彡(゜)(゜)「ワイはアドルフ・ヒトラー。将来の大物芸術家や」 作:名無ナナシ
第112話 それから
一九一四年 第一次世界大戦勃発
戦争がすべてをぶち壊した
僕がレールから外れたのではない、レールそのものが吹き飛んだのだ
音楽家の道は途絶え、兵隊としての道が始まった
僕に兵士という役はふさわしくなかったと思う
けど、戦友たちと同様に自分の義務は果たそうと努力した
一九一八年 クビチェク父永眠
( ¯灬¯ )
┏┛墓┗┓
父は家具職人を辞め、郊外に畑を買い、ひっそりと過ごしていた
そして絶望と悲痛の中で亡くなったと戦場で伝えられた
父さんにはもっとよい晩年を送って欲しかった
一九一九年 第一次世界大戦終結
運よく生き残った
でも、どうやって生きていけばいいのか分からなかった
音楽を楽しむ余裕など誰も持っていない
僕があれほど努力して身につけた音楽は……
誰にも必要とされない無用の長物となっていた
もはや僕一人ではどうしようもなかった
そんな時だった母から手紙が届いたのは
『エフェーディングの役場で事務員を募集しています。
市長さんが言うには
これから採用する職員には戦争中に解散されたオーケストラを新しく設立し
指導する役割が期待されると。
クビチェク、あなたにピッタリの仕事だと思います。
よかったら考えてみてください。
母より。愛する息子へ』
母が気をつかっているのは明らかだ
仕事内容を見ても、給料は少なく、芸術的な業務なんてほとんどなかった
でも他に選択肢はなかった
なによりこれ以上、母を心配させたくなかった
そして僕は役人となった
第113話 それから②
一九二〇年 アドルフ・ヒトラー ナチス党結成
一九二三年 ミュンヘン一揆 アドルフ・ヒトラー逮捕
一九二五年 アドルフ・ヒトラー ナチス党を再結成
時が過ぎるのは早いものだ
役人になってからもう十年は経とうとしていた
生活は楽ではなかったが、子供もできた
趣味…音楽に捧げる時間も少しずつだが持てるようになっていた
そしてアドルフの生存も知ることができた…
一九二八年 ナチス党 十二の国会議席を獲得
新聞を見て一目ですぐに彼だと分かった
青白くひっそりとした彼は何も変わらない大きな目を輝かせて演説していた
とても残念だった
彼も僕と同じく芸術の道を歩めなかったのだと
芸術活動を断念することが彼にとって何を意味するかを考えると
胸が苦しくなった
この間、僕は不思議とアドルフに連絡を取る気にはなれなかった
なぜだろうか…
仕事や生活が多忙であったからだろうか
それも理由になるだろう
……でもやはり、僕と彼を繋いでいたのは芸術だったのだ
このとき、僕と彼は芸術とはあまりに疎遠だった
第114話 それから③
一九三二年 ナチス党 選挙で大勝
一九三三年 アドルフ・ヒトラー 首相に就任
「お前たち あまり遠くに行ってはダメだぞ!」
『は~い』
我が子ながら素直なものだ
それにしても子供がこれほど愛おしい存在だとは……
お父さん、お母さん…
そして…クララおばさんもこんな気持ちだったのかもしれない
おっと、感傷に浸ってばかりもいられない
握りしめていた新聞の一面には次の記事が大々的に書かれていた
『アドルフ・ヒトラー 帝国宰相に就任』
今や彼の聴衆は僕だけでなく、何万、何十万……何百万人となろうとしている
まさか彼がここまで上り詰めるなんて誰が予想しただろう
僕も大人も教授も誰もできなかった
…いや、リンツの少年時代からもしかしたらアドルフだけは
こうなることを予感していたのかもしれない
そう考えると不思議と納得がいった
また、感傷的になっている
やることがあるのに…
納屋をあさってようやく
鍵がかかっている古びれたトランクを見つけた
確か、鍵はコレで開くはずだ
ガチャ
トランクの中には大きな青い封筒があった
そして僕の筆跡で
アドルフ・ヒトラーと書かれていた