星上は真面目に人生楽しんでるので、苦戦も敗北も逆境も強敵も楽しめる。それが友人などに降りかかるのであれば割と助けに入る。
極彩色で埋め尽くされた空間の中を水をかき分けるようにして進む。はたから見ればスムーズに進んでいるように見えても、それは例えるのなら水中で息を止めながら連鎖ぷよぷよを積み上げていくかのような難事だった。
一瞬でも早く息継ぎをしたいと願うような、心も体も苦しみ抜く道を選んだことに後悔はないが、それはそれとして早く終わってほしい。
キヴォトスの外、木端微塵に破壊したアトラハシースの方舟の上で、時空の奔流を感じ取ったあの時に…みんなが知っているようで知らない連邦生徒会長が、命をとしてキヴォトスをひっくり返したことが分かった。
キヴォトスの世界の中では時間を巻き戻したようになっていたけど…タイムパラドックスがどうとか、世界をまたいだ場合の時間逆行の影響はどうなるのかとか、そういうくそヤヤコシイ話はキャンセルだ!
結局今回の場合私であれば介入できるという事実だけが重要である。
私こと遠星操夜の能力はちゃんと人間の世界でもうまく生きていけるように、おおよそ状況や相手に合わせて段階的に出力が変わるようにしている。
百万の軍勢が相手なら、百万の軍勢と勝負ができる能力に。世界を滅ぼせる敵が相手なら、自分も世界を滅ぼせるだけの能力に…なんてそんなうまくはいかない、なにせ初期設定したときには加減がわかってなかったからね。
フェイズ1、フェイズ2なんて複数段階に分けてはいるけれど、かなり大雑把な枠組みしか持たないせいで融通が利かない。だから詰みは発生しないけど、楽勝や苦戦、大苦戦も普通にあり得る…人生ってそういうものだしね。
この鬼門へと進んでしまったキヴォトス周辺の世界はすべて、危険な魔のエリアの中にある。キヴォトスから出て付近を適当に移動していれば、例えば反転した元生徒なんかを普通に相手にすることもある。
キヴォトス内部に住んでいたころは最弱設定のフェイズ1で過ごしていて、上がることはそうなかった…でも外に出てしまえば話が違う。反転した生徒の危険性を考えれば分かるように、私は常時フェイズ2状態で過ごしていた。
超大勢の反転生徒からなる軍勢を相手にしたときなどはフェイズ3にまで到達し、直径100km級の天体を消し飛ばしながら戦闘したこともある。
今の私はフェイズ2、つまりその辺の島くらいなら軽く消せるけど、惑星は消せないくらいの出力。キヴォトスを出て自力で世界間移動をしていることもあって、時空間についてもある程度の干渉が行える能力がある。
おかげでうまいこと曖昧になっている時間の流れの中を突き進んで、ある程度たどり着くべき時点へと到達することができた…不可能なら不可能でフェイズが上がって解決するけど。
ただしできたからと言ってそれは簡単になせたわけじゃなくて、先に述べたような苦しみを押して泳ぎ切り、到達したころには全力を出し切った後の満身創痍であった。たどり着いたらたどり着いたでキヴォトス内部でのデフォルトであるフェイズ1に自動で変更しているし。
キヴォトスの通常空間へと到達しどこかの人の手の入った地下空間に出た後は、深呼吸もそこそこにすぐに情報の収集と隠蔽に乗り出す。
かなりのリソースをつぎ込んでギリギリのところでこの場所に到達した以上、先の動作の隠匿に割ける余力もなく、キヴォトス内部の何者かがが異物の侵入という形でこちらの存在を察知していてもおかしくない。
連邦生徒会長がこれだけの大事を起こした以上、それこそキヴォトスを滅ぼすような何かが起こったと考えるべきであり、その仕立て人は過去であるこの時点でも密かに準備を進めていたと考えるべきだ(もちろん敵が外からポンとやってきてサクッと世界を蹴とばしていったなんて可能性もあるけど)。
