イレギュラー対策競技大会というものがある。
イレギュラーの知識の拡散、対応方法の開発、そして訓練を目的として地鎮祭が始めたお祭り大会だ。ちなみに大々的に参加者を募って開催するという性質上、秘密結社である地鎮祭を主催にするわけにはいかないので、このために作ったNPO法人である「Life With Irregular」、通称LWI-ラウィーが取りまとめている。
秘密結社とは…?
もちろんメインとなるメンバーは全員が地鎮祭の構成員であり、イベントを開催するときだけバイトなどを雇う。そしてLWIがこっそり地鎮祭にお願いすることで実現しているという体だ。運営費はイベントの利益と寄付と補助金によって成り立っている。あとスポンサー。対イレギュラー活動に対する補助金として連邦生徒会からもそれなりの金額を受け取っている。
何?何かそこはかとなく悪だくみの気配を感じるって?はっはっは。政府と企業と
社会が非公式組織に依存してるのは事実だけど、地鎮祭がなきゃとっくにキヴォトス滅んでるし、地鎮祭が悪いんじゃなくてキヴォトスが悪いんだよね、仕方ないね。
全くそんな予定はなかったのだが、急遽今回私もチームを組んで大会に出ることになった。きっかけは吹雪の山でミネと話していた時。この話題が出て、一緒に参加しようということになった。
もちろん私はどちらかというと運営側だし、部外秘の情報を一部知ってしまっている。それに潜伏中だから普通に考えたら全国中継される大会に出場とかありえないのだが……面白いことは効率に勝るからね。まじめに隠蔽すればいい、細かいことは気にするな!
正体を隠す為にも今回は正面戦闘には参加せず、指揮だけする形で参加しよう。委員長時代にたまに指揮もしてたからゲヘナ勢にバレないように気を付けないとだけど。
私が目立たないためにも人数がいた方がいいという話になり、ミネがセリナとハナエを、私がカイリと玉雪の一人、ゼレーナを連れてきた。
本来カイリの機密レベルはかなり高いので、余人に見られたら呆れられることうけあいである。
役割分担としては私が指揮官。ミネが火力兼タンク。カイリとゼレーナが火力、遊撃火力。セリナとハナエが援護・補給・救急。バランスは悪くない構成だ。
諸々の理由で加減が必要なので、カイリにはスターライザーツーのみ、ゼレーナにもスリーまでとした。
ゼレーナはともかくカイリは色んな意味で気を使う。隠蔽とか、加減とか。ただカイリは直接戦闘が得意な方でもないし、本領と全く別であることを考えればちょうどいいくらいだろう。
ゼレーナはカイリと同じく真っ白な毛並みで、髪はかなりくせっ毛の強いボブ。背は私より少し低いくらいと高く、首元のカウベルが個性的。出るところの出ている、モデル体型と言ってもいいだろう。玉雪は皆高い身体能力を持たせて生み出しているが、この子は特に耐久力に優れている。
ある程度カイリと似ているため姉妹といっても違和感はないけれど、親せきということにしている。何かあったときに面倒ごとを避けるためだ。ちなみにカイリの幼女っぷりとゼレーナが大人っぽい美人なこともあって、ワンチャン親子でも通るかもしれない。
ポラリスセクターの内容については地鎮祭内部において、知っている人しか知らない機密扱いだ。当然外向きにはまったくと言っていいほど情報を漏らしていない。ポラリスの怪人という呼び名と驚異的な戦闘力、知らているのはそれだけだ。
一方玉雪については、内部でなら詳細はともかく概要は知られている。レベルは低いが機密ではあるので外には洩らしていないが、似た雰囲気の人が複数いるくらいは思っている人もいるかもしれない。
まあ狂人の巣窟であるリギルセクターも実態は知られていないし、玉雪も似たようなものだ。
カイリも平時は一地鎮祭メンバーとして行動している。基幹ポラリスであることを隠し、玉雪の一人ということにして秘密を守っているのだ。
つまりポラリスのことも玉雪のことも機密なので、外では親戚ということにしておくのが一番面倒がないわけだ。
ゼレーナも内ではカイリをお母様と読んでいるが、外では余人の目がない場所でも別の呼び方をするよう徹底している。…私に関してはお父様呼びのままだが。
