第三ステージの甲種が始まり一戦目、まずはハリファイバーMを装備した水平線追跡団が一番手を務めた。彼女たちは軍人的というか、冷静で安定した戦闘を見せてくれた。
初手はデプスフリートに近づくまでの危険な区間を、使い切りの高級アイテムを惜しみなく使用することで突破。大体は高性能な迎撃兵器と欺瞞兵器、そしてブーストユニットだ。
八人全員がロケットブースターで空を飛ぶのは別ゲー感があると同時に、少し心配になった。あの加速は中身の肉体に結構な負担を強いたことだろう。それにいくら速度があると言っても、ただ飛んでいるだけでは的になるだけだ。
彼女たちは艦隊に近づいたところで、ロケットの下部を段階的に切り離していくのと同じようにブースターを放棄した。その後はできるだけ敵艦の近くの位置をキープして戦うという戦術だ。
ハリファイバーMの機動力は高いが、それでなんでも解決できる程甘くはない。デプスフリートの対空砲は近接信管と時限信管によって空中で自動的に爆発し、破片をまき散らすことによってヘリや戦闘機などを撃墜する。
速く移動するものはその速度が高ければ高いほど、何かにぶつかったときのダメージが大きくなる。そして空中で速度を出そうとすると絶対的に減らさなければならないのが重量だ。最終的に速く飛べるものほど壊れやすくなるのが現実だ。基本的に速度と頑丈さはバーターの関係にある。
飛んできたどころか、そこにあっただけの破片に突っ込んだだけで大ダメージを受ける、それが高速飛翔体の宿命なのだ。バリア張ったりとかできるやつはまた少し話が違ってくるのだが。
ハリファイバーもそこは変わらず、速く動けるからって調子に乗ってると一瞬でズタボロにされて墜落することになる。
しかしこの対空砲を至近距離で運用することは難しいし、敵艦を盾にすることで他の船からの対空砲を防ぐことができる。だからまずはとにかく近づいて、敵の近くの位置をキープすることには大きな意味がある。リソースを大量に吐いてでも近づいたわけだ。
そのあとは二手に分かれて、片方が船内に侵入したらもう片方は別の船のもとへ移動する。片方が移動しているときはもう片方がそれを支援する、これを徹底していた。息の合ったチームワークであり、同時にしっかりと統制が取れている。
最終結果としてはマローダーを4隻撃沈、1隻を大破させた。良くわかっていない人からするといまいちな戦績に見えるかもしれないが、実際には結構な好成績だと思う。前提として、マローダー1隻を一般兵が落とそうと思ったら、三桁は人数が必要になるのだから。
ちなみにこれは高級なハリファイバーMを装備していれば何とかなるというものではない。あれは相当な機動力を得られるわけだが、機動力が高いということはそれだけ操縦難易度が高いということだ。かなりの技量がなければ、コントロールを失って建物か地面に激突するのがオチだ。
当然体力も集中力も結構な勢いで消耗する。つまり技術があって動かせても疲れるはどうしようもないのだ。しかも空まで飛ぼうと思ったら、機動力が低くてもかなり難しい。集中力切れからの操作ミスで、手作り人力飛行機よりも早く着水できること請け合いだ。
あれだけ高性能なハリファイバーMを使いこなせているというだけでも水平線追跡団の技量の高さがうかがえる。なかなかやるじゃない。
次に登壇したのがミレニアム試験小隊。
彼女たちが持ち出してきたのは、えー、なんというか、うーん。モグラ?
何かといわれると困るのだが、全長8メートルはあるだろう車両であり、正面には巨大なドリルが装着されている。見間違いでも聞き間違いでもない、そうドリルである。バカなんじゃないか。ロマンというものを分かっているのかもしれないが、さすがはミレニアム。なんかもう色々と。
見たところ巨大な履帯を持ち、複数の銃座とミサイルポットを装備した戦車……戦車かこれ?
そして開始からロケットエンジン?に点火してかっ飛ばしている。かっとビングだぁ!
