ヒールが痛いとパーティーを追い出されたヒーラーは痛み無効の獣人少女とのんびりできるところを探します   作:犬型大

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恩を返したくて1

「じゃあミツナは俺に忠誠を誓ったってことでいいんだな?」

 

「……不本意ながら」

 

 忠誠のポーズをやめたミツナはまだ少し頬を赤らめながらツンとした顔をしている。

 忠誠を誓ったけれど態度は大きく変わらないようである。

 

 ただ感謝はしているようで睨んだり噛みつきそうな顔をすることはしなくなった。

 そもそも忠誠を誓ったところで何が違うのかエイルには分からない。

 

 ひとまずは多少距離が縮まったぐらいに思っておくことにした。

 結構雑な態度であるがエイルはあまり気にしていない。

 

「それでご主…………むぅ」

 

 エイルのことをご主人様というのにはまだ抵抗感があるようだ。

 

「エイルでいいよ」

 

「エイル様は何者だ?」

 

 てっきり呼び捨てにするのかと思ったけれど最低限の礼儀はあった。

 

「言っただろ、俺はヒーラーだよ」

 

「腕を生やせるヒーラーなんて聞いたことがない」

 

「そりゃそうだろうな。そんな力を持ったヒーラーそうそういるもんじゃない。それにそんな力があったとしても治療できないからな」

 

「治療できる力があるのに治療できない?」

 

 ミツナは首を傾げた。

 エイルの言っていることは矛盾しているように思われたからだ。

 

 力があるのなら治療はできる。

 力があるのに治療ができないなんて意味が分からない。

 

「この世は狂っててヒールで治療するのに痛みを伴うんだ」

 

 なぜ治すのに痛みが必要なのか、そんな疑問に答えられる人はいない。

 神が与えた肉体に傷をつけたからだとかヒールするために必要な反応だとか言う人はいるけれど、その正確な理由は誰にも分からないのだ。

 

「ヒールの強さ、治す傷によって痛みの強さも変わる」

 

 ヒールを行うものの力が強く、ヒールの力が強いほど受ける痛みは大きくなる。

 そして治す傷も小さければ当然痛みは小さく素早く治る。

 

 腕を治せるほどの力となればヒーラーの中でもトップクラスの力となる。

 つまり非常に強い力を必要とすることになる。

 

 加えて腕がなくなっているとなると怪我の度合いとしてはかなり重篤な部類に入る。

 このことを合わせて考えると欠損した腕を治すのにはとんでもない痛みが伴うのである。

 

「腕を生やす痛みに耐えられる人はまずいないだろう。あまりにも強い痛みはそれだけで人を死に至らしめるんだ」

 

 だから治療できるけど治療できないのである。

 治療をしてもいいのだけど結果的に相手が死んでしまう。

 

 そんなものを治療と呼んでもいいのかとエイルは疑問に思う。

 

「そうなのか……」

 

 痛みを感じないミツナにはなかなか理解のし難い話である。

 痛いから死んでしまうというのは痛みを経験したこともないと分からないのだ。

 

「だから俺はパーティーを追い出されたんだ……」

 

 エイルの力は強い。

 世界中のヒーラーを集めて上から数えた方が早いぐらいにヒールの能力は高いのである。

 

 比べる機会などないがもしかしたら今の世界でトップだと言ってもいいのかもしれない。

 たとえ力を抑えてヒールしてもエイルのヒールはかなり痛い。

 

 その代わりにどんな傷でも一瞬で治していたのに痛いから出ていけなどやっていられないとエイルはため息をついた。

 

「……エイル様も一人……なのか?」

 

 珍しくミツナが悲しそうな目をしていた。

 人嫌いというところが前面に出ているけれど、そこから一皮剥くとミツナは感情豊かかもしれないなとエイルは目を見て思った。

 

「ああ、俺には親もいないし信じていた仲間もいなくなった……」

 

「……私と一緒だな」

 

「そう……だな」

 

 そういえばミツナも両親がおらず帰るところもない、エイルと同じような境遇であった。

 

「わ、私がお前と一緒にいてやる!」

 

「えっ?」

 

「私がお前……エイル様と一緒にいてやると言っているのだ!」

 

 ミツナは顔を真っ赤にしている。

 エイルは言っていることがすぐに飲み込めなくて驚いたような目をミツナに向ける。

 

「もう君は俺の奴隷じゃないんだ。俺といることなんて……」

 

「ちゅ、忠誠を誓った! それに私はエイル様に恩を返していない!」

 

「別に恩を返さなくても……」

 

「母は受けた恩は倍にして返しなさいと言った! 忠誠も誓ったし私はエイル様から離れない!」

 

 もはや何を言っているのか支離滅裂になっている。

 それはミツナも分かっていて毛に負けないほどに顔が真っ赤になっていた。

 

 このままお別れになるのは嫌だとミツナは思った。

 なんでこんな気持ちになったのかは分からない。

 

 でもきっとここでエイルと別れたらもう二度と会うことはないだろうと思った。

 神迷の獣人で奴隷だったミツナにも優しかった唯一の人でエイルならば心を開いてもいいかもしれないと思い始めている。

 

 大きな恩があって、その恩の少しも返せていない。

 忠誠も誓った。

 

 ミツナとしてはエイルといる理由、いたい理由がたくさんあった。

 

「うーん……」

 

 だがエイルからしてみればミツナといる理由はなかった。

 勢いで買った奴隷であるしミツナを買ったのも痛み無効で治療ができそうだと思ったからだった。

 

 冒険者を廃業して別のことをやろうと思っていたので最後くらい何か感謝されるようなことをしたかったというのが本音だった。

 もうミツナは奴隷でないし、目や手も元通りになったのでエイルとおらずに一人でまた冒険者としてもやっていける。

 

「恩を返すまででいいから……」

 

 エイルの返事の色があまり良くなくてミツナはしょぼんとうなだれる。

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