第三ステージは明日行われる予定なのだが、第二ステージまでと異なり事前に相手が公開された。
相手はデプスフリート。数年前、大厄災"赤い雪"の事件において猛威を振るった、強力な無人戦闘艦船による艦隊が相手だ。事前に公表されるのも当然だ、でなければまともな勝負にすることすら難しいだろうから。
デプスフリート。運営から発表されたその名前を聞いた瞬間、ミネが少しだけ息をのんだのが分かった。直接因縁があるかといわれると微妙なところだが、ミネとしても無視できない相手ではあるのだろう。
「これも噂をすれば影が差す、というというものでしょうか」
ひとり言のようにつぶやいたミネに、ハナエが無邪気に聞き返した。
「うわさをしていたんですか?」
「そうですね……この大会の参加を決めたときに、当時の赤い雪のことを話していましたから」
運営実況が続けて紹介と解説をしているのを聞き逃さないようにしながらのため、合間合間を縫うような会話だった。
当時の赤い雪、そういっただけで全員が何の話か分かったらしい。何せかの大厄災はデプスフリートとの混在によって更なる大きな脅威となり、この広いキヴォトス中に知れ渡っていたのだから。
今回の敵の編成は…戦闘力が低い順に駆逐艦マローダー10、巡洋艦ピルファラー1、巡洋艦プラウラー4、戦艦ランサック1!合計16隻の中規模艦隊だ。一応、戦闘力評価3の中では低い方ということになる。だから何だって気もするが。
あえて言えば航空艦が一隻もいないこと、空母が一隻もいないこと、パドルガンが一隻もいないこと辺りにものすごく手加減と調整を感じる。索敵能力の高いピルファラーも一隻しかないし…舐めプかな?なおこの戦力でもその辺の学区は普通に蹂躙される。
こうして事前通達しているのは、そもそもデプスフリート艦隊のような相手と戦う場合、事前に練れるだけの作戦を練り、できる限りの準備をして当然だからだ。何も知らずにうっかり遭遇したらもう無事に逃げられることを祈るしかないから、事前に通達があるのは妥当。
試合開始は明日の朝からなので、それまでに作戦を決めておく必要がある。必要なものは大抵の物なら、申請すればシミュレーションに用意してくれる。ヘリの十数台、大型ミサイルの一発くらいならスッと申請も通ることだろう。何の役に立つのかと言われると微妙なところだが。
普通の学校が用意できておかしくないものであれば、申請すればなんでも用意してくれる。相手の戦闘力評価を思えば、逆説的に考えて、それだけでは倒せないことを表していると言えるかもしれない。
今日の分を終えて大会が解散となった後、私たちは船の会議室に集まり、情報共有を行う。
地鎮祭としては何度も戦ったことのある相手であり、情報もしっかりある。というか、情報がしっかりあるからこそシミュレーション演習で再現できる訳だが。
一方ほかのメンバーには直接戦った経験はない。赤い雪事件において間接的には対峙しているものの、直接戦闘はしていない。医療班なのだから当然だが。ミネが参加していたことは聞いていたものの、以外なのかそうでもないのか、セリナもあの時医療班に参加していたそうだ。ハナエが未参加なのは年齢的にも当然だろう。
あの時は確かにかなり状況が悪かった。単体では危険度の低いイレギュラーでも他のイレギュラーと組み合わさった結果、途端に脅威度が上がることもある。
しかもあの時は方や大厄災、方や純粋な戦力としてなら文句なしのデプスフリート超大艦隊。シンプルに脅威だった。
さて、話は相手の情報共有から行う。デプスフリートは無人の浮遊する艦の艦隊だ。艦といってもその造形は多様なもの。帆船のような見た目をしているものもあれば、何かの宇宙戦艦のような見た目のものもある。
共通点としていえば、艦であることからことから必然的に、人間とは比べ物にならないほどの大きさをしている。大体どの艦も全長200mはあり、端的に言ってスケール感からもう違う。
当然生身の個人とは比較にならない火力と装甲を有している。対戦車ライフルだろうがロケットランチャーだろうが戦闘艦の分厚い装甲とタフネスを前にすれば大した意味を持たない。
しかも奴らは陸上にいるせいで浸水することすらない。頑張って穴を開けたところで、奴らからすれば痛くも痒くもない訳だ。
実のところあの船の船体には金属だけではなく木材もふんだんに使われているのだが、あれも人よりは頑丈だ。その上奴らはエネルギーのバリアーもシールドも備えているから、それを破ってからじゃないとそもそも触れられない。
あのバリアーは衝撃を防ぐためにエネルギーを消費しているので攻撃し続ければ破れるのだが、当然戦車砲程度で破れるバリアーではないので、それ用の火力が必要になる。正直個人どころか生身でどうこうなる相手じゃない。
いったいどうやって生身で戦艦を撃沈するというのか。どっかのデビルサマナーは刀で戦艦切ったらしいけど世界が違います。
刀なんて危険な武器使える訳ないだろ!銃使え銃!
