数日にわたって留まらなければならないことが分かっている吹雪の山の中で、星上とミネが共に過ごして半日は経過しただろうか。このとき、ミネは実はピンチであった。何がといえば、乙女心的なサムシングがである。
状況は二人きりで温めあうという古き伝統ある王道のシチュエーション。この手の状況が実は普通に好きなミネにとって、自然と強く突き刺さっている。最初の内はともかく、途中で意識し始めてからはダメだった……気にするの遅くない?
もしこれが水にぬれて乾かすために服を脱ぎ、二人の男女がたき火を囲んで、体温を保つために抱き合って寝る…なんて状況だったらこてこての展開だっただろう。
もしそんなことになっていたならば、胸の高鳴りを隠すことなど決してできなかっただろうと蒼森ミネは自己分析する。幸い今はお互いに着ぶくれするくらいに紙を詰めていて、さらに密着しているから顔も見られていない。だから大丈夫なはずだ…と、自分に言い聞かせている。
ミネは逆にこの人は全く気にしていないのかと疑問にも思う。私と違って半裸で抱き合ったらしいこともしっかり覚えているはずなのに、と。
確かにミネもまた、渦中においてはそんなことはかけらも頭によぎらないし、気にも留めない。しかし気を抜くべき時に思い出したとしたら。それでもほとんど気にしないだろうことは確かだけれど、全く何も感じないという訳でもなく。
前提として、ミネはヤチトと名乗るこの男の正体をほぼほぼ察している。
ミネは星上と普通に面識があるし、何なら大厄災を相手に共闘したことだってある。面と向かって会話したことこそ少ないものの、ミネの中で星上の存在は小さなものではなく、それなりに意識している相手である。
だから当然、星上と接しているときになんとなく安心感を覚えることにも気づていた。
もとよりミネは救護の道を行く人、星上がもたらすリラックス効果には明確に注目していた。
そのような感覚を覚えるのが自分だけではないことも、星上に特有の現象であることも当然のように調査済みである。ミネは星上に抱きしめられたなら文字通り泣く子も落ち着くことを知っている。
何なら星上の匂いを集めてアロマを作れば救護に大いに役立つのではないかと本気で考察していたりする。……そんなんだから周囲から正気を疑われるのである。
そういう訳でミネは、トリニティの影との戦いでヤチトの背中に背負われたあの時。実のところ相手を見知らぬ地鎮祭構成員ではなく、星上だと思い込んでいたのだ。何せ当時は意識が限界で視界もぼやけていたところに、星上らしいところだけ感じ取っていたのだからそうもなる。
初めっからその認識であり、後になって話を聞いてからようやく状況に気付いたのだ。それにしたってミネの認識ではおおよそ正体を隠した星上であり、別人である可能性はまあ少ないだろうと思っていたが。
だからもしミネが思慮深さと気遣いを発揮して、星上の名前を出さずに情報収集から始めたのでなければ、うっかり勘違いという名の正解を漏らしてしまっていたかもしれない。微妙に危ない状況だったのだ。
それにもしミネが口をつぐんでいなければどうなっていただろうか。相手がセリナなら、セリナの確信がより深いものに変わるだけで影響もなかっただろう。しかしこれがサクラコにでも知られた日には、微笑を浮かべて緘口令を敷き、サクラコに対する誤解が深まるという悲劇(笑)が起こっていたことだろう。
そして今回密着するような近い距離にいることもあって、実感とともに察する。戦場にあっても日常と変わらない柔らかさ、実力の高さ、特徴的な安心感。こんな人は星上くらいしか思い浮かばない。
そしてセリナも同じように予想していたように、行方不明からの身を潜めて活動という考察があまりにも違和感なかったせいで、間違っているのに当たっているという状況を作り出してしまう。
星上的には珍しいミスである。
ただ昔は星上も人間に対する不理解から数々のガバをやらかしているので、ミスの回数自体は普通にたくさんあったりするのだが。
さて、話は戻るのだが、今はなんというかタイミングがよかった。
蒼森ミネは救護モンスターである。本人は否定するかもしれないが、周りの人は誰も否定しないだろう。少なくとも救護第一であることはミネ本人も認めるところ。ミネは大体いつも救護のことを考えているし、それ以外の自分が出てくる機会は少ない。
しかしそれでもミネは自分の私心を否定しているわけでも無視しているわけでもなかった。
両者を比較したときに圧倒的に救護のほうが上回るというだけで、それがなければ乙女心が発揮されることはある。
だからこそ大怪我をして体を休めることが第一となったことは、降ってわいた珍しい、普段と違う自分として考える長い時間だったのだ。
その時間は今もまだ続いている。というかそのタイミングで星上と長時間一緒にいる状態になってしまったせいで、嫌でも意識せざるをえなくなったのだ。
そう、蒼森ミネは乙女だった!!
