・ヤーナム、ではなくトリニティの影
3WAY火の玉を飛ばしてくるやつ、剣で近接してくるやつ、火炎放射と鞭みたいな斬撃してくるやつの三人…ではなく、ちゃんと全員銃火器を持ってます。
火炎放射器は銃火器、いいね?
夜になってもトリニティ学区の繫華街は人々と光に満ちている。しかし住宅街の方に行けばネオンに満ちた場所とは異なり闇も多くなり、人気もほとんどない。そんなトリニティにあるとある大きな建造物で、蒼森ミネはその人生を終えようとしていた。
これは日常の一幕…騒ぎが起きるのも負傷者を救護することも、いいか悪いかはともかくよくあることなのは否定しようがない。いつも通りと言っても多種多様ではあるが、概ね変わらない日常の内であるはずだった。
相対するのは、横一列に等間隔で並んだ三つの人影。一様に肌の一切見えない真っ白な外套で覆われた三人は、右手に持った武器とは別に左手で、ぼんやりしたろうそくの火が灯る地味ながら精巧な装飾の彫られたキャンドルスタンドを持っていた。
体がどんどん動かなくなっている。締め付けられるような痛みが全身を襲っていて、骨も筋肉も内臓もあらゆる場所が悲鳴を上げていた。救護騎士団である青森ミネだからこそ、余人よりもより詳細に自身の窮状を理解していた。
ついに一歩を歩くことすら困難になった青森ミネは、あまり意味がないと分かっていても放たれた弾丸をライオットシールドで受け止めた。すると弾丸が命中したところから黒い呪いのような何かが伸びてきて、体にあざのような跡を作っていく。
この弾丸は、防いだところでダメなのだ。防具だろうが盾だろうが当たったところから侵食してきて、体を蝕んでいく。雑巾を絞るように、体の内側を直接傷つけられているような痛みを思えば、体表だけでなく内側まで損傷していることは明白だった。
他の人が何発も受ければ、かなりの重症になることは避けられない。一発一発がもたらす損傷はそれほどではないものの、数重なれば非常に危険だ。しかもこの黒くてぼやけたあざのようなものは体の中に蓄積して、出ていこうとしない。分解も排出も不可能な毒を飲まされ続けているようなもので、受け続ければそれこそ命にかかわる。
青森ミネは防御力だけではなく常人離れしたタフネスをも持ち合わせているが、それすら奪いきるほどにこの蓄積する呪いは凶悪だった。
どれだけ防御力があったところで、この弾丸はそれを無視してくる。非常に高い防御力を持ち、戦い方として敵の攻撃を回避するのではなくその身で受け切る青森ミネにとっては最悪の相手だった。
死だ、死が迫っている。かつて四大厄災"赤い雪"や、"ファーストアイビーデーモン"と対峙したときにも感じたことのなかった感覚。蒼森ミネにとって、いやほとんどのキヴォトス民が、これほど目の前に死を感じる経験などありはしないのだ。
トリニティの郊外でヘルメット団とスケバンによる比較的大規模な戦闘が発生した。正義実現委員会が出動し、青森ミネ、鷲見セリナを含む救護騎士団もまた正実に少し遅れて出動した。
彼女たちは把握していなかったものの、実はこの時近くでは"慈愛の怪盗"による窃盗事件が発生していた。対象となったのは絵画などの高級な調度品も多い大きなお屋敷。持ち主はこの問題を自力で解決するために、私兵や雇った警備員などを多数配備。残念なことによくあることなのだが、正義実現委員会には連絡を行っていなかった。
戦闘範囲が拡大すると共に、結果的に複数勢力を巻き込んだ乱戦が発生し、最終的に逃げる窃盗の犯人を追う正義実現委員会の分隊を、更に青森ミネが追うという乱雑な状況になった。
そうして戦場からいくらか離れたスタジアムの様な広い建物で、窃盗犯を追っていた正義実現委員会がこの白い三人と会敵した。
正実分隊はこれと交戦するも壊滅。青森ミネが乱入し何とか分隊を撤退させることに成功するも、
最初の内は分からなかった。三人の白い影が放つ弾丸の威力は低くはないものの、ミネからすれば脅威度は低かった。しかし正実のメンバーの撤退支援のために前に出て弾丸を受け続けている内に、異変は大きくなっていった。撤退が完了するころには、ミネのダメージは無視できないレベルにまで達していた。
ミネだってただ敵に攻撃されるままだった訳じゃない。並の相手なら、ミネはその防御力を十全に発揮するまでもなく鎮圧してしまうことが可能だろう。
ミネは攻撃したし、確かに白い影に命中した。しかし、敵には何ら堪えた様子がなかった、というだけで。当たればのけぞったり吹き飛んだりするのに、血が出ることもなければ動きが鈍ることもない、それどころかダメージを受けた様子すらなかったのだ。
相手の攻撃に防御力などは意味をなさず、それどころか蓄積し続ける呪いが体を蝕み、相手はダメージを受けることもなく、しかも練度の高い三人が緻密に連携してくる。
