辺の生命反応は全滅していた。
ハジメ「……雑魚風情が、チョーシに乗った罰だ。」
そう不機嫌そうに呟き、一旦変身を解くハジメ。そうしてレミアに振り返る。
尚、レミアには簡易結界が張られているおかげか、その脅威は及ばなかったものの、端から見れば先程まで自分に襲い掛かってきた怪物が何度も殺されているという、訳の分からない光景に、レミアの脳は追いつけていなかった。
ハジメ「あ~……えっと、レミア?大丈夫?」
そんなレミアの様子にハジメも漸く気付き、心配するようにレミアに呼びかける。
声を掛けられたレミアもハッとなり、慌てて周りを見渡して、状況を少しずつ呑み込んだ。
レミア「ハジメ、さん……?」
ハジメ「あぁ、俺だ。それにしても、さっきのレミアはとっても勇敢だったよ。流石はミュウのママだ。」
そう言ってハジメはレミアの頭を優しく撫で、序に再生魔法で足の傷を治した。
レミア「あ、ありがとうございます……。」///
流石に頭を撫でられるのは気恥ずかしいので、思わず頬を赤く染めるものの、そこに確かな安心感を感じたレミアは、改めて目の前のハジメの顔を見つめる。
その表情には先程までの冷酷無慈悲な怒りの色はなく、いつもの優しい青年の顔があった。
ハジメ「?どうかしたのか?もしかして……まだどこか痛むとか?」
レミア「え?……あ、はい!大丈夫です!」
ハジメ「そう?それならいいんだけど……。」
先程までと全く違う様子のハジメに戸惑いながらも、その言動の中にある優しさに、レミアは何故かとても安心感を覚えた。
ハジメ「……すまない、レミア。」
レミア「え?」
ハジメ「危険な目に遭わせてしまったこともだけど、ミュウともまだ合流できていないんだ。
最初に見つけたのがレミアだった。」
レミア「あ……そう、ですか。」
ミュウを捜していたと気づいていたようで、返答を聞いたレミアは表情に影を落とす。
同時に、自分が危険な目に晒されていた事に対して、責任を感じているハジメを見て、気づいたのだ。
先程までの憤怒の中にあった感情――
ミュウの無事を祈るが故の焦燥、レミアを傷つける者への怒り、そしてそんな事態にさせてしまった自身への苛立ち、それらはどれも家族を思う故に出てきた感情だったことを。
それに気づいたレミアは、ハジメが来るまで一人ぼっちで冷えた心が、だんだん温かくなっている様な気がした。
ハジメ「この都市は相当にデカいみたい。さっき、空の上からも確認したけど、端が見えなかったよ。」
そんなレミアの心中をつゆ知らず、ハジメはこの都市についての推測を述べる。
曰く、高度からの計算した見通し距離からすると、最低でも30kmほどあるらしい。
ハジメ「多分、あの城がこの廃都の中心だ。城を起点に東西南北に広い直線道路がずっと先まで延びてるからな。
取り敢えず、あの廃城に向かおう。」
廃都を中心にした巨大な十字路。
そのメインストリートのどれかに出れば、ある程度距離があっても中心地が見える。
ならば必然、逸れた他の面々もそこを目指す筈だ、という判断だ。
尚、ハジメとレミアがいるこのあたり一帯は、"廃城の北側"になるらしく、必然、この大通りは"北のメインストリート"ということになるようだ。
というのも、レミアと合流するまでの間にハジメが発見した標識らしきものに、酷く掠れてはいたがそう書いてあったのだ。
"言語理解"がこんなところでも役立つなんてな、と思ったハジメであった。
ハジメ「それと、でかい壁もが伸びていたから、色々破壊して進むよ。」
レミア「は、破壊しながら、ですか?」
ハジメ「あぁ、派手に暴れまくれば、俺の位置を知ることが出来るだろ?