自分がピンチの時に前から尊敬している人が颯爽と現れて、ヒーロー働きをしていったら好意を抱いて当然である。それで何も感じないほど蒼森ミネは少女であることをやめていない。周りの人がその事実を知ったら大体皆が驚愕するので、余人からの認識はお察しだが。
普段モンスター、もといおかしな人と思われていて実際普通じゃないミネの私室に。かわいい系のぬいぐるみが溢れていても何ら問題がないのと同じように、尊敬する人相手に胸キュンしていても何も悪くないのである!
私だって年頃の少女ですと、ミネは思う訳である。例え他の人からはほぼほぼ同意を得られなくても、事実はそうなのだ。
ミネは極寒の世界で星上の体温を感じながら、安心するというのは別に鎮静化しているわけではないようだとまとまらない思考で考える。
すべての不安や悲しみが収まっていくような安心感があると同時に、落ち着かないドキドキは消えずに同居していたからだ。
一方星上は人間の恋愛感情なんかにはまるで実感のない
一切私欲の類が介在しないので最も純粋で健全であるともいえるが、こと恋愛においては時に不健全であることを求められるもの。なんて恋のし甲斐のない相手だろうか。
しかし視点を変えればまた別のものが見えてくる。星上に恋した結果破滅するようなことはまずない。つまり実際にはリスクなくそれを楽しむことができるのである。
純粋にアドになる、みんなハッピー。Win-Winの関係。それにミネは元々尊敬が土台にあってそちらの方が大きいのでやっぱりダメージが少ない。
星上の、本人の意思と幸福が伴うならば何でも受け入れる姿勢は本当に良し悪しで、同時に超然としている。それでも多くの人が離れずついてくるのだから、カリスマというか魅力は持ち合わせているのだろう。それがしっかりと人の範囲を逸脱せずにいるところは、トルヤの調整力の高さ故であるといえるかもしれない。
日の出高校に私たちは閉じ込められた。容赦なく襲い掛かるムースの軍勢に治安維持部隊と最新装備の傭兵達が対峙する。しかし学区は抵抗むなしく支配されていった。
すべての人々が恐怖とともに見上げた空が割れて、ここにいてはならない邪神が降臨する。人々の精神が破壊されるかに思われたその瞬間、私は私だけが過去へと戻ったかのように、まだ平和だった前の日へと戻っていた。どうしてか、私だけがすべてを覚えているままに。
2章?節「日の出高校ループ編 風の巨神の降臨」
この繰り返しはあるべきか否か?
作るのが難しそうで真面目にお蔵入りになる可能性のある日の出高校ループ編。モチベ上昇重点。このための未来予告。
セトの憤怒は「別世界で語られる超越的な神格」という分類を作ってくれた上で、「神格>=反転生徒の最上位>>>>生徒の最上位」という分かりやすい例を一つあげてくれた存在ですよね。そして「シロコテラー=反転生徒の最上位=キヴォトスを滅ぼしうる」という事実も最終章で分かってるので、かなり参考になります。
超越的な神格自体は原作で出てるから、二次創作でもなじみやすい感。
まあこの鬼面方面キヴォトスにはキヴォトスを滅ぼしうる存在自体は結構いて、そんな中でどうやってキヴォトスを守るかっていうのが主題になっいて、さらにそんな中でキヴォトスK-3には全部超越した星上がいるっていう状態なわけですが。
別作品の話で失礼。
「蒼森ミネは乙女だった!!」とかけまして、「間桐慎二はホモだった!!」とときます。その心は、どちらも微妙に否定しきれない。
ただミネには元からある程度は乙女要素があるので、「そのような事実はない」とまで言い切ってしまうことはできませんでした。