予言者メルフィーズ(ライトブリンガー)的な
森の中の遊歩道を歩いていると、うっすらと結界…というか異界への入り口があることに気付いた。こういうことにも知識のある身からすれば、そう驚くことじゃない。この場所に調和した自然的な様子を見るに、昔からある自然の一部の様なタイプだろう。
「異界の入り口だ…入ってみようか」
どこにでもあるようなものじゃないけど、ある所にはある、そんな感じのものだ。特に嫌な感じも拒まれている様子もないから気楽に入れる。
「異界ですか?」
「うん。セリナは経験ある?」
「いえ…というか、異界とは何でしょうか?」
普通に知らなかった。イレギュラー戦闘の前線によく行く人なら…というか何なら一般人でもちょっとした異界に飲まれた経験があってもおかしくない。ただし異界を知っているか、認識できるかは全く別の話なわけだけど。
「現世と異なる別世界的な…少し違う場所にいるってこと。吹雪の山とか、悪霊の家とか、アバドンワームとかが使ってるんだけど」
そういうとセリナが少しの間考えこむ。
「あ!イカイカダンサーズのもそうですか?」
「…確かに合ってるけど、すごい奇妙で愉快なチョイスしたね」
イカイカダンサーズはこう、不思議枠のイレギュラーというか。小学生サイズのイカ達が舞台の上で謎のダンスを披露するだけの謎すぎる何かだ。実害もほとんどないけど神出鬼没で、マジでどこにでも発生しうるし会場を選ばない。というかあいつらが躍る場所が異界化して会場が生えてくる。
短時間とはいえ一般人には回避不能の拉致をくらうから、被害が皆無なわけでは…まあ。ぶっちゃけ謎過ぎてイレギュラー扱いされてるだけだ。
これも包丁の危険度は持ってる人間によって決まるみたいな話で、異界拉致は悪意があるものが使えるなら相当危険な現象なんだけど、イカイカダンサーズが全く危害を加えないから危険じゃないという話なんだよね。
キヴォトス全体で見れば経験者も結構な人数いるはずだけど、それで何か損失を受けたという話は聞かないから、実はかなり配慮してやってる可能性も少なくない。
「それじゃあお手を拝借。危険はなさそうだけど、一応ね」
「は、はい!」
少し緊張した様子でセリナが私の手を取る。
言った通り万一に備えてのことだ。異界で分断されるのはいろいろ危ない。もし何かの間違いで二人が分断されそうになっても、私ならやりようがある。手をつないでいれば安全だ。
二人で手をつないで異界の中へと侵入すると、そこはやはり今までと同じような森の中だった。ほとんど外と地続きに近いのだろう。
「もう、入ったのでしょうか?」
「だね。ほら、遊歩道が見えなくなってる」
そんなことを話しながら少し進むと、木の生えていない広場に出る。中心にはゴツイロボットの人間大の石像がある。そこには十匹前後の色とりどりの毛色をしたウサギのような生き物が戯れていた。
「メルフィーです!すごいです、初めて見ました。たまーに運がいい人だけが見つけられるんですよ!」
「多分、普段異界にいるからあまり見つからないんだろうね」
メルフィーは謎に包まれた不思議生物ではあるものの、イレギュラーではない。イレギュラーは謎であることもそうだけど、一番は危険があったり被害をもたらす存在であることが条件だから。それでいうとイカイカダンサーズはギリギリだけど。
メルフィーはこちらを見つけると近寄ってきて、ピーピーと鳴きだす。その様子だと何か伝えようとしているかのようだ。
「ふむ。セリナ、ちょっと失礼。ウルス・思略交感」
動物会話の祈祷を発動する。これは人間以外のある程度以上の知能のある生物と意思疎通することができる、言葉を介さぬコミュニケーションだ。内容的には一応翻訳を間に挟んでいるものの、意思を直接伝え合っている状態と言える。
動物に人の言語を話させるようなことはできない…人間とはあまりに構造が違いすぎるから。人間が持つ普遍的な概念を共有していないし、世界の見方も感じ方も違う。
それでも話そうと思ったら、動物の意思を人間の概念に合わせて意訳して生成した言葉を発することになるから、それはもうAIと会話しているようなもの。本当に人と人らしく会話させようと思ったら、自分か相手をかなり改造する必要があるだろう。
