二週間も空いてしまいました…。
急に寒くなったこともあり、夜勤があったこともあり、現場が変わったこともあり。休日でも頭が重くて書けていませんでした。
とりあえず来週はちゃんと出せる、はずです。
ヒナの試合はなかなか見ごたえがあった。移動手段を無くしたために詰みと判断してヒナ自身の投了によって終了したものの、結局本人が戦闘不能にはならなかった。
最終的にはあと4隻という所まで行っており、負けはしたものの確かに勝ち目はある感じの結果である。
相当攻撃を受けていたはずのヒナ本人はまだまだやれるといった様子だった。一人であることの問題点が浮き彫りになった形であり、ただ一人強い人がいればなんでも解決できる訳ではないといういい例になったかもしれない。
今度は遂に私たちの番だ。
歓声を浴びながらスタジアム中央を歩く。第三ステージともなるとこうして試合前に選手として顔見せする機会がある。
ただ歩くだけではなく、軽く観客に手を振っておく。身バレ防止のために完全に白ローブで正体を隠しているが、冷たく突き放している訳ではないことをアピールするためだ。朗らかな雰囲気で挑みたいからね。
顔を隠したままの顔見せを終え、再び室内に戻る。
「最初はゆっくり行くから、落ち着いていれば大丈夫。もし先制攻撃されても慌てないようにね」
開始部屋に向かって通路を歩きながら、声掛けをしておく。セリナが採血で注射を待っている人みたいに硬くなっているので、緊張をほぐしてあげたい。
「何かあっても、私のことを見ていれば大丈夫」
人差し指で自分の額を押し、ニッコリ笑ってそういえば、セリナも肩の力が抜けたことが分かった。
開始時に待機するための部屋に到着すると、そこはどこかSFで出てくるようなメカメカとした部屋だ。どこかロボット物アニメの、カタパルトでロボットが発進するときに乗るような場所を彷彿とさせる。
そんな場所であるが、実際には見えないところに魔法陣とかが仕込まれているファンタジーな施設だったりする。私たちは部屋の中央に立ち、試合開始を待つ。ここからシミュレーション空間へと疑似的に転送するのだ。
「それじゃあ、お父様。開始の音頭はお願いね」
「飲み会か」
ゼレーナにツッコミを入れるが、それを聞いた全員が集まってきて並びだした。ピクニック前みたいな様子のハナエと、ハナエに手を引かれているカイリ。この二人はすぐに仲良くなったな。
気合を入れた様子のセリナと、落ち着いた様子のミネ。図らずも全員が円形になるように集まった。
どうやら私が声をかける流れらしい。咳ばらいを一つ。
「私たちの最大の目的は、変わらずただ一つ!みんなで精一杯楽しもう!!」
「「「「「おー!!!」」」」」
私たちの試合が始まった。
試合開始。待合室からシミュレーション上の戦場へと送られる。
強敵が相手だがしっかりと作戦を練って準備してきた私たちに隙はない。
戦場はどちらかというと田舎に近い都市内部。開始地点から敵艦隊までの距離は十キロある。人からすればかなりの遠距離だけれど、艦隊からすればかなりの近距離だ。ぶっちゃけ人間有利な設定である。
この戦いはまず、如何にして艦隊に近づくかが要点になる。対人目標しかいないとなった場合奴らの主武装はミサイルと機銃、そして砲塔だ。遠距離では一方的に敵に撃たれ続けることになる。
そして本格的な攻撃となれば榴弾装備の砲弾とミサイルが非人道的なペースで撃ち込まれてくることになる。こちらの射程より相手の方がはるかに長いので、近づかないと手も足も出ない。
それを踏まえて私たちホワイト&ホワイトの戦術は、まず気づかれずに近づくのが作戦の第一段階となる。
今までの試合がいずれも速度で勝負していた訳だが、我々は速度を捨ててステルスする。そのために白ローブもそれ用に調整してきているし、発見されやすい大型の乗り物は持ち込んできていない。
唯一持ち込んだとあるバイクの様な乗り物も、完全に電源を落とした状態でシートをかぶせたまま手押しする。
