ヒールが痛いとパーティーを追い出されたヒーラーは痛み無効の獣人少女とのんびりできるところを探します   作:犬型大

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のんびり二人旅

「うーん、人がたくさんいると楽だったね」

 

「まあ兵士がなんでもやってくれたからな」

 

 イルージュの護衛を終えたエイルとミツナは旅を続けていた。

 どこかにきっといい安住の地があると信じてウガチの国に向かっている。

 

 これまでのように商人の護衛なんかをしながら移動するつもりであったがタイミングが悪かった。

 結婚式のために大規模な魔物の討伐が行われていた。

 

 そのために魔物の数が減っていた。

 さらに護衛を延長したために結婚式で集まっていた人たちももうすでに町を離れていて商人の護衛依頼がなかったのである。

 

 魔物も少ないということで二人でまた出発した。

 もはや二人で活動することにも慣れてきているけれどイルージュを護衛していた時のことを思い出してしまう。

 

 自分たちが休むテントぐらいは自分で立てていたけれど、その他の食事や見張りといった仕事は兵士たちの方でやってくれていた。

 何もしなくてもいいというのはやっぱり楽であった。

 

「やっぱり一番楽なのは見張りだよな」

 

 日も落ちてきた。

 これから交代で就寝して見張りをしなければならない。

 

 泥棒や魔物を警戒せずに寝ていることなんてできない。

 夜の間もどちらかが起きていなきゃ危険である。

 

 兵士と一緒の時はゆっくり夜も寝られた。

 それがエイルにとっては少し懐かしくもある。

 

「今日は俺が先に寝る番だな」

 

「うん、おやすみ」

 

 今日はエイルが先に寝る。

 体にマントを巻き付けて木に寄りかかって目を閉じた。

 

「…………寝た、かな?」

 

 焚き火をじっと見つめていたミツナは集めておいた枝を適当に火にくべる。

 一度周りを見回して何もいないことを確認してミツナは場所を移動する。

 

 ちょっとだけエイルに近づく。

 風で焚き火が揺れる。

 

 赤い炎に照らされたエイルの寝顔をミツナは見つめる。

 寝顔を見れる、こればかりは二人旅の特権である。

 

 エイルの顔は意外と整っているとミツナは思う。

 

「……可愛い…………はっ!」

 

 焚き火がパチンと弾けてミツナは正気に戻った。

 

「ち、ちが……私は人間なんて……嫌い……」

 

 どれぐらいエイルの顔を見つめていたのか分からなくて、顔を真っ赤にしたミツナはブンブンと頭を振る。

 人間は嫌いだ。

 

 それは今も変わらない。

 嫌な目で見てくるし、ヒソヒソと差別なことを言う。

 

「でも……エイルは嫌いじゃない……」

 

 ただエイルのことは嫌いではない。

 助けてくれた大きな恩がある。

 

 今も仲間にしてくれて、仕事やなんてかでも前に立って話をしてくれる。

 むしろどこか目で追ってしまうし、エイルの声は心地よく感じられる。

 

 恩返しのために忠誠を誓うだけだと自分に言い聞かせようとしているのにどこまでも恩が返し終わらなければいいのにと考えてしまう自分がいる。

 

「こ、この!」

 

 ミツナは自分の尻尾が勝手に振られてしまっていることに気がついた。

 掴んで止めようとするけれどそれでも尻尾は勝手に動き続けてしまう。

 

「心を許せる人がいたのなら……捕まえて、放すんじゃない……」

 

 ふとミツナは母親の言葉を思い出した。

 両親の記憶はあまり残っていない。

 

 それでもいくつか印象に強いものは記憶の奥底に大切に覚えていた。

 

 “もしあなたに心を揺るような人ができたのなら、決してその人を手放してはダメよ。捕まえて放さないの。なんとしてもよ”

 

 その時の母親は少し悪い顔で笑っていたような気がする。

 

「捕まえて放さない……」

 

「ん、どうした……? もう交代か?」

 

 気づいたらミツナはエイルに手を伸ばしていた。

 そっと服を掴んだのだけれどエイルは気づいて起きてしまった。

 

「あっ……う、うん! こ、交代……かな!」

 

 ミツナは赤くなった顔を隠すようにエイルから離れてマントを体に巻き付ける。

 エイルはそっと空を見上げる。

 

 月の位置からするとまだ交代には少し早すぎるような気がした。

 ただ何かあったのだろう。

 

 ミツナのことだから見張りをサボりたいなどという理由じゃないだろうとエイルはフッと笑って焚き火に枝を投げ込んだ。

 一方でミツナはやたらと心臓がドキドキとしてしばらくの間眠れぬ夜を過ごしたのであった。

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