人生満喫上位者in鬼門方面キヴォトスK-3   作:バージ

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1-C6-呪いは割り勘で

 

数台の救護車と救助された正義実現委員会の面々、そして救護に当たる救護騎士団の面々がせわしなく行き来している。その様子からは夜でも明るく熱量が感じられる。

そんな臨時の救護拠点から、こちらの到着をいち早く察知したセリナが駆け出してきた。

 

「ヤチトさん!」

 

ミネの救出は成功してセリナの元までたどり着いたものの、危機は完全には去っていない。ミネの体には相変わらず呪いが残留していて今なお体を傷つけているし、いくらセリナでも呪いの解除方法なんて分かるわけがない。

 

「セリナ、ポラリス」

 

人差し指をセリナの唇に触れないギリギリの位置に立て、静かにのジェスチャーをする。ヤチトはもともと偽名だが、外ではその名前も出さずにポラリスと呼ぶように前から言い含めてある。セリナは少しだけ照れた様子をすぐに消して話をつづけた。

 

「すみません、ポラリスさん」

「シスターフッドの上層部と今すぐ話せないか?解呪の知見がありそうな第一候補がそれだ、調べれば何か出てくるかもしれない」

「え!?シスターフットですか?私には…他の人に聞いてみます!」

「ミネについてはとりあえず任せて。シスターフッドには現場にいた正実の人に敵の容姿や術について説明してもらって」

「はい!」

 

シスターフッドの上層部の連絡先なんて持っていないセリナだが、すぐに通信を始める。正実の指揮官なら誰かしら連絡先くらい持っているはずだ。当然ミネであれば持っていただろうが、さすがにもう気絶していた。

 

救急車両の中のタンカに乗せたミネの服を少し苦戦しながら肌着まで脱がせ、体と呪いの状態を確認する。これから自分の体の呪いを使って解析もするつもりだけど、ミネの方を見ないと。詳しいことを調べてる余裕はなかったからまだチラッとしか見てないし、一度ミネの状態から猶予を調べて、話はそれからだ。

 

改めて確認してもやはりトリニティの雰囲気というか同じ匂いを感じる術だが、私はトリニティの過去になんて詳しくない。こういうのは多分トリニティではシスターフッドの出番だろう……技術的な内容が残っていなくても、解呪に必要な手順だけなら分かるかもしれない。

 

何よりもほかの学校に経験を与えるべきで、地鎮祭が過保護になりすぎるのはよくない。特にトリニティの様な強力な学校には可能な限り自衛してもらうべきだ。

地鎮祭がトリニティ校区での活動に消極的なのはそういう理由もある。そもそも自力では何とかできないような者たちを助ける方が地鎮祭のスタンスに近く、トリニティですることがないのは当然の話である。

 

とはいえトリニティ内部で留まらないような問題となれば話は変わるし、こちらもするべきことを進める。

地鎮祭が実践的な神秘組織と言っても、特殊な呪いの解除方法なんてピンポイントには出てこない。汎用的な解除方法がないわけではないが、詳細が未知数な状態で今のミネに使用するのはよくない。

解析して解呪方法を作るだけの時間が残されているかは…たぶん行けると思うけど、それよりもっと安全な方法をとるべきだな。

 

安全最優先で…ミネの体内にある呪いを、私の体に移す。体に広がるこの呪いは流動的だ、密度の高いところから低いところへと流れる。そういう仕組みで全身に呪い行き渡っている訳だ。だからミネに密着した上で私の肉体もまたミネの肉体の内だと錯覚させることができればいい。

呪いそのものに干渉する難易度が高くても私自身の肉体ををミネの体に近づければいいだけで、そうすればミネの体内の呪いが勝手に私の体に流れてくるわけだ。

 

戦闘で受ける分は体に入る前に大部分を相殺したから、私の体に蓄積している呪いはほんの少しだけだ。私の肉体をミネと同調させれば、呪いは高い方から低い方へ、堰を切ったように流れ込んでくるだろう。

…私が体内に入る前の呪いを防御すること自体は普通にできるのだ、正常じゃない外からの干渉は常にはじいているし。そうでなくても雑な無差別攻撃による構造破壊で敵の攻撃を攻撃することができる。でも一度体内に入っちゃうと一気に難しくなる…雑に攻撃したら当然自分の体ごと傷つけてしまうから。

 

「ポラリスさん、つながりました!」

 

そういって走ってきたセリナをみて、念のため話す前に外套の音声欺瞞効果を発動させる。会話内容も意識して減らす。シスターフッドは実態は知らないが、素直な組織でないらしいことは聞いている。

通信端末を受け取り、小さめのホログラムで相手の姿が映し出される。

 

「はじめまして。シスターフッドの歌住サクラコです。地鎮祭が誇るポラリスのお方でお間違いないでしょうか」

「ポラリスに違いない。状況は聞いたかい?」

「はい、ことは一刻を争うご様子、簡潔に申し上げます。症状については確かにシスターフッドの資料に残っており、解呪も可能です。しかしそのためには儀式を行うための準備と時間がかかり、完了までには丸一日必要になります」

 

早いな。偶然か、初めてじゃないのか、それともセイアから何か言われていたとか?