もしトップクラスの神秘ぢからがあれば素で中型間のバリアも壊せるかもしれないけど、大型艦は厳しいと思う。
現実的な話をすると、現状キヴォトスにおいてデプスフリートに限らず対艦級の火力が必要になるときは、対艦ミサイルを撃ちまくって何とかしている。ミレニアム製のものや、カイザーグループのお安いもの、その他複数の企業や学園が販売しているので、自分に合ったものを使いましょう。
需要があって生産もそれなりの数されているだけあって、お値段も現実的に運用可能な範囲に収まっている。
で、そういうのは普通に専用の車両なり発射サイロなり必要になるので、今回それを使うのは無理がある。だからプランB、個人携行用・対デプスフリート用の装備を使う。
使うのは大きさも使い方も手りゅう弾のような兵器であり、ぶつけることでバリアに大ダメージ与えることができる。複数ぶつけてバリアを破ろう。
シンプルだがかなりお高い装備なので、個人だとなかなか用意できない装備だ。そもそも戦艦相手にどうこうする装備なので、国家予算もとい校区予算でもなければ用意するのが難しいのは当然なのだが。シミュレーションだから実費はタダだよ。
ちなみにバリアに有効な迫撃砲弾なんかもあるものの、少人数のチームで使うのには適していない。迎撃されて終わるだけだからだ。
奴らのCIWS、もとい対空機銃はそこまで高性能という訳ではないのだが、だからと言って適当な飛翔体を少数放った程度で抜けるような迎撃能力はしていない。まずバリアが固いのに、対空力まで高かったら困るよね。
どのみち懐に飛び込まなければ勝ち目がないのだから、最初から手りゅう弾でいい。
ではバリアーを破ったら次はどうするかというと、コアを目指して掘り進むことになる。バカ火力バーナーとか設置型指向性爆弾とかを使って装甲に穴をあけていくわけだ。
奴らは無人艦だから人が通るための通路なんて存在しない。とは言え内部が全部ギチギチに装甲で詰まっているというわけでもないので、外側に穴を開けたら狭い通路や隙間を進んだり、やっぱり穴をあけたりして進む。
中には人型じゃない戦闘ロボットが配置されていて、まったく人間用とは仕様の異なる構造の中で撃ち合うことになるから慣れないとかなり戸惑う。そうして中心部まで到達したら動力炉を破壊すれば撃沈だ。
この時船体は爆発したりはせず、ボロボロに崩れるようにして崩壊していく。解体する必要がない一方鹵獲ができないのでデプスフリートの研究が進まない一番の理由となっている。
今回の場合、船体の崩壊はもう一つの重要な問題を引き起こす。船体が崩壊するということは遮蔽物が消えるということであり、敵が同士討ちを心配する必要がないということでもある。
つまり内部で戦っている間に外では悠々と攻撃準備を整えた、ほかの船から一斉攻撃を受けることになるのだ。船体が崩壊しきるまでには多少の時間があるものの、その間にうまいこと逃げ出せなければ全方位から撃たれることになる。
囲んで殴るという人類最強の戦術を無人艦にやられるわけだ。奥ゆかしい問題解決手法だな?
考えるとこれ1チームで当たる相手じゃないな。
というかそもそも歩兵どころか戦車とかヘリとかそういうのじゃなくて、遠距離からミサイル撃ち合うべき相手だ。
いや、砲塔艦パドルガンとかが複数配備されて迎撃能力が飽和すると、ミサイルすら効かなくなるから一周回って歩兵が必要になるんだけど。
考えてみると当時の赤い雪の時は歩兵で突貫したんだよな。地鎮祭がガッツリ前線で陣頭指揮とってたし。
…これやっぱ無理じゃない?というか勝ったらまずいでしょこれ。
・神秘ぢからについて、かなりファジーな影響を与えている設定。アニメだと戦車の装甲に銃弾がはじかれていたように、純粋に硬い物質を壊せるようになるわけじゃないけど、かと言って影響がないわけでもなく。人には効きやすいけど物質には効きにくいとか。
少なくとも神秘パワーにおいては、肉体を強化するよりも銃火器などを強化する方が遥かに難しく、それ故に特別高い神秘パワーを持つ人は異常に頑丈だし、肉弾戦の方が火力が出る。
だからこそ戦力の均一化をもたらす銃火器がマナーであると言われている感じです。刀とか弓とかは持ち主によってはガチの危険物と化します。