出来れば廃城の南側で無ければいいんだが……それならそれでより暴れればいいだけだがな。」
僅かな懸念。それは、上空から都を確認した際に目に入った"壁"のせいだ。
南北を分断するように、廃城を中心に東西へ巨大な壁が伸びていたのだ。
まるで万里の長城を、高さ200m程にスケールアップしたかのような巨壁が。
巨壁の目的は不明だが、遠目に見た限り南側には北側ほどの大きな建物が無いことは確認している。
用途の違いか、南が平民街又はスラムなのか、それとも何かがあって北側より崩壊が激しいのか……兎にも角にも、その巨壁によって声や音が阻まれる可能性は十分ある。
尤も、ハジメさんの場合、分身や偵察機による人海戦術で、安全確認も捜索網拡大も万全だが。
レミア「ですが、さっきのような"何かに"襲われませんか?」
ハジメ「纏めて塵殺する。ミュウにもレミアにも、指一本たりとも触れさせない。」
レミア「!ハジメさん……。」
あんまりにも軽い殺戮宣言に、流石のレミアもあらあらと受け流せない。
しかし、その後の言葉にも、思わず胸をキュンとさせてしまう。だって、完全に顔が父親のそれだもの!
ハジメ「……そう言えばレミア、なんで裸足なんだ?サンダル、壊れちゃったか?」
レミア「走るのに邪魔になったので……。」
ハジメ「そうか……今度から、走りやすい靴も用意しておく。取り敢えず替えの靴を履こうか。」
どれだけレミアが必死だったかを察したハジメはそう言うと、地面を"錬成"で整地し、"宝物庫"から座り心地の良さそうな椅子を取り出すと、レミアをそっと座らせた。
そして片膝立ちになり、レミアの足を優しく労るように手に取り、取り出したショートブーツをそっと優しく履かせる。
レミア「ミュウは……大丈夫ですよね?」
分かる筈がなく、意味のない質問。ただ不安を少しでも和らげたいという、甘えにも似た問いかけをするレミア。
その声色には、「少しだけ寄り掛かってもいいですか?」と訴える気持ちも混じっていた。
ハジメ「大丈夫さ。ミュウは利口で勇敢だし、根性もある。
何よりあの子の芯の強さは、レミアが一番分かってるだろ?」
レミア「!」
即答だった。その上、母親であるレミアの事も、ハジメは信じていた。
その答えにレミアの心は、嬉しさで包まれた。同時に、レミアは確信してしまった。
「あぁ、きっと自分はこの人に、恋をしているんだ」と……。
先程の凶悪で暴力的な強さも、全ては大切なものを守り抜き、何一つ取りこぼさない為に振るわれると知ったから。
その上で誰かに手を差し伸べられる優しさも、自分達の事まで背負い込んでも尚進み続ける覚悟も、望んだ未来を信じ抜き、その為に己の全てを掛けられる心の強さも、全部大好きになってしまった。
それが、レミアの答えだった。
ハジメ「!あの魔力は……。」
その時、ハジメは廃城に近い場所に何かの気配を感じ、その方向を見た直後、黄金の魔力光を視界に捕らえた。
ハジメ「レミア、行こう!」
レミア「!は、はいっ!」
ハジメの差し出したその手を、レミアは躊躇なくその身を預けた。今度は誤魔化しのない、自分の本心で。
そして、レミアをお姫様抱っこしたハジメは、勢いよく地面を蹴り、廃城へと向かうのであった。
ミュウ「んみゅ……。」
一方その頃、当のミュウはというと……とある裏路地の片隅で、大きな瓦礫の影に隠れるようにして小さくなっていた。
周囲には誰もおらず、一人ぼっち。ゴーストタウンはひたすら不気味で、そこかしこから嫌な気配が漂ってくる。
幼子が突然こんな状況に放り込まれれば、怯えて動けなくなるのも当然で――
ミュウ「早くママを助けに行かないと。」
――はなかったようだ。ミュウは、そっと瓦礫から顔を覗かせた。周囲をキョロキョロ。
先程まで感じていた"嫌な気配"は薄れ、何かが潜んでいる気配もない。深呼吸を一つ。
