人生満喫上位者in鬼門方面キヴォトスK-3   作:バージ

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1-C2-地鎮祭とゲマトリアと人形芸術家

 

トリニティの非管理地域にて、上空を音もなく浮遊している船があった。既存のどの船とも違うものの、見た人はみな船と形容するであろう形状をしており、複数のリングの内側に浮かんでいる姿はどこかボトルシップを思い起こさせる。その船の名はウェイブリンカー級飛行艦、地鎮祭が持つ強力な飛行艦艇である。

地鎮祭が独占している神秘的技術を主としており、その術式部分は他の勢力では調べてもとっかかりすらつかめない様な技術で構成されている。通常火器の届かない上空を飛行しており、目視や既存の索敵方法ではもちろんのこと、術性探査に対しても一定のステルス性能を発揮するそれは誰にも気づかれることなくこの空域に鎮座していた。

地鎮祭を除いて戦闘用の飛行艦を持つのはイレギュラーくらいなものだが、ウェイブリンガー級は最大高度とステルス性能においてはイレギュラーのそれを凌駕している。ちなみにイレギュラーの飛行艦は取れる高度の限界もあって、戦闘においてはおおよそ対空ミサイルで撃墜とされており、厄介ではあるものの同時に普通に対処されてもいる。もし科学で最先端を行くミレニアムサイレンススクールで話を聞けば、とんちきだったり不安定だったりする対空兵器をいくつも紹介してくれるだろう。安定利用ができるとは思わない方が良いが。

 

イレギュラー以外が使うには常識外れなその飛行艦の下では、六つの小隊が一部物々しい装備を引っ提げて活動していた。数日前、星上がぶつかった大規模不明勢力の痕跡調査である。可能性は低いと考えられるものの、対象の勢力と再びぶつかる可能性も考えてそれなりの戦力が投入されている。光のリングを浮かべているものと緑色の機械の四枚の盾のようなものが特に目立つ。

 

彼女達のやっていることはシンプルだ。索敵班、調査班、護衛班に分かれ、3班2班2班という数で調査を進めている。探索班はマッピングを進めつつ敵や罠の有無を確認。調査班は戦闘痕やその他の痕跡をたどりつつ、有意な情報がないか調べる。護衛班は調査班の護衛である。

機能的に調査を続ける彼女たちは高度でかつ至極まじめに各々の役割をこなしつつ、かといって深刻なわけでもない余裕のある雰囲気を共有していた。途中通路が崩落していたり、幻惑の術がかけられていたりもしたものの、それらが地鎮祭の歩みを鈍らせることもほとんどなく。むしろ術を解析し、術者が何者であるかに目星を付けてすらいた。

 

調査を行うこと数時間。しばらく進んだ先では、お互いにとって予想通りとばかりに黒服が待ち構えていた。この時点で、本作戦の地鎮祭側指揮官は作戦が終了したことを察していた。

 

「隠ぺい工作は行っていましたが…やはり地鎮祭を前にしてしまえば、蟷螂の斧にすぎませんか。クックック…それでこそ。星の手足ともなれば、そうでなければ」

 

地鎮祭とゲマトリアは友好関係とは言えないものの敵対しているわけでは決してなく。黒服は今回の件において事故と手違いがあったということで謝罪し、地鎮祭としてもそれを受け入れてこのまま撤退することになる。

 

ゲマトリアとしても隠蔽工作が効果を発揮しないことは始める前から分かっており、地鎮祭を相手に合法的にテストと実験ができるからと許される範囲を見極めてやっていたことに過ぎない。

自分から出向くわけでもなく来るのを待ち構えて妨害までしているという謝罪しようとは思えない舐め腐った行動だが、ちゃんとそこまで含めた相応の賠償が成されている。そういう大人としては当然の対応ができるから彼らは今も生き残れているのである。目的のためなら倫理は二の次だし行儀の悪い行いも厭わない危険な組織なことには違いないが。

 

ゲマトリアは利益を求めている訳ではないので、こういった組織の不利益になる行為も普通に行うことができる。そういう部分は地鎮祭とも共通しており、本来の目的を忘れて金銭や栄達のみを求めだす様なことのないゲマトリアの姿勢には地鎮祭としても一目置いていた。

 

なお地鎮祭はゲマトリアの主要なメンバーである黒服、マエストロ、ゴルゴンダ&デカルコマニーについては何かしらの面識があるものの、今まで表でそれらしい活動をしていないマグニスレッドのことまでは把握していない。作品の方向性の違いから作者が違う、つまり未把握の人物の存在を察したものの、だからどうするでもなく日常業務に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリニティ中でも人の住んでいない地域の地下空間。筆を持ったままキャンパスの前に座って考え込んでいる赤いモリゾーことマグニスレッドと、タブレットを持ち何やら作業をしているミス・ホワイトのみがそこにいる。

 

「テクスト論とは別のものだな」

 

環境音すらほとんどない静寂を割いて、マグニスレッドがつぶやいた言葉をミス・ホワイトが律儀に拾う。

 