またこの祈祷術でどの程度のコミュニケーションが取れるかは相手によって変わってくる。当たり前だけど種族が違えば中身も違うし、成長段階によっても差が出てくる。種族が同じでも住んでいる地域が違えば全く別物だったりもするし、この術の高性能化は難易度が高い。
今では多くの動物に対して専用の翻訳プロトコルが用意されていて、普通の動物となら大体いい感じに意思疎通がとれる。メルフィーは普通の動物じゃないわけだが。製作者(中身も名前も私じゃないぞ)の熱意が感じられるバージョンアップの多さをしている。
えーと何々?これは…どっかで悪いことが起きようとしているから、その警告だな。「恐れよ 血の匂い纏いし災いの神 この地に舞い降りん」*1とか、「黒い森に恐ろしい怪物が現れる」*2とか。「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」*3…は違うけど。
ただこれは予言じゃなくて、メルフィーが観測した情報から導き出された予測だな。特定の動物は人間よりも遥かに早く天気の移り変わりを察知するみたいな、そんな話だ。信憑性はかなり高い……翻訳の精度やメルフィーの生態を考えれば、おおよそちゃんと人間にとっても悪いことであると考えていいだろう。"悪いこと"の定義から考えさせられるから異種間翻訳は難しい。
「えっと…ヤチトさん、これは?」
「人以外の生物とコミュニケーションする術。急にかけちゃってごめんね」
「動物と話せるんですか!?」
「話せるというか、意思疎通する感じかな」
セリナにも一緒に祈祷術をかけたので、困惑の声が飛んできた。意思だけが送られて来るのは初めてだと誰でも戸惑う。
それで、話には続きがあって、一つ一番ヤバいやつがあると。なるほどー、メルフィー的ヤバいがどんなもんか、聞かせてもらいましょうか。え?数年前にあった黄濁ののたうつ風がキヴォトスに流れ込んだ時と似たような感じ?ふーん。へー。ほーん。
ヤ バ い。
いや、でもどうだろう、場合によるか。とりあえずセリナがこっちを見ているので先にそちらに答えよう。
「あぁ、いや。昔あったんだ、わざわざキヴォトスの外からきてキヴォトスごと自殺しようとしたやつ。いや、あれは他所で無理心中に失敗したからここでやり直したのか…まあ、大した話じゃないよ」
実際話す価値ない話だ。ちょっとキヴォトスが滅ぶかもしれない程度の、どこにでもある話。こちらの言いたくなさそうな雰囲気を察してくれたからか、セリナはそれ以上は聞いてこなかった。
まあなんにせよ、そこそこ近い未来に特定の場所で、このままだと何か起こることは確定そうだ。聞いている感じ、割と危なそうな話も含まれているけど……とりあえず今日明日の話じゃないから地鎮祭に情報共有しておく感じでいいだろう。
この話は適当なところでやめて、普通にメルフィー達と遊んだりしてその場ゆっくりしていると、ふとセリナが思い立ったように言った。
「…もしかして今って私たち以外誰もいないんでしょうか?」
地鎮祭には風上コウイという生徒が設定上存在します。
それでその話をここで話す構想もありましたが、やめました。というのもクトゥルフ神話要素はそれっぽいものを出すことはあっても、そのものは存在しないという設定なので、ちゃんと設定を守らないと。
ゾッシーとかバイキーとか地獄の花とかそれっぽいものは出てきますが、あくまでそれっぽいものなので。
主人公以外のオリキャラ(主に地鎮祭の)について、どのくらい詳細に描写するかのアンケートです。あまり前面にオリキャラを出しても…と思いつつ、物語を厚くするならある程度はするべきでもあり。
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全体的にガッツリ詳細まで記載
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しっかり
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そこそこ
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少なめ
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どれでもヨシ!