人生満喫上位者in鬼門方面キヴォトスK-3   作:バージ

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1-E4-不思議な森の広場に二人で

 

 "ヤチトさん"と初めて出会ったあの日。怪我人の存在に気づいてすぐに向かった私が聞いたのは、どこかで聞いたことのある言葉でした。

 

「アドラー…」

 

 その言葉を、どこかで聞いたことのあるようなその声をどこで聞いたのか、考えている暇はありません。見ただけでその出血量からかなりの怪我だと分かるほどだったのに、服を脱がせたらは想像よりもずっと酷い有様だったことを思い知らされました。

 私が救護騎士団に入ってから、初めて見るかもしれないほどの重傷です。いったいどうしてハッキリと意識を保っていられるのか。

 これだけの怪我をしていて、これだけの血を失っているにもかかわらず、この方はまるでそれを感じさせなかったのです。

 

 何とか手当をしながら少し話している中で、彼は私を突き放すようなことを言いました。大丈夫なのだと、けがは治せるのだと、自分にかかわるなと。

 彼の声を聴いていて、仮面越しにその瞳を見ていて、私はミネ先輩のことを思い出しました。強い人は……強い意志を持っている人は、ほかの誰かにもその意志の強さを感じさせます。仮面の奥に見えるその瞳と、ミネ先輩の瞳は同じものではありません、けれど強く感じさせられる何かがあるのは同じでした。

 

 彼が見つかりたくないのだということが分かりました。

 彼が私を巻き込みたくないのだということが分かりました。

 彼が自分の怪我を何とかできないわけではないのだろう、ということが分かりました。

 彼の強さとやさしさと、私を拒絶している訳ではないのだということが、私には分かりました。

 

 彼はすごく強い人で、そんな人がこれほどの怪我をした。それもトリニティの中で。

 危険なことは分かります。でも、助けたいと思ったんです。

 

 だから私は、私の部屋に彼を連れて行きました。

 はい、軽はずみな行動であることは否定できません。でも、私のことを知っていたこともそうですけど、この人は私が会ったことがある、あるいは知っている人であるような気がしてなりませんでした。

 

 ところで話は変わっているようで変わっていないのですが、ゲヘナの風紀委員長である"ゲヘナの星"のうわさはトリニティにも轟いていて、その中に異色のものが一つあります。それは落ち込んでいる人を自宅に連れ込んで、甲斐甲斐しく世話をした、というものです。

 おはようとおやすみなさいのキスをして、髪を整えて、手料理をふるまって、一日を共にして、寂しいときは気のすむまで慰めてくれるとか、なんとか。まあ、その、根も葉もないうわさというか、ロマンス的な尾ひれがついて流行したというか、はい。

 違います、違いますから!大事なのはそこじゃありません!ゲヘナの星、遠星操夜さんのことです。

 

 ヤチトさんが最初に言ったアドラー、という言葉。どこで聞いたのか考えて、落ち着いてから考えたらすぐに分かりました。今思えば、彼を自宅に連れて行った理由の一つにはそのことがあったのだと思います。

 

 かつて私のことをアドラーと呼んだのは、ゲヘナの星、そう呼ばれるようになるよりも前のこと。かつての遠星操夜さん、その人でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その…一つ、どうしてもお聞きしたいことがあったんです。操夜さんは、どうして戦うのでしょうか」

「…それは、私個人の動機の話?」

 

セリナが頷く。まあ聞かれても仕方のないことか。

 

「よくある話だけどさ。何か大きなもののために戦った人っていうのは、幸せになれないことが多いんだ」

 

 実際、そういう傾向のある生徒はそれなりに存在している。かつてのヒナなんか特にそうだったし、連邦生徒会にはキヴォトスの為に滅私奉公……というと正確ではないかもしれないけど、大した報酬もないのに働いている人たちが少なくない。

 自分を消費して破滅へのカウントダウンを伸ばした連邦生徒会長とか。今までいろいろなことをやってきた訳だけど、果たしてペイできたのだろうか……成してきた功績にふさわしだけの、何かを。

 

「これは、私が地鎮祭を作った理由の一つでもあるんだけど。

 前提として、現行キヴォトスはいくつもの崩壊の危機にさらされている。キヴォトスを滅ぼせそうなものはたくさんあるし、実際に滅びそうになってた事態を何度も食い止めてる……つまり現実として、誰かがキヴォトスを救わなければ、何回滅んでいるか分からない。」

 

 ファーストアイビーデーモンのフォースベル事件もそうだけど、早めに対処しないと最終的にキヴォトスがヤバい案件は少ないながらも確実に存在しているからね。

 

「でもね。世界を救えるかもしれない力を持っている人が世界を救わなきゃいけないって考え方は、私は特に嫌いなんだ。

 世界を救うということが天秤に乗せられてしまえば、もう片方に何を乗せたところで釣り合うことがない。正義も友も愛も幸福も、すべてが世界と比べられれば些事へと貶められてしまう。

 世界でなくても大きなものを救おうとするとき、大義を成し遂げようとするとき、個人の幸せは犠牲にされる。全体のために誰かが犠牲になって、それだけでなく成し遂げはずの人が報われない…それを良しとするかは人それぞれかもしれないけど、私はそういうのが嫌いなんだ」

 

 それについてはホントに価値観次第だとは思うけどね。好きで楽しくて自己犠牲してるなら特にいうことないし。そうでないのにそれを強制されたら地鎮祭的には殴り返すけど。

 地鎮祭が表に出ないのは、そういうしがらみに囚われないでいるためでもある。

 

「だから地鎮祭の理念は、まず自分を助けることを第一としてる。私たちは決められた正義ではなく、人助けも世界を救うのも趣味で行う、趣味人の集まり。なすべきことのために、身を削ってしまう人たちを…陰ながら手助けする。

 私たちは利用されないし、自分を犠牲にしない。それでダメなら仕方がない」

 

 ちょっとクサいセリフだけど、言うべき空気ってものがあるし、セリナがそれをどうこう言わないだろう。世界の危機がポップしてくるのは残念なことに事実だし。

 

「その上で私が戦う理由は、好きな人たちのため。報われてほしいと思う人たちのためなら…あるいは私が報いになってやる。それが理由、かな」

 

 もしかしたらこの気持ちは、セリナが誰かを助けたいと思う気持ちと、少し似ているのかもしれない。

 

「操夜さんは……本当に優しくて、すごい人です」

「セリナも他人事じゃないよ?私が好きになった人の一人なんだから」

 

 ものすごいめっちゃ照れられた。私も恥ずかしくなるくらいに。

 

 

 




ミネもそうですが、意外と星上と接点がある人意識している人がたくさんいます。まあセリナみたいにゲヘナにもしれっと何度も入ったことがある人物は少ないでしょうが。
ちなみにヒフミとはフォースベル事件で初めて会ってそのまま共闘してます。逆に全く接点無いのは放課後スイーツ部とかアリウスとか。ただアズサ入りのアリウススクワッドは裏でフォースベル事件に参戦してますが。

主人公以外のオリキャラ(主に地鎮祭の)について、どのくらい詳細に描写するかのアンケートです。あまり前面にオリキャラを出しても…と思いつつ、物語を厚くするならある程度はするべきでもあり。

  • 全体的にガッツリ詳細まで記載
  • しっかり
  • そこそこ
  • 少なめ
  • どれでもヨシ!
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