グッと足に力を込めて立ち上がる。怯えていないわけではない。
その証拠に、ミュウの体は少し震えている。瞳にも、隠しようのない不安が広がっていた。
けれど、それでも、ミュウは一歩を踏み出した。ハジメが信じた通りの、強い心で前へと進む。
思い浮かべるのは、敬愛するパパの後ろ姿と、その横で戦うお兄さん。
そして、強く、優しく、格好いい、お姉ちゃん達に、大好きでずっと会いたかったママの顔だ。
短くも濃厚な旅で学んだものを総動員して、一歩一歩着実に。
そうして、裏路地の先に広い通り――恐らくメインストリートを発見した。
と言っても、巨大な瓦礫が幾つもあって、まるで岩石地帯みたいな状態だったが。
ミュウ「あれは……お城、なの?」
そのメインストリートの先に、かなりの距離で判然としないが、城らしき大きな建物と巨大な塔、そして真横に伸びる巨大な壁が見えた。
【中立商業都市フューレン】を知るミュウであるから、何となく、周囲の瓦礫の量から、本来の何倍も大きかったに違いないと想像できる。
ミュウ「……ママは、きっとミュウを捜してるの。」
誰ともなしに呟く。混乱しそうになる頭を必死に整理する。
ミュウ「探しても見つからなかったら……あのお城に行く?」
この廃都で一番の目印だ。城へ向かう可能性は確かにある。
ミュウ「パパたちは、絶対に行くの。」
確信にも似た推測。難しい言葉は分からずとも、ハジメ達の行動が、合理的であることを、ミュウは知っている。
ミュウ「近くまで行けば……
そしたら、パパ達と一緒にママも捜せる。もしかしたら、もうママを見つけてくれてるかも?
嫌な感じはなんとなく分かるの。ゆっくり、少しずつなら……。」
うん!なんかいける気がするの!と、小さな両手をギュッと握りしめて「ふんすっ!」と鼻息荒く方針決定。
しんっとした薄暗い通りを前にすると、自然と足は竦むが、やっぱりパパ達を思い出して無理やりでもテンションを上げていく。
ミュウ「大丈夫なの!パパ達も言ってたの!諦めたらそこで冒険終了だって!出来る出来る!ミュウなら出来るの!どぅ~ゆぁべぇすとっ!あいきゃんふらいっ!いえすうぃ~きゃん!なの!」
言葉の意味はあんまり分かっていないけど!なんだか心に響くから口にする!パパの
ミュウ!最高最善の魔王の娘!いっきま~~~すっ!と出発する!
『――こちらだ。』
ミュウ「ひょふわぁ!?」
勇気を振り絞って裏路地から出ようとした瞬間、出鼻を挫くように響いた声に、ミュウは奇怪な絶叫を上げた。
慌てて両手で口を押さえ、転がるようにして瓦礫の影へ。心臓がバックンバックンと大暴れしている。
涙目になっちゃう。幼女だもの。
『――こちらだ。海の幼子よ。』
ビックンッと震えるミュウ。今度は根性で悲鳴を飲み込む。
まるで、頭の中に直接響くような声音だ。キョロキョロと周囲を見やるが、声の主がいる様子はない。
ミュウ「ど、どちら様ですか?」
ママの教育が生きる。ミュウの丁寧な呼び掛けに、しかし、謎の声の主はただ「こちらだ。」と繰り返すのみ。
実に怪しい。だが、少し落ち着いて聞いてみると、何となくミュウはその声の雰囲気に既視感を覚えた。
ミュウ「……もしかして、あの"影"さんなの?」
恐らく自分達をここに連れてきたであろう、あの濃霧の向こうにいた巨大な"影"。
凄まじい存在感に反して、何故か、ミュウは危機感も覚えなかった。
寧ろ、まるで包み込まれるような安心感さえ覚えた。そう、まるで、海の中で泳いでいるときのように。
『――急ぐのだ。海の幼子よ。危険が迫っている。』
ミュウ「こっち、なの?」
動かないミュウに業を煮やしたのか、言葉が少し具体的になった。それで、ミュウの決心も付いたらしい。
なんとなく、導かれている方向が分かる。
