ヒールが痛いとパーティーを追い出されたヒーラーは痛み無効の獣人少女とのんびりできるところを探します   作:犬型大

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人間は嫌いなはずなのに

「お前を買ってくれそうな人がいるぞ。ただ……ひどく殴られるかもしれないな」

 

 そう言って奴隷商人はミツナの首に繋がれた鎖を引っ張った。

 反抗的な態度のミツナは必要もないのに口輪をつけられていた。

 

「最高等級の扱いができるが腕もなければ反抗的……本当に売れるかな?」

 

 奴隷商人はミツナを引き取ったことを後悔していた。

 知り合いの頼みだったから引き受けたけれど支払った分をちゃんと取り戻せる金額で売れるような自信がない。

 

 せめて可愛げぐらいあればいいのに人が嫌いで周りをものすごい目で睨む。

 

「黙ってれば顔ぐらいはいいのにな。胸は小さいが」

 

 次胸のこと言ったらぶっ殺すとミツナは奴隷商人を睨みつける。

 

「客の前では大人しくしてろよ?」

 

 そうして引っ張り出された先にいたのがエイルだった。

 第一印象は最悪だった。

 

 獣人であるミツナは鼻もいい。

 部屋に入ると酒臭くて嫌な気分になった。

 

 昼間から酒を飲んで顔を赤くして奴隷を買いにくるようなクソ野郎がエイルがミツナの中での最初の印象だったのだ。

 ただミツナの手や目がなくてもエイルは何も言わなかった。

 

 そのことだけは少し評価してもいいと思った。

 ミツナのことを見る目はいやらしくもないし、好きなようにできると聞いても特に興味もなそうな態度だった。

 

 睨みつけても怒った様子はないし変な人だと感じた。

 最終的にはミツナのことをその場で買ってしまった。

 

 奴隷商人は大喜びだったけどミツナは恐怖を感じていた。

 エイルの得体の知れなさ、目的の分からなさが理解できなくて怖かったのである。

 

 口輪を外して好きにしていいと言って無防備に寝るし何がしたいのだと謎だった。

 とりあえずエイルのことを殺して逃げられないかとまたがって首を絞めようとしたけれど、隷属の魔法によってエイルに害を加えることはできなかった。

 

「くそっ……」

 

 どう頑張っても手に力が入らない。

 爪で首を切ろうとすると寸前で手が止まってしまうし、噛みつこうとしたら牙を軽く当てるだけの甘噛み以上に顎が閉じられなかった。

 

 ムカついて悔しかった。

 どうしようもないということがわかったのでエイルから離れた。

 

 エイルが用意したパンを食べるのも嫌だったし得体の知れないエイルから少しでも離れたくて部屋の隅で膝を抱えて丸くなった。

 これからどうなってしまうのだろうという不安ばかりがミツナの胸の中では渦巻いていた。

 

 そうしている間にムカムカとしてきた。

 冒険者のことを思い出したのである。

 

「好きに……」

 

 好きにしていいと言われた。

 ならば復讐しに行ってやろうと思った。

 

 エイルの荷物を漁ってナイフを見つけたので盗んで分かっていた冒険者たちの隠れ家に向かった。

 結果はひどいものだった。

 

 いきなり襲いかかった最初はよかった。

 ナイフで相手を切り付けて暴れて、冒険者の方も困惑していて抵抗も少なかった。

 

 けれど冒険者たちが落ち着いてくるとミツナはあっという間に制圧された。

 片腕もなく人数差もあるので勝てるはずもなかったのだ。

 

 それでも痛み無効で殴られても暴れるミツナの足を冒険者たちはたたき折って抵抗できないようにした。

 このままミツナを活かしておくと危ないかもしれないという話が聞こえてきた。

 

 殺されると思った。

 でも殺されて全部終わるならそれでもいいかもしれないとも思った。

 

「やめろ!」

 

 そんな時にエイルが助けに来てくれた。

 理由がわからなかった。

 

 どうしてこんな自分を助けに来てくれるのか不思議でたまらなかった。

 でもその瞬間死にたくないと思った。

 

 何もないから死んでいいと思ったのに助けてくれそうなエイルが現れた瞬間助けてほしいと思ってしまったのである。

 殴られて気を失ったのでその後どうなったのミツナは知らない。

 

 けれど起きた時には全てが終わっていて、殴られて少し頬を青くしたままのエイルが心配そうにミツナの顔を覗き込んでいた。

 助かったんだと思った。

 

 そして助けてくれた相手がエイルだと一瞬で理解した。

 

「大丈夫かい?」

 

 助けてくれる人がいる。

 そう思ってエイルの優しい声を聞いた瞬間に顔が熱くなってエイルを見ていられなくなった。

 

 ミツナは自分の感情に困惑して、どうしてこんな気持ちになるのか分からなくなった。

 心臓が痛いほどに鼓動してエイルが自分を心配してくれることが嬉しく感じられる。

 

「なんで……こんな気持ち……」

 

 ーーーー

 

「……もし仮に目や手が戻ってくるならどうする?」

 

 エイルは奇妙な質問はミツナにした。

 仮にと言うけれどそんなことあり得ないのだから何の意味もない質問だと顔をしかめる。

 

「…………もし本当に戻ってくるのなら嬉しい。戻してくれた人には一生を誓ってもいい。だがそんなの不可能だ」

 

 あり得ない話であるとミツナは首を振った。

 でも本当に手や目が戻るのなら一生感謝してもしきれない。

 

 たとえ嫌っている人間相手でも忠誠を誓ってもいい。

 そんなことも頭の片隅では思っていた。

 

 そしてエイルは不敵な笑みを浮かべるとミツナのことを本当に治療してしまった。

 手や目を失ったことはミツナの心に暗い影を落としていたし、獣人にとってシッポは誇りでもあった。

 

 治してくれたことも嬉しかったし、エイルの言葉がウソじゃなかったということも嬉しかった。

 手や目、シッポが再び戻ってきた喜びが溢れたり、ミツナの心のどこかにあったまた人を信じてみたい心が刺激されたりして感情がぐちゃぐちゃになった。

 

 わーっと込み上がるものがあって、それが涙として溢れて、思わずエイルに抱きついた。

 また誰かを信じてもいいのかな。

 

 泣きながらミツナの心のどこかでエイルのことを信じたいという気持ちが生まれ始めていたのであった。

 

 ーーーーー

 

「ちゅ、忠誠を誓う!」

 

 エイルは約束を果たしてくれた。

 だから今度はミツナが約束を果たす。

 

 口先だけではなく心から忠誠を誓うのだと表すためにミツナは床に転がった。

 お腹を出して敵意はなく全てをさらけ出していることをアピールする。

 

 エイルは驚いていた。

 忠誠などいらないと拒否されてしまいそうになったけれどそれではミツナが約束を破ったことになってしまう。

 

 それにエイルならと思っていた。

 ウソもつかず対価も求めずに奴隷を治してくれ、神迷の獣人で奴隷であるミツナを見下さず対等に話してくれるエイルならばほんの少しぐらい信頼してもいいかもしれない。

 

 どうせ何も持っていないミツナには忠誠を誓うぐらいに返せるものしかない。

 自ら進んで付き従うと心に決めた。

 

「分かった……分かったから!」

 

 最終的には無理矢理エイルに認めさせることにミツナは成功した。

 人が嫌いで信じたくない自分とエイルを信じてみたいと思う自分がミツナの中ではせめぎ合っていたのである。

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