第三ステージになって、それまでとはいろいろと変更点がある。相手が事前通達されていることもそうだし、甲種と乙種の順番もまた入れ替えられており、そして選手が直前の試合を観戦できるようになっている。
これは分かりやすく挑戦者側の勝ち目が薄いことが理由だ。今までは挑戦者が十分勝てる相手だったから乙種チームの応援を兼ねて甲種が先に行われていた。しかし第三ステージともなると過去にさかのぼってもクリアチームは数えるほどしかいない。
だから先に甲種参加者を除いたすべてのチームを一つに合わせた乙種レイド戦を行い、甲種参加者はこれを観戦。気合を入れてから甲種に挑戦する、という形だ。
甲種の参加チーム自体もわずかで、全部でたったの五チームしか参加していない。挑戦順に並べると、水平線追跡団、ミレニアム試験小隊、ヒナ、ホワイト&ホワイト、最後にツルギ。
二名ほどソロで参加してる奴がいますね。
観客がかたずを飲んで見守る中、乙種レイド戦が始まる。千人は参加しているので規模的には戦争といっても過言じゃない。それに参加者は腕自慢が多く、キヴォトス全体でみても上位に位置するような面々だ。これは楽しみだな。
開始地点は……艦隊から距離にして10キロほど離れての開始となった。これを現実に即しているかは意見の分かれるところだろう。何せデプスフリートの戦艦の主砲の射程距離は30キロ、いやさ40キロにも及ぶ。
しかしもし距離30キロなどで始めてしまうと時間がかかりすぎる上に、一方的に撃たれ続ける絵面が続くことになるので、さもありなんと言ったところか。
半ば崩壊し、崩れた建物も多い町のステージ。そこにおおよそ二個大隊規模の戦士が終結しており、これは相当な戦力である。それで勝てるかどうかはともかくとして。
試合開始後、攻撃を始めたのはほとんど同時だった。ミサイル発射用の車両を持ち込んだチームが複数いたらしく、それによってミサイルが次々と撃ち放たれていく。一方デプスフリートもまた各艦が一斉にVLSからミサイルを発射させていた。
廃墟の様な市街地の空を、二方向からミサイルが行き交う。早々見られるはずのない光景に観客は大興奮だ。しかし早速歓声を上げている観客たちと異なり、ミネは冷静に分析していた。
「あれはまずいですね…」
「そうなんですか?」
ホワイト&ホワイトの中では唯一デプスフリートの脅威を実感していないのがハナエである。ただ私は、聞き手がいて逆に良かったかもと思ったり。
「今回の艦隊はそこまで防空能力が高くはないのですが……あくまでそれぞれのチームが個別に攻撃してるだけで、連携していない現状だと…」
ミネの言葉に、例によってゼレーナが解説を続ける。
「この数でミサイルを通そうと思ったら、戦術をしっかり練って息をそろえて効果的に撃ち込まないと厳しいかな。マローダーはともかく、巡洋艦プラウラーの対空弾幕は厚いよ~。このままだと、一方的にやられるだけね。そもそも、集まって艦隊組んでるデプスフリートにミサイル通すのは結構難しいよ」
話している間にも戦況はせわしなく、あるいは密度の高い短い時間の間に変化している。
当の戦場では挑戦者側のミサイルはすべてことごとく撃墜されており、デプスフリート側のミサイルによってミサイル発射車両が次々とつぶされている。ゼレーナのいった通りの状態だ。
何なら対艦ミサイルで人間一人一人を狙うことなんてできやしないので、むしろ車両はいい的になってしまったくらいである。
持ち込まれた車両はほぼ全滅。その後の動きはシンプルに全軍突撃が始まった。いや、最初から大多数は持ち込んだバイクなりなんなりで全力疾走を始めていたのだが、残っていた者たちも移動を開始した。
理由はシンプルで、近づかなければ勝ち目がないからだ。
近づくまでの間には順当に一方的な攻撃を受け、これによって二百人以上が脱落した。この程度で済んだ一番の理由は、デプスフリートの持つ長射程武装では、人間やバイク程度の小さな目標をロックオンできないところにある。
サイズ的にも相手を攻撃対象として想定していないのは、こちらだけではないということだ。
しかし近づいてしまえばデプスフリートもまた船体に持つ大量の機銃を使ってくる。人のような小さい標的に向かって撃つことを想定していない主砲や大型ミサイルなどよりも、遥かに効果的に攻撃できる武装だ。
ちなみに機銃とは言っているが、普通に装甲車をお陀仏にできる代物だ。サイズ感が違う。
前列に並んだ六隻のマローダー駆逐艦の内、四隻との接近戦が次々と開始され、そしてそのうちの三隻のバリアを破壊して内部への突入を果たす。戦況がそこまで推移するまでの間に、挑戦者達の損害数は六百人を突破していた。