ここにいたのが青森ミネでなかったとしても、結果は変わらなかっただろう。いいや、もっと早くにやられていたはずだ。何せ倒せない無敵の相手である、単純に銃火器だけではどうしようもない。相手の銃撃をすべて回避できるようなとんでもない身体能力を持った回避型であれば、互角に時間稼ぎも可能かもしれないが、どのみち倒すことはできない。
気づけばまともに動くことすらできなくなっていた。全身を襲う激痛は留まることがなく、そうでなくとも筋肉に直接与えられたダメージによって体を動かすことができない。
死ぬ。
このまま攻撃されれば言うまでもなく、そうでなくともこの身を蝕む呪いが無くならない限り、死ぬのは時間の問題。
青森ミネの脳裏に様々な光景が去来した。普段の救護騎士団としての活動、信頼できる後輩たちの顔、どうにも信用ならない桐藤ナギサや歌住サクラコへの警戒。一層顔色の悪いセイアへの心配と、同行する機会の多い正義実現委員会への信頼。そしてかつて戦場でみた、遠星操夜の姿。
青森ミネの心を満たしたものは、死の恐怖よりも悔しさの方が大きかった。
夢の中、トリニティが擁する真なる予知能力者、百合園セイアが独り言を放っていた。
「彼の存在の名前を、"トリニティの影"という。遠い昔、まだそれぞれの分派が統合されておらず、今のトリニティの原型を作るよりも前。とある分派における、強力な聖遺物の守護者であった者たち。戒律の守護者と言われるユスティナ信徒ともまた違った守護者、表舞台に立つことなく陰に徹し、聖遺物を守り抜いた集団。それが"トリニティの影"」
ある日、急に未来が変わった日があった。これから起きるであろう未来が大きく変わった日だった。正確には今まで見えていた未来とそれとは違う未来が重なって、ブレたようなつながりの分からないような光景が見えるようになった。
セイアは相違点を探し、そして見つけた。以前の未来では全く表に出てこず姿を消していたはずの遠星操夜がおそらくいて、いたはずの連邦生徒会長がいなくなっていたのだ。
遠星操夜については、確証がない。ゲヘナを離れて以降のキヴォトスでの活動は極めて限定的であり、また確定できない情報だ。そもそも本人自体が良く分からない存在で、彼が関わってくる場合だけ急に未来が不透明になってしまう。
ナギサが彼と親しく付き合うようになり、何度かセイアを紹介しようとしてきたとき、理由をつけて接触することを拒んできた。それは彼ほど不気味で恐ろしい存在を他に知らず、苦手な存在だったからだ。
一方の連邦生徒会長については非常にわかりやすかった。事前に見えていた未来では大々的に動いていた連邦生徒会長が、新しく見えるようになった未来ではまるで姿が見えず、また連邦生徒会自体もまともに登場しなくなっている。
セイアの未来視は限定的な場面場面が見えるようなものであり、連邦生徒会の実情など分かりようがない。しかしそれでも発生する様々な事件において全く姿が見えないとなれば、それはつまり活動していないと結論付けることができるのだ。
百合園セイアの未来視は不安定で、制御も効かない。それでも考察を重ねることで分かったことが、確定した連邦生徒会長の不在と、もしかしたら遠星操夜がいるのかもしれないという推察、この二つであった。
しかしブレて曖昧になった未来にも、いくつか共通している項目が存在する。そのうちの一つ…とある白い影のイレギュラーについて、古い資料をあさることによって、セイアはその存在の輪郭をとらえていた。
「彼女たちの扱う秘儀は凶悪な呪いとなる。その呪いは、生徒を殺すために最も必要なものを持っている。表皮も骨も筋肉も内臓も、等しく継続的に損傷させるそれは生徒にとっても脅威そのもの。さらに呪いは蓄積する。どれだけ内臓を損傷したところで、通常であれば生徒の回復力がそれを致命傷にはしない。しかし蓄積された呪いの力がひとたび生徒の回復力を上回れば、後は何もしなくても死に至る」
基本的に生徒を殺すためには、前提として必ずその生徒が長期間何もできない状態にしなければならい。しかしこの方法であれば戦闘という相対的に見れば短時間の行為によってでも、生徒を殺害することが可能かもしれない。
「影の存在故か記録も少なく、ユスティナ生徒会ほどの闇が明らかになることはなかった。しかしこの呪いの内容を鑑みれば、彼女たちが一体何のためにこの秘儀を生み出したのか、考えざるを得ない」
セイアは結論付ける。
「トリニティの影は、現実的に生徒を殺害できる手段を保有していた。それが、おそらく青森ミネを殺した」
現実世界ではない夢の中、うつむいたセイアは慣れた諦念と共にそういった。
・トリニティの影
この弾丸は間違いなく銃火器なのでマナー違反は一切ない、実際合法。
・イレギュラー
昔からキヴォトスに生息している生物や、生徒由来のものも存在する。
・イレギュラー評価特記事項
被害規模、戦力評価、対応難易度、活発性、そのどれにも当てはまらないその他の特記事項。死亡リスクについては注意・警告・危険・厄災の四段階。死のリスクの多寡は重要度が高く、危険度に大きな影響がある。例によって説明はもっと後。