『――汝が同胞のもとへ。強き海の子のもとへ。』
ママのこと?と口に出すが返答はない。ミュウはグッと口元を引き締め歩き出した。
荒れた場所をヒョコヒョコと。踏む場所をしっかり確認しつつ、なるべく音を立てないように。
あちらだこちらだと誘導される不思議な感覚に従いながら、時折、危機の知らせに素早く従って息を潜め、よからぬ存在をやり過ごす。
心は落ち着いている。程よい緊張が、寧ろ頭と体の動きを冴えさせている気さえする。
薄暗く汚らしい場所を進むのは既に経験済みだからというのもあるだろう。
あの地下牢に囚われていた時に比べれば、道案内あり、救助の当てもあり、下水に飛び込む必要もないこの状況などずっとマシだ。
ミュウ「早くママを見つけてあげないと!」
何より、使命もある。自分と同じ戦う術を持たぬ母。
無茶をして、また怪我でもしていたらと思うと、居ても立っても居られない。
『――すまない。』
不意に、そんな謝罪の言葉が響いた。ミュウは思い出す。あの"影"が、切実に助けを求めていたことを。
ミュウ「影さん影さん。お名前は何ですか?何をしてほしいの?」
そう言えば名前も知らないと、ミュウは声を潜めながらも尋ねてみた。
しかし、返ってくるのは「すまない。」という申し訳なさそうな感情の波と、より強くなった助けを求める声ばかり。
ミュウ「影さん、弱ってるの……。」
どうやら"影"は、それほど明確な意思疎通ができるわけではないらしい。
感じた存在の強大さに比して違和感のある話だが、これまたなんとなく、ミュウには分かった。
或いは、ミュウ達を引き込んだ力が最後の力だったのか。
『――求める。創造するもの。刻の証を遺す者よ。』
ミュウに語りかけているというよりは、まるでうわ言。或いは独白。
どこかへ導かれながらも、しっかり耳を傾けていたミュウは、難しい言葉故に理解しきれずとも半ば確信していた。
きっとそれは、パパのことだと。だが、次ぐ"影"の言葉には困惑を隠せなかった。
『――異なる刻、同じ場所に重なりし2人を。主と同位の者達を。我がもとへ。』
ミュウ「ふ、2人、なの?」
ただでさえ感覚的に推測していただけの言葉であるから、ミュウは訳が分からないと頭上に大量の"?"を浮かべずにはいられない。
ミュウ「う~、とにかく!今は進むの!」
疑問を振り払い、集中する。幾ら"影"が導いてくれるルートが、嫌な気配を上手く避けるルートばかりであっても余計な考え事は命取りだ。
と、その時、突然の轟音が。
ミュウ「みゃぁ!?」
地響きまで伝わってきて、ミュウは思わず飛び上がった。
轟音は一度ならず、2度、3度と響き激しさを増していく。
戦闘音だ。方角はミュウの後方。おそらく、2つ3つ向こう側の通り。徐々に近づいてきている。
廃城まではまだ遠い。ミュウの足では確実に追いつかれるだろう。
ミュウ「ッ!パパ達じゃないの!」
そういうとミュウは戦闘音に背を向けダッと走り出した。
ハジメ達が来ているなら、捜索用のアーティファクト類があるはずだからだ。
『――急ぐのだっ、海の幼子よ!汝の同胞はすぐそこだ!』
"影"の声で切迫感が増すのと同時に、"嫌な気配"が急速に集まりだした。
嫌な気配が、恐ろしい気配が、凄まじい勢いで迫ってくるのが分かる。
後方の戦闘のせいか、それとも単純に発見されただけか。
いずれにしろ、やり過ごしていたよからぬ存在が、ミュウを捕捉しているのは明らか。
ミュウは恐怖のあまり泣きそうになりながら、けれど、決して涙は流さず、歯を食いしばって必死に足を動かし続けた。
もう、荒れた地面を気にしている余裕もない。
レミアがそうであったように、ミュウの小さくか弱い足も、みるみるうちに傷を負っていく。
そうすれば、気持ちに反して足はもつれ……
ミュウ「あぅっ。」
