原作キャラ(ヒナ)、同一運営の別ゲーをもとにしたキャラ(ドロシー)、原作キャラの亜種兼同一運営の別ゲーをもとにしたキャラ(テンニンカ)、の三人でお送りします。
戦場からいくらか離れているものの、確かにクレリックビーストを中心とした人を発狂させる空間の内側にあった建造物。そこに留まっていられるということは、そこにいる人物が一般人よりも強靭な精神力を有していることを示している。
戦闘を終えて屋上まで移動したヒナは、無感情な様子でそこにいた二人の内の背の小さいほうに声をかけた。
「傭兵テンニンカ。現役の傭兵の中では最強であると言われている」
「久しぶり~!元気してた?微妙っぽい?」
抑揚のない言い方で機械的に説明文の様な言葉を発したヒナとは対照的に、説明された赤毛の小さな少女は実に元気でフレンドリーだった。
テンニンカはフリーの傭兵*1であり、傭兵の中では最強であると言われているほどの人物だ。ふっくらとした長い赤毛の小さな女の子で、ぱっと見では強そうには見えない。そういうところはヒナとも共通しているところがある。
いつからか"仮装天人花団"という傭兵団を立ち上げたという噂もあったが、真偽のほどは定かではなかった。
かつてはミレニアムサイレンススクール生徒であったが、今は学園には所属していない。ちなみにヒナよりも年上だ。
「…あなたは…変わらないのね」
その一言には、ほんのわずかな情念のようなものが含まれていた。
ゲヘナの星とヒナは、戦場でテンニンカと何度も衝突したことのある間柄だ。しかしゲヘナの星とテンニンカの間には何かしら敵対するだけではない、特別な関係があることをヒナは知っていた。
「あたしは元気だよ!元気なグラデーションは、元気な心に宿るんだよ!」
特に人を良く見ている人にしか分からないだろう程度のわずかな感情もすぐに立ち消える。ヒナの様子は平坦だ、何も感じていないかのように。
「…そうね。…それで、あなたは?」
ヒナがもう一人の方へと目を向ける。ネズミの耳をした金髪の女性で、理知的な雰囲気をした美人である。どこか物憂げな顔をしていたその女性は息を吐いて優し気な微笑みを浮かべた。
「はじめまして。私はドロシー。ヒナちゃんのことは、操夜君から聞いているわ」
「…あなたが。世界を歪ませる怪物達の陰にある、狂気の研究者。…説明はいらないだろうけど、私は空崎ヒナ。かつてのミレニアムの天才のことは、私も聞き及んでいる」
「…ふふ、ミレニアムのことを言われるなんて、懐かしい」
ドロシーは元ミレニアムサイエンススクール所属の天才的研究者であり、今は悪方面の秘密組織である"納骨堂"に所属している。
ミレニアムサイレンススクールの中でも天才と呼ばれるほど優秀な人物であり、とても優しくて他人思いの女性だ。しかしそれらと問題児であることは両立する上に、天才と天災を紙一重にしてしまいかねない人物でもあった。
ヒナが鮮明に思い出す、当時の先輩のセリフはこうだ。「非常に優しい人物であることと、マッドであることは矛盾しない」
ちなみに本人はそう思っていないものの、周りからはマットサイエンティストだと思われている。
「全く、操夜君たら…こういうところは人の心が分からないんだから。どうしてこれが大丈夫なんて思ったのかしら」
「あたしは星上にも少しくらいは欠点があって良かったと思うけど~。もうちょっと普通の弱点にして欲しいかな~」
テンニンカはのんきな様子を見せる一方、ドロシーは実際にヒナの様子を見て割と怒っていた。星上が問題にしていなかったから今まで気にしていなかったものの、実際にはそうでもなさそうだったからだ。
そして二人は全く異なる様子で会話を続ける。
「自己紹介の欠点の欄には、"潜在的世界最強の敵"って書いておけばいいと思ってるのかしら。だとしたら私、ちょっと怒っちゃうわ…」
「それ言ったらあたしとかポラリスとかはみんな潜在的世界の敵じゃんって話だよね~。確かにあたしたちは壊せて現行世界ルールくらいまでで、外枠の世界からつぶせたりはしないけどさ、そこまで行ったらもう分けて考えることじゃなくない?」
「…そうね。でも、今の世界観だけを壊したい人*2からすれば、それは大きな違いになるわ」
ドロシーがやさしく言う姿は本人には決してその気はないものの、小さな子供に言い聞かせるように見えたかもしれない。
「うーん、でももしかしてシアちゃんなら世界の方もワンチャン…?ポーラスターは加減が不十分だったって話だし…」
「それで、本題は。ただ見に来ただけじゃないんでしょう」
テンニンカが迷走を始めそうだったのをヒナがインターセプトする。それを受けてドロシーの方は真剣な雰囲気を維持したまま、優しげに話し出した。