こちらの目の届かないところで潜伏していた見えない敵と戦うことになるかもしれない以上、こちらの身元は隠せるだけ隠しておきたい。
私の姿は肌を一切出さない地味な服に、普段使いとは別の銃を持ち、視界を確保しつつも顔を隠せるように作られた狐のお面をして、深々とフードをかぶっている。
正体を隠すためとはいえまるで不審者というか、どっかの忍里の暗部みたいだが、まあこの程度の恰好ならそう通報もされないだろう…ゲヘナや百鬼夜行なら没個性なくらいだ。
いくら超人と呼ばれる連邦生徒会長と言えども一年以上の過去改変なんて荒業はそう何度も打てはしまい、というか一回きりと考えるべきだ。もはや次はない。
この時間逆行の性質上黒幕がいたとして元の時間の情報を有している可能性はかなり低い…とは思うが。悪いほうに想定するなら黒幕は前週の記憶を有していて、しかも当の連邦生徒会長は記憶を継承していないというパターン。この場合は黒幕が最大の敵である連邦生徒会長を事前に討ちに来るかもしれない。
いや、もし会長がかなりの無茶をして術を発動させたのであれば、現時点で連邦生徒会長が健在なのかどうかすら怪しくなってくる。もう連邦生徒会長は死んでいて、最悪の場合過去であるこの時点に存在すらしないという可能性もあり得る。
ただ正直なところやっぱり、何かしらが起こったという事実だけなら察知できる者がいたとしても、記憶を有している者は存在しないと考えている。なぜなら、それができてしまうのはキヴォトスのルールが指定している範囲を逸脱しているからだ。
曖昧な状態の過去に記憶を持ち込むなどという芸当は、キヴォトスを滅ぼすことなんかよりもはるかに難易度が高い。このキヴォトスのルール上、キヴォトスを滅ぼせる程度がギリギリ許されている上限であり、これを超える能力は存在しえない。あったら現在のキヴォトスの方が正常に存続できなくなる…というか何かしらの影響が私にわかる形で現れるはずなので、今まで大丈夫だったということが逆説的に証明となる。
私だってキヴォトスに到達した時点で世界観相応のレベル…に十分なマージンを取った、フェイズ1まで能力を落としてる訳だし。何ならリソース尽きた状態で能力まで相応に落ちてる今、自分の心配をした方がいいくらいには危険な状況だ。
そして運が悪いというべきか、そんなものだと割り切るべきか。
地下の建物を探索しながらも神経を研ぎ澄ませていた私の元に、悪い想定の通りに敵が現れてしまった。ぞろぞろと大量に現れたのはあまり光も反射しないような真っ黒な頭をした、全身赤黒スーツの人型達。
荒れ狂う時空間を渡り疲労困憊の状況で、そこがいったいどこかもわからない状況で、どこの勢力ともしれない他数の敵との厳しい戦いが始まった。
「ハァ………ハァ………」
通路の曲がり角に駆け込み、逃げたと見せかけてリーンしてスナイパーライフルを撃ち、敵を一人撃破する。すぐさま身をひるがえすとタッチの差で多数の弾丸が元居た場所を通り過ぎて行った。
ランダムに方向を変えながら走り、時折狙い撃ちして一人一人敵を撃破し、そしてまた走る。もう三時間は戦いを続けているのに敵の戦意が揺らがない。
激戦だ。こちらもかなり撃たれている、血が足りなくなるかもしれない。
クローンヤクザみたいな量産型のやられ役の雰囲気を出しているくせに、一体一体の戦闘力が見た目よりも大分高い。身体能力も、戦闘技術でも、武装も、連携でも結構な位にある。
トリニティ正義実現委員会やゲヘナ風紀委員会といった上位層の治安維持隊員と比較してもなお明確に強い。それはつまり一般兵という枠組みの中ではどの学園のそれよりも強力であると言える。
これだけの戦闘力があるなら大人の本職の兵隊を上回るし、ある程度の人数がそろえば、最上位以外の生徒が相手なら大体勝つことができるだろう。