転倒してしまった。膝を強かに打って涙目になる。
必死に顔を上げれば、いつの間にか広場のような場所に飛び出していることに気が付く。
そして、自分の背後に"何か"がいることも。
起き上がって、女の子座りのまま振り返るミュウ。
その目に飛び込んできたのは、毛皮を持たぬ血肉が露出した巨狼だった。
ミュウ「ぅ、ぁ……。」
悲鳴も出ない。恐怖で凍り付く。
本能は動け逃げろと叫ぶのに、お尻は根が生えたみたいに地面に吸い付いたまま僅かにも持ち上がらない。
それほどまでに醜悪で冒涜的な生物だった。
その血肉の巨狼の後ろから、ぞろぞろ小型の眷属も姿を見せる。周囲の廃墟からも、広場の向こう側からも。
ポタリポタリと血肉を滴らせる巨狼が、見せつけるように
そうして、小さな獲物に喰らいつかんと肉薄して――
ドンッ!
ミュウ「ク、クジラさん?」
その瞬間、光がミュウの視界を覆った。と同時に、血肉の巨狼が吹き飛ぶ。
呆然と呟くミュウの言葉通り、間一髪でミュウを救ったのはクジラだった。
ただし、体長は2mくらいしかなく、何より宙を泳ぐ上に光の粒子で構成された、という特異なクジラだが。
その光のクジラが、血肉の巨狼に体当たりをしたらしい。
吹き飛んだ血肉の巨狼は廃墟に激突して瓦礫に埋もれるも、直ぐに周囲を血風の暴風で吹き飛ばし、苛立ったように咆哮を迸らせた。
途端、小型の血肉狼共がミュウに殺到。
光のクジラが滑り込んでくる。すり抜けるようにしてミュウに重なる。まるで、身の内に抱き込むように。
そうすれば、突き立てられた無数の牙は。光の粒子に食い止められてミュウに届かず。
更には、一瞬の閃光と同時に弾き飛ばされる。
どうにか事なきを得たミュウだったが、安堵する余裕などなかった。
ミュウ「ぅ、うぅ……。」
殺意で溢れる戦場の風が、容赦なくミュウの精神力を削っていた。
震えが止まらず、ともすれば恐怖のあまり気を失ってしまいそうだ。
このまま、光のクジラに身を任せて恐怖から逃げてしまおうか。
そんな思いを一瞬抱いてしまうミュウだったが、そこでふと気が付いた。
ミュウ「……クジラさん、小さくなってる?」
気のせいなどではなかった。
ミュウ自身が小さいために未だすっぽり覆われてはいるが、確かに、光のクジラは小さくなっていた。
ミュウ「ミュウを、守ってくれてるから?」
返事はない。
このクジラが何なのか、さっぱりは分からない。けれど、自分を守った代償に弱ってしまったのは分かる。
自分を包み込む温かさが、あの"影"の声音から感じるものと同じだから……。
ミュウは、グッと歯を食いしばって、流れ落ちそうな涙を乱暴に拭った。
そして、体を凍てつかせる恐怖を勇気という名の剣で切り裂き、立ち上がった。
ミュウ「クジラさん。もう大丈夫なの!」
青ざめた表情。震える小さな体。どう見ても大丈夫ではない。
けれど、その言葉は信じるに値するほど力強い。
ミュウ「ミュウ、頑張って走るから。一緒に逃げるの!」
光のクジラが、僅かに輝きを増したような気がした。
まるでミュウの気概に力を分け与えられたように。
ミュウは、一番近くにある裏路地にチラリと視線を向けた。
狭い場所に逃げ込み、ハジメ達が助けに来てくれるまで時間を稼ぐつもりで。
絶対に、諦めない。それこそ、ハジメ達から教わった最たるもの。
そんなミュウの決意を嘲笑うかのように、血肉狼共が包囲網を形成する。
だが、それでも、ミュウは怯まず、すぅっと大きく息を吸って、
ミュウ「やれるもんならやってみやがれっ、なの!」
心だけは負けるものかと雄叫びを上げた。さながらそれは、ママから受け継いだ勇気の象徴のように。
直後、幼子の思いを食い千切らんと巨狼率いる血肉狼共が一斉に躍りかかり……
???「あら。小さいのに、中々痺れる啖呵を切るわね?」
――ザバァァァンッ!!!