「時空間に何らかの大規模な干渉があったみたいなの。それもキヴォトス全土、すべてに何らかの変化を与えてしまう程の。それ自体はだからどう、ってこともないんだけど…それだけの大事件があったのに、納骨堂は詳しい事態を把握できてない。多分それが起こったことに気付いた存在すら、私と地鎮祭だけかもしれない」
ドロシーが語るのは、連邦生徒会長によって引き起こされた時の巻き戻しのような事態のことである。ごく一部の人物だけがその余波を感じ取っており、事態の大きさを把握していた。
事態の大きさだけは分かるものの何が変わったわけでもないため、その人たちが大きく動きを変えることもなかった。星上が帰還するまでにある程度真相に近い仮説を立てられたのは、ポラリスアインただ一人だった。
「もしかしたら、あなたに何か頼むことになるかも」
「…そう。戦って何とかなること?」
「それ以外は、私たちで何とかしてみるわ」
「なら、いくらでも寄こしていい。…私にぶつけなさい」
ドロシーはヒナの現状に対して抱いていた不満を口に出すことにした。
「あなたが今みたいに自分を傷つけながら戦いに飛び込んでいくことを…操夜君が望んでいたとは思えないのだけれど。それでも、続けるの?」
「たとえそうだとしても…」
ヒナはそこで口をつぐんだ。そしてテンニンカに向かって、有無を言わさぬ口調で続けた。
「テンニンカ。付き合いなさい…今はタイミングがいい」
「久しぶりだね………でも、愛しの先輩もいないのに、一人で私に勝てるかな?」
ドロシーが止める間もなく、二人は再び戦場へと飛び去って行く。今まで普通に会話していたとは思えない、驚くべき開戦の速さだ。
「もう…私の護衛なのに…」
しかしドロシーはそう言いながら、だからこそだろうと理解していた。
もし拒否した場合、空崎ヒナはドロシーを狙って開戦を強要しただろう。それが分かったからこその行動。ヒナには二人を捕まえようなんて気は微塵もない、単純に戦うためだけの行動。
より限界まで自分を追い込むため…ヒナほどの強さがあると、今度は自分を追い込むということが難しくなる。消耗しながらも精神が集中力が増している今は、テンニンカと戦う絶好の機会。
しかしそもそもこんな風に強引に手を出してくること自体が、ヒナが先輩を失う前とは違うことを示している。そしてドロシーからすれば、そのあとの戦闘も異常だった。
異様なほどの空崎ヒナの戦闘力。さっきまでクレリックビーストとあれだけ激しく戦っていたとは思えない。むしろその時よりも明確に強くなっている。
「今回ばかりは、操夜君が怒られて然るべきだと思うわ」
本来ならば、ありえないことなのだ。
反転生徒というのは戦闘力において、真っ当な生徒を明確に凌駕している。弱い神秘しか持たない生徒であったならば、まだ生徒最強格程度の戦闘力に納まるかもしれない。しかし強い神秘を持つ生徒が反転したならば、もはや単独で敵う通常の生徒など存在しないだろう。
バッドアンコールやロストエリュシオンもそうだ。キヴォトスを滅ぼした実績のある前者は言うに及ばず、後者もまた特別な力を有している。
だからこそ、明確な異常。正常な生徒が。単独のロストエリュシオンであり、強力な反転生徒でもあるテンニンカと、本気で戦闘できることなんて。
「ーーー真銀弾*3ッイアウルシャー!!!」
決め手になったのは、テンニンカの手加減抜きの必殺技。銀の閃光が煌めき、恐るべき威力がヒナを攻撃する余波だけで町を破壊する。それは正真正銘の化け物であるクレリックビーストの脅威、それすらも遥かに上回っていた。
しかし判定上は敗北したヒナであるが、その体が一時的に動けなくなっただけで、その目は爛々と輝いていた。少し時間を置けば、放っておいても復活してくることだろう……あるいは、すぐにでも。
「ドロシー!逃げるよっ!」
どこかコミカルにそういうテンニンカは、相変わらず明るくて元気だった。この世界ではまだ普通に生きている、テンニンカが反転する前の生徒の面影を残したままで。
そんな二人を見ていたドロシーは、胸が痛い思いを真摯に受け止めていた。
・テンニンカ
ミス・ホワイトやシスター服の恐怖などと同じで、原作キャラの反転生徒です。反転生徒は既存の生徒からいくらでも出せるので、オリキャラを作るよりもそちらの方が良いと思っています。ブルアカ的に。
・ドロシー
ギリギリオリキャラではありますが、同じYostarであるアークナイツの同名キャラを俳優にしてる感じあるので、オリキャラというと怪しい。ちなみにアークナイツのドロシーのプレイヤーからのあだ名は「ゆるふわボンドルド」です。草生えますね。