人生満喫上位者in鬼門方面キヴォトスK-3   作:バージ

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まだまともにイレギュラーの説明もしていないのに、イレギュラーの中でも最も危険な四大厄災の話が先に出てきてしまっていますが、ストーリーの関係上仕方なく…。
登場はセリナ→ミネ→マリーの順番なので。



1-C1-青森ミネが見るフォースベル事件

 

トリニティ総合学園の極めて広い敷地の中、数ある大きく立派な建物の一つ。救護騎士団が所有しているその大きな建物のテラスでちょっとしたお茶会を開いていたのは、救護騎士団の団長である蒼森ミネと、ここ数日は可能な限り早く家に帰ろうとしていることを、少なくとも今のところはまだ誰にも不思議に思われていないセリナの二人だった。

例えば桐藤ナギサの様な最上位のお嬢様が友人を招いて行うときほどの費用がかけられたものではなかったが、しかし年頃の少女でもなければ胸焼けしそうなくらいにたくさんのお茶菓子が並べられている。

トリニティ外の生徒からすれば仰々しいとか贅沢すぎるなどと思われるだろうその茶会も、トリニティの中にあってはそう非日常的なものではない。

 

救護の現場においては何の意味も持たないということをミネ自身が存分に示しているのは確かだが、それはそれとしてミネは学園内の大きな政治分派の一つである「ヨハネ分派」においてかなり重要な立場にいる。

「救護」を遂行しているときの雰囲気からは大分かけ離れているかも知れないが、ミネだっていいとこのお嬢様には違いないし、決して茶会が嫌いなわけでもない。

 

「ゲヘナの星、遠星操夜さん。何度かお会いしたことがあります」

 

二人の会話の中心は、キヴォトスでも指折りの有名人。前年のゲヘナ風紀委員長にして無敵の"ゲヘナの星"、遠星操夜のことだった。

 

「フォースベル事件についてはご存じでしょう」

「アイビーデーモンが初めて現れて、そのまま厄災入りした事件ですよね」

 

大厄災アイビーデーモン。イレギュラーの中でも特に危険視されている四つの厄災、その中で最新の一つ。

異常な耐久力と成長性を持つ植物兵器であり、発生後は爆発的に成長して周囲を物理的に制圧する。高層ビルと比肩するほどの巨体が持つ防御力と耐久力は戦車以下の火力では現実的に撃破不可能な領域にあり、鎮圧するためには多大な量の榴弾の雨を降らせるか大型ミサイルを撃ち込むことが有効とされている。つまりこれが都市部で炸裂するだけでほぼ確実に多大な被害をもたらす悪魔の兵器なのだ。

この兵器が初めて使われ、四つ目の四大厄災として認知されることになった"フォースベル事件"以降、この兵器は連邦生徒会から非常に厳しく取り締まられるようになった。しかし裏ではこの種子(の劣化コピー)が密かに流通し、いくつかの学区で炸裂、厄災と呼ばれるだけの被害をもたらしている。

 

「セリナさんもご存じの通り、あの事件には私も直接参加していました。なので一般には公開されていない事実もこの目で見て実感してます……それは、あの場に遠星操夜さんが居合わせたことが最大の幸運だったということです。あるいはあの方がいたのも偶然ではなく事件を察知していたからかもしれませんが、いずれにせよあの場にあの人がもしいなかったのなら、事件が鎮圧されることはなかったでしょう」

 

超高層ビルを上回るのではと思えるほど巨大なツル植物が聳え立ち、うねり広がる太いツルと破壊された瓦礫ばかりが一面に広がる。ヘリから撮られたそんな映像が大きく取りざたされ、フォースベル事件は一時話題の中心だった。

しかしその被害の大きさや植物の恐ろしさばかりが話題になる一方、その場所で具体的に何があったのかはほとんど明かされることがなかった。表面的な部分のみをとりだたした話ばかりが人々に語られたのである。

 

「フォースベル事件で出現した最初のアイビーデーモン、"ファーストアイビーデーモン"は最近世間を騒がせているアイビーデーモンよりもはるかに危険な代物でした。それは例えばトリニティの主力が揃った程度ではどうにもならないほどに」

 

この話をするミネは救護の現場でするような真剣な表情になっている。セリナもまた「トリニティの主力が揃った程度ではどうにもならない」なんて言葉から実に大厄災らしさを感じていた。

そもそも大厄災は単独校でどうにかできるようなものではなく、状況いかんによっては単独校の被害で収まる可能性のあるアイビーデーモンはむしろ単体では驚異度が低い方だった。

 

「おそらく当時あの場にいた人であれば多くが感じていたことでしょう。あの厄災がどれほどの脅威を秘めているのかを。事件ののちフォースベル事件の被害予測を行いましたが、現実的に最も可能性が高かったのはキヴォトスの半分が荒廃する未来である、という結論に至りました」

「えっ!?き、キヴォトスの半分が、ですか?」

 

今まで知らなかったあまりに大きすぎる被害予想に、セリナも驚愕する。キヴォトスの半分だなんて話は、もはや想像することすら難しいほどの規模だった。

 

「ファーストアイビーデーモンを撃滅する手段がないわけではありません。事実上無限に成長するとはいえ、初動の段階においては破壊不可能な体積でありませんから。その段階の内に、トリニティが保有するすべての巡航ミサイルを撃ち込むとか、複数の学区から大量の弾道ミサイルで飽和攻撃するとか、三大校の全戦力を投入して総力戦を行うだとか」

 

ミネの言うファーストアイビーデーモンの撃破手段とは、あまりにもあんまりなものだった。何せそのような手段を検討するような相手など既存の大厄災くらいなもの。イレギュラーを除いて三大校の一角が持つ全戦力と比肩する戦力など、カイザーグループなどの超大企業か、同じ三大校くらいしか存在しない。