ミュウ「ふ、ふぇ?」
凄まじい激流が、全てを吞み込み浚って行った。
そうしている間にも、まるで生き物の如くうねった水流が血肉狼共を呑み込み、体内に侵入しては内側から食い破り、水圧で圧殺し、水のレーザーで細切れにしていく。
そんな激流の中にあって、しかし、ミュウは水の一滴すらかかっていなかった。
激流は常に、ミュウを守るようにして周囲を渦巻いている。まるで結界のように。
実際、あれほど恐ろしかった血肉狼共が一切、ミュウに近づくことすら出来ないでいた。
水流のベール越しに、あの強大なボスが血風の様なものを噴き上げているのも見えるが、それすらも莫大な質量の水が呑み込み、洗い流してしまう。
ミュウ「ク、クジラさんのお友達、なの?」
光のクジラに尋ねてみるが、答えは返らず。
けれど、もう大丈夫というかのように、ミュウから少し離れてシュルリシュルリと小さくなった。
そして、ミュウの頭の上にポフッと乗って動かなくなる。
困惑するミュウに、先程の女性の声が再び届いた。
???「あら、変わったお友達を連れているわね?同族のお嬢さん?」
どこかおっとりしていて、未知の怪物と戦っている最中とは思えないほど緊迫感のない声音が上から降ってきた。
視線を上げたミュウの目に飛び込んできたのは……
ミュウ「ママ?」
水流のアーチに、優雅に腰をかけて微笑を浮かべている海人族のお姉さんだった。
その柔らかく優しい雰囲気がどこかレミアと被って、恰好は全然違うのに、ミュウは思わずそう呟いてしまった。
しかし、この時のミュウは知らなかった。
彼女の名はメイル・メルジーネ、解放者の一人にして過去に実在した人物だということを……。
前半のブチギレ状態のハジメさんは、某四天王のゼブラとノッキングマスターをイメージしてみました。
後、今回は原作準拠なので、並行世界云々はございませんのであしからず。
そしてついに、レミアのハーレム入りフラグが成立しました。いやホント長かった……。
次回はミュウと解放者ズのお話です。お楽しみに!
もしもfateとのトリプルをやるとして、どんな女性サーヴァントと組ませたい?(モルガン・トネリコは本編で準レギュラーなので除く))
-
アルトリア(青王)
-
モードレッド
-
玉藻の前
-
スカサハ
-
レディ・アヴァロン
-
宮本武蔵
-
沖田総司(オルタ含む)
-
伊吹童子
-
ティアマト
-
ミスクレーン
-
魔王信長
-
ククルカン
-
ジャンヌ(オルタ・メタ含む)
-
ネロ
-
アルテラ
-
源氏鯖(頼光・義経・巴)
-
河上彦斎
-
いっそのことカルデア入り
-
その他(活動報告欄で入力)
-
それって、貴方の癖ですよね?