ちなみにしれっと参加していたアルちゃん達も道中で運悪くクリーンヒットして荼毘にふしていた。相変わらずできるときとダメな時の差が激しい娘だ。
「競技だと分かってはいるのですが…」
ミネはそういいながらも落ち着きなく両手を合わせて指を動かしている。本人も言っている通り競技だとわかっていて、それでも飛び出したくなるのを抑えているのだろう。
戦闘を見ているだけなんて機会は、こんな時でもなければミネには縁がないのだろうということが伺える。
「飛び出したそうだね」
落ち着かない様子のミネの手の上に手をのせる。特に安心させたかったという訳じゃない、何となくでしたことだった。
落ち着かないとはいえまだ救護モードに入っていないミネは、すぐに落ち着かない理由が別のものに置き換わっていた。
「はい…どうしても、ですね」
「演習だからね。今こそ怪我をすることが経験となる。言うなれば、ポジティブな怪我、かな」
感心した様子でミネが言う。
「そのような言い方は、初めて聞きました」
「心を傷つけない痛みであれば、人の成長の糧になるからね」
地鎮祭ではノーマルな考え方である。というか、私が布教と教化を行ったわけだが。
腕をなくしたとか、動かなくなったとか、後遺症が残ったとか、キヴォトスではそういったことは起こらない。これがあるとないとでは大違いだ。
それが人々に他人を傷つけることを戸惑わなくさせてしまっている側面もなくはないとはいえ。うまくできた楽園だ。
接舷攻撃、もとい乗り込みに成功したマローダーが落ちる。コアを破壊したのだろう。ついにデプスフリート側にも轟沈した艦が発生した。
問題は撃沈した後。目立ちまくった上に逃げ場がない中で、周囲の船から主砲を浴びることになる突入班が危険だ。とはいえ接敵しているために前列が、射角の関係で中列の半分の船は狙い撃ちができる状況じゃない。これができることがデプスフリートに大勢で挑む利点の一つだ。
そう考えながらも見守っていると、大方にとって予想外のことが起きた。艦隊陣形の内側にいた一隻しかいない巡洋艦ピルファラーが唐突に爆発した。
なんと隠密行動で浸透していたチーム・スペシャルハウンズがバリアを破壊して侵入したのだ。
「あれはSRT特殊学園のチームですね!」
会場は大歓声、ハナエもパッと笑顔になった。
さらには前衛となるマローダーの壁を突破していた仮装天人花団が、中衛の巡洋艦プラウラーに殴りかかっていく*1。
巡洋艦プラウラーと言えば戦艦みたいな大きさをした重巡洋艦だ。それに正面から突っ込んでいくのだからなかなか根性がある。テンニンカも元気にペイントボールを投げつけて、プラウラーをデコレーションしていた。…撃沈したら崩壊するのでいくら色塗りしてもすぐ壊れてしまいそうだが。
これによって包囲に亀裂が入ったことは確か。しかし撃沈したマローダーからの脱出組はそれでもそれなりの犠牲者を出すことになる。艦隊による包囲攻撃がなくなったわけではなかったからだ。
開始してからそれほどの時間がたったわけでもないのだが、戦況はすでに終盤戦となっている。
開始時点では駆逐艦マローダー10、巡洋艦ピルファラー1、巡洋艦プラウラー4、戦艦ランサック1の合計16隻いた艦隊。それはマローダー3隻、ピルファラー、プラウラー1隻を失い残り12隻となった。
一方で千人からなる群団だった挑戦者側の人数は、すでに百人程度まで減っている。
観客たちにとっても、挑戦者達にとっても、勝敗は決まったように見えた。
その後、生き残っていた上位も上位の生徒たち。スペシャルハウンズやテンニンカ、日の出の犬井ハイネ、青春の
マローダー2隻、プラウラー1隻、さらには戦艦ランサックを撃沈するという大戦果を挙げた。
戦力的に見れば艦隊戦力を半分以下にまで削っているので、開始時の人数を考えれば相当な大戦果であると言えた。
これが普通の寄せ集めの群団だったとしたら、それこそ三千人いたとしてもこれだけの戦果を挙げることはできなかっただろう。何なら人数が増えた分、空中で爆発した砲弾が降り下ろす破片の雨によって大被害が出ていたはずだ。
今回の挑戦者は少人数のチームを大量に集めたものだ。
統一した指揮系統を持たないどころかまともな連携すら厳しいような集団でありながら、この戦果は挑戦者側のレベルの高さを如実に表していると言えた。
しかしそれでもこの結果を目の当たりにして。これから8人以下の人数で挑むことになる甲種戦に、会場には悲壮感の様なものが漂っていた。
名前だけ出た今回だけのゲストの元ネタ紹介。
・日の出高校の犬井ハイネ。元ネタは野球ゲーム。刀を持たず、呪術も使えないためかなりナーフされている。野球とは。
・青春学園の
・オデュッセイアのキルケー。普通に神話ネタ。むしろキルケーぐらい大物だと普通にキヴォトスに生徒としていてもおかしくない。