先ほど速度と防御はバーターであると述べたが、それは空を飛ぶものに対して顕著であり、陸上であれば両立させることもできなくはない。双方を高い範囲で納めることも可能だ。ただしその場合、大抵機動力とか加速力とか、そして何よりも予算が犠牲になるのだが。
一体あれにいくらかけたのか。貧乏学校が見たら泣くかもしれない。
ミレニアムの予算関係って割と謎のアトモスフィアを感じさせるところあるからなぁ。
ミレニアムの技術者たちはキヴォトスでもトップクラスの天才集団なわけだが、まあ人々に想像できる通り、常識外れなところが多い。
高性能なのは間違いないのだが、彼女たちは余計なものをくっつけることをやめられないのだ。顧客が求めていないどころか、付けるなといったものまで付けてしまう。例えば自爆装置とかBluetoothとか。
どうしてもコスパという言葉と相性が悪い。高性能な割に市場で見かけないのは、そういうところも関係しているんじゃなかろうか。
そこだけ聞くとどうしようもない欠点にしか思えないが、見方を変えれば話も変わってくる。
下手に強制して無難で効率的なものを作らせるよりも。生徒に好きなようにやらせて、特化した実用性のない産廃が生まれても。それでも作りたいと思うものを作らせておいた方が、結果的に技術の発展につながる。
つまりこれは投資なわけだ。ミレニアムの歴代会長はそのあたりのことをよく分かっているのだろう。
まあ投資する側、つまり補填や統制や後片付けをする側、つまりつまりセミナーとかが苦労しているわけだが。
どこかの野球ゲームでも言っていただろう、科学ノ発展ニ犠牲ハツキモノデース!と。大丈夫、責任は取る!……セミナーが。…こういうところ、キヴォトスの縮図っぽいな?
一面から見ただけでは物事の真理を理解することなどできないのである。なーんてことを少々得意げな顔で語りながらミネの方を見たところ、返ってきたのは噛み切れないものを噛んでいるかのような雰囲気だった。
「ヤチトさんの御慧眼に何の疑いもないのですが、それを素直に感心しにくい光景を見せられていることに少し恨めしさを感じます」
と、とても味わい深そうな言葉が返ってきた。まあ目の前でおかしな兵器がドリルでカッとんでる様を見せつけられればそうもなるか。
ただふざけたような見た目に反して、やっていることはなかなか理にかなっている。受けきれない高威力の砲弾はその速度によって振り切ってしまう。速く小さいものを主目標とした対空砲は、装甲によって耐える。ロックオンして追ってくるミサイルは手動で迎撃する。
見た目からは想像できないほど有効に機能している。手動迎撃だけは注釈に"ただし精鋭に限る"って付きそうだが、最新鋭のミサイル迎撃兵装を使っているみたいだし。
履帯とドリルを付けたモグラみたいな見た目からは想像できないような有用さだ。
対空砲で撃たれてもしっかり耐久できているところも高評価だ。柔い標的を主目標とした兵器だから火力はたいしたことないかと思えばそんなことはなく、硬い相手にも普通にバカにならないダメージを与えてくる。これをくらってもある程度耐久出来るのは評価せざるを得ない。
迎撃についている四人もかなりの練度がある。おそらくあれはC&Cだろう…ハリファイバーMを着ていれば顔が見えないからって精鋭を投入してきている。噂のネルはいないみたいだが、あの速さの乗り物の上で飛んでくるミサイルを撃墜できるのはかなりの腕前が必要だからな。デプスフリートのミサイルはそこまでの速度が出ないとはいえ。
そしてそのまま突っ込んで、ドリルでバリアを破壊、それどころか船体に突っこんでいく。いや、何というか。意外と強いぞあれ。装甲もドリルで採掘してるし……字ずらがすごいことになってるな。
「有用だ…」
カイリが色眼鏡のない正確な評価を口にした。世間とズレている分、おかしいものをおかしいといわずに評価できる。
「そうだね。コストさえ妥当なら、十分導入を検討するレベルにある」
整備性とか安定性とか、まだ見えていないところに不安があるけど。
余談だがここにはあれを見ておかしいと思っていない人間がもう一人いる。ハナエだ。
「かわいいかも…」
ハナエさん?
ただマローダーを一隻撃沈後はなぜか陣形中央にいる戦艦ランサックに向かって突っ込んでいき、完全に包囲砲撃をくらって撃沈していた。普通に外周を回ってマローダーを狙っていればもう何隻かは倒せただろうに、セリナもすっぱい顔してるぞ。
「さすがにあれは勇気じゃなくて無謀です…」
観客も呆れと困惑に包まれている。だから囲んで殴るのが最強だって、はっきりわかんだね。古事記にもかかれている。みんなも自分から包囲砲撃されに行くのはやめようね!
・ミレニアムサイエンススクール
毎回イレギュラー対策競技大会を試作兵器の試験代わりにしている。そのため大抵は性能の良さと馬鹿らしい欠点の両方をアピールしてしまう。なお製作者たちは喜んでいる。馬鹿と天才は紙一重。
今回はC&Cも参加したが、彼女たち的には散々な結果だった。