実は生身の人間相手だとデプスフリートの索敵可能範囲は著しく低下するのだ。そもそも生身の相手なんて近づかなければ何もできないのだから、そこのコストが削られるのも納得いくところだろう。こちらは遠慮なくその隙を突かせてもらう。
ステルス戦法はうまくいけば戦わずに敵に近づける反面、積載量が少ないから持っていける武器に制限がかかる。大型だったり重かったりする兵器ほとんど持ってきていないから使いどころは事前に決めておく必要があるだろう。
もちろん見つかりにくいと言っても絶対ではないし、時間もかかる。私たちがしっかりと相手の情報を知っているからこそできる技だ。
外では徒歩で進んでいるために動きのない試合風景を前に、実況解説が掛け合いと共に詳しい解説を行っていた。対イレギュラー戦を学ぶことを主題とした大会であるために、しっかりとその戦術の解説も行う訳だ。
使用されている兵器の解説なども行うため、大会運営は事前に各種メーカーとは事前にしっかり話し合いを済ませている。デプスフリートの試合が公表されたのは前日だが、それでも何とかなるのがキヴォトスクオリティだったりする。すごい。
発見されにくい経路を選ぶため私とカイリで偵察を行い、指示を出し合って進む。予定通りに時間をかけてたどり着いたのは地下鉄駅。事前に入手していた地図で確認済みであり、路線数の少ない比較的小さな路線であるものの、地下を通って敵艦隊までの距離を大きく縮めることができる。
奴らは光学以外のセンサーも持ってるけど、例によって対艦・対航空機用のものなので人間に使うようなものじゃない。地下にいる人間数人なんて見通せるようにはできていないため、地下鉄を利用すればかなり安全に移動することができる訳だ。
都心部でもないのに変なところに地下鉄通ってるなと思いつつ、デプスフリートの陣形最外殻に位置するマローダーまで距離1200というところまで安全に近づくことができた。
敵はゆっくりと移動を続けており、我々は位置的に敵艦隊の進路上にある。なので私たちは地下に引っ込んで敵が近づいてくるのを待つことにした。1200m何て艦隊から見ればすぐ近くでも、人が撃ち合えるような距離じゃない。
ゼレーナとカイリが持ち回りで敵の位置を確認している。地下鉄から階段を上って地上に出て、艦隊からの視線を切りながら付近の建造物に身を潜めて行う偵察だ。
この距離だとさすがにすぐに気付かれてしまうため、かなり難しいし気を使う行動だ。隠密行動の実力も高い二人だからこそ安心して任せられる。
高い練度と装備が要求される作業であり、それがないのならいっそ偵察すらせずに引っ込んでいた方が良いくらいだろう。敵に露見するリスクを考えれば、むしろこの場面では基本的に隠れている方が正解と言ってもいいかもしれない。
ちなみに試合外では実況が地形情報や、ただ隠れているだけの時にどうやって待つのが良いかなどを話している。
敵の目の前で息をひそめて待つ時間というのはとても長く感じるものだ。それを耐えるのもまた技術。意外と語れる内容の多い話題であり、多くの観客も全く退屈せずに済んでいた。
ちなみに私たちも退屈はしていない。作戦の確認や実際に地下鉄を歩いた情報を確認し合っていたし、ここでやっておくべき"仕込み"もあった。
デプスフリートの艦船は遠くにいる間はどうしようもないわけだが、近づいたからと言って楽に倒せるわけではない。近づいたら近づいたで、生身の人間が持つそれより遥かに高火力の弾幕にさらされることになる。この弾幕は濃さには艦の向きによって差があるものの、当然全方位をカバーしてくるから攻め方は考える必要がある。
まあそもそも生身で艦隊とやりあう方がマイナーな訳だけど、そうしなければならない場面というのもあるし、できるのなら生身でやった方が圧倒的に安くつく。
難易度の高い行動だが、カイリとゼレーナはしっかりとやり遂げる。そうして私たちは、陸上を行く戦艦の艦隊との戦端を切るのだ。