私は玉雪の誕生に関り深くはあるものの、血縁上のつながりもなければ実際に私が創っているわけでもない。精々設計書を共同制作したくらいのもの。だからミスリードにもなるからと規制されていないのだ。
顔合わせをしたらそのままの勢いで練習がてらイレギュラー退治に向かう。ヘリに乗ってひたすら上昇していけば、下からは見えなかった空飛ぶ船にたどり着く。それほど大きくもない木造帆船…の、ような何かだ。
これは私が地鎮祭幹部権限で個人的に使っている快速飛行船で、私が好きに使える船だ。好きに使えるといってもゴップ議長がガルダ級を動かせる*1みたいな話ではなく、私のものは私のもの、地鎮祭のものも私のものみたいな話だ。遠星式ジャイアニズム。
この船は物理的に視認できないようにしているし、そうでなくとも地上からは遠すぎて見つけられないだろう。
マッハで飛ぶし、戦力としてもそこそこだし、緊急時には空間跳躍もする。もちろん騒音被害もないし、衝撃波も出ない。船を覆っている金属のリング状のユニットが特殊な機能の補助をしているのだが、もう完全に帆の役割とはって感じ。
船が張ってるバリアの内側なら空気がなくなる心配もないし、揺れもないから快適に過ごせるだろう。
「一時間程度の空の旅をお楽しみください、ということで」
みんなびっくりしていたけど、ミネは多分領空侵犯をツッコむべきか迷ってた。言われても改める気がないから、結局口にしないでくれて助かる。
秘密結社であることを理由に好き勝手やる気というか、そのために秘密結社にしたというか。見つからないということはいないのと一緒というか。
正直地鎮祭の空の船を見つけたり撃墜したりできる勢力はイレギュラー意外には存在しないと思う。よっぽど対空砲が充実してるとかなら分からないけど、それでもそもそも見つかることがないし。ものっそい上空を飛んでるから特殊なイレギュラーでもなければ誰もここまで来れない。
ただ、まあ。人が誰も来れないような場所には、普段人と関わらないようなイレギュラーがいるもので。
「あら、お父様、左手に雲イルカの群れがいるわ!」
「おお、ホントだ。向こうもこっちに気付いたね」
ゼレーナの声をきいて、甲板上で思い思いに過ごしていたみんなが集まってくる。ゼレーナを見て頷くと、私の代わりに船を減速させてくれた。
「かわいいです!!」
「空の上にイルカが…!」
ハナエとセリナもはしゃいでいる。すると好奇心旺盛なイルカの群れが寄ってきて周囲を飛び回る。あえて船を減速させたのはこのためだ。こいつらに悪意はないのだが、実は場合によってはかなり危険だから。
空イルカにマッハで付きまとわれるようなことになったら、衝撃波でそれはもうひどいことになるぞ。棍棒を持って囲んで殴るなんてもんじゃない。空イルカも普段はそんなに早く飛ぶというか泳がないのだが、何かに興味津々の時は話が別だからな。
「これも、イレギュラーなのでしょうか…」
ミネは最初だけ盾を構えようとして、私やゼレーナの様子を見て危険はないと判断したようだ。
「とりあえず危険はないから大丈夫だよ。オリジムシとか、暴れ牛鳥とかと同じく生物系だね。かなり上空を飛ばないと会えないから、公式には見つかってないけどね」
この場に来ていない最後の一人を探してみると、カイリはイルカに乗って遊んでいた。
「すごい!私も乗りたいです!」
「うん、危ないからダメだぞ。本気で落ちるから。あれができるのは空が飛べる奴だけね」
下手するとマジで落ちる。まあ海で船からイルカに乗り移ろうとする人がいたら止めるのと同じだ。もっとずっと危険だけど。 とはいえもし終端速度まで行って地面に激突したたからと言って、それで即死するわけじゃないしな。キヴォトスルールは瞬間ダメージは強いし。
ハナエが無茶をしないように見守りつつ、しばらく遊んだら雲イルカたちは去っていった。
雲イルカ達のおかげで早速楽しんでもらえて運がいい。敵対的な相手もいるからいつもこうとはいかないからね。
「ところで、どうしてお父様なんですか?」
ふと思い出したようにハナエがそう聞いたとき、カイリとゼレーナはこう答えていた。
「血のつながりはない…」
「私たちにとってはお父様のようなものだから、勝手にそう呼んでいるのよ♪」
…みんな楽しそうで何よりだ。これだけでもレクリエーションとしては成功かもしれない。