というかそもそもなんなんだこいつらは?イレギュラーっぽいし、いまいち意志を感じないから人じゃないのは分かるが、AIが組み込まれているのか?それともイレギュラーらしく有機物とは別の在り方をしているのか。相対した感じ敵の統率者の意思は感じ取れるから、そこは人に準ずる存在のはず。
リソースがないからマジで必要最低限の探査術しか撃てないし、それどころじゃないから詳しいことが分からない。
時間軸的には私がキヴォトスを離れてから大して時間が過ぎてない訳だが、ゲヘナ風紀委員長としてしっかり情報収集していたはずの私でさえ見たことのないイレギュラー部隊というのも不気味と言わざるを得ない。
メインにスナイパーライフル、サブにハンドガンという装備で移動しながら戦っているが、スナイパーライフルをクリーンヒットさせても気を抜くと一人を倒しきれない。ハンドガンに至っては3、4発は当てないと撃破するに至らない、これだけの戦力なら三大校だって欲しがるだろう。
逃走経路には真面目にフェイントを仕掛けないと回り込まれるし、部隊ごとの連携もしっかりとれている。戦力把握のためにもカウントは続けているが、すでに300体以上撃破しているのに未だに底が見えないのも不気味である。途中何度か数を生かした包囲を受けたが、壁をぶち抜いたり5階層分の上下移動をしたり加速で突破したりで切り抜けている。
少なくともこちらがわかる範囲では会話もないし、恐れも迷いも見られない。真っ当な生物じゃないのは確かだが、完全な意思統一がなされ、戦場に迷いを持ち込まないというのはそれだけで強力だ。
私も何とか戦い続けているが、ヒナをはじめとして最強クラスの生徒でもなければとっくにやられていたことだろう。
走り回りながら把握している限り、場所は非常に広大な地下施設。相当な大きさと建造物の雰囲気からしておそらくはトリニティの未踏破空間だろう。人のいないイレギュラーの巣窟になってる地下施設なんてキヴォトスに数えきれないほどあるから、確信はないけど。
相当な距離を走り回っていて、これだけ移動できていること自体場所運はよかったと言える。一般人を巻き込まずに済むし、壊しても気にならないというのは助かる。
いや、これだけ人のいない場所であることを考えると、もしかしたら相手の拠点の近くに私が現れてしまったという可能性もある。それなら急に攻撃されたことも執拗に追われていることも納得できる。
ゲヘナのアビスもそうだが、キヴォトスには魔界か何かかと言いたくなるくらい全く全貌がつかめない未開の地があるからな。
今度は吹き抜けのエントランスの二階部分の様な場所に出た。向こう側まで30メートルは在ろうかという距離を一足で飛び移る。
その瞬間、ビナーの主砲ビームを思い出すような巨大な一撃が撃ち込まれた。なけなしのリソースをすり減らして二段ジャンプ緊急回避を行い、直撃を避けることができた…今のはたぶん大型のレールガンによる一撃だろう。ただ、今のレールガンで赤熱した建造物の破片を食らったせいで…どうせ重症の傷だらけなんだ、今更やけど跡が増えたくらいなら誤差だよ誤差!
急所や足といった重要部位は守り切れているが、そうでない場所はボロボロの血だらけだ。まずい怪我だけは気合で止血しているが相当な量の血を失っており、いずれは失血によって戦闘力を喪失する。そうなる前に事態を打開しなければならない。
ちらりと白くて長い髪が見えた…多分レールガンの撃ち手だろうけど、今は逃げ切るのが先決だ。
私は走り続けた。
・イレギュラー評価・戦力評価について
2:一般的な学園が持つ正規兵の総戦力
3:一般的な学区内の大人を含めた総戦力
6:おおよそキヴォトス内のすべての戦力以上(イレギュラーを含む)
戦力2.5は学区が墜ちてもおかしくない戦力だが、このキヴォトスだと割と出てくる。