 

「つまり間に合わないか。何か代案は?」

「シスターフッドでも全力を尽くしておりますが…面目在りません」

「いや、むしろ想定外の早さだった。時間をかければ何とかなるなら、その時間はこちらで何とかする」

「ポラリスお方の献身に感謝いたします」

 

サクラコが真摯に頭を下げたのを最後に、通信を終える。これで車両の中はミネを除けばセリナと二人きりになった。さすがに車両内に監視装置なんてついていないと思うが、あったとしてもこれからすることは見られても問題ない。

しかしあえて言わなかったものの、シスターフッドの動きがあまりにも早すぎる。事前に何かしら知っていたかのような早さであり、こういう時は予知者であるセイアが怪しい…のだが。それにしてはいまいち間に合っていないし、不審な点がないでもない。

 

「ミネの体にある呪いを、できるだけ私に移す」

「でもそれだとポラリスさんが」

「ああ、でも私の方は自力どうとでもなるからね。半分も受けいれればミネは自然回復が追いつくから、大丈夫」

 

セリナが心配そうにしているが、まあ確かに私だって体が治ってもいないのに、ダメージをおかわりする形になるのは良くない。

でもどうせこちらも自分の体でじっくり呪いの解析をするつもりだから、別に悪い話でもなかった。こちらが使うことはないにせよ、似たような攻撃を受けたときにいつでも解呪できるようにはしておきたいし。

 

「何か、できることはありませんか?」

「入院期間追加で厄介になるよ?」

 

そういうとセリナは驚いたような顔をして、すぐにこういった。

 

「いつまでも一緒にいてくれていいですから」

 

冷静に考えると、ん?となるセリフだったが、この時はスルーして呪いの対処に取り掛かった。

ポラリスの外套でお互いを包み、密着して作業したが、傍から見たら抱き着いているようにしか見えないか。

とはいえ呪いそのものが同一の人間であると誤認するほど波長を合わせるとなれば、それなりの高等技術と集中力が必要になる。

ゲマトリアの様に神秘の解析を行う者であれば技術力の高さに感嘆の声をもらしたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:シ×××服の恐怖

 

見間違えるはずもありません。見落とすことなどできはしません。

それは平地にそびえる雄大な山であり、晴れ渡る空に唯一浮かぶ太陽の様。目を引いてやまない、それ以外に意識する価値のあるものなど何一つありはしないのだと。

それが、それが、私たちの元まで下りてきて、手を差し伸べてくださるなどと、望外の喜びです。それに対して何事かを申そうなどと、身の程を知らぬにも程がある。

 

その姿は隠されており、我々のような狂った存在でなければ確かに分かりはしないものなのでしょう。でも私たち、いいえ、私にとっては明確です。

 

何度もそうしたように、星の海の中、方舟の上で見たあの時を鮮明に思い出せる。

たった一人大いなる彼、星上を殺すために、複数のテラーが全力で戦っていた。群れている方は一人一人が私と比べても遥かな格上ではあったけれど、まだ納得できる範囲にいた。

 

その能力は攻め手でいえば、例えば、瞬間移動先にもともとあった物体を消滅させるタイプのテレポート。大陸を丸ごとテレポートさせることで、一瞬で超広範囲に避け得ぬ消滅をもたらしていた。

例えば、あらゆるものを原子レベルで分解する能力。一般的な攻撃とは性質が異なるために、力の強さなど関係なく尋常な物質であれば例外なく消えてなくなる。

 

受け手でいえば、例えば、被害のすべてを別のものに押し付けることによって、自分は一切のダメージを負わない能力。例えば、肉体の時を止めることによって、一切の変化が起こらなくする能力。例えば、自らの死すらもなかったことにして、死んだ後からすら完全な状態に戻る能力。

 

いずれも私などでは敵わない、格上の力を持っていました。それでも星上からすれば、すべからく平等に塵芥…いいえ、見下ろすものにすぎません。

あえて相手に能力を使わせて十分に相手をし、これを褒め称え、アドバイスを与えるように利点と欠点を指摘し、打ち破るための具体的な方法を示唆し、そのうえで実際に対処して見せる。

その採点と指導を…戦いを知覚していた私たちを咎めることもなく…その瞳は慈悲深く、神々しく、私たちが何を信じ、何を崇め、何のために生きるべきかを一目で理解させていただける。

星上がそこにあることが至上の幸福であり、その瞳に映ることは無上の喜びであり、人の及びつく限りを超えた慈悲と救済です。

 

私たちにその資格などなくとも、星上のその指先で世界に終焉をもたらしていただけるのであれば、これ以上の幕引きなど存在しない。なんて狂おしい…もしも直接出会ってしまえば、我慢できる気がしません。

 

ああ、星上。愚かなる私をお許しください。

 




・狂人の洞察
正気無き者は時に正常な人間には到底把握しえない情報を理解することがある。

主人公以外のオリキャラ(主に地鎮祭の)について、どのくらい詳細に描写するかのアンケートです。あまり前面にオリキャラを出しても…と思いつつ、物語を厚くするならある程度はするべきでもあり。

  • 全体的にガッツリ詳細まで記載
  • しっかり
  • そこそこ
  • 少なめ
  • どれでもヨシ!
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