「テクスト論。文章を作者の意図に支配されたものと見ず、文章そのものを対象として読むべきだとする思想、ですか?」

「それとは異なる、とも一概には言い難いが…ゴルコンダ&デカルコマニーの言うところのテクストのことだ。ふむ…混同を避けるためにテクスト思考、と呼ぶか」

 

ゴルゴンダが言うテクストのことをマグニスレッドはテクスト論と呼称したが、それでは実際に存在するテクスト論という言葉と判別がつかない。すぐに呼び名を改めたのは、マグニスレッドが文学者ではないため、特別そのあたりの呼び方にはこだわりがないからだ。

 

「地鎮祭は何を重要とするか、何を許容できないものとするかに一つ明確なラインを持っている。それを超えるような事件は許さない…それ以外の場合と大きな温度差がある」

 

マグニスレッドの言葉を受けて、ミス・ホワイトがその頭脳に記憶された膨大な量の過去の記録から、地鎮祭が対応した事件に対する情報を確認し、温度差を探す。

 

「確かに一学校が崩壊するような大事件でも放置することがある一方、特に被害がない事件に多くの人員を割いているいる時もありますね。でも前者はともかく、後者は仲間内で楽しんでいるだけでは?」

 

秘密主義の地鎮祭であるが、基本理念に楽しむことを重視する姿勢があることは隠していない。事件を協力して当たったことのあるものであれば、メンバーがそのようなことを口にしているのを聞く機会もあるだろう。

そのため最低限必要なだけの人員を効率よく割り振って…などということは地鎮祭は有事でなければやらない、というかむしろ真逆。ちょっとした事件を友達同士で当たったら過剰戦力もいいところになってることも普通にある。逆に楽しいからとか自己鍛錬とか縛りプレイだとかの理由で戦力不足で突っ込むこともあるので、傍から見ると分かりづらい。

 

「普段はそうなのだろう。ここで言うラインを超える事態はかなり発生頻度が低い。いや、低くなるようにコントロールしているということか…」

 

再び沈思黙考を始めたマグニスレッドを見て、ミス・ホワイトもまずは自分で考えてみることにする。

重要度を低く扱っていそうな対応を思い返してみれば、いくつか見えてくるものもあった。まず権威、あるいは表のパワーバランスをあまり重視していない。でなければいくらでも解決できるだけの力があるのに、学校一つが崩壊するのを放置しておくなんてことはないだろう。

イレギュラー事件は毎日大量に起こっていて、しかも地鎮祭の活動範囲はキヴォトス全土に及ぶ、だからやろうと思えばいくらでも仕事はある状態なのが地鎮祭だ。おそらく特別重要な…主が言うところの"ラインを超えた"案件には力を入れているが、それ以外は重視していない形なのだろう。

 

また大量の人的被害…負傷者が出るような事態でも放置するときは放置する。さすがに大厄災があるときはいつも大活躍しているが。そのままいくらかするとマグニスレッドの思考に区切りが付き、それを察したミス・ホワイトが肝心なところを問いかける。

 

「それで、そのラインとは?」

「死者が出ること。もしくは不可逆の反転が発生すること」

 

マグニスレッドは強く言い切って続ける。

 

「キヴォトスにおいて死者が極めて発生しづらいのは、そのようなルール、力が働いているからである。銃火器の使用などいくつか判明していることもあるが、依然としてその法則の真相は闇のベールを纏ったまま。ゲマトリアは研究機関として、キヴォトスという世界の法則を解き明かすことも又一つの命題としているが……」

「なるほど。星上であれば未だ明かされぬルール、真理の深奥まで理解しているはず。故に星上の作った地鎮祭の行動原理をひも解けば、真理の探究のヒントになるかもしれないと、そういう訳ですね」

 

なるほど合点がいったとばかりにミス・ホワイトがジェスチャーをした。微妙に話の腰を折られたマグニスレッドが、相方にからかわれたどこかのセミナーの大ふとももみたいな表情に…はならず、そのまま話を続ける。大人の余裕である。

 

「ゴルゴンダは青春のテクストであると言っていただろう。そのような流れが形作られると。これはゴルゴンダが キヴォトスのルールという文章を読み、如何に解釈したのかという答えを表してもいるが。それはともかく、つまりその形作られる流れを止めてしまえば、源泉であるルールの方にも影響がある可能性がある」

「治安が悪くなるみたいな?」

「端的に言えば、死者が出れば出るほどより次の死者が出やすくなる、ということだ」 

 

思うところがあったのだろう、ミス・ホワイトが目を伏せる。するとタイミングよくそのタブレットに通話が入り、いくつか会話してから向き直った。 

 

「例の箱舟の勢力に動きがあったみたいです。この目で見てきますね」

「心せよ。同じ"テラー"であることなど、保証にはならん。戦闘になれば、いかなお前とて命の保証はない」

 

マグニスレッドの常にない心配りの忠告を聞いてその場を立ち去るミス・ホワイトの目には、自らの命を危険にさらすだけの覚悟が秘められていた。

 

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