さらに言えば複数の学校をまとめて行動することのできる唯一の機関である連邦生徒会が、キヴォトスを守るために発揮する権限。脅威に対処するために複数校の戦力を指揮することのできるそれは、規則上大厄災と認められたものにしか適用されない。

大厄災アイビーデーモンが大厄災として認定されたのは、当然フォースベル事件の後である。

 

「当然これは理論上は可能でも、現実的には極めて困難な机上の空論に他なりません。……つまり現実的には対処不可能で、キヴォトスの半分が無くなっていたであろうはずの事件だったのです」

 

ミネもこれ以上深くは語らないもののキヴォトスの半分が荒廃するという予測ですら、ある種の希望的な未来予測に過ぎなかった。

この予測はキヴォトスの半分を焼き払って問題ごと解決するための準備が完了するまでに、ファーストアイビーデーモンによってもたらされる被害を計算したものだ。

中期段階まではキヴォトス全体の意思統一をすることに苦慮して被害が拡大し、後期段階においては増えすぎた対処コストと犠牲を払うことに対する躊躇と反発、これらと戦うことになるという艱難辛苦の未来。

地獄の未来予測である。それでも連邦生徒会長なら、あるいはゲヘナの星なら実現可能であるという信頼によって描かれた()()()()未来予測であった。

 

なお当時トリニティ上層部は、現実には地鎮祭がどこかで何とかしてくれるだろうという予測を、自らへの戒めの意味を込めて誰も口にしなかった。

 

「でも、それならどうして…」

 

どうしてフォースベル事件を解決することができたのか。セリナはそう口にしようとして、遠星操夜を奇跡と評した先ほどの言葉に理由があるのだと気づいた。

 

「何せ厄災です、状況分析は本腰を入れて行われました。ファーストアイビーデーモンの進行度に周辺状況の推移、各部隊の動線……分かったのは、芸術的なほどに統制され、支配されていた戦況でした」

 

信頼と共にどこか困惑のようなものを感じさせる言い方だった。

 

「当時あの場所にはいくつもの勢力が集まっていました。正義実現委員会と救護騎士団は一まとまりとしても、SRT特殊学園の複数小隊にマーケットガード、ヘルメット団に最強と呼び名の高い傭兵"テンニンカ"、そして所属不明の勢力が最低二つ。つまり最低7つの勢力が同時に同じ相手と戦っていたことになります。

そしてそのうちのトリニティ戦力、SRT、ヘルメット団、所属不明勢力の一つ。これらすべてに総指揮官の如く指示を出し、テンニンカとマーケットガード、最後の所属不明勢力には直接指示を出すことなく全体を動かすことによって制御する。そうすることによってあのキヴォトスを滅ぼしうる厄災を押しとどめた」

 

手に持ったカップの中で揺れる紅茶の水面(みなも)を見ながら、ミネが当時のことを思い出す。セリナはそんな様子を見ながら、もしかしたらその時も裏では地鎮祭が動いていたのかもしれないと思った。傷だらけで一人倒れていた裏月ヤチトの姿が思い起こされながら。

 

「あの方は事件の中心部の最も攻撃の激しい場所で一人戦い続けながら、全く異なる四つの勢力の戦力の全てに的確な指示を出し、あまつさえ元凶と自らを含めて九つの勢力が同時に参加した戦場を完璧にコントロールしていたのです。

中心部で戦い続けるだけなら、各校の最強格と呼ばれる生徒たちであればできるかもしれません*1。別々の勢力を同時に指揮できる者ももしかしたらいるかもしれませんし*2、各勢力が協力してくれるのであれば*3、戦場のコントロールも不可能ではないでしょう*4

しかしこれらすべてを同時に行うなんてほかの誰にもできるはずがありません。人間業ではありませんし、当事者である私ですら信じられない思いです。

ことが大きすぎたことに加え、事実の方が現実離れしていたために、トリニティでこのことが公表されることはありませんでした。ほかの勢力でもそうだったのでしょう…トリニティほどの詳細な分析ができたのは、おそらくSRT…つまり連邦生徒会くらいだと思いますが」

 

トリニティ情報部が本腰入れて調査した受け入れがたい真実は、つまり遠星操夜さんご本人はあの場で戦いながらすべてを把握していたという事実なのですが。そうミネは心の中で付け加えた。

 

「遠星操夜さんが姿を消して以降、死亡説などという噂もあるようですが、まずありえないでしょう。しかし単なる個人の事情でゲヘナを離れただけならいいのですが、もしあの方がそうせざるを得ないほどの問題があったのだとしたら。……それは、恐ろしいことです」

 

強くて剛毅で、恐れるものなど何もないかの様に見えるミネが、恐ろしいと口にした。セリナはそのことに驚きつつも、数日前に出会ったばかりであり、頑なに素顔を見せようとしない同居人のことを思い浮かべていた。

 

「ですので、遠星操夜さんについては私や先輩方もかなり気にしています」

 

いましたではなく、いますという明確な現在形であったことを微妙に気にしつつ、茶会は平和に幕を閉じる。

…ということはなく、いつも通りに問題は舞い込んでくる。

 

(今日は気合を入れて食べさせてあげられる夕食を作る予定だったのに…)

 

セリナは同居人に今日は遅くなるかもしれないという連絡を入れた。この日、夜に起きる事件が、後々に地獄の花が何百万人という命を奪うことになるかどうかを決める、大きな分岐点になることなど、知るはずもなく。

 

 

*1
割とできる

*2
かなり怪しい

*3
先生でもなければしてくれません

*4
できるとは言っていない





気が向いたらここすき、評価、感想をよろしくお願いします。本当に作者のモチベにものすごく影響するので。
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