ヒールが痛いとパーティーを追い出されたヒーラーは痛み無効の獣人少女とのんびりできるところを探します   作:犬型大

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逆転の発想2

「大丈夫か、ミツナ?」

 

「あ、ああ……」

 

 男らしく間に割り込んできたエイルにミツナも驚いた。

 

「痛えじゃねえか!」

 

 すぐさまエイルに背を向けられて男は無視されたかのような苛立ちを覚えた。

 一度殴りかかったのだから二度も変わりないと男がまたエイルに向かって拳を振り上げた。

 

「痛かった? 済まないな」

 

「…………はっ?」

 

 拳を振り下ろそうとした男が急に倒れた。

 何が起きたのか分からず、ミツナだけでなく男の仲間たちも呆然として倒れた男のことを見ている。

 

「て、テメェ!」

 

 何をされたのかは知らないけれどエイルがやったのは確かだ。

 男たちはエイルが何かの攻撃をしたのだと判断して殴りかかってきた。

 

「ぐっ……かっ!」

 

「一撃で……」

 

 エイルは男の拳をひょいとかわすと腹に反撃を叩き込んだ。

 なんの変哲もないパンチに見えたのに男は白目を剥いて倒れてしまった。

 

「な、なんなんだ?」

 

「先にケンカ売ったのそっちだからな」

 

 残された男は比較的細腕に見えるエイルがどんなことをしたら一撃で男を倒せるのかわからなくて困惑していた。

 その隙をついてエイルは一気に男と距離を詰めると顔面を殴りつける。

 

 男は盛大に後ろに転がりそのまま気を失って動かなくなった。

 

「強い……」

 

 ミツナは思わずシッポを振ってしまった。

 瞬く間に男たちを片付けたエイルはまた優しい笑顔をミツナに向けてくれる。

 

 獣人は強い者が偉く、強い者に惹かれるという習性がある。

 エイルの思わぬ強さを目の当たりにしてミツナはドキッとしてしまった。

 

「行こう。注目されすぎちゃった」

 

 エイルが倒れた男たちを放っておいて歩き出すとミツナも慌ててついていく。

 

「やっぱり連れていけばよかったね」

 

 冒険者ギルドに用事があって訪ねてきたのだけどあまり視線にさらされるのが嫌だったミツナはギルドの中に入るのを嫌がった。

 通りすがりに見られて噂されるぐらいなら我慢できるけど建物の中で荒っぽい冒険者の視線を浴び続けるのは避けたかったのだ。

 

「手続に手間取っちゃって一人にしてごめんよ」

 

 短い間なら平気だろうと思っていたのに運悪く柄の悪い連中が来てしまった。

 

「でもこれで正式に俺たちはパーティーの仲間だ」

 

 エイルが冒険者ギルドを訪ねたのはミツナとのパーティー申請をするためだった。

 一度冒険者の資格を剥奪されたミツナだったけれどデルカンのおかげで冒険者の資格も復活した。

 

 これから一緒に活動していく上で同じパーティーとして登録しておいた方が動きやすくなる。

 パーティーのリーダーはエイルで、今後依頼を受ける時もエイルが責任者を務めるつもりである。

 

「それじゃあ買い物行こうか」

 

 旅をするのにも色々と必要となる。

 ミツナは全てのものを借金の返済に充てられてしまって持ち物はない。

 

 そのために全てのものを揃える必要があるのだ。

 ミツナを買うために使ったお金も返ってきているので金銭的に余裕はある。

 

 最初はエイルにお金を出してもらうことを申し訳なく思っていらないと言っていたミツナだけど替えの服すらないので結局エイルに頼ることになった。

 

「そ、そんなことよりあれどうやったんだ?」

 

「なにがだ?」

 

「どうやってあいつら倒したんだ?」

 

 強い人なら一撃で倒すこともできるかもしれない。

 けれど正直エイルにそんな力があるようには思えないのである。

 

 それに一撃で倒すなら相手が大きく吹き飛んでもいいはずなのに男たちはさほど衝撃があったように見えなかった。

 エイルが強いのは確かであるけれど単なるパワーだけとも思えなかった。

 

「簡単なことだよ。俺はあいつらを治してやったんだ」

 

「な、治す?」

 

「そう。俺はヒーラーだからね」

 

「どうして治してやると倒れるんだ?」

 

「言っただろう。ヒールは痛いってな」

 

 仮にエイルが力を抑えずにヒールしたらどうなるか。

 それはそれは痛いヒールとなる。

 

 小さい怪我なら一瞬で治ってしまうような治癒ができるけれどその一瞬でも相手の体には大きな痛みが伴う。

 

「ダメージを与えて治してやったのさ。だけどその代わりあいつらの体には激痛が走るっていう寸法なのさ」

 

 ヒールを攻撃として使う。

 一見矛盾しているようだが、ヒールする時に発生する痛みを利用して相手にダメージを与えようという発想の転換である。

 

「俺の師匠である人が言うにはヒールの痛みは誰にも止められないのだから逆に利用してやればいいって」

 

 男の腕を強く握って少しダメージを与えた。

 そんなもの放っておけばすぐに痛みも無くなるような怪我とも呼べないものであるのだが、エイルは普段抑えている力を引き上げて腕を治してやった。

 

 その瞬間男の体には大きな痛みが走って耐えられなくて男は気を失ってしまったのである。

 他の男もそうだった。

 

 殴ったダメージそのものはそうでもない。

 おそらく殴っただけでは倒せなかったのであるけれど殴ったダメージを治すことによって大きな痛みを与えて気絶させたのである。

 

「治して……倒す?」

 

 とんでもないやり方で倒していたのだとミツナは呆然としてしまった。

 ヒールすることでダメージを与えて倒すなんて誰が思いつくのか。

 

 治すための行為を攻撃にするなんて普通の人の考えではない。

 

「変な師匠だろ? でも色々学んだし……これから師匠の教えが活きてくるような気がするんだ」

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